COMMUNE 1999/03/01(No.281 p48)

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3月号 (1999年3月1日発行)No281号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  恐慌下の一大資本攻勢

●翻訳資料1 東アジア―太平洋地域に関する米安保戦略(上)
(“略称「東アジア戦略報告」“EASR”

 

    団結旗開きに大結集

三里塚ドキュメント(11月〜12月) 内外情勢(11月〜12月)日誌(10月)

羅針盤 戦争法案阻止決戦

  昨年末の米英軍のイラク爆撃は、九一年の湾岸戦争をも上回る規模の侵略戦争である。これは本質的に、世界経済が一九二九年型の大恐慌過程に突入し、帝国主義間争闘戦が激化し、世界経済の分裂化とブロック化が進み、勢力圏形成をめぐる抗争がエスカレートし、帝国主義の侵略戦争、帝国主義間戦争が不可避となる情勢が訪れていることがもたらしたものだ。米帝は中東支配と中東石油支配体制の独占的確立をめざしており、フセイン打倒まで終わりようのない泥沼的な侵略戦争を開始したのだ。米帝は同時に、朝鮮半島情勢をもにらんでいる。だからこそ、日帝・小渕は米帝の侵略戦争を真っ先に支持し、朝鮮侵略戦争のためにガイドライン関連法案成立を必死にめざしている。通常国会はこの戦争法案を阻止する最大の決戦となった。
 昨年「安保廃棄の凍結」路線を打ち出した日本共産党は、ガイドライン関連法案についての方針をまったく出していない。『前衛』十二月号の「ガイドライン特集」では、「戦争か平和かを選ぶ権利は国家主権の核心」などと言っている。だがこれは、国家が自主的に決めるなら戦争は容認するという論理であり、「国会承認さえあれば自衛隊派兵を認める」ということなのだ。不破は今年の日共旗びらきで、「日本共産党の『日本改造論』を大胆に語ろう」と言って、「資本主義の枠内の改革」路線を満展開している。そこにはこの戦争と大失業の時代の中で、今こそ帝国主義を打倒する階級的な大運動をつくろうとする闘いが不可避に巻き起こることに対する、日共の恐怖に満ちた予防反革命が示されているのである。
 カクマルはどうか。「世紀末危機を突き破り新たな飛躍を」と称して、反革命通信『解放』新年号が描いていることは、階級闘争は敗北し「頽廃(たいはい)」しているということだ。新年号の二ページ見開きの漫画が、今日のカクマルの世界観、情勢認識をよく表している。「かたや雷神クリントン、こなた風神江沢民」が、天上から「鈍牛」小渕に襲いかかっている。日帝政治委員会はこの風と雷でヨタヨタしている。カクマルはその下にいて必死に日帝を支えて米中に抗議している。カクマルの愛国主義と排外主義に満ちた「中国脅威論」と「ヤンキー帝国主義論」が「正直に」描かれた図である。「暗たんたる世紀末」論と「謀略論」をもって反革命運動を展開するファシスト・カクマルに今年こそ引導を与えてやろうではないか。
 このスターリン主義者とファシストの反革命を打ち破って、戦争と恐慌と大失業の時代をプロレタリア社会主義革命に転化すべく闘う革共同の大前進を全力でかちとろう。『前進』新年号の革共同政治局一・一アピールは、今日の帝国主義の危機を「帝国主義の死の苦悶」と規定し、今こそ帝国主義打倒をめざして、九九年ガイドライン・国鉄決戦をかちとることを呼びかけている。また、昨年の十一・八労働者集会の巨大な意義を確認し、連合、全労連に代わる階級的労働運動の全国的潮流を形成しようと訴えている。さらに、九九年一〜四月の最大の決戦として統一地方選挙闘争になんとしても勝利する方針を打ち出している。そのためにも、転向日共を対象化し、これと闘って打倒していくことを重大な闘いとして提起している。勝利の路線は全面的に提起された。新年号論文で武装し、九九年決戦勝利へ進撃しよう。    (た)

 

 

翻訳資料

  東アジア―太平洋地域に関する米安保戦略(下)
(“略称「東アジア戦略報告」“EASR”)

 98年11月23日 アメリカ国防省

 江原 良訳 

 

【解説】

 今回の東アジア戦略報告は構成の形式上も、また内容上も、日本との安保同盟を徹底的に強調している。新ガイドラインと関連法、SACO最終報告−普天間基地の移転・強化の強行実施に並々ならぬ決意を語っている。
 そして、「朝鮮半島は米軍にとって独特な戦域」「前兆もなく戦闘が始まりうる地域」だと言っている。また、「北朝鮮が九四年の米朝基本合意の諸条項を順守する意志を持たないことが明確になったときは、米国は他の外交手段と安全保障上の手段で、自国の根本的な安全保障上の利害を追求する」と述べる。「安全保障上の手段」とは、軍事行動しか意味しない。
 これは、米朝基本合意についての従来の米帝の政策の大きな転換である。というのは、これまでクリントン政権は、米朝基本合意にもとづいて、北朝鮮の核開発断念と核査察の見返りに行われるKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)の分担金の拠出を拒否する米帝内の主張に反対してきたからだ。゛北朝鮮は九四年の米朝基本合意を基本的に順守している”゛米国も米朝基本合意で問題を解決すべきだ”と言ってきたのだ。米帝は、北朝鮮向けの重油代金の支払いなどを遅らせて、北朝鮮を揺さぶりつつも、重油供給を断続的に続けており、軽水炉の建設も準備工事を進めている。これまでは基本合意の線を米帝側もいちおうは進んできたのだ。
 これの事実上の転換宣言は、北朝鮮スターリン主義へのすさまじい重圧であるが、単なる脅しではない。今回の東アジア戦略報告は、朝鮮侵略戦争へ向けての米帝支配階級の戦争準備の作業なのである。実際、米帝は、それを予算の裏付けがある現実の準備として開始している。この一月、クリントンは、二〇〇〇会計年度に軍事予算を一二〇億j以上、そしてこの六年間に約一一〇〇億jの大幅増額することを明らかにしている。
 さて、このような朝鮮での戦争を現実の課題として設定した東アジア戦略報告は、米帝が直面している全体的問題のなかで、どのような位置にあるのだろうか。それを真に全体的に知るためには、『前進』新年号を学習してほしいが、ここでは次の五つの事柄だけを指摘しておこう。
 一つは、日帝のアジア勢力圏化の動きの急激な高まりである。昨年十一月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で日帝は新宮沢構想を出し、米帝の「グローバリズム」に対し「地域主義」を露骨に叫びはじめた。日本共産党も、日帝の動きに呼応し機関誌『前衛』九八年四月号トップ論文「対米従属経済から東アジア経済圏へ」で円圏構想(新大東亜共栄圏)推進の宣伝を開始している。そして日共は「安保廃棄の凍結」路線に大転換し人民を挙国一致のアジア侵略に引き込もうとしている。
 米帝にとって東アジア戦略とは、まず世界第二の経済大国となり、米帝没落の最大原因となっている日帝をどうするのかという問題である。絶体絶命の経済危機にあえぐ日帝が、敗戦後につくられた国際的・国内的な枠組みを突破し、再びアジア勢力圏化に向っていることを粉砕して、米帝がアジアを独占支配するためにはどうすべきかという問題である。日帝のアジア勢力圏化の粉砕、日帝の対米対抗的な軍事大国化・核武装の阻止が東アジア戦略の一切の基底に流れている。
 二つめは、九九年初めの欧州の統一通貨「ユーロ」発足である。基軸通貨ドルの地盤を掘り崩す通貨の出現である。すでにユーロ発足前から、世界各国で外貨準備の一部をドルからユーロに切り替える前兆が広がっており、ドルへの信認が大きく揺らぎ、九八年夏から表面化したアメリカ経済の危機が加速された。米|欧の帝国主義間争闘戦は今後格段に激化する。
 米帝の東アジア戦略は、世界戦略の一環であり、対欧州戦略とも不可分に結びついている。今度の東アジア戦略報告は、他の地域とアジア|太平洋地域の安全保障の密接な関連を強調している。
 三つめは、この報告書の発表が、昨年初夏以来二度も延期されたことである。アジア情勢・世界情勢の急激な変動のために、またアジア発・日本発の世界恐慌過程がついにアメリカ経済をもとらえはじめたために、米帝クリントン政権は、戦略報告の内容をなかなか確定できなかった。この報告書の出される過程そのものが、米帝のアジア戦略の重大な危機を世界にさらけだしている。帝国主義は、危機にあえげばあえぐほど、凶暴化するのである。
 四つめは、アジアの新植民地主義支配体制に対する闘いが、新たな労働者階級の闘いを軸に、巨大に発展していることである。特に、南朝鮮・韓国の闘いの発展は、帝国主義を震え上がらせている。北朝鮮スターリン主義体制の崩壊は、南北朝鮮人民の再統一への闘いの大爆発を必ず生み出す。だから、東アジア戦略報告は、国家間戦争だけでなく、ゲリラ勢力や住民の実力闘争の弾圧を重視することを打ち出しているのである。
 五つめは、この報告書が出された直後、米英帝のイラク爆撃が九一年の「湾岸戦争」以来もっとも凶暴なやり方で行われ、しかもそれが米帝の中東戦略・世界戦略上の重大な破綻を全世界の前でさらけ出したことである。アラブ人民の激しい怒りの爆発、そして米英以外の国連常任理事国=フランス・ロシア・中国の正面からのアメリカ非難は、米帝の威信の重大な危機を示している。特にフランスの強硬な対米対抗は、ユーロ出現とあいまってドイツを含めたEC諸帝国主義と米帝との争闘戦の激しさを代表する意味を持っている。
 もともと米帝の中東軍事戦略は、民族解放闘争を圧殺しつつ、日欧帝を排除して中東石油を独占支配するためのものである。今日の米帝危機の激しさのために、古典的でむきだしに一方的な帝国主義侵略戦争となっているのである。その米帝の中東侵略戦争の出撃拠点は、沖縄をはじめとするアジアの基地網なのだ。
 新ガイドラインとその関連法をなんとしても粉砕し、米日帝国主義の朝鮮侵略戦争を阻止しよう。
【〔 〕内の補足は訳者】

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 目次

はじめに
第一章 総合的関与の維持−−「プレゼンス・プラス」
0 米国のアジアにおける軍事プ レゼンスの原則
1 戦力構成
2 アジアにおける米国の軍事プレゼンス−−日本、韓国、東南アジア、オーストラリア
3 演習、訓練および軍需販売
4 技術革命
5 総合的関与
第二章 米国とこの地域との関係の強化
0 米日同盟の強化
1 韓国との継続的安保パートナーシップに向けて (以上、今号)
2 協力の歴史の上にたって−−オーストラリアと大洋州
3 米タイ同盟−−実質的パートナー
4 基地閉鎖後−−フィリピンとの同盟の打ち固め
5 中国への総合的関与
6 モンゴルとの新たな関係の強化
7 東南アジア・インドネシアとの協力の拡大
8 ロシアとの地域的協力の拡大
9 多角的安全保障の発展への支持
第三章 民主主義と地域安全保障の推進
第四章 大量破壊兵器の拡散
0 拡散防止
1 拡散への対抗措置
第五章 総合的安全保障を求めて−−二一世紀の国際的な安全保障の課題
0 テロリズム
1 環境破壊
2 感染病
3 麻薬密輸
4 エネルギー
5 人道支援
6 総合的安全保障の機構
第六章 米国の関与の保持−−新世紀への的展望
0 海外プレゼンスの維持−−基地、アクセスおよび善隣
1 同盟パートナーシップの更新
2 中国への関与−−信頼醸成から協力へ
3 アジア|太平洋安全保障問題へのロシアの合流の継続
4 アジア太平洋安全保障のための戦略の革新−−重なり合い連動した諸機構のネットワーク
5 地域の金融危機への対処
6 透明性の推進
結 論

………………………………………

 はじめに

 米国のアジア|太平洋地域での関与の基本的特徴は、連続性である。しかし、その連続性の大枠の中で変化と再確認も行われている。国防省は、一九九〇年と九二年にそれぞれ第一次、第二次の東アジア戦略報告(EASR)を出し、冷戦終了に対応した米国の戦略と戦力構成の変更を論じた。九五年に国防省は第三次報告を出し、その中で、不確実性と緊張が継続しているため、この地域に対する米国の安全保障の約束の再確認が必要だと述べている。九〇年、九二年の報告では前方展開兵力の削減を展望していたが、九五年の報告ではこの地域で約十万人の兵力を予見しうる将来にわたって維持する米国の意志を確認し、同時に、友好国・同盟国との間での安全保障の責任分担を行い、二国間・多国間の関与を拡大する努力の強化を確認した。
 このアプローチにもとづき米国はこの三年間、次のような戦略的取り組みを行い、不確実な領域を減らし、この地域の経済的繁栄と政治的協力を進めてきた。
▽ 「四年期防衛見直し報告」〔QDR〕で、新技術を支配して能力上のリードを保ちつつこの地域に約十万人の強力な海外軍事プレゼンスを維持する米国の力と意志を確認してきた。
▽ 同盟関係の枠組の中で日本との安保協力と即応性強化の作業を行い、一九九六年四月の安保共同宣言と九七年九月の新たな米日防衛協力指針によって米国は日本との同盟を強化してきた。
▽ ASEAN諸国と協力して、ASEAN地域フォーラムをつうじた地域規模の対話、信頼醸成を促進し、東南アジアにおける安保協力と軍事アクセスを拡大してきた。
▽ 朝鮮半島の緊張緩和および休戦から恒久的和平への移行の方策についての四者会談による北朝鮮への関与を、韓国、中国と協力して行ってきた。
▽ 一九九六年の安保共同宣言(「シドニー声明」)でオーストラリアとの同盟を再確認し、安全保障に関する地域的・世界的な諸問題での相互協力を誓約した。
▽ 一九九七年、九八年のクリントン|江沢民首脳会談や軍間交流、安全保障対話にみられるように、総合的関与にもとづいた中国との長期的関係の土台を築く作業を続行した。
▽ 友好国・同盟国と共同して、透明性・信頼醸成のための新たなメカニズムを発足させた。これには、三国間・多国間の会議、防衛フォーラム、ハワイのアジア太平洋安保研究センターでの共同教育などが含まれる。
▽ 大量破壊兵器の脅威に注意を集中し、大量破壊兵器の拡散の恐れに対し、米朝基本合意および北朝鮮とのミサイル拡散防止交渉によって対処してきた。また、戦域ミサイル防衛構想の研究開発などにより、大量破壊兵器が拡散した場合にそれに対抗する能力を改善してきた。
 これらの取り組みは明確に米国および同盟国、友好国の利害にかない、信頼性と持続性があるものである。この地域の諸国は、わが国のコミットメントのレベルを地域の平和と安定の決定的なカギだと見ている。たとえば、九六年三月危機の時の空母ニミッツ、インディペンデンス派遣は、この地域の平和と安定についての米国のコミットメントをアジア太平洋諸国に対して実証した。米国の地球規模の戦略にそって、アジアへの米国の関与はこの地域の未来の形成を助け、紛争を予防し、安定性を与え、年間約五〇〇〇億jの米国の太平洋貿易のアクセスを確保するものである。
 九五年の東アジア戦略報告以来の米国の政策は、わが国のこの地域へのコミットメントを確証し、また二国間関係を強化してきたが、不確実な諸領域は残存しており、新たな課題も登場してきた。北朝鮮の八月のミサイル発射、そして北朝鮮の米朝基本合意へのコミットメントとその順守の不確実性は、南北対話の再開および朝鮮半島の緊張緩和と平和条約のための四者会談の前進への展望を脅かした。アジア金融危機は、間断なき経済成長というこの地域の前提を揺るがし、地域的経済協力、グローバリゼーション、そして地域の二十億人の生活を試練にかけている。また九八年五月に行われたインドとパキスタンの核実験は、南アジアばかりでなくアジア|太平洋地域諸国にとっても新たな難題となった。
 インドネシアの経済的・政治的困難は、現存の国内秩序と地域内秩序の双方に大きな課題を提起している。カンボジアとビルマでは国内の危機が地域の安定的な政治的協力への前進を脅かしている。南中国海その他の領土紛争をはじめ、歴史的不信や領土紛争は未解決で、主権や民族主義の諸問題をめぐる発火点になりかねない。地域外の危機、特にアラビア湾〔ペルシャ湾〕危機は、この地域の安全保障にますます大きな影響を与えるようになった。アジア経済成長の湾岸石油供給への依存度はいっそう高まっているのである。
 しかし、このような問題にもかかわらず、われわれはこの地域はおおむね平和だと考えている。利害は一致に向っており、また新たな問題に取り組む政治的意志の潜在力は非常に大きい。米国は、強力な関与・海外プレゼンス・同盟の強化の政策を維持して不安定性の根源をやわらげる手助けをすることを目指しており、信頼と安全保障の精神を高める新たな機会を求めている。冷戦の間、米国の戦略は主に世界大的な戦略的抑止であったが、今日では危機が世界のどこで発生しても対応できる能力を維持し朝鮮半島のような決定的な局地における行動を抑止することが必要である。平時には、わが国の責任には、長期的な平和維持・紛争予防のための戦略的環境を形成する行動をとることも含まれる。
 このように、アジア|太平洋地域における米国の安保戦略は、地球規模の安全保障戦略を反映するものであり、それを支えるものなのである。九七年の国防省の「四年期防衛見直し報告」(QDR)は、「形成」「対応」「準備」という三つの統一的概念を示した。つまり、米国は引き続き地球規模に関与して国際環境を形成する。あらゆる種類の危機に対応する。不確定的な将来のために今から準備する−−ということである。
 米国は、安定し、繁栄し、平和なアジア|太平洋のコミュニティーを支援していく。その中で、米国は、積極的役割をになうパートナーであり、またその受益者なのである。この第四次の東アジア戦略報告が出されたのは、わが国の安全保障戦略の変更のためではない。わが国の優先順位は不変である。ただ以前同様、この地域の環境の変化に対応して新鮮なアプローチをするということである。
 そして、EASRの出される過程そのものが、この地域全体の戦力構造・防衛戦略・軍事ドクトリンの公開性・透明性を高めるという米国の根本的な利害を表している。透明性によって相互理解が促進され、諸国間の信頼が深まる。他の諸国の中にはこの報告の個々の部分を取り出して反対する国もありうるが、そういう国もアジア|太平洋地域におけるアメリカの位置・アプローチ・意志を知らないとは主張できない。米国は、この報告に関する誠実な討論を歓迎する。それは相互の理解と信頼に建設的な役割をはたすものである。わが国は、この地域においてそうした目的に役立つこれと同様の文書がさらに作成されてゆくように促していくものである。

 第一章 総合的関与の維持−−「プレゼンス・プラス」

 海外軍事プレゼンスの維持は、米国国家安全保障戦略の要石であり、「形成、対応、準備」という米軍政策のカギになる要素である。アジアでは、地域的な平和と安全保障の推進にとって、米軍のプレゼンスは特に決定的な役割をはたしている。しかしながら、このプレゼンスは、決定的な「形成」の機能をはたしているが、通常の外交から貿易や投資、教育や科学・文化交流などの国民相互の接触にいたる米国のアジア|太平洋地域における全般的な海外関与の中の一つの要素なのである。米軍の役割そのものが、USCINPAC〔米太平洋軍総司令官〕の「戦域関与計画」に示されているように、ただ軍事行動を待っているというよりもはるかに広範で積極的に建設的なものである。多岐にわたる米国の活動は、まさにアジアにおける安全保障の利益を守り拡大する米国の総合的海外関与、いいかえれば「プレゼンス・プラス」を示しているのである。

 0 米国のアジアにおける 軍事プレゼンスの原則

 アジアにおける米国の軍事プレゼンスは、ながらく地域の安全保障に決定的に実質的かつ象徴的な寄与をなしてきた。日本と韓国に駐留するわが国の部隊は、この地域で交替勤務している部隊とともに、安全保障と安定を強化し、紛争を抑止し、安全保障へのわが国のコミットメントを実現し、わが国のこの地域へのアクセスを引き続き確保している。
 アジアにおける米国の軍事プレゼンスは、侵略に対する大きな抑止力であり、事後に対応する場合に必要となるきわめて高いコストを、少なく済むようにしている。朝鮮半島などの諸地域では、抑止能力が現在もなお決定的である。アジアにおける米軍の目に見えるプレゼンスが米国と同盟国・友好国の決定的地域における利益を守る強固な決意を示すのである。
 この抑止機能に加えて、アジアにおける米国の軍事プレゼンスは、安全保障環境を形成して問題自体の発生の予防に役立つ。米軍のプレゼンスは歴史的な地域的緊張をやわらげる。そしてそれによって、米国は、問題に先回りし、潜在的脅威に対処し、紛争の平和的解決を促すことができるようになる。積極的関与によってこそ、米国はアジアの多様な環境の中での建設的な政治的・経済的・軍事的発展に寄与できる。前方展開によって、米国は地域的信頼関係を拡大し、民主主義の価値観を広げ、共通の安全保障を強化することができるのである。
 また、海外軍事プレゼンスによって、政治家と軍司令官は、柔軟な多くの選択肢を持って危機にすばやく対応できるようになる。こうした任務には、地域的有事ないし地域を越えた有事、アラビア湾〔ペルシャ湾〕などで進行中の危機に対処する人道支援、非戦闘員の退避、PKOなどがあるであろう。たとえば、九八年初めのアラビア湾危機の時には、空母インディペンデンスが派遣され、それが危機を軽減する抑止力となった。また軍事プレゼンスは、統合訓練・二国間訓練・合同訓練を推進し、友好国や同盟国との責任分担を促す。

 1 戦力構成

 九五年の東アジア戦略報告は、米国が約十万人の兵員をアジア|太平洋地域に維持することを表明した。本報告は、この約束を再確認する。全軍〔陸海空軍・海兵隊〕のプレゼンスを維持し、危機発生時に作戦上の最大の柔軟性が確保できるようにする。
 この地域における戦力レベルは、現在と将来の戦略環境およびわが国の目標の達成に必要な軍事能力の分析にもとづいたものである。十万の米軍事要員のプレゼンスは、根拠のないものではない。それは、韓国にいる米第八陸軍および第七空軍、日本にいる第三海兵隊進攻兵団および第五空軍、そして第七艦隊の強大な能力を指している。これらの部隊はすべて、この地域の安全保障と安定を達成するために必要な「形成」「対応」「準備」のためのものである。
 これらの部隊の能力を強化するために、日本との間の防衛指針(ガイドライン)などの二国間防衛協定の改訂やこの地域の諸国との演習・訓練の高度化、わが軍が現在進めている技術革命などが行われてきた。これらはすべて、この地域でのわれわれのプレゼンスを強化するものである。

 2 アジアにおける米国の軍事 プレゼンス−−日本、韓国、 東南アジア、オーストラリア

 日本と韓国の米軍基地は、ひきつづきアジアにおける米国の抑止力と即応戦略の決定的な構成要素である。また、この地域における米国の軍事プレゼンスによって、他の地域でより迅速かつ柔軟に対応することが可能になっている。
 日本と韓国における米軍のプレゼンスの基本骨格は、今後も不変である。日本の平時受入国支援(HNS) は世界のあらゆる同盟国の中でもっとも気前良く、毎年平均五〇億jにのぼる。韓国も、厳しい金融危機にもかかわらず米軍部隊の維持のために大きな支援を行っており、日本同様、HNSが同盟の決定的な戦略的要素であることを認識している。
 両国は、自国の部隊の近代化を続行しており、同盟部隊間の相互運用性と協力の強化のために米国の装備・サービス・兵器システムを大量に購入している。実際米国は、日本との間で他のいかなる同盟国との間よりも共通の装備を持っているのである。
 韓国は、第八・第五一戦闘航空団を含む第七空軍、第二歩兵師団を含む第八陸軍を受入れている。日本の基地には、第一八航空団・第三八戦闘航空団・第三七四輸送航空団を含む第五空軍、キティホーク空母戦闘群・ベローウッド水陸両用即応群を含む海軍第七艦隊、第三海兵隊進攻兵団(MEF) 、第九戦域陸軍部隊(TAACOM)および第一合州国陸軍特殊部隊大隊がいる。この地域の米軍戦力構成の多様性、柔軟性、相互補完性によって、地域の安定と安全保障に威信ある実質的な寄与がなされている。

 東南アジアとオーストラリア

 一九九二年のフィリピンの基地の閉鎖以降、米国は、米軍の関与続行を支持する東南アジアのパートナーとの間の数々のアクセス協定やその他の協定によって便宜を得てきた。これらの協定は、寄港、修理施設、訓練場、兵站支援などに関するものであり、海外プレゼンスのためにますます重要になっている。
 たとえば、シンガポールは二〇〇〇年に運用可能になるチャンギ海軍駐屯地を米海軍に使用させると九八年初めに発表した。空母も埠頭を使える。九八年一月には、米国とフィリピンは、滞在部隊協定の交渉を行った。これが批准されれば、寄港とともに常時合同演習・訓練ができるようになる。タイは、アラビア湾などの近隣の紛争地点で作戦があれば、重要な燃料補給・立寄り地点となる。オーストラリアは長らく地域有事への即応性および〔両国間の〕整合性ある対応を確保するために、アメリカ一国の演習にも合同演習にも、施設への決定的なアクセスを提供してきている。こうした諸協定の存在は、地域安全保障における東南アジアとオーストラリアの重要性がますます高まっていることを示している。またそれは、これらの諸国が、米国の強力で威信ある海外プレゼンスが自国の安全保障の要石だとして支持しているということを示している。
 そして、米軍の香港への寄港は、香港の中国の主権下への返還以後も中断されずに続いている。これも、艦船の簡単なメンテナンスや補修に役立ち、米国の軍事プレゼンスに寄与している。

 善き隣人として

 アジアでのわが国の海外プレゼンスは、この地域と米国の安全保障の利益に役立っているとはいえ、受入国の地元社会には多大な影響があるといえる。米国は、訓練場や基地の近くに住み、時に騒音や他の迷惑を堪え忍んでいる市民の犠牲を理解し、感謝している。米軍は、このような影響の緩和のために努力し、また中央・地方レベルの当局や地元の市民グループと密接に協力して互に満足のゆく解決に達しようとしている。
 たとえば日本では、地元住民の迷惑を軽減するために砲撃訓練を移転し、可能な場合には、空母着陸練習も移転してきた。また米国は、日常的航空作戦が地元社会に及ぼす影響を最小限にするために、日本と協力して静粛時間を設けてきた。日本・韓国の双方で、基地の存在と関連した環境問題への取り組みの努力を継続してきた。米国は、日韓当局と緊密に協力して米軍の作戦と軍事施設の維持を行うにあたって環境と公衆の安全にしかるべき注意を払うことを約束してきた。
 米国はまた、作戦能力を維持しつつ基地や訓練関連の土地を返還し、地元の懸念にこたえるべく受入国での行動要領を変更し、善き隣人であるよう努力してきた。たとえば、米国と日本は九五年に沖縄における米軍の活動の影響を少なくし、沖縄の人々の負担を軽減するために沖縄に関する日米特別行動委員会(SACO)を設立した。その成果が一九九六年十二月に発表されたSACO最終報告である。この報告は、沖縄の米軍施設・区域の削減・再編・統合、大きな事故をすべて適時に通報する等々の行動手引の調整と米日地位協定の適用の改善という二十七の諸措置を示している。
 SACO報告のプランで、米国が沖縄で使っている土地全体の二一%に当たる十一個所の土地が返還されることになる。土地返還計画の中心は、沖縄南部の人口集中地域からの海兵隊普天間飛行場の移転である。移転先の施設は、飛行場の決定的な軍事的機能・能力を維持することになる。米国と日本は、SACO最終報告の実施に強くコミットしつづけている。
 韓国でも、米国と大韓民国は、九七年十二月に米軍韓国訓練エリアの五千エーカーの土地を韓国政府に返還する交渉をまとめた。そのかわり、在韓米軍は韓国軍訓練場の使用権を確保した。このようにして米国と韓国は、韓国国民の要求と在韓米軍の任務上の必要性の双方に応えたのである。
 そのうえで、米軍要員は善き客人として自分が住む地域社会への建設的貢献を従来以上に重視してきた。在日・在韓米軍人と家族は、文化的・社会的なイベントへの支援、環境浄化活動への貢献、地域の公園の手入れ、慈善団体への寄付など、さまざまな活動で地域社会の改善に寄与している。

 3 演習、訓練および軍需販売

 米国の戦略は、米国の陸・海・空・海兵の各軍と友好国・同盟国の軍との二国間ないし多国間の演習プログラムを重視している。統合・合同演習や比較的小規模の軍|軍間の演習は、日本、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピンとの間で毎年行われている。
 演習は、この地域への米国のコミットメントの目に見える示威であり、相互運用性と即応性を改善し、実効性ある連合軍を形成し指導するわが国の能力を示威するものである。演習は、友好国・同盟国の側の負担分担を促進し、地域統合を容易にする。演習は、わが国の能力と決意を明示する。そこでは、危機の時に決定的になるテクノロジー、システム、作戦手順についてのリアルな状況が分かる。国際的な演習は、地理になじみ、他の社会の文化、価値観や習慣についての理解を促す。
 対外軍需販売(FMS)および対外軍事融資(FMF)プログラムも、米国のこの地域への関与戦略のカギになる役割を果している。FMSによって、同盟国および友好国との合同作戦を容易にするために決定的に重要な相互運用性が確保されている。FMFプログラムは、決定的な友好国・同盟国が米国の物品・サービス・訓練を購入する際に融資するもので、この諸国が防衛力を改善できるようにしている。九七会計年度にFMFを受けているのは二カ国のみ−−カンボジアとラオス(地雷撤去作戦への融資)−−だが、FMFは将来、アジア太平洋の同盟国・友好国が現在の金融危機を切り抜けるのに有効な手段となりうる。

 4 技術革命

 米国は短期的に「形成」「対応」の課題の達成に必要な、即応性ある多機能的な部隊を維持しているが、それでもなお同時に兵力、能力、支援構造を将来の「形成」「対応」が可能になるように変革していく必要があるというのが、国防省の認識である。この変革は、新たな軍事システムの調達だけではない。新たな技術、作戦概念、組織構造を使いこなし、米軍にいっそう大きな機動力、柔軟性、軍事能力を与え、米軍があらゆる将来の戦場を支配できるようにすることを意味する。九七年、統合参謀本部議長は、ジョイントビジョン2010を出し、米軍戦略、部隊構造および世界中での作戦に与える技術と情報システムの進歩の影響に取り組んだ。
 米軍事力のこの変換を体現する「軍事革命」(RMA)は、すでにアジアで開始されている。指揮、統制、通信、コンピュータ、諜報、監視および偵察は、どんな紛争にも素早く対応して戦場のどんな状況をも支配するように、新たな兵器体系の導入と結びつき、米国の能力を革命的に変革していく。
 技術革命が在アジア米軍に与える影響は大きなものとなり、前方展開人員を補完してこの地域における作戦能力を劇的に高めるであろう。しかし軍事革命の完全な実現は先のことである。軍のハードウェアと支援システムの改善は、この地域でも他の場所でも、まだわれわれの戦略認識や戦力構造を根本的に変える段階ではない。

 5 総合的関与

 相互安全保障を推進するための米国のアジア|太平洋地域への関与は、軍事基地やアクセスだけでなく、わが国の利益と影響力を拡大するための広範な手段を含んでいる。外交官は、米国のこの地域への総合的な関与の前面で活躍している。貿易、投資、文化的・社会的・宗教的な交流、外国研究や旅行はすべて、米国の総合的・建設的なアジアへの関与に大きく貢献している。軍人とその家族のほかに、約四十万人の米国民がアジアで生活し、働き、学んでいる。さらに毎年数千の旅行者が、米国の価値観と友好の非公式の大使として役立っている。米国の企業は、この地域全体で五〇〇〇億j以上の貿易を行い、一五〇〇億j以上の投資を行い、市場資本主義の長所の見本となっている。
 米軍要員のこの地域でのプレゼンスは、相手国への関与によって、また軍人職業倫理や民主社会での行動の実例を示すことによって、米国外交の影響力を拡大する。この地域における米国の政治的、軍事的、外交的、経済的、社会的な関与が組合わされて、友好国を安心させ、米国と地域の利益になる政策の遂行を促すのである。このように、アジア|太平洋地域における米国の全面的で多様な関与は、米国の海外プレゼンスの安全保障上の価値を考えるうえで看過すべきでない。

 第二章 米国とこの 地域との関係の強化

 わが国の同盟関係がアジアの平和と安定の確保のためにはたしている決定的な役割について、米国はよく認識している。また、諸国間の建設的な結びつきを強化する種々の形を創出し、わが国のこの地域全体における二国間・多国間関係で、われわれが大きな前進をとげたことは、高く評価すべきである。これらのさまざまな枠組みは、相互にとって代わるものではなく、補完するものであり、そうして全体的な安定に役立っているのである。地域内のこうした枠組みが透明で建設的であるかぎり、米国は、それらが引き続き発展していくことを歓迎する。
 このような原則にそって、米国のこの地域における同盟関係は、長らく地域の安全保障の要石となってきた。冷戦期の同盟とは違い、これらの同盟は第三国に向けられたものではないが、地域の安定と安全保障から利益を受けるすべての者に役立っている。この三年間、これらの同盟が再確認・強化され、また同盟関係と連係し、それを補うものとして非同盟諸国との建設的結びつきが発展したことは、統合的な安全保障関係のネットワークが全アジア|太平洋諸国の相互利益になっているというわが国の確信を裏付けている。
 本章では、この三年間の米国のこの地域との諸関係の発展を見ていく。第六章では、この諸関係の新世紀の針路についてのわれわれの見通しを述べる。

 0 米日同盟の強化

 米日同盟は、引き続きアジアにおける安全保障戦略の要である。冷戦の終結は、アジアの安全保障環境を変化させ、同盟の目的と役割のいくつかの前提に疑問を投げかけるものとなった。米国と日本は、日本およびこの地域の平和と安定の防衛へのこの同盟の寄与が根本的なものであり、継続していくものであることを認識している。この三年間、協力の枠組み・構造を新たな環境に対応して更新するために、両国の側から積極的に動いてきた。
 一九九六年四月、クリントン大統領と橋本首相は米日安保共同宣言を発表し、両国の安全保障とアジア|太平洋地域の安定にとってこの同盟がますます重要であることを再確認した。共同宣言は、二国間安保関係を維持・強化するための展望を確立した。そこには、同盟を更新し二国間防衛協力を強化するために七八年の米日防衛協力の指針(ガイドライン)を見直す合意が含まれている。
 九七年九月に出された改訂防衛ガイドラインは、米日関係およびこの地域の安全保障の新時代を画した。新ガイドラインは、平時の二国間協力および日本の防衛の概略を示したばかりでなく、日本の平和と安全保障に影響を与える地域的危機の時の効果的な二国間協力の基礎となる。
 新ガイドラインは、日本の平和と安全保障に大きな影響を与える日本周辺地域事態に日本は従来よりも決定的な役割をはたすと規定している。たとえば、新ガイドラインには地域有事に対応した米軍への日本の後方地域支援が述べられている。この支援には、飛行場、港湾の使用権の提供、運輸、兵站が含まれる。また日本は、機雷除去、捜索救難、監視、国連制裁の執行のための船舶臨検などの任務・役割を遂行して、米軍と協力・調整することが実際にできるようになる。新ガイドラインは、同盟の危機対応能力を強化したのであり、予防外交の優れた見本になっている。この地域における抑止力と安定を高めて、安全保障環境の形成に寄与している。
 ガイドラインのもとでの防衛協力が、米日相互協力及び安全保障条約で規定された義務と権利、日本国憲法による制限および国際法の基本原則にそったものとなることは、従来同様である。米国と日本は、地域有事の際に、ガイドラインにそって協力するかどうかをそれぞれ独自に決定することになる。この決定は、事態の性格によって行われる。新ガイドラインの中の「日本周辺地域事態」という概念は、地理的な概念ではなく、事態の概念である。
 この見直しの過程で、米国と日本の担当者は、ガイドライン見直しの範囲、目的、内容についてアジア|太平洋地域全体で説明して回った。この透明性のための実践は、将来この地域の他の諸国が防衛関係や戦略の更新をする際のモデルとなるであろう。

 1 韓国との継続的安保 パートナーシップに向けて

 米国の長期目標は、今後とも、朝鮮紛争の平和的解決であり、非核の、民主的な、和解した、最終的に再統一した朝鮮半島である。米韓安保同盟は、この目標にむけた米国の朝鮮半島におけるすべての外交、防衛、経済活動の土台である。わが国の条約上の約束と米軍の南朝鮮駐留は、北朝鮮の侵略の抑止に役立っている。それは、そのような紛争には米国がただちに参戦することを誤解の余地なく示しているからである。米国と韓国は、安保同盟の主な三つの要素−−五三年の相互防衛条約、二国間協議、連合軍−−を今後も維持・強化していく。
 米韓の強力な抑止態勢は、朝鮮半島における安全保障情勢と政治的関係を改善する可能性をつくりだした。とりわけ米韓の強い姿勢によって、九四年の米朝基本合意の地ならしが行われ、ヨンビョンとテチョンの北朝鮮核施設をIAEAの査察の下で凍結して緊張の決定的原因を除去し、北朝鮮との軍事的対立を回避したのである。
 北朝鮮の米朝基本合意順守についてはずっと懸念されているのであるから、基本合意の諸条項について引き続き厳重に監視していくことが重要である。しかし米国の考えは、米朝基本合意が適切に機能することが、北朝鮮の核活動を制限し、またたとえばミサイル・化学兵器の拡散や朝鮮戦争時の遺体の返還などの他の懸案事項に向う糸口を得るための、現在可能な最善の道だということである。米国は、北朝鮮が米朝基本合意の義務の完全な順守を求めつづけ、北朝鮮の疑わしい活動についてはすべて、十分に解明され解決されるまで追及する。北朝鮮がこの合意の諸条項を順守する意志を持たないことが明確になったときは、米国は、他の外交手段と安全保障上の手段で、自国の根本的な安全保障上の利害を追求していく。
 米韓の強力な安全保障態勢は、四者和平会談のプロセスも促進した。四者会談の全体会合は、九七年十二月、九八年の三月および十月に開催された。この南北朝鮮、米国、中国の和平会談をする提案によって、米韓は、緊張を緩和し、最終的には休戦協定を恒久的な和平締結で置き換える外交の場を創り出すことができた。
 だが、朝鮮半島の恒久的和平と安全保障のためのもっとも決定的な場は、今も南北の直接の接触であることに変わりはない。南北朝鮮だけが、朝鮮分断を解決できるのである。本当に朝鮮半島の緊張が緩和され、恒久的協定が締結されるまでは、米国は、休戦協定の諸条項を守りつづけるし、また北朝鮮に対する政策を韓国と密接に調整しつづけていく。
 連合軍司令部(CFC)の下に統一された米軍と韓国軍は、侵略を抑止し必要とあらば撃破する能力を強化しつづけていく。北朝鮮の重大な経済状況の悪化がその軍事力に影響を及ぼすのは避けられないが、にもかかわらず、北朝鮮は、特に火砲、ミサイル、化学兵器によって南朝鮮におそるべき破壊を加える能力を今も保持している。北朝鮮は、自国民への食糧支援を求めていくどとなくアピールを出しているが、軍事演習やある種の軍事力の強化にきわめて多くの資力を費やしている。九八年八月に日本を飛び越えたミサイル発射は、北朝鮮が、国内の苦境にもかかわらず、朝鮮半島ばかりか地域全体の安全保障に今も脅威であることを示している。
 このような現在も存在する脅威に対応して、CFCは、装甲、火砲、攻撃機、対射撃、事前集積資材の大幅にグレードアップをはじめ、軍備の近代化を続けている。また、即応性を高めるために、CFCは強力な演習プログラム、野戦訓練、コンピュータシミュレーション、増援プランをたえず練り上げている。
 深刻な食糧不足を始めとする経済状況の悪化は、北朝鮮の今後の動向について大変な問題を投げかけている。この不確定的な状況のなかで、韓国と米国は、多種多様な有事にそなえて緊密な協議を続けている。飢餓、難民の大量流出の形で、あるいは他の崩壊的な道をたどって、北朝鮮で不安定化要因が発生する可能性があることは無視できない。米国と韓国は協力して、このような状況をできるだけ低いレベルの緊張で、また地域の安定の破壊を最小にする方法で解決していこうとしている。
 経済危機のために、韓国は財政負担その他の安保関係の責任をとりつづけられなくなる可能性に直面している。米国は、この危機が朝鮮半島の安定におよぼす影響を最小限におさえるために韓国と協力していく。韓国の防衛予算の大幅削減にもかかわらず、韓国は米国に対し、合同作戦の即応性と抑止力を維持すると約束している。

 朝鮮における対人地雷

 米軍にとって、朝鮮は独特の戦域である。朝鮮は、世界でもっとも厳重に要砦化された境界線があり、冷戦期の対立の最後まで残った例である。ソウルからちょうど二十四マイル離れた所にある休戦ラインにそって、北朝鮮の人民軍は約六十万人の兵力、二千四百台以上の戦車、六千門以上の火砲を置いている。そこは、ほとんどあるいは何の前兆もなく戦闘が始まりうる地域なのである。
 対人地雷は、北朝鮮の侵略を抑止し、その侵略から大韓民国を防衛するための米国の力の不可欠の要素になっている。立入禁止地帯と一体になった大々的な障壁システムが置かれていることは、米韓統合防衛計画のカギであり、対人地雷がない場合に侵略時に発生しうる米韓の民間人と軍人の死傷者数を最小限にとどめる。
 九七年九月、クリントン大統領は、米軍を守ることが大統領の責任だとして、対人地雷全面禁止条約への署名を拒否すると述べた。そして、この条約は米国が安全に対人地雷を段階的に撤廃して、朝鮮などで対人地雷の代替策を開発するための十分な移行期間を設けていないと指摘した。朝鮮半島における効果的防衛に決定的に必要な、米国の自己破壊性の混合対戦車地雷システム〔対戦車地雷と対人地雷を一緒に使うシステム〕を許容する条項もない。
 クリントン大統領は国防省に、朝鮮半島の外では対人地雷の使用を二〇〇三年までに終わらせるよう指示した。それには自己破壊性の地雷も含まれる。朝鮮についての目標は、対人地雷の代替策を二〇〇六年までに間に合わせるということである。  (以下次号)