International Lavor Movement 2011/09/01(No.421 p48)

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2011/09/01発行 No.421

定価 315円(本体価格300円+税)


第421号の目次

表紙の画像

表紙の写真 公務員年金改悪に反対するイギリスのスト(6月30日)

■羅針盤 世界は革命情勢にある 記事を読む
■News & Review 韓国
 労組弱体化狙う複数労組制施行 ユソン企業、韓進重工業などの闘い続く
記事を読む
■News & Review 中国
 広州暴動―労働者の闘いが爆発   支配の破綻を示した中国共産党90周年式典
記事を読む
■News & Review アメリカ
 米軍、アフガニスタン撤退を開始   財政危機が戦費の大削減を迫る
記事を読む
■特集 米帝の大崩壊とヨーロッパの激動 記事を読む
■翻訳資料   2011年米『国家軍事戦略』(中)
 2011年2月 米軍統合参謀本部   土岐一史 訳
記事を読む
■Photo News 記事を読む
■世界経済の焦点   米経済は2番底に
 米国債の格下げが切迫/ドル暴落が現実化
記事を読む
■世界の労働組合 ドイツ編
 ドイツ金属産業労働組合(Industriegewerkschaft Metall:IG Metall)
記事を読む
■国際労働運動の暦 9月1日  ■1923年関東大震災■
 朝鮮人大虐殺の歴史
 ロシア革命、3・1独立運動に恐怖 権力が排外主義デマで人民を分断
記事を読む
■日誌 2011 6月 記事を読む
■編集後記 記事を読む
裏表紙の写真 国の経済政策に抗議するスペインのデモ(6月19 日)

月刊『国際労働運動』(421号1-1)(2011/09/01)

羅針盤

■羅針盤 世界は革命情勢にある

▼生きさせろ! 今ただちに、生きるために必要なすべてを労働者によこせ! 全世界に革命情勢が広がり深まっている。その根底で大恐慌が深化し、それが階級戦争として火を噴いている。資本家階級はこの階級戦争の果てに、労働者同士を殺し合わせる侵略戦争・帝国主義戦争に動員しようとする。資本家階級を打倒し、これをぶっ止めなければならない。プロレタリア革命の勝利こそが、大恐慌と3・11情勢をのりこえ、全原発を即時停止・廃炉にし、帝国主義の戦争をも阻む唯一の道だ。革命情勢を実際の革命に転化するために必要なのは、闘う労働組合の再生と、党と労働組合の一体的建設だ。
▼何よりもチュニジアとエジプトの革命は、世界革命の巨大な突破口であった。ヨーロッパではギリシャ、イタリア、スペインを始めすべての国でゼネスト情勢だ。物価上昇に抗議し、中国・上海ではトラック1000台が道路を封鎖し物流を止めた。各地で暴動やストが激発する中国は、今や完全に“エジプト情勢”になっている。アメリカでもILWU(国際港湾倉庫労組)を先頭に、ウィスコンシン州に始まる労働者の決起と固く結びついて闘っている。
▼そして日本でも6・5国鉄集会―6・11反原発100万人デモ―6・19フクシマ大行動に結実した、原発と新自由主義・震災解雇への怒りは根底的なものがある。国鉄闘争を基軸にして職場生産点から階級的団結を拡大していく闘いが、熱く激しい勢いで登場している。この道を勝利まで断固突き進もう。シンディ・シーハンさんと共に反原発・反戦・反核を真っ向から掲げて、8・6広島―8・9長崎闘争、8・15闘争を闘おう。菅内閣を打倒しよう。

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月刊『国際労働運動』(421号2-1)(2011/09/01)

News&Reviw

■News & Review 韓国

労組弱体化狙う複数労組制施行

ユソン企業、韓進重工業などの闘い続く

 □複数労組制が施行

 7月1日、労組弾圧のための複数労組制=交渉窓口単一化がついに施行された。昨年のタイムオフ=労組専任者賃金支給禁止と併せて、労組活動を徹底して締め付け、弱体化を狙ったものだ。〔タイムオフ制に抗議して現代自動車支部のパクジョンギル氏が自殺した。労組執行部の早期収拾方針に反対して現場組織は、「パクジョンギル烈士の意はタイムオフ粉砕だ」として、7月6日、「タイムオフ粉砕、まともな昼夜連続2交代争奪」を掲げ、蔚山(ウルサン)工場前に150人が結集して早朝集会を闘った〕
 複数労組制度の施行により、今後は超企業(財閥)単位と企業単位労組は二つ以上の労組を設立できる(これまでは一つだけ)。そして交渉窓口単一化制度で、窓口単一化の手続きをとらねばならない。この制度は手続きの後、交渉代表労組を決めねばならない。これまで13年間の論争の末に導入されたものだ。
 これに対して、労組設立の動きがある。集計された労働組合設立申告は実に76カ所であり、発電3社やソウル都市鉄道公社、タクシーやバス労組44労組などがある。また公共連盟では、全国公共運輸社会サービス労働組合を約5万人規模の産別組織に転換した。公共連盟は14万3千人で、3分の2がまだ転換していない。2012年末までに転換する予定でいる。さらに、悪名高いサムソンでついに労組が設立された。サムソン労組だ。少数ではあるが民主労総傘下の労組の設立だ。
 他方で、「第3の労総」設立の動きが本格化している。「国民に仕えるをモットー」にする「国民労総」の6月の出帆を目指した動きである。昨年3月出帆した「新しい希望労働連帯」は、09年に民主労総を正式に脱退したKT(韓国通信)労組、4月29日組合員投票で53%余りの賛成で脱退を決めたソウル地下鉄労組の両労組が中心だ。現代重工業労組、現代尾船造船労組、全国地方公企業労組連盟、全国教育庁公務員労組連盟などが参与する予定だという。李明博(イミョンバク)政権背後説もある。KT労組の委員長だったイドンゴル大統領補佐官、ペイルド(ソウル地下鉄労組元委員長)ハンナラ党議員が事実上指導しているからだ。
 複数労組制が施行され、労働運動の再編が進行している。しかし、現場の労働者の闘いは熾烈に闘われ、政権末期の李明博を追いつめている。

 □全北道バスのスト続く

 全北(チョンプク)道バスのストライキは200日を超えた。6月28日、記者会見を道庁前で開こうとしたが不許可にされた。これに対し道庁前で野宿座り込みに突入することを決めた。ところが、7月7日、警察300人と道庁公務員400人が動員され朝7時40分に強制的に排除されてしまった。夜、糾弾集会が開かれ、一歩も退かない闘いが続いている。
 ドンヒオート社内下請け支会のイペギュン支会長とシムイノ対外協力部長、パクビョンソン組合員が6月30日朝、初出勤した。2年から2年8カ月の解雇生活に終止符を打って自動車を作る労働者になった。労使は昨年11月、順次復職することで合意し、最初に復職する3人だ。彼らは現場に帰って民主労総所属ドンヒオート社内下請け支会を作るために復職したのだ。イペギュン支会長は「ドンヒオート社内下請け支会の闘いは解雇者何人かの闘いでなく、地域、全国で多くの仲間たちが関心をもってきた闘争だ」と多くの祝賀を受けたことを話し、「まだ復職できない同僚もいて生活は苦しい。初月給が出れば復職していない組合員とうまいものを食べたい」と話した。
 韓国は上半期貿易額が過去最高の5329億j(前年同期比24・2%増)で、年間で1兆1千億jになると見込んでいる。船舶、鉄鋼、自動車が30%を超え、機械も29・8%の伸び率だ。ぼろもうけする現代自動車資本に対して、現代自動車非正規職3支会は7月12日から巡回共同闘争を組織し不法派遣撤廃正規職化争奪闘争の火蓋を切った。正規職労働者の現場組織と歩調を合わせるかのようだ。昨年11月のストライキで組織破壊攻撃を受ける中、それをはね返して力強い闘いが開始された。牙山(アサン)正門前から始め、13日は全州(チョンジュ)正門前出勤闘争、蔚山正門前共同集会を開いた。
 集会は、「昨年11月の1次ストライキを超える巨大な大衆闘争をつくり出す」「18日から23日まで全国巡回闘争を展開し、23日にソウルへ上京し金属労働者決意大会を開く」と宣言した。

 □ユソン企業との闘い「退くことができない」

 ユソン企業労組の工場復帰を求める闘いは熾烈を極めている。6月22日、会社が雇った用役との衝突で手配されているイグニョン支会長、オムギハン副支会長らが曹渓寺で無期限ハンストに突入した。7月12日現在、イグニョン氏の健康が悪化しているが、ハンストを継続している(14日夜、健康状態が急速に悪化し、ハンストを中断、しかし座り込みは続ける方針)。また、多くの労組関係者が絶えず連帯のために訪問している。労組員たちは用役を使ったあらゆる攻撃、警察の集会源泉封鎖にも崩れることなく闘争隊伍を維持している。
 5月24日以来拘束され天安刑務所に収監されているキムソンテ・ユソン企業支会長は組合員と家族対策委に手紙を送った。
 「社長はストライキをするならしろという調子でした。そして占拠期間中も外部交渉と電話での交渉は何度かありましたが、そのたびに組合員選別復帰を主張して職場閉鎖は選別の後、正常化したら解除すると言いました。私たちは家で飼われている愛玩動物でしょうか。彼らが選び、入れる、入れないを決めるそうです。今の時代にそんなことがあるでしょうか」
 「個人の選別復帰は闘う仲間たちにとって、空が崩れ信頼をばらばらにするものです。私は今回の闘いで監獄に入れられても少しも恥ずかしくありません。私とわが組合員同志の闘いはとても正当で恥じることがないからです」
 「今、会社がしている行動は、労働者を分裂させ、労働組合を無力化することが、以後の利益を大きくすることと判断しているようです。しかし私たちとの闘争が激しく粘り強ければ、この闘いは必ず私たちの勝利になります」
 「私は労働組合を守り抜くため力強く闘ってきた多くの仲間と、いまだ病院で苦しんでいる多くの仲間たち、その仲間たちと一緒に闘っていくためにも、私は今回の闘争をここで退くわけには行きません」
 ユソン企業労組は7月16日に集会を開き、「7月末までに会社が解決策を講じず、組合員の出勤を拒否し続ければ、手段、方法を選ばない闘争をする」と牙山工場に隣接する道路で集会を開き、宣言した。その後デモ行進に移った。警察は1400人を動員し弾圧体制を敷いた。これと対決し、工場正門に向け1`の行進を行った。

 □韓進重工業労働者と連帯した「希望バス」

 

韓進(ハンジン)重工業の闘いに連帯した第1次希望バスの6月11〜12日の闘いに続いて、闘いが高揚局面を迎える中、6月27日午後、韓進重工業労組のストライキ組合員に対し強制退去執行が強行された。キムジンスク民主労総釜山本部指導委員が座り込んでいる85クレーンを守っていた組合員は法院の執行官と用役職員により引きずり出された。クレーン下の階段に体を縛って抵抗した組合員も一部が引きずり出された。
 27日夜10時頃、85クレーン中間にいた組合員約30人のうち12人ほどがクレーンに残り、他は工場の外に出て来た。「上は狭く、この非常事態を乗りきるため」だ。
 6月26日の労使交渉で会社側が「会社正常化後に解雇者優先雇用」という案を出し、執行部はこの案を受け入れた。組合員らは「執行部案は事実上整理解雇を受け入れ、解雇者だけで闘えというもの、組合員を100%分断するもの」と反対したが、執行部は27日の記者会見で組合員の全員復帰を宣言するとし、組合事務所を守る組合員を避けてメールで報道機関に合意文を送った。これによって強制退去が執行されたのだ。「最後まで解雇撤回を闘い、85クレーンを死守する」と組合員らは決意を語った。クレーンに残る12人の組合員とキムジンスク指導委員は整理解雇が撤回されなければクレーンから降りない、と繰り返し意志を明らかにしている。
 そもそも、180日を超える韓進重工業の闘いは、整理解雇に反対を貫いた闘いであり、韓国の労働者の怒りを全身で体現したものだ。これに感動し連帯した闘いが第1次希望バスとして実現され、韓国全土の労働者の怒りとして爆発したのだ。これに対する27日の強制退去執行はこの怒りの火に油を注ぐものとなった。第2次希望バスの闘いが、ついに釜山で歴史的な闘いとして爆発したのだ。
 6月29日には、ソウル光化門交差点に労働者、農民、大学生、貧民、撤去民など、1万5千人が集まり、民主労総は、「韓進重工業闘争決意、下半期国民賃闘」開始を宣言した。
 7月9日午後1時、全国から第2次希望バスが出発した。ソウル、安養(アニャン)、水原(スウォン)、平沢(ピョンテク)、蔚山、全州など全国から195台のバスが出発した。済州(チェジュ)からは希望飛行機が、蔚山からは現代自動車社内下請け労働者の希望自転車が出発した。双竜(サンヨン)自動車の解雇者たちは、「塩の花を訪ねる千里の道」とする徒歩行進を行い釜山を目指した。
 夕刻7時頃、ソウルを始め43地域から来た1万人以上の参加者は強い雨の中、釜山駅前のコンサートで歴史的大闘争の幕を切った。午後9時20分、「釜山文化祭」を終えた部隊は影島(ヨンド)造船所に向けてデモ行進を開始した。「とにかく工場に行く。希望バスに恐れなどない」。1万人の「希望に満ちた声」は力強く、豪雨の中を行進し「整理解雇反対」「非正規職撤廃」を叫び続けた。10時40分頃、釜山大橋前の峰来三叉路に到着、警察は三叉路から韓進重工業正門までの100b前で放水車と武装兵力を待機させデモ隊列を防いだ。警察は7000人を、会社は3000人の用役を動員した。11時20分、警察の解散命令に対しデモ隊は体当たりで警察のバリケードの突破を試み、警察車壁直前まで進出し、「強制鎮圧を中断せよ」「整理解雇を粉砕しよう」のステッカーが車壁を一杯にした。バリケードを突破する「戦闘」は続き、警察は催涙液(双竜自動車ストで使われたもの)を乱射。午前2時30分頃には催涙液とともに放水銃も乱射、棍棒をふるい襲いかかった。50人ほどの参加者が連行され、100人を超える負傷者が出た。
 午前4時20分、警察が車壁から退き、デモ隊伍はダンスと公演を続けた。朝7時から抗議の記者会見でデモを終了した。午後3時、整理集会を開いた。キムジンスク指導委員は電話で「歴史はこの日を忘れない。小さな希望が胞子になり、花畑になる。私たちはけっして負けません。必ず勝利します」と熱いメッセージを述べた。集会は午後4時、第3次希望バスを組織するために各地へ散っていき、歴史的大闘争は、その第一幕を終えた。
 7月13日、ソウル市庁前大漢門で「希望ハンスト」がスタートした。第3次の開始だ。午後2時から記者会見を開き、キムヨンフン民主労総委員長を始めとする1000人同調ハンストを宣布した。「△韓進重工業聴聞会開催、チョナモ会長処罰、整理解雇撤回、△全教組公務員政治弾圧中断、政治資金法改正、△ユソン企業職場閉鎖撤回、労組破壊中断」を要求し無期限のハンストに突入する方針だ。そして、翌日の記者会見で、第3次希望バスを30日出発、釜山6時結集の方針を出した。一方、会社側は、用役を動員し、クレーン下に網を張り、電源を遮断している。クレーンの攻防は切迫している。
(本木明信)

 

(写真左 ユソン企業労組が組合員全員の工場復帰をもとめて牙山工業正門に向けてデモ行進【7月16日】)
(写真右 韓進重工業の整理解雇撤回闘争に連帯する「希望バス」参加者がダンスと公演を続けた【7月10日】)

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月刊『国際労働運動』(421号2-2)(2011/09/01)

News&Reviw

■News & Review 中国

広州暴動―労働者の闘いが爆発

支配の破綻を示した中国共産党90周年式典

 □危機を表明した7・1創立記念式典

 中国共産党の創立から90周年とされる今年の7月1日(創立については現在の中国共産党の公式見解は1921年だが、1920年説も存在する)、中国共産党は大々的な記念式典を開催し、全国的な共産党翼賛運動を展開した。各地で紅歌運動が展開され、かつての人民解放軍の軍服を着た紅色運動会が開催され、愛党主義、愛国主義があおられた。
 中国スターリン主義は今、歴史的な危機に直面している。ひとつは「改革・開放」政策が生み出した急速な経済発展は、スターリン主義支配体制を背景にしてすさまじいバブル経済となっているが、このバブル経済の破局が進みつつあるということである。またこのあまりに急速な経済発展は、搶ュ平の「先豊論」(先に一部の者が豊かになって、次第に全体が豊かになるという思想)の破産を示し、それとはまったく逆の極限的な格差社会を生み出している。その矛盾は都市労働者はもとより、農民工や農村、諸民族において激しく現れており、労働者のストライキや農民・諸民族の暴動が勃発する現実となっている。
 今回、中国共産党がこの記念式典にかけたものは、こうした中国社会の支配の破綻を、「愛国主義」や「愛党主義」によってのりきろうとしたものであり、そのための全国での愛国運動の展開だったのである。
 7月1日当日に胡錦濤主席は重要講話を行い、「党の歴史と業績」を自賛しながら、「和諧社会(調和のとれた社会)を目指す」と強調したこと、党官僚の腐敗や汚職について危機感をあらわにし「(このままでは党は)人民の信頼を失う」とまで発言したのは、こうした中国スターリン主義の支配の危機の深さを示している。

 □「政府は解散しろ!」内モンゴルでデモ

 

しかし中国共産党の思惑とは逆に、この7・1記念式典に至る過程は、中国共産党支配に対する歴史的な暴動の過程となった。
 5月には内モンゴル自治区で、炭鉱開発に反対していたモンゴル人、そして満州人が炭鉱関係者によって虐殺された事件をきっかけにして、同25日に学生を先頭に2000人のデモが起きた。「政府は解散しろ!」というシュプレヒコールが叫ばれ、連日の抗議闘争が続く中で、内モンゴルには軍隊が出動し厳戒態勢が敷かれる事態となった。
 6月6日、広東省潮州市潮安県で農民工(地方農村からの出稼ぎ労働者)の暴動が起きた。不払い賃金の支払いを要求しに行った四川省の農民工に対して、会社側は賃金の支払いを拒否するばかりか、その要求に来た農民工親子の手足の筋肉を切断するという暴行を行った。この残虐な事件への怒りから農民工は暴動に決起したのである。農民工は警察や政府の車を破壊して徹底的に闘った。一方で政府や会社は四川省農民工への差別主義を徹底的にあおって地元住民と農民工を激突させ、多くの農民工と地元住民が負傷したと言われている。
 3日後の9日、今度は湖北省恩施市利川市で2万とも言われる住民が、市政府庁舎を包囲・抗議し、その建物に突入して中を徹底破壊するという事件が起きた。きっかけとなったのは、冉建新さんという市党委員会の幹部の不審死。彼は、共産党の幹部ではあったが、住民への土地の強制収用などに対しては職権をもって一貫して反対し、また一方で共産党幹部の汚職などを厳しく摘発していた。そのため住民からは非常に厚い信頼を得ていたという。ところが市政府は、こともあろうにこの冉さんを「役職で不正を犯した」という容疑で逮捕し、冉さんは4日後に獄中で死亡したのである。家族のもとに帰ってきた死体は、全身アザと傷だらけであり、拷問を受けて殺されたというのが明白であった。この事実が広まるや、住民たちは共産党に対する積年の怒りを爆発させた。市庁舎を取り囲み、警察の壁を突き破って中に突入し、バソコンなどを破壊したのである。

 

(写真左 警察と対峙し市政府庁舎を包囲する住民たち【6月9日 利川市】)(写真右 6月10日、広州市で数千人の暴動が爆発し、3昼夜にわたって続いた)

 □広州大暴動の爆発―「先進地帯」が火薬庫

 こうした事件が相次ぐ中、翌10日には今度は広東省の広州で大暴動が勃発する。
 広東省広州市新塘鎮はジーンズ工場の町として知られている。6月10日夜、ここの大敦村の市場でジーンズを売っていた四川省からの露天商の出稼ぎ夫婦に対して、村の治安保安員(その土地の政府によって民間で組織された治安員)が、出ていくように要求した。これに抗議した夫婦に対して治安保安員は、暴力的にたたき出そうとして妊婦だった妻を突き飛ばしたのである。この事態を見ていた群衆が抗議、駆けつけた警察官は「退去」のみをがなりたてながら、暴行をふるった治安保安員を逃がしてしまった。数千人の労働者・住民の怒りが爆発し、暴動に発展した。
 暴動は10日夜から3昼夜にわたって続き、警察や政府の車が次々と破壊され燃やされた上、新塘鎮政府の建物も放火されて炎上し、破壊された。大規模デモが闘われ、暴動参加者は四川省の出稼ぎ労働者4万人を先頭に10万人を超えるとも言われている。13日の夜についに広州軍区の軍隊が投入され、暴動は武装鎮圧されるに至った。
 労働者たちは、さらにストライキでこの弾圧に抵抗したと言われている。
 今回の広州暴動の背景には、「改革・開放」政策のもとでの政府と資本による労働者へのすさまじい搾取と収奪の現実があり、農民工(出稼ぎ労働者、非正規労働者)に対する差別への積もりに積もった怒りがある。
 そもそも広州は香港の近くに位置し、歴史的にも経済先進地帯であり、労働者の街であり、上海とならんで中国革命の出発点となった地域である。1925年の英帝国主義など列強を震撼させた1年間にわたる香港大ストライキは、広州の労働者・学生の闘いと一体であった。そして1978年から始まった中国スターリン主義の「改革・開放」政策の先進地帯である。
 この広州を始め広東省で暴動が続発している事態の持つ意義は大きい。経済先進地帯である広東省は、資本との関係でも政府権力との関係でも階級的な矛盾が最も激しく噴き出す地域なのである。そこで暴動が続発しているということは、中国経済の心臓部で反乱が起きているということであり、中国スターリン主義の体制そのものの死活に関わる事態であるからだ。中国共産党は、創立90周年の中で、中国革命の発祥の地である広州から、労働者の巨大な異議申し立てを受ける事態となったのである。
 起きている事態はこれだけではない。5月26日には土地の強制収用に抗議して江西省で政府機関3カ所への爆破事件が起きている。6月9日には湖南省で警察署、河南省で市政府と2カ所で爆破事件が発生した。5月26日の爆破事件を起こした人物は、自らも爆弾とともに死んでいるが、非難ではなく多くの人の共感を得るという事態になっている。
 さらに6月12日には広東省東莞市にある日系シチズン工場で2000人のストライキがあり、20日から23日まで広東省広州市にある韓国資本の手袋工場で4000人のストライキ。21日には雲南省で鋳型工場の労働者がストライキに立っている。また6月17日には土地の強制収用とそれに伴う幹部の汚職に抗議して浙江省の台州で1000人の村民が警察隊と激突し、多くの逮捕者が出ている。一方で26日には湖南省株州で、新疆ウイグル自治区の労働者が、城官(地方政府による治安公務員、非常に暴力的な存在として知られる)から暴行を受けたことに抗議して、道路を封鎖して闘っている。6月27日には鄭州でタクシー労働者のストライキが起きている。
 こうした労働者や農民、諸民族の激しい抵抗を受け、あちこちを厳戒態勢にしながら、中国共産党は7月1日に記念式典を強行したが、それは治安と支配の破産を示すもの以外の何ものでもなかったのである。

 □「愛国大運動」の矛盾

 また中国共産党が全力で推し進めた「愛国大運動」も、実際には彼らの支配の矛盾を露呈するものとなった。
 紅歌運動は、革命歌や愛国歌などを大衆的に歌うものだが、「インターナショナル(国際歌)」はもとより、多くの中国革命の過程でつくられ歌われた革命歌は、スターリン主義的(毛沢東主義的)に歪曲されている面があるにしても、労働者階級の原初的な支配者階級への怒り、革命への情熱が激しく表現されている。90年前の中国革命の原点を振り返るということは、全世界をも揺るがしたあの当時の労働者の激しい闘いを想起するということであり、革命の精神に帰るということを意味する。ストライキなどの当時の労働者の闘いを、労働者の魂の中によみがえらせてしまうのである。
 このことに今の中国スターリン主義支配者層もだんだん気づき始める。スターリン主義者自身が始めた運動とはいえ、この運動は労働者が「革命」とか「団結」とか「インターナショナル」とかの階級意識を自覚することに発展しかねない、その労働者の自覚と覚醒が自分たちの体制への抗議や革命に発展しかねない、このことに彼らは震え上がってしまう。したがって運動の後半に入ると、支配者内部からこの運動の危険性に対する論調が公然と現れるようにさえなるのである。ところが一方で逆にそんな支配者階級の動揺を自覚した労働者は、逆に彼らの政策を盾にとって革命歌を歌うようになっていった。
 「延安ツアー」でも似たような事態が起きる。革命の聖地「延安」へのツアーが中国共産党によって運動として推進され、実際に労働者を始め多くの人たちが延安に行った。だがそこに行って彼らが見たものは何か? 毛沢東夫妻が住んでいたという家が、粗末な小さな農家であり、家具といっても粗末な机と椅子、木のベッドしかない。それにショックを受ける。
 「革命当時の指導者たちは、こんな質素な生活をしていたのか。今の指導者たちは、完全に革命の原点を忘れているのではないか」
 そんな現体制への疑問を抱いて、結局みんな帰ってきてしまう。
 結局「愛国大運動」そのものさえ、中国スターリン主義指導者層にとっては諸刃の刃になってしまったのである。中国革命の原点に返る運動は結局、今の中国スターリン主義にとっては、自分たちの首を絞める運動になっていったのである。
 中国スターリン主義が、無事に終了させようとした7・1中国共産党創立90周年式典は、それに伴う政府の側の運動も含めて、労働者の革命的意識を覚醒させ、中国政府への怒りを呼び起こすものとなった。そして実際にその過程は、連続的な労働者や農民、諸民族のストライキや暴動に彩られる過程となり、天安門事件以来の中国スターリン主義の危機を露呈したのである。
 7・1までの過程を経て、今後中国における労働運動、労働者の闘いは、さらに一層激しく爆発していくことは必至である。天安門事件以来の中国スターリン主義の暴力的支配体制と労働者階級の激突はすでに始まっているのだ。それは1925年の大ストライキをも上回る歴史的な大闘争へと必ず発展する。
 問われているのは、こうした中国の労働者階級の闘いと連帯しうる日本の労働者の闘いとその発展・組織化である。それを通じた中国労働者との連帯の形成である。そのために、国鉄決戦、反原発闘争を闘いぬき、8・6広島―8・9長崎闘争の高揚をかちとっていこう!
 (河原善之)

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月刊『国際労働運動』(421号2-3)(2011/09/01)

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■News & Review アメリカ

米軍、アフガニスタン撤退を開始

財政危機が戦費の大削減を迫る

 □米軍の撤退開始

 7月13日、米軍の最初の撤退部隊650人が、アフガニスタン東部パルワン州にあるバグラム米軍基地で、米本土から新たに派兵された500人の部隊に任務を引き継いだ。これで差し引き駐留米軍が150人減ったことになる。こうしたやりかたでアフガニスタンからの米軍の撤退が始まった。7月中に800人が撤退する。
 6月22日、オバマ大統領は、「アフガン駐留米軍を年末までに1万人、来年夏までに合わせて3万3千人を撤退させる」と表明した。
 撤収した駐留米軍部隊第1陣は、アフガン国民に知らされないまま、ひっそりと去って行った。
 アフガニスタンのカルザイ大統領は3月22日、カブールの陸軍士官学校で演説し、7月からの駐留外国部隊からアフガン治安部隊への治安維持権限移譲を7地域で開始することを明らかにしていた。
 カブール州(一部除く)、中部バーミヤン州、北東部パンジシール州、南部ヘルマンド州の州都ラシュカルガー、西部ヘラート州の州都ヘラート、東部ラグマン州の州都マフタルラム、北部バルフ州の州都マザリシャリフが最初の対象となっていた。権限移譲は2014年末を期限に全土で行われる予定になっている。
 米軍の無差別爆撃による人民の犠牲を厳しく非難してきたアフガン政府は、記念式典は、「外国軍からの解放」と位置づけている。今年で10年となった米軍侵攻と、10年に及んだソ連軍侵攻(1979〜1989年)とを同列に扱っている。米軍はソ連と同様、侵略戦争に敗北し、アフガン人民によってたたき出されたのだ。
 カルザイは6月23日、米軍撤退計画を「アフガン解放への重要な一歩」だと言った。しかし次に待っているのはカルザイ政権の崩壊だ。
 そもそもカルザイ政権は米帝のカイライ政権であり、米軍なしで一日たりとも存在できない。国軍や警察も同様だ。米軍撤退後はひとたまりもなく人民の反乱によって壊滅させられるのは必至だ。
 7月9日、ロドリゲス駐留米軍副司令官は、「我々は過去6カ月で1000人以上の武装勢力を拘束・殺害した。昨年同期の250%増だ」と3万人増派以後の掃討作戦の“成果”を強調した。しかし、武装勢力の攻撃は「昨年以降少し激化した」とも述べ、タリバンの攻勢が強まり、米軍が劣勢になっていることを認めた。
 米軍はタリバンの根拠地であるカンダハル州などで重点的に掃討作戦を展開してきたが、行き詰まっている。
 今年5月のアフガン情勢は米軍にとって最悪だった。戦闘に巻き込まれて死亡した民間人が月間で最高の368人、4、5月の米兵の死者数は計82人で、昨年同期の52人を大きく上回った。
 ヘルマンド州政府によると5月28日、同州内にある米海兵隊の基地が武装勢力に襲撃された。NATO(北大西洋条約機構)軍が支援のために空爆、その際に2軒の民家が誤爆された。うちナウザド地区では、子ども12人と女性2人が死亡し、6人が負傷した。また北西部ヌリスタン州政府によると、州内でNATOが5月25日に行った空爆で民間人18人と警察官20人が死亡した。   ヘルマンド州政府によると5月28日、同州内にある米海兵隊の基地が武装勢力に襲撃された。NATO(北大西洋条約機構)軍が支援のために空爆、その際に2軒の民家が誤爆された。うちナウザド地区では、子ども12人と女性2人が死亡し、6人が負傷した。また北西部ヌリスタン州政府によると、州内でNATOが5月25日に行った空爆で民間人18人と警察官20人が死亡した。 
 人民の怒りに押され、カルザイは同日、「アフガンの女性や子どもが殺されている」と弾劾し、米軍と米政府に対して「最後警告」を発した。
 01年に米軍がアフガンに侵攻して以降、誤爆などによる民間人の犠牲は増加し続け、米帝への怒りが高まり、タリバンは勢力を拡大してきた。米軍の即時撤退を求める声が圧倒的となっている。
 タリバンは6月23日、オバマの撤退計画は見せかけにすぎず、「この無意味な虐殺」を終わらせるためには、全面撤退、すべての外国部隊の即時撤退が必要だとし、「武装闘争は日ごとに増していくだろう」と警告した。
 オバマは、6月29日、9・11から10年を迎えるのを前に、新「対テロ国家戦略」を発表した。ブッシュが「テロリストを一掃して、民主主義を樹ち立てる」などと称して開始したアフガニスタン侵略戦争、イラク侵略戦争の大破産を認め、疲弊する地上軍(陸軍)を撤退させ、「対テロ」戦争を「アルカイダ一掃」に絞ってやっていくことを表明した。
 新戦略は、アフガニスタンとパキスタンで「対テロ」戦争を続け、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ」やソマリアのシャバブなどへの戦争を構える。特殊部隊による掃討戦、無人機による爆撃などの軍事作戦を柱とする小規模な「対テロ戦争」を継続していくというものだ。
(写真 アフガニスタンのバグラム米軍基地で軍の輸送機に乗って撤退する米兵たち【6月14日】)

 □ISAF諸国の撤退

 国際治安支援部隊(ISAF)を構成するカナダ軍の戦闘部隊が7月7日、任務を終え撤退を開始した。アフガンに大規模部隊を派遣している国の中では今年「最初の撤退」で、約2800人の兵士は年内に帰還する。
 カナダは02年から派兵、06年以降、タリバンの牙城である南部カンダハル州を拠点にパトロール活動などを実施してきた。派兵開始からこれまでに157人のカナダ兵が死亡している。戦闘部隊撤退後も、950人が首都カブールでアフガン治安部隊の訓練に当たる。
 フランスのサルコジ大統領は7月12日、アフガニスタンを訪問し、駐留仏軍部隊約3900人のうち約1000人を12年末までに撤退させることを表明した。ロンゲ国防相は14日、フランスの全部隊を13年までに完全撤収させる考えを明らかにした。アフガン軍事作戦での死亡者はこれまで69人となっている。
 キャメロン英首相は7月6日、アフガニスタンから14年末までに英軍戦闘部隊を撤収させる目標に向けた段階的措置として、来年末までに駐留英軍を500人削減し9000人規模とする方針を発表した。
 キャメロンは議会での声明発表で、「我々は完全な民主国家を建設するためにアフガンにいるわけではない。(英国をテロから守るという)我々の安全保障のためにいるのだ」と述べた。アフガン侵略戦争で、イギリス兵375人が死亡。財政再建のため国防費の大幅削減が進む中、イギリスはリビア侵略戦争にも参戦しており、アフガン戦争が財政的に耐えがたくなっている。
 オランダ軍部隊は10年8月1日、NATO加盟国として初めてアフガニスタンからの撤退を開始している。

 □大崩壊を開始した米帝

 米帝新戦略(オバマ・ドクトリン)は、完全に財政危機に規定されている。
 米帝基軸の世界体制であるが、その米帝が大恐慌下において大崩壊を開始している。米帝は銀行救済を始めとする恐慌対策に国家財政を総力投入し、財政赤字は今年度1兆6500億j(約132
兆円)に達している。しかし恐慌は深化し、米帝・FRBは国債・公債合わせて9000億j(約72兆円)を買い取った。これが「量的緩和策」(QE2)である。日本で言えば「日銀の国債買い入れ」にあたる。しかし景気対策にまったく効果がなかった。
 アメリカでは国債の債務限度額が定められており、5月16日、ガイトナー財務長官はその上限である14兆2940億j(日本円で1100兆円余り)に達したと発表した。この問題で政権と議会、民主党・共和党のせめぎ合いが続いている。ギリシャと同じくアメリカも国家財政の破綻が切迫している。
 国家財政の削減が米帝の生き残りのために絶対の課題になっている。情勢いかんによってはドル暴落がいつ起きてもおかしくない。国防費も例外ではなく、削減へ議会で厳しい追及にあっている。
 12年間で国防費4000億j(約32兆円)の削減が求められている。アフガン駐留経費は、年約1200億j(約9兆6000億円)、戦費はこの10年間でイラク・アフガン合わせて1兆jに上る。
 5月末、オバマは「アフガニスタン撤退」を課題にした新安保チームを任命し、上院で指名承認された。
 バネッタ国防長官(CIA長官から昇格)
 ペトレアスCIA長官(アフガニスタン駐留軍司令官から昇格)
 デンプシー統合参謀本部議長(中東軍副司令官を経て陸軍参謀総長から昇格)
 オディアル陸軍参謀総長(イラク駐留軍司令官から昇格)
 特徴は“たすき掛け人事”で、軍と情報機関の一体化である。米軍は対テロ戦争でCIAとの連携を強化してきた。駐留米軍の撤退で、アフガニスタンのどの地域からどの部隊をどれだけ引き揚げるかはCIAなどの現地情報がカギを握るとされる。
 CIA長官から国防長官となり、イラク・アフガニスタン侵略戦争を遂行したゲーツは、無人機導入を積極的に推進し、無人機による無差別爆撃をイラク、アフガニスタン、パキスタンで実行した。
 イラク・アフガニスタンで行った地上軍による侵略戦争は必ず泥沼化し、侵略軍は人民の海に包囲され、死傷者を拡大し、疲弊し、厭戦主義に陥り、財政的にも破綻し、敗北するということだ。その土地に生まれ、育ち、生活する人民を敵に回して、数千`も離れた米本土から入り込んだ侵略軍が勝利することができるはずがない。米兵の死者数は10年のアフガニスタン戦争で約1600人に上った。イラク戦争では約4400人。両戦争で約6000人の米兵が死亡した。負傷者、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や外傷性脳損傷(TBI)になった兵士は数十万人に上る。彼らは今も苦しい闘病生活を送っている。そしてイラク・アフガン侵略戦争への怒りを燃やし闘っている。
 6月16日、退任予定のゲーツは、記者会見し、アフガニスタン戦争に関する厭戦主義の高まりに対して「米国の歴史上、人気のある戦争などなかった」、さらに米軍がアフガニスタン戦争で勝ちつつあるのかとの質問に対して「長官を務めた4年半で、勝ち負けという言葉からは距離を置くことを学んだ」と答えた。これは米帝の完敗宣言だ。

 □労働者の大反乱始まる

 オバマは6月22日、アフガニスタン駐留米軍の撤退計画を発表すると同時に、次のように述べた。
 「米国の再建に集中すべきだ」「雇用と産業を創出する技術革新に取り組まなければならない」
 オバマ大統領は政権の当面する最優先課題を「景気回復」に置いた。そして経済の浮揚を図って来年末の大統領選挙に臨もうと構えている。しかしオバマは、大恐慌には勝てない。
 米帝は、世界大恐慌の深化の下で、アフガニスタン・イラク侵略戦争の比ではない巨大な軍事大国・中国との対峙・対決を戦略的に設定しており、11・23情勢が続く朝鮮侵略戦争が緊迫性と重さをもって迫っている。さらにエジプト革命を契機とする北アフリカ・中東情勢の革命的高揚に伴い、新たな侵略戦争を迫られている。リビアには軍事介入を開始している。さらにすさまじい危機に突入していく。
 大恐慌は戦争と大失業と革命をもたらす。アメリカの反戦の母・シンディ・シーハンさんが来日して8月反戦・反核・反原発闘争を共に闘う。シーハンさんはアフガニスタン・イラク侵略戦争に反対し、民主党への幻想を打ち破り、体制内労働運動を批判し、闘う労働組合の力に希望を見いだしている。イラク・アフガニスタン反戦闘争で米軍撤退に追い込んだアメリカ労働運動は、今は大失業攻撃に対して大反乱を開始している。
 ウィスコンシン州では2月から州議会占拠の実力闘争が続いている。他の州でも次々と同様の闘争が起きている。
 4月4日にはILWUローカル10(国際港湾倉庫労組第10支部)はウィスコンシン州の労働者と連帯して港湾を封鎖した。これに対して国家権力はタフト・ハートレー法適用の大弾圧を狙ってきたが全米の労働組合が結集して弾圧と闘っている。ここにアメリカ労働者階級の展望がある。
 (宇和島洋)

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月刊『国際労働運動』(421号3-1)(2011/09/01)

(写真 イギリスの公務員年金制度改悪に反対し75万人の公務員労働者がストライキに立ち上がった【6月30日】)

特集

■特集 米帝の大崩壊とヨーロッパの激動

 はじめに

 帝国主義・新自由主義の破綻は決定的となった。世界大恐慌の下、基軸国米帝が破綻し大崩壊を開始した。それは欧州に波及し、さらに中国・ロシアなどの動揺を促進し、これら諸国の政治支配体制の崩壊の始まりを突き出している。本特集は、27カ国を包摂し、世界最大の経済ブロックとなっているEU(ヨーロッパ同盟)に焦点を合わせ、30年代を超えるプロレタリア世界革命の現実性と直面しているヨーロッパの現状、階級闘争の課題を明らかにする。
 第1章では、大恐慌下の新自由主義攻撃と対決するヨーロッパ労働者階級の闘いを、ドイツとイギリスにしぼって紹介する。第2章は、EUそのものを揺るがすに至っているギリシャ財政危機の深さと世界経済的な構造を解明する。第3章では、リビア侵略戦争をめぐって露呈したEU・NATOの内部分裂の危機とアフガン侵略戦争の敗勢、EUの巨大な「隣国」ロシアの体制的危機を描き出す。

■第1章

 世界大恐慌下のEU危機――ドイツ・イギリスでの闘い

 米帝の危機への突入とEUへの波及

 世界大恐慌は、ついに基軸国米帝の財政危機の爆発が、国債のデフォルトの可能性に発展し、アメリカ国債の格下げが語られるところにまで行き着いた。ドル暴落は時間の問題となっている。世界大恐慌は、財政危機・金融危機が、巨大経済ブロック間で、たがいに増幅しあいつつ、帝国主義世界経済体制全体の解体的危機を現実化するところにまで、急速に進みつつある。
 世界大恐慌の根底にある巨大な過剰資本が、膨大な投機資金として渦巻いている中で、製造業を軸とする実体経済の成長は、深刻な落ち込みから基本的に回復しておらず、大失業を恒常化している。
 財政危機が政治危機にまで発展している現実に直面して、米帝オバマは、帝国主義および世界諸勢力間の争闘戦における劣勢を恐れ、排外主義的な狙いを含めて、昨年来の対中国シフトを一層激烈化している(アジアの海域での米日韓合同演習など)。その一方で、アフガニスタン、北アフリカ・中東、対欧・対ロシア関係の一定の調整策をとりだした。しかしそうした方策は、帝国主義諸国間・世界諸勢力間の対立・矛盾をますます激化させ、新たな軋轢の原因を生み出さざるをえない。とりわけ、ヨーロッパ帝国主義にとって、勢力圏と見なしている北アフリカ・中東、そしてEUと「隣接」しているロシアとの軍事・政治・経済・資源エネルギーをめぐる死活的な関係において、米帝国主義の政策のあり方は、重大な意味を持っている。リビア侵略をめぐってNATOは完全に分裂した。ロシアを巻き込んだヨーロッパMD(ミサイル防衛計画)は、対イランに重点を移しつつある。
 こうした世界情勢の中で、EUを軸とするヨーロッパ帝国主義自身が、ギリシャ財政危機を矛盾の爆発点として、ユーロ安、ユーロ圏の危機、ヨーロッパ全域の金融危機の拡大として発展し、中軸国=独仏を含んだEU全体の分解的危機にまで深刻化しつつある。

 新自由主義で危機のりきり策すEU帝国主義

 ヨーロッパ諸国の経済成長は停滞を続け、大失業は永続化している。EU帝国主義は、恐慌対策として巨大な財政投入を、主要に銀行=金融資本救済に向け、その結果招いた財政危機を、すべて労働者階級への犠牲においてのりきろうとして、緊縮政策を強行している。
 大恐慌爆発以前の段階で、すでに新自由主義攻撃を長年にわたって受けてきたヨーロッパ労働者階級人民は、EU全域で、大失業反対、賃下げ反対、社会保障制度解体反対などの声を上げてきた。闘いは、EUに新たに参加した旧スターリン主義圏の中東欧諸国においても爆発している。とりわけ、自動車産業を始めとするEU資本が、“低賃金・無権利の労働力”を求めて行ってきたアウトソーシング(工場移転)先となった、これら諸国での労働者の反乱である。
 そうした新自由主義に対する闘いの中でギリシャ労働者階級の決起が、最前線を切り開いている。昨年来、財政危機を口実とする緊縮政策の強行に対し、ギリシャ労働者は、数次にわたるゼネストを闘い抜いている。この闘いが地中海の対岸であるチュニジア・エジプト革命に大きなインパクトを与えたことは疑いない。そして、闘いは北アフリカ・中東に拡大し、地中海を逆流して、ヨーロッパ全域を揺さぶろうとしている。

 原発建設・核政策に打撃与えた3・11

 3・11は、新自由主義の重要な環として原発建設・核政策を推し進めてきたEU帝国主義に、大きな打撃を与えた。すでに1986年のチェルノブイリ事故によって、反原発闘争に立ち上がっていたヨーロッパ人民は、「フクシマ」に敏感に反応した。大恐慌下の緊縮政策への怒りと結合したのだ。ドイツ、イタリア、スイス、オーストリアなどでは、ブルジョアジーが、「脱原発」を表明せざるをえなくなっている。
 こうしたヨーロッパ全域にわたる激動を、命脈の尽きた帝国主義=資本主義を打倒するプロレタリア世界革命に転化するためには、帝国主義の延命を支えてきた体制内労働運動指導部を粉砕し、階級的労働運動を、スターリン主義の制動を克服して奪還することが、不可欠の任務である。

 体制内を打ち破り闘うドイツ労働者階級

 30年代内乱の時代を超える革命情勢を迎えているEU=ヨーロッパの階級闘争において、決定的な鍵を握るのはドイツだ。何よりも、ロシア革命を引き継いで、いったんは世界革命の先頭に立つ役割を引き受けて闘った歴史的経験を持つドイツ労働者階級、現在のEUの中軸=ドイツ帝国主義と対決しているドイツ労働者階級である。
 2009年の総選挙における社民党(SPD)の敗北で、2005年来の保守党=社民党の大連立が崩壊し、保守党(CDU=CSU)と自由党(FDP)の連立メルケル政権が成立した。そのもとで、ドイツ帝国主義は、公務員労働者1万5千人の首切りを頂点とする緊縮政策を強行している。
 世界大恐慌の勃発した2007〜08年当時、保守党と社民党の大連立政権は、前シュレーダー政権(社民党と緑の党の連立政権1998〜2005年)の掲げた政策『アジェンダ2010』(社会国家の改造=“ドイツの過去との断絶”を掲げる)を継承し、労働者階級への系統的な階級戦争に全力を挙げていた。その内容は、戦後的な「社会的市場経済」の解体であり、まさに中曽根が「戦後政治の総決算」(その核心が、国鉄分割・民営化)をスローガンとして、レーガン・サッチャーとともに開始した新自由主義攻撃のヨーロッパ版=ドイツ版であった。
 その主要な柱は、@「社会福祉国家の解体」、A「国際競争力強化」を掲げたアウトソーシング(EU内外の“低賃金の地方、国家”への工場移転)と賃金抑制、B雇用形態の転換(非正規雇用の大規模な増加)、C労資の全国産別レベルでの労働協約形態の解体と、企業単位・職場単位での個別交渉への転換(労組の権限の弱体化)、などを特徴とするものであった。
 とりわけ、シュレーダー政権のもとで2002年に設置されたハルツ委員会(その委員長=フォルクスワーゲン社社長の名)によって計画、実行された1次から4次にわたるハルツ計画は、体系的に社会保障制度と失業手当・失業対策を、「自己責任」型に転換し、戦後的社会福祉・保障制度の根本的解体をめざすもので、その集大成である〈ハルツW〉は、ドイツ労働者人民の憎しみの的になった。
 こうした攻撃の結果、東西統一(1990年)を経たドイツ社会のあり方は一変した。1990年代を通して、非正規雇用が労働者全体の3分の1を占めるに至った。〈1ユーロのミニジョブ〉といわれる短時間低賃金の雇用形態まで現れている。賃金水準は、大幅に低下した。失業手当受給者の数は、失業の増大にもかかわらず、大幅に減少した。また、ドイツ企業の約40%が、工場の海外移転(拡大したEU内の中東欧諸国を含む)を行い、その結果は、工場閉鎖、大量首切り、賃金引き下げとして、労働者階級を襲っている。「高賃金・高度な福祉・安定した雇用」というドイツの看板は地に落ちた。
 ここで決定的なのは、こうした戦後ドイツ社会の解体の名のもとでの労働者階級への攻撃において、ブルジョアジーの先兵となったのが社会民主党であり、その支配下にあるドイツ労働総同盟(DGB)であるということだ。1998年にシュレーダー政権が成立した際に、まず第一にやったことは、前保守党政権の内外政策の基本的継承の宣言であり、政労資の共同声明、「雇用と競争力のための同盟」の結成であった。その後、このDGBとDBA(ドイツ産業連盟=企業者団体)と政府の一体化が、戦後的労資協調の枠を越えて、ドイツ帝国主義の階級支配の柱になってきたのだ。それは国内政治だけでなく、安保国防政策でも、「戦後ドイツ」の枠を越え、NATOによるユーゴ侵略へのドイツ国防軍派兵などにおいても貫かれている。〔政権党となった「緑の党」は、外務大臣の役を担って、海外派兵を推進した〕

 「ストライキ共和国」へ

 これに対する労働者階級人民の反撃が、ついに2007〜08年に「ストライキ共和国ドイツ」といわれる闘いの一大高揚へと発展した。ストライキの先頭には、まず民営化反対を掲げた電気通信労働者(ドイツテレコム)、戦闘的機関士労組(GDL)が立ち、公共サービス労働者が続いた。ストのピーク時には、都市交通・行政機関・医療・教育・清掃・水道・空港など、全社会的な諸機関が停止した。長年、後退を強いられてきたランク&ファイル=職場労働者の怒りが、DGBの官僚的制動と至る所で激突した。
 この闘いは、2009年、新自由主義による大学の解体、EUの統一政策(ボローニア計画)による「教育の商品化」に対する学生と教育労働者の怒りの爆発に引き継がれた。ドイツ全土に、大学スト、キャンパス占拠、戦闘的街頭デモが展開し、“暑い秋”が、米英仏伊・オーストリアなどとも連動しながらかちとられた。

 反原発闘争の高揚

 ベルリン公共サービス労組、機関士労組などの闘いが、体制内指導部との対決の中で継続される一方、反原発闘争が新たな高揚を開始し、3・11に激甚な反応をもって連帯し、「フクシマは警告する」「フクシマとの連帯」を掲げる数十万人のデモが、3月以来全土で繰り広げられている。
 ドイツ労働者階級の闘いの勝利は、ひとえに体制内労働組合を打倒する階級的労働運動の前進にある。

 緊縮政策と闘うイギリス労働者階級

 年金改悪案に対する闘い

 2010年5月に登場した保守党と自由民主党の連立政権は、大規模な財政緊縮政策を発表した。その中でも、とりわけ年金改悪案がすさまじい攻撃である。それは、公務員の年金支給開始年齢を60歳から66歳に引き上げ、年金料も上げたうえで、支給額は下げるという計画で、550万人の年金制度を変える、イギリス史上でも戦後最大規模の年金改悪である。しかも、保守・自民党に対し、野党となった労働党もこれに加担しようとしているのだ。財政相は「イギリスは財政赤字を削減することに失敗するならばギリシャやアイルランドやポルトガルと同じように財政破綻の危機に直面する」と宣言し、そのために30万人に及ぶ公共部門の労働者を削減し、他の公共労働者の賃金を凍結しようとしているのである。
 このような攻撃に対する大規模な抗議活動がこの2011年、連続して闘われてきた。なかでも、当該の公務員労働者の2波にわたる大闘争は、かつてサッチャーを倒した人頭税反対デモ以来の大闘争となって英帝国主義を揺さぶりつつある。
 3月26日、TUC(イギリス労働組合会議)によって呼びかけられた年金改悪反対の闘争では、ロンドン市内で50万人を結集した大規模なデモが行われた。これは、2003年3月のイラク戦争反対闘争以来の規模であり、労働組合が組織したものとしては第2次世界大戦以来の規模だ。この闘争の中で201人が逮捕された。
( 写真 「フクシマは警告する」をスローガンにしたドイツの反原発デモ【3月26日】)

 公務員労働者が先頭に

 さらに、6月30日、公務員年金改悪反対を掲げて、NUT(イギリス教員組合)、ATL(教師講師組合)、UCU(大学教員組合)、PCS(公務員民間職員組合)が呼びかけたストに全国で75万人が参加した。このストで、イギリス全体の公立学校の少なくとも40%にあたる1万1千以上の学校で教育労働者がストに突入し、60%以上の学校が完全に休校となり、85%の学校に影響を与えた。さらにUCUが呼びかける「ノーティーチングデー」と称するストライキで、400以上の大学で多くの授業が停止した。
 こうした教育労働者の闘いに応えて、膨大な数の政府や各行政の省庁や機関の労働者がストに入った。25万人の公務員労働者を組織するPCSの呼びかけで、職業安定所や福祉相談のコールセンター、空港や港湾の税関、博物館も停止した。首都警察は、999番の緊急コールセンターの9割がストに入ったことを認めた。
 ストに決起した労働者たちは、ロンドンでの2万人集会を始めとして各地で集会やデモを行った。
 今回のストライキは、労働党の支配が強いTUCやGMB(全国都市一般労組)、UNITE(ユナイト労働組合)などの公務員を組織する最大の労働組合がストライキへの合流を拒否する中で、戦闘的な労働者の勢力の強い教員系組合が先頭に立って、全国的に闘われた。その中で、事実上のスト破りをした労働党や体制内労組幹部の裏切りへの怒りが圧倒的に拡大し、「今回のストは、団結を示せたのがよかった」「問題は次はどうするかということ」という声が高まる中で、多くの若い教育労働者が労働組合に入ったと伝えられている。
 さらに、この間、次のような闘いが展開されてきたことが重要である。
 1月4日。バーミンガム市の清掃(ゴミ収集)労働者は、賃金要求を掲げ、昨年12月22日以来の長期間の順法闘争を闘ってきたが、この日、彼らの上部機関であるGMBの480の支部の職員が新たに順法ストに突入した。
 1月21日。BA(ブリティシュ航空)の乗務員がスト権投票で大量の賛成投票を行い、5751対1579でストを承認した。
 3月4日。RMT(鉄道海運運輸労働組合)とASLEF(鉄道運転士機関士組合)は、ストをめぐる当局との裁判で控訴審に勝利した。
 3月5日。マンチェスターで市当局によって実行されようとしている削減計画に反対して2000人が抗議行動を行った。ロンドン地下鉄のジュビリー線でRMTが24時間ストを行った。
 3月12日。「怒りの日」と題してシェフィールド市で5千人がデモを行った。
 5月28日。イギリス中の40カ所で当局が発表したNHS(イギリス国民健康サービス)の削減計画に反対する数百人のデモが行われた。デモ隊のソーシャルワーカーの一人は、「5万人の職員が職を奪われようとして、命にかかわるサービスが削減されようとしている。政府は恐慌を引き起こした銀行に巨額の交付金を与えている」と語った。
 6月大規模ストに至る過程を見れば明白に、巨大に闘いが拡大している。エジプト革命に促進されて闘いが伸張している。
(写真 イギリスで教育労働者を先頭に公務員年金改悪反対のストライキ【6月30日】)

■第2章

 ギリシャ・EUの財政破綻――深刻化するユーロの危機

 ギリシャ国債がデフォルトの危機に

 ギリシャの財政破綻問題が世界を揺るがしている。
 ギリシャの財政危機が顕在化したのは2009年10月である。EUが対応できないでいる間にギリシャ危機はユーロ危機へと拡大した。10年5月2日にEUはIMFと協調して1100億ユーロ(約14兆円)のギリシャ融資を決定したが危機は収まらず、スペイン・ポルトガルに拡大した。5月10日、EUとIMF(国際通貨基金)は10時間超の緊急会合で7500億ユーロ(約89兆円)のユーロ防衛策を決定した。ひとまずの小康を得たものの、昨年12月にアイルランド、今年5月にポルトガルへの支援が行われたがユーロ危機は何ら解決していない。
 ギリシャは2012年から市場で資金調達する計画であったが、ギリシャ国債は利回りが18%にも上るほど暴落している。市場での資金調達など不可能であり、6月3日、ギリシャのパパンドレウ首相は追加支援を要請した。
 ギリシャ国債の5割を欧州が持っている。第2次支援の規模、方法を巡って調整が長引いている。第1次支援と同規模の1100億ユーロが検討されているが、ユーロ圏としてもいつまでも支援し続けることはできない。1100億ユーロのうち300億ユーロ程度をギリシャ国債を保有している民間の金融機関が借り換え(ロールオーバー)にできないかとドイツなどが提案しているが、ECB(欧州中央銀行)が対立している。ECBはギリシャ国債の18%を保有し単独では最大の債権者である。
 紙くずになる可能性の高いギリシャ国債をいつまでも保有していることはできない。ギリシャ国債の借り換えを義務づければデフォルト(債務不履行)と認定する可能性が高いと格付け会社が警告している。7月13日、欧米系格付け会社のフィッチ・レーティングスはギリシャの長期国債格付けを4段階引き下げ「トリプルC」にした。債務不履行の可能性があると判断する水準だ。
 ギリシャ国債がデフォルトになると、ギリシャの銀行が破綻する。ギリシャに多く投資しているフランス、ドイツが直撃されるし、何よりもECBが打撃を受ける。しかし、7月11日のユーロ圏財務省会合は何も決められなかった。
(図 ギリシャ国債保有状況)

 スペイン、イタリアに危機が拡大

 すでにEU・IMFの支援を受けているアイルランドは12年後半に、ポルトガルは13年後半に市場での資金調達を想定している。
 その時、国債利回りが高止まりしていれば、第2次支援が必要となる。ギリシャは13年半ばまでに危機が収束していないと第3次支援が問題になる。そのような支援が果たして可能なのか。
 7月11日、ギリシャへの第2次金融支援が難航する中、ユーロが急落し、ニューヨーク株式も大幅に下落した。スペイン国債(10年物)やイタリア国債と、ドイツ国債との利回り差はユーロ導入後初めて3%を突破した。欧州財政不安が金融支援を受けているギリシャ・アイルランド・ポルトガルからスペイン・イタリアへと拡大している。
 スペインの2010年の財政赤字はGDP比9・2%。これはEUやIMFから支援を受けるギリシャやポルトガルに匹敵する高水準である。活発な不動産投資を背景に年率3〜4%の高成長を続けたスペインは世界大恐慌に直撃されて08年に住宅バブルが崩壊した。失業の増加と消費の落ち込みで09年はマイナス3・6%となった。スペイン政府は景気対策として08〜10年で総額496億ユーロの財政拡大を行ったが、その結果、10年の財政赤字が急増した。
 サパテロ政権は13年までに財政赤字をGDP比3%に引き下げる方針を打ち出した。年金受給年齢引き上げ、解雇を容易にする労働市場改革などに、昨年9月には1000万人のゼネストが闘われた。政府は公的支出の約3分の1を占める地方自治州の予算に上限を提案したが、5月の地方選挙で与党が大敗しており、実現できるかわからない。
 イタリアはギリシャと並んでEUおよびユーロ圏で最大の借金大国であり、累積債務が大きい。財政赤字のGDP比を今年の3・9%から14年に0・2%にまで縮小する方針を決めたが、ベルルスコーニ政権の求心力がなく、実現は不明である。原子力発電の再開計画が国民投票で圧倒的に否決されたばかりであり、昨年12月には教育予算の削減に反対する学生デモが各地で広がった。
 イタリア、スペインの若年層の失業率はともに20%を大幅に上回っている。非正規雇用の全雇用に占める割合がスペイン32%、ポルトガル23%、イタリア14%(いずれも07年)であり、非正規雇用の若者が大量に解雇されている。
 すでに金融支援を受けているギリシャ・アイルランド・ポルトガルのGDP(国内総生産)の合計はユーロ圏の6%であるが、スペインは11・7%でユーロ圏第4位、イタリアは17%でドイツ・フランスに次ぐ第3位の大国である。危機はここまで拡大しつつある。

 ユーロ危機の激化

 EUは人口4億9000万人、GDP10兆9480億ユーロで、人口では米帝をしのぎ、GDPでは米帝に匹敵する規模である。それはドル危機の激浪から欧州を防衛しようとした対米経済ブロックを基本にした欧州27カ国の連合体である。ユーロはEUの法貨であり、ユーロが流通する17カ国で金融は統一されているが財政は独立している。そのユーロ圏が世界大恐慌によって解体的危機に陥っている。
 世界大恐慌は2007年のパリバショックから開始された。フランスの3大銀行の一つのBNPパリバ傘下の投資信託が満期前の解約に対応しないことから危機が表面化した。なぜ危機は欧州から開始されたのか。EU資本がユーロ導入による競争の激化から、投資先を米国の証券化商品に求めたからである。
 ユーロが導入されたのは1
999年である。それによって、ユーロ圏内での国境を越えた資金循環が活発になり、かえって金融機関の競争が激しくなった。収益を確保できず、結果として域外に収益を求め、米国の証券化商品による運用が選ばれ、米国への資金流入が促進された。欧州の金融機関がタックスヘイブンの西インド諸島よりも多額のMBS(不動産担保証券)を保有しており、サブプライムローンの破綻の直撃を受けたのである。
 08年のリーマンショックによる恐慌の拡大に対し各国は大規模な財政出動を行った。08年、09年の2年間で国債増発は10兆j(約910兆円)規模。これが各国に例外なく財政赤字をもたらした。09年はユーロ圏平均で6・9%の財政赤字となった。その筆頭がギリシャで、マイナス12・7%であった。ユーロ圏は独力でギリシャを支援できず、IMFに支援を要請した。これを提起したのはドイツである。米帝が主導するIMFの介入を嫌うフランスを押し切って、ドイツが支援要請をしたが、EUがギリシャ問題を独自に解決する力のないことを露呈した。ギリシャ支援にIMFから総額の3分の1の支援を受け、融資条件でも厳しい規律を適用した。
 ユーロ圏にはもともと経済格差があった。EU内先進国のドイツやフランスは過剰資本状態のため経済成長の余地が少なく、スペインなどへの域内やさらに域外への資本輸出に向かっていく。逆に、EU内途上国といえるスペイン、ポルトガル、アイルランドなどは、ユーロ導入を機に外国から資本導入が行われ、資本蓄積が行われ、経済成長をとげてきた。
 ECBの金融政策は、ユーロ圏平均で判断されるため、経済規模の大きい独仏よりとなり、途上国にとっては低金利となる。これがスペイン、アイルランドなどでバブルを生み、ギリシャの財政危機を生み出した。また、輸出競争力のあるドイツなどの競争力を一層高め、輸出競争力の低い南欧諸国の競争力を一層低下させ、ユーロ圏内の南北格差を拡大した。
 ECBの政策金利は消費者物価上昇を2%以内に抑えることを基本としている。米帝のQE2(金融の量的緩和第2弾)によるドルばらまきで上昇した消費者物価を抑えるために今年4月と7月に政策金利をそれぞれ0・25%引き上げて1・5%とした。これは極限的な緊縮財政を行っているギリシャ、アイルランド、ポルトガルなど財政破綻国にさらに緊縮政策を要求するものとなり、ユーロ圏の2極分解を促進している。
 2007年までは、ユーロ圏内ではドイツの経常黒字額がユーロ圏内の経常赤字国(フランス、スペイン、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル)のおおむね90%程度に匹敵してきたが、09年には60%程度にまで低下している。ユーロ圏が停滞し、経常収支赤字化が拡大している。現在EU経済を牽引している独仏の経済成長は、主に新興国への輸出に依存しており、新興国の景気動向に大きく左右されている。
(図 海外における米国民間金融発行のMBS保有額) 

 プロレタリア革命を

 ギリシャ議会は6月30日、5年間に歳出削減280億ユーロ、国有資産売却など500億ユーロを含む中期財政再建法案を可決した。
 歳出削減では公務員の人員削減や給与カット、年金や失業保険の減額など。
 国有資産売却は、エアバスの航空機4機、国営くじ、国営競馬の免許とスポーツ賭け屋、カジノの権利、複数の港湾、国営郵便局、水道会社2社、ニッケル採掘会社と精錬所、軍需物資メーカー、電力とガスの独占企業体、通信事業者、銀行6行の株式、数百の道路、使われていない空港、古いオリンピック会場、ギリシャが誇る美しい海岸沿いの土地など。
 これらの実現は非常に難しい。国有企業の民営化や国有地の売却には労働組合と市民が強く反対している。国有資産は長年売りに出ているにもかかわらず、買い手のつかないものも多い。
 パパンドレウ首相は「国の崩壊を回避するためには必要なことはすべてやらなければならない」「プランB(代替案)はない」と警告した。
 6月28日にはギリシャ全土で48時間のゼネストが闘われ、議会周辺では巨万のデモ隊による激しい抗議行動が闘われた。アテネの中心的な広場であるシンタグマ(憲法)広場では1年以上前から抗議行動が繰り返されている。「この広場に集まる誰もが、次の意見には賛成する。『この国には、別の危機打開策がどうしても必要だ』」(ウォール・ストリート・ジャーナル6月30日)
 ギリシャの最新の財政再建計画によれば2010年の財政赤字10・5%を15年までにGDPの1%にまで削減する計画である。ギリシャの経済成長は緊縮財政の中で09年はマイナス2・0%、10年はマイナス4・5%である。マイナス成長下でのこのような財政赤字削減は労働者階級に死を宣告するものである。ギリシャの失業率は10年12・5%、11年は16%になろうとしており、若者では40%近い。
 新自由主義の破綻による世界大恐慌の中で、その打開策を新自由主義に求めざるを得ないところに根本的な破綻がある。ギリシャのデフォルトは世界大恐慌のさらなる激化となる。
 ギリシャの労働者階級が求める「別の危機打開策」は、国際連帯によってプロレタリア世界革命を実現するために闘うことである。
(写真 ギリシャ政府がまとめた追加緊縮策に反対する労働者ら数千人が国会議事堂付近で抗議デモ【6月29日】)

■第3章

 侵略戦争めぐる米欧の争闘――ロシアも体制的危機に

 対リビア軍事作戦、アフガン侵略戦争の泥沼化

 リビア侵略の長期化

 北大西洋条約機構(NATO)は6月1日、対リビア軍事作戦を、6月下旬までという当初の計画から9月下旬まで90日間延長することを決めた。3月19日に開始されたリビア侵略戦争のさらなる長期化・泥沼化は不可避である。
 そもそも、NATOは3月31日に空爆を含む全軍事作戦の指揮権を米軍から承継したが、その後NATO加盟28カ国のうち、作戦に実際参加しているのは14カ国に限られ、そのうち空爆に参加しているのは8カ国(仏、英、デンマーク、ノルウェー、ベルギー、カナダなど)だけという具合であった。リビア軍事作戦が膠着状態に陥る中、いらだちをつのらせた米英は、6月8日のNATO国防相会議において、作戦不参加のドイツ、ポーランドを名指しして非難したほか、参加国のスペイン、トルコ、オランダには、偵察など限定的な任務から空爆に参加するよう促し、加盟国に攻撃への積極的参加を求めた。しかし、これに応じる国はなく、責任分担協議は空振りに終わったのである。
 作戦不参加のチェコがその理由を、「アフガニスタンで貢献している」と言っているように、NATO加盟諸国では、世界大恐慌の重圧のもとで、軍事費の負担は限界に来ている。そもそも米帝の指揮権のNATO委譲にしてからが、アフガン侵略戦争での泥沼的敗勢と膨大な戦費負担の重圧に強制されたものであった。米帝は、突出を続けるフランスからの空爆作戦の復帰要請を拒否し、「後方支援作戦」中心の任務に従事しているのだ。対リビア作戦を主導する英仏間でも、「貢献度」についての軋轢がある。
 米欧帝の亀裂と対立の背景には、リビアにおける石油利権をめぐる帝国主義諸国間の争闘戦がある。旧宗主国イタリア(リビア空爆に基地を提供)は、リビアに最大の利権を持ち、石油輸入量の20%をリビアから輸入していた。仏帝は、当初から対リビア空爆作戦の主軸を担って積極的に軍事介入を行い、独帝を排除し、米帝と対抗してリビアにおける利権の一挙的拡大を狙っている。米帝は軍事介入の負担をNATO諸国に押し付けながら、「国民評議会」の取り込みを通じて石油利権の独占的確保を狙っている。リビアと中東の石油資源を狙う帝国主義諸国間の争闘戦の熾烈化が、リビア侵略戦争をめぐる諸国間の分裂と対立をもたらしているのだ。
 にもかかわらず、エジプト革命の波及を恐れる帝国主義諸国はリビアへの侵略戦争を激化せざるを得ない。そして、この侵略戦争の激化に対するリビアの労働者人民の新たな決起も不可避である。

 アフガンでの帝国主義諸国の敗勢的撤退

 米帝オバマは、昨年3万5千人をアフガニスタンに増派したが、ますます泥沼化する情勢に直面し、6月22日、現在10万人規模になっている駐留米軍のうち、1万人を年末までに、さらに2万3千人を来年夏までに撤退させると表明した。7月13日、第1陣650人が撤退した。
 欧州・NATO諸国も次々と撤退を明らかにしている。約9500人を派兵するイギリスは、来年2月から同年末までに約500〜800人を撤退させ、14年末までに戦闘部隊を撤退させると表明している。約4600人を派兵するドイツは、今年末から撤退を開始するが、完了する時期は明らかにしていない。約4000人を派兵するフランスは14年末までに全面撤退する。オランダは昨年、アフガン派兵延長をめぐり連立政権が崩壊、2000人が全面撤退した。ポーランドは来年末までに2500人の部隊を撤退させる方針だ。
 こうした背景には、大恐慌下の財政危機の重圧とともに、国内の労働者人民のアフガニスタン侵略戦争への動員に対する怒りがある。

 米帝が欧州配備の戦術核兵器撤去を計画

 米帝オバマが、ヨーロッパ全土に配備してきた戦術核兵器の撤去について、NATOとの交渉を進めているということが報道された(7・15朝日)。「核兵器のない世界」を目指すオバマ構想の一環だなどといわれているが、巨大な財政負担を負わされるEU帝国主義諸国からの「冷戦の名残」としての反発、対ロシアの思惑、米帝自身にとっての維持の負担、そして決定的には、米帝の安保・国防政策にとっての欧州戦術核兵器の位置の低下が要因であると思われる。すなわち、アメリカ本国から発射できる戦略核(ICBM=大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、SLBM=潜水艦発射弾道ミサイルなど)によって、米帝自身の核戦力は、基本的に保持されるということ、そして決定的には、世界大恐慌下の米帝戦略の対ロシアから対中国スターリン主義への転換にあると思われる。
 これは、次に述べる欧州ミサイル防衛計画(MD)との関連も見逃せない。

 欧州ミサイル防衛(MD)めぐる米ロ関係

 このような状況の中で、NATOとロシアは、昨秋に欧州版ミサイル防衛(MD)で連携することで合意した。そのうえで、ロシアはこのMD計画がロシアの戦略核兵器を対象にしないという「法的な保証」を米帝に求めているが、米帝・NATOは欧州MD計画をあくまでも貫こうとしている。現在、その主要な対象は、イランの短・中距離弾道ミサイルとされている。
 5月3日、米・ルーマニア両国は欧州MD計画に基づく迎撃ミサイル施設を、ルーマニア南部デべセルの旧空軍基地に建設することで合意した。地中海のイージス艦への迎撃ミサイルSM3(艦対空ミサイル)配備に続き、地上発射型ミサイルSM3を配備し、200人規模の米軍が展開し、2015年までの運用を目指す。
 一方、早期警戒センター建設を打診されていたチェコは、6月15日、MDからの撤退を表明している。

 ロシア金融危機の爆発と経済の低迷

 ロシアとEUの相互関係

 欧州におけるユーロ崩壊の危機、米国における恐慌2番底の危機、日本における震災恐慌の危機、中国におけるバブル経済崩壊の危機が示す世界大恐慌の歴史的な深化・激化の影響を受け、再資本主義化20年を迎えたロシアもかつてない金融危機、経済危機に突入している。
 ロシアは、EUにとって、まず重要な通商・貿易の相手国であり、直接投資の対象国でもある。そして何よりも、天然ガスを中心とするエネルギー資源の供給国である。また、その地理的位置からいっても、ヨーロッパの安全保障=防衛問題にとって、死活的な相互関係にある。そのすべてが、対米関係の緊張をはらんでいると同時に、EU内部でも、独仏はそれぞれ独自の利害をもって関わっている。このようなロシアの動向は、大恐慌下のEU帝国主義にとって、重大な意味を持っている。
 ロシアの09年のGDP成長率はBRICsの中で例外的に大幅マイナスを記録した。国際原油価格が08年後半に1バレル40j台に下落したことが大きな原因だ。原油価格が昨年から90〜100j台に回復したことに助けられ、今年は国家財政赤字が大幅に縮小し、GDP成長率も4%台になろうとしているが、GDP総額は07年の水準に回復しそうもない。メドベージェフ大統領による「ロシアの近代化」の掛け声にもかかわらず、ロシアは石油・天然ガスなどの資源輸出依存構造を強めるばかりだ。原油価格の高騰は技術革新の停滞をもたらすのだ。
 原油価格の上昇の中で、帝政ロシア以来の汚職・腐敗・官僚主義、エリツィン時代に台頭したオリガルヒ(新興金融財閥支配者)らによる国家資産と経済の私物化、プーチン時代以来のシロビキ(軍・治安関係官僚)による企業の国家統制と私物化が強まった。これは対ロシア投資リスクを高め、資本逃避を促進する。外国資本も投資を控える。この結果、最新技術の導入や技術革新が進まず、ロシアは国際競争から取り残されている。これらがまた石油・天然ガス・武器輸出依存体質を強めさせる。
 ロシア経済の危機を表す特徴的な事件、現象が起きている。

 モスクワ銀行の不良債権

 一つはモスクワ銀行の巨額の不良債権発覚と救済策だ。クドリン副首相兼財務相は7月1日、モスクワ銀行救済のための3950億ルーブル(141億5千万j=約1兆3千億円)に上る金融支援に乗り出すことを明らかにした。ロシア中央銀行―DIA(預金保険機構)による2950億ルーブル(約8560億円)の緊急融資と国営のVTB(対外貿易銀行)によるモスクワ銀行の自己資本強化のための1000億ルーブル(約2900億円)の出資だ。VTBの出資比率は75%になる。
 今年2月にロシア2位の国営金融大手VTBが35億ルーブルで過半数の株式を取得、吸収したロシア5位のモスクワ銀行が巨額の不良債権を抱えていることがロシア中央銀行の金融検査で発覚したのだ。ボロディン前CEO(最高経営責任者)と関係の深い企業に対する2500億ルーブル(約7250億円)の融資が不良債権化しているのだ。それはモスクワ銀行の資産全体の約3分の1を占め、そのうち1500億ルーブル(約4350億円)の融資にはまったく担保が設定されていなかった。
 市場にはVTBの経営手法への疑問が生じている。ロシア中央銀行の銀行経営に対する監督能力不足も露呈した。底なしに腐敗しているロシアにおいて今回発覚したモスクワ銀行の不良債権は氷山の一角にすぎない。ロシア金融危機の爆発とロシア経済の低迷は不可避である。

 止まらない資本流出

 二つはロシアの資本流出に歯止めがかからないことだ。ロシア中央銀行によると、一大産油国として原油高の恩恵を受けているにもかかわらず、ロシアの資本流出額は純額で1〜3月期213億j(約1兆7300億円)に達した。前年同期比45%増だ。3カ月で昨年1年間の資本流出額353億j(約2兆8600億円)の6割に達する急ピッチの流出だ。4月には53億j(約4300億円)流出した。
 07年には資本の純流入額が800億jを超えたが、金融危機の影響を受けた09年には500億j以上の出超になった。
 資本流出の原因は、ロシア経済の低成長や国内の投資環境の悪さ、年末から来年春にかけて行われる連邦議会選挙や大統領選挙を前にして投資案件を進めにくいこと、ロシア企業・政府の賄賂・汚職体質、主要産業に対する国家の関与が大きいこと、などだ。投資環境が改善されない限り、資本流出は続く。
 ロシアのGDP成長率は今年は4・4%と予測されているが、これは中国の8%、ブラジルの4・5%に比べて見劣りするばかりか、インフレ率もロシア政府予測の6〜7%を超え8%になろうとしている。世界的な原油高騰によるロシアの余剰資金は、株式など短期の投機資金には流入するが、企業は海外への投資や資金移転の動きを強めているのだ。原油価格や株価指数が上昇する一方で1月の設備投資額は前年同月比で4・7%減、2月も0・4%減となっている。
 昨年はロシアへの海外直接投資が13%減少するなど、外資も対ロ投資を控える傾向にある。メドベージェフ大統領は3月末、「外国の投資家はロシアを信用していない」と投資減によるロシア経済停滞への強い危機感を表明した。7月1日までに閣僚が役員兼務を辞めるべき国営企業17社を挙げるなど投資環境改善策を政府に指示した。しかし、世界で戦争と危機が起きている限り、原油価格の高騰で潤うロシアは石油・天然ガス輸出依存の経済構造が変わることはないだろう。
   ◇   ◇
 米帝の大崩壊が始まる中でEU・ロシアの危機は今や臨界点に達している。世界大恐慌をプロレタリア世界革命に転化する闘いは待ったなしだ。全世界の労働者階級の団結が求められているのだ。

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月刊『国際労働運動』(421号4-1)(2011/09/01)

翻訳資料

■翻訳資料

2011年米『国家軍事戦略』(中)

2011年2月 米軍統合参謀本部

土岐一史 訳

(7月号よりつづく)

 第3章 不朽の国益と国家の軍事目的

 アメリカの外交政策と国際安全保障の構造は、こうした変動する安全保障環境に適合し続けなければならない。2010年度版『国家安全保障戦略』(NSS)は、アメリカが世界的な指導的役割を保ち続けるためのコミットメント(関与)を再確認し、わが国の不朽の国益を次のように定義した。
 ・アメリカ、その市民、アメリカの同盟国とパートナーの安全保障  ・アメリカ、その市民、アメリカの同盟国とパートナーの安全保障
 ・機会と繁栄を押し開く、開かれた国際経済システムにおける強力で、革新的で、成長するアメリカ経済  ・機会と繁栄を押し開く、開かれた国際経済システムにおける強力で、革新的で、成長するアメリカ経済
 ・国の内外における普遍的価値観への敬意  ・国の内外における普遍的価値観への敬意
 ・世界的な脅威に立ち向かうより強力な連携を通して、平和、安全、機会を促進するアメリカの指導体制によって前進する国際秩序  ・世界的な脅威に立ち向かうより強力な連携を通して、平和、安全、機会を促進するアメリカの指導体制によって前進する国際秩序
 2010年度版『4年ごとの国防見直し』(QDR)は、国防総省の改革の制度化と、今日の緊急の要求と将来の脅威への準備との間のバランス調整に向けて重要な一歩を踏み出した。QDRはまた、米軍機構の主要な要素を定義し、わが国の防衛の目的を達成するために統合軍を形作る上での構築物を提供した。『核態勢見直し』は、核戦力に関してこれらの領域に対応したものである。
 NSSとQDRは、わが国の軍事目的の確立に大きく寄与している。
 ・暴力的破壊主義と対決する  ・暴力的破壊主義と対決する
 ・侵略を抑止し、粉砕する  ・侵略を抑止し、粉砕する
 ・国際的、地域的安全保障を強化する  ・国際的、地域的安全保障を強化する
 ・将来の戦力を形作る  ・将来の戦力を形作る
 これらの目的を追求するに当たって、アメリカ統合軍はアメリカの指導的役割と国の安全保障に決定的な貢献を行う。アメリカとその同盟国、パートナーは、不断の緊張が支配する環境における影響力を高めるためにしばしば競争するであろう。アメリカの外交努力と結合して、われわれは、この緊張が衝突にエスカレートしないように全力を挙げる。それには、アメリカ統合軍が、決定的な軍事力を築く到達度、解決策、能力を有していることが必要である。
 とはいえ、軍事力だけではわれわれの直面する複雑な安全保障上の脅威に全面的に応えるには不十分である。軍事力その他のわが国の政治的手腕の道具がより効果的になるのは、それが心を合わせて適用された時である。戦略的環境がどうなろうと、このことは変わらない。この多中心世界においては、アメリカの指導的役割への軍隊の貢献は、武力よりむしろ、武力行使へのアプローチでなければならない。そして指導のアプローチのいかんに関わらず、われわれは常に、説得力のある武力行使の実例を通して、われわれの基本的価値観を示していかなければならない。

 A暴力的破壊主義と対決する

 アメリカ人民の安全、わが領土、われわれの生活のあり方以上に死活的な利害はない。だからこそわれわれは、暴力的破壊主義の震源地たる南中央アジアで戦争を行っているのである。アフガニスタンは、タリバンに安全地帯を提供されたアルカイダが、2001年9月11日に300
0人もの罪のない人々を虐殺した作戦を練った場所である。アルカイダの上級指導部はパキスタンに潜伏し、アメリカとその同盟国、パートナーへの攻撃を続けようと画策している。
 この作戦におけるわが国の戦略的目標は、アフガニスタンとパキスタンにおけるアルカイダとその関係者を分裂させ、解体し、粉砕し、彼らの両国への帰還を阻止することである。この成功には、統合軍がNATO、わが国と連携するパートナー、アフガニスタン、パキスタンと緊密に活動することが必要である。われわれはタリバンの影響力を削ぎ続け、アフガン政府と協力してかつての反政府勢力の再統一と和解を促進し、アフガン治安部隊の能力を向上させ続け、パキスタンが最終的にアルカイダとその過激な同盟者を打ち負かすことを可能にするだろう。
 暴力的破壊主義の脅威は南中央アジアに限ったことではない。アラビア半島のアルカイダ、北西アフリカのアルカイダ、アル・シャバブ(ソマリア南部を拠点とする反政府勢力)、ラシュカーリ・タイバ(カシミールの分離独立を目指す反政府勢力)などのグループは、ソマリア、イエメンその他の場所に端を発している。テロリストが遠隔地の攻撃を計画・調整する能力は向上しつつあり、時には違法な密売ルートによって助長され、作戦上の到達範囲を拡大する一方、彼らの安全地帯を特定することはますます困難になっている。しかし暴力的過激派がアメリカや同盟国の国益と市民を脅かす限り、彼らがどこにいようとも、テロリストのネットワークの複雑さにもかかわらず、わが同盟国のパートナーと連携して、わが国は彼らを摘発、捕捉、殺害する用意を固めるであろう。
 こうした作戦は短期的には敵を混乱させるが、それだけでは決定的とはなりえず、過激主義と戦う実行可能な長期戦略を形成することはできない。われわれは引き続き、過激主義と対決する全国的アプローチを支援・促進し、責任ある国家との地域的パートナーシップを追求・維持して、テロリストの支援と彼らの正統性の根源を侵食しなければならない。軍事力は、経済成長、ガバナンス、法の支配――反テロリズム活動の真の根幹――を補完するものである。長期的には、人口の安定多数が過激主義と暴力を拒絶してより平和的な解決策を選択した時、暴力的なイデオロギーは最終的に信用を失い、粉砕されるであろう。
 われわれは協力関係のネットワークを強化・拡大し、パートナーが安全保障を向上させる手助けをするであろう。これは、暴力的破壊主義が根付く潜在的安全地帯を減らすのに役立つであろう。わが国は、より広範な国家安全保障上の優先事項と同時にパートナーの能力を向上させる取り組みを続け、わが公共機関ごとのプロセスを統合し、省庁間の協力関係を向上させるであろう。軍隊間の関係は効果的で、かつ政治的動乱や時には崩壊に耐えられるものでなければならない。
 わが国は過激派との対決において抑止の原則を適用するであろう。テロリストは直接抑止することは非常に困難だが、彼らは損得勘定を行うのであり、われわれが影響を及ぼすことのできる国々その他の利害関係者に依存しているのである。適切な指導があれば、わが国は、アメリカやその同盟国への攻撃に関与する一切の政府その他の存在に、損害を拡大させることができるだろう。そしてわれわれは、テロリストが攻撃によって利益を生むことのないよう、さらなる一歩を踏み出さなければならない。われわれはまた、わが国の選んだ時と場所で適切かつ整然たる反撃を行うことを通して、軍事能力の全分野においていかなる攻撃にも反撃する用意を固めるであろう。
 こうした困難な作戦をやりぬく中で、われわれは他の権力の道具と調和し、かつ正確で原則的な方法で軍事力を行使するだろう。正確とは完璧という意味ではなく、原則的とは非妥協という意味ではない。だがわれわれは、民族間の戦争が持つ生来の複雑さを認識しなければならない。無実の人間の巻き添えを最小限にすることによってわが国が引き受けるリスクは、より多くの人々がわが国のより広範な任務に敵対するリスクを減らすことによって相殺される。かくて、規律に則った武力の行使は、わが国の価値観と国際法に合致するものであり、戦略的・戦術的成功の可能性を高め、国の政策をより効果的に前進させるのである。

 B侵略を抑止し、粉砕する

 

戦争を防ぐことは戦争に勝つことと同様に重要であり、しかもはるかに安くつく。世界の繁栄と相互連絡には、環境が安定していて安全であること、国家間の領土をめぐる侵略や紛争がないこと、安定した市場のために資源やサイバースペースへの信頼できるアクセスがあることが必要である。国家間の通常兵器やそれ以外の兵器での紛争は、商業を妨げ、市場の不安定を招く。瞬間情報システムや世界経済の相互作用によって、こうした悪影響は激化し、増幅される。安全の保証人として、そして可能であればわが同盟国やパートナーと連携して、統合軍はわが国益を脅かす地域的侵略を抑止し、粉砕する態勢を固めるであろう。
 侵略を抑止する。アメリカは核兵器のない世界の平和と安全を追求している。しかしながら、核兵器がある限り、アメリカ、その同盟国やパートナーへの核攻撃を抑止することはアメリカの核兵器の基本的な役割であり続けるだろう。大統領のヴィジョンを支持しつつ、われわれは核兵器の役割や数量を削減する一方、安全、安心かつ効果的な戦略的抑止力を維持するであろう。統合軍は侵略を抑止する能力を提供し、わが国の核の傘や海外のミサイル防衛能力を通じて同盟国やパートナーの存在を保障するだろう。われわれは引き続き、限定攻撃に対する弾道ミサイル防衛網の能力強化を主導し、この領域において同盟国やパートナーと協力する機会を追求する。
 われわれはWMD(大量破壊兵器)の拡散と対決する。それはわが国と他国にとって、重大かつ共通の脅威になっているからである。公共機関や同盟や連合体を通じて、われわれはWMD拡散ネットワークを破壊し、資源の移動を禁止すると同時に、核についての弁論能力を向上させ、全世界の核、化学、生物学資源を保護するであろう。われわれは、同盟国やパートナーが自国の人口を守るために、WMDを抑止し、廃絶する能力を向上させる手助けをするだろう。戦闘司令官は細心の注意を払った計画を立案し、WMDの根源を断ち切る決意を固め、必要であれば大統領に軍事行動のオプションを提供されたい。
 われわれはまた、強固な通常兵器による抑止力を維持しなければならない。抑止と安定には、すべての領域で、急速かつ地球規模で武力を行使する能力が必要である。同様に、戦力配置は――交替制であろうと前線基地方式であろうと――目に見える提携の取り組みを通して、地理的に空白がなく、作戦的に弾力があり、政治的に持続可能なものにしなければならない。
 われわれは敵の行動を制するための経済的、外交的、軍事的道具をブレンドした国全体の抑止のアプローチを支援するであろう。侵略者が目標を達成するのを阻止することは、彼らが報復の脅威を通じて行っている戦略的計算を改めるのと同様に効果的となりうる。最も効果的な抑止のアプローチとは、両方の手法を使い、しかも潜在的敵国の満足しうる別の選択肢を提供することなのである。
 われわれはまた、抑止の原則を21世紀の安全保障上の脅威に適応させなければならない。われわれは、劣化した環境の中で戦う能力を所持し、われわれの体制またはインフラに対する攻撃を抑止・粉砕する能力を向上させることによって、空、宇宙、サイバースペースでの抑止力を高めるであろう。
 侵略を粉砕する。わが米軍の中心的任務は、依然としてわが国を防衛し、戦争に勝利することである。それを実現するには、敵の侵略を粉砕する能力を提供しなければならない。軍事力は時には、わが国や同盟国を防衛する、またはより広範な平和と安全を維持するのに必要になることがある。国際基準の厳守を追求しつつ、アメリカはできる限り同盟国やパートナーと連携して軍事力を行使するが、必要なら単独で行動する権利も留保する。あらゆる不測の事態に備えて、軍事指導者たちはわが国の指導部に、軍隊がいかにわが国の目標達成に貢献するのかというオプションを提供するであろう。
 敵の侵略を粉砕するには、統合軍がアクセス阻止・地域排他的戦略と対決する国レベルのアプローチを支援することが必要であろう。アクセス阻止戦略は、わが国が戦闘力を地域に展開・維持するのを阻止することを狙っており、他方、地域排他的戦略は、地域内でのわが国の行動の自由を制限することを狙っている。これらの戦略に打ち勝つには、統合軍のドクトリンが、あらゆる領域で核となる軍事能力をより一体化させ、地理的な検討材料や制約について説明する必要があるだろう。こうした核となる軍事能力には、補完的・多面的軍事展開、統合軍の強制侵入、世界的共有領域やサイバースペースが脅威にさらされた場合に統合軍が確実にアクセスする能力、そして敵と戦って勝利する能力が含まれる。
 世界的共有領域やサイバースペースへの統合軍の確実なアクセスは、アメリカの国家安全保障の要であり、統合軍にとって息の長い任務である。世界的共有領域と世界的関連領域は、すべての国の安全保障と繁栄が依拠する結合細胞である。海洋領域は、統合軍の前方展開と戦線維持の大部分だけでなく、世界経済体制を支える商業をも可能にする。空、宇宙、サイバースペースの相互連関は、これもまた世界経済にとって決定的な、人、考え、商品、情報、資本の高速で高品質の交換を可能にする。こうした共同の領域は、統合軍の軍事力の展開と維持、侵略を抑止・粉砕する能力にとって不可欠かつ相互依存的な媒介なのである。
 わが国の利益を守ると同時に、統合軍は、世界的共有領域とサイバースペースで、アクセスを守り、安全を維持し、監督責任と説明責任を提供し、責任ある基準を推進しようとする国際的な取り組みにおいて強力な役割を担うであろう。統合軍は、集団的安全保障を支え、各人の行いを統制するために、わが国が支持する慣習、法律、法制度を遵守するであろう。われわれはまた、戦域戦略の一環として、共有領域やサイバースペースでの協力を、ガラス張りで、定期的で、ありきたりの実践を通して促していくであろう。
 わが国が宇宙やサイバースペースで効果的に展開する能力は、とりわけ侵略を粉砕するに当たってますます死活的になっている。アメリカは、宇宙やサイバースペースで、国家的・非国家的主体からのしつこく、広範で、増大せる脅威にさらされている。われわれは、共有領域が使えない、またはアクセス不能の状態でも作戦を可能にする能力を培わなければならない。宇宙とサイバースペースは、空、陸、海という領域での効果的な地球規模の戦闘を可能にし、またそれ自身が戦闘領域として登場しているのである。
 ・宇宙。われわれは、基準を確立・推進し、宇宙の状況に関する認識を高め、透明性と情報共有をより高める国全体のアプローチを支援するであろう。われわれは同盟国やパートナーと協力して、連携を可能にし、宇宙構造の弾力性を高める能力を向上させるであろう。われわれはさらに、この劣化する宇宙環境の中で、宇宙での能力への攻撃の誘惑を最小限に食い止める軍事力展開のために訓練し、こうした行為を抑止・処罰する様々なオプションを維持するであろう。  ・宇宙。われわれは、基準を確立・推進し、宇宙の状況に関する認識を高め、透明性と情報共有をより高める国全体のアプローチを支援するであろう。われわれは同盟国やパートナーと協力して、連携を可能にし、宇宙構造の弾力性を高める能力を向上させるであろう。われわれはさらに、この劣化する宇宙環境の中で、宇宙での能力への攻撃の誘惑を最小限に食い止める軍事力展開のために訓練し、こうした行為を抑止・処罰する様々なオプションを維持するであろう。
 ・サイバースペース。サイバースペースでの能力は、戦闘司令官がすべての領域で効果的に行動することを可能にする。戦略司令部とサイバー司令部は、アメリカ政府の省庁、非政府団体、産業界、国際的主体と協力して、新たなサイバー基準、能力、組織、技能を発展させるであろう。もし大規模なサイバー侵入や弱体化を狙ったサイバー攻撃があれば、われわれは、われわれのアクセスとサイバースペースの利用を保障し、悪意ある主体に説明責任をとらせるための広範なオプションを提供しなければならない。われわれは、サイバースペースでの効果的な行動を可能にする新たな権限を提供するための行政・立法機関の行動を追求しなければならない。  ・サイバースペース。サイバースペースでの能力は、戦闘司令官がすべての領域で効果的に行動することを可能にする。戦略司令部とサイバー司令部は、アメリカ政府の省庁、非政府団体、産業界、国際的主体と協力して、新たなサイバー基準、能力、組織、技能を発展させるであろう。もし大規模なサイバー侵入や弱体化を狙ったサイバー攻撃があれば、われわれは、われわれのアクセスとサイバースペースの利用を保障し、悪意ある主体に説明責任をとらせるための広範なオプションを提供しなければならない。われわれは、サイバースペースでの効果的な行動を可能にする新たな権限を提供するための行政・立法機関の行動を追求しなければならない。

C国際的、地域的安全保障を強化する

 地球規模の強国として、アメリカの国益は、より広範な国際体制――同盟、パートナーシップ、多国籍機関の体制――の安全や安定と深く絡み合っている。わが統合軍の配置、力、即応態勢は、無敵の能力を提供する地球規模の国防態勢を形作り、それが唯一、わが国が全地域にわたる安全保障を強化する取り組みを可能にしている。わが国の指導へのアプローチは、われわれが直面する独自の脅威の組み合わせいかんによって異なるであろう。われわれは、当面の脅威に対処するとともに、長期的な傾向にも対応するよう身構えなければならない。
 国際的、地域的安全保障を強化するには、わが軍が地域に重点を置きつつも、地球規模で出動可能であることが必要である。任務は急速に変化しうるし、われわれは、各種の能力を急速に統合することができるよう、わが統合軍を再編し続けるであろう。われわれは地域ごとの同時進行計画や軍事力の流れを向上させるであろう。パートナー国家の支援のもとで、われわれは、わが国の世界的な経済上、安全保障上の利害を保護することと矛盾しない形で、共有領域、基地、港、飛行場への前方展開とアクセスを維持するであろう。われわれは、ホスト国の文化上、主権上の懸念に注意深く対処しなければならない。地球規模の部隊展開は、依然としてわが国の最も強力なコミットメントであり、あらゆる領域、地域において戦略的深みを与えるのである。

 北アメリカ。わが国の最も死活的な国益は、われわれの人民、国土、生活様式の安全と安定である。われわれは本土を防衛し、本土の安全保障を支援する上で決定的な役割を果たすであろう。われわれは国土安全保障省、特に沿岸警備隊と協力して、わが大陸と国家へのアプローチを守るための空、海、宇宙、サイバースペース、陸の各領域での認識を高めるであろう。攻撃や、サイバー事故、自然災害に即応して、われわれは計画・指揮・統制、事後処理、兵站支援を国土安全保障省、州や地元の自治体、非政府組織に迅速に供給することを目指す。われわれは引き続き、州兵の一部を、本土の防衛と文官の要人の防衛に専念させ、資金を与え、訓練させるであろう。
 カナダやメキシコと連携して、われわれは、わが北アメリカの本土への直接の脅威を抑止、粉砕する用意を固めるであろう。われわれはまた、興隆せる北極圏などの地域安全保障問題でカナダと連携し、メキシコとますます緊密な安全保障上の協力関係を築くことを追求するであろう。双方の国境での安全保障を高める共同責任の一環として、われわれは、暴力的な多国籍犯罪組織との戦いにおいてメキシコ治安部隊を支援するであろう。違法な麻薬密売の源や一時集積所を破壊する取り組みは、北・中・南アメリカ、そしてカリブ海諸国と連携して行われなければならない。

 カリブ海諸国、南・中央アメリカ。わが国は南アメリカとともに、二国間、西半球、全世界の問題についての前進を追求している。これを支援するために、統合軍は南・中央アメリカ、カリブ海での安全保障上の協力関係を築き上げ、西半球での安全と安定を高めるであろう。われわれは、南アメリカ防衛委員会のような、ブラジルその他の地域的パートナーによる経済的・安全保障上のメカニズムを構築しようとする取り組みを歓迎する。こうした取り組みは、相互依存を築くのに貢献し、パートナー国家を地域の安定を高める南アメリカの安全保障機構へとますます一体化させることができる。

 広義の中東。わが国は、広義の中東に重要な利害を持っている。地域の安定に対する最も重大な脅威は、依然としてイランの体制である。イランは核兵器の開発を追求し続けており、広義の中東全域にわたってテロリスト組織を援助し続けている。わが国の国益を擁護し、前進させるために、統合軍は、わが同盟国や地域的パートナーの安全保障上の協力を追求し、彼らの防衛能力を強化するであろう。われわれは、多国籍、非国家の民兵グループと対決する取り組みを支援し、WMDや関連物質の拡散と戦うであろう。われわれは、パートナーや同盟国を安心させ、イランが核武装を達成するのを阻止することのできる、時宜を得たプレゼンスを維持するであろう。
 わが国はイラクとの長期的なパートナーシップを追求している。その中には安全保障の問題も含まれる。統合軍は、わが国の支援の焦点をイラクの内に向けた国内安全保障から外に向けた国防へと移しつつあるが、この移行をうまい具合にやり続けなければならない。われわれは、全イラク人、それにイラクの隣国の利益を注意深く考慮に入れつつ、イラク国防軍を建設するであろう。われわれは、イラクと近隣諸国との安全保障上の関係をさらに強固にするべく尽力するであろう。

 アフリカ。わが国は引き続き、アフリカでの効果的なパートナーシップを歓迎する。国際連合とアフリカ連合は、人道的な平和維持、能力向上の取り組みにおいて決定的な役割を果たしており、それは安定の維持に役立ち、対立の根底にある政治的緊張の解決を促進し、より広範な発展を生み出している。これを支援するために、統合軍は引き続き、テロリズムの脅威がわが国の本土や国益を脅かしかねない決定的な国々に焦点を当てつつ、アフリカのパートナーの能力を高めていくであろう。われわれは引き続き、アフリカの角、とりわけソマリアやトランスサヘル(サハラ一帯)での暴力的破壊主義と対決していく。その他の地域でも、無実の市民への安全上の脅威を減らすために活動していく。われわれは、アフリカの安全保障に貢献する上で指導的な役割を果たしている国家や地域組織を見極め、援助しなければならない。われわれはアフリカ予備軍を始めとするアフリカ連合や地域経済コミュニティーの軍事能力の発展を向上させ、この大陸における数多くの安全保障上の脅威に立ち向かうであろう。

 ヨーロッパ。NATOは引き続き、わが国の卓越せる多国間軍事同盟であり、わが国のヨーロッパとの国防上の協力関係を牽引するであろう。統合軍は引き続き、アフガニスタンやパキスタン支援でのわが国の任務に焦点を当てつつ、暴力的破壊主義と戦うために各国と協力するであろう。われわれはまた、宇宙・サイバースペースの安全保障、大陸間弾道ミサイル防衛、麻薬密売の防止、WMD拡散防止などの新たな戦略的コンセプトを支援し、補完能力の向上に役立つ任務の専門化を推進するであろう。われわれは、こうした機関が、NATOが全領域での作戦能力を維持しつつ、加盟国の国防費の削減にいかに適合するかという問題に細心の注意を払うであろう。
 NATO加盟国は、周辺地域を安定化させる軍事力として行動しており、その範囲は中東からレヴァント(近東)、北アフリカ、バルカン半島、コーカサスに及んでいる。この点で、トルコは独特で決定的な役割を果たしうる。われわれは同盟とヨーロッパの非NATO諸国との軍隊同士の関係をより緊密にするために積極的に支援する。非NATO諸国の中には、何十年にもわたって大西洋をまたぐ安全保障に確実に貢献してきた国々も含まれているのである。わがヨーロッパでの同盟を強化する中で、われわれはロシアとの対話と軍隊同士の関係を深め、戦略兵器削減の取り組みの成功をかちとるであろう。反テロリズム、WMD拡散防止、宇宙、大陸間弾道ミサイル防衛などでロシアとの協力を追求し、ロシアがアジアでの安全と安定を維持する上でもっと積極的な役割を担うことを歓迎するであろう。

 アジア・太平洋。わが国の戦略的優先順位と利害は、ますますアジア・太平洋地域から発することになるだろう。この地域の世界の富に占めるシェアは上昇しており、それが軍事能力の向上を可能にしている。このことは、この地域の安全保障構造を急速に変え、わが国の安全保障と指導力にとって新たな脅威と機会をもたらしている。まだアメリカの二国間軍事同盟体制に支えられているとはいえ、アジアの安全保障構造、非公式の多国間関係、そして拡大する二国間安全保障が国々を結びつけている。
 われわれは数十年にわたって、北東アジアに強力な軍事プレゼンスを維持するつもりである。われわれは日本の自衛隊と協力して、日本が国防態勢を改めるのに伴って、自衛隊の域外での作戦能力を高めるために行動するであろう。大韓民国は、アメリカの世界中の安全保障の取り組みを支援する確固とした同盟国であることを証明してきた。北朝鮮が地域の安定にとって挑発的な脅威である限り、われわれの大韓民国へのコミットメントは不変である。われわれは2015年まで連合軍の作戦指揮権を維持し、南朝鮮が安全保障上の責任を拡大するまで南朝鮮の支援を続ける。日本や南朝鮮と連携して、三者の安全保障上の結びつきを強化し、軍事協力を向上させ、地域の安定を維持するであろう。
 われわれのプレゼンスと同盟のコミットメントが北東アジアでの安定の維持の鍵なのであるが、われわれはさらに、東南・南アジアにも注意を向け、人的・物的資源を開発しなければならない。われわれは、わが国がますます重点を置いているASEANその他の多国間評議会を支援する安全保障上の機会を追求するであろう。二国間では、地域安全保障の問題でのオーストラリアの指導力と、両国が共有する価値観と長年にわたる歴史的つながりは、ますます重要な関係の基礎になっている。われわれは両国の同盟を、相互運用、透明性、有意義で広範囲な共同活動の模範とするであろう。
 (つづく)

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月刊『国際労働運動』(421号5-1)(2011/09/01)

■Photo News

 ●いわき市などで反原発行動

  (写真@A)

  (写真BC)

 

6・11全国100万人行動―6・19怒りのフクシマ大行動に続いて、7月にも反原発行動が各地で闘われた。
 佐賀県の玄海原発再稼働阻止へ7月11日、200人が県庁を包囲して闘った。俳優の山本太郎さんも参加した(写真@)
 7月16日には、福井県大飯原発の再稼働阻止へ大阪中之島で反原発関西行動が闘われ、関西電力本社へ向けてデモ行進した(写真A)
 7月17日には、動労水戸の呼びかけで、被災地・福島県いわき市で「線路を返せ! 職場を返せ! 故郷を返せ!」をスローガンに「すべての原発を止めよう!7・17いわき集会&デモ」が380人の結集で闘われた。(写真BC)

 ●「三里塚現闘本部破壊許さない!」

  (写真DE)

 

  (写真FG)

 7月18日、三里塚芝山連合空港反対同盟の呼びかけで緊急現地闘争が闘われた。天神峰現地闘争本部の破壊・撤去の攻撃が迫る中、怒りに燃えた労働者・農民・学生・市民250人が猛暑をはねのけて結集し、反対同盟とともに闘うことを誓い合った。市東孝雄さん宅南の開拓組合道路に接する萩原進さんの畑を会場に集会が開かれた(写真DE)。集会後、反対同盟を先頭に、市東さんが南台の畑までの行き来を強いられている「迂回ルート」をデモ行進(写真F)、フェンスに囲まれた現闘本部に詰めかけて「現闘本部破壊を許さないぞ!」のコールをたたきつけた(写真G) 。  7月18日、三里塚芝山連合空港反対同盟の呼びかけで緊急現地闘争が闘われた。天神峰現地闘争本部の破壊・撤去の攻撃が迫る中、怒りに燃えた労働者・農民・学生・市民250人が猛暑をはねのけて結集し、反対同盟とともに闘うことを誓い合った。市東孝雄さん宅南の開拓組合道路に接する萩原進さんの畑を会場に集会が開かれた(写真DE)。集会後、反対同盟を先頭に、市東さんが南台の畑までの行き来を強いられている「迂回ルート」をデモ行進(写真F)、フェンスに囲まれた現闘本部に詰めかけて「現闘本部破壊を許さないぞ!」のコールをたたきつけた(写真G) 。

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月刊『国際労働運動』(421号6-1)(2011/09/01)

世界経済の焦点

■世界経済の焦点

 米経済は2番底に

 米国債の格下げが切迫/ドル暴落が現実化

 米経済は今や2番底に転落しつつあり、世界大恐慌が再激化していくのは必至となった。今回の世界大恐慌が始まったのは、07年夏のパリバ・ショックからだった。それから4年を経て大恐慌が再激化するという前例のない展開だ。これは、恐慌対策が米帝を始め早期に、かつ世界一斉で、しかも大規模に発動されたため、大恐慌の進展が人為的に抑えられてきた結果だ。恐慌対策の効果が切れると大恐慌が再び激化するしかない、という破滅的な状況と化している。

 □QE2終了し恐慌対策の限界が露呈

 その典型が米経済である。昨年11月から実施されていた金融の量的緩和第2弾(QE2)は6月で終了した。6月までに6000億j(48兆円)の米国債をFRBが買い入れて市場に資金を供給し、FRBが保有する住宅ローン担保証券の元本分3000億jも米国債購入に充てた。要するにドルのばらまきだ。狙いは、デフレの回避、株価上昇による消費の促進、ドル安誘導による輸出の後押し、金利低下による住宅・設備投資の刺激などである。
 バーナンキFRB議長は6月の会見で、「QE2はデフレに陥るリスクを取り除くことができ、非常に成功した」と自賛した。物価上昇率(コア指数)は昨年10月に前年同月比0・6%にまで落ち、デフレに向かいつつあった。QE2でマネーサプライは11月に年率20%もの大幅増となり、消費者物価上昇率も今年4月には3・2%まで高まり、デフレ懸念はひとまず後退した。
 また、ダウ平均株価も今年4月までの1年間で約20%上昇し、その資産効果で消費が伸びた。株価上昇によって、米家計の純資産は昨年9月末から12月末だけで2兆j強(約180兆円)も増えた。ただし5月には株価も反落に転じ、6月まで6週間連続の下げとなった。
 しかし、効果はこの二つにすぎない。6月末に会見をしたバーナンキ議長は、QE2でも景気が上向かなかったことについて、「なぜ停滞が続くのか、よく分からない」と絶望感を吐露した。大恐慌の根っこにある過剰資本・過剰生産力状態に完全にお手上げ状態と化しているのだ。
 とくにFRBが民間金融機関に供給したマネーは、準備預金となって再びFRBに戻っている。ベースマネー(現金と金融機関の準備預金の合計)は08年8月の8413億jに対し10年10月は2・3倍の1兆9584億jだが、準備預金は83億jから9944億jへと120倍にも急増した。いくら資金を供給しても実体経済には回っていない。大恐慌下で米金融機関が深い傷を負っているうえ、過剰資本状態であるため投資先が見つけられない。
 むしろ、QE2は世界的なカネ余りを助長して原油価格を高騰させ、米経済にマイナス作用も及ぼした。QE2によるドルのばらまきで、世界のドルの流通量を示す「ワールドダラー」は昨年11月以降で8000億jも膨らみ、過去最高水準になった。このため、ニューヨーク原油先物価格は6月までの1年間で3割も上昇した。これが米ガソリン価格の高騰をもたらし、米個人消費の鈍化要因ともなっている。

 □住宅価格は再下落 差し押さえが続く

 リーマン・ショック後の恐慌対策はまず財政政策面でとられ、次に金融の超緩和策、さらに昨年からのQE2となってきた。また、昨年末に大型減税や失業保険給付の延長などの景気対策もとられた。しかし、いずれも限界に達した。
 カンフルが次々に終わると、たちまち住宅価格が再下落し、完全な2番底と化している。4月の主要20都市のケース・シラー住宅価格指数は前月比0・1%下落し、10カ月連続の下落となった。09年4月に付けた最安値を更新し、03年4月とほぼ同水準にまで落ち込んだ。06年央のピークからの下落率は、20都市指数で32・8%、10都市指数で32・6%。
 ローン返済が滞って差し押さえられた物件が市場に流れ込み、価格が再下落している。「住宅ローンのある家族の10%が持ち家から追い出されたのに、まだ住宅の差し押さえが続いている」(スティグリッツ)という状態だ。金融機関が差し押さえたが、売買低迷などの理由で自ら保有したままの物件など「隠れ在庫」が210万件程度もある(昨年8月時点)。在庫として把握されている350万件と合わせると、潜在的な在庫は560万件と、年間の中古住宅販売件数を上回る。
 すでに『共産主義者』167号で指摘したように、「どんな手法をとったとしても、バブルは必ず全部が崩壊する。一時的にバブル崩壊を食い止め、そのままバブルを残して進むことなど絶対にありえない」。住宅バブル崩壊の第2幕が進み始めたのだ。
(図 ケース・シラー住宅価格指数【主要20都市平均】)

 □消費鈍化・生産減速・失業率の再上昇に

 実体経済も春ごろから減速しはじめた。
 @個人消費の陰り。5月の新車販売は前年同月比3・7%減少した。9カ月ぶりの減少。東日本大震災の影響で日本メーカーなどが値引きを抑制したため、消費者の買い控えを招いた。また、5月の小売売上高は、前月比0・2%減で、マイナスは昨年6月以来11カ月ぶり。自動車販売が減ったうえ、家電・家具なども振るわなかった。
 A生産の減速。5月の製造業景況感指数は前月比6・0低下した。低下幅は198
4年以来、約27年ぶりの大きさだ。これで3カ月連続の低下。中国など新興国の需要鈍化などを背景に、生産活動が急速に勢いを失いつつある。
 今後、米経済は中国バブルの崩壊に直撃されていく。08年に米国の中国向け輸出が日本向け輸出を抜き、カナダ、メキシコに次ぐ3番目の輸出先になっている。最大輸出品目は大豆だが、半導体、乗用車、プラスチック原料なども増加傾向にある。
 B4月から3カ月連続で失業率が上昇し、6月は9・2%になった。米国はリーマン・ショック後に860万人の雇用を失った。6月までの雇用回復は180万人にとどまっており、現在も700万人近い雇用が失われたままだ。16〜19歳の失業率は20%を超す。ITや金融という米帝が比較的強い産業は雇用吸収力が極めて限定的である。

 □再び金融機関の危機が噴出する

 米帝はリーマン・ショック後の金融機関の総崩壊を恐慌対策でひとまず防いだものの、危機から脱出できたわけではない。
 米金融機関は、住宅バブル崩壊による反動と長期の調整を強いられるなかで、ひたすら米国債運用による利ざや収入に依存する体質になっている。米商業銀行の米国債保有残高は1・7兆j近く(4月27日時点)もあり、07年末比で5割強も増えている。一方、米商業銀行の融資残高は09年初めでピークをうって縮小している。マネーが国債に吸い上げられ、銀行の融資高は増えない構図だ。日本の銀行のバブル崩壊から今日にいたる過程とそっくりである。
 この間、米金融機関は増益となっているが、危機の過程でのM&A、貸倒引当金積み増しの減額などによるもので、収益獲得能力が高まっているわけではない。逆に、大手金融機関のバランスシートには大量の低流動性資産が残っている。大手6グループの「レベル3」という低流動性の資産はまだ3888億j(10年末)もある。封印されていた不良債権が、早ければ今秋から再噴出する。
 とくに「住宅価格がさらに20%下落すると、金融機関の不良債権が再増加し、再び金融危機に陥る可能性がある」との予測もある。現在でも米国には6・8兆jもの住宅ローン担保証券があり、うち1・2兆j余りを商業銀行が保有している。大恐慌の2番底は米銀危機の再噴出を伴うと見てまちがいない。

 □格付け3社が米国債格下げ方向で見直し

 金融以上に現在の米経済にとって破滅的となりつつあるのが財政問題だ。恐慌対策は、FRBによる住宅ローンの買い取りなど、要するに民間部門の債務を国家が引き受けるものである。当然の帰結として、それだけ国家に債務が移り、国家財政が過剰債務で立ち行かなくなってくる。これも1990年代終わりから今日にいたる日本とまったく同じ状況だ。
 連邦債務累積は今年末には前年比20・4%増の10兆jとなる見込みである。GDP比70%超と、第2次大戦直後以降で最も高い水準に達する。QE2によってFRBが国債を大量に購入したため、FRBの保有する米国債は1・6兆j超となり、合計残高の15%近くに上昇すると見込まれる。そうなると、中国(昨年末で12・3%)を抜いてFRBが最大の米国債保有者となる。もともと国債は国内外の民間部門に所有されるべきものだが、FRBという中央銀行が最も国債を保有するという、いびつな構造になってしまった。米国債の信用が失墜するような大事件だ。
 実際、格付け会社のS&Pが4月下旬に、同じくムーディーズとフィッチが6月上旬に、米国債を格下げ方向で見直すと発表した。S&Pが米国債の格下げをするのは、1941年以来初めてのこと。第2次世界大戦でも、2
001年9・11でも、リーマン・ショックでも米国債の格下げはなかった。恐慌対策の発動が米財政力を衰退させきってしまい、ついに米国債の格下げとそれを機にしたドル信認の崩壊、ドル暴落へ突き進みはじめたのだ。

 □10年間ものアフガン・イラク戦争で財政疲弊

 10年間にも及ぶアフガニスタン・イラク戦争は、米財政の悪化に拍車をかけた。アフガン戦費は1週間に約20億j(1600億円)。オバマは6月22日にアフガン撤退計画を発表し、そこで「過去10年で、イラクとアフガンの戦争に計1兆jも費やした」「もう国内への投資に重心を移そう」と嘆いてみせた。
 ゲーツは6月末に国防長官を退任したが、「かつての米国は超大国の地位を支える支出をためらわなかったが、時代は変わった」とまで言わざるをえなかった。従来から「ドルの基軸性と米帝の軍事力・世界支配とは表裏一体であり、米帝の軍事的衰退がドル暴落の決定的要因と化す」と指摘してきたが、それが現実化しつつあるのだ。

 □ドル相場は変動相場制導入以来の最安値に

 ドルはこの間、ますます国際的地位を低下させている。@ドル相場(主要通貨に対する実効為替レート)は4月半ば、70年代の変動相場制導入以来の歴史的な安値となった。95年7月と08年4月に記録した過去最低水準を下回り、新たなドル安領域に入った。米経済の低金利と、米財政・米国債への懸念を背景に、ドルが売られている。
 A新興国が外貨準備の多様化を進め、円・オーストラリアドル・金などの購入を大幅に増やしている。とくに世界の中央銀行による金保有量は10年末で2万7220d、金額で約1・2兆jと前年末比で3割増えた。一方、外貨準備に占めるドルとユーロの比率は99年のユーロ導入以来、初めてそろって低下した。
 B4月にはブラジル・ロシア・インド・中国・南ア(BRICS)が経済・貿易担当相会議を開き、経済連携を強化するための常設組織を設立することで合意した。ドルに対抗する意図を持つ。
 すでに米帝の通貨当局は、ドル暴落を警戒しはじめている。昨年11月のQE2開始は市場では“低金利誘導→ドル安誘導”と見られ、ドル売りが加速した。これに対し「冷静な米財務省幹部が青ざめていた」という。
 米財政の破滅的悪化、米国債の信用失墜、軍事的衰退というすべてが、ドルの信認を崩壊させる決定的要因となる。FRBは量的緩和第3弾も検討しているようだが、実際に発動すればドル暴落の引き金となる可能性が高い。今や、大恐慌の再激化とドル暴落が現実化しつつある。
 (島崎光晴)

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月刊『国際労働運動』(421号7-1)(2011/09/01)

世界の労働組合

■世界の労働組合 ドイツ編

ドイツ金属産業労働組合(Industriegewerkschaft Metall:IG Metall)

ドイツ金属産業労働組合(Industriegewerkschaft Metall:IG Metall)

 ■概要

 IGメタルは、ドイツでver.diと並ぶ大規模の産業別労働組合で、230万人の組合員を有する。2002年には360万人近い組合員がいたが、ver.diと同様に失業者の増加や若者の組合離れ等の理由から、大幅な組合員の減少に悩んでいる。
 IGメタルの起源は、1891年に金属産業に働く労働者によって設立されたドイツ金属産業労働者連盟(DMV)である。DMVは急速に組合員を増やしてドイツで最大の単一労組となったが、1933年にナチス・ドイツが政権を握ってからは、その徹底的な弾圧によって、ほかの労働組合と同様に自由な組合活動はできなくなった。
 第2次大戦後の1949年にドイツ労働総同盟(DGB)が設立され、IGメタルもその傘下の産業別労働組合の1つとなった。
 西ドイツと東ドイツが1991年に統合された際には、旧東ドイツの電機・金属関連産業の労働者がIGメタルに加入し、組合員数は一挙に100万人増えた。その後、1998年に繊維・衣料産業労働組合(GTB)と合併し、2000年には木材・合成樹脂産業労働組合との合併を果たしたが、名称はそのままIGメタルを名乗っている。
 現在IGメタルが組織する組合員は、金属はもとより鉄鋼、金属工芸、衣服・繊維、繊維製品のクリーニング、また木材や合成樹脂の産業に働く労働者である。しかし、主要産業は何と言ってもドイツの基幹産業である自動車産業で、フォルクスワーゲン社、ダイムラー・クライスラー社、オペル社などの労働者もIGメタルに所属している。
 本部をフランクフルトに置き、現委員長はベオトルト・フーバーで、フーバーはIGメタルが加盟している国際金属労働組合連盟(International Metalworkers' Federation : IMF)の現会長を務めている。  本部をフランクフルトに置き、現委員長はベオトルト・フーバーで、フーバーはIGメタルが加盟している国際金属労働組合連盟(International Metalworkers' Federation : IMF)の現会長を務めている。

 ■2003年ストの敗北と路線闘争

 ドイツ統一から13年を経た2003年、IGメタルは旧東ドイツ地域の労働時間を週38時間から西ドイツ地域と同等の週35時間に削減するよう要求して、同年6月初めから無期限の本格ストライキに打って出た。部品生産工場の多くは旧東ドイツ地域にあり、ストによる部品生産のストップによって、西ドイツ地域の大手自動車産業は軒並み生産停止を余儀なくされることになった。
 しかし、組合内部の協調派が政財界やマスコミからの強い反発に動揺し、スト突入から4週間を経た6月28日にスト終了宣言が出され、目標を達成することなくIGメタルの全面敗北に終わったのである。IGメタル歴史の50年で初めての全面的敗北であった。
 この敗北はIGメタルの闘争性の後退ばかりでなく、ドイツの最有力組合であるだけに、労働界に与えた影響は大きかった。産業別労働協約の制度改悪が進み、労働者の非正規職化、大量失業が促進された。
(写真 敗北した週35時間制闘争【2003年6月】)

 ■世界金融大恐慌の中でランク&ファイルが大決起

 2008年に入っていよいよ大恐慌が世界的広がりをみせる中で、労働者の生活は悪化の一途をたどり、世界の労働運動は新たな局面に突入した。資本の手先として労働者に低賃金・労働強化・権利の剥奪・非正規雇用の拡大などを押しつけてきた体制内労組指導部に対して、ランク&ファイルの労働者が決然と決起したのである。
 IGメタルの労働者は、体制内指導部への怒りを次のように述べている。「IGメタル本部は企業みたいになった。84年以来まともなストをやっていない」「組合費をマネーゲームに使っている」「うちの工場の労働者は数年で4万8千人から1万8千人に減らされた。今や労働者の半分以上が非正規雇用だ」「今こそ国境を越えて団結して闘う時だ」
 こうしたなかで08年、IGメタル傘下の自動車・電機産業労働者の協約闘争が闘われた。まず、11月3日に南西ドイツ・中部ドイツで数百の工場がストに入り、3万人の労働者がこれに参加した。この闘いは全土に広がり、自動車産業の大拠点南部バイエルン州の200の工場、10万人の労働者が大合流した。闘いはさらに、アウディやフォードのドイツ工場へ、トラック・メーカーのMANや大手部品メーカーへ、バッテリー製造のVartaやベルリンのジレット(かみそりの刃のメーカー)へ拡大した。スト参加労働者はじつに総数55万に上った。
(写真  8%の賃上げを要求した08年11月闘争)

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月刊『国際労働運動』(421号8-1)(2011/09/01)

国際労働運動の暦

■国際労働運動の暦 9月1日

■1923年関東大震災■

朝鮮人大虐殺の歴史

ロシア革命、3・1独立運動に恐怖 権力が排外主義デマで人民を分断

 9月1日は「防災の日」とされている(1960年6月に閣議了承)。権力は23年9月1日の関東大震災を記念し、「防災」に名を借りた治安訓練、それへの国民動員の日としてさまざまな行事を行っている。
 23年9月1日午前11時58分、マグニチュード7・9の大地震が関東地方を襲った。小田原沖30`の海底が震源地。東京・横浜を中心に死者・行方不明者約14万人、負傷者10万4千人、倒壊・焼失家屋57万戸という大災害だった。
 治安弾圧の陣頭指揮に立った内務大臣水野錬太郎、警視総監赤池濃は、ともに朝鮮で19年の3・1独立運動の弾圧の先頭に立ち、日帝の植民地支配に対する朝鮮人民の深い怒りに心底恐怖していた。水野、赤池らは謀議し、2日、東京市と隣接5郡に戒厳令を発布、順次他県にも拡大し、11月16日までの2カ月半、総勢6個師団約6万人の軍隊による戒厳体制でこの危機をのりきろうとした。

 ●正力によるデマ宣伝

 戦後、初代原子力委員長となり日本の原発政策を進めた立て役者である正力松太郎は、もともと警察官僚であり、関東大震災当時、警視庁官房主事で、「朝鮮人暴動」のデマを意図的に流し、新聞を通じて広く流布させた張本人だった。革命への恐怖と、凶暴な反革命が一貫しているのだ。
 関東各地に3689の「自警団」が組織され、歯止めのない暴虐さで虐殺が凶行された。日本刀、竹槍、鳶口、棍棒、猟銃、ピストルなどで武装し、通行人を片っ端から検問し、朝鮮人・中国人と見るや見境なく暴行を加え、殺していったのだ。
 「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人は暴動を起こす」――こうした根も葉もないデマをデッチあげ、排外主義をあおって大虐殺を扇動し、また、保護すると称して朝鮮人を警察署や兵営に収容し虐殺するという、言語に絶する蛮行がふるわれた。憲兵隊、警察、自警団による朝鮮人虐殺は6千人、中国人虐殺は600人に及んだ。

 ●亀戸事件

 また、「亀戸事件」のように労働組合活動家へのテロルも吹き荒れた。東京府南葛飾郡亀戸町(現江東区)で、労働運動活動家、社会主義者10人が虐殺された。亀戸警察署は3日夜、南葛労働協会(組合)の川合義虎ら8人、純労働者組合の平沢計七ら2人を検束し、署内で習志野騎兵第13連隊の兵士が銃剣で惨殺した。この時亀戸署内では彼らのほか自警団員4人や朝鮮人・中国人多数も殺された。事件は遺族・友人などの追及にもかかわらず、戒厳令下の軍の行動として不問に付された。
 川合義虎は元日立鉱山の旋盤工で、20年上京、22年渡辺政之輔らと南葛労働協会を組織。第1次日本共産党に入党し、23年日本共産青年同盟を創立し初代委員長となる。殺された10人は34歳の平沢以外はほとんど20代前半の青年だった。
 ロシア革命に励まされて前年22年7月に日本共産党が結成された。世界革命の現実性に恐怖した国家権力は、共産党の壊滅に死力を尽くした。23年6月5日には、警視庁特高課が治安警察法を振りかざして日本共産党に対する最初の一斉検挙を行い、堺利彦ら約80人が検挙され、29人が起訴された(第1次共産党事件)。
 このような中で発生した関東大震災は、支配階級に革命の恐怖を感じさせ、警察と軍隊は被災者救援をそっちのけで治安対策、人民弾圧に奔走した。したがって、朝鮮人・中国人大虐殺は、怒りの矛先が権力に向かわないように仕組んだ人民分断攻撃であったし、亀戸事件は、当時最も先進的な労働運動が起こりつつあった南葛労働運動を圧殺するための攻撃だった。
 第1次共産党事件で主要幹部を奪われていた共産党は、亀戸事件・大杉栄事件に恐怖した。指導部内に合法大衆政党をめざして党の解党を主張する「解党論」が支配的となった。24年2月から3月、留守中央委員会は正式な党の手続きを経ずに解党を決定、最初の決定的な屈服を刻印した。
(写真 竹槍などで武装した自警団【1923年9月】)

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 ●関東大震災をめぐる出来事

9. 1 午前11時58分、関東地方に大激震。火災随所に発生、津波襲来。東京では通信、交通機関、ガス・水道・電灯すべて停止 9. 1 午前11時58分、関東地方に大激震。火災随所に発生、津波襲来。東京では通信、交通機関、ガス・水道・電灯すべて停止
9. 2 戒厳令 9. 2 戒厳令
   朝鮮人暴動の流言が広がり、朝鮮人数千人と中国人が殺される
   山本権兵衛内閣成立
  3 関東戒厳司令部条例公布。戒厳司令官に福田雅太郎任命   3 関東戒厳司令部条例公布。戒厳司令官に福田雅太郎任命
  4 南葛労働協会の河合義虎ら10人、亀戸署で軍隊に殺される(亀戸事件)   4 南葛労働協会の河合義虎ら10人、亀戸署で軍隊に殺される(亀戸事件)
  7 東京市内の夜間通行禁止   7 東京市内の夜間通行禁止
 12 中国人社会運動家王希天が軍隊に殺される
 16 憲兵大尉甘粕正彦が大杉栄、伊藤野枝らを憲兵隊内でひそかに扼殺

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月刊『国際労働運動』(421号9-1)(2011/09/01)

日誌

■日誌 2011 6月

5日東京 6・5大集会を1780人でかちとる
国鉄闘争全国運動の主催で「国鉄分割・民営化絶対反対!1047名解雇撤回!新自由主義・震災解雇と闘う反失業大闘争を!6・5大集会」が東京・日比谷公会堂で開かれ、全国から1780人が大結集した。集会に先立って、東京労組交流センター青年部(準)が呼びかけた「6・5東京電力直撃デモ」が闘い抜かれた。新橋駅近くの公園に450人が集まり、東電への弾劾行動に決起した
9日千葉 鈴木さん一坪裁判
千葉地裁で鈴木さん一坪共有地裁判が開かれた。成田市駒井野にある鈴木謙太郎さん、いとさん名義の一坪共有地について、千葉県が「周辺の県有地と一体で造成してNAAに売却する」ことを理由に明け渡しを求めている裁判だ
11日 反原発100万人大行動
東京 新宿や芝公園など3カ所で大規模なデモが闘いとられ、夕方には新宿駅東口のアルタ前に全勢力が結集した。昼の新宿デモでは青年を中心に2万人が決起した。芝公園の集会には福島県教職員組合郡山支部がバスを仕立てて参加。女川原発反対同盟の阿部宗悦さんもかけつけた
仙台 デモには500人が集まった。集会後のデモでは、「原発なくせ」「政府・東電、責任とれ」のコールが繁華街にこだました
前橋 群馬県教育会館大ホールで集会が400人で行われた。デモは1000人に膨れた
横浜 大通り公園に60人が結集して集会を開き、デモに出て、JR桜木町駅前での実行委主催の集会に合流した。JR桜木町駅前は4千人を超す大結集となった
横須賀 教育労働者が中心となってデモが「原発いらない! ふるさとを返せ」と訴えた
さいたま市 一般合同労組さいたまユニオンや婦民全国協埼玉支部などが呼びかけたデモが闘われた。250人に膨れ上がった
千葉 「原発なくせ!ちばアクション」の主催でデモが行われ、前回を倍する410人が参加した
茨城・つくば市 竹園公園で集会を行い市内デモに打って出た。550人の大隊列になった
宇都宮 午後3時から集会が始まった。出発時50人のデモは200人に膨れあがった
長野 午後1時から「反原発デモin長野」のデモに合流。膨れあがって100人を超えた
甲府 「みどり・山梨」の主催で市の中心部で脱原発パレードが行われた。90人が集まった
新潟 駅前の公園で、柏崎刈羽原発に反対する女性団体、巻原発建設を阻止した女性団体、青年を中心とする市民団体、地域合同労組などが集まり、集会とデモを行った
秋田 青年労働者らの呼びかけで50人を超える仲間が結集、市内中心部を一周するデモを行った
京都 鴨川・三条大橋下広場で「反原発100万人アクションin京都」が開催され、150人が結集した。デモはかつてない注目を浴びた
静岡 浜岡原発の地元静岡では、午前中に平和運動センター主催で労組の集会・デモが200人、午後からは「菜の花パレード」が250人で行われた
名古屋 「6・11脱原発100万人アクションinあいち」が若宮大通公園で開催された。デモは、名古屋中心街の栄から中部電力本店前に向かって行進した。東海合同労組も共に闘った
富山 JR富山駅前で反原発街宣に立った。初参加の労働者がマイクを握り、福島原発事故を弾劾し、全原発の廃炉を訴えた
広島 平和公園の原爆ドーム前での集会とデモを行った。300人が参加した。正午から反原発1千万人署名や福島へ持参する寄せ書き作りが行われた。集会をかちとり、デモは広大生や青年、子を連れた若い母親らがリードした
松山 サウンドデモ「Goodbye NUKES in四国」が行われた。愛媛労組交流センターは、8・6ヒロシマのビラを配った。デモは250人以上に膨れ上がった 松山 サウンドデモ「Goodbye NUKES in四国」が行われた。愛媛労組交流センターは、8・6ヒロシマのビラを配った。デモは250人以上に膨れ上がった
高松 教育労働者を中心とする実行委の主催で市内デモが行われ、150人が参加した
松江 島根原発の膝元である松江では、JR松江駅前でリレートークと署名活動が行われた
岡山 「エネパレ岡山6・11」の主催で、石山公園に500人が結集し駅前から県庁通りを進むデモを行った。倉敷からも午前中のデモを終えた人びとが合流した
福岡 「原発いらない福岡」主催で天神の警固公園に1000人が結集してデモが行われた。排外主義右翼・在特会らを一蹴して、合同労組レイバーユニオン福岡、百万人署名福岡連絡会が先頭に立った
11日 6・11、世界11カ国でも連帯
6・11には世界11カ国でも連帯行動が取り組まれた。フランスではパリ5千人集会など13都市で集会を開催。ドイツでは原発即時停止を掲げる40団体が原発正門を封鎖する24時間の座り込み闘争。アメリカではサンフランシスコで日本領事館へ抗議文を提出し、原発企業へデモを行った。台湾では四十数カ所で闘われ、香港でも原発推進の中国政府への抗議集会が行われた
14日神奈川 非正規職労組を結成
JP労組大会前日、川崎市内で、全国の郵政労働者を先頭に各産別の代表を招いて総決起集会を開催した。この場で、東京の非正規職労働者たちが全国の郵政職場で働く16万人以上の非正規職の仲間に渾身の連帯を呼びかけて独自の組合を結成し、激化する雇い止め攻撃に対する本格的な反撃を始めたことが報告された
15日神奈川 JP労組大会闘争を打ち抜く
川崎市とどろきアリーナで開かれたJP労組第4回定期大会で、革共同全逓委員会と労組交流センター全逓部会は、民営化の破綻を「郵政大リストラ」で乗り切ろうとする郵政資本に屈服したJP労組本部を厳しく弾劾した
16日千葉 基地再編・外注化阻止へ集会
JR千葉支社は6月10日、運転基地の再編と京葉車両センターでの業務外注化提案を行った。これに対して動労千葉は直ちに「基地再編攻撃絶対反対!外注化阻止!組織拡大!」を掲げて総決起集会を開いた
17日千葉 三里塚第3誘導路裁判
千葉地裁民事第3部(多見谷寿郎裁判長)で「第3誘導路裁判」の第2回弁論が開かれた。三里塚芝山連合空港反対同盟が国と空港会社(NAA)を相手取り、危険で違法な成田空港暫定滑走路の第3誘導路の許可処分取り消し、工事中止などを求める裁判だ
19日福島 「福島を返せ!」とどろく
「怒りのフクシマ大行動」に、地元の労働者・農民・学生を先頭に全国から1510人が結集し大成功した。3・11大震災と福島第一原発事故から約100日、福島の現地で決定的な大闘争が打ち抜かれたのだ。30度を超える今年一番の日差しをつき、真っ赤な労組旗を林立させたデモ隊が県庁の原子力災害現地対策本部に向かって進む。恐れをなした政府・東電はこの日、対策本部設置以来、初めての「休業」措置を取って逃亡した。東北電力福島営業所に対しても抗議の声を上げた
23日東京 JR東・株主総会を弾劾
JR東日本の株主総会が開かれたホテルニューオータニにほど近い四ツ谷駅前を制圧し、国労秋田闘争団の小玉忠憲さんを先頭に「共に闘う国労の会」と労組交流センターの労働者は、株主総会を直撃する宣伝行動に立った
24、25日東京 星野全国再審連絡会議が総会
星野さんをとり戻そう!全国再審連絡会議の2011年全国総会が、東京・港区勤労福祉会館で開かれた。24日には東京高裁へ怒りのデモが行われた。日比谷公園霞門に全国から150人が集まり、「フリー星野」ののぼりが林立し、労働組合の赤旗と青色の全学連旗が力強くたなびいた。高裁に向かって「星野さんは無実だ」「ただちに再審を開始しろ」と声を限りに弾劾し、プラカードを突き上げた
26日千葉 動労千葉 定期委で夏秋の方針確立
動労千葉の第65回定期委員会が、DC会館で開催された。運転基地の大再編、検修・構内業務外注化、賃金制度改悪との闘いを柱とする新たな闘いの方針をがっちりと打ち立てた
26日茨城 動労水戸先頭に反原発集会
動労水戸が主催して「線路を返せ!生活を返せ!自然を返せ!すべての原発をなくせ!6・26水戸集会」が水戸市の労働福祉会館で開かれ、県内各地から60人が結集した
26日東京 コンピュータ監視法制定を弾劾
日本橋公会堂に120人が結集し、「戦争と治安管理に反対するシンポジウム5」が開かれた。ネット規制の粉砕や、秋にも4度目の法案提出が濃厚の「共謀罪」本体阻止へ総決起を誓った
27日千葉 NAA偽造文書を追及
千葉地裁で市東孝雄さんの耕作権裁判が開かれ、三里塚芝山連合空港反対同盟、顧問弁護団、支援の労働者・学生・市民が怒りをひとつにして闘いぬいた
28日千葉 銚子支部 地方切り捨て許さぬ
JR東日本千葉支社による運転基地の大規模な統廃合攻撃に反対して6月28日、銚子地区総行動が闘い抜かれた。主催は動労千葉銚子支部。動労千葉各支部と動労千葉を支援する会から70人が集まり、意気高く決戦の火ぶたを切った
30日東京 福島の保護者らが政府交渉
参院議員会館で、子どもたちを放射能から守る福島ネットワークなどが呼びかけた対政府交渉が行われ、福島から駆けつけた保護者を先頭に250人が参加した
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 (弾圧との闘い)

2日東京 法大暴処法弾圧裁判
法大暴処法弾圧裁判の第24回公判が東京地裁刑事第1部(若園敦雄裁判長)で行われた。恩田亮君と新井拓君が被告人質問に立った
10日東京 勾留の38人を全員奪還
5・20三里塚現闘本部裁判で逮捕され勾留が続いていた38人を奪還した。さらに大阪でも、5・24弾圧で勾留されていた同志を奪還した

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編集後記

■編集後記

 “線路を返せ! 職場を返せ! 故郷を返せ!”――。労働組合旗を林立させた戦闘的な大デモが、福島県いわきの街を揺るがした。動労水戸が呼びかけた「すべての原発を止めよう!7・17いわき集会&デモ」が7月17日、380人の結集で打ち抜かれた。
 動労水戸の辻川慎一副委員長は「今日の現実を生みだした一切の出発点が国鉄分割・民営化にある。国鉄闘争と反原発の闘いは一体だ。一切の責任を政府、電力会社に取らせよう。どんなに大変であろうとも原発を撤去させ、除染させて鉄路と職場を取り戻そう」と提起した。
 市内デモに店舗やマンションから手を振る市民。沿道から飛び入りする若者たち。涙を流しながらデモ隊に握手を求めてきた女性もいた。駅前ロータリーの歩道橋には鈴なりになって市民がデモに注目した。

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