COMMUNE 2007/6/01(No.372 p48)

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6月号 (2007年6月1日発行)No.372号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  世界戦争切迫に揺れる中国

□胡錦涛政権のキーワードは「調和(和諧)社会」
口スターリン主義と「改革・開放路線」の矛盾
□汚職蔓延・農民暴動・3農問題・農民工急増
口朝鮮侵略戦争への間合いを詰める6カ国協議

●翻訳資料 アーミテージ報告改訂版(中) 2020年までアジアをいかに正しい方向に導くのか

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/韓国FTA交渉妥結決死糾弾−−室田順子

    改憲投票法案阻止

三里塚ドキュメント(3月) 政治・軍事月報(3月)

労働月報(3月)  闘争日誌(2月)

コミューン表紙

 民営化に絶対反対

▼民営化に絶対反対の闘いを貫いた労働組合として動労千葉は圧倒的な注目を全世界から集めている。80年代、世界でレーガン、サッチャー、中曽根の民営化攻撃の嵐が吹いた時、動労千葉は国鉄分割・民営化の狙いが国労を柱とした国鉄労働運動の破壊にあることを見抜いた。中曽根自身が「国労を解体して総評を潰す」と公言していた。ところがカクマルは国鉄分割・民営化に真っ先に賛成し、国労指導部は破壊・解体の対象とされながら闘わずして屈服した。20万人が首を切られ、労組破壊が吹き荒れ、職場で労働者が危険を知りながらもそれに抗議することもできない力関係が作り出された。その帰結として尼崎事故が起きた。

▼戦争と民営化は全世界で吹き荒れた。その最初はチリであった。チリでは70年にアジエンデ政権が鉱山労働者を始めとするチリ労働者階級の闘いを軸に成立した。米帝がクーデターを画策し73年にピノチェト政権が誕生した。このクーデターの先兵にAFL−CIO (アメリカ労働総同盟・産別会議)が立っていたことが暴かれた。ピノチェトは労組活動家を虐殺することで労組を破壊した。政権が労働者人民に加えた大虐殺の真相は今明らかにされつつある。その経済政策が「チリの奇跡」と宣伝した世界初の「新自由主義政策」である。規制緩和・民営化、市場原理主義である。その結果はどうなったか。米帝はチリに金を貸し付け、累積債務を増大させ、それを盾にとって国家破産させ、IMF(世界銀行)の管理下に置く、国家をのっとる方式だった。債権とりたてのために規制緩和・民営化を強制し、資源・産業を略奪していった。夕張市でやっていることの前例がここにある。

▼民営化とは、没落し、体制的危機に陥った帝国主義が、延命するために、国営・公営事業と財産を大資本にただ同然で売り渡し、さらに莫大な利潤を保証し、同時に労働運動の中軸となっている公務員労働運動を破壊するものだ。戦争切迫の情勢において、国家公務貝、地方公務員の労働組合が存在し、闘っていること自体を帝国主義は許容できない情勢になっている。だからこそ日教組、自治労、国労、全逓など4大産別の労働組合が改憲反対勢力として存在していることが決定的に重要である。

▼06年6月、メキシコで革命が起きた。南部のオアハカ州で教育労働者組合を拠点に、APPO (オアハカ諸民族人民会議)が結成され、州政府のほとんどのビル、施設や放送局を占拠し支配した。「人民警察」が首都オアハカ市を始め20以上の市町村で「革命的治安」を維持した。APPOは、自らを 「コミューン」と呼んでいる。1981年のパリ・コミューン、ロシア革命のソビエトのような、労働者自らが主体となって社会を動かしていく革命的権力が州レベルとはいえ出現したのだ。その後権力は奪われたが、既成の体制内労働運動を突き破った時に労働者階級の根底的な力が解放され、革命に転化していくことが証明された。

▼民営化は労働組合つぶしであり、革命の事前圧殺だ。既成の体制内労働運動は、民営化に反対して闘うことが帝国主義・資本と真っ向からの激突となることを恐れ、屈服している。動労千葉がつくりあげてきた階級的労働運動こそが労働者階級と労働組合の原理原則を守る闘いである。労働者は労働者革命の勝利にのみ未来の展望を語ることができる。(∪)

 

 

翻訳資料

 アーミテージ報告改訂版(中)  2020年までアジアをいかに正しい方向に導くのか

 リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイ 2007年2月

 丹沢 望訳

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 目次

・序文2020年までのアジア
・中国
・インド
・朝鮮半島
・南朝鮮との食い違いの処理
(以上、5月号掲載)

・東南アジア
・オーストラリア
・ロシア
・台湾・地域統合
・アメリカ合州国と日本 実例によって領導する
・アメリカ合州国と日本 同盟を正しい方向に導く
・経済
(以上6月号掲載)

・安全保障
・アメリカ合州国に何が求められているか
・提言 2020年の課題
・日本への提言
・米日同盟に関する提言
・地域政策に関する提言
・世界政策に関する提言
・結論
・補足(以上7月号掲載)
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 第1節 ● 東南アジア

 東南アジアは米・日にとって重要な位置を占め続けるであろう。東南アジア諸国は6億の人口を有し、総計した国内総生産は約8000億jであり、それらはいずれも今後急速に増大すると予測される。東南アジアはその経済的重要性に加え、ペルシャ湾やインド洋から太平洋への海路にまたがって位置しているため、戦略的重要性を持つ。この海路を通じて世界の貿易量の30%と世界のエネルギー輸送量の50%が流通している。
 中国の巨大で増大し続ける経済的・政治的ウエイトは、この地域にとって重要な要因である。中国のこの20年間の急速な経済的発展は、東南アジア諸国に新たな機会と課題をもたらした。中国と東南アジア諸国連合諸国との貿易は、昨年だけで30%増大した。ASEAN諸国のほとんどは中国との拡大する貿易と投資機会によって恩恵を受けているが、アジアでは中国の経済的発展が経済的・政治的・安全保障的情勢をどのように変動させるかについては、かなりの議論が行われてきた。
 アメリカと日本は、民主主義と人権を強化するパートナーであり、経済成長のエンジンである東南アジアの発展を促進することに共通の関心を持っている。両国ともに、テロや核拡散、伝染病との戦いにおいて東南アジア諸国との全面的な協力を必要としている。
 民主主義制度は東南アジアではいまだ脆弱であり、ジェマー・イスラミヤなどのように民主主義的改革に反対する集団は勢力を拡大している。ASEAN内の国家対国家の紛争は今日、可能性としては少なくなった。またさらにASEANの統合が進むとともに、2020年にはそのような紛争が起きる可能性はさらに少なくなる。
だが、「アセアン方式」は、この地域において、ジェマー・イスラミヤやビルマの軍事独裁、ラオスやカンボジアにおける弱体な統治体制などの国内的課題に対処することを阻害しかねない。ASEANはまだその成長を打ち固めておらず、そのためビルマ、カンボジア、ラオス、ベトナムなどが破産した。ASEAN諸国間の亀裂は拡大し、それがテロリストに利用される可能性がある。ASEANにとっての将来の課題には、真の経済的・政治的統合を実現すること、民主的改革を継続すること、外国勢力に対抗する外交的ウエイトを増すことなどがある。
 ASEANの成功のカギを成すものは、主要諸国の成功であろう。民主主義的な新生インドネシアの成功は、アメリカと日本にとって特別に関心がある事柄である。それは地域的、世界的に巨大な意義をもつ。インドネシア政府との安全保障面および経済面での堅固な関係は、今後のアメリカの地域的、世界的構想にとって極めて重要なものであり続けるだろう。とはいえアメリカのタイ、マレーシア、フィリピンとの関係は、強力で多様な側面をもっており、民主主義の支柱となっている。それは、法の支配、自由なメディア、自由で公正な選挙などであるが、これらはすべて一定の投資を必要とする。おそらく次の15年間で最大のチャンスは、ベトナムにあるだろう。ベトナムがその潜在的力を発揮し、ASEAN全体の効率性向上にいっそう貢献するためには、すでに進行中の経済改革を補完するための政治的改革が必要とされている。ASEANは地域意識育成の中心であったし、汎アジア主義的グループ化を抑止する舵取り役である。

  第2節 ● オーストラリア

 2001年の9・11攻撃に対して、ジョン・ハワード首相はアメリカを支援するためにアンザス(ANZUS)条約を発動した。その後の、「不朽の自由作戦」と「イラクの自由作戦」においてアメリカを支援するという首相の決定は、すでに強力な同盟関係をさらに強化する役割を果たした。
 にもかかわらず、同盟を強力なものに保つためには熟達した政治運営が要求される。同盟の内部においては、主要な問題は将来の展望に関する見解の相違から発生した。アメリカが地球規模の観点に重点を置いたのに対し、オーストラリアは地域的利益と地球規模の利益のバランスを追求していたからである。本国に近い地域では、オーストラリアは、その限られた防衛力に大きな負担を求める東チモールや西パプア、パプアニューギニア、ソロモン諸島の行末などに関する、多くの安全保障課題に直面していた。同盟の内部では、防衛力と防衛支出の規模との間の不均衡に関する問題も生じた。
 第一次世界大戦への参戦時に遡って見てみると、オーストラリアの国家安全保障の考え方は、現在でも「同盟」政策に集約されている。オーストラリアの歴史、地理、国益は、オーストラリアを世界的関心をもった地域大国とする要因であった。オーストラリアは、その地域的利害を守るために地球規模で行動しながら、同時にアメリカとの関係を調整しつつ地域の諸大国と協力してきた。オーストラリアが地域のリーダーとしての役割を受け入れたことは、その戦略的思考の根本的な変化を示すものである。イラク戦争以降、オーストラリアは地域のリーダー国としてアジア・太平洋地域に戻ろうとしている。これはアメリカが認識し尊重すべき動向である。
 日本やアメリカと同様にオーストラリアは、傾向としては汎アジア的であるにもかかわらず、太平洋横断型の政策を取っている。オーストラリアのこの相補性は、アジア・太平洋地域にまたがる開放性を促進するための、3カ国間の協力の機会を提供している。

  第3節 ● ロシア

 地理的・歴史的関係から、また核兵器を保有し、国連安保理事会の理事国であるという関係から、ロシアはヨーロッパに重点を置いているが、北東アジアの均衡を保つ要因でもある。ロシアは、経済成長が最優先課題とされているこの地域に経済的にも政治・外交的にも関与はしていない。それはロシアがこの地域では重要な要因でないということを示している。だが、以上に見た理由すべてから、ロシアはこの地域の均衡要因の一部であり、朝鮮に関する六者協議への参加によって示されたように、ロシアの選択は重要な問題に影響を与える。さらに、世界第2位の石油輸出国であり、世界最大の天然ガス埋蔵国として、ロシアは、この地域のエネルギー安全保障に重要な貢献をする可能性がある。サハリンでのエネルギー開発と話題となった石油・天然ガスパイプラインは、北東アジアのエネルギーの将来に対するロシアの潜在的重要性を浮き彫りにした。
 ロシアの現在の国家統制主義的・国家主義的政策は、北東アジアのエネルギー市場へのロシアの参入の展望を制約しているが、この地域の主要なエネルギー消費国(中国、日本、韓国)は、供給源を多様化し、ロシアを経済的にこの地域に統合するために、ロシアのシベリア石油と天然ガスに関心を向けている。
 最近、ロシアの統治には、基本的な人間の自由と民主主義的発展に対する脅威となる非常にやっかいな傾向が見られる。ロシアが一種の「権威主義的民主主義」へ移行していることは、東アジアでロシアがいかなる要因になるかという点について深刻な問題を提示している。それは、ロシアが東アジアの安定を強化あるいは混乱させる潜在的能力を有しているということを示した。

  第4節 ● 台湾

 台湾とその民主主義の勝利は、アメリカと日本にとっては重要である。台湾の持続する民主主義は、台湾の国民にとっては、よりよい統治と自由実現の最良のチャンスをもたらしている。それは目的を同じくする友人としての台湾との2国間協力あるいは地域的協力の展望を広げ、台湾をそれぞれの政治体制を自由化したいと望んでいるアジア諸国の模範とする。
 2005年2月、アメリカと日本は2プラス2の閣僚会議声明で、「対話を通じた台湾海峡問題の平和的解決の促進」のための共通の戦略目標を発表した。この賢明な目標は2020年まで、あるいは紛争当事者の2者が未解決の政治的相違を持ち続けるかぎり、われわれの政策指導指針となるかもしれない。
 このようなアプローチの仕方の背景には、対話を通じた問題の平和的解決に貢献しうる環境を作り出し、維持することに米・日が共通の利害をもっていることの承認がある。このような共通利害を増進するため、アメリカは「双方抑制」政策を適用してきた。それは中国による軍事力の脅威やその行使を抑止する一方で、同時に台湾の独立への単独の踏み出しを抑制するものである。アメリカにとっては、これは台湾の正当防衛の必要性を支持し、軍事力に対抗する能力を維持し、相違を解消する手段として軍事力に訴えようとする試みに反対しながら、他方で一つの中国政策を厳格に守ることを意味する。日本はアメリカのこうした義務を理解すべきであり、台湾海峡の平和と安定を維持するにふさわしい同盟国たるべきである。アメリカにとっても日本にとっても、これは中国と台湾の間のポジティブで建設的な相互関係を促進することや、挑発的な表現や有害な政治的マヌーバーを抑制することや、軍事的威嚇や強制に断固として反対することを意味する。
 このアプローチの仕方には、平和的な海峡を越えた対話の助けとなる環境を、いかにして最善のかたちで作り出すかというアメリカと日本の視点と同様の視点を台湾の国民が支持するという想定が組み込まれてもいる。しかし、そのうち民主主義的に台湾が異なった道を選択すれば、アメリカと日本は、この地域におけるわれわれの共通利害をいかに最良の形で追求するか、その方法を再検討する必要がでてくるであろう。近いうちに台湾は自国の防衛を強化する措置を取り、民主主義と統治の在り方を改善し、直接的な連絡網の承認を含めた中国との肯定的な交渉計画を立案すべきであろう。このような踏出しは、アメリカ、日本、そしてこの地域に正しいメッセージを送るものとなるだろう。

  第5節 ● 地域統合

 世界貿易機関(WTO)は、2020年までにアジア域内貿易が1兆2000億jになると見積もっている。アメリカは、第一位ではないが重要な、この地域の製品の最終市場であり続けるであろう。アジア域内貿易(全貿易量の51%を占める)は、現在すでに北アメリカ自由貿易協定(NAFTA)の域内貿易よりも固定的であり、この趨勢が同じ方向に継続すると予測される理由がある。だが太平洋の両側の間の貿易と投資もそのペースが低下しているとはいえ、拡大し続けている。
 アジアの諸フォーラム(ASEAN、ASEANプラス3閣僚、アジア・ボンド基金、チェンマイ・イニシアチブ、アジア協力対話、東アジアサミット)の拡大は、汎アジア貿易・投資パターンの急拡大の論理的帰結である。これらのフォーラムは、まだ始まったばかりだが発達しつつあるアジア・アイデンティティー感覚の成長を示すものである。政治の課題はアジア域内の経済と制度の統合と太平洋間のそれの正しい結合形態を見いだすことである。
 アジア・太平洋経済協力会議(APEC)のフォーラムは、太平洋をまたぎ国際基準と一致する地域的経済機構である。だがAPECは、初期の貿易自由化のダイナミズムを失い、現在は東アジアサミットなどの新たな諸フォーラムとの競争と、汎アジア的なFTAの動きの急速な活発化に直面している。この地域の指導者たちが貿易と投資を歪めるブロック化を回避することは、アメリカの利害とアジア・太平洋の安定にとって決定的であろう。2020年の建設的なシナリオは、相互に強化しあう一群の健全な機関の出現である。それはAPECを中軸とし、国際制度内に組み込まれた機関である。だがこの地域の制度や機関は間歇的に出現し、西欧同盟や北アメリカ自由貿易協定の発展を導いた戦略的ビジョンのようなものなしに発足させられている。
 中国は、他国の内政への「不干渉」と「低障壁」の原則に基づく、多国間主義をとっている。中国の参加は歓迎されているが、統合と協力の過程では内政が問題となる。現在のWTOの規則を完全に満たすために中国があらゆる努力をすることは、中国自身の利益のためにも国際的な貿易制度のためにも重要である。諸自由貿易協定は多国間貿易自由化を促進するとはいえ、それら全ては同じ価値をもっているわけではない。質的に全ての部門をカバーするわけではなく、新規参加国にすぐに取引契約をもたらすわけもない特恵貿易協定は、時間と資源を別の方向に向かわせ、アジアの自由貿易への動きを阻害するかもしれない。
 この地域の検討課題は、会議にどの国が参加するかという問題と同様に重要である。アメリカは日本や同様の考えを持つ諸国とともに、民主主義や法の支配、国内での政権の行動に関する近代的な基準を支持する論議を進めるための努力を強める必要がある。
 もちろんこのようなアジアの統合に対する大きな障害もある。例えば、中国と日本の対抗、歴史的な精神的傷の痛み、異なった政治体制、天然資源をめぐる対立などである。にもかかわらず、この地域の制度・機関は徐々に形成されつつある。そして様々なフォーラムを通じて、その方向性は2020年にはさらに明確なものになるであろう。われわれの利害に対する有害な影響を最小化するために、この多様な過程の結果を整理することは、アメリカと日本が緊密に協議すべき課題である。

 第6節 ● 歴史に関して

 北東アジアにおいては歴史問題は決着がついていない。実際、過去の問題は、日本、中国、南朝鮮の内政においては未解決の問題である。この5年間、歴史問題に関する様々な議論が、小泉純一郎首相の靖国神社参拝をめぐって展開された。しかし2004年以降、中国は歴史問題と日本の指導者による靖国参拝の廃止問題の適切な取り扱いについて、ハイレベルでの交渉を条件づけた。だが、2006年10月、中国と日本の政府は、靖国問題を回避し、小泉首相の後継者の安倍晋三首相は、中国の胡錦濤首相と会談するため北京を訪問した。北京では安倍と胡は日中関係の歴史を研究するための学者たちの共同委員会の設立に合意した。この委員会は12月末に東京で第一回の会合を持った。
 今日、日本では靖国神社の将来と、1978年における戦争中の東条英機首相を含むA級戦犯の靖国神社への合祀をめぐる激しい政治的論争が行われている。日本の世論調査ではこの問題の民主主義的解決をめざすコンセンサスが形成されつつあることを示している。これは、この論争の恒久的な結論は日本国民の意思と支持を反映する必要があるのだから、非常に重要である。
 われわれは、日本が民主主義国家として自らの過去を処理し、隣国との将来の協力関係を形成する力を持っていると確信している。だが将来においては、過去を客観的に扱うということに関しては、双方向的でなくてはならない。

  第7節 ● アメリカと日本 実例によって領導する

 2020年のアジアで、発展しつつある国際関係構造についてアメリカが検討するに当たって、回避するよう追求すべきシナリオがいくつかある。とりわけ、アジアの主要大国が、国力、影響力、ナショナリズム、資源の需要を高めているなかで、アメリカの一極的なアジア政策が成功しないことは明らかだ。アメリカのこの地域における役割を、現出しつつある現実に合わせるには、そのような政策の追求は逆効果であることが明らかになるであろう。
 ある人々にとっては、アメリカと中国の共同管理は、この地域にとっては論理的に帰結する将来の構造のように思える。しかし、アメリカと中国が異なった価値体系を有している限り、また地域的・世界的な相互の利害に対する明確な理解が欠落している限り、そのような調和的見方は米中関係の潜在的可能性を過大評価するものであるというのがわれわれの見解である。中国との共同管理は、アメリカがそれを受け入れるならば、アメリカに対して中国のウエートと価値が増大するのを憂慮しているこの地域の同盟国や友好国との関係を質的に悪化させる。この関係はある意味で、この地域における戦略的バランスを実現するためのカギを成すものである。
 しかし同時に、中国に対するアメリカや日本だけとの2極構造は有効なものではないであろう。なぜならば、それは他の地域大国に、この二つの競合する極のどちらかを選択することを強いるからだ。いくつかの国はアメリカや日本の側に立つだろうが、ほとんどの地域大国は厳格な中立を保ったり、中国と連携するであろう。結局はこれは、アメリカや日本などの強力な民主主義のお手本としての位置を弱め、この地域を冷戦や19世紀の力の均衡の論理の時代に引き戻すだろう。それは、この地域の安定を改善せず、中国の潜在力を肯定的な変化に貢献させるものとはならないであろう。東アジアの安定は、米・日・中の関係の質に基礎をおくものになるだろうし、アメリカが日本と緊密に同盟していようと、アメリカ政府はこの三者のあいだの良好な関係を促進すべきであろう。
 アジアの最良の在り方は、アジアで成功を収めている他の大国のこの地域の諸問題への積極的な関与と結びついた、持続するアメリカの力と関与やアジアにおけるアメリカのリーダーシップの上に成り立つ。日本、インド、オーストラリア、シンガポール、その他の諸国が、アメリカとのパートナーシップに基づき、民主主義的価値観を共有して、他の諸国に例を示すような開かれた構造を作り出すことが、自由市場や法の支配・政治的自由の拡大に基づいた繁栄の持続強化というアジアの課題を実現する最も効果的な道である。アメリカと日本は、アジアの貿易活動の一環を形成することにますます利益を見いだしているベトナムや、われわれと価値観を共有するニュージーランドなどの諸国との関係形成を追求すべきである。
 中国政府との間で不一致の領域が存在することを率直に認めつつ、これらすべての活動は、中国との協力領域を拡大するための活動と一体的に行うべきである。このような形でアジア諸国と協働することによって、われわれは中国を含む全アジアの向かうべき方向と成長に積極的な影響を与えるカギを握っている、すなわち、「アジアを正しい方向に導ける」と信じている。

  第8節 ● アメリカと日本 同盟を正しい方向に導く

 「アジアを正しい方向に導く」という目的に関して、米日同盟をこの戦略内のどこに位置づけるかという問題がある。ある者は、われわれが米日同盟にあまりに依存しすぎるとアメリカと日本はアジアで孤立するだろうと主張している。これらの人々は、歴史的問題をめぐる日本と中国、日本と韓国の間の当面する緊張を指摘し、中国に対するわれわれの長期の戦略を転換することを主張している。われわれはこうした構想が、アジアにおけるわれわれの最大の戦略的資産である緊密な米日同盟を不必要に弱体化させるだろうと考えている。米日同盟はアメリカのアジア戦略の核としてあり続けることができるし、そうあらねばならない。この戦略の成功のカギは、共通の脅威に対する排他的な同盟から、共通の利益と価値観に基づいた開放的で包括的な同盟へと、この同盟それ自身を発展させ続けることである。
 2020年に関しては一つのことが確実に言える。アメリカと日本は依然として民主主義制度と共通の価値観を持つ世界の2大経済大国であり続けるということである。したがって、米日同盟はこれまで通りアジアの未来を築き続けるであろうし、世界的均衡の最重要の要因であり続けるであろう。
 今日の日本の役割を考察してみよう。日本は、国連、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行などの2番目の資金供与国として国際機関を支えている。中国と韓国を除いた世界の諸国家での2006年の世論調査では、日本は公共の財産に対する寄与国として世界で最も尊敬を集めている国である。日本は度を超さない自衛力と米軍の駐留支援によってアジアの力の均衡を支えている。日本は2004年の津波のような際に、5億j以上の援助金の供与や自衛隊の派遣などの援助を供与している。日本は経済発展や民主義的原則、国際的協力の肯定的な模範例となっている。
 国際制度へのこのようなハイレベルの財政支援を維持しうる日本経済の力は、2020年までには相対的には低下するだろうが、50年間の受動的姿勢の後に、日本の新たな指導者たちは、日本の国際制度における比重を高く保つ先行的行動的な安全保障上および外交上の役割の強化について検討している。アメリカは、自信に満ちてこうした活動に参加する日本を必要としている。米日同盟の方針を転換したり、日本への期待を低下させることは、この地域の安定やアジアにおける日本の役割に否定的な影響を与えかねない。
 2020年には国際制度を下から支える日本のかわりに、日本は最善の場合でも「2流大国」として満足するようになり、最悪の場合、反抗的でやっかいな民族主義的な国になる可能性もある。
 日本に対し国際的安定と安全保障を支援する積極的役割を演じるように促さないことは、日本の全潜在力を国際社会にもたらすことを拒否するものである。だがアメリカの戦略が日本の国民感情と一致する形で日本への高い期待を維持するならば、民主主義的価値観に立脚したリーダーシップが何を意味するかの顕著な例としてアジアに登場するであろう。この点に関して、われわれは米日関係の二つのカギをなす要素、すなわち経済と安全保障問題に注目している。そしてわれわれは、アジアの将来に影響を与える日本の能力と米日同盟についてわれわれが抱いている大きな期待を実現することを目指した超党派的な行動指針を立案している。

  第9節 ● 経済

 日本は継続されている経済回復と日本の多くの構造的な経済問題の解決の道をしっかりと進んでいる。2001年4月の小泉首相と彼の顧問団の登場は、経済史における大きな転換点となった。不良債権の大部分が主要銀行の貸借対照表から一掃された。かつて巨額の負債と非生産的な設備を背負っていた企業は負債を削減し、今日では1980年代初頭以後最良の財政状態にある。資産価格と小売物価のデフレーションは大部分が解消した。最後的には、今日の日本の生産者と消費者は、1991年に崩壊したバブル経済以後のいかなる時期よりも自国の経済に信頼を置くようになっている。
 だが以下の3つの要因は、今後、これに対処しなければ、国際的な経済大国としての日本の未来に重くのしかかっていくであろう。
 まず第1に、政府の負債である。GDPに対する日本の負債の割合は確実に200%に迫っている。日本の堅実に稼働する経済に支えられて利子率が上がらないならば、この負債の補填はますます困難になるであろう。
 第2の要因は人口問題である。日本の人口は明らかに減少している。2015年までに65歳以上の人口比率は25%を超えるとされており、それとともに急速に減少する労働人口の負担と社会的支援費用が問題となる。
 第3に、日本が生産性を大幅に増大させなければならない。日本の製造業者は生産効率に関しては世界的標準になっているが、サービスと金融部門における低い生産性によって、この強さは相殺されている。生産性総体を引き上げるためには、技術革新を行い、長期間未発達だったサービス部門を拡大させるより自由な支配権を産業に与える持続的な規制緩和が必要であろう。さらに経済全体の資産収益率の引き上げが必要であろう。水素燃料車や燃料電池、超微少技術、バイオテクノロジー(これらはすべて2020年の経済においては新たな成長部門になる)などの新開発部門への相当量の投資が決定的に重要である。
 この数十年間の中国の成長著しい経済力と、その将来的展望は多くのアメリカ人と日本人を困惑させているようだ。ある者は、中国の勃興を、中国の得たものがわれわれの失ったものだとするゼロサム・ゲームと見なす。しかし、より正確な見方は、特にアメリカと日本の企業にとって中国が生産センターとして出現したことは、中国にとって消費需要、投資資本、ハイテクの中心的な源であるアメリカや日本への中国の依存をますます強めさせるということである。中国がアジア域内輸出の行き先としての位置を高めているにもかかわらず、他のアジア諸国からの中国の輸入の多くは木材や、回路基盤のような中間製品などの原材料であり、それらはアメリカやヨーロッパや日本の消費者が購入する工業製品として再度輸出される。中国の現在の発展段階では、国内需要が成長を支えることはない。われわれのノウハウ、資本、アメリカでの消費という「エネルギー」なしには、巨大な中国の経済機械の「ギア」が回転するのは困難であったろう。
 相当の将来にわたって、米・日はアジアの経済的繁栄と安定のカギを握り続けるであろう。われわれ2カ国は、アジアが主要な一員である国際経済制度についてリーダーシップをとり、賢明な監督役を務める第一の責任を有しているのである。
 同様に、お互いが相互の経済の構造的・戦略的問題を成功裏に乗り越えるのを助け合う道について熟考する必要がある。国際貿易交渉のドーハ・ラウンドが混乱に陥っているのであるから、単に経済だけでなく国家戦略まで見通す目を持ちつつ、われわれの経済的パートナーシップの濃密さと深さを拡大する道について熟考することがますます重要になっている。アメリカと日本は、2国間の自由貿易協定にむけての交渉を促進することによって、自由貿易と経済的統合を促進し確立する方向にむけて敏捷に動く必要がある。これがアジアに出現しつつあるFTAのネットワークのハブになり、世界経済全体にエネルギーを供給するだろう。
 ある者は、自由貿易交渉の基盤がまだ存在していないと主張するかもしれない。確かに日本の規制制度を、日本人や外国人の企業家の市場へのアクセスを強化する日本政府の国際基準採用努力と一致させる方向で行うべき多くの根回しが残っている。医薬品、テレコミュニケーション、医療サービス、農業、情報技術、エネルギーなどの諸分野においては、効率性を改善しアクセスを拡大するために、取り除かれるべき多くの特殊な障壁がある。金融サービスの分野などのように、顕著な進展があった分野でさえも問題はまだ残っている。特に外国人が自企業の生産物を市場にのせるアクセス問題や、さらには日本の郵便制度が民営化される際にその資産を購入する件などに関してはそうである。
 同時に、自由貿易を主張する強力な国内の力も働いている。例えば、日本の農業部門における人口変動は、保護主義的な政策の根本的な転換を余儀なくさせている。日本の農業部門は衰退しており、そのGDPに占める割合は1990年の2・4%から2004年には1・2%へと半分に低下している(農業のGDPに占める割合は工業のそれのわずか20分の1である)。大部分の農民は兼業農民であり、「農家」は農業からはその収入の4分の1しか得ていない。さらに2015年には農家の数を現在の290万世帯から210万世帯以下に減少させる計画があり、農業人口は急速に減少している。65歳以上の農民の割合は、15歳から64歳の農民の割合の約2倍となっている。農業人口のうち数が増大しているのは70歳以上の農民である。信じられないことに、2015年の日本の農業労働者の平均年齢は65歳以上となり、特に年齢の高い層は重労働の米栽培部門に集中している。総じて、日本は農業部門では人口動態上の危機に直面している。
 人口問題に強制されて、日本は農業をさらに自由化する強力な理由があり、有効な選択肢はほとんどない。農業問題は米を含む全項目が米日FTA交渉の中心議題となりうるし、なるにちがいない。しかしこのようなFTAは、日本の農民感情と「米文化」を配慮する必要がある。自由化という課題に関する洗練された解決策は、農民の引退と農業人口の減少に符号する形で、次の10年間に関税を段階的に削減することである。
 同時に、日本人は自由化は日本の農業の抹消を意味するものではないことを理解する必要がある。リンゴ、牛、オレンジ、生鮮食品などの自由化がすでに行われた部門におけると同様に、米農家は疑いもなく有機農産物のような高品質品に転換するであろうし、規模の経済によって効率性を増大させるであろう。農業部門であっても、日本にとっては自由化は有利な提案でありうるのだ。
 これらの理由から、アメリカと日本は包括的な自由貿易協定についての交渉を開始する意思をできる限り早く表明すべきである。近い将来、大統領貿易促進権限が消滅するので2008年の選挙以前にこれが実現する可能性はないが、にもかかわらずアメリカと日本の指導者はこの目的を常に視野に入れておくべきである。この協定は関税・税関手続きを調和させるだけでなく、太平洋の両岸における生産性の顕著な増大という目標をもった規制措置と投資環境の面での一致をめざして、事態をさらに進展させるであろう。ドーハの義務と一致するFTAは、日本市場への外国人や新参入者にとって機会を顕著に拡大し、貿易条件を相当程度に平等化し、全般的な透明性を強化するであろう。
 また適切に締結されたFTAは、疑いもなくアメリカの日本への投資のドアを大きく開くであろう。他方でそれは日本が高齢化した社会に直面しながら、その構造調整の課題に対処する際に助けになるであろう。次の20年間に、米日FTAは、日本の国内向け直接投資のレベルを現在のGDP比2・1%からアメリカの水準と同様の14%にまで引き上げることを目指すべきである(たとえそれが実現しても、これはG7の平均のGDP比20%より小さいものになるであろう)。
 最後に、そして決定的なことであるが、WTOと両立する2国間自由貿易協定は、アジア地域の市場経済ネットワークのハブとしての役割を果たす。とりわけ米日FTAは、アメリカがシンガポール、オーストラリア、南朝鮮、マレーシア、タイと交渉してきた、あるいは現在交渉しているFTA網の一環をなすだろう。これは中国がWTOの義務条項を満たす際の強力な刺激となる。さらに重要なことに、米日FTAは質的に高度のFTA網の一環になるであろう。
 要するに、包括的な米日自由貿易協定の直接的な経済的利益はおそらく非常に大きなものになるだろうということである。だがアジア・太平洋地域の全構成諸国にとって、政治的、戦略的利益はさらに大きなものになるだろう。
 米・日にとって、米日安全保障条約の基盤となっているものとあらゆる点で同じような強力な共通の核心的原則の上に経済同盟協定にサインすることは、この地域と世界に極めて強力なシグナルを送るものとなろう。それは米日が自国民の未来と世界の安定、繁栄のために同じ夢と熱望を分有しているということを経済的にも政治的にも示すものとなるであろう。