COMMUNE 2006/06/01(No.361 p48)

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6月号 (2006年6月1日発行)No.361号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  イラク開戦3年 崩壊する米軍

口点と線の維持に汲々となり守勢に転じた米軍
□掃討作戦・内戦激化の中で進む民族解放戦争

●翻訳資料 06年QDR(4年ごとの戦力見直し)(上)2006年2月6日米国防省

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/4月国会攻防を循環ゼネストで闘う−−室田順子

    3・31教基法改悪阻止集会

三里塚ドキュメント(3月) 政治・軍事月報(3月)

労働月報(3月)  闘争日誌(2月)

コミューン表紙

   世界革命への胎動

 フランスの労働者・学生のCPE(初期雇用契約)反対の闘いは、ゼネストと大デモとして爆発し、ついに撤回をかちとった。それは1968年の5月革命を想起させる激しさと広がりをもって発展した。「最初の2年間は自由に解雇することができる」という青年労働者にとっては死活的なテーマであったから、学生・高校生を含めて広範な決起に発展した。日本の青年労働者が大半、非正規雇用に落とし込められ、激しい賃金・労働条件の格差にさらされていることに引き寄せて考えると、けっしてこれは人ごとではない。イギリスの公務員労働者150万人のスト、ドイツの2大労組のスト、アメリカの移民労働者の大デモ、韓国民主労総のゼネストと、各国で巨大な闘いが爆発している。プロレタリア世界革命の鼓動が伝わってくる。

 1〜3月の日本の階級闘争は教育労働者の3年連続の「日の丸・君が代」強制拒否の闘い、動労千葉の反合・運転保安春闘を始めとして果敢に闘われてきた。米軍再編の攻撃に対しては、沖縄の3・5県民大会、岩国住民投票の勝利を始め、全国の闘いの高揚がかちとられた。法政大学での立て看板・ビラまき禁止の攻撃に対するデモで29人が不当逮捕された事件も、改憲阻止全国ゼネストを呼びかける全学連に対する権力と大学当局の結託した攻撃であったが、全員の完全黙秘・非転向の闘いではね返し12日間で奪還された。法大当局の処分攻撃との第2ラウンドの闘いに突入している。これらの闘いは、危機を深める帝国主義に対して原則的に階級的に闘いぬくことで、弾圧や処分攻撃を無力化させることができることを教えている。

 教育基本法改悪が浮上してきた。4月12日、自民党と公明党の与党協議で、教育基本法改悪の焦点だった「愛国心」をめぐる文言について、「国と郷土を愛する」とすることで合意が成立、具体的な条文づくりに入って、大型連休前後に国会提出すると決まった。事態は容易ならないところに来た。「愛国心」を教基法に盛り込むことは、文字どおり子どもたちを戦場に駆り立てる威力を発揮するものとなる。「国旗国歌法」を盾にして「日の丸・君が代」を強制した03年10・23都教委通達を見れば、それは明白だ。そして日教組を一掃して、教育を国家主義的に支配していこうとするものとなるのだ。これは、改憲のための国民投票法案の策動と並んで、改憲攻撃そのものであり、5〜6月改憲阻止決戦で打ち砕かなければならない。

 さらに改憲攻撃と一体の攻撃として、米軍再編の攻撃が大詰めの攻防となっている。最大の激突点だった沖縄・普天間基地の移設先について、日米合意の辺野古沿岸案について、額賀防衛庁長官と島袋名護市長が、「V字形」の2本の滑走路にすることで合意した。着陸用と離陸用を分けることで、地元の集落の上空を飛行しないようにすると言うが、とんでもないペテンであり詐欺である。協定などまったく無視して、軍事的に必要なら住宅地の上空だろうがお構いなしに飛ぶのが米軍のやり方だ。それでなければ軍隊は成り立たない。滑走路2本にしたことは、既存の基地計画が2倍化したということ以外の何ものでもない。沖縄の負担軽減などと言いながら、実際にやろうとしているのは、72年返還以降初めての巨大軍事基地建設を押しつけるということだ。日帝の沖縄差別攻撃はここに極まった。断固粉砕あるのみだ。(た)

 

 

翻訳資料

  QDR(4年ごとの防衛見直し) 上

2006年2月6日 米国防省 土岐一史訳 

  【解説】

 QDR(4年ごとの防衛見直し)は、アメリカ帝国主義が軍事戦略を全面的に論じたものだ。その軍事戦略の方向を分析するためにの基本資料といえる。
 本号では、QDR全体の見出しと前書及び序章の訳を掲載する。そこでは、QDRの政治的な狙いが全般的に論じられている。

 「長い戦争」を宣言

 これまでの米帝ブッシュ政権の国民総動員体制のキーワードは、「対テロ戦争」だった。今回のQDRではそれも使われているが、むしろ「長い戦争」のほうが、主要なキーワードになっている。
 だが、「長い戦争」は、いわゆる「対テロ戦争」に限定されず、「地政学的・戦略的」な戦争にも、米帝の「ライバル」との戦争にも広く適用できる。
 イラク侵略戦争を長期化し、さらに世界的に戦争を拡大していくことを公然と宣言したのだ。
 あとひとつの「長い戦争」の意味は、イラク戦争の泥沼化を米帝が自ら公式に認めてしまったということだ。古今東西、持久戦を目指すのは、本来ゲリラ側だ。時間は小国やゲリラに有利に働く。

 対中国シフトを宣言

 2001年のQDRでも、対中国戦略が全体を貫いていた。今回は、さらにあからさまに、名指しで対中国戦略を論じている。「戦略的岐路に立つ主要な、そして台頭しつつある諸強国」としてロシア、インドもあげているが、結局は、中国に絞り上げられている。
 3月初めにブッシュがインドを訪問し、核技術協力を約束したことは重大だ。米帝は、対中国戦略のためにインドを5つの常任理事国以外に初めて核兵器保有国として承認したのだ。

 同盟国に働かせる

 また、アフガニスタン、イラン侵略戦争の教訓として、「同盟国に働かせる」ことに重点を移すことの重要性を強調している。
 特にイギリスとの同盟を別格のものとして評価している。そして日本との同盟も、そうしたものにしていく意志をしめしている。米軍の再編、トランスフォーメーションをさらに進め、それとともに日米同盟をイギリスとの同盟なみにし、そうして米英日枢軸で戦争を世界大的に拡大していく戦略を改めて示しているのである。
【( )は原文のまま。〔 〕内は訳者の挿入。「…」は省略】
……………………………………

 目次

前書
序章〔以上本号〕
第1章 長い戦争を戦う
・アフガニスタン
・イラク
・アフガニスタンとイラクを越え  た戦闘
・人道的措置と初期予防的な措置
・国内における本省の役割
・学んだ作戦上の教訓
第2章 戦略を実現する
・テロリストのネットワークを打ち破る
・本土を徹底的に防衛する
・戦略的岐路にある諸国の選択に関与する
・大量破壊兵器の入手または使用を阻止する
 本省の戦時戦力構想を練り上げる
第3章 能力と部隊を新たに方向付ける
・統合地上部隊
・特殊作戦部隊
・統合航空能力
・統合海上能力
・個々の必要性に応じた抑止力/ 新たな〔戦略核〕三本柱
・大量破壊兵器と戦う
・統合機動力
・諜報、監視、偵察
・ネットワーク中心性を達成する
・統合指揮・統制
第4章 防衛構想を再形成する
・新防衛構想へ向けて
・ガバナンスの改革
・マネジメントと作業の改革
第5章 21世紀の総戦力を開発する
・総戦力を再構成する
・適切な技能を形成する
・情報時代の人的資源戦略を構想 する
第6章 取り組みの統一性を達成する
・省庁間業務を強化する
・国際的な同盟者・協力者と協働する
・戦略的コミュニケーション
2006年の国防見直しの議長による査定

……………………………………

 前書

 アメリカという国は、長い戦争になっていくものを戦っている。
 2001年9月11日の攻撃以来、わが国は、テロリズムを武器として好んで使い、われわれの自由な生き方を破壊しようとする暴力的な過激派との地球規模の戦争を戦ってきた。われわれの敵は、大量破壊兵器を入手しようとしている。……現在のところ、戦いはイラクとアフガニスタンに集中しているが、われわれは来るべき年月に向けて、わが国と、地球上のわが国の利益を首尾よく守るために、準備し、構えなければならないだろう。今回の06年の防衛見直し(QDR)は、この長い戦争の5年目に提出される。
 今回の防衛見直しを練り上げるに当たって、国防省の文官・武官の上級指導者たちは、05年中互いに協力して次のことを行った。
 01年QDRの結論を検証した。
 4年以上にわたる暴力的過激派の地球規模のネットワークとの戦争から学んだ重要な教訓を適用した。
 われわれが直面した、絶えず変化する世界の本質についての仮定を検証した。
 この種の文書が、「新たな始まり」の代表であるかのように示唆したがる傾向がある。だが明らかに、この文書は「新たな始まり」ではない。むしろ本省は、前世紀末からとてつもなく変化してきた世界についてのわれわれの最高の理解を反映した連続体に沿って自らを改革してきたし、現在も改革している。今回の研究は、国防省が過去5年間不断の変革の過程を経てきた現実を反映したものである。
 たしかに、01年にブッシュ大統領が就任したときには、わが国は多くの面で冷戦の勝利を満喫していた。それは、何世代ものアメリカ人が従事したあの長い闘争の絶頂だった。だが大統領は、われわれが予期しなかった、予測不可能な時代に突入しつつあることをよく理解した。そして彼は、国防省の見直しを指揮し、この新世紀によりよく対応するためにわが国の戦力を改革するよう強く要請したのである。
 9月11日のテロリストの攻撃で、国防省改革の強烈な切迫感が突きつけられた。あの悲劇の日以来、多くのことが達成された。われわれは、米軍をより敏捷に、より派兵しやすくする作業に着手した。情報管理や精密兵器の劇的な改善をはじめとした技術的進歩によって、わが軍が同数、場合によってはより少数の兵器プラットフォームとより少ない人員配置で、はるかに大きな戦闘能力を生み出すことが可能になった。われわれはまた、地球規模の米軍の態勢を調整し、冷戦期の時代遅れの駐屯地における固定した防衛の脱却によって長年の懸案だった米軍基地使用の調整を行い、地球上のあらゆる紛争地点へ迅速に殺到する能力に重点を置いてきた。

 20世紀から21世紀へ重点を 移すことによって変革する

 QDRは計画項目についての文書ではなく、財政文書でもない。むしろ、国防省の上級文官・武官指導者たちの考えを反映したものである。
 新しい神出鬼没の敵に対する、「探し出し、所在を確定し、殲滅する」戦闘作戦の必要性
 リアルタイムに執行できるアクションプランを生み出すために、諜報と作戦とをはるかによく融合する必要性
 本省で行われていることはすべて、統合戦闘能力に貢献するものでなければならないという認識
 成功は全員が志願兵である軍服を着た男女の献身、プロ意識、技能にかかっているという核心的な現実
 この不確実性と奇襲によって特徴づけられる時代にあっては、この重点の移動は、たとえば次のような言葉で言い表せる。
 国防省がどのように変革をしようとしているのか、国防省の上級指導者がその変革をどう考えているのかを明らかにするためには、あらたな戦略的環境への対応のための重点の移動から見ていくと分かりやすい。今の時代の特徴は、不確実性と奇襲だ。こういう時代に、例えば、次のように重点が移動している。
 平時のテンポから――戦時の意味での緊急性へ
 合理的な予測可能性の時代から――奇襲と不確実性の時代へ
 一点に絞られた脅威から――多発の、複合的な挑戦へ
 国家の脅威から――非国家的な敵からの分散したネットワークの脅威へ
 国との戦争の指揮から――われわれと戦争状態にない国(安全地帯)における戦争の遂行へ
 「万能薬」式の抑止から――ならず者勢力、テロリストのネットワーク、及びほぼ対等な競争相手のそれぞれに別個に対応したの抑止へ
 危機がはじまった後の対応(反応型)から――問題が危機にならないようにするための予防措置(先制型)へ
 危機への反応から――未来の形成へ
 脅威を基礎にした計画から――能力を基礎にした計画へ
 平時の計画から――迅速で順応性がある計画へ
 動力学に置かれた焦点から――戦果に置かれた焦点へ
 20世紀の方法から――21世紀の総合的なアプローチへ
 固定された防衛、駐屯軍から――機動的で進攻的な作戦へ
 予算・人員不足で待機中の軍隊(中身のない部隊)から――充分な装備と人員配置のできた軍隊(戦闘態勢の部隊)へ
 戦闘準備のできた戦力(平時の)から――戦闘で鍛えられた部隊(戦時)へ
 大規模で制度化された軍隊(尾)から――もっと強力な作戦能力(歯)へ
 大規模な通常型の戦闘作戦から――多重的な非正規・非対称作戦へ
 陸・海・空軍、海兵隊それぞれ別々の作戦の諸概念から――統合され、結合された作戦へ
 内紛を取り除く必要のある軍隊から――一体的で相互依存の軍隊へ
 前方の攻撃にさらされた軍隊から――遠征軍を支えるCONUS(米本土)への立ち戻りへ
 艦船、砲、戦車、飛行機に置かれた重点から――情報、知識、それに適時で実用的な諜報に置かれた焦点へ
 軍隊の集結から――戦果の集結へ
 大会戦型の作戦と物量から――機動力と精度へ
 陸・海・空・海兵のいずれか単独による収集システムから――統合一括管理へ
 幅広い産業の動員から――的を絞った商業的解決へ
 陸・海・空・海兵それぞれや諜報機関の諜報から――真の統合情報処理センターへ
 縦割りの構造やプロセス(煙突型)から――もっと透明で横同士の一体化へ
 データへのユーザーの移動から――ユーザーへのデータの移動へ
 ばらばらの本土支援から――総合的な本土安全保障へ
 静的な同盟関係から――動的なパートナーシップへ
 出来合いの部隊組織から――臨機応変で柔軟な部隊へ
 米軍が行う任務から――パートナーの能力の育成に置かれた焦点へ
 静的な作戦後の分析から――動的な診断とリアルタイムの教訓の学習へ
 入力(努力)に置かれた焦点から――出力(戦果)の探知へ
 国防省による解決から――省庁間のアプローチへ

 変化継続の中での06年QDR

 06年QDRは何よりも、先行する01年QDRの発行以来拍車がかけられてきた変化の過程を反映したものである。実に多くのことが実行に移されている。そのすべては、継続するテロとの地球規模の戦争のさなかにある。いくつかの任務の簡単な総括と、この過程における本省の進行中の諸計画とを、06年QDRの背景を明らかにするために以下に列挙する。
 5000万以上のアフガン人・とイラク人を圧政、テロリズム、独裁から解放し、両国の有史以来初めての自由選挙を可能にした。
 アルカイダなるテロリストのネットワークへの攻撃を行い、その結果最高指導部の過半数を殺害、もしくは投獄した。
 テロリズムとの地球規模の戦争に参加する全世界75ヵ国以上の連合と協働した。
 緊急に必要な改革を実行した。近年の戦闘経験の結果、今日の米軍は、ここ数十年で最も戦闘で鍛えられ、最も戦闘即応態勢にある軍隊になった。
 有事対応計画、戦略的偵察、配備や再配備の運営、兵站、リスク評価など、本省のあらゆる要素や活動を改革した。
 テロリズムとの地球規模の戦争の戦場から学んだ何百もの現実世界の教訓を取り入れ、軍隊を進行中の作戦や将来の作戦に適合させた。
 9・11後の世界的軍事力態勢計画を始動させて世界中の米軍を再配置する一方、冷戦時代の固定的な海外戦力を削減し、その結果より進攻的で派兵しやすい軍隊ができあがった。
 作戦部隊を再組織して、本土防衛という重要な責任を負う北方軍を設置し、宇宙軍と戦略軍とを単一の軍、戦略軍に統合した。
 現役、州兵、予備役の各部隊を新たなモジュール式旅団戦闘ティーム構造へ一体化するなど、陸軍組織の新概念を始動させた。
 人員を増やしたり、新技術を導入したり、新しい航空機を調達したり、米海兵隊を特殊作戦部隊に含めたりして、米軍特殊部隊を強化した。
 NATOの加盟国を拡大し、部隊の迅速な展開を可能にし、NATOの役割をアフガニスタンやイラクに拡張するなど、NATOを変革する先頭に立った。
 軍隊のための新しい装備、技術、基盤に投資した。その中には先進的な戦闘能力が含まれる。ストライカー旅団、沿岸戦闘艦、巡航ミサイル発射型に転用した潜水艦、無人車両、先進的な戦術航空機などである。それらはすべて、ネット中心型戦争システムに組み込まれている。
 初期にあるミサイル防衛システムをオンラインに組み込む一方、研究と開発を続けて生まれつつある防衛能力を提供している。
 史上最大の基地再編成・閉鎖の過程に突入し、米国のインフラストラクチャーを将来の必要性のために合理化した。
 ハリケーン・カトリーナやリータの自然災害からの救助において、国土安全保障省を援助した。
 南アジア大津波やパキスタン大地震の際に、大規模な災害救助活動を引き受けた。
 国防長官室を再組織し、諜報担当国防次官、本土防衛担当国防次官補、ネットワーク・情報統合担当国防次官補、拘留者問題担当国防次官補代理の各地位を新設した。能力と、危機に即応できる国家安全保障人材システムへの支出を開始した。本省は、考えられるあらゆる範囲の任務にわたって、国土安全保障省とのより強い協力関係を築きつつある。

 結論

 アメリカ政府の他省庁からの重要な援助なくして、達成しうるものも達成できないことは明らかである。行政部門の内部では、中間機関や、国務省、財務省、司法省、国土安全保障省、CIA、その他テロとの地球規模の戦争に参加する省庁の協力者との作業における能率の向上を達成する道を追求している。まだまだ省の作業の多くの面で、冷戦型の組織や思考方法が足を引っ張っているとはいえ、本省は予算、財政、調達、人事の面で新しい、より柔軟な権限を追求していく。今こそ、21世紀に必要なさらなる変革を開始すべき時である。
 06年QDRは、本省による国防衛戦略とその効果的執行に必要な能力を、現時点で簡単に述べたものである。……わが国が従事する長い戦争に勝利するには、統一的な取り組みが必要になるだろう。こうした協力関係からの恩恵は、将来の統合軍の戦士たち、大統領、そして何よりも、われわれが奉仕するアメリカ人民が享受するだろう。
 この06年の防衛見直しが、本省の改革の連続体のほんの一部であることに留意することは重要である。その目的は、アメリカ合州国に今後数十年間、強力で、健全で、効果的な戦闘能力をもたらす変革過程を形にすることである。この長い地球規模の戦争の5年目に当たってわれわれが続けているように、この文書における考えや提言は、勝利へ導く変革へのロードマップとして発行される。

 序章

 国防省は、長い戦争、本質的に非正規の戦争の4年目に、06年防衛見直し(QDR)を行った。この戦争での敵は、伝統的な通常型の軍隊ではなく、イスラム教を悪用して急進的な政治目的を推し進める分散した、地球規模のテロリストのネットワークである。こうした敵は、アメリカ人をはじめ世界中の人々を何十万人も虐殺する核・生物兵器を入手し、使用する狙いがあると公言している。彼らはテロ、プロパガンダ、無差別暴力を使用し、イスラム教世界を急進的な神権的圧政に服従させようとする一方で、米国やその同盟国・パートナーとの戦闘を永続化させようとしている。この戦争は米軍に、非通常的な、そして非直接的なアプローチの採用を要求している。当面はイラクとアフガニスタンが決定的な戦場だが、戦いは両国の国境をはるかに越えている。同盟国やパートナーとともに、米国は同時に多くの場所で、これから先何年間もこの戦争をやり抜く覚悟を固めなければならない。国防省は、こうした敵を粉砕するために活動しているのであるが、また、奇襲と不確実性の時代にあって絶対に油断せず、より広範な非対称的脅威を予防し、阻止し、撃破する準備もしなければならない。
 今回のQDRは、国防省の基本的な緊急事項は次の2つであると規定している。
 これから20年にわたって、より広範囲の非対称的挑戦に備えて不確実性を未然に防ぐために、この戦時にあって本省の能力と戦力をもっと俊敏なものに転換しつづけること
 組織構造、プロセス、手続きが戦略的方向を効果的に支援するものになることを保障するために、国防事業全体にわたる改革を実施すること
 本省がどのように組織され、どのように機能しているのかを査定することが、今回のQDRの最重要項目である。ちょうど米軍が、より俊敏に、より迅速な行動にたけるようになり、情報面での優位を利用して作戦上の効率性を高めているように、それを支える司令部の組織やプロセスも、同様の特質を高めていく必要がある。変革は、アメリカ大統領の要求と、統合軍〔注〕司令官に代表される統合戦闘部隊の要求にこたえることを焦点にするべきである。今回のQDRは、大統領により広範な軍事的選択肢を与え、統合軍司令官が非対称的脅威に立ち向かうのに必要とされる新たな能力を与えようとしたものである。透明性、技術革新を促進する建設的競争、敏捷性と適応能力、協力とパートナーシップという原則が、新しい戦略的プロセスと組織構造の形成の導きの糸となるべきである。
〔注〕統合軍――陸・海・空軍、海兵隊を統合して編成され、中東、中央アジアを管轄する「中央軍」などの地域別の統合軍と戦略軍などの機能別の統合軍がある。
 本省はまた、高度な適応能力を持つ敵を粉砕したかったら、継続的な変革と再評価というモデルを採用しなければならない。そういう意味で、QDRはそれ自身が完結した状態なのではなくて、むしろこの根底からの変化の時代において、当面の最善の考え、計画、決定をつかむために書かれた中間報告と言える。本省は、来る年月における定期的更新をもって、そしてQDRで特に重点が置かれている領域についての続行「ロードマップ」の練り上げを指導することによって、この継続的な再評価と改善のプロセスを続けていく。それは、次のことなどである。
 省の構造変革とガバナンス
非正規戦争
パートナーの力量を育成する
 戦略的なコミュニケーション
 諜報
 これらのロードマップは、QDRの主要提言の実施の導きの糸となり、この重要な領域における本省のアプローチを練り上げつづけるものになるだろう。
……
 今回のQDRは、01年QDRで大統領と関係者が推進した変革的国防方針、米国の地球規模の防衛態勢の変更や基地再編成・閉鎖研究における変革、そして何よりも、過去4年間の作戦上の経験に立脚している。アフガニスタンやイラクでの作戦に加えて、米軍は、インド洋大津波や南アジア大地震の被災地における人道救助を行うことから、国内の民生当局を支援してハリケーン・カトリーナのような自然災害への即応まで、様々な任務を行った。これらの諸任務からの教訓が、QDRの討議や結論の特徴になっているが、そこには次のような決定的な重要性がある。
 パートナーの力量を育成し、取り組みの統一性を達成し、他者とともに、他者を通じて共通の敵を粉砕するための間接的なアプローチを採用するための権限と資金を持つこと。われわれ自身で活動を行うことから、パートナーが自力でもっと多くのことができるようにすることへ転換すること
 反応型の行動から、早期の予防型対策へ転換し、問題が紛争や危機になるのを阻止する行動スピードを上げること
 21世紀の安全保障上の課題に立ち向かうに当たって米国とその同盟国やパートナーの行動の自由を高めること
 米国のコストを最小限にする一方で、敵にコストを強制すること。とりわけ米国の潜在的競争者に対する科学的、技術的優位を維持することによって
 こうした教訓の適用によって、奇襲や不確実性に立ち向かう際の軍隊の適応能力が高まるだろう。学んだ教訓で一致する統合プロセスの維持は、絶えざる変革と改善のプロセスを支えるために重要である。
 今回のQDRの基礎は、2005年3月に出版された『国家防衛戦略』である。この戦略は、より広範囲の課題に取り組めるように本省の能力を転換しつづけていくことを要求している。米軍は通常型の戦争では優位を維持しているとはいえ、この非正規戦争(敵戦力が正規の国家の軍ではない戦争)、大量破壊兵器(WMD)を使った破局的なテロリズム、そして質的優位を維持し、軍事力を投入する米国の能力への破壊的な脅威がある。
 戦略を作戦化するために、本省の文官・武官の上級指導者たちは、4つの優先項目をQDRの焦点とすることで一致した。
 テロリストのネットワークを粉砕すること
 本土を徹底的に防衛すること
 戦略的岐路にある諸国の選択に関与すること
 敵対的な国家や非国家関係者が、WMDを入手したり使用したりするのを阻止すること
 これらの優先項目は、明らかに米軍が発動に備えなければならない作戦の全領域を代表しているとは言えないが、特定の懸案領域を指摘するものではある。これらに焦点を当てることによって、本省は、非正規の、破局的で、破壊的な挑戦に対処する能力と戦力を向上させ続けるだろう。こうした課題に立ち向かう能力と戦力を向上させることによって、これ以外の脅威や不測の時代に反応する軍隊の全体的な適応能力や汎用性もまた向上するだろう。
 QDRの4つの焦点領域の評価に基づいて、本省の上級指導者は、省の戦略を軍事力を生成し、その規模を決定する指針となっていくこの珠玉の戦力構想を練り上げていくことを決意した。本報告で以下に詳しく述べていくこの戦時の構想は、次のことによって、長い戦争の現実をよりよく把握するための修正を行ってくれる。
 より広範な全国家的枠組みの中で本土を防衛する本省の責任をより明確に規定すること
 長期間の非伝統的戦争、テロリズム対策、反乱対策、安定化や復興への取り組みの軍事支援など、テロとの戦争や非正規の戦闘行動により重点を置くこと
 多年間にわたる恒常的な戦力需要とその期間内の一時的な活動急増との区別を明らかにし、説明すること
 同時に、この戦時構想にあっては、多重的で相互関連的な戦争を遂行する能力がもとめられる。それに加えて、抑止に必要な部隊と能力、それも「万能薬型」の抑止から、先進軍事強国、地域的WMD武装国、あるいは非国家的テロリストのそれぞれを抑止するよりそれぞれへの適合性をもって対応できる能力への転換を反映した部隊と能力がもとめられる。
 06年QDRは、本省の変革を加速させる新しい方向を提起し、もっと統合軍司令官の要請に焦点を当て、個別の縦割りの諸計画ではなく、統合軍の能力一覧を発展させるためのものである。01年、本省は脅威ベース計画から能力ベースの計画への転換を開始し、戦闘遂行に必要なものが提起され、優先されるあり方を変革した。能力ベースの計画の核心は、限られた数の脅威のシナリオのために統合軍を最適化しすぎるのではなく、敵が使用しうる能力と米国にとって使用しうる能力とを認識し、しかるのちに相互のやり合いを評価することである。今回のQDRは、計画や財政的優先項目の基礎としての統合軍司令官の要求を強調することによって、こうした転換を続けている。その目標は、〔陸・海・空・海兵の〕統合された能力最適組み合わせのいっそうの活用によって本省を運営することである。そうすることによって、大統領や統合軍司令官の要求にこたえる本省の能力が改善されるだろう。「要求に導かれた」アプローチへとますます移行することによって、不必要で余計な計画が減り、陸・海・空・海兵の相互運用性が改善され、調達や予算案作成のプロセスがスムーズになるだろう。本省は、垂直構造から、もっと透明で水平に一体化された構造へ転換し続けている。米軍部隊が合同して活動しているように、水平的一体化は、本省の投資や国防事業全体にまたがる機能にとっても組織原則でなければならない。こうした変革は、一夜では成し遂げられない。また、より分野横断的なアプローチへと移行する過渡の期間に、効果的に機能している領域が弱められないように注意しなければならない。しかし、21世紀という多重的な戦略的環境においては、部隊、組織、プロセスのより大きな結合、そして行動におけるより緊密な同期化が求められる。
 こうした環境は、本省の「総戦力」概念に新たな要求をつけくわえる。志願兵のみで構成される軍隊が、過去数十年にわたって米軍の作戦成功の鍵になってきたとはいえ、将来の任務でも成功が続くと保証されているわけではない。現役・予備役の軍人、民間人、請負業者従業員からなる総戦力は、統合軍司令官が必要とする正しい技能を備えた人々の最適な構成を発展させ続けなければならない。この目標に向かって、QDRは本省の人事管理政策を更新し、軍隊への投資の手引きとなり、人員が新たな課題に適応する能力を高められるようにしている。たとえば、非正規戦争の要求にこたえ、米国の他の政府機関、同盟国、パートナーと効果的に活動するために本省は、しかるべき言語、文化、情報技術の諸技能を発展・維持することに焦点を当てた投資を増やす。本省はまた、勤続年数より実績に報酬を与える新人事制度を採用しつつある。ちょうど陸・海・空・海兵隊のそれぞれが、現役兵と予備兵との兵力バランスを調整し続けているように、新しい統合訓練計画によって、総戦力は確実に、出現してくる課題に首尾よく適応できるようになるだろう。21世紀の課題に適した正しい知識と技能の獲得は、人員の募集、引き止め、訓練、配属、キャリア形成教育、昇進において新たな重要性を帯びるだろう。権限、政策、実践を調整することによって、新たな要求を満たす最適の総戦力ができあがるだろう。
 今回のQDRは、防衛見直しを義務づけた法律の改定の恩恵を受けている。完成日を大統領の2007会計年度予算教書の提出に合わせるようにずらしたことで、本省が、次の会計年度まで待つことなく、限定的ながらいくつかの計画を、2007会計年度の予算提出に「前倒し」するのを議会が容認することになった。したがって、今回のQDRは、国防計画・政策・プログラムをより広範な戦略的方向との間で整合させるための多数の調整措置を、2007会計年度の大統領の概算要求における「最先端の」措置として、勧告している。こうした提言は、本省が近い将来開始しようとしている変革の先駆けでしかない。本省は、2008会計年度の予算案提出への勧告をはじめ、本報告で据えられた戦略的方向性に基づいて、さらなる提言を行っていく。
 QDRが2007会計年度に打ち出した重要な計画事項の決定は次の通り。
 テロリストのネットワークを粉砕する部隊を強化するために、本省は、特殊作戦部隊を15%増員し、特殊部隊大隊の数を3分の1増やす。米国特殊作戦軍は、海兵隊特殊作戦軍団を創設する。空軍は、米特殊作戦軍のもとで、無人航空機飛行隊を創設する。海軍は、SEAL部隊の増員で米特殊作戦軍の増員を支え、河川戦闘能力を向上させる。本省はまた、心理作戦と民生部隊を3700人、33%の増員によって増強する。多目的陸軍と海兵隊地上部隊は、非正規戦闘任務を行う能力と力量を向上させる。
 本土の防衛と本土の安全保障を強化するため、本省は、遺伝子工学の訓練を受けた生物テロ部隊の脅威への広範囲の医療対策を向上させるために、今後5年間で15億ドルを投資する。その他の諸計画には、先進的な探知・抑止技術を向上させることや、多重的な本土安全保障上の有事への省庁間計画を改善するための大規模な軍民訓練を促進することなどがある。
 戦略的岐路にある国の選択に関与し、抑止力を強化し、将来の戦略的不確実性に備えるために、本省は、もっと広範な通常型・非動力学的抑止手段を発展させる一方、堅固な核抑止力を維持する。少数のトライデント潜水艦発射巡航ミサイルを、グローバルな通常型の即時爆撃への使用に転用する。本省はまた、無人航空機の調達を増やして不断の監視を強化し、今日の能力をほぼ2倍にする。また、次世代長距離爆撃システムの開発を始め、当初見積もられた作戦能力を、ほぼ20年間で加速度的に向上させる。
 大量破壊兵器を保有する国家によって引きおこされる危険や、テロリストがそれらを支配下におく可能性に対処するわが国の能力を向上させるために、本省はそうした有事に取り組む能力や戦力を大幅に強化する。すでに米国戦略軍を、本省の取り組みの焦点をなしているWMDとの戦いを結合し、足並みをそろえるための指導的統合軍に指定している。本省はまた、WMDの廃棄のための派兵可能な統合任務部隊司令部を創設し、そうした任務を行う部隊の速やかな指揮・統制をもたらすことができるようにする。
 今回の報告で打ち出されたビジョンの達成は、米国のゆるぎない同盟関係を維持し、適応させることによって初めて可能になる。同盟関係は明らかに、わが国の力の最大の源の一つである。過去4年間、北大西洋条約機構(NATO)やオーストラリア、日本、韓国などの国々との二国間同盟は、国際安全保障への新たな脅威に直面して、その生命力と妥当性を保持していることを証明してきた。これらの同盟関係は全世界で、自由な民主主義国家が戦略的に結束していることを明らかにし、共通の価値を推進し、軍事上、安全保障上の負担の分担を容易にしている。米国は、イギリスやオーストラリアとの独特の関係を高く評価する。両国の軍隊が、イラク、アフガニスタン、その他多くの作戦で米軍とともに戦ったからである。こうした緊密な軍事的関係は、米国が世界中の他の同盟国やパートナーとの間で養おうとしている協力の広さと深さのモデルである。QDRの課題の実施によって、こうしたゆるぎない結束はさらに強化されるだろう。(つづく)