COMMUNE 2007/9/01(No.375 p48)

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9月号 (2007年9月1日発行)No.375号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  ●特集/27カ国に拡大した巨大ブロックEU

□独仏主軸にし日米に対抗的な経済圏・通貨圏
・EU第2次東方拡大の意味するもの
・拡大EUの当面する問題
・死の苦悶にあえぐ現代帝国主義
□統一後、民営化・労組破壊攻撃を開始した独帝
・EU拡大とドイツ帝国主義
・90年代からの戦後的労資関係解体攻撃
・90年代から現在に至る労働者階級への攻撃

●翻訳資料 中国の軍事力 2007年 −議会への年次報告−米国防長官

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/7・1悪法施行を迎え撃つ−−室田順子

    6・22、23沖縄闘争

三里塚ドキュメント(6月) 政治・軍事月報(6月)

労働月報(6月)  闘争日誌(5月)

コミューン表紙

 改憲阻止の決戦へ

▼安倍政権は、今度の通常国会で、改憲投票法、米軍再編特別措置法、教育4法改悪、イラク派兵法延長、社保庁解体法、年金特例法、国家公務員法改悪法などを、実質審議抜き、16回の強行採決、委員会採決の省略などデタラメな方法をとって成立させた。労働者人民の絶対反対の意志を踏みにじり、まさにクーデター的に押し通した。絶対に許されない暴挙だ。また安倍は不明年金問題の責任を社会保険庁の労働者に押しつけ、労働者を「ゴミ」とののしり、「社保庁のガンとゴミ」を一掃すると言い放っている。さらに自民党幹事長・中川秀直は、「自治労や日教組はハローワークに行ってもらう」などと自治労と日教組への階級的憎悪をむきだしにし、労組解体、大量首切りを宣言した。これは敵の強さではない。労働者階級が革命的に決起した時にブルジョアジ支配が一瞬にして粉砕されてしまうことへの階級的な恐怖だ。

▼日本帝国主義は世界で最弱の帝国主義である。世界は、すでに第3次世界大戦への道を転がり落ちている。帝国主義間の争闘戦が激化している。国際的な大企業間のつぶしあい、資源の争奪戦争、軍拡競争が激化し、帝国主義国家間のつぶしあいが始まっている。そうした中で安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を掲げている。これは根本的には米帝を基軸とする戦後世界体制からの「脱却」を意図するものだ。戦前の帝国主義列強の一員であった「大日本帝国」の復活を夢見るものだ。国内的には憲法9条を柱とする戦後体制の抜本的変革、9条改憲の政治クーデターを目指すものだ。戦後革命の敗北を経て、ブルジョアジーと労働者階級の間に形成された階級的力関係を抜本的に変えることを目指している。具体的には戦後労働運動の解体であり、その核心が4大産別労組の解体である。それが日帝にとっての改憲だ。労働者階級の組織的団結形態である労働組合を壊滅し、ブルジョアジー独裁を打ちた立てようとしている。こうした緊迫情勢にあって、4大産別指導部は体制内労働運動にまみれ、腐敗・堕落を深め、日帝の先兵に転落している。だが現場には労働運動が生き生きと根付き未だに一掃などされていない。安倍は、ここに階級的憎悪を向けているのだ。

▼そして、4大産別の中から新しい戦闘的労働運動を切り開く闘いがわきおこっている。その背後に労働者階級の中には「このまま黙っていたら、生活も生命も破壊されてしまう」という労働者階級の怒りと危機感が爆発的に広がっている。とりわけ2人に1人が非正規雇用で低賃金と不安定雇用に苦しむ2000万人の青年労働者が生まれている。3・18−6・9闘争を通して「労働運動で革命をやろう」のスローガンは2000万人の青年労働者中に圧倒的共感をもって迎えられた。安倍の改憲攻撃に対して、4大産別を柱に、2000万人青年労働者が職場から決起し、資本と激突し、既成労働運動指導部と激突しながら階級的労働運動をつくりあげて闘う展望が生まれている。その闘いの先頭に動労千葉労働運動が立っている。安倍の「戦後レジームから脱却」に対して、戦後革命を真に継承し、帝国主義の体制そのものの転覆を目指して改憲阻止闘争を闘おう。それは動労千葉労働運動が戦後革命と戦後労働運動を継承し、体制内労働運動を打ち破ってつくりあげてきた階級的労働運動を全国につくりあげることだ。(U)

 

 

翻訳資料

 翻訳資料

  中国の軍事力 2007年(上)

 丹沢 望訳

   【解説】

 2007年5月25日、米国防総省は、中国の軍事動向に関する年次報告である「中国の軍事力」を公表した。この報告書は、中国の軍事大国化を強調し、中国脅威論を前面に押し出している。中国が米帝の世界的権益を脅かす最大の軍事的対抗者として成長していることを強調し、中国に対する警戒を呼びかけるものである。
 報告書では、中国が政治的・経済的大国として急速に台頭し、その力を背景として国際・国内情勢に対応する軍の装備近代化を進めるとともに、戦略面でも全面的転換を図っているとしている。
 戦略的大転換の特徴としてあげられているのは、「自国領土内での持久的な消耗戦を展開する大部隊の軍隊」から、「情報化時代における局地戦争」を遠隔地でも戦うことのできる軍隊創設への動きである。
 この転換は、中国が国外に資源を求め、領土をめぐる紛争で強硬的態度を取り、世界的な軍事・外交政策を展開しはじめたことが原因であるとしている。すなわち、中国の経済大国にともなう世界政策の展開が、軍の近代化・戦略的攻撃能力の強化と戦略転換を必然化したとしているのだ。
 戦略的大転換のもう一つの特徴として報告書があげているのが、中国の「先制攻撃戦略」への動きである。中国軍が従来の「積極的防衛」戦略の内容を実質的に変更し、力点を積極的攻勢を取ることに置いた防衛戦略に転換したとしている。報告書では「国境から遠く離れた地域での軍事力使用によって領土的主張などの核心的な利害を防衛し、拡大することができるなら、中国が軍事的先制行動を行う可能性を示唆している」と指摘している。
 さらに第3番目の特徴として、戦略的攻撃力の強化を指摘している。報告書では、中国が大陸間弾道弾の開発によってアメリカ本土を射程に入れ、対宇宙攻撃能力の強化によって米帝の宇宙における兵器体系を脅かしていることを強調している。
 以上の点は、米帝が将来の中国侵略戦争に向けて、中国の軍近代化の急進と軍事大国化を強調し、それに対する戦争体制を構築しようとする意図を持って指摘されている。
 翻訳については、長文のため、一部は省略した。今月号では第3章までを掲載し、4章以下は次号に掲載する。

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 【要旨】

 中国の世界的野心をもった政治的・経済的大国としての急速な台頭は、今日の戦略的情勢にとって重大な要因である。それはアジア地域と世界にとって重要な意味を持つ。アメリカは平和的で繁栄した中国の勃興を歓迎し、世界体制の健全性と継続性のために大きな責任を分有する責任ある国際的な利害共有者として中国が関与することを奨励する。だが、中国の指導者が設定した自国の将来の方向性をめぐっては大きな不確実性がある。それには中国の増大する軍事力や、その軍事力をどのように使うかという領域の問題も含まれる。
 中国の人民解放軍は自国領土での持久的な消耗戦を想定して作られた大部隊の軍隊から、ハイテク軍事力をもつ敵に対して短期の激烈な戦闘で勝利することができる能力を持つ軍隊へと全面的な転換を行おうとしている。それは中国が「情報化時代における局地戦争」と呼んでいるものである。軍事力を遠方で維持する中国の能力は、現在のところ限定的なものである。だが、2006年の「4年ごとの戦力見直し報告」に記載されているように、中国は「アメリカと軍事的に競争する最も大きな潜在力を持っており、長期的にはアメリカの伝統的な軍事的優位を無くしてしまいかねない妨害的軍事技術を配備している」。
 中国が短期的には台湾海峡での偶発的軍事衝突やアメリカの介入の可能性に備えることに重点を置いていることが、その軍事力の近代化計画の重要な推進要因であるように思われる。だが、中国の軍事的強化と戦略思考の分析によれば、中国政府は資源や領土をめぐる紛争などの他の地域的な軍事的偶発事件に対処する能力を創出しつつあるようだ。
 国内の防衛・科学・技術産業への高い率の投資の継続、先進的な外国製武器の取得、軍の広範囲な改革などによって促進されて、最近、中国の軍事的変革の速度と領域は増大している。中国軍の軍事能力の増大は、東アジアの軍事バランスを変動させる主要な要因である。すなわち中国の戦略的能力の改善は、アジア・太平洋地域をはるかに超える地域に悪影響を与えてきたのである。
 中国の戦略戦力の近代化によって、戦略的攻撃能力が強化されている。それは2006年に初期的脅威可能性(まだ全面配備されていないが、いつでも配備可能段階にあること)を持つに至ったDF−31大陸間弾道弾によって証明されている。中国の対宇宙計画は、2007年までの直接上昇対衛星兵器の実験成功によって強化され、有人宇宙飛行に対して危険をもたらし、宇宙開発を行っている全ての国家の施設を危険にさらす。中国の領域通過・占領阻止、接近阻止戦略は、近代戦の戦場における従来の陸、空、海という次元から、宇宙とサイバー空間を含むものになっている。
 外部世界では、中国の動機や政策決定のありかた、軍近代化を支える重要な諸能力についてはあまり知られていない。中国の指導者は、人民解放軍の強化され続けている軍事能力の目的や、その望ましい最終状態についていまだに適切な説明をしていない。いくつかの領域における中国の行動は、公表された政策とますます矛盾しているように思える。現在の中国の防衛予算は、公的に明らかにされた額よりもはるかに多い。このような中国の軍事問題に関する透明性の欠如は、当然にも不可知なものに対してリスクを回避しようとする国際的な対応を促す。

 第1章 主要な動向

 第1節 中国の基本戦略と安全保障戦略、軍事戦略における動向

 ・中国政府は12月に、1998年以来5番目の国防白書である「2006年の中国の国防」を発表した。それは中国の安全保障に関する現状認識、国防政策、軍近代化計画の目標を明らかにしている。公的に発表された政策として、この白書は透明性に関して若干の改善を示しているが、中国の軍事力の構成や中国の軍事的強化の目的やその望ましい最終状態に関して適切に提示してはいない。
・中国政府は10月に「2006年の中国の宇宙活動」を発表した。これ以前の版は2000年に発行されている。この白書は、中国の宇宙計画の歴史を振り返り、将来のロードマップを提示している。同時に、宇宙活動面での様々なパートナーとの間の中国の協力活動に関しても論じている。だがこの白書は、中国の宇宙計画の軍事的適用と宇宙からの攻撃への反撃に関しては沈黙したままである。
・2007年1月、中国は自国の気象衛星に対して直接上昇式の衛星攻撃ミサイルによる攻撃実験を成功させた。それは地球の低軌道上で活動する衛星を攻撃する中国の能力を誇示した。この実験は、宇宙開発を行っているすべての国の資産を危険にさらし、かつてない量の破片を生み出すことによって有人飛行を危険にさらした。
・2006年の状況は、中国が人民解放軍の軍事戦略と軍事力強化に関する指導文書である1993年の「新時代の軍事戦略ガイドライン」を修正したことを示唆している。だが、このガイドラインの詳細な内容については明らかではない。
・中国の胡錦涛主席とロシアのプーチン大統領は、わずか12カ月の間に5回目の会談になる3月の北京での会談で、2006年を「ロシアの時代」と宣言した。2005年の共同演習の上にたって、二人の指導者は軍事的交流を深め、2007年に8つの共同軍事行動を行うことを合意した。
・エネルギーと資源をめぐる懸念の増大を反映して、2006年には、サウジアラビアやいくつかのアフリカ諸国との新契約など、中国が締結した新たなエネルギー契約は増加した。2006年には、アフリカ諸国と交流しようとする中国の努力は、アフリカ53カ国のうち40カ国の国家元首や代表が参加した11月の北京でのサミットで最高潮に達した。
・2006年3月、中国は第11次5カ年計画(2006〜2010年)を公式に開始した。そこでは、2010年までにGDP1単位当たりのエネルギー消費の20%削減、2010年までに2000年のGDPの2倍のGDPを実現すること、2020年までに総額4兆jのGDPを実現するという意欲的呼びかけもされていた。この計画は、均衡のとれた整合的な発展と、所得の不均衡と社会不安に対処するために内陸部の農村地域により大きな投資を行い、都市化を行うことを強調している。
・世界銀行によれば、中国は2006年に世界第4位の経済を実現し、「世界銀行アトラス」の計算によれば国内生産でイギリスを0・004%上回るであろう。
・政府のレポートによれば、「大衆紛争」は2006年には22%減少した。にもかかわらず、主に地方の政策や当局に向けられたこれらの紛争は、財産権、強制的な移住、労働権、年金、公害、汚職、警察の残虐行為などに関する当局の行為に大衆が不満を感じ続けているという事実を反映している。

 第2節 中国の地域戦略に関する動向(略)

 第3節 中国の軍事力の強化

 中国は、戦力投入能力と他国の軍の領土への接近を阻止する能力を強化するために、その軍事力を長期にわたって全面的に改革している。近いうちに起こりうる台湾海峡での偶発的事件に攻勢的に対処することに重点を置いて、最も先進的なシステムを台湾と直接的に対峙する軍区に配置している。
▼弾道ミサイルと巡航ミサイル
 中国は、ミサイル部隊を増強し、一部のミサイルシステムを質的に高度化し、弾道ミサイル防衛システムに対処する方法を開発しながら、攻撃ミサイルの開発と実験を行っている。
・2006年10月までに、中国は、年間100基以上のペースで配備を増強しながら、台湾からの攻撃から自国を守るために約900基の移動式のCSS−6とCSS−7短距離弾道ミサイルを台湾に対峙する守備部隊に配備した。このミサイルの新しいタイプは、射程距離と精度を改善した。
・中国は、生き残りシステムを強化するなど、長距離射程の弾道ミサイル兵力を近代化している。路上を移動でき、固体燃料推進のDF31大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、2006年に初期的脅威可能性を獲得し、現在はそうでないにしても、近い将来に実働段階に入るかもしれない。長距離ミサイルの改良型であるDF31Aは、2007年に初期実戦配備段階に達するだろうと期待されている。中国はまた新型の潜水艦発射弾道ミサイルであるJL−2の開発を行っており、新型のJIN級原子力ミサイル潜水艦への配備も行われようとしている。
・対航空母艦および対陸上攻撃など、敵戦力の領土への接近・侵入を阻止する任務のために、中国は弾道ミサイルと巡航ミサイルの使用を検討中である。指揮、管制、攻撃目標捕捉の改善のための索敵・通信システムについても取り組んでいる。
▼海軍力
 中国の海軍力は72隻の主要戦闘艦と、58隻の攻撃型潜水艦、約50隻の中型および重量級の水陸両用揚陸艇、約41隻の沿岸ミサイル警戒艇を有する。
・中国は2006年末にロシア製の2隻の誘導ミサイル駆逐艦(DDG)SOVREMENNYYUのうち2隻目の艦を受け取った。これらの誘導ミサイル駆逐艦は、対艦巡航ミサイルと広域対空防衛システムを備えている。これらの装備は、中国がかつてロシアから購入した旧型のSOVREMENNYY級DDGの質的改良を示すものである。
・中国は弾道ミサイル原子力潜水艦であるJIN級の第二世代の原子力潜水艦(094型)と、SHANG級(093型)の攻撃型原子力潜水艦を建造しテストしている。それらは2005年に海上試運転が開始されている。
・中国は2隻のKILO級の潜水艦をロシアから供給された。これは2002年に8隻の契約を行ったうちの2隻だ。中国は12隻のKILO級の潜水艦を稼働させているが、そのうち最新型のものは超音速のSS−27B対艦巡航ミサイルとワイヤガイド式魚雷と航跡自動追尾の魚雷を装備している。(中略)
・2006年には中国は最初の誘導ミサイルフリゲート艦であるJANGKAIU(054型)を生産し始めている。JANGKAIUは、現在開発中の垂直発射の海対空ミサイルで中距離射程のHHQ−16を装備することになっている。
・2006年の珠海での航空ショーでは中国の軍人や文民の役人たちは中国が航空母艦を建造することに関心をもっていると強く主張していた。
▼空軍力
 中国は台湾から燃料補給不要の作戦距離内に基地を持つ700機以上の戦闘用航空機と、この数を顕著に増大しうる飛行場能力を保有している。人民解放軍の軍事体制下の多くの航空機が旧式モデルをアップグレードしている(例えば、B−6爆撃は航続距離増大のためにエンジンを取り替えた)。だが、新型の航空機が現有機全体に占める割合を増大している。
 中略
▼航空防衛
 次の数年間に中国は、ロシア製のS−300PMU−2地対空ミサイルシステムを保有する最初の大隊を形成する。公称の迎撃射程距離が200qのS−300PMU−2は、戦術弾道ミサイルやさらにそれより効果的な電子兵器を決定的に破壊する能力をもたらす。
 中国はフェーズドアレイレーダーに依拠し、150qの射程を持つ自国製のHQ−9航空防衛ミサイルシステムを開発しつつある。(中略)
▼陸上兵力
 中国は約140万人の地上兵力を有し、うち約40万人は台湾の対岸の3つの軍区に展開されている。中国はこれらの部隊に、戦車、装甲人員輸送車、大砲などを装備して強化している。2006年4月、中国は新型の第三世代の主要戦車、ZTZ−99を、初めて北京軍区と瀋陽軍区の部隊に供給した。
▼水陸両用兵力 略

 第4節 中国の軍事ドクトリンの発展

・中国は「情報化」という条件下で、統合された共同作戦、共同兵站、長距離移動性に重点を置いて作戦できる能力の形成に取り組んでいる。
・2006年6月、人民解放軍は訓練をリアルなものにし、その高度化を目指してシミュレーターや対抗部隊の使用の強化を進めるために、新たなガイダンスを発表した。
・2006年12月には、人民解放軍第2砲兵軍団、海軍、空軍、陸軍のための指揮官大学の指導部は、共同のプロフェッショナルな軍事教育への道を固めるために共同教育協定に調印した。(中略)
台湾の抑止力への挑戦の評価
(略)

 第2章 中国の戦略を理解する

 第1節 概観

 中国の指導者は戦略的目標の概略を示す包括的な「基本戦略」とそれを実現する手段をを明確な形で提示していない。このようなあいまいさは、戦略計画を隠蔽する周到な努力や、不確実性、合意の不在、自分たちの長期の目的や戦略に関する中国の指導部自身の間の論争などを反映するものである。だが、それでも中国の戦略的伝統や、歴史的パターン、論評や公的文書、中国でのある種の軍事能力の重視、最近の外交活動などを元にして中国の「基本戦略」について一般化することはできる。

 第2節 中国的特質を持つ戦略

 中国の総合的戦略の核心には、中国共産党の支配の継続性を維持しようという要求が存在する。政治権力を失うのではないかという根深い恐怖感が、指導者の戦略的態度を形成し、取るべき道を選択させる。破産した共産主義イデオロギーの代替物としての経済的成果とナショナリズムという二つの柱を基礎として、中国共産党はその支配の正統性を維持している。その結果、国内の経済的・社会的諸困難は、外交問題や安全保障問題の領域でわれわれが予測する以上に攻撃的な行動をもたらす民族主義的感情を刺激することによって政府への支持を強化しようという方向に中国を導くのである。
 中国の指導者と戦略家は、戦略について論議する際に、西欧式の「目的・方法・手段」という概念をめったに使わない。むしろ彼らは次の2つの中軸的考えに基づいて戦略問題を論議する。すなわち、「包括的な国力」と「軍事力の戦略的形態」という考え方である。(中略)
▼総合的な国力 中国の戦略立案者たちは、他の諸国に対する中国の地位を評価するために総合的国力という評価点を使う。これらの評価点は国土の質的量的大きさ、天然資源、経済的繁栄度、外交的影響力、国際的地位、国内的結束、軍事力、文化的影響力などをもとにしたものである。中国の指導的な文民および軍のシンクタンクは、包括的国力に関しては若干異なる指標を適用する。例えば、2006年の中国社会科学アカデミーは、中国を世界で第6番目の大国と位置づけるにあたって、経済的・軍事的・外交的測定基準を適用している。(中略)
▼戦力の戦略的形態
 「戦力の戦略的形態」は、西欧には直接的に対応する言葉がないが、おおむね「戦力の配置」と理解される。中国の戦略立案者は潜在的脅威(例えばアメリカが介入する可能性のある台湾をめぐる紛争など)や、国家戦略の調整を促す事態(例えばソビエト連邦の崩壊など)に対する「戦力の戦略的形態」を常に評価している。
 中国の指導者たちは、21世紀の最初の20年間を「チャンスの20年間」と述べている。すなわちそれは、地域的、国際的諸条件は全般的に平和で、中国の経済的・外交的・軍事的発展に資するものとなっており、したがって中国の大国としての勃興に資するものだということを意味している。こうした考えと密接にリンクしているものは、「平和的な発展」というキャンペーンである。それは、中国の勃興は平和的であり、新たな大国の出現は必ずしも紛争を必然的な帰結とするわけではないことを明らかにすることによって、中国の軍事的近代化とその世界政策に対する外国の懸念を緩和させようとするものである。

 第3節 安定性、主権、戦略

 中国共産党の支配を永久化するという立場が、中国政府の国内政治状況と国際環境に関する認識を方向づける。同様に体制の延命という観点が、激しさを増し、中国に波及しかねない周辺諸国(例えば北朝鮮、中央アジア)の不安定性についての党の指導者たちの評価を方向づける。正統性の維持に関する懸念も、陸海の領土的主張に関する中国政府の立場に影響を与える。中国の主権に関するいかなる挑戦も、党の権力と権威を弱体化させかねないからである。
 中国は最近、多くの隣国との領土紛争を解決してきた。だが東中国海における日本との紛争、国境線をめぐるインドとの紛争、南中国海におけるアジア諸国との紛争はまだ未解決である。中国はこれらの紛争によって地域的関係が断絶しないように努力はしているが、中国政府によって時折出される声明は、これらの地域に関する中国の決意を強く示している。例えば2006年10月の胡錦濤主席の画歴史的なインド訪問の直前に、駐印中国大使の孫玉璽はインドの報道機関に対して、「貴国がアルナチャル・プラデシュ州と呼んでいるすべての地域は中国の領土である……われわれはこれらの領土のすべてを要求する。これがわれわれの立場だ」と語っている。

 第4節 均衡、ポジション、戦略

 国境地域における安定を維持し、領土的要求を主張する中国の活動に加えて、中国政府は中央アジアと中東を取り囲む「大周辺地域」に戦略的関心を向けようとしている。このような立場の強調の背後にある戦略的目的には、中国の国境から遠く離れた地域において、資源と市場への接近路を維持し、アメリカや日本、インドなどの大国との力の均衡を保ち、対抗するために地域的プレゼンスと影響力を確立することなどが含まれる。
 同様に、中国の開発途上国に対する戦略は、資源と市場への接近路を探し、国連などの国際機関の内部に影響力を確保し、台湾の外交的活動の余地を制限することである。このような関係を形成するために、中国は自称開発途上国のリーダーという地位を強調し、グローバリゼーションの影響と拡大する「南北」の格差意識に関する地域諸国の不満に同情する立場を強調している。

 第5節 資源需要と戦略

 中国の経済が成長するにつれ、市場と天然資源、とりわけ金属類、化石燃料の安定的供給への依存は、中国の戦略的行動に急激な影響を与えるようになっている。現在、中国は外国からのエネルギーの供給も、中国の輸入原油の約80%が通過するマラッカ海峡などの輸送ルートも保持できていない。これは胡錦濤主席が「マラッカ・ジレンマ」と呼んでいる中国の弱点である。
 中国は自国のエネルギーの3分の2を石炭に依存している。だが、石油と天然ガスの需要は増大し続けている。2003年には、中国は世界で第2位の石油消費国となり、世界第3位の石油輸入国となった。中国は現在、40%以上の石油を輸入している(2005年には日量約250万バーレル)。2025年までには、その割合は80%にまで増大する(日量950万〜1500万バーレル)。2006年には中国は石油の戦略備蓄を開始した。2015年までには、国際エネルギー機関の基準である90日分の供給量の備蓄をつくることを計画している。だが、備蓄能力と輸送網が貧弱であるため、この備蓄量ではまだ不十分であるということが明らかになるだろう。
 エネルギー消費全体にしめる原子力と天然ガスの割合は小さいが、次第に大きくなっている。中国は2010年までに、エネルギーの全消費量に占める天然ガスの量を3%から8%に増大しようと計画している。
 外国からの輸入エネルギーへの中国の依存は、その戦略と外交に顕著な影響を与えている。中国はアンゴラ、中央アジア、チャド、エジプト、インドネシア、イラン、ナイジェリア、オマーン、ロシア、サウジアラビア、スーダン、ベネズエラなどと長期のエネルギー供給協定の締結を追求している。中国は、エネルギー取引を成功させるために、経済援助や外交的恩恵、そしてまた場合によっては軍事技術の売却などを活用している。さらに、エネルギー需要を充たそうとする中国の欲求は、人権問題から国際テロリズムの支援、核拡散に至る問題で国際的規範に逆らう諸国との紐帯を強化する方向に中国を導いている。
 過去数年間に、中国は重要な海洋通行路にある諸国に経済援助や軍事協力を提供してきた。これらの航路の安全に関する懸念は、中国に国際的水路を通過する資源の安全な運送を保障する助けとなる制海能力を追求させている。

 第6節 中国の戦略に影響を与えるその他の要因

▼経済改革
 経済的成功は中国が地域的・世界的大国として登場するための中軸的要因であり、ますます増大する軍事能力を持つ軍の基盤である。だが、潜在する構造的弱点は経済成長を脅かしている。人口移動や社会秩序の崩壊は、すでに脆弱な社会保障制度に大きな負担を与えている。経済の後退や沈滞は、国内不安をもたらし、それが国民の支持を維持するためにナショナリズムにますます依存させる可能性がある。
▼政治改革
 2005年10月の政治的民主主義に関する白書で、中国の指導者たちは「人民の民主主義的独裁」を再確認し、中国は「『全人民のための民主主義』という無政府主義的呼びかけに反対する」と宣言している。しかし、政治的解放を求める国内的圧力は依然として存在している。党の指導者達は、政治的異論を持つ者たちを処罰し、マスコミやインターネットを検閲し、独立した労働組合を弾圧し、チベット民族やウイグル人少数派を抑圧し、政府が認めていない宗教集団やキリスト教諸派を攻撃している。中国共産党は、たとえそれが非政治的であろうとも公認されていない組織については、いかなるものであろうともこれらの組織が組織された反対派になりかねないことを恐れて警戒している。
▼非従来性の安全保障上の脅威
(略)

 第3章 中国の軍事戦略とドクトリン

 第1節 概観

 中国の軍事理論家は、「情報化時代の局地戦争」を戦って勝利することのできる軍隊を建設するための軍事ドクトリンに基づいた体制を作ってきた。このような考え方は、人民解放軍が中国の国境から遠く離れた地域で正確な軍事作戦を行うことを可能にする力の倍増装置としての近代的な情報技術の役割を強調している。国外での紛争から得られた教訓を参考にしながら、とりわけ「不朽の自由作戦」や「イラクの自由作戦」なども含むアメリカの行った作戦や、ソビエト連邦やロシアの軍事理論、そして限定的ではあるが人民解放軍自身の戦闘の歴史などを参考にしながら、中国の軍事立案者は中国軍総体にわたる改革を追求している。
 この改革のペースと規模は驚くほどのものである。だが、人民解放軍は近代戦で試されないままに留まっている。軍事作戦経験の不足は、この軍事ドクトリンの追求するものをどの程度人民解放軍が実現したかについての外部からの評価を困難にしている。同様のことは内部評価や、ほとんどが直接的な軍事的経験をもたない中国の文民最高指導者の政策決定に関しても言える。それは危機が発生した時に大きな誤算を引き起こす可能性を大きくする。軍事作戦の経験のない司令官の意見に基づくものであれ、近代戦の戦場のリアリティーからかけ離れた「科学的」戦闘モデルに基づくものであれ、こうした誤算は同様に破局的だ。

 第2節 軍事戦略のガイドライン

 中国はアメリカの「国家軍事戦略」に相当するものを発行していない。それゆえ外部の観察者は、軍事力の使用に関する指導者の考え方や、人民解放軍の軍組織やドクトリンを方向づける諸有事概念を直接的に把握することが困難である。公式の演説や文書の分析によれば、中国は、軍の展開や投入を計画し管理する際には、「軍事戦略のガイドライン」として知られる一連の全般的原則やガイダンスに依拠しているようである。
 人民解放軍はこの「ガイドライン」の内容を外部の者が精密に検討できるようにはしていない。
 学術的研究によれば、恐らく1993年から採用された現在の「ガイドライン」は、1991年のペルシャ湾戦争とソビエト連邦の崩壊が、それ以前の10年間の人民解放軍の多くの改革の基礎をなしていた中国の軍事戦略思想に与えた影響を反映しているようである。(中略)
 作戦に関する、あるいは「ガイドライン」の「積極的防衛」に関する部分は変更が行われなかったように思える。「積極的防衛」は、防衛的軍事戦略を前提としている。この戦略では、中国は戦争を先に開始したり、侵略戦争をしたりしないが、国家の主権と領土の一体性を防衛するためにのみ戦争を行う。
 だが、中国政府の主権や領土への攻撃に関する規定はあいまいである。近代中国の戦争の歴史は、中国の指導者たちが軍事的先制行動を戦略的防衛行動と主張してきた例で充たされている。例えば、中国は朝鮮戦争(1950年〜53年)への介入を、アメリカに抵抗し、北朝鮮を助ける戦争としている。同様に、権威筋の文書は、インドとの国境紛争(1962年)、ソビエト連邦との国境紛争(1969年)、ベトナムとの国境紛争(1979年)を、「正当防衛的な反撃戦」としている。このような論理は、恐らく国境から遠く離れた地域での軍事力使用によって領土的主張などの核心的な利害を防衛し、拡大することができるなら、中国が軍事的先制行動を行う可能性を示唆している(例えば、台湾や未確定の国境や海上領土権の主張の際にである)。
 人民解放軍の教科書である「軍事作戦の科学」(2000年)によると、いったん敵対行動が開始されると、その場合の「[積極的防衛]の核心は、イニシアチブを取り、敵を撃滅することである。……戦略的にはこのガイドラインは積極的防衛であるが、[軍事作戦においては]力点は積極的攻勢を取ることに置かれる。このような方法によってのみ、積極的防衛の戦略的目標は実現される」(強調部分は付け加えたもの)。
 人民解放軍は敵対部隊を撃滅する能力を発展させることに加えて、軍事力の限定的投入というオプションも検討している。中国の軍事作戦理論は、このオプションを軍事力の「非戦争的」使用と規定している。すなわちそれは政治的強制行動の延長であり、フルスケールの戦争行為ではないとしているのである。1995年と1996年の、台湾海峡での海空演習とミサイル発射は、軍事力の「非戦争的」使用の例である。だが、この概念には空爆やミサイル攻撃、暗殺、サボタージュなども含まれる。(中略)

 第3節 非対称戦争

 特に、弱者が強者にうち勝つ方法として非対称性を識別し、利用することは中国の戦略と軍事思想の基本的特徴である。1991年のペルシャ湾戦争と、「同盟軍作戦」【1999年のコソボ空爆作戦】以来、中国の軍事戦略家は、技術的に優勢な敵の弱点を突くために非対称的手法を使うことを強調している。(中略)
 中国が非対称戦争的方法を探っているということは、弾道弾や最新鋭の対艦巡航ミサイルなどの巡航ミサイルシステム、潜水艦や最新鋭の機雷などの海面下戦争システム、対宇宙戦システム、コンピューター・ネットワークを利用した作戦、特殊作戦部隊などの領域に大きな投資を行っていることに見て取れる。