COMMUNE 1998/10/01(No.279 p48)

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10月号 (1998年10月01日発行)No.279号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉 自治体・民間を戦争総動員

●翻訳資料 アーロン米商務省次官の米貿易赤字問題演説
98年7月22日 下院外交委員会国際経済政策・貿易小委員会での演説

    広島・長崎から反戦・反核ののろしあがる

三里塚ドキュメント(7月) 内外情勢(7月)

日誌(6月)

翻訳資料

 翻訳資料

 アーロン米商務省次官の米貿易赤字問題演説

98年7月22日 下院外交委員会国際経済政策・貿易小委員会での演説

 村上和幸訳

【解説】

 世界で唯一「好調」と言われてきた米国経済も、この八月、株価急落を繰り返し、大暴落の前兆を示しはじめた。すでに昨年から英独仏のブルジョア・マスコミは米国バブル崩壊という世界的破局への危機感をあらわにしてきたが、今や米経済誌『ビジネス・ウィーク』誌さえ「強気市場は終りか?」の大見出しを掲げている。〈米経済の長期成長〉→〈新しい資本主義の時代の到来〉というブルジョア・エコノミストの論法は、破産が自認されたのである。
  もともと米経済の未曽有のバブルは、@クリントン政権による「経済安保」戦略の発動(世界的な過剰資本・過剰生産力の矛盾の中での弱肉強食の帝国主義間争闘戦の展開)A国内階級戦争の徹底遂行。労働者階級の強搾取・強収奪、無権利化、生活破壊B情報通信産業の伸長Cそれらによる企業収益増大D高度の低金利政策D以上の結果としての株式投機の異常な拡大という構造をもって作られてきた(『清水丈夫選集第9巻』序文参照)。
  米帝経済の問題の深刻さをもっとも示しているのが、九二年以降毎年拡大する貿易赤字である。米帝の対外債務は増える一方である。借金には、必ず限界がある。アメリカへの資金流入の停止は大破局を意味する。
  特に、対日・対アジア貿易の赤字の急増は激烈な打撃である。
  だから本演説は 《米国の貿易相手国の大部分は、貿易協定を系統的に破るようなことはしていない。だが日本は例外■(米広報当局による演説要約)といって対日争闘戦を宣言しているのである。
  日米帝国主義は、互いに争闘戦を激化させ、労働者人民の生活を破壊し、結局戦争に行き着く以外にない。物質的条件からいって、政策の選択肢は存在しない。
  労働者階級人民の生きる道は、新ガイドラインと関連法を粉砕し、日帝を打倒することである。資本主義の命脈はつきている。唯一、反帝国主義・反スターリン主義世界革命こそ現実的である。

【小見出しは訳者】

……………………………………

 周知のように、過去十年間の米経済への輸出の寄与分は全経済成長の三分の一になる。他の産業部門より一三〜一六%高賃金の部門で、輸出は雇用を創出してきた。
  最近のデータによれば、九八年前期の米国の貿易収支はかなり悪化しており、貿易収支の改善にはしばらく時間がかかるであろう。近年の輸出の増大を今後達成するのは、絶対に不可能とはいわないが、非常に難しい。今後数年間、貿易は米国にとって重大な課題となる。

 ● 最近の貿易動向

 一九九七年、財とサービスの輸出は一〇・二%増加し、輸入は九・二%増加した。赤字額は一一〇二億jで、九六年の赤字額一〇八六億jより若干増加したことになる。九七年の米国の輸出実績は、多くの貿易相手国の経済成長率が低かったことを考えると、きわめて良好だった。
  地域別では、米国の商品貿易は、南北アメリカに対して特に良好だった。メキシコ、カナダ、ラテン・アメリカに対する力強い輸出によって、商品貿易赤字は、九六年の三六二億jから二一七億jに減少した。これはメキシコ・ペソ危機以来の低い数字である。九六年の対EU諸国の貿易赤字は一五二億jだったが、九七年には一六八億jとなった。対EU輸出は、九七年に一〇%増加した。
  アジアは、最大の問題である。九七年、対アジア商品輸出は三%増えたが、輸入が八・七%も増えた。九六年の赤字一一九〇億jが九七年には一四一〇億jになった。対中・対日赤字の合計だけで一〇六〇億jに達する。対アジア赤字は、米国の対外商品貿易赤字総額一八一〇億jの四分の三を占める。
  部門別では、工業製品の輸出は、昨年一三%伸び、伸び率一〇・六%だった輸入より若干率が高かった。結局、工業製品の貿易赤字は一三一〇億jで前年とほぼ同じである。伝統的に黒字の農業部門では輸出が六%減った。原因の一部は穀物価格の低下である。黒字額は、九六年の二八〇億jから九七年の二二〇億jに縮小した。エネルギーでは、輸入量の拡大を原油価格の低落が相殺し、赤字額は六五億jで横ばいだった。九七年の商品貿易赤字の大部分は工業製品とエネルギーの赤字である。
  九八年は様相が一変した。一〜五月の月間平均輸出額は、九七年第四・四半期より二・三%落ちた。しかし輸入は一・八%も増えている。この結果、財とサービスの貿易赤字は急増し、年換算で九七年の一一〇〇億jが九八年には一五六〇億jに増えることになる。
  相手地域ごとにみると、わが国の南北アメリカ大陸への輸出はひきつづき順調に伸び、この地域に対する赤字は減少した。対EU輸出は九七年よりやや減速し、貿易不均衡が拡大した。しかし対アジア貿易の状況の悪化は著しい。一〜五月の対アジア輸出は前年同期比で一一%減、輸入は六%増である。対アジア貿易赤字は、一年前の一一七〇億jから一六一一億j(年換算)に増大した。

 ● 赤字拡大の諸要因

 米国の貿易には、主に次の要因が作用している。
  第一に、米経済がきわめて好調なことである。昨年の経済成長率は四%、インフレと失業率は二%、四・五%の低率だった。財とサービスへの需要の堅調さは、わが国経済の成長の主因であり、この需要には輸入も含む。この輸入が、輸出の減速とあいまって赤字を拡大している。
  第二に、わが国の輸出先の二三%を占める西欧の経済成長が、今年やや持ち直しているとはいえ、鈍化したことである。これが米国の輸出への需要を落ち込ませた。
  第三に、アジア危機が米国の輸出を押しとどめていることである。米国のアジア危機諸国(韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)への輸出は一年間で三〇%減少し、輸入は八%増加した。昨年同期の対同地域貿易赤字は、一〇〇億j(年換算)だが、今は三三〇億jである。この二二〇億j分の悪化は、全貿易赤字悪化の半分を占める。
  第四に、九〇年代をとおして停滞していた日本経済が、ついに景気後退に陥ったことである。その結果、対日輸出は急落し、二国間の赤字は拡大した。日本は、恒久減税や他の財政措置によって劇的に内需を拡大すべきである。これは国内経済状況のためだけでなく、他のアジア経済への影響のためにも必要である。日本が九〇年代、二%以下の成長率ではなく、かりに四%の成長率だったら、米国の対日輸出は著しく大きかったはずである。
  第五に、対中赤字は、この五年間で一八〇億jから五〇〇億jに拡大した。その原因は多数あるが、米企業が中国市場への真のアクセスを持てないことが決定的である。対中赤字の大きさとその拡大率の高さをみれば、行動する必要があることは明らかである。
  第六に、輸入品価格がこの六年間に六%低下し、同時に、米国製品の外国での価格が上昇し、わが国の輸出の伸びが鈍化したことである。この価格変化は、貿易の大きな決定要因である。たしかにアジア危機は輸入品の価格に影響しているが、すでにアジア危機開始のはるか以前の九五年から輸入価格が低下していることに留意すべきである。
  第七に、南北アメリカ大陸の経済成長は非常に良好である。この十二ヵ月のメキシコの成長率は六・五%、カナダは四%、アルゼンチン、チリは六〜七%ほどだった。この成長市場では米国の輸出は好調である。 強力な国内経済成長、アジア危機と外国の弱い経済成長、そして競争圧力の増大は、米国の貿易諸指標にはマイナスである。この諸要因を見れば、九八年前半の貿易実績の悪化は不思議ではない。
  九八年の五ヵ月間の数字によれば、年間の財・サービス貿易赤字は最高記録だった八七年の一五二〇億jを超える可能性が非常に高いが、どの程度超えるか述べることは難しい。ドル表示では記録的だが、対GDP比では、三%以上だった八七年に比べれば、こんどは約二%にすぎない。財の貿易では、米国は赤字記録を更新し、サービス貿易では黒字拡大が縮小するであろう。
  最近の赤字拡大の諸要因は主要にマクロ経済的なものである。国内の堅調な成長、そして輸入価格の低下−−主に外国通貨の下落の結果−−および海外の経済動向である。貿易は米経済の失業率・インフレ率が低い成長の持続に決定的役割を果たしている。貿易赤字とそれにともなう外資の投資によって、これほど多くの消費と投資が可能になっている。これはプラスであり、この点には留意しなければならない。事実上の完全雇用と良好な全般的な経済実績は、世界の工業諸国のなかでもトップクラスである。
  また、最近の貿易赤字拡大はわが国の競争力喪失を意味するものではない。昨年、世界の総輸出の中での米国のシェアは、八〇年以前より高くなっている。米経済は、競争力、特に柔軟性と新技術採用能力において、優れている。製品の品質は、貿易相手に賞賛されている。
  だが長期的には、恒常的に巨額の貿易赤字を出しつづけることに無頓着であってはならない。発展した先進国が、自分が生産するより多く消費したり投資したりすることは適切ではない。差額分は外国の貯蓄者に依存することになる。その結果、米国は八〇年代初めは純債権国だったのに、世界最大の純債務国になったのである。
  リアルにみれば、完全雇用状態とは、わが国には貿易赤字を顕著に削減できるほど輸出を拡大しかつ輸入品を代替生産するだけの経済余力はないということである。長期的には、ほぼ完全雇用の状態が続くと仮定すると、貿易赤字削減のためには多くの行動が必要になる。

 ●  貿易赤字に対する戦略

 第一に、民間の貯蓄率を高めたり、政府支出をさらに絞って、現在の消費率を下げる必要がある。公共支出、民間支出の絶対減が必要だというわけではないが、将来の成長の大きな部分を輸出にまわす必要があるということである。このように政府と民間の消費支出の拡大スピードを落とすことが必要なのであり、投資支出の削減が必要なのではない。
  しかし、現在の消費支出率の削減は貿易赤字の解決ではない。赤字削減の能力を作り出すにすぎない。つまり、第二に、輸出成長率の拡大と輸入成長率の低減が必要になる。さらに長期的にみると、米国の財とサービスの生産者は、いっそう競争力を強化しなければならない。世界市場における競争力強化によって作り出される機会を利用しなければならない。
  競争力の強化を促進し、アメリカの労働者と企業の生産性を高めねばならない。わが国の競争力強化のためには、二つの決定的な要因がある。第一は、訓練・教育の改善を通じて、労働力の質を改善することである。第二は、研究開発の改善およびこの技術の生産現場への普及の効率化による、技術基盤の強化である。これは特に中小企業にとって重要である。
  しかしまた、米国企業の外国市場への完全に開放されたアクセスを確保しかつそのアクセスを利用する戦略が必要である。
  貿易赤字に対するわれわれの戦略とは何か? いかにして米国の輸出を促進するべきか? カギは、米国の競争力を高めることであり、米国の輸出の促進であり、外国の貿易障壁の打破であり、アジア経済の安定化である。
  昨年われわれは、反汚職問題で、OECD諸国および他の五カ国と拘束力のある国際協定を結ぶことに成功した。この協定は、外国官吏への贈賄を犯罪とすることを加盟国の義務にするもので、年末までに批准することになっている。政党や政党役員に対する贈賄の問題が残っているが、これについては来年、OECDと取り組むことになっている。
  九八年、われわれは次のことに重点をおいている。
  第一に、拡大する対アジア赤字の改善の取り組みである。九七年前半のアジア危機開始以来、米国の対アジア輸出は一一%落ちた。タイに対しては二七%、対韓国は四五%、対インドネシアは五一%の落ち込みである。
  われわれは、米国の輸出企業がアジアにおける市場プレゼンスを再建・確立できるように、必要な情報と金融手段を供給する活動を直ちに始めた。商務省は、輸出企業が現在の危機を乗り越えるために不可欠な問題をめぐって、アジア金融セミナーを開催した。輸出入銀行と農務省は、輸出への金融支援限度額を最大限に拡大した。たとえば、輸出入銀行の短期保険プログラムは、昨年は対韓輸出の一%を支援していただけだが、今年は一五%になっている。
  この地域の明るい面は、APEC加盟諸国が、二〇一〇/二〇二〇年までに貿易と投資を自由化した「太平洋共同体」に向かっていることである。情報サービス部門では、関税引き下げ、非関税措置の改善、経済的・技術的協力などの部門別早期自主自由化(EVSL)を促している。同時に、アジア開発途上国における知的所有権保護の改善も、ひきつづき促している。
  商務省は、IMF安定化パッケージ問題も注目している。たとえば、韓国はIMFの安定化計画にもとづき、米国の輸出を害する制限を撤廃し、輸入認証手続を調和化し、保護主義的な輸入先多様化計画を中止すべきである。
  むろん、アジアの立ち直りの軸は日本の経済成長回復である。商務省は、高官レベルで日本と接触し、規制緩和・市場自由化・減税によって経済を刺激するよう要請している。米日間の主要な通商協定は、二〇〇〇年度あるいはその直後に期限がきれる。協定の更新か改訂が必要になる。
  中国との間は、特殊な状況である。中国は、巨大な潜在市場を持っているにもかかわらず、米国の二国間貿易赤字が急速に増大している。五月の貿易統計によれば、米国の二国間赤字は、今年六〇〇億jにものぼるであろう。米国の中国への輸出は増えている−−今年は約六%−−が、中国からの輸入が輸出の五倍近くも伸びているため、赤字が拡大しているのである。
  対中輸出の拡大のために、全省庁を横断する戦略をたて、ハイレベルの交渉と輸出促進策をとっている。中国が自分自身の国内改革を成功させるためにも市場を米国の財とサービスにもっと開放するように、あらゆる機会をとらえて訴えている。このかんの首脳会談での合意にそって、デイリー長官は九九年の初めに閣僚団を率いて訪中し、赤字改善と中国のインフラ開発への米企業の参入の拡大を要請する。この秋、エネルギー省とともに商務省は石油・天然ガス産業会議を開催し、中国やアジアへの進出拡大をはかっていく。
  中国は現在、企業、金融、行政の改革を促進する計画を始めている。そこでわれわれは、市場障壁問題の解決のために米中通商貿易共同委員会(JCCT)などでの活動を拡大している。WTO協定の面では前進があった。中国が加入の正式承認に際して様々なことの遂行を約束したことは前進だとはいえ、まだ今後の課題が多い。なかでも関税・非関税措置(割り当て制や許認可条件など)、貿易規則の平等な適用、技術移転の強制、農業問題などは重要である。

 ● 日本に貿易協定を守らせる

 さきに私は、米国の貿易相手国は、貿易協定をシステマティックに犯しているわけではないと述べたが、日本については特別の指摘が必要である。日本は、米国との協定の文言を、通例は守っている。しかし、協定の精神を完全には実施していないことは、まったくもって明白である。多くの二国間協定や米企業が日本で直面している貿易障壁の性格からして、日本に特別の注意を払わねばならない。とりわけガラス、自動車、自動車部品、通信、コンピューター調達、スーパーコンピューター調達、保険、規制緩和計画等についての諸協定や建築、医療技術の協定の順守について日本を監視する、米政府の省庁間協力活動を商務省は続けていく。私の部下には、日本に米国との貿易協定をもっと十分に実施させることを優先課題にさせている。
  (おわり)