COMMUNE 2003/06/01(No328 p48)

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6月号 (2003年6月1日発行)No328号

定価 315円(本体価格300円)


〈特集〉 虐殺と破壊のイラク侵略戦争

口中東支配再編のための残虐な侵略戦争の実態
口戦時下の弾圧跳ねのけ爆発する国際反戦闘争

●討議資料/ 個人情報保護法(修正案と野党案)
●資料/ ブッシュ開戦演説と小泉の支持表明
●翻訳資料/ ドイツ・シュレーダー首相の政府声明
ニューズ&レビュー 南朝鮮・韓国/民主労総、、盧武鉉(ノムヒョン)政権と総力戦に立つ 室田順子 

    動労千葉72時間スト

三里塚ドキュメント(3月) 内外情勢(3月) 日誌(2月)

コミューン表紙

 軍事占領との闘い

 イラクに侵略した米英軍は、4月7日にバグダッド中心部に突入し、10日にフセイン政権は事実上崩壊、イラク侵略戦争は新しい段階に入った。米帝は、大量虐殺兵器を用いてイラク人民を大虐殺し、フセイン政権もろともイラク人民の反米帝の怒りと闘いをたたきつぶそうとしている。そして「イラクの民主化」とか「イラク解放」などを最大限演出しようとしている。しかし、いくらデマ宣伝を繰り広げても、侵略者、虐殺者が米英帝国主義であることは、イラク人民、全ムスリム人民の目には鮮明な事実だ。フセインが倒れても、イラク人民の民族解放・革命戦争はこれから本格的に始まるのだ。われわれは米英日帝のイラク軍事占領に断固反対し、イラク人民の反米英日帝の闘いと連帯して反戦総決起をかちとらなければならない。

 この戦争の階級的性格をとことんはっきりさせることが必要だ。すなわち帝国主義の侵略戦争であり虐殺戦争であること、このような戦争によってしか延命できない帝国主義という体制は、人民によって打倒されるべきこと。米帝は、反米政権としてのフセイン政権を転覆し、アラブ・中東・全世界のムスリム人民の怒りの決起を根絶して、イラクを軍事占領し再植民地化することで中東全体の新植民地主義支配体制を再編することを狙っている。ブッシュは「全中東の民主化」と称して、侵略戦争の拡大さえ叫んでいる。これらのことは、今回のイラク侵略戦争と軍事占領によって一層明らかになった。そして、米帝は、この戦争をとおして独仏などEU(欧州連合)帝国主義に対しても戦争の言葉をもって争闘戦を貫いているのである。

 日帝は、この侵略戦争が本質的に対日帝の側面(日本がアメリカに対抗してアジアに勢力圏を作ることを許さない、ということ)をもっていることを自覚しており、米帝がイラクの次は北朝鮮に対する政権転覆を図ることを知っていて、それに身構えている。だからこそ、日帝が帝国主義として延命するためには「(イラク攻撃を)理解し支持する」以外にいかなる道もなかったし、他のどの帝国主義国に比べても強力に米帝を支え、参戦してきた。そして、米帝のバグダッド制圧の報を受け、さっそく「大量破壊兵器の処理」を口実に、自衛隊の派兵を検討するなどと言いだし、イラク侵略の分け前にあずかろうとしている。日帝の北朝鮮侵略戦争に反対し、そのための有事立法強行成立の攻撃を粉砕しなければならない。

 米反戦団体のANSWER連合からリン・ニーリーさんが、3・30三里塚全国総決起集会のために来日し、連帯スピーチを行ったことは、きわめて重要な意義のあることだ。37年間の反戦と反権力の砦である三里塚と、全世界の反戦闘争の先頭に立って闘うANSWERとが、しっかりと手を握ったのだ。そして、03春闘の中で最大の闘いとなった動労千葉の3月の4日間ストライキの貫徹は、米欧の労働者の大きな反響を呼んだ。全学連派遣団の1・18ワシントン行動への合流から始まった国際連帯闘争は、ここまで情勢を切り開いた。これこそ、労働者の国際連帯で帝国主義を打倒するというマルクス主義、レーニン主義の文字どおりの貫徹である。ニーリーさんは「日米の労働者と農民の団結万歳」「敵はバグダッドにではなく、ワシントンにいる」と叫んだ。この素晴らしい国際連帯闘争をさらに発展させよう。(た)

 

 

翻訳資料

 翻訳資料-1

  ブッシュ開戦演説と小泉の支持表明

【解説】

 3月16日の米・英・スペイン首脳会談後の会見の冒頭でブッシュは重大なことを言っている。
 「我々は、明日(17日)が世界にとって決定的な日となるとの結論に達した」
 米帝(プラス2)が世界にとって決定的な問題を決めるというわけである。戦略的地域である中東の制圧を通して、全世界を再編する狙いの公然たる宣言である。
 「イラクの天然資源は、イラク国民の利益のために使われることを約束する」(同)
 リンカーン演説(「人民の人民による人民のための政府」)以来、一国民の民主的権利に言及する際は、「の」「による」「のため」をセットにするのが常識とされてきた。あえて、「のために」だけ用いたのは、「の」=資源がイラク人民のものであること、「による」=資源利用の判断・行動主体がイラク人民であることの否定のためである。米帝が資源を独占するということである。
 それは、そこに利権を築いてきたフランス、ロシアなどの放逐をも意味する。特に、単一通貨導入、東方拡大とブロック化を激しく進めているEUに打撃を与え、分断することが狙いである。
 ここまで露骨に攻撃しているのは、米帝が破綻し、残された時間がもう無いからである。9・11が示した米帝世界支配の破綻は、安保理での多数派工作過程でもさらに暴露された。かつて「合衆国の裏庭」と言われ、米帝の圧倒的軍事力・経済力で従属させてきた中南米諸国政府さえ、今や米帝に票を提供しない。昨年4月、世界第5位の産油国ベネズエラでの米帝主導のクーデターは見事に敗北した。そして02年、米国の経常収支赤字が5000億jを超え、対外累積債務も2兆jと膨れ上がっている。世界大恐慌の爆発、米経済の大破産はすぐそこだ。
 断末魔の帝国主義を全世界の労働者人民、被抑圧民族の団結で打ち倒そう。

……………………………………

 米英西3首脳の記者発表

 3月16日の記者会見(要旨)

 ブッシュ米大統領 我々は、明日(17日)が世界にとって決定的な日となるとの結論に達した。世界の国々は、平和と安全保障に対する決意を、フセイン・イラク大統領の即時かつ無条件の武装解除を支持することによって示すべきだ。
 イラクの独裁者は自由主義諸国の脅威だ。15年前のまさにこの日、フセイン大統領はイラクの村を化学兵器で攻撃した。我々は彼の犯罪が世界に及ぶことを許さない。
 我々は人道援助を行い、経済制裁を解除し、イラク経済の回復に向け長期にわたって取り組む。イラクの天然資源は、イラク国民の利益のために使われることを約束する。我々は、(イラク攻撃終了後に設置される)暫定政府に対して、できるだけ早くイラク国民を国家再建に参画させるように求めてゆく。
 我々は、すべての民族、宗教集団を尊重する民主的な統一イラクを目標とする。このため、国連や連合諸国を含む国際社会と協力しなければならない。
 もし、軍事力が必要とされるなら、我々は、自由なイラク建設に向けて、イラク国民を助ける過程に広く参加を呼び掛ける新たな国連安保理決議を直ちに求める。

 アスナール・スペイン首相
 我々は宣戦布告をするためにアゾレス諸島に来たのではない。だが、これが国連決議1441に表明された最後の機会だ。
 ブレア英首相 イラクが国連決議を遵守しない場合、武力行使を正当化する最後通告がなければ、(国連での)協議続行は、単なる時間の引き延ばしとなる。
 安保理でイラクが安保理決議1441を完全に履行していると言える者は誰一人としていない。科学者の聴取はイラク国外では一人として行われておらず、炭疽(たんそ)菌1万リットルの生産・廃棄に関する説明もない。
 我々は最終段階にいる。今こそ決断のときだ。
欧州と米国は協力しなければならないと信じる。そうでなければ悲劇となる。

 ブッシュの最後通告演説

 3月17日(訳は在日米大使館)

 親愛なる米国民の皆さん。イラク情勢は今、最後の決断の時を迎えた。10年以上にわたり、米国とその他の国々は、武力に訴えることなくイラクを武装解除するため、忍耐強く崇高な取り組みを続けてきた。イラクは1991年、湾岸戦争を終結させるための条件として、全ての大量破壊兵器を開示し破棄することを確約した。
 以来、国際社会は12年にわたり外交努力を続けてきた。国連安全保障理事会は12以上の決議を採択した。また、武装解除監視のため何百人もの査察官をイラクに派遣した。しかしながら、われわれの信頼は裏切られた。
 イラクは外交を時間稼ぎの策略に利用し、事を有利に運ぼうとしてきた。完全武装解除を求める安保理決議を一貫して無視し続けた。長年にわたり、国連査察団はイラク政府職員による脅迫を受け、盗聴され、また組織的に欺かれてきた。イラクを平和的に武装解除する試みは幾度となく失敗に終わった。なぜなら、われわれが相手にしているのは平和を愛する人間ではないからである。
 米国やその他の国が収集した情報によると、イラクが最も破壊的な武器のいくつかを保有し隠ぺいし続けていることは疑いがない。フセイン政権は、イラクの近隣諸国とイラク国民に対し、それらの武器をすでに使用してきた。
 イラクはこれまで、中東において無謀な侵略を行ってきた。また、米国や友好国に対し深い憎悪の念を抱いている。そして、アルカイダの工作員を含むテロリストを支援し、訓練し、かくまってきた。
 危機は明白である。テロリストたちは、イラクの支援により手に入れた生物・化学兵器や核兵器を使用することにより、米国その他の国々の数千あるいは数十万の罪の無い市民を殺害するという野望を遂げる可能性がある。
 米国もその他の国も、そうした危機を招く、あるいはそれに値するいかなる行為も行っていない。しかし、われわれはそのような残虐行為を阻止するためにあらゆる手段を講じる。悲劇の発生にただ手をこまねいていることなく、安全の確保を目指す。恐怖の日がやってくる前に、あるいは手遅れになる前に、危険は取り除かれなければならない。
 米国は、自国の安全を確保するために武力を行使する権利を有している。そしてその責務は、最高指揮官としての任務を全うすると宣誓した私にある。
 米国が直面する危機を認識し、連邦議会は昨年、圧倒的多数でイラクに対する武力行使を承認した。米国は国連と協力し、この危機に対処しようとしてきた。それは、われわれがこの事態を平和的手段で解決することを望んでいたためである。米国は、国連の使命を信じている。第2次大戦後に国連が創設された目的のひとつは、専制的な独裁者が罪の無い人々に危害を加えたり、平和を脅かす前に、そうした行為を積極的かつ早期に阻止するためである。
 安保理はイラクに関し、1990年代初期には行動を起こした。現在も効力を持つ国連決議678および687は、米国と同盟国がイラクの大量破壊兵器を廃棄するため武力を行使することを承認している。これは、権限の問題ではなく意志の問題である。
 昨年9月、私は国連総会で、各国に対し、この危機を阻止するため結束するよう呼びかけた。11月8日に安保理事会は、イラクの義務不履行を認め、また、イラクが完全かつ即時に武装解除しない場合は深刻な結果に直面することになるとの決議1441を全会一致で可決した。
 今日、イラクが武装解除したと主張できる国はひとつも無い。フセインが権力の座にとどまる限り、イラクの武装解除は実現できないであろう。過去4か月半、米国と同盟国は、安保理の枠組みの中で、長年にわたる国連の要求をイラクに遂行させるため努力してきた。しかし、安保理の常任理事国のいくつかは、イラクの武装解除を強制するいかなる決議案にも拒否権を発動すると公式に表明してきた。それらの国々は、われわれと危機についての認識を共有してはいるが、それに対峙する決意を有してはいない。しかし、多くの国は平和に対する脅威に立ち向かう強い決意を持っている。国際社会の正当な要求を達成するための広範な連合が形成されつつある。国連安保理はその責務を果たしていない。だからこそ米国が立ち上がるのである。
 ここ数日間、いくつかの中東諸国が独自の努力を続けてきた。かれらは、イラクの独裁者に対し、平和的な武装解除のため国外退去するよう、公式・非公式に求めた。しかし、フセインはこれまでのところそれを拒絶している。欺まんと残虐の数十年は終わった。フセインとその息子たちは、48時間以内にイラクを去らねばならない。彼らがそれを拒絶するなら、米国は自らが選択した時期に軍事行動を開始する。ジャーナリストや査察官を含む全ての外国人は、安全のため直ちにイラクを出国すべきである。
 今夜、多くのイラク人が、ラジオを通じ私の演説を聞くであろう。私は彼らに伝えたい。仮に米国が軍事行動を開始しなければならないとしても、標的はあなたたちではなくイラクを支配する無法者たちである。われわれは彼らを権力の座から追放するとともに、あなたたちが必要とする食糧と医薬品を提供する。われわれは恐怖の構造を破壊し、イラク国民による自由で繁栄する新しいイラクの建設を支援する。自由なイラクは、近隣諸国に対する侵略戦争を行うこともなく、毒物を製造する工場もなく、反体制派の処刑もなく、拷問も虐待もない。圧制者はまもなくいなくなる。あなたたちが解放される日は近い。
 フセインは、これ以上権力の座にとどまることはできない。しかし、イラク軍は、大量破壊兵器を破壊する連合軍を平和的に受け入れることにより、名誉を持って行動し自国を守ることができる。連合軍はイラク軍に対し、攻撃や破壊を避けるためにはどのように行動すべきか明確な指示を与えるであろう。私は、イラク軍と情報関係者のすべてに訴えたい。仮に戦争が始まっても、いずれ崩壊する政府のために戦うべきでない。なぜなら、その政府はあなたたちが命を賭して戦う価値がないからである。
 イラクの軍人も民間人も、私の警告に注意深く耳を傾けるべきである。どのような紛争であっても、自らの運命を決定するのは自らの行動である。石油施設を破壊すべきではない。油田はイラク国民の富の源泉である。また、その標的がイラク国民であれ誰であれ、大量破壊兵器を使用せよとの命令に従うべきではない。戦犯は罰せられる。そして、「命令に従っただけ」との言い訳は通用しない。
 フセインが対決を選択した場合でも、米国民は、戦争回避のためにあらゆる方策が講じられてきたこと、そしてその戦争に勝利するためにあらゆる手段がこれからも取られることを理解している。米国民はまた、戦争の代償も理解している。なぜなら、われわれは過去にもそうして代償を支払ってきたからである。戦争に確実なものはない。唯一確かなのは、それが犠牲を伴うということである。
 戦争による被害を抑え、期間を短縮するための唯一の方法は、最大限の戦力を集中することであり、われわれはその準備ができている。フセインが権力の座にしがみつくことがあれば、彼は最後までわれわれにとって危険な敵であり続ける。フセインとテロリストたちが自暴自棄になれば、米国民や友好国の人々に対しテロ行為を仕掛ける恐れがある。テロが必ず起きるとはいえないが、その可能性はある。この事実こそ、われわれが脅迫にさらされたまま生きてはいけない理由である。米国と国際社会に対するテロリストの脅威は、フセインが武装解除されるまで軽減されることはない。
 米国政府は、そうした危険に対し警戒を強化している。イラクでの戦いに勝利するための準備を整えると同時に、われわれは米国本土の防衛のためにさらなる措置を講じている。最近、政府は、イラクの情報機関との関連を持つ幾人かの人物を国外追放した。この他にも、空港警備の強化や沿岸警備隊による主要な港湾の監視強化を指示した。国土安全保障省は、各州の知事と緊密に協力し、全米の主要施設での武装警備の強化を進めている。
 敵が米国を攻撃した場合、パニックを起こすことによりわれわれの注意をそらせ、恐怖をかきたてることにより士気をくじこうとするであろう。しかし、かれらの試みは失敗する。彼らのいかなる行為も米国の進む道を阻み、その意志を揺るがすことはできない。米国民は平和を愛する。しかし、われわれはか弱い国民ではない。われわれは凶暴な人物や殺人者の脅迫に屈することはない。仮に敵が攻撃してくることがあれば、彼らと彼らを支援する全ての者は、悲惨な結果に直面することになる。
 われわれは行動する。なぜなら、何もしないリスクの方がはるかに大きいからである。1年後あるいは5年後、イラクがすべての自由国家に危害を加える力は数倍になっているであろう。さらに危険になったフセインと彼につながるテロリストたちは、自らが最も高い破壊力を持つ時期を選び破滅的な攻撃をしかけてくるかもしれない。米国は、テロの脅威がわれわれの上空や都市を突然襲う前に、今ここで脅威に立ち向かうことを選択する。
 平和の大義のためには、すべての自由国家が、新たなそして否定できない現実を認識することが必要である。20世紀には、虐殺や世界大戦を招いた残忍な独裁者との宥和をはかった国もあった。邪悪な人物が生物・化学兵器あるいは核兵器による恐怖を作り出している今世紀には、宥和政策は、地球上にこれまで起きたことのない破滅をもたらすおそれがある。
 テロリストとテロ国家は、自らの脅威を公式な声明により公正な形で通告することはしない。したがって、そのような敵に攻撃されてはじめて対抗措置を取るのは、自衛ではなく自殺行為である。国際社会の安全確保には、フセインを即時武装解除することが求められる。
 米国は国際社会の公正な要求を実行に移すともに、わが国の持つ深い責任も全うする。われわれは、イラク国民には、フセインとは異なり、人間としての自由を持つ権利と能力があると信じている。独裁者がいなくなれば、彼らは活力ある、平和で自治能力を持つ国家として、すべての中東諸国に模範を示すことができる。
 米国は他国と協力し、中東地域で自由と平和を促進していく。われわれの目標は一夜にして達成されることはないが、いずれ実現できる。人間の自由が持つ力と魅力は、すべての人やすべての国により享受される。自由の最も偉大な力とは、憎しみと暴力に打ち勝ち、人類に与えられた創造的な能力を平和の構築に傾けることである。
 これが、われわれが選択する未来である。自由国家は、一致して暴力に対抗し国民を守る義務がある。今夜、米国と同盟国は、これまでと同様に、その責務を受け入れる。

 ブッシュの開戦演説

 3月19日(訳は在日米大使館)

 親愛なる米国民の皆さん。現在、米国と連合国の軍隊は、イラクを武装解除し、イラク国民を解放し、深刻な脅威から世界を守るための最初の軍事行動を行っている。
 連合軍は私の命令を受け、サダム・フセインの戦闘能力を奪うため、軍事的に重要な一定の目標に対し攻撃を開始した。これは、今後展開される、広範で統合された軍事作戦の始まりである。35を超える国々が、極めて重要な支援を提供している。それらの支援には、海・空軍基地の使用許可、情報と兵站(へいたん)の提供、戦闘部隊の派遣が含まれる。この連合に参加するすべての国が、共同の軍事行動に参加する責務と名誉を分かち合うという選択をした。
 現在、中東に駐留する米軍兵士諸君。混乱する世界の平和と圧制下にある人々の希望は、諸君の肩にかかっている。われわれは、諸君に全幅の信頼を置いている。
 諸君が対峙している敵は、諸君の能力と勇気を知ることになるだろう。諸君が解放する人々は、米軍の崇高で寛大な精神の目撃者となるだろう。この戦いで、米国は戦争の慣行も、道徳のルールも顧みない敵と対峙している。フセインは、兵士や兵器を民間人居住区に配置し、女性や子どもを含む罪のないイラク国民を、自らの軍隊の盾として利用しようとしている。これが、フセインのイラク国民に対する最後の残虐行為となる。
 米国民と世界中の人々に理解してもらいたい。連合軍は罪のない民間人の犠牲を避けるため、あらゆる努力を払うことを。カリフォルニア州と同じ広さを持ち、厳しい地形条件を有する国での軍事作戦は、予想されるよりも長く困難なものとなるかもしれない。そして、イラク国民による、自由で安定した統一国家の建設の支援には、われわれの継続した関与が求められる。
 イラクでの作戦遂行に当たり、われわれはイラク国民とその偉大な文明、そして彼らが信仰する宗教に対し畏敬の念を忘れることはない。われわれは、脅威を取り除き、国家の運営をイラク国民の手に取り戻すことを支援する以外、いかなる野望も持ち合わせてはいない。
 わたしは、米軍兵士の家族が彼らの一日も早い無事の帰還を願い、祈りを捧げていることを知っている。多くの米国民が、あなたたちとともに、皆さんの愛する人たちの無事を、そして罪のない人たちが守られることを祈っている。米国民は、あなたたちに感謝と尊敬の念を抱いている。兵士たちは任務が終了しだい、直ちに帰国することを覚えておいていただきたい。
 米国は、この戦いに進んで入るわけではない。しかし、われわれの目的は明白である。米国、同盟国そして友好国の国民は、大量破壊兵器で平和を脅かす無法国家の言いなりになることはない。われわれは今、陸・海・空軍、沿岸警備隊、そして海兵隊の力により、そうした脅威に立ち向かう。そうすれば、後になって消防士や警察官、医師などが米国の都市でそうした脅威に対処する必要がなくなる。
 戦端が開かれた今、この戦いの長期化を防ぐ唯一の方法は決定的な軍事力を投入することである。私はここで、この作戦は中途半端なものではなく、勝利以外の結果を受け入れることはないことを明確にしておきたい。
 親愛なる国民の皆さん。米国と国際社会に向けられた危機は克服される。この危険な時はやがて過ぎ去り、われわれは、平和の構築に取り組むことになる。われわれは、自らの自由を守り、また自由を他者にももたらす。そして、勝利する。
 米国と、米国を守るすべての兵士に神のご加護がありますように。
 

 小泉首相談話

 3月20日 閣議決定

 我が国は、今日の国際社会において、大量破壊兵器の拡散を防止することが我が国を含む国際社会全体の平和と安全にとって極めて重要であると考えます。我が国を取り巻くアジア地域も、大量破壊兵器の拡散問題と決して無縁ではありません。
 我が国は、これまで一貫して、イラクの大量破壊兵器の問題については、国際協調の下に平和的解決を目指し、独自の外交努力を続けてまいりました。しかしながら、イラクは、12年間にわたり、17本に及ぶ国連安保理決議に違反し続けてきました。イラクは、国際社会が与えた平和的解決の機会を一切活かそうとせず、最後の最後まで国際社会の真摯な努力に応えようとしませんでした。
 このような認識の下で、我が国は、我が国自身の国益を踏まえ、かつ国際社会の責任ある一員として、我が国の同盟国である米国をはじめとする国々によるこの度のイラクに対する武力行使を支持します。
 我が国は、戦闘が一刻も早く、しかも国際社会に対するイラクの脅威を取り除く形で、終結することを心から望んでいます。イラクが一日も早く再建され、人々が自由で豊かな社会の中で暮らして行けるよう、国際社会がイラクの復旧・復興のための支援を行っていくことが重要だと考えます。我が国は、イラク及びその周辺地域の平和と安定の回復が我が国にとっても重要であるとの認識に立って、積極的な対応を行ってまいります。
 政府としては、必要な施策を効果的かつ迅速に遂行し対応に万全を期すことができるよう、的確な情勢把握と国民に対する十分な情報提供に努めます。
1  我が国は、以上のような考え方に立って、緊急に対応すべきものとして、次に掲げる対処方針を決定いたしました。
 第一に、イラクとその周辺における邦人の安全確保のために万全の措置を講じてまいります。
 第二に、国内重要施設、在日米軍施設、各国公館の警戒警備等、国内における警戒態勢の強化・徹底を図ります。
 第三に、我が国関係船舶の航行の安全を確保するため所要の措置を講じてまいります。
 第四に、原油の安定供給をはじめ、世界及び我が国の経済システムに混乱が生じないよう、関係国と協調し、状況の変化に対応して適切な措置を講じてまいります。
 第五に、被災民の発生に応じ、国際機関及びNGOを通じた支援、並びに周辺国に対する国際平和協力法に基づく自衛隊機等による人道物資の輸送等の支援を含め、緊急人道支援を行います。
2  我が国は、今後の事態の推移を見守りつつ、次に掲げる措置を検討することを決定いたしました。
 第一に、今回の武力行使によって経済的影響を受けるイラク周辺地域に対して、影響を緩和するための支援を行います。
 第二に、イラクにおける大量破壊兵器等の処理、海上における遺棄機雷の処理、復旧・復興支援や人道支援等のための所要の措置を講じてまいります。
3  併せて、我が国は、アフガニスタン等におけるテロとの闘いを継続する諸外国の軍隊等に対し、テロ対策特措法に基づく支援を継続・強化します。
 国民の皆様のご理解とご協力を切にお願いいたします。

 

翻訳資料

 翻訳資料-2

 ドイツ・シュレーダー首相の政府声明

 03年4月3日

 西坂 茂訳 

【解説】

 この翻訳資料は、イラク開戦の過程で米帝との決定的対立に踏み切ったドイツ帝国主義の今後の方向を示している。
 米帝のイラク、中東での利権の独占に対抗し、全力で割り込もうとしている。だから国連主導については「譲れない」と言っている。
 また、米帝のEU分断攻撃に対抗し、独自の軍事力を持った強力なブロックとしてEUを固めなおそうとしている。そこでは独仏関係の強化を基礎にしつつも、英帝との関係を修復し、独仏との同盟関係に再吸引していくことをに力をかけていることが注目される。
 あれだけ米帝に協力した英帝にさえ、米帝は、ほとんど分け前を与えず、超利己的に利権を独占しようとしている。米帝は、極度の危機に陥っており、まったく余裕がないのである。独帝は、米英対立の勃発を見越し、合従連衡の再編を狙っているのである。

………………………………………

 ドイツ連邦政府は、平和と安全保障についての責任を次の原則に基づいて果たしていく。すなわち、われわれは、法の支配と貫徹を支持する。危機予防と協力的紛争解決による平和政策の立場に立っている。包括的安全保障のゴールを、多国間協力によって、リスクからの防御と暴力の原因との闘いによって、持続的軍縮と開発によって、そしてそれが不可欠な所では、警察的・軍事的手段によって、追求していく。そして、われわれは、国際紛争における強制力の国連への集中にかける。
 ドイツは、この原則に基づき、欧州連合において、テロに対する国際的な同盟において、アフガニスタン、そしてバルカンにおいて、責任をとってきた。
 今週の初めになってはじめて、欧州連合は、NATOのマケドニア平和部隊の「コンコルディア」作戦を引き受けた。EUがまさにマケドニアでその軍事的行動能力を示したことは、特に注目に値すると私は考える。マケドニアでは、われわれはパートナーとともに、紛争の拡大を抑え、まさに始まろうとしていた内戦の勃発の阻止に成功したのである。マケドニアの例は、戦争を阻止するためには欧州の安全保障政策に軍事的手段をも用いることの正しさを示している。われわれは、今後ともこの方針である。
 われわれは、国連安保理において強力に責任をとってきた。最後の瞬間まで、われわれは安保理多数派のメンバーとともに、すなわちフランス・ロシア・中国とともに、のみならずまたメキシコ及びチリとともに、イラク紛争を国連の枠内で平和的手段で解決するためにあらゆる努力をしてきた。われわれは、戦争に対する代替策があったということ、イラクを国際的管理下で平和的に武装解除する道があったことを確信してきたし、今も確信している。この道を最後まで進むことがなされなかったのは間違った決定であったと、ドイツ連邦政府は今も考えている。しかし、われわれは戦争を阻止できなかった。それはたしかだ。
 現在、われわれの思いと共感は、この戦争の犠牲者とその親族の側によせられている。民間犠牲者の側にも、また兵士の側にもである。われわれはみな、戦争ができるかぎり早期に終結し、犠牲者が最小限にとどまることを望んでいる。そして、独裁に打ち勝つことによって、イラク国民が平和な暮らしと自由・自決権への希望をできるかぎり早く実現できるようになることを望んでいる。
 しかし、あらゆる危機にはチャンスもある。この戦争をもたらすに至った諸動向にストップをかけることをわれわれが望むのならば、われわれの政策を貫徹するメカニズムを改善しなければならない。そのためには、とりわけ共同のヨーロッパが重要になる。われわれはヨーロッパにおいて戦争と対立を克服することができた。この経験から、世界の安全保障と協力についての長期的展望を作り出し、それを実現することが、わがヨーロッパの義務である。
 ドイツ連邦政府は、すでに早い時期から、さまざまな理由に基づいて、ドイツはこの戦争に参加しないということを明らかにしてきた。それについては、今後も変わらない。つまり、ドイツの兵士はイラクにおける、あるいはイラクに対する戦闘に参加しないということである。
 しかし、次のことも明らかである。ドイツは、同盟の義務を守っていく。現在イラクに対する戦争を遂行しているすべての国が同盟パートナーであり友好国であることを忘れるべきではないからである。したがって、われわれは、そうした諸国に対して行った約束は守っていく。それには、上空通行権やドイツ内の基地の使用権とそれの防御、トルコの防御措置が含まれる。連邦憲法裁判所は、3月25日の決定において、ドイツ軍がAWACS〔早期警戒管制機〕偵察飛行に参加することに連邦議会の承認は必要ないという連邦政府の見解を認めた。しかしながら、ドイツ連邦政府は――他のNATOとEUの同盟パートナーと同じく、トルコの北イラクへの軍事介入はトルコが戦争当事者になることだと警告を発したのであり、――こうしたことになるならばドイツはAWACS機からドイツの兵士を引き上げるという結果をもたらすであろうと警告を発したのである。トルコは、現在のところ、人道的及び純治安任務的なものを超えて北イラクに部隊を駐留させる意図はないことを繰り返し保証した。われわれは、トルコ政府の約束を疑う動機をまったくもっていない。
 われわれは、イラクにおける戦争犠牲者数を最小限にするためにあらゆることすべきだということで国際社会と一致している。そのためには、イラクに迫っている人道的大惨事を防ぐことがまっさきになされなければならない。
 ドイツ連邦政府は、国連が行っている人道支援準備を現在できるかぎり支持していく。先週、安保理は全会一致で「石油と食糧の交換」援助プログラムの再開を決議した。この合意で、今後45日間、国連事務総長がその裁量で、また現地の責任者たちと緊密で調整しつつ、この援助計画を実施することが承認された。これにはドイツも多大な協力を行う。ドイツ連邦政府は、これによって国連制裁委員会によって許可された食糧と援助物資が急速に人びとに届けられることを期待している。
 しかしこれは、戦争が引き起こした人道的緊急事態に対処するにはまったく不十分である。コフィ・アナン事務総長は、迅速に多大な援助を行うよう国連加盟国に要請している。ドイツはすでに、国連の下でイラクへの援助の追加に参加している。われわれは、人道援助のために予定されていた4000万ユーロの資金を8000万ユーロに増額した。さらに1000万ユーロを連邦経済協力開発省の資金の中から難民支援・緊急支援に拠出する。
 戦争後のイラクの将来と政治的新秩序を形成していくにあたっては、国連が中心的役割を果たさねばならない。しかし、今からイラク再建に何が可能で何が必要かについて、個々の事柄を先走って言うべきではない。というのは、「再建」とは、単に建物や油井、インフラの修理だけではないからである。社会の真の再建は、二、三の企業営業権付与のみによって行いうるものではない。したがって、資金についての責任とは別に、国際社会全体の支援を動員することが重要なのである。そして、再建過程のすべてが国連の責任の下で組織的に行われるべきことについては、譲ることができないのである。
 戦争後のイラクおよび全〔中東〕地域における公正で民主的な秩序の形成のためには、次のことが不可欠であると私には思われる。
 第一に、イラクの領土的一体性は引き続き保持されねばならない。イラクの独立と政治的主権は、完全に再建されねばならない。
 第二に、イラク国民は自分たちの政治的将来を自分自身で決定せねばならない。そこに住む少数派の権利は守られねばならない。
 第三に、この国の石油生産と天然資源は、イラク国民の所有及び管理下に置かれつづけ、イラク国民の役に立てられねばならない。
 第四に、中近東において、その地域に住むあらゆる民族が平和と福利のうちに生活する展望を開く、政治的安定化プロセスを開始せねばならない。
 そのためには、とりわけ中東紛争を安定的な平和秩序の枠の中で解決することが必要である。すなわち、イスラエルの存在権が保障され、パレスチナ人に独立し、生活しうる、民主的な国家が可能になるようにせねばならない。そのための核心的な前提は、いわゆる中東四重奏〔中東四者協議=米・ロ・EU・国連〕が作る「和平タイムテーブル」の公表と紛争当事者によるその採用である。それには、暴力を効果的にせき止め、パレスチナ人自治の改革を推進し、イスラエルの入植地建設を止めることが直ちに必要になる。
 私は、現在の紛争の後のわれわれの責任について語ってきた。ニューヨークとワシントンへのテロ攻撃の後の2001年9月21日の臨時会合で、欧州理事会は、共通の外交・安全保障政策をさらに拡充していくこと、そして欧州安全保障政策および防衛政策を「即時〔兵力〕投入できる手段」として形成することなどを決定した。欧州の国家元首、政府首脳は、「公正な世界大的な安全保障、共通の福利および広範な発展のうちにすべての国々を統合していくこと」を目標として掲げた。この目標をわれわれは堅持していく。
 しかし、それは目標を宣言すれば良いというものではない。世界大的に、国境を超えたリスクが増大している。大量破壊兵器の開発と拡散が冷戦時よりも大規模になってさえいる。これらのリスクには、多国間の取り組みによってのみ対処しうるのである。われわれは、「安全保障」のテーマについて、包括的にアプローチしなければならない。すなわち、政治的・社会的・軍事的な安全保障として、そしてまた文化的、エコロジー的な意味での安全保障として対処せねばならないのである。
 しかし同時に、大量破壊兵器などによる脅威に対しては、直ちに迅速に対処せねばならない。イラクおよびその軍備潜在力をめぐる紛争は、国際社会にとって、拡散防止と軍備管理の多国間の規制およびそれに伴う検証メカニズムの強化をあらためて開始するためのひとつの教訓としなければならない。
 大量破壊兵器の製造が可能な物質の拡散について、自分たちがそれを輸出しなくても、隣国が輸出するだろうなどと誰も言い逃れしてはならない。したがってわれわれは、EUの中で広範な統一的輸出システムを直ちに必要としているのである。これは、大きな一歩となり、世界の他の諸勢力に対して――特に潜在的な輸入国に対して――重要なサインとなるであろう。
 拡散問題についての道徳的な論議はたしかに不可欠なことであるが、しかしそれだけでこの問題に対処することはできない。それよりもわれわれは、世界における安全保障と公正さを高めるための包括的な、多国間の政策を必要としているのである。自由貿易にしても、気候の保護についても、テロとの闘いについても、多国間主義は終わってはいないのである。21世紀の諸問題は多国間によってのみ解決できることをはっきりさせねばならない。
 平和と安全保障の貫徹に際して、ドイツのポジションは、国際社会の中に、そしてわが国の同盟関係、特に欧州の中にある。
 国連は、「無意味」になったのではない。その反対である。戦争の後では、イラクの人道援助および再建に際して国連は重要な役割を果たしていく。わが国の政策は、広範で包括的な改革をも通して国連を強化し、国際紛争に際しての強制力の国連への集中を主張していく。
 わが国は、NATO同盟への関与を守っていく。NATOの同盟としての共通防衛と相互援助は、終わったものではまったくない。しかしこの同盟は、世界の新たな脅威と紛争状況に適応しなければならない。すでに行っているよりも、可能なかぎりさらにその適応を進めねばならない。いずれにしても、NATOは再び、相互協議、共同の分析、建設的予防をする場にならねばならない。
 しかし、わが国の利益及び提案が――NATOの内部でも――もっと聞き入れられることを望むのならば、わが国は、まず欧州がその提案ができるようにしなければならない。欧州が一つの欧州として、声を一つにすることである。その際、長期的には、安全保障のための共通の取り組みとわれわれの成長、福利および雇用のための努力は切り離すことができない。今日においても、戦争による危険が成長への全欧州の期待をいかに無に帰しているか経験している。
 そしてもちろん、欧州が現時点における国際的な危機の中で統一を示せなかったことをわれわれは知っている。しかし、諸政府があらゆる問題で一致することはできるものではないのである。にもかかわらず、欧州の社会は、戦争拒否でみな一致しているのである。
 共通の外交・安全保障政策の形成は、まだ始まったばかりである。世界が欧州の声をもっとよく聞くようになり、欧州の声がもっと効果を上げるようになるためには、手間暇のかかるプロセスを、そして時には反動を覚悟しなければならない。しかし、この共通政策以外には、合理的な道はないのである。
 欧州の統合は、この大陸における戦争と破壊に対する回答であった。もしも、この統合された欧州が、新たな世界の不均衡を前にして自分たちの責任を回避するならば、致命的なことになるであろう。だからこそわれわれは、真に共通の外交・安全保障政策を作り上げねばならず、欧州がより多くの責任を実際にとれるようにしなければならないのである。まもなく加盟国が今日の15カ国から25カ国になることによって、この責任はさらに重くなる。だからこそ、全欧州の統一の歴史的チャンスを遅延させてはならないのである。
 この状況の中で、私はシラク大統領と共に欧州代表者会議において、欧州外務省を設立することを提案したのである。これは、今日、ハビエル・ソラナ〔EU共通外交安全保障上級代表〕とクリス・パッテン〔欧州委員会対外関係担当委員〕が引き受けている任務を共に遂行するものである。欧州外相は、共通の欧州の利害を明らかにし、共通の交渉のイニシアティブを取らねばならない。われわれの提案は、ほとんどの分野で、圧倒的多数によって採択されねばならない。この仏独提案は、欧州代表者会議で歓迎された。
 共通外交安全保障政策においてわれわれに与えられる任務を考えれば、われわれの軍事能力について真剣に検討する必要があるということもはっきりしてくる。それは、現在の危機に対して、直線的にわが国の防衛予算の増大のみによって応じるべきだということではない。そしてまた、たとえば米国がその軍事予算を費やして作ったその力に追いついていくべきだということでもない。欧州は、世界の警察官としての役割のために軍備することを考えるべきではない。しかし欧州は、紛争予防と平和維持のためのわれわれの関与および責任にふさわしい軍事能力をさらに発展させていかねばならないのである。
 欧州安全保障・防衛政策の推進のために現在、ベルギーの首相を会談に招待したところである。この分野でも、ドイツとフランスは、欧州代表者会議に共同提案を行った。われわれは、軍事能力の開発、立案および意志決定機構、そして軍需産業において緊密に協力することを考えている。
 われわれは、欧州安全保障・防衛政策を欧州安全保障・防衛共同体へと発展させていくことを展望している。最初の一歩として考えられることは、将来、国家部隊の代わりに欧州部隊が国連平和維持軍に参加することである。
 こうしたすべての討議において、次の2つの点が重要だと私は考えている。
 第一に、誰も排除されえないし、排除されるべきではないということである。共通安全保障・防衛政策の推進に参加する加盟国が増えれば増えるほど、全体にとって良いことなのである。この点でとりわけ重要なことは、英国もまた、このプロセスに緊密に参加させていくべきだということである。英国は、これまで常に欧州安全保障・防衛政策に重要な影響を与えていたのである。
 第二に、欧州安全保障・防衛政策の強化は、NATOに対立するものではなく、逆にNATO同盟に役立ち、したがって大西洋間関係に役立つのである。NATOは今後とも、ドイツにとって、また欧州にとって中軸的な重要性を持ちつづける。強い欧州は、双方にとって利益であり、また世界の中での双方の共通の価値感にとって利益である。
 たしかに、われわれの共通の外交・安全保障政策の形成に際しても、とりわけ仏独の緊密な協力が重要であることは事実である。ドイツとフランスは、欧州統合のエンジンである。われわれ2カ国の協力の達成度は、現在の状況の中で稀少な喜ばしい諸事実の一つである。
 しかしながら、英国との、そして全欧州の他の加盟国との包括的な協力なしには、われわれに期待されている国際的責任を担えないことも明らかである。また、まさに現在の危機の中でこそ共通原則の基礎の上に立ってロシアとの緊密な協力を追求する道が正しく、未来志向であることも明白である。
 欧州は、戦争によってもたらされたリスクが世界経済全体を混乱させないような対処をも行わねばならない。欧州理事会は、2週間前に、時宜に適したシグナルを送った。われわれは加入国とともに、厳しい経済情勢にもかかわらず、EUがいわゆるリスボン戦略にのっとって、その福利と雇用を作り出す成長力を高めていくことを明らかにした。それには、内部市場で、研究開発、労働市場改革の前進をなしとげ、教育と効果的な環境保護を行っていくことが重要である。
 この戦略は、わが国の「改革計画2010」と密接に結びついている。厳しい情勢であるからこそ、この改革が必要なのである。われわれは、参加と公正を基礎にしたわが国の社会モデルを将来にわたって守ることができるように、この改革をすみやかに実施せねばならない。
 (終わり)