COMMUNE 2006/11/01(No.366 p48)

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11月号 (2006年10月1日発行)No.366号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  米帝支配崩壊の時代の国際連帯

□世界の労働者と連帯する動労千葉の労働運動
口アメリカの世界支配の崩壊と世界革命の展望
口恐慌・戦争の時代に台頭する階級的労働運動

●翻訳資料  米国家安全保障戦略(中)

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/民主労総、11・15無期限ゼネストへ−−室田順子

    9・14千葉県農業会議弾劾

三里塚ドキュメント(8月) 政治・軍事月報(8月)

労働月報(8月)  闘争日誌(7月)

コミューン表紙

     極右政治家の登場

 自民党総裁選で安倍晋三が新総裁に選出され、安倍新政権が発足する運びになった。公約に「憲法改正」を掲げた最初の首相になったわけである。安倍は「5年以内に改憲」とも言っており、憲法9条撤廃を政権の第一の獲得目標としている。憲法を変えるとは、国のあり方を根本的に改めるということであり、戦後民主主義を転覆するクーデターに等しいことだ。しかもそれを主導するのが、かつての戦争に対する反省がひとかけらもなく、A級戦犯は犯罪人ではないと公言し、アジアに対する謝罪を「自虐史観」と言って恥じない人物であるという恐るべき事態である。これまでだったら考えられないような極右国家主義者が、日本の頂点に立ったこと、それを日本のブルジョアジーが選択したことの重大性を直視しなければならない。

 安倍はまず教育基本法の改悪を強行しようとしており、それに続いて、共謀罪新設、憲法改悪のための国民投票法、防衛庁「省」昇格法を次々と成立させようとしている。これらはすべて憲法改悪に直結している。とりわけ安倍が「教育改革」に熱心であることに警戒すべきである。安倍が目指すものは愛国心教育によって「国のために命をささげる」若者を生み出すことである。安倍の『美しい国へ』でも、特攻隊を賛美し、「命よりも大切なものがある」と公言している。大学入学を9月にして、高校卒業後半年間の「奉仕活動」を義務づける(徴兵制への第一歩だ)とまで言い出している。そしてまた、教基法改悪の最大の目的は、教員統制・聖職者教師づくりによって日教組を根底的に解体することにある。

 このような日帝・安倍新政権の攻撃は、日帝の深まる体制的危機に規定されている。米帝ブッシュのイラク侵略戦争の泥沼化と世界戦争への拡大化、米経済危機の深刻化の中で、日帝は、@天文学的規模の財政危機、A戦後憲法的な制約、B東アジア勢力圏の未形成、C4大産別を軸とした労組的団結の厳存という抜き差しならない危機を抱えているのである。安倍の登場は、このような危機ゆえの絶望的選択であり、その強さではなく、日帝の恐るべき弱体性、危機性の表現である。小泉政権5年間の「構造改革」によって拡大した格差社会(つまり階級社会のむき出し化ということだが)の現実に労働者人民の怒りは蓄積しており、闘いが爆発する条件は確実に存在しているのだ。安倍の登場は、チャンス到来なのである。

 安倍に対する闘う労働者の回答は、何よりも11・5全国労働者総決起集会(全日建運輸連帯労組関西生コン支部、全国金属機械労組港合同、動労千葉の3組合の呼びかけ、正午・日比谷)を、全国1万人の大結集でかちとることである。日帝は、中川自民党政調会長の「次期政権の最大の抵抗勢力は官公労」という発言に見られるように、4大産別(自治体、教労、郵政、国鉄)労働運動の解体を至上目的としている。戦前は国家の官吏だった公務員が、今日、労働組合的団結をもって反戦闘争を闘う勢力として存在している。日帝はこれでは戦争体制を構築できない。だからその根底的解体を策している。逆に言うと、ここで4大産別の攻撃を全労働者階級の問題としてはね返した時、それはものすごい革命的情勢をつくり出すということだ。4大産別決戦を改憲阻止闘争とともに爆発させ、11月労働者集会に進撃しよう。(た)

 

 

翻訳資料

 米国家安全保障戦略〔中〕

 ブッシュ・ドクトリン改訂版 2006年3月 広田功訳

 ■解説■

 今回の翻訳部分は大量破壊兵器問題に関する安全保障戦略について言及した第5章と、新自由主義とグローバリズムについて言及した第6章を訳出した。
 第5章では、大量破壊兵器の拡散が、現在、イランと北朝鮮において進行しているという前提にたち、それを阻止するために先制的行動が必要だとする論理が全面展開される。
 原文では、「大量破壊兵器による攻撃の被害が破滅的なものになりかねない時、われわれは深刻な危険が現実化するまで手をこまねいている訳にはいかない。これが先制攻撃の原則であり論理である。」と主張している。つまり「敵のこのような敵対的な行動に先手を打ち阻止するために必要であれば、合州国は本来保持している自衛の権利を行使して先制的に行動するだろう」として自衛権の発動として専制的攻撃があるとするのである。ブッシュはこうした論理によってイランや北朝鮮への侵略戦争を正当化している。
 第6章では、安全保障の観点から自由貿易と自由貿易協定の野放図な拡大を主張している。ブッシュ政権は、「より大きな経済的自由は、結局のところ政治的自由と切り離せない」という論理を振りかざし、全世界に自由貿易協定の網を張り巡らし、これに抵抗する国家を政治的自由のない国として軍事的に制圧しようとしている。
 またエネルギー面安全保障の観点からエネルギー供給源の多様化、核エネルギーの米帝を軸とした飛躍的普及と支配を強調している点も見逃せない。

 X.敵が合衆国、同盟国、友好国を大量破壊兵器によって脅迫するのを阻止せよ

 A.2002年国家安全 保障戦略の概要

 今日、合州国が直面している安全保障の環境はこれまでのものとは根本的に違っている。とはいえ、合州国政府の常にアメリカ国民とアメリカの利益を守るという第一の義務はこれまで通りである。政府に対して、脅威が重大な被害を発生させる前に国力のあらゆる要素を使用して、脅威を予測し、それに対処するという義務を課すのは長年来のアメリカの原則である。脅威が大きければ、なにもしないことのリスクはそれだけ大きくなり、さらに敵の攻撃の場所と時間に関する不確実性が残る場合であってもわれわれを守るために先制的行動を取らざるを得ないケースも多くなる。テロリストがWMDを使用して攻撃する場合より大きな脅威はない。
 敵のこのような敵対的な行動に先手を打ち阻止するために必要であれば、合州国は本来保持している自衛の権利を行使して先制的に行動するだろう。合州国は現出してきた脅威に先制的に対処するにあたって、すべての場合に軍事力を行使するわけではない。われわれは非軍事的な行動が成功することを望む。どの国も侵略の口実に先制攻撃を使用すべきではない。
 WMDの拡散を阻止するためには、このテロ兵器とそれに関連する専門技術が、それを求める者たちの手に渡ることを阻止するために、不拡散活動を強化することを含む包括的戦略が必要である。すなわち、WMDとミサイルが使用される前に、それらの脅威を除去し、防衛するための事前の不拡散の努力と、WMDが使用された後の影響を軽減するための改良された防御方法が必要である。われわれは敵にWMDによっては目的を達成できないことを確信させ、これにより敵にこれらの武器の使用や、さらには入手しようとすることさえ思いとどまらせ抑止することをめざしている。

 B.現在の情勢 成果と課題

 われわれは市民とわが国の安全を守るために懸命に努力してきた。合州国は国際社会と主要なパートナーと共に共通の目的を達成するために広範な活動を行ってきた。
・合州国は、WMDで武装したならず者国家によるミサイル攻撃を抑止し、アメリカを防衛するために弾道ミサイル防衛システムの実戦配備を開始した。ミサイル防衛システムの実戦配備は、合州国が1972年の弾道ミサイル条約から脱退(条約の条項に基づいてなされた)したことによって可能になった。
・2003年5月、政府はWMD、運搬システム、関連物資の輸送を地球規模で阻止する 拡散安全保障計画 (PSI)を立ち上げた。この発議に対して70を超える国が支持を表明している。WMDの輸送を阻止することには数回成功している。
・数ヶ国が参加した法の執行と情報活動面の広範な連携に関する合州国の指導力によって、A・Q・カーンの核ネットワークを追い詰めることができた。
・A・Q・カーンのネットワークからリビアへの核関連物質の輸送に対するPSIの禁止命令が出されると、リビアはすぐにWMDの計画を中止することに自主的に同意した。
・2004年4月、合州国はWMDの拡散を犯罪とみなし、WMDの輸出と財政上の効果的な管理を各国に要求する国連安全保障理事会の決議1540を通過させることを主導した。
・わが国は、核拡散を摘発し、それに対処する国際原子力機関の(IAEA)能力を強化する活動を主導した。
・政府はバイオテロから合州国を防衛する斬新な計画を含む「21世紀の対生物兵器防衛計画」という新たな包括的枠組みを立ち上げた。
 にもかかわらず、重要な課題が残っている
・イランは不拡散条約の保障義務を守らず、イランの核計画は平和目的に限るものであるという客観的な保障の提示を拒否している。
・朝鮮民主主義人民共和国(DRPK)は地域を不安定にし続けており、今日では国際的義務に違反する小型核兵器と不法な核開発計画を保有していることを鼻にかけ、国際社会に挑戦している。
・アルカイダネットワークと結びついたものを含めてテロリストはWMDを追い求め続けている。
・世界の兵器級の核分裂性物質(核兵器を製造するのに必要な成分を有する)の供給の一部は適切に保護されていない。
・バイオテクノロジーの発達は、国家及び非国家の関係者に、危険な病原体と装置を入手するより大きな機会を与える。

 C.今後の方針

 われわれは世界で最も危険な人々の手に最も危険な武器が渡らないように取組んでいる。

 1.核拡散

 核の拡散はわが国の国家安全保障に最も大きな脅威を与える。核兵器は瞬間的にしかも大規模に命を奪う能力があるという点で類まれなものである。そうした理由から、核兵器はならず者国家やテロリストの特別の興味をそそる。
 核国家、核テロリストへの野心を阻止する最良の方法は、彼等が核分裂物質の必須の成分を入手できないようにすることだ。核兵器は60年の歴史を持つ技術でありその知識は広く知れ渡っているため、国家やテロリストが核分裂物質以外の重要な構成部品を入手できないようにするのは困難である。したがって、われわれの戦略は核分裂物質を管理するにあたって二つの優先的目標を設定する。第1は、核兵器製造に適した核分裂物質を生産する能力を国家が獲得できないようにする。第2は、この能力のある国から核分裂物質がならず者国家あるいはテロリストに移送されることを禁止し、抑止し、阻止する。
 第1の目標を達成するには、民生用の原子力発電を隠れ蓑にして核兵器製造に使用できる核分裂物質を生産することを認めている不拡散条約の抜け穴を塞ぐことが求められている。この抜け穴を塞ぐために、われわれは世界の主要な核輸出国に対し、核兵器の拡散を伴わない安全で適切な核エネルギーの拡散システムを創造することを提案してきた。このシステムの下で、すべての国は適正なコストで民生用原子炉の核燃料を安心して手に入れることができるだろう。その見返りとして、これらの国は透明性を維持し核兵器製造を可能にする濃縮・再処理能力を放棄するだろう。このように、平和目的に限って核エネルギーを利用しようとする国にとっては濃縮と再処理は不必要なものになるだろう。
 政府は核拡散を防止するにあたって国際社会と協力してきた。
 われわれが直面するイランからの挑戦はどの単一国家からのものよりも大きい。20年にわたってイラン政権は核開発活動の主要な部分のほとんどを国際社会から隠してきた。今でもイラン政権は核兵器開発を目指していないと主張し続けている。イラン政権の真の狙いは、政権が誠実な交渉を拒否することによって暴かれた。すなわち、イランはIAEAが核施設を査察できるようにして問題を解決することで国際的義務に従うことを拒否した。さらに、イラン大統領はイスラエルは「地球上から消し去られるべきである」と要求する攻撃的な声明を出した。合州国はEUのパートナー諸国やロシアとともにイランに対し、国際的な義務を果たし、核開発計画が平和利用のためだけだという客観的な保証を用意するよう圧力をかけてきた。もし対立が避けられるならばこの外交的努力は成功するはずだ。
 合州国はこれらの核問題と同じくらいの重要さでイランに関して大きな懸念を抱いている。イラン政権はテロリズムを支援し、イスラエルを脅迫し、中東の平和を挫折させようとし、イラクの民主主義を崩壊させようとし、イラン国民の自由への願望を否定している。核問題とそれ以外の問題についてのわが国の懸念は、ただイラン政権がこれらの政策を変更し、政治制度をオープンにし、国民に自由を与えるという戦略的な決定をした場合にのみ最終的に解決できる。これが合州国の最終的な目標である。当分の間、われわれはイラン政権の悪行の不都合な結果に対して、わが国の国家と経済の安全を守るために必要なあらゆる手段をとるであろう。問題はイラン政権の不法な振るまいと危険な野望の中にあるのであって、イラン国民の合法的な願望と関心の中にあるのではない。われわれの戦略は、イランの政権によって抑圧されている人々に手を差し伸べ、対策を強化しながら、この政権によって引き起こされる脅威を防ぐことである。
 北朝鮮政権もまた深刻な核拡散の挑戦を行っている。それは長くて見通しの見えない二枚舌的で不誠実な交渉の連続であった。かつて北朝鮮政権は、合州国を同盟国から切り離そうと試みたこともあった。今回、合州国はこの地域の主要なパートナーである中国、日本、ロシア、大韓民国(ROK)と、DPRK(北朝鮮)は現存するすべての核開発計画を放棄すべきだという意見の一致を得た。地域的な協調はこの問題の平和的、外交的解決の最良の希望を提示した。2005年9月19日に調印されたこれら諸国の6者協議の共同声明で、北朝鮮は核兵器と現存するすべての核開発計画を放棄することに同意した。共同声明はまた、当事者は朝鮮半島の恒久平和について協議しアジアの安全保障協力を促進する方法を検討することも言明した。合州国は6者協議諸国の中のわが国のパートナーと共に北朝鮮に対し約束を実行するように圧力をかけ続けるであろう。
 合州国は北朝鮮に大きな関心を持っている。北朝鮮はわれわれの通貨を偽造した。麻薬取引や他の不法な行為にかかわり、ROKを軍隊で脅かし、近隣諸国をミサイルで脅かし、国民を虐待し餓死させている。北朝鮮政権はこのような政策を変更し、政治システムを開放し、国民に自由を与える必要がある。当分の間、わが国は北朝鮮政権の悪行による不都合な結果に対してわが国の国家と経済の安全を守るために必要なあらゆる手段をとるであろう。
 第2の目標は核分裂物質をならず者国家やテロリストの手の届かない所に置くことである。このため、われわれは世界中にある不充分にしか保護されていない核・放射線物質によって引き起こされる危険性について言及しなければならない。政府はこれらの物質を可能な限り早急に減らし、保護するための地球規模の取組みを「全地球的脅威削減計画」(GTRI)を含むいくつかの活動を通じて主導している。GTRIは核物質の所在を確認し、追跡し、現存する備蓄を減らす。この新しい取組みはまた、監視装置を輸送の結節点に設置することにより核物質の不法な取引を阻止している。
 PSIの成功に基づき、海運、航空運送、積み替えルートに照準を合わせ、またWMD拡散を推進する者(国)から、彼らの活動を支える資金源を奪うことにより、合州国はWMDの不法取引をやめさせるための国際的な取組みを主導している。

 2.生物兵器

 生物兵器もまた、世界中の多くの人々に病気を撒き散らす感染のリスクを伴うことから重大なWMD脅威となる。核兵器と違って生物兵器は入手困難な設備や物質を必要としない。このことが拡散を管理することを難しくしている。
 生物兵器の拡散に立ち向かうことは、生物兵器による攻撃を摘発し、対処できる能力を向上させ、危険な病原体を安全に管理し、生物兵器に使用できる物質の拡散に歯止めをかけることに焦点を当てた戦略を必要とする。合州国は連携国・機関と共に、疑わしい病気の発生を早期に発見する地球規模の生物監視能力を強化することに取組んできた。われわれは国内で公衆衛生の基盤を近代化し、産業界に新しい種類のワクチンと医学的対抗策の開発を早めるよう働きかけることに着手した。このことはまた、鳥インフルエンザの流行のような公衆衛生への脅威に対処できる国家的な能力を向上させるだろう。

 3.化学兵器

 化学兵器は重大な拡散の懸念があり、アルカイダなどのテロリストが積極的に求めている。生物兵器と同じように化学兵器の脅威は、技術の発達、薬剤開発の発達、物質と装置の取得の容易さによって増大している。
 このような脅威から防衛し抑止するため、化学兵器に関する能力向上を追求するテロリストのネットワークを確定し崩壊させ、化学兵器製造に必要な物質の取得を阻止する取り組みを行う。合州国軍隊と緊急対応者が生物兵器による攻撃の被害を処理するために訓練され、装備されることを保証するなど、国内外での化学兵器の探知と防衛能力の向上を図っている。

 4.行動の必要性

 新しい戦略的環境は抑止と防衛への新しい姿勢を要求する。もはやわれわれの抑止戦略は仮想敵に壊滅的被害を加えるという前提に第1の基礎を置いていない。敵に攻撃対象を与えず、必要であれば圧倒的な武力で反撃することにより、国家、非国家の攻撃者を抑止するために攻撃、防御の双方が必要となる。
 安全、確実で信頼の置ける核戦力は決定的な役割を果たし続ける。われわれはニュー・トライアッド(新3本柱)の開発によって抑止力を強化している。すなわち、攻撃的空爆システム(核と改良された通常兵器で)、ミサイル防衛を含む能動的かつ受動的防衛、強化された指揮統制、企画立案と情報収集システムが統合された反応インフラストラクチャーなどである。
 これらの能力はわれわれが直面している新しい脅威のいくらかを今以上に抑止すると共に、同盟国に対する安全保障面での約束を強化する。このような安全保障面での取組みは幾つかの国に独自の核兵器計画を差し控えることを確信させる決定的な役割を果たしてきた。その結果われわれの核不拡散という目的に寄与した。
 しかし、仮想敵を抑止し友好国と同盟国を安心させることは広範な取組みの一部に過ぎない。WMDの挑戦に対処するには、効果的な国際的行動も必要である。国際社会は合州国が主導した時にこうした行動に最もよく参加する。
 行動を起こすことは必ずしも軍事力の発動を必要としない。われわれが優先し共通の慣行にしているのは、主要な同盟国や地域のパートナーと協力して国際的外交手段により拡散に関する懸念に対処することだ。にもかかわらず、昔からの自己防衛の原則に基づき、敵の攻撃の時間と場所が不確定な場合であっても、敵の攻撃が始まる前のわれわれの武力の使用を除外することはしない。WMDによる攻撃の被害が破滅的なものになりかねない時、われわれは深刻な危険が現実化するまで手をこまねいている訳にはいかない。これが先制攻撃の原則であり論理である。国家安全保障戦略における先制攻撃の位置は不変だ。われわれは自分たちの行動の結果を評価しながら常に慎重に前進するだろう。われわれの行動の根拠は鮮明にされ、軍事力は計算され、動機は正しいものとなるであろう。

 5. イラクと大量破壊兵器

 現政権は未解決のイラクの脅威を引継いだ。2001年初め、国連の制裁措置に対する国際的な支持と継続されていたイラク政権の武器関連動向に対する制限は次第に腐食されており、国連安保理の主要国はそれらを解除するよう要求していた。
 アメリカにとって、9月11日の攻撃は脅威が未解決のまま残存することの危険性を浮き彫りにした。サダム・フセインの近隣諸国に対する侵略の経歴、テロリストの支援、自国民に対する圧制、化学兵器の使用などとあわせて見ると、12年にわたる16の国連安保理決議の無視はこれ以上看過することのできない脅威となっていた。
 国連安保理は2002年11月8日、イラク政府に対し武装解除の義務を直ちに遵守するよう、満場一致で決議1441を通過させた。サダムは再び国際社会を無視した。イラク調査グループによると、サダム・フセイン打倒後イラクに入った査察官チームとその報告はイラク政権の違法な活動の内容を全面的に明らかにした。
 「サダムはWMDは依然として利用価値があると見ていた。彼はWMDの保有はイランに対する抑止力になるという点についてあえて曖昧な印象を与えるようにしたと説明した。彼は情報能力を保持するよう明確な指示をした。国連の制裁措置が蝕まれるにともなって、WMDの全面的な再開発を支援しかねない動きがおきた。彼は、長距離ミサイルの開発を支える弾道ミサイルの開発活動の継続を指示した。イラク政府の高官の誰もサダムが永久にWMDを放棄すると信じていなかった。証拠が示すところによれば、材料の調達が可能になり、制裁措置の制約が減少するにつれ、その後のWMDの再開発を支援する効果を有する活動が拡大していった。」
 この脅威は、サダム政権の解体によって、完全に対処できた。
 イラク査察団は、戦争前の情報機関によるイラクのWMDの備蓄の見積もりは間違っていたことを発見した。この結論は、超党派による委員会と議会の調査によっても確認された。本当の拡散の脅威に立ち向かって勝利を収めようとするならば、今回の経験から学ばなければならない。
 第1に、われわれの情報機関は改善されなければならない。大統領と議会は合州国の情報機関の再建と強化に踏み出した。責任と釣り合った権威を持つ情報機関の責任ある一人の指導者と、情報の共有化の進展と情報資源の増加はこの目標の現実化のために役立っている。
 第2に、WMDの拡散者は往々にして彼等の活動を隠蔽するためにはどんなことでもする残虐な政権であるため、隠された計画の現状については不確実さが常にある。実際、91年の湾岸戦争以前には、多くの情報機関の分析者はイラク政権がもたらすWMDの脅威を過少評価していた。彼らは、この紛争の後、イラクが様々な経路を使って核分裂物質の生産の試みを相当のところまで進めていたことを知って驚いた。
 第3に、サダムのブラフ、拒絶、騙しの戦略は独裁者が命がけで演じる危険なゲームである。世界はサダムに対し明確な選択肢を提示した。すなわち、完全かつ即時の武装解除の義務を果たすか、それとも重大な結果に直面するかである。サダムは後者を選び、今イラクの法廷で裁判を受けている。世界が問題にしたのはサダムの無謀な行為であり、合州国と同盟国の行動を強いたのはサダムが不透明性を除去することを拒絶したからだ。危険で予測不可能な圧政者を取り除くことで世界がより良い場所になったことは疑いなく、WMDの追求が自分自身の危機を招くことを圧制者が知ったなら世界はより住みやすくなるだろうということも疑いない。

 Y.自由市場と自由貿易を通して 地球的経済成長の新時代を興せ

 A.2002年国家安全 保障戦略の概要

 自由で公正な貿易を振興することは長い間アメリカの外交政策の基盤となる原理であった。より大きな経済的自由は、結局のところ政治的自由と切り離せない。経済的自由は個人に力を与える、そして力を得た個人は次第により大きな政治的自由を要求する。より大きな経済的自由は、またすべての人により大きな経済的チャンスと繁栄をもたらす。歴史は、市場経済が唯一の最も効果的な経済制度であり、貧困に対する最良の対抗策であることを明らかにしている。経済的自由と繁栄を拡大するために、合州国は自由で公正な貿易、開かれた市場、安定した金融制度、世界経済の統合、安全できれいなエネルギーの開発を推進する。

 B.現在の情勢 成果と課題

 世界経済はより開かれ自由となり、世界の人々は繁栄と経済の統合が増大するにつれ彼らの生活が改善されるのを見てきた。政府は2002年に提示した経済の自由に関する以下のような計画の多くを達成してきた。
世界の主導権を握ること
 われわれは世界貿易機構(WTO)の「ドーハ開発計画」交渉を立ち上げることを通して世界経済の統合と市場の開放に取組んできた。合州国は、世界の農業貿易の改善、農産物輸出補助金の廃止と貿易を歪める支援計画の縮小、消費財と生産財へのすべての関税の廃止、世界サービス市場の開放のために大胆で歴史的な提案を行った。2003年交渉が行き詰まった時、2004年ジュネーブで最終的に枠組み合意を取り付けさせることで「ドーハ」を軌道に戻らせることを主導した。協議が進む中で、合州国は開かれた市場を通した経済的な自由のための先進的で大胆な提案を推進することで世界を主導し続けた。われわれはまた、アルメニア、カンボジア、マケドニア、サウジアラビアなどのWTOへの加盟を率先して支援した。
地域的・二国間の貿易の推進
 われわれは市場を開放し、経済改革と法の支配を支援し、アメリカの農民と労働者にとって新たなチャンスを創造するためFTAを使ってきた。
 2001年以降、われわれは次のことをしてきた。
・5大陸の14の国とのFTAに関する交渉を完了しまたは実行し、現在、11の国と合意のための交渉を行っている。
・長期間にわたってエルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラ、ニカラグア、コスタリカ、ドミニカ共和国の指導者が追求してきた「中米・ドミニカ共和国自由貿易協定(CAFTA−DR)」を成立させるために議会と協力してきた。
・2003年、中東をチャンス拡大の輪に入れるため2013年までに中東自由貿易協定(MEFTA)を創設することを呼びかけた。
・MEFTA開始に向けた基礎作りのためにバーレーン、ヨルダン、モロッコ、オマーンと自由貿易協定について協議した。
・2002年、「アセアン企業計画」を立ち上げた。それはシンガポールとの自由貿易協定の完了、タイ、マレーシアとの交渉の開始を導くものであった。
・アジア・太平洋地域でのアメリカの最も強力な同盟国であり、合州国の主要な貿易相手であるオーストラリアとFTAを締結した。
・「アフリカの成長と機会」法によりサハラ以南のアフリカとの貿易を拡大するチャンスの促進を継続し、「拡大特恵システム」により他の多くの開発途上国のチャンスを増大させた。
開かれた市場、財政の安定、より一層の世界経済の統合の強力な要求
 われわれはヨーロッパ、日本、他の経済大国と手を組み全世界にわたって成長、安定性、チャンスを後押しする構造改革を促進した。合州国は以下の取り組みをしてきた。
・G7で「成長のための計画」の合意を得た。それは構成各国に国内経済制度の改革のための具体的な措置を求めるものである。
・地域的、世界的な成長のエンジンの役割を果たす国々−インド、中国、韓国、ブラジル、ロシア−と共に市場開放と財政的な安定を確実にするための改革に取組んだ。
・中国に対し、中国と世界の経済に役立つ一歩である、市場原理に基づいた変動相場制への移行を促した。
・結果を重視し、良好な政府と健全な政策を育成し、返済不可能な負債から貧しい国を解放するよう国際金融機関の改革を強く求めた。
エネルギー安全保障とクリーンな開発の強化
 政府は貿易相手とエネルギー生産者と共にエネルギーの種類とエネルギー供給源の多様化、市場の開放と法の支配の強化、世界の需要を満たすエネルギー開発の助けになる民間投資育成に取組んできた。われわれはまた、
・先進工業国、新興国と共に水素、精炭、新しい核技術に取組んできた。
・オーストラリア、中国、インド、日本、韓国と共に、エネルギー安全保障を強化し、貧困を減らし、汚染を減少させるクリーン技術の開発を促進するために、「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」を形成した。
 幾つかの課題が残っている。
・多くの国での保護主義者の衝動は市場開放の利益を危険にさらし自由で公正な貿易の拡大と経済成長を妨げている。
・法の支配が欠けている国は崩壊しやすく、透明性に欠け、貧弱な統治しか行われていない。これらの国は起業家精神の促進、知的財産の保護、国民が必要な投資資本を入手する権利の承認を怠っているため国民の経済的な願望を挫いている。
・多くの国が世界の不安定な部分から輸入される国外の石油に頼りすぎている。
・経済統合は富を世界中に広げると共に地域の経済はより世界市場の影響を受けやすくなっている。
・幾つかの政府は、資本の流れを規制し、経済成長を促進する賢明な投資の決定的役割を破壊している。これは投資、経済的チャンス、新たな雇用を最も必要している人々からそれらを奪うのである。

 C.今後の方針

 経済的自由は道徳的規範である。創造し、製造し、売買し、資産を所有する自由は人間の本性の基本であり自由社会の基礎である。経済的自由は政治的自由を補強する。それは政府の影響の及ぶ範囲を制限する権力と権威の分散化された中心を作り出す。このことは、自由な思考の流れを拡大する。すなわち、貿易と外国投資の増大に伴って、市民が自分たちの生活をより良く管理できる新たな思考と生活様式がもたらされるのである。
 自由と繁栄を拡大し続け、諸課題に対処することは、以下のようなものも含めわれわれの戦略を前進させる。
1.市場を開放し開発途上国を統合すること
 世界のほとんどが原則としては経済的自由の魅力を肯定するが、実践においては多くの国は補助金と関税障壁の偽りの快適さに固執する。このような市場の歪曲は、先進国においては成長を阻害し、発展途上国では貧困からの脱却を遅らせる。こうした目先だけの刺激策に反対して、合州国はすべての参加国を歓迎し、特恵的ではなく相互の利益に基づいた商品とサービスの自由意志による交換を促進する持続的な世界経済構想を推進する。
 われわれはこの計画をWTOと2国間或いは地域的FTAを通して前進させ続けるだろう。
・合州国は「ドーハ開発計画」交渉の妥結を追求する。「ドーハ」が首尾よく合意すれば、アメリカと世界中の他の国のチャンスを広げる。貿易と開かれた市場は開発途上国の国民が自分たちの生活を改善する力を与え、一方で国家管理経済を悩ます腐敗の機会を減らす。
・われわれはロシア、ウクライナ、カザフスタン、ベトナムとともに、WTO加盟に必要となる市場改革にこれからも取組む。WTOへの参加はチャンスを与えると同時に義務を生じさせる。すなわち、法の支配を強化し、現代の知識経済を支える知的所有権を尊重し、さらに関税、補助金や、世界経済を歪め世界の貧困者に害を与える貿易障壁を取り除くことである。
・われわれはバーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦を参加国とするFTAを合意・発足させることによりMEFTAを前進させる。そしてまたその他の活動により、この地域の国との、またこれらの諸国間の開かれた貿易を拡大する。
・アフリカにおいては、ボツワナ、レソト、ナミビア、南アフリカ、スワジランドなどの南アフリカ関税同盟諸国とのFTAを追求している。
・アジアにおいては、タイ、韓国、マレーシアとのFTAを追求している。われわれはまた中国にWTOの義務を引き受け知的財産を守るよう中国と緊密に協力している。
・アメリカ大陸では、NAFTA、CAFTA−DR、チリとのFTAを築くことでアメリカ諸国の自由貿易地域構想を前進させる。われわれはコロンビア、ペルー、エクアドル、パナマとのFTAを合意し、実施するだろう。
2.エネルギーの自立を守るためのエネルギー市場の開放、統合、分散化
 世界経済を動かすエネルギーの大半は化石燃料、とりわけ石油である。合州国は世界第3位の産油国だが、わが国の石油需要の50%以上の供給を海外の資源に頼っている。ほんの少数の国が世界の石油供給に寄与している。
 世界が少数の供給国に依存することは長期的に見れば信頼を置けないし安定的でもない。われわれのエネルギー安全保障を確実にする鍵は、わが国が依存するエネルギー資源の供給地域とエネルギー資源の種類の多様化にある。
・政府は資源の豊かな国と共に開放性、透明性、法の支配を強化するよう取組む。このことは国内の効果的な民主主義的統治を促進し、資源の開発とエネルギー供給国の幅を広げるために不可欠な投資を引きつけるだろう。
・われわれは「世界核エネルギーパートナーシップ」を他の国と共に構築し、進んだ核リサイクルと反応炉技術の開発と設置に取組む。この試みは、旧式の技術による廃棄物の負担を減らし、かつ、ならず者国家やテロリストが核兵器用に使用できる分離されたプルトニウムの製造ができない信頼の置ける、排気ガスの出ないエネルギーを提供する。これらの新しい技術は、大きくなる世界のエネルギー需要に合致する安全で、きれいな核エネルギーの飛躍的な普及を可能にする。
・われわれは外国のパートナーと共に精炭や水素などの転換技術の開発に取組む。われわれの「FutureGen」計画(排気ガスの出ない石炭ガス化発電プラント建設計画)のようなプロジェクトを通して、豊富にある国内の石炭を排ガスのない電力源や水素に転換することにより、わが国の経済に排ガスの少ないより大きな電力を供給する。
・国内において、排ガスゼロの石炭火力発電所や、画期的な太陽光・風力発電技術、きれいで安全な核エネルギー、最先端のエタノール生産方法に投資している。
 われわれのエネルギー戦略は大まかに言って国外のエネルギー源への依存を減らすことを優先している。エネルギー源の多様化は「石油ののろい」を軽減する。石油収入に頼る傾向は幾つかの石油産出国において腐敗を助長し、経済の成長と政治的改革を妨げている。このような国の多くでは、支配者のエリートが自らを富ます一方で、国民には自然の冨からの利益を与えることを拒否している。最悪のケースでは、石油収入はその地域を不安定にする活動の資金となり、あるいは暴力的な思想を助長している。地域内、地域外に供給源を多様化することは腐敗の機会を減らし、無責任な支配者の影響力を少なくする。