COMMUNE 2002/12/01(No323 p48)

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12月号 (2002年12月1日発行)No323号

定価 315円(本体価格300円)


〈特集〉 報道・言論規制の個人情報保護法案

□戦争翼賛勢力へマスコミに法規制と監督の網
□権力・企業の腐敗の取材暴露は事実上不可能
□究極の治安管理と国民動員を狙う住基ネット
□資料/個人情報保護法案

●翻訳資料/ 02年米国防報告(上)
● ニューズ&レビュー/ 国際反戦闘争/全世界で爆発する反戦運動--丹沢 望 

     10・13三里塚全国集会

三里塚ドキュメント(9月) 内外情勢(9月) 日誌(8月)

コミューン表紙

 連合通達打ち破れ

 米帝ブッシュは、9月20日、敵への先制攻撃を正当化し、他国の追随を許さない軍事力の圧倒的な優位を堅持することを打ち出した政策文書「米国の国家安全保障戦略」(ブッシュ・ドクトリン)を発表した。そして米議会は、イラクへの武力攻撃を容認する決議を採択した。91年湾岸戦争に比べても、その侵略性は際立っている。イラクに先制的に攻め込んで政権を転覆し、かいらい政権を打ち建てようとする、かつてない帝国主義侵略戦争である。基軸帝国主義であり、唯一の超大国である米帝が、自ら世界秩序を打ち壊す世界戦争路線を採り、イラク侵略戦争を突破口に発動しようとしている。米帝ブッシュは、大恐慌情勢の深刻化の中で、自国が延命するためには世界を焼け野原にしてもいいとする路線を突っ走っているのだ。

 米帝と共同・競合してイラク侵略戦争に参戦しようとしている日帝・小泉は、一方で北朝鮮侵略戦争のための有事立法を進め、その侵略外交の一環として北朝鮮を訪問した。日朝首脳会談後の拉致問題を使った排外主義の嵐は恐るべきものである。北朝鮮スターリン主義・金正日政権は、世界革命、朝鮮人民の南北分断打破・革命的統一の闘い、日朝人民の連帯に敵対している点で断罪されなければならない。だが、日帝があおっている北朝鮮非難は、自らの植民地支配責任を覆い隠し、開き直り、新たな侵略戦争に突入するための排外主義的扇動だ。日帝が戦前の36年間の植民地支配で行った朝鮮人民に対する国家犯罪に対して謝罪も賠償も行っていないこと、戦後も一貫して北朝鮮敵視政策をとり続けてきたことが、何よりも問題なのだ。

 このような米日帝のイラク侵略戦争、日帝の有事立法攻撃と北朝鮮への侵略外交に対して、労働者人民の全力の対決が求められている時、連合は、9月12日、「政策課題をめぐる他団体との共闘について」と題する通達を構成組織に対して出した。これは有事立法に反対するナショナルセンターの枠組みを超えた共闘として、陸海空港湾労組20団体が6・16代々木公園に6万人の闘いを実現したことに対して打ち出されたものだ。5・16連合見解で、「緊急事態をすみやかに排除」するための「法整備は必要」として有事法制を完全に認めた連合は、その傘下の労働組合、労働者が続々とそれを打ち破って決起していることに追い詰められ、より露骨な攻撃に出てきているのだ。逆にこのことは、闘いの広がりをがっちりと確信させるものだ。

 11月国労大会決戦の真っただ中で日帝国家権力は、国労大会で代議員の説得活動を行った国労闘争団員を含む5人の国労組合員と3人の支援を、「暴力行為等処罰に関する法律」を適用して逮捕した。4党合意路線が破産し、これを推進したチャレンジ、反動革同一派を放逐して闘う国労を再生する気運が高まっている中で、日帝権力が直接介入して国労破壊を進める暴挙に出てきたものである。国労大会の代議員選挙の告示日の10月7日にこの攻撃が加えられたことに敵の狙いは明白である。労働運動弾圧としてかつてない踏み込みである。逆に言うと、これは、4党合意を粉砕して、国鉄労働運動の原点に立ち返って闘うことの正義性と勝利性がはっきりしてきたこと、それに対する敵の階級的憎悪の大きさを示しているといえる。戦争と大失業の時代の到来の中で、国鉄労働運動における攻防はますます重要になっている。(た)

 

 

翻訳資料

 02年米国防報告(上)

 02年8月15日 米国防省

 村上和幸訳 

【解説】

 この国防報告では、「国防長官のメッセージ」が総論にあたる。そこでまず、9・11後のアフガニスタン戦争突入で、「テロリズムの脅威と闘う柔軟な連合」を形成したという。「柔軟な連合」とは、長期的な同盟関係の有効性が低下し、不安定な合従連衡によるしかないということだ。そして、アフガニスタン侵略戦争が世界的な「対テロ戦争」の開始にすぎず、またその世界的「対テロ戦争」さえ超える軍事課題(=地域的・世界的大国との大戦争)をも構えていることが述べられている。
 このように世界大的戦争に突進しているからこそ、今の戦争を戦うだけでなく、「部隊を変革しつつ戦争に勝利する」ことが強調される。そこでは、「奇襲」が中心概念にされている。それによって、どれほど米帝が比類のない圧倒的軍事力を持っていようと、際限なく軍拡し、戦争を際限なく拡大する仕組みが作られている。また、米帝自身が奇襲的に先制攻撃していく論法になっている。
 そして、01年の国防省の成果として、新防衛戦略の採用、2つの大規模戦域戦争を米軍の戦力基準にすることの廃止、ABM条約破棄等をあげている。
 戦力の変革の面では、9・11を受けて米本土の防衛力強化を主張するとともに、遠隔地に敵の抵抗を押し切って強行突入する力の強化、敵軍事力が制圧する地域をどんな小さなものでも許さないこと、情報システム、監視・追跡・迅速交戦システムの開発によって世界的な圧倒的支配力を高めることなどがうたわれている。
 注目すべきことは、人的側面の拡充にウェートを置いていることだ。ベトナム侵略戦争の敗北による米軍と米国社会への深刻な打撃のため、以来、米帝は大規模地上戦を展開できなかったが、その現状をイラク侵略戦争を突破口にして変えようとしている。(第3章の「米国は何ものもあらかじめ排除しない――それには地上軍の使用も含まれる」という表現からも、これまでの大地上戦の困難性と、その突破への米帝の意志がわかる)
 第1章は、QDR第1章の構成とほぼ同じだ。初めの4つの節は、一文あるいは段落丸ごと引き写しているところが多い。ただし、重大な語句が差し替えられている。たとえば、QDRでは「CBRNE〔強化高性能爆薬〕技術の急速な拡散で、将来のテロリストの攻撃にこの兵器が使われる」などとCBRNE兵器を焦点にしていたが、国防報告では、「テロリストはNBC技術の使用を企てることは、ほぼ疑いない」などとNBC、特に核兵器を脅威の焦点にしている。米帝自身が核先制攻撃するために、それに合わせた「脅威」に作り変えているのだ。ブッシュ・ドクトリンで「抑止」「封じ込め」から「先制攻撃」へと明示に戦略を変更したことと合わせると、このCBRNEからNBCへの差し替えは重大だ。「テロリストの核・悪の枢軸の核の脅威」を叫びつつ、米帝が先制核攻撃を行う宣言に等しい。
 第3章の終わりの所では、「テロリズムを唯一の敵とするのは誤り」「大きな地域大国が通常手段で挑戦する(脅威)」という。
 米帝は中国との戦争を構えている。アフガニスタン侵略戦争も、エネルギー資源(中東・中央アジアへのアクセス)独占の目的に加えて、広大な中国を西からも狙うための基地の確保の目的がある。QDRで「敵の領土の奥深くの固定目標・移動目標も精密に攻撃できる非核戦力」「敵の攻撃能力を敵領土の奧深くにわたって排除」などと敵領土の「深さ」を乗り越える必要性を主張している所は、今回も繰り返されている。「変革」は、具体的に中国への侵略戦争のための米軍変革として論じられているのだ。
 以上のように、国防報告は全世界を戦争にたたき込む戦略だ。実際米帝は、アフガニスタンに続き、イラク、北朝鮮・中国侵略戦争へと世界戦争の過程を開始している。
 この凶暴化は、米帝の解決不能な危機に原因がある。29年恐慌を超える世界大恐慌過程に入っている経済危機の面でも、世界支配の破綻の面でも、国内の労働者支配の破綻の面でも米帝危機は堤防決壊寸前だ。ここに米日帝の争闘戦激化がある。この争闘戦こそ、米戦略を貫いているテーマなのだ。
【〔 〕内は訳者による。訳文をかなり削除して掲載した。目次で文脈を補いつつ読んで欲しい】

 目次

国防長官のメッセージ
第1篇 国防長官の年次報告

A 防衛の新アプローチ創成
1第1章 安全保障の再アセスメント
 世界の中のアメリカの役割
 米国の利益と目的
 安全保障環境の変化
 現在の安全保障の趨勢
 カギになる軍事技術の趨勢
第2章 新たな戦略針路を描く
 防衛政策のゴール(略)
 戦略の諸原則
 リスクの管理の新たな枠組み
第3章 テロとの戦争を戦う
 テロリズムとの戦争の開始
 初めの交戦――アフガニスタン解放し、テロリストの聖域奪う
 初期の教訓 〔以上本号〕

B 戦力マネージメントのリスクを減らす
第4章 人員と即応性への投資
 人力と人員
 民間人材戦略
 予備役構成人員の民間の経験を活用する
 戦士との新たな契約
 即応性と訓練
  ―即応性
  ―部隊の訓練
 保健問題
  ―部隊の健康保護
  ―予備役の保健
  ―TRICARE

C 作戦上のリスクを減らす
第5章 新たな不確実性の時代のための部隊の選択的近代化と規模決定
 戦力立案概念と任務
 米国の防衛
 ―前方抑止
 ―大規模戦闘作戦
 ―比較的小規模な有事
 ―現有部隊
 戦力の諸要素
 ―地上部隊
 ―航空部隊
 ―海軍部隊
 ―機動部隊
 ―特殊作戦部隊
 全戦力の中の予備役構成部隊

D 将来の挑戦のリスクを減
第6章 戦力の変革
 変革の加速
 6作戦目標に変革作業を集中
 ―作戦の決定的基盤を守り、核・生物・化学兵器を撃破
 ―アクセス妨害・地域閉め出し環境に戦力を投入し、維持
 ―敵の聖域を許さない
 ―情報技術を活用する
 ―情報システムの確保と情報作戦の遂行
 ―宇宙能力の強化
 変革の柱
 実験と作戦の新概念
 21世紀の挑戦のための部隊装備
 強力な科学・技術及び科学・技術の調達
第7章 戦略部隊の適合化
 新たな3本柱
 新3本柱の諸要素
 新3本柱を作り出す
 戦略部隊削減への新たなアプローチの採用
第8章 宇宙、情報及び諜報への投資
 宇宙、情報及び諜報の目標
 宇宙システム
 グローバル・ネットワーク
 諜報計画
 宇宙、情報、諜報システムをさらなる堅固化と安全化

E 機構的なリスクを減らす
第9章 会計責任と効率化によって有効性を高める
 ビジネス・プロセスの近代化
 調達、技術及び兵站マネージメントの改善
 卓越した調達及び技術の達成
 新たな調達の針路を描く
 卓越した兵站の達成
 国防省の設備・施設の規模決定と近代化
 インフラの再形成――施設効率化計画
 施設の維持、修復及び近代化
 施設の戦略プラン
 軍住宅の質の改善
 防衛産業基盤の振興

第2篇 各軍長官報告〔略〕

 国防長官のメッセージ

 9月11日、テロリストが米国の自由、繁栄、軍事力のシンボルを攻撃した。彼らは、数千の罪なき人々、小さな子、母、父、多くの民族と宗教の人々に暴力を加えた。1月もたたず米国は応戦した。考えを同じくする諸国は、米国と共に国際安全保障に対するテロリズムの脅威と闘う柔軟な連合を形成した。軍は中央・南アジアで前方展開態勢をとった。米国はアフガニスタンにおける勝利の諸条件をととのえ、反タリバンのアフガン勢力と地上で協力するために部隊を送り込み、タリバンとアルカイダのアフガニスタンにおける拠点に壊滅的な軍事攻撃をかけた。
 しかし、さらに大きな課題が米軍を待ちかまえている。米軍の今日までの行動は、テロリズムに対する長く、危険で、世界的な戦争の始まりにすぎない。そして米軍がテロリズムとの戦争を戦っている間にも、他の諸課題が地平線に現れている。

 新たな至上命令――部隊を変革しつつ戦争に勝利する

 9月11日の攻撃は、米国が新たな、危険な時代の中にいることを示した。米国は歴史的に島国的位置にあったが、それは新たな攻撃されやすい時代に道を譲った。現在と将来の敵は、米国と米軍を新規な奇襲的方法で攻撃することを狙ってくるであろう。その結果、米国は新たな至上命令に直面している。すなわち、テロリズムに対する現在の戦争に勝利しかつ、前世紀の紛争、そして現在の紛争とさえ大きく異なる将来の戦争への準備を現在行うことだ。
 冷戦期には、米国は比較的安定的で予測可能な脅威に直面していた。21世紀の挑戦は予測可能性がはるかに低い。テロリストが民間機をハイジャックしてミサイル化し、国防省と世界貿易センターを攻撃すると誰が数カ月前に想像しただろうか。米国が再び新たな敵の予期できない方法によって奇襲されることは不可避だ。敵が射程とパワーを増した兵器へのアクセスを得るにつれ、将来の奇襲攻撃は9月11日よりはるかに致死的になりうる。このように、奇襲と不確実性が、知られざる、見えざる、予期せざるものから今世紀国防省が国を守るために直面する課題を規定しているのだ。

 新たな針路を描く――最初の年

 9月11日よりずっと前から、国防省の文民及び軍人のリーダーは、敵の抑止、撃破のための新たなアプローチを決定するプロセスにあった。幹部は、4年毎の防衛見直し〔QDR〕によって、生起しつつつある安全保障環境を広範に精査し、新たな防衛アプローチが必要だという結論に達していた。
 このようなアプローチを作り出すことにより、多くのことが達成された。昨年、国防省は、
▽新たな防衛戦略を採用し、
▽十年来の大規模戦域戦争概念による米軍部隊の規模の決定を、今世紀にもっと適合した、新たなアプローチに替え、
▽ABM条約の制約から自由に、ミサイル防衛研究・実験プログラムを再組織、再活性化し、
▽本土防衛の強化及び変革の加速のために、新たな統一部隊プランを作り出し、
▽核兵器の数を削減しつつわが国の安全保障を高める核態勢見直し〔NPR〕によって、戦略抑止の新たなアプローチを採用し、
▽諸リスクのバランスをとる新たなアプローチを採用した。

 変革の加速

 この新たな防衛アプローチの心臓部に変革ということがある。国防省は、これらを6つの作戦目標にまとめた。
▽とりわけ、作戦の決定的基盤(もっとも重要なものは米国本土)を守り、大量破壊兵器とその運搬手段を撃破し、
▽遠隔地のアクセス妨害・地域閉め出し環境に戦力を投入し、維持し、
▽継続的な監視、追跡、迅速交戦の能力の開発によって、敵の聖域を許さず、
▽情報技術及び革新的ネットワーク中心概念を活用し、統合部隊を結合し、
▽情報システムを攻撃から守り、
▽妨害を受けない宇宙へのアクセスを維持し、敵の攻撃から米国の宇宙能力を守ること。
 これら6つのゴールは、米軍変革の作業の作戦的焦点となっている。9月11日とアフガニスタン戦役での経験は、これらの方向への米国の防衛態勢の移行の重要性を改めて確証している。国防省はこれらのゴールに達するため、戦力変革局を設置した。また、国防省の調達システムだけでなく、これらの投資の決定を進める軍の文化と組織の変革も追求している。
 03年度予算で国防省は変革の道標をうち立てた。次の10年にわたって部隊の一部が変革される。それは今後の変革の前衛、シグナルとなる。地上部隊は、さらに軽快、致死的、高度に機動的になる。従来の港湾や航空基地からはるかに離れて戦力投入でき、長距離精密攻撃システムとネットワークで結ばれるようになる。海上・水陸両用部隊は、アクセス妨害・地域閉め出しの脅威を克服し、敵の沿岸付近で作戦し、内陸深くに戦力投入できるようになる。航空宇宙部隊は広大な地域にわたって敵の移動標的の所在を発見、追跡し、地上・海上部隊と連係して警告なしで長射程で攻撃できるようになる。この統合戦力は、高度に複雑で分散した作戦を長い距離を越え、そして宇宙で遂行するため、ネットワークで結ばれる。

 リスク管理

 国防省は、さまざまに異なった種類のリスクを管理する新たなアプローチなしには、新防衛戦略のゴールを達成できない。以前の脅威ベースのアプローチの優先順位は、2つの大規模戦域戦争という概念に関係した近い将来の作戦リスクに圧倒的に与えられていた。これは、他の決定的な領域への投資をクラウディングアウト〔押し出し〕する効果を持っていた。90年代、人員・近代化装備・防衛インフラ維持への国防省の投資は過少だった。21世紀の軍を作り出すにあたって、防衛プログラムにはさまざまなリスクのバランスに目を向けた投資が必要なのだ。
 この報告書において初めて、新たなリスクの枠組みの中で国防省のプログラムが論述される。それは、次の4領域のリスクを定義しており、国防省のプログラムはその一つひとつに対処する。
▽部隊管理リスクは、多くの作戦任務を遂行しつつ、十分な数の質の高い人員を徴募し、引き留め、訓練し、装備して、部隊の即応性を維持する力に影響する諸問題から生まれる。
▽作戦リスクは、近々の紛争や他の有事における軍事目的の達成能力を形成する諸要因から生まれる。
▽将来の挑戦のリスクは、長期的な軍事挑戦を断念させあるいは撃破するのに必要な新たな作戦概念の開発と新たな能力への投資の力に影響する諸問題から発生する。
▽機構的リスクは、資源の効率使用、防衛機構の効果的運用を推進するマネージメントの慣行・プロセス・基準・コントロールに影響する諸要因から生まれる。
 この枠組みの目的は、基本的諸目的の間での資源の配分におけるトレードオフについて国防省が考えるようにすることだ。21世紀の軍を作り出すにあたっては、これらの諸領域のどれを無視することも軽率であろう。国防省は、わが国が直面するさまざまな挑戦に対して適切なバランスをとった諸能力のポートフォリオ〔異種の資産の組合せ〕を作り出すように、資産を賢明に配分し、諸プログラムを構成せねばならない。2003年度予算は、このようなバランスを確立したのだ。
 国防省の諸問題とそれがもたらしている諸リスクは、長年にわたって出来てきたもので、是正には時間がかかる。国防省が今すぐ行わねばならない仕事は、90年代の投資過少の結果である能力の侵食を止めることだ。現在の予算提案は、軍の4カテゴリーのリスクのすべてを減少させ、管理する道に立たせるための新たな投資を追求しつつも、この能力侵食を止める仕事を焦点にしているのだ。

 A 防衛の新たなアプローチの創成

 01年1月、軍の強さと活力の回復を掲げてブッシュ政権が発足した。10年に及ぶ即応力低下を受け、新政権はこの趨勢を逆転させて、軍事能力を再建し、将来の挑戦に向けた準備への投資を決定した。
 国防省は、新たな防衛アプローチという大統領の課題を受け入れた。このアプローチは、変わりつつある国際安全保障関係環境に内在する難題とチャンスを再検討し、こうした変化に対処する新防衛戦略を開発して、国とその利益をいかに守るかについて改めて考察したものだ。昨年、4年毎の防衛見直し(QDR)と核態勢見直し及び、非公式の政策見直しの諸プロセスを通じてこの戦略再評価がなされた。9月11日の攻撃は、この新たな針路を描く国防省の作業をそらせることはなかった。実際、テロリズムとの戦争の課題は、国防省の分析の多くの要素を確証したし、軍を変革しつつテロリズムとの戦争を戦うという新たな至上命令を作り出した。
 この「A」では、この2つの至上命令への国防省の回答の作業の結論を要約する。第1章は、国防省の安全保障環境の再評価における判断を示す。地政的及び軍事技術的な趨勢がより大きな不確実性、予見不能性及び奇襲の可能性を生んでいることを強調する。第2章〔本資料では省略〕は、QDRで描かれた新たな戦略針路の概観を示す。新たな針路が米国に求めていることは、世界的なプレゼンス、現在の防衛計画立案、戦力の変革、米国・同盟国・友好国と利害を守る軍の力に影響するさまざまなリスクの管理を組織するアプローチの変更だ。第3章は、テロリズムとの戦争の報告だ。紛争の第1段階から学んだ教訓のアセスメントも含まれる。

 第1章 安全保障環境 の再アセスメント

 世界の中のアメリカの役割

 米国の目標は、平和の推進、自由の維持、繁栄の鼓舞だ。米国のリーダーシップは、法の支配を尊重する国際システムの維持を前提にしてなりたっている。米国の政治・外交・経済的リーダーシップは、世界的平和・自由・繁栄に直接貢献している。米国の軍事的な強さは、共通利害への米国の揺るぎなき誓約を友好国・同盟国に確信させるもので、これらの目標の達成に不可欠だ。
 世界の中での米国の安全保障上の役割は比類がない。。それは同盟と友好関係のネットワークの基盤を提供する。全般的な安定感と信頼感を提供する。この安定感と信頼感が、世界の多くの人々の利益となる繁栄の増大にとって決定的だ。そして米国の安全保障上の役割は、米国あるいは同盟国・友好国の福利を脅かそうとする者に、彼らの強要や侵略の試みは成功しないであろうという警告になる。
 だが9月11日の事件が明らかにしたように、わが国とわが人民に対しては多くの脅威があり、それは様々な形をとっている。それらの範囲は、大規模戦争の脅威から顔のないテロの脅威にまで及ぶ。

 米国の利益と目的

 米軍の目的は、米国の国益を高め、もし抑止が出来なかった場合、それらの利益への脅威を撃破することだ。米国は、世界中に利益、責任、誓約を有する。開かれた社会を有するグローバル・パワーとして米国は、国境の向こうの趨勢、事件、影響力の作用を受ける。
 米国の安全保障と行動の自由の確保は至上の利益だ。それは米国の主権・領土的一体性と自由、米国市民の国内・国外での安全、米国の決定的インフラの防衛を含む。
 米国はまた、その国際的誓約を尊重し順守せねばならない。これには、同盟国・友好国の安全保障と福利の防衛、決定的な地域、特にヨーロッパ、北東アジア、アジア沿岸地域、中東及び南西アジアの敵対的な支配の防止、米大陸の繁栄の促進が含まれる。
 米国はまた、グローバル経済の活力と生産性、国際海域・空域・宇宙及び情報通信ラインの安全保障、カギになる市場と戦略資源へのアクセスに利益を有する。

 安全保障環境の変化

 10年前に冷戦が終わった時、まわりには米国を破壊する意志を公言する敵は見あたらなかった。市場経済の成長があり、代議制民主主義にもとづいた政府が地球中に根を張っていた。力強い米経済の拡張がかつてない繁栄を作り出していた。この有利な状況が永遠の条件だと信じさせる誘惑があった。
 9月11日の事件は、世界についての別の見方を示した。21世紀の安全保障環境は、20世紀のものと大きく異なっている。もっと複雑で危険なのだ。
 9月の事件のずっと前から、国防省幹部はQDRを通じて、不確実性への取り組みを米国の防衛計画立案の中心原理とすべきだと決めていた。90年代の国防省の計画立案は、慣れ親しんだ少数の危険を焦点にしすぎた。国防省の幹部は、米国の防衛計画立案は、奇襲が例外ではなく通常だと想定すべきだと結論した。奇襲への適応、迅速かつ決然たる適応によってこそ、21世紀の防衛計画立案は合格できるといわねばならない。

 現在の安全保障の趨勢

 米軍は武力紛争の多くの側面で優位性を有するとはいえ、この優位性を乗り越えるための能力を有するかそれを獲得しようとしており、またそのための新たな構想を形成しようとする敵による挑戦を米国は受けるであろう。米国は、利益と安全保障を脅かしかねない諸国がどれか、担い手が誰か、信頼性の高い予言はできない。しかし、米国を害する能力と機会を敵が得る趨勢については特定できる。
 地理的距離に与えられた保護の消失。9月11日の事件が示したように、米国の地理的位置は、人民、領土、インフラへの直接攻撃から免れさせるものではない。敵は、地理的距離の克服のための新たな方法を見つけていく。時とともに、巡航ミサイルや弾道ミサイルを保有する国が増えたし、今後ますます増えるであろう。しかも経済グローバル化で新たな脆弱性が生じ、敵対的な国家や主体が利用しうる米本土を攻撃する新たなチャンスが作り出されてきた。
 地域的な安全保障の動向。地域的諸大国が、米国の利益にとって決定的な諸地域の安定を脅かす能力を開発しつつある。特に、アジアは大規模な軍事競争がおこりやすい地域に徐々になりつつある。中東から北東アジアにのびる長い不安定性の弧にそって、地域的な諸大国の勃興と没落が入り混じっている。これらの国の政府のうちには、国内の急進的ないし過激な政治勢力・政治運動によって倒されかねないものがいくつかある。これらの国の多くは、巨大な軍を展開しており、またすでに大量破壊兵器の開発ないし取得の潜在力を有している。イラク、イラン、北朝鮮は長距離ミサイルで武装し、また核、生物、化学(NBC)兵器を追求あるいは調達しつつある。諸体制を分析すれば、世界的テロリスト組織を支援しつづけ、自国の人民をテロ支配しつづけていることは明らかだ。
 アジア。アジアの安定的バランスの維持は決定的で大変な仕事になるであろう。そうとうの資源的基盤を持つ軍事的対抗者がこの地域に台頭してくる可能性が存在する。東アジア沿岸は、作戦にとって特に課題がある地域だ。アジアの戦域では距離が巨大だ。米軍基地と移動途上のインフラの密度は他の決定的地域よりも低い。また米国が得たこの地域の諸施設へのアクセスの保証は、他の地域より少ない。したがって、アクセス及びインフラ協定をさらに確保し、そして戦域内からの最小限の支援で長距離にわたる持続的作戦を遂行しうるシステムの開発に重点を置く必要がある。
 中東。米国と同盟国・友好国は、中東のエネルギー資源に依存しつづけるであろう。中東では、いくつかの国が通常軍事力による挑戦を行っており、NBC兵器取得を追求している。イランは、こうした兵器を強力に追い求めている。イラクは、炭疽菌、神経ガスと核兵器の開発を10年にわたり進めてきた。両国は、弾道ミサイル能力も開発し、米国に友好的な諸国に強要を行う軍事手段を拡大し、また米軍のその地域へのアクセスを妨害している。
 ヨーロッパ。バルカンは戦争でなくても不安定なままで顕著な例外だが、ヨーロッパはおおむね平和が保たれている。中欧諸国は、政治・経済の両面でいっそう西欧に統合されはじめている。ロシアとの協力のチャンスも存在する。ロシアはNATOに対する大規模な通常戦力の脅威になっていない。ロシアは、米国といくつかの重要な安全保障上の懸念を共有している。地域的侵略者から弾道ミサイル攻撃を受けやすくなっていることや、戦略兵器が偶発的にか無許可でか発射されること、国際テロリズムのことなどについての懸念だ。しかし同時に、ロシアは米国の利益に公然・隠然と反する多くの政治目的を追求している。
 アメリカ大陸。米大陸はおおむね平和を維持しているが、危機ないし反乱が国境を越えて広がり、近隣諸国を不安定化し、米国の経済的・政治的利益をリスクにさらす危険が存在している。
 弱体なあるいは破綻した諸国の領土から発する挑戦と脅威の増大。アジア、アフリカ、米大陸の広大な諸地域の多くの国は、有能なあるいは責任ある政府が欠けているため、麻薬密売・テロリズムなどの活動を行う非国家的な主体が国境を越えて拡大するのに都合良い場所になっている。アルカイダ、ハマス、ヒズボラ、イスラム聖戦、ジャイシ・モハメッドなどのテロリスト地下組織が、こうした地域で活動している。破滅的なテロリズムの時代にあって、米国は世界の多くの地域を脅かす無政府状態を無視する余裕はない。
 いくつかの地域では、国家が社会を統治し、軍備を保全し、領土をテロリストや犯罪組織の聖域として使われることを防止する能力がないことが、安定性への脅威になっており、そのため米軍が求められている。アフガニスタンは、そうした弱体なあるいは統治されていない諸地域の米国にとっての安全保障上の諸問題の一例にすぎない。核保有国を含むいくつかの国の状況は、政府の強さからだけではなく政府の弱さからも潜在的脅威が増大することを示している。
 非国家的主体への権力と軍事能力の拡散。9月11日は、テロリスト集団が米国の領土、市民、インフラに破滅的攻撃をかける動機と力があることを示した。こうした集団は、国家の支援を受けたりその聖域や保護を有している場合が多いが、それなしで作戦できる資源と能力がある集団もある。テロリストのネットワークとその支持者は、グローバル化を利用し、NBC技術を積極的に追求している。そうした兵器を所有するアルカイダのようなテロリスト組織がそれらの使用を企てることは、ほぼ疑いない。
 紛争の源の多様化と場所の予見不能性の拡大。以上の諸趨勢が合わさり、ますます複雑で予見不能な地政的環境が生じる。近い過去の場合と違い、米国は主要に特定の地理的領域の特定の敵と対決する軍事力と計画とを開発するわけにはいかない。米国は、広い範囲の能力を持つ敵に予期せざる危機において介入する必要性に直面しうる。しかも、こうした介入は、都市的環境や他の複雑な地勢、さまざまな気候条件が大きな作戦的困難をもたらす、遠方の諸地域で発生しうる。

 カギになる軍事技術の趨勢

 軍事技術の急速な発展。進行中の軍事における革命は、軍事作戦の遂行を変化させる可能性がある。センサー、情報処理、精密誘導その他の領域の技術は急速に進んでいる。一方では、米国に敵対的な諸国が、広く入手しうる市販技術を兵器システムと軍事力に取り入れ、軍事能力を強化している。他方では、軍事における革命は、軍事技術・システム・作戦遂行のカギになる領域で米国の優越性を維持し、拡大する巨大なチャンスをもたらす可能性をもっている。軍事における革命の利用には、技術革新のみならず、作戦概念、新たな組織的適応、米軍部隊を変革するための訓練と実験も必要となる。
 核、生物、化学兵器と弾道ミサイルのいっそうの拡散。NBCの技術、材料及び専門知識の拡散は、潜在的な敵に米国と同盟国・友好国に直接に挑戦する手段を与えてきている。弾道ミサイル拡散のペースと規模は、以前の諜報の見積もりを上まわっており、この挑戦がさらに加速して増大しうることを示唆している。同様に、バイオ技術の革命とバイオ・テロは、将来のさらに進んだ、もっと高度な形態の攻撃の前兆だ。敵対的な体制とテロリスト組織は、開かれた社会の脆弱性を攻撃するためにNBC兵器の取得と使用を追求している。
 軍事的対抗の新たな領域の出現。技術の進歩によって宇宙とサイバースペースで新たな形の対抗が進められる可能性がでてきた。宇宙と情報作戦は、ネットワーク化され高度に分散化された民間商用能力と軍事能力のバックボーンになっている。米国以上に国家安全保障を宇宙に依存している国はない。しかし、米国の宇宙資産の諸構成物、地上基地・打ち上げ資産・軌道上の衛星は、入手が容易化している能力によって脅かされている。これは、宇宙の支配――宇宙利用と敵の宇宙利用の阻止――が将来の軍事的対抗の決定的な目標となる可能性を示している。同様に、軍事的・商業的な情報システムの破壊のために、多くの国が攻撃的な情報作戦を開発していく。
 誤算と奇襲の可能性の増大。これらの軍事技術的な趨勢のため、誤算と奇襲の可能性が高まっている。近年、米国は他の諸国の大量破壊兵器と弾道ミサイルの開発スピードに奇襲されてきた。将来、他の諸国が軍事における革命の利用にどの程度成功するか、潜在的なあるいは現実の敵がNBC兵器と弾道ミサイルをどの程度急速に取得するか、また宇宙とサイバースペースにおける対抗がどう進展するかを米国が正確に予測することは、ほとんど不可能であろう。

 第3章 テロとの戦争を戦う

 大統領は就任後まもなく、防衛戦略の根本的再評価を指示した。米国が世界でもっとも効果的な軍を持っている事実を疑った者は誰もいない。問題は、過去の脅威への対処には大きな有効性が実証された米国の軍事能力が、世界の変化によって出現しつつある新たな挑戦との間で危険なミスマッチになっているか否かということだ。
 国防省は、安全保障環境の変化は継続性を上まわっており、米国の戦略の根本的シフトが必要だという結論をだした。不確実性と奇襲が21世紀の安全保障環境の特徴を規定していると結論した。たしかに各々の紛争には異なった状況があり、それ自身の課題があるが、最近の事件から将来のためのいくつかの教訓を引き出すことはできる。
 不幸なことに、こうした結論は、9月11日の恐ろしい攻撃によって実証された。この国は、新しい種類の戦争に直面した。いかなる戦争計画もドクトリンも、どのように対応するかの明確な指針を与えなかった。だが、テロリズムとの戦争の第1段階において、軍の男女はアフガニスタンで決定的に勝利するために必要な創意工夫と勇気を示した。これらは、戦争の次の段階に不可欠な特性であり、また軍を長期的に危険な世界の新たな挑戦に対処するように変革するために不可欠な特性だ。

 テロリズムとの戦争の開始

 9月20日の両院合同会議での演説で大統領は、この紛争には自由とアメリカ的生活様式がかかっており、テロリズムとの戦争は短くも容易でもなく、本土戦線でも前線でも将来の攻撃と死傷者がでる危険があると説明した。
 同時に、大統領がテロリズムを阻止する根本的に新しいアプローチを明確に述べたことも重要だ。

 最初の交戦――アフガニスタンを解放し、テロリストの聖域を奪う

 10月7日、テロリストの攻撃から1月もたたず、米国はアフガニスタンにおいて「不朽の自由作戦」を開始した。これは、米国の影響力と力のあらゆる要素を使用した広範で持続的な戦役として、この国における最初の軍事行動だ。
 国防長官は、この軍事作戦の目的を次のように概括した。
▽タリバンのリーダーと支持者に、テロリストを匿うことは容認できず、代価を支払わせることを明確にし、
▽アルカイダとテロリストを匿うタリバン体制に対する将来の作戦を容易にするために諜報を取得し、
▽タリバン体制とそれが支援する外国のテロリストに反対するアフガニスタン内のグループとの関係を進め、
▽テロリストがアフガニスタンを作戦基地として自由に使用することをますます困難にし、
▽さまざまな反対勢力の前進を阻んでいるタリバンの攻撃システムを使わせないことによって、長期的に軍事バランスを変えていき、
▽タリバン体制の下で真に抑圧的な生活条件に苦しむアフガニスタン人に人道援助を提供する。
 10月の末までには、米国の重爆撃機は、マザリシャリフや他のカギになる場所の近辺のタリバン部隊の前線に連打をあびせかけていた。米軍は、地上の連合パートナーと連係し、重要都市を次々にタリバン支配から解放した。マザリシャリフが11月10日、カブール11月16日、クンドゥス11月26日、カンダハル12月7日だった。12月14日までに米海兵隊がカンダハル空港に入った。行動開始から2カ月以内に米国と連合パートナーは初めの目的を達成し、アフガニスタンにおける反テロリスト及び人道支援作戦の条件を作り出した。粗暴なタリバン体制は急速に権力から除去され、法、善政、基本的人権の回復の土台が作られた。
 アフガニスタンでの初期の成功は、新たなスタイルの戦争の直接の成果だ。特殊作戦部隊は、反タリバンのアフガニスタン人部隊と協力して地上で、アラビア海の空母やこの地域の陸上基地あるいは米本土から発進した長距離空軍力を効果的に倍加させた。同様に、組み合わせて使われた諜報諸資産は米軍にアフガニスタンと敵部隊の動きの持続的な監視を提供した。地上の特殊作戦部隊は欠くことのできない人的諜報を提供した。有人及び無人の偵察機は空をパトロールした。レーダーシステム、電気光学・赤外線カメラ、信号諜報収集システムを装備したこれらの偵察機は、米軍に共通の作戦図を作り上げ、アルカイダとタリバンの標的への攻撃を誘導した。
 タリバン体制崩壊を開始させたマザリシャリフをめぐる戦闘は、高度にネットワーク化された統合作戦の潜在力を実証した。AC―130ガンシップ、プレデター、グローバルホーク及びJSTARS〔統合監視・標的攻撃レーダーシステム〕をリンクすることによって、「不朽の自由作戦」は、作戦の早期ネットワーク中心戦闘概念がもたらす利得の高さを実証したのだ。地上の特殊作戦部隊と高性能な頭上の偵察システムが、戦場図を提供するセンサー・ネットワークとして役立ったのだ。これによって連合部隊は、先進的なレーザー誘導兵器から近代的電子機器でアップデートされた旧式のB52にいたる広い範囲のさまざまな現有の軍事諸能力を組合せることができたし、それらをもっとも初歩的な兵器システム――馬上の人間――と協調させることもできたのだ。パイロットと地上の特殊作戦部隊の通信は劇的に改善され、兵士が標的を特定してから航空機がそれを攻撃するまでが、時間単位から分単位に短縮された。
 タリバン体制崩壊の後でも、アフガニスタンでの任務は完了にほど遠い。米軍は、山岳に隠れているタリバンとアルカイダ分子を根絶する任務を継続している。そしてさらに、米国はアフガニスタンの新政府を助けていくのだ。

 初期の教訓

 タリバン政権を倒すのにかかった数カ月で、米軍の適応力の高さが証明された。非常に困難な環境の中で、米軍は出来合いの計画なしにアフガニスタンでの戦争に出かけて行った。世界を半周して、もっとも近づきがたい地形で作戦する課題に創意工夫をもって立ち向かった。
 すでに、アフガニスタンでの戦争の重要な教訓がいくつか明らかになっている。この紛争は、次の戦役のモデルではない。次の戦役は、非常に異なった状況でおこり、非常に異なることが要求されることはほぼ間違いない。このことは、将来のテロリズムとの戦争についても、またもっと一般的な作戦についてもいえることだ。しかしながら、最近の出来事から将来のことに適用しうるいくつかの教訓を引き出すことは可能だ。
 第1に、21世紀の戦争には、国力のあらゆる要素――経済、外交、金融、司法警察、諜報、及び公然・隠然の軍事作戦――の使用がますます必要となっていく。
 第2に、戦場でシームレスに通信し作戦する部隊の力が、将来の戦争の成功には決定的だ。アフガニスタンでの勝利は、地上での特殊部隊と空の海軍・空軍・海兵隊のパイロットとの「混成」チームによって勝ち取られた。特殊部隊は、ターゲットを同定し、ターゲッティング情報を通信し、相互運用性のあるデータリンクによって空爆のタイミングを調整して、敵に壊滅的な打撃を与えた。
 第3に、戦争は、その意志のある者の連合によって戦われることが最良だ。しかし、それは委員会によって戦われるべきものではない。任務が連合を決定すべきだ。連合が任務を決定してはならない。
 第4に、米国の防衛には、予防が、そして時には先制が必要となる。あらゆる脅威に対する、あらゆる場所での、あらゆる考え得る時点での防衛は不可能だ。唯一の防衛は敵に対して戦争することだ。最良の防衛とは、良い攻撃なのだ。
 第5に、米国は何ものもあらかじめ排除しない――それには地上軍の使用も含まれる。米国が、手中にあるあらゆる手段を敵の撃破のために使うこと、そして勝利に必要な犠牲は何でも払う用意があることを敵は理解すべきだ。
 第6に、テロリズムとの戦争の勝利のためには、敵に休む時間と隠れる場所を与えないよう、敵に圧力をかけつづけることが必要だ。米国は敵に息継ぎの余地や再結集の時間を許す戦略的休止を与えるべきではない。
 第7に、新しいハイテクは、古い通常型のものに全面的には取って代わらない。アフガニスタンでは、空からの精密誘導爆弾は、旧式の長靴で地上に立って爆撃機に爆弾を正確にどこに落とすべきか教えるようになるまでは、最上の有効性を達成できなかった。偵察、通信、ターゲッティングのために早期に米特殊部隊を地上に投入したことで、空からの作戦の有効性は劇的に高まった。
 第8に、米国は軍事作戦を人道支援、ラジオ放送、懸賞金等の地元住民を助け、米国の大義に彼らを結集するための努力と直接に結びつけねばならない。
 第9に、米国のリーダーは、国民に率直でなければならない。真実を彼らに語ること、そして語れない時には、語れないということを語るべきだ。米国民は、自分たちの軍隊が達成しようとしていること、そしてそのために必要なことを理解する。彼らは、この戦争が簡単なことでないことも理解する。そしてリーダーが良いことも悪いことも率直に語れる必要がある。戦争への公衆の巨大な支持は、国民と大統領の間で鍛えられた信頼の絆と共通の目的から生まれる。この絆が勝利のカギだ。
 たしかにテロリズムとの戦争におけるこの初期の経験から多くが学べるが、テロリズムが21世紀の唯一の脅威だと信じるという誤りを犯してはならない。テロリズムは致命的な非対称的な脅威だが、唯一の可能な脅威ではない。次に来る脅威はミサイルかもしれず、サイバー攻撃かもしれない。しかも非対称的脅威の台頭は、将来、大きな地域大国が米国または同盟国・友好国に対する通常手段による挑戦を追求することを排除するものではない。米国は、テロリズムとの戦争を行っている時でも、この戦争の後に来る挑戦に対して準備せねばならない。国防省は、広い範囲のリスクの間でバランスを取るべきだ。

 (つづく)