COMMUNE 2001/12/01(No312 p48)

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No312号 2001年12月号 1日発行

定価 315円(本体価格300円+税)


(10月7日のニューヨークの反戦デモ)

 〈特集〉 侵略と戦乱のアフガニスタン

     はじめに

 第1章 米帝の世界戦略のための一方的介入と侵略史

 第2章 侵略と戦争と暗黒の道を強制する参戦3法案

 

●特集 侵略と戦乱のアフガニスタン
 □日帝の世界戦略のための一方的介入と侵略史
 □侵略と戦争と暗黒の道を強制する参戦3法案

●翻訳資料  「4年ごとの防衛見直し」(QDR) 米国防省

     空爆弾劾、米大使館抗議闘争

三里塚ドキュメント(9月) 内外情勢(9月) 日誌(8月)

特集の「はじめに」へ

羅針盤 侵略戦争を許すな

  9・11反米ゲリラ戦争を口実にした米英帝国主義のアフガニスタン侵略戦争は、全世界の労働者人民の力で、何がなんでも絶対に阻止しなければならない。20年の内戦のもとにあり、飢餓に苦しみ、難民を大量に生みだしているアフガニスタンに対して、世界最大の軍事力、経済力を持つ米帝が襲いかかっているのだ。この中にどんな意味でも正義はない。現に米軍の空爆によって多数の住民の命が奪われている。米帝ブッシュは、すさまじい経済危機の突破をかけ、中央アジアと中東・カスピ海の石油、天然ガス、鉱物資源の奪いあいをかけて戦争を始めたのだ。この第3次世界大戦をもはらんだ侵略戦争に対して、「闘うイスラム諸国人民と連帯し、帝国主義のアフガニスタン侵略戦争を国際的内乱に転化せよ」の旗のもとに闘おう。

 この米帝の報復戦争の開始で、最も危機を深め、追い詰められ、それゆえに最も凶暴に戦争への道を突っ走っているのが日帝・小泉政権である。「1991年湾岸戦争の二の舞いにするな」というのが彼らの標語である。金は出したが、決定的に参戦できず、国際帝国主義の中で落伍した。今度脱落したら、帝国主義間争闘戦において致命的敗北を喫する。そこでなりふり構わず自衛隊の「積極的な」参戦を実現しようとあがいているのだ。「テロ対策特別措置法」という名の参戦法案、自衛隊法改悪などを、あらゆる詭弁をもって強行した。戦場の近くで米軍の軍事作戦の一環である後方支援を担い、自衛隊や米軍が攻撃されたという口実で戦闘行為に突入することになる。それは15年戦争で日帝が侵略戦争を拡大した手口そのものだ。

 日本共産党の「テロ糾弾」は、具体的に日帝の参戦法案、戦争国家づくりに協力するところまで進んでしまった(海上保安官に武器使用を認める海上保安庁設置法改悪案に賛成した)。彼らは「テロにも戦争にも反対」「戦争はテロ根絶に有効ではない」と言って、米帝の戦争が帝国主義の侵略戦争であるという本質を覆い隠している。「テロ根絶」と言うが、テロには原因がある。9・11ゲリラの背後には何億というイスラム人民の怒りが渦巻いているのだ。何億の人民の凝縮した恨みの塊がツインタワーとペンタゴンに激突し爆発したのだ。このことを見ずに「テロ根絶」を叫ぶことは、テロの土壌となっているイスラム諸国人民を全滅せよと叫ぶに等しい犯罪的なことだ。日共の「テロ糾弾」は帝国主義の侵略戦争の露払いだ。

 一方、これと対照的なのがファシスト・カクマルである。カクマルはハメを外して「9・11ジハード」を賛美している。だが、それは帝国主義を階級的に批判するものでも、被抑圧民族人民との連帯を追求するものでもない。黒田の反米民族主義、国粋主義の立場から「傲れるヤンキー久しからず」と溜飲を下げているにすぎない。それが証拠に、カクマルは「日帝の侵略を内乱に転化する」闘いは絶対に提起しない。自国政府=日本帝国主義と闘わないのが特徴なのだ。この革命的祖国敗北主義に反対しておいて「9・11」をたたえても、実践的には「帝国主義国の階級闘争は瓦解した」「カクマルを強化しよう」と、黒田思想のカルト的拡大をめざすことでしかない。JR総連松崎に逃げられ、わが革共同の第6回大会開催に打撃を受け、11月労働者集会の破壊に全力をあげるカクマルのあがきを断たなければならない。   (た)

 

 

翻訳資料

  ●翻訳資料

 4年ごとの防衛見直し(QDR報告)〔上〕

 米国防省 2001年9月30日

 村上和幸訳 

【解説】

 今回のQDR報告書は、夏には文面もほぼ完成していたという。だが、正式発表日直前に9月11日の反米ゲリラがあったため、急ぎ書き直された。
 情勢一変のなかでQDRは米本土防衛を主要課題として位置づけた。ブッシュ政権は、米国土安全保障局を新設し、その局長を閣僚級のポストとして、ペンシルバニア州知事リッジを任命した。リッジは「死刑制度簡素化」を知事としての大業績だと自負する人物で、知事として200人以上の死刑執行命令に署名した。無実の元ブラックパンサー党員ムミア・アブ・ジャマル氏には2回も死刑執行命令に署名した(救援運動で執行は阻止された)。
 盗聴法なども一斉に改悪されている。「米本土防衛」が、監視と弾圧、監獄国家化の大エスカレーションであることは明らかだ。アメリカの労働者階級・人民の自己解放の闘いに心底から恐怖し、圧殺に必死になっているのだ。対外戦争と国内階級戦争の激化は一体だ。
 それでは、世界戦略的には今回のQDRはどうなっているか。
 米帝ブッシュ政権は、対日の帝国主義間争闘戦を徹底的に焦点化し、中国侵略戦争という巨大戦争をかまえている。そのために発足当初から東アジア重点化の姿勢を打ち出してきた。報道では、《今回のQDRは9・11情勢で「2戦域戦争戦略」の放棄などが抑えられて前回のQDRとの違いが少なくなった》という論調が多いが、実態は違う。もともとブッシュ政権の「2大戦域戦争戦略」からの転換は、2戦域での戦争をやらないとか、やれないという問題ではなく、世界大的戦争へ転換に本質があった。今回のQDRは、前回QDRまでの「2大戦域戦争戦略」だけでなくその基礎になったアプローチそのものを否定し、質量ともに飛躍的な戦力の構築を主張し、東アジアを徹底的に重点化している。そしてそのなかで「重なって発生する諸紛争で迅速に撃破する。そのうちの1つで体制変更や占領を含めて決定的に勝利することも選択肢とする」ことをも可能とする戦力を持つ(第3章)とも規定しているのだ。
 米帝新戦略の最先端部である弾道ミサイル計画(BMD)はどうなったか。
 報道では、《9・11で、ならずもの国家のミサイル攻撃よりテロリストがスーツケース等で米国内に持ち込む大量破壊兵器のほうが現実的脅威だと証明されたからBMDは重視されなくなった》等の論調が流布された。これも実態は逆だ。こうした反対論はこれまで米帝支配階級内で根強く、9・11直前にバイデン上院議員(民主党の次期大統領候補と目される)もそうした反対論を発表している。共和党にも異論があり、7〜8月の段階ではブッシュ政権のBMD要求額は議会で削られた。だが9・11後一転して、ブッシュ政権の要求どおりBMD関連予算要求は満額が認められた。
 本誌前々号、前号でも明らかにしたように、BMDの真の存在理由は「ならずもの国家のミサイルの脅威」ではなく、画歴史的な軍拡、大規模侵略戦争、世界大的戦争への米帝の突進だ。特に対中国、対日帝の軍事戦略だ。
 米帝は9・11を機にウズベキスタンに軍事基地の長期使用権を獲得した。旧ソ連中央アジア5カ国の中軸的な国と準軍事同盟関係に入り、エネルギー資源をめぐる争闘戦の拠点を確保したということだ(本誌19n)。そしてさらに重大なことだが、これは対中国の戦略的力関係の激変をもたらす。
 米帝が中国の西隣に基地を確保したことは、中国の最大の強みである国土の広大さ、戦略的縦深性に迫っていく拠点を得たということだ。QDRでは、「敵の領土の奥深くの固定目標・移動目標も精密に攻撃できる非核戦力」が必要だと明言している。
 中国を徹底的にターゲットにし、世界大的戦争にカジを切ることをQDRは戦略的に確定した。そのために徹底的に戦力の再編を行う。量的軍拡はもちろん、質的飛躍=兵器体系の先端技術化から各軍組織・国防省の機構改革まで行おうとしている。
 ラムズフェルドは、民間航空機製造会社の経営者だった人物であり、米帝資本の企業経営の激烈な再編過程を身をもって経験している。QDRは、その経営再編の手法を持ち込んで「国防省のビジネス近代化」を主張している。あえて激しいあつれきをおこしても、国防省・軍を作り替え、そして「真のトップダウン」による国防省・軍の改革を叫んでいる。
 戦後ずっと凶悪な戦争を続けてきた米軍にとっても、従来の延長線上ではとうてい担い切れないほどの大戦争をやるために、徹底的な構造改革をやろうというのだ。

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 目次

序 〔ラムズフェルド国防長官〕
I章 21世紀の米国安全保障
  世界の中での米国の役割
  米国の利益と目標
  安全保障環境の変化
   現在の安全保障の趨勢
   生起しつつある作戦上の課題
  米軍の現状
U章 防衛戦略
  防衛政策の目標〔以上本号〕
  戦略上の諸原則
   リスク管理
   能力ベースのアプローチ
   米国の防衛と米軍事力の海外投入
   同盟とパートナーシップの強化
   有利な地域的バランスの維持
   軍事諸能力の広範な組合せ
   防衛力の変革
V章 兵力立案のパラダイム・シフト
  米国の防衛
  前方での抑止
  大規模戦闘作戦
  小規模有事
  現有兵力
W章 米軍の世界的態勢の方向性の変更
X章 21世紀の米軍の創造
  作戦目標
  変革の柱
   統合および共同の指令・統制
   常設統合タスクフォース司令部
   常設統合タスクフォース
   統合プレゼンス政策
   兵力の持続
  変革的変化をサポートする試み
  諜報の優位性の活用
   世界的諜報
   諜報、監視、偵察(ISR)
   任務命令、情報処理、情報成果利用および情報分配(TPED)
  変革能力の育成
   研究・開発
   変革イニシアティブ
   国防省の伝統的兵力の更新
Y章 国防省機構の再活性化
  有能な人材の軍人部門・文官部門への採用と定着化
  国防省のビジネスの仕方とインフラの近代化
Z章 リスク管理
  新たなリスクの枠組み
   兵力管理のリスク
   作戦上のリスク
   将来の課題のリスク
   機構的なリスク
  全面的なリスクの軽減
[章 統合参謀本部議長の声明

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 序

 2001年9月11日、米国は悪辣で残忍な攻撃を受けた。米国人が職場で死亡した。米国の国土で死亡した。戦闘員としてではなく、罪のない犠牲者として死亡した。従来の軍隊の従来の戦役によってではなく、姿のみえない野蛮なテロの兵器によって死亡した。戦争の犠牲者として死亡した。……
 米国への攻撃、米国にもたらされた戦争は、われわれの状況の基本的条件を示している。つまり、いつどこで米国の利益が脅かされるか、いつ米国が攻撃されるか、いつ米国人が攻撃の結果死亡するか知りえない。趨勢を知ることはできるが、起こる事件を知ることはできない。脅威を特定することはできるが、いつどこで米国や友好国が攻撃されるかを知ることはできない。奇襲を避けるために大きな努力をすべきだが、奇襲を予期することも学ばねばならない。諜報の改善のために常に尽力すべきだが、われわれの諜報にはいつもギャップがあることも想起せねばならない。したがって、奇襲に適応すること――すばやく決然と適応すること――を、立案の条件とせねばならないのだ。
 このQDRの作業は、新たな時代への決定的な過渡期のなかで行われた。9月11日の攻撃以前でさえ、国防省最高幹部は、不確実性を考慮に入れ奇襲に対処する米国防衛新戦略、海外における有効性と米国本土の安全性確保を前提とした戦略の確立を求めてきた。米国の影響力拡大と米国の安全保障の持続のための諸条件を定めようとしてきた。こうした戦略は、米国の部隊と能力の形成、その展開と使用の指針となる次の4つの目標にそって形成されていく。
◇同盟国・友好国に対して、米国の目的の恒常性および安全保障上の約束を遂行する能力を保証すること
◇米国または同盟国・友好国の利益を脅かすプログラムや作戦を敵が開始しないように思い止まらせること
◇攻撃を迅速に撃破しまた侵略に際して敵の軍事能力とそれを支援するインフラに厳しい罰を加える能力を前方に展開して、侵略と強要を抑止すること、
◇抑止が働かなかった場合、いかなる敵も決定的に撃破すること
 この防衛見直しの中心的目標は、防衛立案の基盤を、従来の思考を支配してきた「脅威ベース」のモデルから将来は「能力ベース」のモデルへのシフトだ。この能力ベースのモデルは、敵が特定の誰になるのか、あるいはどこで戦争が起こるかということよりも、敵がどのように戦うのかということに焦点をあわせたものだ。それは、遠隔地での大規模な通常戦争を立案するだけでは不十分だということを認識したものだ。
 すなわち、自分たちの目標を達成するために奇襲、欺騙(ぎへん)、非対称戦を用いる敵を抑止しかつ撃破するのに必要な能力を特定しなければならないのだ。
 立案にこの能力ベースのアプローチを採用するということは、新たな諸領域における軍事的優位を作り出しまた敵に非対称的有利性を使わせないようにしつつ、カギになる諸領域における米国の現在の軍事的優位を維持せねばならないということだ。新たな軍事能力を作り出す試みをしつつ、現存の軍事能力を新たな状況に適応させることが必要になる。要するに、将来に向かって米国の非対称的優位性を拡張していくために、米国の部隊、能力、機構を変革することが求められているのだ。
 米国の防衛の21世紀に向けての変革のためには、国とその指導者の息の長い取り組みが必要だ。変革は、明日の目標ではなく、今日真剣に遂行すべき作業なのだ。この国が直面している諸課題は、遠い未来に現れてくるのではなく、現在ここに存在する。それには、わが国の作戦の決定的な基盤――作戦のもっとも決定的な基盤である米国本土など――を守ること、および米軍部隊を遠方のアクセスが妨害される環境の中に投入しそれを維持することが含まれる。米国の情報システムの確保、持続的な監視、追跡、敵の部隊・能力との迅速な交戦も必要になる。そして、米国の宇宙システムの能力と生存性の強化や情報技術へのてこ入れ、より効果的な統合作戦を規定する新たな構想も必要になる。
 当然、こうしたわれわれの取り組みは比較的小さなものから始まるであろうが、そのペースと密度は非常に大きくなっていくであろう。そして時とともにわれわれが伝統的戦力から離脱し、戦争遂行の効率性と軍人の潜在的戦闘力を最大限に発揮する新たな概念・能力・組織に諸資源が移行していくにつれて、この変革目標が全面的に実現されていくであろう。それは簡単な任務にはならない。そのためには目的意志の確固不動性と効果的・効率的なマネージメントの自由度が要請される。国防省のマネージメントの新たな手段、そして現在のアプローチのオーバーホールも要請される。
 米軍の変革を促進するために、また国防省のマネージメントをあらゆる活動範囲にわたって改善するために、このQDRはリスクを評価しまた管理する新たなアプローチを確認している。この新たなアプローチは、国防省が米国の将来の安全保障を守るために必要な能力に投資しながら、なおかつ短期的脅威への対処を改善するということを保証する助けとなるであろう。
 このQDRは、国防省の文官・軍人の最高幹部が作った。合州国大統領との広い範囲にわたる協議を経たものだ。国防省指導層中の最高指導層の間での数カ月におよぶ審議・協議の結果として、戦略、戦力、能力、リスクについての意志決定を真の「トップダウン」で行ったものだ。この報告は、きたるべき年月の米国の安全・安全保障を保つために必要なカギになる変化について概括している。
 QDRとこれに付随する報告は、9月11日のテロ攻撃の前にほぼ完成していた。この攻撃は、このQDRの戦略方向と立案原則を裏づけた。特に、米本土防衛、奇襲、非対称的脅威への準備、抑止の新概念づくりの必要性、能力ベースの戦略の必要性、さまざまな次元のリスクについての慎重なバランスをとる必要性、を強調したことを裏づけるものとなった。しかしながら、9月11日の米国への攻撃によって、これらの方向にもっと急速に進むことを求められているのだ。たとえテロリズムとの戦争遂行のさなかにあっても、そうしなければならないのだ。
 アメリカ国民を防衛するためにどのように組織し準備するかということに関する、広い範囲にわたる複雑な政策、作戦問題そして憲法にさえ関連する問題は、米国政府内でかつてなくあまねく注目を集めている。重要なことは、本土安全保障の責任の所在が、連邦、州、市町村の諸組織にわたるために、攻撃から米国を効果的に防衛するためには省庁間協力のあり方とその能力も求められているということだ。最近設置された国土安全保障局は、この死活的な作業を促進するであろう。
 本報告は終点というよりも開始点だ。本報告が結論しているように、国防省はこの見直し作業に取り組んでおり、国防省の軍事立案および資源配分作業を通じてここで定められた方針を実施しているところだ。そしてまた、これらの作業によって国防省幹部は、このQDRの結果として行われた諸決定にさらに追加し、またそれをさらに練り上げていくことができるようになる。
 結局、2001年9月11日の攻撃による人命の損失と経済への打撃によって、この国が防衛のために何ができるのかという問題に新たな見通しが与えられたのだ。まちがった節約で運試しをし、われわれの子どもたちの未来を賭けるのは無謀なことだ。この国は、明日の敵を抑止し繁栄を支えるための費用を払うことができる。こうしたコストは、そうしなかった場合に費やされることになる人命や資源のコストとは比較にならない。
 テロリズムに対する戦争という困難な課題に取り組みつつ、われわれは米国の防衛の変革の道にも進まねばならない。われわれのこの国への誓約はゆるぎなく、われわれの目的は鮮明だ。すべての米国人の安全と福利を提供し、米国の世界的な誓約を守ることだ。数世代前と同様、米軍の技量、義務への忠誠、献身の意志は、わが国の強さの核心だ。われわれは、米軍がわれわれの世代だけでなく今後の世代の平和と安全保障をも守るために必要としている資源と支持を与えなければならない。
国防長官ドナルド H ラムズフェルド

 I 21世紀の米国安全保障

 20世紀の歴史は、米国の安全保障が他の諸国の安全保障と直接に結びついていること、米国の繁栄が他の諸国の繁栄に依存していることを、繰り返し証明してきた。米国は、現在の政治的、経済的、軍事的優位性を、他の諸国を支配するためではなく、米国と同盟国・友好国が自由の中で現在も将来も繁栄していく持続的な枠組みを作るために使おうとしてきた。
 だが、2001年9月の事件は、皆が米国の目的を受け入れ、価値観を共有しているわけではないことを明らかにした。この国には、多くの脅威があり、脅威には多くの形がある。その範囲は、大規模戦争から姿なきテロの脅威にまでわたっている。安全保障への米国のアプローチは、すべての米国人および同盟国・友好国人を守りつつ、われわれの生活様式を防衛することでなければならない。

 世界の中での米国の役割

 米国の目標は、平和をおしすすめ、自由を維持し、繁栄を促進することだ。米国のリーダーシップは、法の支配を尊重する国際システムの維持を前提にしている。米国の政治的、外交的、経済的リーダーシップは、世界的な平和、自由、繁栄に直接に貢献している。米国の軍事的な強さは、このような目標を達成し、共通の利益に関する米国のゆるぎない誓約について友好国・同盟国に保証するために不可欠だ。
 米国の世界の中での安全保障上の役割は独特だ。それは、同盟と友好のネットワークの基盤を提供する。世界の多くの利益となる経済的繁栄にとって決定的な安定感と信頼感を全般的に作りだす。そして、米国と同盟国・友好国の福利を脅かす者に、強要と侵略は成功しないという警告となる。
 現在、国民は国防省と世界貿易センターへのテロ攻撃の犠牲者への喪に服しているが、しかし、米国の目的は明確でありその責務の遂行は決然と行われている。

 米国の利益と目標

 米軍の目的は、米国の国益を守り推進すること、そして抑止ができなかった場合には、こうした利益への脅威を決定的に撃破することだ。米国は、世界にまたがる利益、責任、誓約を有している。開かれた社会をもつ世界的強国として、米国は、国境線の外で発生した趨勢、事件、影響力の作用を受ける。防衛態勢を作るにあたっては、次の恒久的な国益を考慮すべきだ。
◇米国の安全保障と行動の自由の確保、すなわち
 ◇米国の主権、領土的一体性、自由
 ◇米国内外における米国民の安全
 ◇米国の決定的なインフラの防御、など
◇国際的誓約の尊重、すなわち
 ◇同盟国・友好国の安全保障と福利
 ◇決定的な地域、特に欧州、北東アジア、東アジア沿岸地域(注1)、中東および南西アジアの敵対的勢力による支配の排除、など
◇経済的福利への貢献、すなわち
 ◇グローバル経済の活力および生産性
 ◇国際的な海域、空域、宇宙および情報通信線の安全保障
 ◇カギになる市場および戦略資源へのアクセス
 これらの利害を守るためには、強力な関与と支援が必要になる。効果的な外交、強力な経済、用心深く即応的な防衛がともに必要なのだ。米国の利益が守られているときは、米国と友好国は平和と自由によって繁栄することができる。米国の利益が挑戦を受けているときは、米国は防衛のために強さと決意を持たねばならない。
 (注1)東アジア沿岸地域は、日本の南からオーストラリアを経てベンガル湾にいたる地域と定義される。

 安全保障環境の変化

 世界的安全保障環境についての見積もりには、軍事的脅威の潜在的源泉、将来の戦争行動、米国への脅威と攻撃の形態についての多大な不確実性が含まれる。歴史が示しているように、ソ連崩壊などの急激で予想外の変化が地政的な状況を変容させることがありうる。また、新たな軍事技術は軍事的対抗および軍事紛争の形態を一変させ、大国の軍事力とドクトリンを時代遅れにしてしまうことがありうることも歴史の示すところだ。一方では、このような不確実性への取り組みは米国の防衛立案にとって枢要な課題だが、他方では、安全保障環境のある種の特質・趨勢を考えれば、今日の地政的・軍事技術的課題だけでなく、将来米軍がマスターすることが必要になる決定的な作戦的課題にも重点が置くべきなのだ。

 現在の安全保障の趨勢

 武力紛争の多くの領域において米軍には優越性があるとはいえ、戦争への非対称的なアプローチ、特に大量破壊兵器などの広範な能力を持つ敵からの挑戦を米国が受ける可能性は高い。米国の利益と安全保障を脅かす可能性がある特定の国または行為者を高い確度で予知することはできない。
 しかし、大きな脅威またはチャンスが訪れる趨勢を特定することは可能だ。
 カギになる地政的趨勢。冷戦期のイデオロギー的に決定された持続的な地政的ブロックに諸国が分裂していた国際システムは、流動的になり予知不可能になってきている。米国の同盟関係は今も強力だ。しかし他の諸国との関係は、多くの場合、対抗と協力の両方にいろどられている。米国の戦略は、この世界をつくっている重要な新たな地政的趨勢を考慮に入れねばならない。
 地理的距離によってもたらされた保護の消滅。2001年9月11日の恐るべき事件が示したように、地理的位置は米国の住民、領土、インフラへの直接攻撃からまぬがれることをもはや保障するものではなくなっている。冷戦期にはたしかに米国と在外米軍はソ連のミサイルにはさらされていたけれども、時がたつにつれてますます多数の国が弾道ミサイルを保有するようになり、その有効射程も着実に伸びてきた。そのうえ、経済的なグローバル化とそれにともなう米国の国境をまたぐ旅行と貿易の増加は、敵対的諸国と行為者によって米国本土への攻撃のために利用されるものとなってきた。
 地域的な安全保障動向。たしかに米国は近い将来に同等の対抗者に直面することはないだろうが、米国の利益にとって決定的な諸地域において地域的大国が安定を脅かす能力を持つにいたる可能性は存在する。特にアジアは、大規模な軍事的対抗を起こしやすい地域へと徐々になりつつある。中東から北東アジアにかけて広がる大きな弧をなすこの地域は不安定であって、地域的大国の勃興と没落の移ろいが入り混じっている。これらの国の政府のうちには、国内の急進的ないし過激な政治勢力・政治運動によって倒されかねないものがいくつかある。多くの国は、巨大な軍を展開しており、また大量破壊兵器の開発ないし取得の潜在力を有している。
 アジアの安定的バランスの維持は複雑な任務になるであろう。優れた資源的基盤を持つ軍事的対抗者がこの地域に台頭してくる可能性が存在するのだ。東アジア沿岸は、特に課題をかかえた地域だ。アジアの戦域では距離が巨大だ。米軍基地の密度および移動途上のインフラは他の決定的地域よりも低い。また米国が得たこの地域の諸施設へのアクセスの保証は、他の地域より少ない。したがって、アクセスおよびインフラ協定の確保、そして戦域内からの最小限の支援で長距離にわたる持続的作戦を遂行しうるシステムの開発に重点を置く必要があるのだ。
 米国と同盟国・友好国は、中東のエネルギー資源に依存しつづけるであろう。中東では、いくつかの国が通常軍事力による挑戦を行っており、多くの国が化学・生物・放射線・核および強化高性能爆薬(CBRNE)の兵器を取得しようとしているか、すでに取得している。これらの国は、弾道ミサイル能力を開発し、国際テロリズムを支援し、米国に友好的な諸国に強要を行う軍事的手段を拡大し、また米軍のその地域へのアクセスを妨害している。
 中欧諸国は、政治・経済の両面で西欧に統合されはじめている。ロシアとの協力のチャンスも存在する。ロシアはNATOに対する大規模な通常戦力の脅威になっていない。ロシアは、地域的侵略者から弾道ミサイル攻撃を受けやすくなっている問題、戦略兵器が偶発的にか無許可で発射されてしまうことの問題、そして国際テロリズムの問題などについて、米国と重要な安全保障上の懸念を共有している。しかし同時に、ロシアは米国の利益に反する多くの政治目的を追求している。
 南北アメリカ大陸はほぼ平和を維持しているが、特にアンデス地域では危機ないし反乱が国境を越えて広がり、隣国を不安定化し、米国の経済的・政治的利益をリスクにさらしかねない危険が存在している。
 弱体な諸国あるいは破綻した諸国の領土から発する挑戦と脅威の増大。アジア、アフリカ、米大陸の広大な諸地域の多くの国に有能なあるいは責任ある政府が欠けている。そのためにそこは、麻薬密売・テロリズムその他の活動を行う非国家団体が国境を越えて拡大するのに都合の良い場所になっている。■核保有国を含むいつくかの国の状況は、政府の強さからだけではなく、政府の弱さからも潜在的脅威が増大することを示している。
 非政府の団体への権力と軍事能力の拡散。
 米本土への9月11日の攻撃は、テロリスト集団が米国の領土、市民、インフラに破滅的な攻撃をかける動機と力があることを示した。こうした集団は、国家の支援を受けたりその聖域や保護を受けている場合が多いが、それなしで作戦ができる資源と能力をもっている集団もある。そして、CBRNE技術の急速な拡散で、将来のテロリストの攻撃にこの兵器が使われる危険が高くなっている。
 地域安全保障取決めの進展と維持。米国の同盟関係およびその広範な二国間安全保障関係は、米国の安全保障の要だ。米国は地域的な安全保障取り決めを作っていくことに、類例のない成功をおさめてきた。さらに、イラクのクウェートへの進攻を始めとする個々の挑戦と対決するための国家連合を形成する比類なき能力を示してきた。この能力が、9月11日の事件に対応するにあたって決定的に重要になっていく。こうした安全保障取り決めと連合は、米国とそのパートナーが戦略的構図を形成し、共通の利益を守り、安定を推進するという、共通の目標をつくっていくための現実的・潜在的なすばらしい組合せとなっている。
 紛争の源泉のいっそうの多様化/紛争の場所の予測不可能性。これらの趨勢はともに、ますます複雑化し予測不可能になっていく地政的状況を作り出している。対抗の枢要な地理的領域がきわめて特定されていた冷戦時代と違い、現代は事実上あらゆる大陸で、また広範な種類の敵に対して、米国の介入ないし活動がすでに要求されている。米国は、ある特定の地理的領域におけるある特定の敵との対決のためにのみ軍を作り、計画を立案していくわけにはいかない。その逆に、米国は、広い範囲にわたる能力を有する敵に対して、予期しえぬ危機に介入することを強いられかねないのだ。
 しかも、こうした介入は、都市的な環境やその他の複雑な地勢、さまざまな気候条件にある遠隔地で起こる可能性がある。それは大きな作戦上の挑戦だ。
 カギになる軍事技術的趨勢。軍事領域における技術は、民間部門の恐るべき変化と同様に急速に発展している。科学の進歩は通商・通信のグローバル化とあいまって、米国の防衛戦略に大きな影響を与えるいくつかの趨勢をつくってきた。
 軍事技術の急速な発展。進行中の軍事における革命は、軍事作戦の遂行を変化させる可能性がある。
 センサー、情報処理、精密誘導その他の領域は急速に進んでいる。それは、米国に敵対的な諸国が、広く入手しうる市販の技術を兵器システムと軍事力に取り入れて、そうした諸国の軍事能力を強化する危険を示している。また米国にとっては、軍事における革命は、巨大な有利さをもたらし、現在の米軍の優越の時代を延長するための可能性をもっている。
 軍事における革命の利用のためには、技術革新だけではなく作戦概念、組織的適応、軍部隊の変革のための訓練と実験が必要だ。
 CBRNE(強化高性能爆薬)兵器と弾道ミサイルの拡散。グローバル化の時代において拡散はあらゆる所にわたっている。そのため、米国と同盟国・友好国への直接の挑戦のための軍事的手段を作り出すのに必要な技術と専門知識は入手しやすくなっている。
 それには、先進的通常兵器とともに、CBRNE兵器とその運搬手段も含まれる。特に、最近の弾道ミサイルの拡散は以前の諜報の予測を上まわってきた。それはこの挑戦が、予測を上まわるペースでさらに進展していくことを示唆している。同様にバイオ技術革命は、生物戦争の脅威拡大の可能性の高まりを示している。
 軍事的対抗の新たな領域の出現。技術の進歩によって、宇宙とサイバースペースで対抗が進められていく可能性がでてきた。宇宙と情報作戦は、ネットワーク化され高度に分散化された民間商業的能力および軍事的能力のバックボーンになってきている。これは、宇宙の支配――宇宙利用および敵の宇宙利用の阻止――が将来の軍事的対抗の決定的な目標となる可能性を示している。同様に、さまざまな国が攻撃的な情報作戦を展開するようになる可能性、また決定的な情報インフラを物理的な妨害あるいはサイバースペースを通じた撹乱から守るために資源を投入せざるをえなくなる可能性が高くなるであろう。
 誤算と奇襲の可能性の増大。これらの軍事技術的な趨勢のために、誤算と奇襲の可能性が高まっている。近年、米国は他の諸国の大量破壊兵器と弾道ミサイルの開発スピードに奇襲されてきた。将来、他の諸国が軍事における革命をどの程度活用できるか、潜在的な敵あるいは現実の敵がCBRNE兵器と弾道ミサイルをどの程度急速に取得するか、また宇宙とサイパースペースにおける対抗がどのように進展するかを米国が正確に予測することは、ほとんど不可能であろう。

 生起しつつある作戦上の課題

 地政的、軍事技術的趨勢は、将来の安全保障環境を根底から形成していく。米国の敵は、以前の敵が持っていなかった新たな能力を持つようになるであろう。米国の防衛戦略は、現在の安全保障の趨勢と一体になっている作戦上のいくつかの生起しつつある課題に対処するよう米軍を変革する必要性を考慮に入れねばならない。こうした課題およびそれに関連した作戦上の諸目標については、本報告の第V章で掘り下げて検討する。

 米軍の現状

 将来の安全保障環境に難題があるにもかかわらず米国の利益と目的を確保することは、米国の防衛戦略と米軍にとって根本的な試練だ。たしかに米軍部隊――現役、予備役、州兵部隊で構成される――は、現在も世界でもっともよく訓練され、装備され、もっとも有能だが、米国が現在有してる優位性を浸食している大きな難題が存在するのだ。こうした難題は、人員と部隊の即応性と繁忙度、主要な兵器システムおよび防衛インフラに影響をおよぼしている。
 たしかに米国の前方展開し「最初に戦う」部隊は訓練され即応性があるが、他の作戦部隊は、それほどは即応性がない。90年代に国防省は「最初に戦う」部隊の即応性を維持してきたが、予算上の制約から他の部隊が望ましい即応性のレベルを達成することが妨げられてきたのだ。
 たとえば、次のことがある。
◇展開されていない空母航空団の即応性は低下し、展開された時に望ましい即応性のレベルに回復することがますます困難になっている。
◇現在、戦略輸送機が不足している。この不足は、C−5輸送機が恒常的に即応性が低いためにさらに深刻化している。過去5年間のC−5の平時任務可能率は、約60%だった。
 この即応性のレベルは、この飛行機が目標にしている平時の実績より8%低い。
◇陸軍の最高に優先度の高い部隊の即応性は、非師団部隊、予備役構成部隊および標準的陸軍部隊を犠牲にして保たれてきた。
◇訓練における米国の無類の優越性は崩れつつある。特に、訓練場のインフラと設備の老朽化が著しい。
 部隊の作戦上の任務過多が、軍の人員を消耗させている。冷戦終了後から米軍は総人員を削減してきたにもかかわらず、この小さくなった諸部隊にかかる任務は増大した。この作戦繁忙度のひとつの指標は、予備役構成部隊への依存度が高まったことだ。この高い作戦繁忙度と民間部門における労働者需要の継続があいまって、軍の人員募集とその定着化の力が何年にもわたって落ちてきた。
 各軍〔陸・海・空軍と海兵隊〕は、経済の強さから来る競合のために定着させることが難しくなってきただけでなく、それに加えて90年代のダウンサイジングの結果としても困難な人員問題に直面しているのだ。過去10年間の大部分の時期に各軍は入隊者を減らしたため、各軍は将来の部隊の適切な人員数を確保するために歴史上かつてない定着率を実現せねばならない。軍隊における生活の質は、各軍のメンバーとその家族を定着させるために決定的だ。最近国防省が行った調査によれば、各軍のメンバーが退職するあるいは退職を考える2つの主要な理由は、基本給と家族との分離だ。現在の下級将校は、かつてなく既婚率が高い。そしてこの既婚の下級士官は、夫婦ともに職業をもっている率が非常に高い。だから、各軍のメンバーを引き留めるだけではなく、彼または彼女の家族をも引き留めねばならないのだ。
 海外展開の長期化による家族の分離は、家族の軍隊に留まる意欲に大きく影響する。
 国防省は、21世紀のダイナミックな挑戦に対応するのに必要な広範な技能と優れた判断力をもった人材を募集し、定着化させねばならない。……そういう高度技術システムを運用できるだけでなく将来の高度に複雑化した軍事環境の中で効果的に先頭に立つこともできる高度な技能を有し、意欲のある人員、士官を国防省が持たないかぎり、進歩した技術と新たな作戦概念は完全に利用することはできない。
 国防省の文官要員も、将来の挑戦に対処するために変革されねばならない。文官要員の中で退職年齢が近い者の数がますます増えている。そのうえ、近年のダウンサイジングの結果、国防省は有能な若い文官要員を国防省に採用して指導的地位につけるように育てていくことに十分には力を入れてこなかった。特に、科学と技術の必要性の高まりに応じるスキルをもった若い人材については、そういうことがいえる。
 また短期的な即応性を維持するプレッシャーのために、国防省は戦力を更新する力をそがれてきた。冷戦終了の時、国防省は調達費を削減して80年代に投資的に調達したシステムでなんとかやっていくことを決定した。たしかに近年は調達支出が増大してきたとはいえ、まだ歴史的には低いレベルだ。その結果、多くの主要システムの使用年限が迫ってきている。そしてそれは任務可能率を引き下げる結果をまねき、運用コストを増大させ、老朽装備を運用可能にするためのフラストレーションを生んでいる。そして部隊の即応性が下がってきた。
 そのうえ、防衛インフラについても予算が不足し放置されてきた。防衛インフラには、戦闘部隊を支える埠頭、滑走路、格納庫、国防省の人員が働く建物、軍人と家族の住宅、訓練場などの施設が含まれる。こうした施設は、維持と更新の2つの方法で支えられている。近年、施設の維持には、必要額の75〜80%しか与えられていない。
 その結果、施設は劣化し、修復作業が未処理のまま滞っている。未処理分の費用は600億jを超えると見積もられる。更新についても予算不足が著しい。民間部門では施設の取り替えないし近代化は平均57年に1回行われている。しかし防衛インフラの取り替え率は192年に1回だ。…
 国防省は、多くの作戦部隊の即応性低下を逆転させ、戦力を選択的に更新し、また古い防衛インフラの老朽化を止めねばならない。

 U 防衛戦略

 防衛戦略は、平和、自由、繁栄という広い国家目的のためのものだ。外交的、経済的努力は、民主主義と自由市場を奨励することによってこの目的を世界的に推進することを目指すものだ。米国の防衛戦略は、米国と同盟国・友好国の自由を防衛し、他の諸目標を可能にする平和的国際環境を保障するものだ。

 防衛政策の目標

 国防省は、国家を防衛し持続しうる平和を保障するための新たな戦略的枠組みを練り上げてきた。この枠組みは、次の4つの防衛政策の目標にそって組み立てられている。すなわち
◇同盟国・友好国に対して保障を与え、
◇将来の軍事的対抗を思い止まらせ、
◇米国の利益に対する脅威と強要を抑止し、そして
◇抑止が働かなかった場合、いかなる敵も決定的に撃破する。
 同盟国・友好国に対する保障。米国は、世界から撤退することはできない。米軍の海外プレゼンスは、米国の同盟国・友好国に対する誓約のもっとも根本的なシンボルだ。米国が自分の義務を守ること、そして信頼できる安全保障のパートナーであることについて同盟国と友好国に保証するという決定的な役割を米国は果たしている。米国は、すすんで自国と他国の防衛のために軍を使用し、すすんで共通の目標を推進することで、ゆるぎない決意を示し、また米軍が米国の誓約と責任を果たすという信頼性を示すのだ。そのために、米軍は同盟国・友好国との安全保障協力を推進する。米国の安全保障協力の主目標は、同盟国・友好国が世界の決定的な地域において有利な軍事力バランスを作り出し、侵略と強要を抑止することとなる。安全保障協力は、国防省と米国の同盟国・友好国の戦略方向を結びつけために大きな役割をはたす。
 将来の軍事対抗を思い止まらせる。米国の戦略と行動によって、将来の軍事対抗の性格は影響され、脅威の方向性が与えられ、将来の潜在的敵の軍事立案は複雑化させられる。したがって、よく目標が定められた戦略と政策は、他の諸国が将来軍事対抗をしないように思い止まらせることができる。米国は、研究、開発、試験、示威プログラムによって、そのような影響力を行使できる。また、軍事能力のカギになる分野でのリードを維持し、あるいはさらに広げることによっても、それはなしうる。潜在的な敵が先進技術・先進システムを入手しうることを前提にすれば、米国は革命的な作戦概念・能力・組織制度を実験し、軍内部でリスクを取り革新を受け入れるカルチャーの発達を促すことが必要となる。抑止効果を発揮するためには、この技術的、実験的、作戦的活動は、明確な戦略的焦点をもって行わねばならない。そのためには、あらたなプロセスと新たな組織が必要となる。
 米国の利益に対する脅威と強要の抑止。抑止のためには多面的なアプローチが必要だ。そのようなアプローチのためには、大統領に広い範囲の軍事的選択肢をあたえて侵略ないしあらゆる形の強要を思い止まらせるような戦力・能力が必要になる。
 そのため特に、平時において世界の決定的地域で前方で抑止することに重点が置かれる。戦域の外からわずかの増援をえるだけで侵略や強要を抑止するために、将来の前方展開・前方駐留部隊、世界的な諜報・打撃力・情報資産の強化が必要となる。諜報能力は米軍に敵の意図・計画・強さと弱さについての決定的情報をもたらすのであり、その改善は特に重要だ。またこの新たなアプローチには、敵の領土の奥深くの固定目標・移動目標も精密に攻撃できる非核戦力、能動防衛および受動防衛、そして敵を決定的に撃破できる急速展開可能かつ持続可能な戦力が必要だ。抑止の究極的側面についてはQDRではなく、「核態勢見直し」〔12月提出予定〕で取り組まれる。これは米国の攻撃的核対応に関するものだ。  (つづく)