International Lavor Movement 2013/07/01(No.443 p48)

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2013/07/01発行 No.443

定価 315円(本体価格300円+税)


第443号の目次
 
表紙の画像
表紙の写真 都心を埋めたメーデーデモ隊(5月1日マドリード)
■羅針盤/労働運動復権の時が来た 記事を読む
■News & Review ヨーロッパ
緊縮政策と闘う英独仏のメーデー  戦闘的階級的闘いが始まった
記事を読む
■News & Review 朝鮮半島
米新軍事戦略が生み出した朝鮮半島危機  北朝鮮スターリン主義の体制転覆狙う
記事を読む
■News & Review 日本
動労千葉鉄建公団訴訟控訴審の結審弾劾  JR設立委員長が不採用基準の策定を指示
記事を読む
■特集 ヨーロッパの革命情勢 記事を読む
●翻訳資料
ウォルマートの汚い秘密  ――サプライチェーン労働者に聞く
記事を読む
■Photo News 記事を読む
■世界経済の焦点
「財政の崖」―米財政危機  「崖」からずり落ち、「崖」は恒常化
記事を読む
■世界の労働組合 韓国編  全国教職員労働組合 記事を読む
■国際労働運動の暦 7月23日  ■1918年米騒動■
寺内内閣倒した大騒乱
米不足、米価急騰に対する富山の 女性の決起が全国津々浦々に拡大
記事を読む
■日誌 2013 4月 記事を読む
■編集後記 記事を読む
裏表紙の写真 ロックアウトにピケットで闘うILWU(5月 ポートランド)

月刊『国際労働運動』(443号1-1)(2013/07/01)

羅針盤

■羅針盤/労働運動復権の時が来た

▼労働運動の復権が始まっている。今まさに労働者階級が労働組合に団結し、勝利を切り開く時がきた。動労千葉鉄建公団訴訟での6・29判決と高裁での新証拠提出=104
7名解雇撤回闘争の前進、動労水戸の被曝車両K544運行阻止、国労郡山工場支部での外注化提案阻止、JR貨物賃下げ提案の阻止、動労西日本の青年労働者の出向解除、大阪での斎場労働者の解雇撤回判決などなど、次々と非常に大きな勝利がかちとられている。
▼動労千葉・動労水戸―動労総連合と国労郡山工場支部の外注化阻止、被曝労働拒否の闘いが、1047名解雇撤回闘争と完全に一体のものとして、新自由主義と日帝・安倍や橋下らを根幹から揺さぶっているのだ。この国鉄決戦が今や、公務員労働者とそれに準じる1千万労働者への賃下げ攻撃、橋下式の丸ごと民営化、さらには全労働者への賃金破壊、雇用破壊、労働時間規制破壊に対する、4大産別を先頭とした総反撃と結合して、スト復権の重大情勢を切り開いている。
▼7・8%賃金削減に反撃する自治労スト情勢は、全国の自治体で具体的提案が始まり、未曽有の激突局面に完全に突入した。すでに独自削減を行っている自治体も多く、7・8%を上回る削減との攻防ともなっている。全駐労も全国で基地前座り込み(5月22日)から、さらにスト決起に進もうとしている。この労働者階級の誇りをかけたストライキと国鉄闘争の復権は完全に一体だ。国鉄闘争全国運動として今日的に凝縮されている国鉄闘争の勝利の確信と展望は、全産別の職場生産点で資本・当局と非妥協的に闘いぬく力となる。今こそ労働運動の復権をかちとっていこうではないか。

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月刊『国際労働運動』(443号2-1)(2013/07/01)

News&Reviw

■News & Review ヨーロッパ

緊縮政策と闘う英独仏のメーデー

戦闘的階級的闘いが始まった

 ドイツ革命的メーデーの成功

 DGB(ドイツ労働総同盟)の主催するメーデーは、改良主義的スローガンを掲げて、全国で40万人を結集して行われた。
 これに対して、ここ数年にわたって続けられてきた革命的メーデー≠掲げる反体制派諸グループの統一行動が、ベルリンを中心に、ハンブルク、シュトゥットガルト、ボッフム(ルール工業地帯)、カールスルーエなどの各地で闘われた。革命的メーデー≠フ統一スローガンは、「非正規職化と民営化は、資本の利潤の最大化のためだ。資本主義に対して戦闘宣言を発しよう!」だった。
 首都ベルリンでは、DGBのメーデー集会に革命的メーデー≠フグループも合流し、「階級的労働運動の復活」を訴えた。とりわけ、ベルリン都市交通の民営化と闘う「都市交通100%行動委員会」の隊列の登場が注目を浴びた。
 革命的メーデー≠フ独自集会は、夕方から行われた。結集は2万人。従来は、中央官庁街までのデモが、機動隊によって阻止されてきたが、今回は、階級的労働運動を志向するグループがデモを主導し、権力の妨害を粉砕して、官庁街までデモを貫徹した。デモ隊は戦争、恐慌と資本主義に対して連帯して闘おう! 唯一の回答は革命だ≠ニいうシュプレヒコールを上げながら、ベルリンの中心街を行進した。
 当日、ベルリンでは例年のように、ネオナチの集団が、移民労働者の排斥などを掲げて反メーデー行動を起こしてきたが、今回は350人たらずの小グループにとどまった。反ナチ共同行動委員会≠フ2000人を中心とするデモ隊と、その周りに結集した市民たちに圧倒された。
 革命的メーデー≠ノ結集する階級的労働運動を志向する諸グループは、共同のメーデー・アピール(4〜5nに掲載)を発して、全国で行動した。
 この間、ドイツの労働運動は、緊縮政策、とりわけ長年にわたる、体制内労働運動の下での賃上げストップに対する反撃を職場から開始し、ドイツ・ポスト等々で久しぶりの賃上げをかちとったほか、ルフトハンザは、乗務員、空港労働者、地上勤務労働者、管制塔勤務員労働者などのストによって、大幅な欠航を頻繁に強制されている。
 ドイツの失業率は、7%程度で、EUの他の諸国に比べると低率に見えるが、革命的メーデー≠フアピールでも暴露されているように、新自由主義攻撃によって、さまざまな形の非正規職化が、ドイツの全産業、全社会を覆い、労働者人民の怒りが、この数字では隠されている激しさをもって激増しようとしているのだ。
 体制内労働運動は、その怒りの爆発を秋の総選挙で抑え込もうとしているが、職場での闘いは、ベルリンの都市交通労働者を先頭として、開始されつつある。
 この間、3・11福島集会に寄せられたドイツ全土からの数百の賛同署名に表されている反原発・反核運動の高揚は、こうしたドイツ労働者階級の決起の開始の一つの表現である。職場の闘いを軸とした国際連帯こそが、世界大恐慌をプロレタリア世界革命に転化する道だ。そのためには、階級的労働運動の革命的指導部の建設・形成を、戦闘的労働組合の復活の闘いと一体で推進していくことが死活的な任務である。
(写真 ドイツのルール工業地帯でのメーデー)

 緊縮政策反対掲げた仏メーデー

 今年のフランスのメーデーは、サルコジに代わって大統領に就任して1年目のオランド政権の「緊縮政策反対」を掲げる闘いとなった。しかし、労組のナショナル・センターのレベルでは分裂メーデーとなった。3月に政府と「雇用安定協定」を締結したCFDT(民主労働同盟)と、これに反対するCGT(労働総同盟)、FO(労働者の力)が、全フランス各地で、それぞれ別個の集会、デモを行った。〔「雇用安定協定」とは、職場の確保の名目で、資本の権限を強化し、団体交渉など、労組の力を制限し、事実上、非正規労働を拡大する内容を持っている〕
 このような相違点がありながら、両者とも、デモの横断幕には「もう我慢ができない」と掲げてはいる。とはいうものの、「他の解決策を!」「社会の進歩のために」などというよりよい政策≠求める枠内に、緊縮政策への怒りをとどめようという体制内労組の意図が見えている。現に、年初から爆発的に増えている工場閉鎖などの攻撃に対して、現場労働者に屈服を強いている点では、CGTも、CFDTとなんら変わりない。
 一方、連帯労組(SUD)加盟の教育労働者は、メーデー・アピールで、「学校・大学は、企業ではない」「教育は商品製造ではない」というスローガンを掲げ、生徒の成績査定を記録する「能力手帳」への教師による記入に反対する運動の拡大、記入拒否教師に対する当局からの処分への反撃を呼びかけている。
(写真 「もう我慢ができない」と掲げるフランスのメーデー)

 ゼネストに向かうイギリス

 5月1日、イギリス各地でメーデーが闘われた。ロンドンでは保守党―自由民主党政権の下での緊縮政策に反対し、公共部門の削減反対を掲げて数千人がトラファルガー広場に集まり、デモを行った。とりわけ医療労働者が、地域の病院の防衛のために決起。経費削減による公立病院の荒廃ぶりを批判した。
RMT(イギリス海運運輸鉄道労働組合)書記長のボブ・クロウは次のように語っている。「今年のメーデーは迫りくるゼネラルストライキを構築するための日となる。このゼネストは、全国で削減計画に反対し、緊縮政策に反対し、仕事や労働者の権利や公共サービスに対する攻撃にNOを突きつけるために、労働組合運動が団結するものとしてある」「RMTのメッセージはシンプルだ。今日はデモをしよう、明日はストライキをしよう、だ」と。
ナショナル・ショップスチュワード・ネットワーク(NSSN=全国職場委員ネットワーク)に結集する七つの組合、RMT、PCS(公共民間サービス労働組合)、CWU(通信労働組合)、NUM(全国炭鉱労働組合)、POA(刑務所職員労働組合)、NUJ(ジャーナリスト全国組合)、BFAWU(パン・食品関連製造労働者組合)は、24時間全国ゼネストをめざして闘っている。
近年のイギリスの階級闘争は1年半前の2011年11月30日の200万人全国ゼネラルストライキを頂点としている。この時、11月3日、ストライキに先立ち、公務員最大労組であるUNISON(公共サービス労働組合=130万人)はスト賛成72万
253票でスト権を確立している。公務員、教師、病院関係者、清掃労働者、消防士、交通運輸労働者、国境警備員などの公共部門労働者を中心として、30の労働組合の連合体によって24時間ゼネストが打ち抜かれた。イギリスの公立学校のうち62%、1万5千を超える学校が完全に閉鎖され、14%が部分的に休校となった。地方自治体職員の56%にあたる67万人がストを行った。
現在イギリスでは、「ゼネストの日取りを決めろ」のスローガンの下に、ゼネストに向かって突き進んでいる。
(川武信夫)
(写真 学校廃止に反対するイギリスの教育労働者)

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 独革命的メーデー≠フアピール(抜粋) 2013・4・13

 非正規職化と民営化は、資本の利潤の最大化のためだ。資本主義に対して戦闘宣言を発しよう!

 ●低賃金と派遣労働反対

 正規雇用が大規模に解体され、ミニジョッブ、派遣労働、短期契約労働、パートタイムなどの割合が、急速に増加し、労働者の雇用条件はますます不安定になっている。不安定な雇用条件の職種は、例えば、コールセンター、飲食店、理髪業、商店などである。
 職業紹介所は、求職者に対して、不安定雇用の職に就くことを強制している。そのなかで、とりわけ女性が直撃されている。低賃金労働の領域では、女性の割合が70%に及んでいる。その職場とは、健康・医療、社会保障、教育などの分野である。ここでは、派遣労働と労働強化が普遍的である。

 ●分断許さず、団結を

 2012年1月に、派遣労働者に対して最低賃金が法制化された。それは、西部ドイツでは8・19ユーロ、東部ドイツでは7・50ユーロとなっている。この最低賃金制をまぬがれようと、企業は派遣労働を外注化に切り換えている。そうすれば、賃金は半分で済むことになる。こうして資本は労働条件を差別化し、労働者のなかに分断を持ち込み、団結を破壊しようとしている。
 しかし、不安定な雇用条件の下でも闘いは可能である。2012年に、金融機関の非正規職労働者が、117日間の闘争をつうじて、賃上げをかちとっている。われわれのスローガンは、競争、分裂、賃金のダンピングではなく、同一労働、同一賃金を要求する≠ナある。

 ●新自由主義による収奪粉砕!

 低賃金業種の拡大、社会保障費の削減、労働者への抑圧の強化などは、アジェンダ2
010による労働市場の柔軟化、規制緩和の一部である。このような新自由主義政策は、1990年初以来、ドイツのあらゆる政権によって実行されてきたものだが、公共企業の民営化、社会保障制度の解体を含んでいる。社会生活の基本的保障をなすインフラ部門―エネルギー、公共交通、水道などが、企業の私的利害の追求に解放された。ベルリンでは、現に今、都市交通の一部の民間企業移行=株式市場上場が策動され、分割と民営化の脅威にさらされている。

 ●国際連帯を組織しよう

 支配階級にとっては、現在問題なのは、国際的な競争戦において、ドイツという立地条件を確保し、強化することだ。これは、けっして、彼らの言うように社会の共同の利害がかかっている、というようなものではない。この競争力強化の名目のもとに、人民は世界的に貧困と絶望に追いやられている。
 ギリシャでは、トロイカの絶対的な命令のもとで、失業者が135万人に上り、大規模な賃金カットが強行され、自殺者数が増加している。
 しかし、このような緊縮政策に対して、国際的に抵抗が高まっている。ギリシャの労働者は、工場占拠や生産管理などで闘っている。

 ●人間らしい生活を取り戻そう

 資本は、競争に負けないために、いつでもコストを最小限に引き下げようとする。だから、資本主義が続く限り、賃金、労働時間、社会保障をめぐっての闘争が不可避である。したがって、これらの問題をめぐっての闘争を継続することは、絶対に必要である。だが、われわれは、これにとどまっていてはならない。われわれは、まったく別の社会的秩序をつくること、すなわち、貧困と暴力と欠乏と不安のない社会を建設することを目標としなければならない。こうした目標を闘い取るということは、資本家的財産関係を廃止し、競争や利潤追求のない社会構造をめざすということだ。その実現のためには、職場で、労働組合で、地域で、学園で、階級闘争的な構造を長期にわたって形成していくことが必要だ。
 われわれが依拠すべきは、国家とか、その他の機関ではなく、自分たち自身の組織化、自分たち自身の力の強化なのだ。

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月刊『国際労働運動』(443号2-2)(2013/07/01)

News&Reviw

■News & Review 朝鮮半島

米新軍事戦略が生み出した朝鮮半島危機

北朝鮮スターリン主義の体制転覆狙う

 大恐慌は、帝国主義間・大国間の相互つぶし合いの大争闘戦の時代に突入した。米帝はそれに勝ち抜くために新軍事戦略を打ち出した。
 オバマは、新軍事戦略に基づいて、北朝鮮スターリン主義の体制転覆を狙って、3月1日から4月30日まで約21万人を動員した米韓合同演習「フォール・イーグル」を実施した。さらに3月11日から21日まで合同軍事演習「キー・リゾルブ」を実施した。それは弾道ミサイルと核を保有した北朝鮮スターリン主義の体制転覆を含む軍事演習であった。それは核戦争を含む緊迫した戦争情勢を生み出した。

 □北朝鮮の瀬戸際政策

 北朝鮮スターリン主義は弾道ミサイルと核にすがりつき、生き残りのための瀬戸際政策を必死に展開した。
 具体的には、3月5日に朝鮮戦争休戦協定の白紙化、7日に「核先制攻撃の権利行使」を発表、8日に南北の不可侵合意を破棄、15日に短距離ミサイル発射、17日に「核の先制打撃権を行使する、日本も例外ではない」と警告。26日にはすべての野戦砲兵軍集団を第1号戦闘勤務態勢に入れると指示、29日に「射撃待機状態に入る」と指示、30日に南北関係が「戦時状況に入る」と声明、31日に「横須賀、三沢、沖縄も射撃圏内に入る」と表明した。
 4月に入ると、2日に寧辺(ニョンビョン)の核施設の再稼働を表明、3日に中距離弾道ミサイル「ムスダン」を日本海側に移動開始、4日に「先制核攻撃手段に関連した作戦が検討、批准された」ことを米側に通告、5日には平壤駐在の外交官に「10日以降の安全を保障できない」と警告した。8日には開城工業団地からの北朝鮮の労働者の撤収に踏み込んだ。 その後、北朝鮮はミサイルを移動させ、発射の緊張を極度に高めたが結局のところ発射には至らなかった。北朝鮮は、米帝のいわばやりたい放題のすさまじい軍事重圧に打ちのめされた。4月19日、北朝鮮国防委員会政策局は声明を出し、「安保理制裁決議の撤廃と「フォール・イーグルの中止」を話し合いの前提として要求し、4月30日の「フォール・イーグル」の終了を見越して「事実上の核戦争に勝利した」と打撃感を表明した。

 □「フォール・イーグル」

 ここでは、「フォール・イーグル」を通して行われた米帝の北朝鮮侵略戦争の本格的なエスカレーションについて明らかにしたい。
 韓国軍合同参謀本部は3月24日、北朝鮮軍による局地的な戦争勃発に米韓両軍が共同で反撃する手順などを定めた作戦計画に両軍が合意、署名を経て発効したと明らかにした。これにより、10年11月の延坪島(ヨンビョンド)砲撃事件のような局地戦が起きた段階で米軍が全面介入することが可能となった。局地戦から全面戦争まで米帝の関与の下で朝鮮侵略戦争が行われるということだ。
 計画は南北軍事境界線や黄海付近での砲撃、特殊部隊の侵入などを想定し、反撃の手順などを定めた。米軍の戦力には在日米軍なども含まれるとされている。局地戦から沖縄の海兵隊が介入していくのだ。
 3月19日、核搭載可能なB52爆撃機が合同演習に参加した。3月28日、核搭載可能なB2ステルス爆撃機が米本土から韓国に飛来して爆弾投下訓練を行った。これらは米帝のすさまじい核戦争の恫喝であり、大デモンストレーションであった。特にB2爆撃機は1機2000億円(イージス艦1隻約1200億円)、機体と同重量の金価格と同額と言われる。労働者人民の搾取と収奪の上に核爆弾を投下する最末期帝国主義を象徴する兵器だ。
 31日には沖縄嘉手納基地に暫定配備中のF22ステルス機が韓国の米軍烏山(オサン)基地に到着した。4月1日にはミサイル防衛能力を持つイージス艦「フィッツジェラルド」(米軍横須賀基地)と海上配備型の早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」、さらに特殊部隊潜入用の潜水艦も投入した。米帝の世界最新鋭の兵器を見せつけた。
 4月1日、韓国国防省は、北朝鮮の核兵器使用の兆候をつかんだ段階で先制攻撃する「抑止戦略」を、米帝とともに策定していることを明らかにした。米帝の都合でいつでも先制核攻撃できることを表明したに等しい。
 現在、米韓連合軍にある有事の際の作戦統制権が、15年12月に韓国軍に移管されるに伴い、解体する予定であった連合軍司令部機能についても、事実上維持する方針が決まった。つまり米軍の作戦指揮統制権は残る、朝鮮侵略戦争における米軍の主導権が確保されるということだ。
 4月4日、韓国の金国防相が、朝鮮半島有事の際に北朝鮮の核施設を制圧する専門部隊が在韓米軍に新設されたこと明らかにした。3月11日からの米韓合同演習「キー・リゾルブ」では同部隊を運用した訓練も行われた。
 北朝鮮には、再稼働準備中の寧辺の黒鉛減速炉やウラン濃縮施設のほか、国内に少なくとも4カ所に地下式の濃縮施設があるとされる。米軍は、金正恩(キムジョンウン)体制の崩壊の際に核施設のプルトニウムやウランなどの核物質を確保することを必死に追求している。北朝鮮の核物質が政権崩壊や侵略戦争の混乱に紛れて、第三者に渡り、それが米帝に向けられることを極度に恐れているからだ。朝鮮侵略戦争の目的のひとつに北朝鮮の核物質を手に入れることがある。そのためなら朝鮮半島の数百万、数千万人の労働者人民を殺しても構わないというものだ。
 4月3日、米国防総省は、北朝鮮のミサイル攻撃に備えるためと称して、新型の移動式ミサイル防衛(MD)システムを数週間以内にグアムの米軍基地に配備すると発表した。ミサイルを落下段階で迎撃するTHAADミサイル(終末高高度防衛)で実戦配備は初めて。15年配備予定を北朝鮮情勢を受けて前倒ししたと説明している。これは対中国のミサイル防衛のためでもあることを確認しておこう。

【終末高高度防衛(THAADミサイル】米軍がミサイル防衛(MD)の一環として運用する移動式・陸上配備型ミサイル。大気圏外で迎撃できなかった弾道ミサイルを、大気圏に再突入するミサイルの終末段階で撃ち落とすために開発され、米軍は07年に迎撃実験を成功させたと称している。PAC3を含めるMD(ミサイル防衛)は、実験中のものだ。実際には何の役にも立たない。永遠に完成しない、いつまでも研究開発が続くので国家の金を無限に食いつぶしていける軍事産業にとって都合のいい金のなる木だ。

 4月4日、在韓米軍は約8年ぶりに核や生物・化学兵器に対応する米陸軍第33化学大隊を韓国に再配備した。朝鮮侵略戦争を核戦争、化学・生物兵器戦争と想定した配置だ。
 4月18〜28日、沖縄に司令部を置く第3海兵遠征軍を主力に米軍1500人と韓国軍400人が浦項(ポハン)で揚陸(敵前上陸)訓練を実施した。普天間基地のMV22オスプレイが初参加した。
 米国の主要メディアは3月下旬以降、北朝鮮について連日「戦争の危機」と「次に発射されるミサイルは米国民を危険にさらす」とあおった。米帝の没落が進み、オバマは労働者人民の怒りを北朝鮮に排外主義的に向けて危機を乗り切ろうとした。しかし1%に対する99%の怒りは高まり、それは米帝の侵略戦争を揺るがす闘いである。
(写真 韓国南東部の浦項で上陸訓練を行う米韓両軍兵士【4月26日】)

 □破壊措置命令発令弾劾

 朝鮮半島をめぐる軍事的緊張が極度に高まる中、安倍政権は4月7日、北朝鮮スターリン主義の中距離弾道ミサイル「ムスダン」の日本海側への移動を理由に、防衛大臣による「破壊措置命令」を発令した。ミサイル発射予告がない段階での発令で、発令の事実も内容も公表しないという超異例の措置だ。
 これを受けて地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)が市ケ谷駐屯地、習志野駐屯地、朝霞訓練場に搬入され、すでに配備されている基地を含め全国11カ所で迎撃態勢に入った。また、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載したイージス艦2隻が日本海に出動した。
 さらに、防衛省は18日から沖縄にPAC3を常設配備すると公言し強行した。これらすべてが改憲と「国防軍」創設への「地ならし」であり、沖縄を始めとした反戦・反基地の闘いへの圧殺攻撃にほかならない。
 韓国・民主労総は4月10日付の声明で「すべての戦争の最大の犠牲者である労働者民衆のために、戦争の危機を助長するすべての勢力と闘っていく」と宣言した。米帝の北朝鮮侵略戦争を阻んでいるのは韓国の民主労総を先頭とする全世界の労働者階級の闘いだ。10年11月23日の延坪島砲撃戦で、民主労総は「戦争は南北間で延坪島で行われているのではなく、この蔚山(ウルサン)で現代自動車と非正規職労働者の間で行われている」と言った。新自由主義と闘う日米韓の仲間と連帯し、階級的労働運動と労働者国際連帯で安倍政権を打倒しよう。
 (宇和島 洋)

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月刊『国際労働運動』(443号2-3)(2013/07/01)

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■News & Review 日本

動労千葉鉄建公団訴訟控訴審の結審弾劾

JR設立委員長が不採用基準の策定を指示

(写真 動労千葉鉄建公団訴訟に先立ち、結審策動に怒りのこぶし【5月8日 東京高裁前】)

 □証人採用を拒否し3回の審理で結審

 5月8日、東京高裁第12民事部(難波孝一裁判長)は、動労千葉鉄建公団訴訟の控訴審において結審を強行し、9月25日を判決日とした。一切の事実審理も行わず、わずか半年、3回の弁論で審理を打ち切った。
 難波は控訴審の最初から「(1047名の裁判を)まだやってたんですか」と述べ、結論ありき≠フふざけきった態度で登場した。そして、JR東海会長の葛西敬之ら不当労働行為の張本人である3人の証人申請をことごとく却下し、結審強行に対する原告側の猛抗議にも「すべて判決の中で答える」と言い捨て、文字通り何の説明もなしに法廷から逃げ去った。
 国鉄闘争全国運動6・9全国集会の大成功を突破口に、判決までの4カ月を最大の決戦として構え、なんとしても勝利判決をかちとらなければならない。10万筆の署名運動を推進し、夏季物販をもって全国の労働組合の中に分け入り、広大な国鉄1047名闘争支援陣形を再組織し、動労千葉とともに闘い抜こう。
 30年近くに及ぶ国鉄闘争のすべてをかけ、そして公務員賃金7・8%賃下げを突破口とする解雇自由化・賃下げ自由化攻撃との闘いの帰趨(きすう)をかけ、反原発闘争と一体となり、改憲と戦争への道を突き進む安倍政権打倒―プロレタリア革命への道を真一文字に突き進もう。
(写真 新宿メーデー闘争でJR貨物本社前で賃下げ阻止のシュプレヒコールを上げる動労千葉組合員ら【5月1日】)

 □「国鉄改革」の虚構が暴かれることに恐怖

 今回の結審に至る異様な事態の中に、敵権力の焦りと恐怖が見てとれる。
 一審6・29東京地裁判決(白石哲裁判長)は、解雇を有効とした反動判決であるが、同時に、動労千葉の原告9名らを不採用にした「停職6カ月、または2回以上」という「名簿不記載基準」が、当時国鉄職員局次長であった葛西敬之(現・JR東海会長)によって作られたことを認定し、それが不当労働行為であると断定した画期的判決でもあった。「(名簿不記載基準は)動労千葉等、分割・民営化に反対する労働組合に所属する職員を不当に差別する目的、動機の下に(葛西職員局次長が)策定した」「動労千葉9名は当初採用候補者名簿に登載されていたが、1987年2月冒頭頃に急遽(きゅうきょ)外されていた」ことを明らかにさせたのだ。
 このように、明白な不当労働行為であるならば原状回復=解雇撤回・JR復帰としなければならない。動労千葉と弁護団は、なんとしても、その勝利をかちとろうと、控訴審に臨んだ。
 もし、ここで動労千葉が勝利するならば、国鉄方式と言われた雇用破壊攻撃の正体が明らかになる。そうなれば、国鉄分割・民営化以降の雇用破壊、非正規化の現実に行き着いたすべてが間違っていたということが暴かれる。それに対する大反動が結審の強行だったのだ。

 □斎藤英四郎と井手・葛西が謀議

 原告は控訴審で新たに「国鉄改革前後の労務政策の内幕」(12〜13nに抜粋を掲載)で暴露されている決定的事実を突きつけた。JR設立委員会委員長だった斎藤英四郎(当時の経団連会長、新日鉄)が、葛西と、国鉄総裁室長だった井手正敬(JR西日本元会長)らに直接指示して、処分歴を理由に原告らを採用候補者名簿から削除する不採用基準を作成させていたのだ。
 座談会で井手は「過去に何回も処分を受けたものは、やっぱりこの際、排除したいという気持ちは強かった」「そこで(斎藤のところに)葛西君と出かけ話に行って……結果的には、まず、選考基準に合致しなかった者は駄目なんだということにしよう。そして選考基準は、斎藤さんが作れと言うので、不当労働行為と言われないギリギリの線で葛西が案を作り、それを斎藤さんに委員会の席上、委員長案として出してもらい、それは了承された」と、不採用基準作成の経緯を語っている。これは大変な事実だ。
 葛西は当時、「不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということはうまくやるということでありまして」と言っていた(86年5月、動労新幹線各支部三役会議)ことから明らかなように、不当労働行為をやる意思をむき出しにしていた。
 国鉄分割・民営化による不採用=解雇は、国鉄改革法で「国鉄とJRはまったく別会社だ」という法的建前をつくり、採用候補者名簿を作ったのは国鉄だ。JR設立委員会は提出された名簿を全員採用した。仮に名簿作成過程で不当労働行為があってもJRには一切責任がない∞JRは国鉄とは別法人で新規採用しただけで、採用の自由がある≠ニいう虚構を作ったのだ。
 控訴審で提出された新証拠は、この「国鉄とJRは別」という国鉄改革法の虚構を根底から覆した。JR設立委員会トップが直接指示して不採用基準を作り、委員会全体でも了承されていたのだ。不当解雇の責任は当然にもストレートにJRに及ぶ。東京高裁・難波裁判長は、このことを恐れ、葛西らの証人採用を拒否したのだ。
 国鉄改革法は、最高裁から国鉄に出向していた江見弘武(現・JR東海監査役)が、葛西らと共謀して作った。その江見がJR不採用問題を「大きな誤算だった」と語ったという。(10年4月30日、共同通信)。ここからも、国鉄改革法の虚構は明らかだ。

 □東京地裁・白石裁判長が更迭された「事件」

 敵がいかに追いつめられているのかを示すもう一つの事実が、「白石事件」だ。
 昨年6・29判決を出した東京地裁の白石哲裁判長は、2月27日の強制出向無効確認訴訟の時は民事第11部の裁判長だった。しかし3月13日の国労組合員資格確認訴訟では、いきなり別の裁判長(団藤丈士)が現れた。裁判長の交代が訴訟記録にも残されないという異常事態だ。
 実は、白石裁判長は、目黒区にある東京地裁民事執行センター(東京地裁民事第21部)に異動していたのだ。民事執行センター判事とは、不動産執行手続きなどを事務的に処理するだけの閑職だ。
 このように白石を更迭したことに、司法権力の階級意思が示されている。

 □外注化阻止闘争と一体で勝利を

 鉄建公団訴訟控訴審に先だって、同日に動労総連合の出向無効確認訴訟第2回口頭弁論が、東京地裁民事第11部(団藤丈士裁判長)で開かれた。これは、昨年10月1日に強行された検修・構内業務の外注化に伴う強制出向が違法であり無効であるとして、動労千葉、動労水戸、動労連帯高崎の強制出向者が原告となって訴えた裁判だ。
被告・JR東日本の代理人は「本件出向は就業規則に基づくものであり、その目的と必要性は明らかだ。原告にも特段の不利益はない」と言い放った。
だが、この外注化に伴う出向は、帰る職場もなく、実質的な転籍であり、業務委託と言いながら、一から十までJRが作業指示を行っている偽装請負そのものだ。
原告側は、今回の外注化に関する委託契約書を提出するよう会社側に求めた。JR東日本は団交の場でも委託契約書の開示を拒否している。この外注化そのものの違法性が暴かれることを恐れているからだ。
動労千葉・動労総連合は、法廷闘争と一体となって、職場からの反合・運転保安闘争で外注化を止め、国鉄分割・民営化―JR体制を打ち砕く決意で闘っている。
今年のメーデーでは、動労総連合が初めて呼びかけて、JR貨物本社に対する「賃下げ阻止」の抗議行動を始めとする「新宿メーデー」を闘い抜いた。この闘いはJR貨物を追いつめ、JR貨物労組(日貨労)の中からも反乱が起き、JR貨物は賃下げ提案ができなくなっている。
また、JR郡山工場では、6月1日に強行されようとしていた倉庫業務の外注化を、国労郡山工場支部の闘いによって阻止する勝利が勝ちとられている。
さらに、JR西日本では、動労西日本の赤松賢一副委員長が2波のストライキの成果として、出向先から、土木技術センターというJR西日本本体に戻った。
労働者階級が、闘って勝利する道は明らかだ。全職場で反合・運転保安闘争をつくり出し、ともに闘い抜こう。
(大沢 康)
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『国鉄改革前後の労務政策の内幕』

この資料は、『戦後最大最長の権利闘争 国鉄闘争見聞録 1047国鉄闘争・現場からのレポート』(小田美智男著、2011年刊)からの引用である。本書は、201
0年4・9「政治解決」を「勝利」とする立場だが、ここで暴露されている『国鉄改革前後の労務政策の内幕』は、JR西日本会長の井手正敬(本文は井出)が、「選考基準」はJR設立委員会委員長・斎藤英四郎(本文は斉藤、旧経団連会長)の指示により、葛西敬之国鉄職員局次長(現・JR東海会長)が作成したことを証言した決定的な文書である。国労はこれを入手していながら、「政治解決」路線の下でほとんど無視・抹殺してきたが、これほど国鉄とJRが一体となって不当労働行為を強行したことを示す資料はない。まさに「悪党が悪党を語った座談会」である。

………………………………………………………………

井出正敬の語る労務政策の内幕 さて、JR西日本井出正敬会長を囲む『国鉄改革前後の労務政策の内幕』なる座談会記録であるが、……日時は「二〇〇〇年九月一日、九時〜一五時」とある。参加者は、JR西日本側から井出正敬会長、飯田正行経営企画部長の二名。JR連合側から葛野和明会長、明石洋一事務局長、瀬井公治企画部長、出井勝彰顧問の四名。総計六名による座談会である。
最初に、《選考基準》の成立事情について語っている部分を取り上げておきたい。この《選考基準》というのは、労働者側から追及されてはじめてその存在を明らかにした基準で、その内容は、「停職六ヶ月以上、または二回以上の停職処分者は採用候補者名簿に登載しない」とされていた。この基準により多くの国労・全動労組合員が、名簿不登載とされ、JRに採用を拒否された。もっとも悪質な、不当労働行為の温床とも言える基準である。
……

『選考基準』はギリギリの線で葛西君が案を作った 井出:……「我々は、このチャンスに、管理体制の立て直し」をしたいと考え、「過去に何回も処分を受けたものは、やっぱりこの際、排除したいという気持ちは強かった。でも、それをあまりに強く当局から言うと、不当労働行為になり兼ねません」「そこで当時、斉藤英四郎さんが委員長をしておられたんだけど、この人のところに葛西君(葛西敬之・現JR東海会長)とでかけ、話に行って、そこで、委員長としてきちんとした選考基準を出してもらわないと困るんだと言いに行った。いろいろ話をして、それで、結果的にはまず、選考基準に合致しなかった者は駄目なんだということにしよう。そして、選考基準は、斉藤さんが作れと言うので、不当労働行為と言われないギリギリの線で葛西君が案を作り、それを斉藤さんに委員会の席上、委員長案として出してもらい、それは了承された。もっともこの辺は、運輸省のシナリオには全くないことであったので、運輸省では、誰が斉藤委員長に鈴をつけたのかが、大騒動となった」
「だけど、斉藤さんに、新しい会社でそういう組織を破壊するようなことばかりやっていた連中に大手を振って歩かせるということは、おかしくなるし、そういう過去の処分歴みたいなものが、当然選考基準に入ることはいいじゃないかと言って説得した。今日、一〇四七問題で、二三条絡みで議論されているけれども、やっぱりああいう時に、組合の所属に拘わらず、過去に停職を何回も受けた人間とか、そういう者をやっぱりきちんと選考基準・判断基準の中に入れることは、いいじゃないかというのは僕らの気持ちだったし、斉藤さんもそういうのを理解して下さったんだから、決して不当労働行為じゃなかったような気がするんだけどね」

「動労がかぶらないように」作成した『職員管理調書』 ……最後にもう一点、『職員管理調書』の作成事情について、座談会の発言のなかから略記しておきたい。
明石:「……動労と国労というその選考基準の中で、私が聞いている話は、動労の悪い時代があった。処分歴がはるかにあった。そこを何年間前までは切っちゃって、それ以降の処分歴で判断するというやつがあったという……」
井出:それとはちょっと違う話だけど、「過去に、要するに首になっちゃった人を再採用するという約束を職員局が当時、動労松崎としたとかしないとかいう話があって、これは最後まで揉めたんですよね。松崎はその点について、騙されたと言っているんだけどね。僕は職員局との間で何かあったのだろうと思っているが、その内容は、今おっしゃったことは、私の記憶の中にない。しかし、今言ったように、何か過去に、要するに国鉄を首になっちゃった人間を再採用しようかという約束が、あった、ないということも耳に入ってくるくらいだから、僕は、もしかしたら、職員局の関係の中には、そういうことがあったのかもしれないという気がしなくはないね」
阪田:過去三年か何年かにさかのぼって。
葛野:そう。動労がかぶらないように。
阪田:だから、動労はずるいから、早くから雇用対策に応じちゃった。
葛野:やはり労働組合ではなかったんだな、動労は。
井出:当時の、私なりに聞こえてきたのは、何か三年間だけストライキをやらないと言ったのだが。松崎が我慢しろと。

……
『職員管理調書』というのは、……国鉄当局が八三年四月一日から八六年三月三一日までの三年間に亘って調査した期間限定の勤務評定である。
座談会の最後の部分でも伺われるように、この調査は、動労組合員にきわめて有利に、逆に、国労・全動労組合員にきわめて不利になるように仕組まれていた。それまで、ストライキ・遵法闘争に明け暮れていて、解雇・停職など処分者の山を築いていた鬼の動労が、この調査期間と符節を合わせたように豹変し、国鉄当局の軍門に下っていた。
井出正敬の話は、その解雇者まで手厚く再雇用したというとんでもない話である。調査をやったのも、「首になっちゃった人間を再採用」したのも職員局がやったというとんでもない話である。調査をやった国鉄本社職員局のトップ、職員局次長の要職にあり、これらの一連の労務政策を主導したのが、他ならぬ葛西敬之である。図らずも、悪党が悪党を語った座談会であった。

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月刊『国際労働運動』(443号3-1)(2013/07/01)

(写真 「緊縮政策はもうゴメンだ!」。スペイン労働者委員会【CCOO)のデモ【5月1日 マドリード】)

特集

■特集 ヨーロッパの革命情勢

EUは解体的危機に突入  労働者はゼネストに決起

 

 

 はじめに

 

今日の世界大恐慌は、新自由主義の下で爆発した。それは巨大な過剰資本・過剰生産力を蓄積し、その矛盾がさらに新自由主義の金融政策の暴走と破綻によって爆発した。
そこで米日欧の中央銀行は競って歯止めなき超金融緩和政策を展開し、国公債を無期限・無制限に購入し、余剰マネーを大洪水のように金融市場に流し込んでいる。だがそれはさらなる真の本格的な大恐慌を爆発させる。欧州恐慌はその最先端を走り、EU諸国でゼネストが勃発している。
ヨーロッパは革命情勢に突入している。
第1章は、独仏の経済ブロックであるEUが、大恐慌により解体の危機に追い込まれていると提起している。
第2章は、EUの中軸・ユーロ体制に焦点を当て、その構造的矛盾が爆発し、崩壊しつつあると論じている。
第3章は、大争闘戦の時代におけるEU、特にフランス帝国主義の侵略戦争を徹底的に弾劾している。

第1章

 T 南欧危機がEU全体へ――EU中枢で独仏対立が激化

 

(写真 ギリシャの労働者は現場からの怒りをメーデー・ゼネストとして爆発させた【5月1日 アテネ】)

(写真 2人に1人が失業という状況に怒り青年労働者がデモの先頭に立った【5月1日 マドリード】)

(写真 ポルトガルでもゼネストが闘われた【2012年11月14日】)

(写真 欧州ゼネストで決起したイタリアの教育労働者【2012年11月14日】)

 世界大恐慌の絶望的な激化のなかで、EUは解体的危機に直面している。
07年パリバ・ショック=\08年リーマン・ショック≠ナ開始された世界金融恐慌が世界大恐慌に発展してからすでに6年目。EU帝国主義、米日帝国主義をはじめ、BRICS諸国(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)をも深々と巻き込んだ世界大恐慌は、EU解体の危機を呼び起こすに至っている。

  緊縮政策の強行

 この間、ギリシャに始まり、アイルランド、スペイン、ポルトガルなどに波及した金融・財政危機救済のために、EUは膨大な財政援助の投入を継続してきた。その条件として、当該政府に要求してきた財政再建=健全化≠フための緊縮政策が、一定程度、財政赤字を減らしたとはいえ、事態の根本的解決にはならず、逆に国家財政の危機、金融市場の活力の喪失=解体へと向かっているのだ。
 財政赤字の減少の一方で、政府の累積債務が、国債発行残高の膨張として、ほとんどのEU諸国の財政を圧迫している。財政危機、金融危機の継続は、資金市場を凍りつかせ、銀行間融資が途絶、とりわけ製造業に対する貸し出しが低調となっている。「EU全域の金融市場、資金市場は、分断され」(ヨーロッパ中央銀行・月間報告13年5月)、従来の循環を失っている。
 緊縮財政が継続して強行されてきた結果、国内需要は委縮し、経済成長にブレーキがかかっている。加えて、EU経済の柱である海外貿易が減退している。これは、この間、大恐慌の展開のなかで、EUの主要相手国として経済の牽引力となってきたBRICS諸国、とりわけ中国の成長鈍化が、決定的な要因となっている。
 この結果、EUの経済成長は停滞し、ユーロ圏のGDP(国内総生産)は、13年第1四半期にマイナス0・2%の収縮となり、前期のマイナス0・6%に続き、6四半期にわたるマイナス成長となった。「世界経済の展望は、不安定である」「回復も、ゆっくりで、もろさがめだち、しかも地域ごとにバラバラであろう」(ヨーロッパ中央銀行)。

  労働者への階級戦争

 しかし、緊縮政策の階級的核心は、労働者階級人民への階級戦争であるということだ。まさに、すでに破産した新自由主義の極限的な形態である。EU諸国では、ギリシャ、スペインなどにとどまらず、あらゆる政権が、緊縮政策の名の下に、民営化、非正規職化、とりわけ公務員労働者を標的とした大量首切りと賃金カット、年金の削減、社会保障制度の解体として展開している。EUの失業率は12%に上り、とりわけ青年労働者を直撃し、また長期的失業が広がりつつある。
 こうした緊縮政策の継続=新自由主義的階級戦争の展開に対し、体制内労働運動によって抑圧されてきた労働者階級の積年の怒りが、12年11月14日の全ヨーロッパ・ゼネストとなり、ついで13年メーデーにおいてギリシャのゼネストを先頭にEU各国で爆発した。
 「もうこれ以上、我慢はできない」「生きさせろ」「恐慌のつけを払うのは、われわれではない」「企業、資本家が払え」「労働組合のボスたちにまかせてはおけない」などのスローガンを掲げた怒りのデモが巻き起こった。ヨーロッパ労働運動は、ついに歴史的な革命情勢に入りつつある。
 EUにとって、さらに危機的なのは、ギリシャ・スペインなど「南欧諸国」に始まる金融・財政危機が、経済危機・政治危機に発展、さらにイタリア(EU第4の大国=jから、フランスなどEU中枢へ拡大・深刻化していることである。【フランスの危機的状況については、第3章で述べる】

 基軸国ドイツの動向

 

では、基軸国ドイツの状況はどうか。
EU総体が、米日欧・BRICS諸国間の緊密な経済的通商的金融的からみあいと、新たな争闘戦の激化(通商戦争・為替戦争・資源略奪戦・勢力圏の再構築等々)のなかで、EUとしての存亡を問われている。
この時、ドイツ帝国主義は、その矛盾の全体が集中されているという位置にあり「ドイツの一人勝ち」というような状況ではない。ドイツ帝国主義にとって、EUとは、日帝にとっての日米安保同盟のように、争闘戦的対立を含んだ死活的な帝国主義間の同盟関係である。
ドイツ国内の階級情勢も、積年の賃金抑制、民営化、非正規化、外注化(中東欧諸国への工場移転)などの攻撃によって、労働者階級の怒りが渦巻いている。その一端を示すのが、今年3・11福島集会への400通にも上る連帯アピールの集中である。
EUの東方拡大によって包摂された中東欧諸国の経済、金融は、大恐慌の打撃で破滅的な状況となり、ポーランド、ルーマニアなどで、ストライキが頻発している。
EUが、この危機を打開するために打ち出しているのは、財政再建のための緊縮政策の強行と、その柱としての構造改革(とりわけ、労働市場改革)の遂行、そして、金融市場の混乱を克服するための銀行同盟、単一金融監視機構、単一財政措置執行機構などのEUレベルの諸機関の樹立である。
しかし、これらの政策をめぐっては、EU理事会と各国政府、とりわけドイツ政府との対立が生じており、それは独仏対立として表面化しつつある。とりわけ、中枢における独仏対立の激化、EU理事会とドイツ・メルケル政権の緊張関係が生じている。
こうした内外にわたる争闘戦の激化は、通商戦争・為替戦争・市場争奪戦にとどまらない。帝国主義としての勢力圏形成をかけての争闘戦が、各地で展開されている。
現に、中東、西アジア、北アフリカなどが戦場になりつつある。例えば、ドイツのメルケル首相が、アフガニスタンを訪問、駐留しているドイツ国防軍4300人を激励し、14年に予定されている駐留外国軍撤退後も、ドイツの参加している国際治安支援部隊(ISAF)として最大800人規模の部隊を残留させることを表明している。これは、アメリカのオバマ大統領が、アフガニスタンのカルザイ大統領に14年以後も、アフガニスタン国内の9カ所の基地への米軍の駐留継続を要求していることに対抗するものである。

(写真 ポーランドでもメーデー・デモが闘われた【5月1日 ワルシャワ】)

 新自由主義の破綻

 こうした状況のすべての根底にあるのは、新自由義攻撃の破綻という歴史的な事態である。
 そもそも、今回の世界金融危機、そして世界大恐慌の発端となったのが、アメリカのサブプライムローンの破産の大爆発に先立った07年のBNPパリバ(パリに本拠を置く)の破綻であったことが示すように、74〜75年恐慌以降の新自由主義の下で、全世界を荒らしまわった投機資金がヨーロッパにおいても、いや、ヨーロッパにおいてこそ、広範に、深々と金融市場に根を張ってしまっていたことがある。帝国主義の過剰資本・過剰生産力が、EUという巨大な経済・通商・金融ブロックを媒介として、歴史的に蓄積されてきたのである。
 こうしたEUの危機的状況は、もともと危機における帝国主義国家連合としてのEUに内在した矛盾が、世界大恐慌という体制的危機のなかで必然的に爆発したものである。

 ■EU危機―EUの世界的位置と構造的矛盾

 現在、EUは27カ国を包摂し、その中で17カ国が通貨同盟としてのユーロ圏を形成している。EUの世界経済・貿易・金融などにおけるアメリカ、中国、日本などとの関係における位置は、図(次ページ)で示されているとおりである。このようにEUは、日米帝国主義、およびBRICS諸国と、生産・貿易・直接投資において、密接な、有機的関係で結合するにいたっている。それは、同時に、これら諸国、諸勢力との間、およびEUの内部での激しい争闘戦を内包していることを意味している。

 EUの「東方拡大」

 

(図 EUと主要相手国との商品・サービスの輸出入の流れ【2011年】、EUと主要相手国との間の直接投資の残高【2011年】)

04年のEU「東方拡大」が現在の27カ国体制を形成した。旧ソ連スターリン主義圏内にあった諸国が、EUに参加することによって、EUの世界経済における位置、比重が増大した。それだけではない。中東欧諸国のEU加盟は、ヨーロッパ大陸の制圧からさらに、ウクライナ・ベラルーシを越えて、ロシアに迫る境界線を形成したことになる。
こうしたEUの東方拡大の経済的、政治的、軍事的インパクトは、ソ連スターリン主義崩壊以後の世界の争闘戦の新段階とEU自身の内部構造の変化を意味するものであり、EU内部に、新たな矛盾を抱え込むこととなった。
第2次世界大戦の戦後処理として、アメリカ帝国主義とソ連スターリン主義の間で合意・形成された戦後世界体制で、ソ連圏に包摂された中東欧は、元来、ドイツ帝国主義の歴史的勢力圏としてあった。第2次世界大戦の発火点となったドイツ帝国主義=ナチスとソ連スターリン主義によるポーランドへの同時侵攻=分割支配の攻撃は、世界政治における中東欧の位置と意義を明らかにするものであった。
04年のEU加盟以前に、中東欧諸国は、1991年のソ連スターリン主義崩壊と東欧スターリン主義圏解体の直後から、EUへの接近を開始していた。それは前年の1990年に東西統一を達成していたドイツ帝国主義を中心とする中東欧諸国のEUへの実質的包摂として、急速なテンポで行われていた。
それは、ドイツ帝国主義にとって、国家的統一の回復≠ニ同時に、旧勢力圏の奪還≠意味するものであり、ある意味では、ソ連スターリン主義の崩壊とともに、戦後世界体制の大変動、あるいは転覆を意味するものであった。
ドイツ帝国主義の「東方再進出」は、嵐のような資本投下、すなわち自動車・鉄鋼産業を始めとする工場建設・移転と、銀行支配の確立として、数年のうちに展開された。ドイツ帝国主義の突出は、あくまでもEUの形をとって行われ、同様にフランス・イタリアなどの自動車資本は、相次いでポーランド、チェコ、ハンガリーなどに進出した。
またこの過程は、米帝にとっても、戦後世界体制のヨーロッパにおける大転換として、決定的な転機をなすものであった。
それは何よりもNATO(北大西洋条約機構)の位置づけの変更を迫るものであった。それを示したのが、東欧スターリン主義崩壊に引き続いて起きたユーゴスラビア内戦の爆発におけるEU帝国主義とアメリカ帝国主義の主導権争いであった。圧倒的な米帝の軍事力を見せつけた19
98年のベオグラード空爆は、中東欧人民に対する帝国主義の恫喝であると同時に、EUとりわけドイツ帝国主義(核武装を禁じられている)の東方進出への牽制であった。ドイツ帝国主義は、これに対して、戦後初めての「国防軍の海外派遣」という飛躍をもって応えたのである。これが、現在のアフガニスタン派兵につながっていく。
このような経過を経たうえでの04年のEU東方拡大は、ドイツ帝国主義の主導で、すでに進められてきた実質的包摂の仕上げであったといえる。

(図 世界経済におけるEUの位置【2011年】)

 EUの中軸=独仏同盟

 数年にわたって行われた中東欧諸国のEU包摂の過程はEU内部の力関係、とりわけドイツ内部の階級関係にも大きな変化をもたらした。
すなわちEUとしてその中軸をなしてきた独仏同盟の激変である。
ドイツ帝国主義の「東方進出」(これを阻止するのが、戦後世界体制の狙いの一つであったと同時に、フランス帝国主義の独仏同盟にかけた野望であった)は、フランス帝国主義の旧勢力圏への再進出の衝動を刺激した。04年の東方拡大以後、フランス大統領サルコジは、EUと地中海諸国(イスラム圏諸国)との連携協定の締結を強行する。
ドイツ国内では、中東欧=低賃金地帯への工場移転による労働者支配の強化(賃下げ、団体交渉の無力化など)、さらに戦後的社会福祉国家の解体=新自由主義のEU的貫徹が行われる。
1990年ドイツの東西統一と1991年のソ連スターリン主義崩壊=東欧スターリン主義圏解体の時期は、世界的には、米英日帝国主義が1
980年代中葉に開始していた新自由主義攻撃が、BRICS諸国を世界の政治・経済・軍事の舞台に登場させ、戦後世界体制全体の巨大な再編をもたらしていた時期であった。
新自由主義による世界的金融規制緩和によって、74〜75年恐慌以来、全世界的に顕然化していた過剰資本が投機資金として解き放たれ、「金融商品」が全世界にあふれた。 また、新自由主義の下でのグローバリゼーション≠フ名の下での「資本・商品・労働力の国境を越えた自由な移動」によって、BRICS諸国の世界経済への登場がもたらされ、EUの市場(商品、資本、資源等々)が、拡大した。それは、不可避的に勢力圏を始め、資源・エネルギー源をめぐる争闘戦の激化を招き、中東・アフリカをめぐる新たな激動が生じた。
この変化は、EUの構造変化としても現れ、国家間の格差の拡大、超国家組織としてのEUとメンバー諸国の国家主権の衝突などとして展開され、本来、EUに含まれていた帝国主義連合というあり方の構造的矛盾の激化をもたらした。それを劇的に爆発させたのが、世界大恐慌であった。04年のEU拡大からわずか数年足らずで、全世界は、EUともども世界大恐慌の巨大な渦にのみこまれていくのである。

(図 世界経済のおける各国・ブロックの位置【全世界のGDP総額〔購買力平価〕の中での割合】)

 ■EUとは何か?  ヨーロッパ帝国主義の戦後世界での延命形態

 EUとは、帝国主義間の同盟として、争闘戦の危機的な一つの形態である。「資本・商品・労働力の国境を越えた自由な移動」を建前として設立されたが、この同盟は、対外的には、排他的なブロックであると同時に、内部にも国家・資本間の対立と争闘戦を抱え込んだ同盟である。そして、その階級的な性格は、労働運動、労働者階級の闘いを、帝国主義の共通利害のために抑圧することである。
 EU(当初は、ヨーロッパ経済共同体=EEC)成立の第一の条件は、第2次世界大戦後の米帝国主義とソ連スターリン主義による戦後世界体制の枠の中におけるヨーロッパの東西分割(そしてドイツそのものの東西分割)である。
 欧米帝国主義としては、ソ連スターリン主義の勢力圏がヨーロッパの中央部まで拡大されたという現実に直面して、対スターリン主義的対抗勢力圏の形成を必要としたということであった。〔軍事的には、NATOの構築に表現されている〕
 第二に、その対ソ連スターリン主義圏形成の軸として、独仏同盟が形成されたということである。敗戦帝国主義ドイツとフランス帝国主義(大戦勃発直後にナチス軍によって軍事占領され、帝国主義としての弱体性を露呈し、戦後体制の構築からは排除されたフランス帝国主義)の間の「同盟」というぎりぎりの延命策であった。
 第三には、第2次世界大戦によって、ヨーロッパ帝国主義、とりわけ仏英帝国主義がアジアから中東にいたる植民地を失ったことから来る対米対抗的性格を強くもった閉鎖的経済圏建設の必要性である。
 第四には、ヨーロッパ労働者階級の戦後革命的決起を体制的に圧殺する帝国主義間の階級同盟としてのEUということである。
 ヨーロッパの労働者階級は、第1次世界大戦とロシア革命に対してドイツ革命を始めとして戦後革命の波で応え、29年恐慌に対しては30年代の内乱・内戦で闘いつつも、スターリン主義の裏切りによって第2次世界大戦に動員されてしまった。
 だが、こうした革命的伝統を共有しているヨーロッパ労働者階級の決起への恐怖、先制反革命の体制としてのヨーロッパ帝国主義同盟ということである。

 EU形成に至る過程

 EU形成に至る過程は、1958年に成立したEEC(ヨーロッパ経済共同体)が、1967年に戦後から存続していたヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)・ヨーロッパ原子力共同体(EURATOM)と統合してEC(ヨーロッパ共同体)となり、92年にEU(ヨーロッパ連合)の成立に至るという道を通っている。それぞれの時点が、戦後ヨーロッパと戦後世界全体の転換点を表している。
 1958年とは、フランス帝国主義が、旧植民地アルジェリアの民族解放闘争に直面し、ドゴールの登場とフランス共産党の裏切りによって、第四共和政から第五共和制への反革命的転換を行って、体制的危機をかろうじて切り抜けた年であった。
 1967年は、「奇跡の戦後発展」をとげてきたと言われた西ドイツが66〜67年恐慌に直撃され、社会的不満が「再軍備反対」などの形で爆発し、保守勢力と社民勢力の「大連立」をもって、かろうじて体制を維持したという戦後ドイツ史の転換点であった。
 そして、現在のEU成立の1992年とは、90年におけるドイツ帝国主義の東西統一、91年におけるソ連スターリン主義の崩壊=東欧ソ連圏の解体(04年のEU「東方拡大」による包摂に至る)という戦後世界体制の大変動の時期であった。
 この時期は、また80年代から米英日帝国主義を先頭として開始されていた新自由主義攻撃が、BRICSなどの諸国を、世界経済・政治・軍事の舞台に登場させたことによって特徴づけられる帝国主義の危機の深まりを意味する重大な転換の時期でもあったことに、注目する必要がある。
 こうして、世界大恐慌の爆発によって、戦後過程から数十年にわたって蓄積されてきた一切の帝国主義の矛盾が、全面展開するに至っている。そのキーワードは、帝国主義・大国間の相互絶滅的な争闘戦と労働者階級人民に対する階級戦争の極限的な展開である。
 したがって、EU解体の危機に対する労働者階級の歴史的回答はただひとつ、反帝国主義・反スターリン主義プロレタリア世界革命の勝利である。
 ロシア革命から百年、ヨーロッパ労働者階級の革命的伝統(18〜19年のドイツ革命、20年イタリアの「赤色週間」、30年代スペイン内戦、第2次世界大戦中のギリシャ内戦、フランス・イタリアの戦後革命等々)を継承し、さらに中東の激動とのプロレタリア的連帯をとおして、世界革命に勝利するためには、スターリン主義反革命によるプロレタリア世界革命の歪曲を総括し、階級的労働運動の革命的指導部を形成することが緊急の任務である。

第2章

 U EUの中軸・ユーロが破――大恐慌で構造的矛盾が爆発

 基軸国・米帝が再びバブル化し、大崩壊の前夜にあるなかで、世界各国はすでに臨界点を超えて大崩壊過程に突入している。
EUは独仏を軸とした一つの対米経済ブロックである。EUの中軸はユーロ圏であるが、世界金融大恐慌の中で、構造的矛盾をもつユーロ危機が爆発した。ユーロ維持のためにドイツ帝国主義によって緊縮策が強行され、大不況と大失業に突入している。通貨と金融は単一であるが、財政と国家主権は別々であるという根本的・構造的欠陥を抱えている。それが世界恐慌をさらに促進している。
3年間にわたってゼネストを闘い抜いているギリシャを先頭にしたヨーロッパの労働者階級と連帯し、大恐慌をプロレタリア世界革命に転化するために闘い抜こう。
【ユーロ圏 EU加盟27カ国のうち、単一通貨ユーロを導入している17カ国。金融政策は欧州中央銀行(ECB)が運営している。経済規模はEU全体の7割強で、日本の2倍以上。ドイツは3割弱、2位のフランスは2割強。独仏で全体の約半分を占める】

(* 【ユーロ圏17カ国】アイルランド・イタリア・オーストリア・オランダ・スペイン・ドイツ・フィンランド・フランス・ベルギー・ポルトガル・ルクセンブルク・ギリシャ・スロベニア・マルタ・キプロス・スロバキア・エストニア)

 ■ユーロ圏、景気後退が最長に

 まず、EUの直面している状況を概観しよう。

 6四半期連続でマイナス成長

 欧州連合(EU)は5月15日、ユーロ圏の1〜3月期の域内総生産(GDP)が前期に比べ実質で0・2%減ったと発表した。年率換算では0・9%減である。マイナス成長は11年10〜12月期以来6四半期連続で、単一通貨ユーロ創設以後で最長となった。ドイツはかろうじてプラスとなった(0・1%)が低成長であり、フランス、イタリア、スペイン、オランダのユーロ圏の中核国は軒並みマイナスである (図1、2参照)

(図1 日米、ユーロ圏の実質GDP成長率)

 

(図2 ユーロ参加国の実質GDP)

EU主要国の1〜3月実質GDP増減率は以下の通り。(▲はマイナス)
【ドイツ】
0・1%(前期▲0・7%)
【フランス】
▲0・2%(前期▲0・2%
2期連続減)
【イタリア】
▲0・5%(前期▲0・5%
7期連続減)
【スペイン】
▲0・5%(前期▲0・5%
5期連続減)
【オランダ】
▲0・1%(前期▲0・1%
3期連続減)
【ユーロ圏】
▲0・2%(前期▲0・6%
6期連続減)

 危機は周縁国から中核国へ

 危機は周縁国PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)から中核国FISH(フランス、イタリア、スペイン、オランダ)へと拡大した。
国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」(4月)では「世界経済は新興国の高成長と先進国の低成長という『二極化』から、新興国と米国とユーロ圏という『三極化』に姿を変えつつある」と報告している。

(図3 ユーロ参加国の失業率)

(図 単位名目労働コストの変化【2003〜2011年】)

 緊縮政策か成長戦略か

 包括支援を要請したのはギリシャ、アイルランド、ポルトガル、キプロスの4カ国である。そのほかに、財政赤字削減目標の達成期限の延長を求めている国は、スペイン(14年を16年に)、フランス(13年を15年に)、オランダ(13年を14年に)の3カ国である。
ユーロ圏の内需不振は深刻で、失業率は12・1%に高まっており、失業者数は1921万人に上っている (図3参照)。中国などの景気が落ち込んでおり、通貨ユーロが昨年に比べて上昇しており、外需にも期待できない。
ECBは5月2日に政策金利を0・25%引き下げて過去最低の0・5%としたが、さらに財政・金融両面から景気を支えるべきだという声が出ている。
2カ月の政治空白の末に4月末に大連立内閣を組閣したイタリアのレッタ首相は、所信表明演説でモンティ前首相の緊縮策から成長路線に転換することを表明した。4月30日にメルケル独首相と会談した後、翌5月1日にオランド仏大統領と会談し、経済成長を促進する考えで一致したと表明した。メルケル首相は、「財政再建と経済成長は矛盾しない」と釘をさした。バローゾ欧州委員長は緊縮策に対する国民の支持は限界に来ていると語っている。

(図5 オランド大統領の支持率は低迷している)

 フランスの凋落

 昨年の大統領選挙でオランドは、「EUの新財政協定の再交渉」を主張し、メルケル独首相は再交渉はあり得ないと反論してサルコジ前大統領を公然と支持した。
 オランドは大統領になって、退職年齢の引き下げ、富裕層への75%の所得課税、公立学校教師の増加、週35時間制の維持などの公約を実行した。
 しかし、フランスは昨年から2四半期マイナス成長で、財政赤字は昨年、対GDP比4・6%とイタリアをはるかに上回り、金融支援を受けたポルトガルに近い。政府債務は今年、対GDP比93・4%になる見込みで、財政健全化目標を13年から2年間延長を申請している。
 EUの報告書によればフランス企業の利益率はユーロ圏で最低だ。失業率は来年には11%を超えると見られる。サルコジ政権時に決めた付加価値増税(消費税に相当)を一度撤回したが、改めて引き上げを決定した。賃下げや労働時間短縮をしやすくする労働市場改革法を成立させ、年金制度の改悪をしようとしている。だが、労働者階級の怒りの激しさのなかで、「緊縮財政」を採りきれない。就任時56%だった支持率は4月には26%に下がった (図5参照)
 緊縮策か成長策かの路線論争が激化しているが、両者に共通するのは民営化・外注化・非正規職化による賃金破壊、雇用破壊という階級戦争だ。

 ■次々と爆発するユーロ危機

 09年10月、EU統計局はギリシャの財政収支の統計値に重大な不確実性があると表明した。それから表面化したユーロ危機は、ギリシャからキプロスへと次々と拡大し、収まりを見せない。
 EUのリスボン条約に非救済条項がある。
 「EU、あるいは加盟国は、自然災害のような各国政府の手に負えないような脅威を除き、他の加盟国を救済してはならない」というものだ。
 他国に対して安易な救済を求めるモラルハザードを防止するためとされている。これを解釈換えして、または一部変更して融資を行ってきた。
 そして10年5月、3年間の時限措置として7500億ユーロ規模の欧州金融安定ファシリティ(EFSF)を発足させた。

 11年秋に欧州の短期金融市場が凍結

 ギリシャ第2次支援が必要となった11年夏以降、ギリシャの債務再編が課題となり、最終的にはギリシャ国債の切り下げ幅は70〜80%となった。ECBの保有するギリシャ国債は満額保証されたが、民間の保有するギリシャ国債は債務不履行となった。この時、財政赤字国から民間資金は逃避し金融市場が凍結し、銀行間取引が停止した。
 ECBは11年12月と12年2月の2回にわたり、「バズーカ砲」と自称する1兆ユーロを超す3年物の低利融資を行って対処した。

 短・中期国債買い切りオペ(OMT)

 これでも危機は収まらず、12年に入ってスペイン、イタリアの国債利回りは暴騰した。7月26日、マリオ・ドラギECB総裁は「ユーロを守るためにECBはあらゆる手段をとる用意がある」と宣言し、9月6日に新たな金融政策を発表した。それが国債の無制限購入措置(OMT)である。これは恒久措置として5000億ユーロまでの支援能力を持つ欧州安定メカニズム(ESM)と一体の政策であった。
 OMTは、(イ)ユーロ圏の問題国の国債の無制限の買い入れ、(ロ)問題国はEUの財政支援の仕組みに支援を要請し、その仕組みが課す財政改革を実行する、というものである。ESMは12年10月から発足となった。ECBの国債の無制限買い入れ表明の威力は大きく、それ以降国債金利は低下しているが、これで問題が解決されたわけではない。スペインやイタリアが支援を求めてきたとして、フランスが脱落寸前にある時に、ドイツ一国で支える力などないのである。

 今年3月、キプロスで銀行取り付け

 13年3月にキプロスへの最大100億ユーロの金融支援で合意した。キプロスでは全預金者への課税が打ち出された。これは議会で賛成ゼロで否決され、10万ユーロ超への課税に訂正されたとはいえ、銀行取り付けが起こった。銀行預金引き出し制限という資本規制が初めて行われた。いかに小国とはいえ、キプロスではユーロは、同一の価値を持つユーロではなくなったのである。

(図6 域内で広がる融資金利の差【主要国の企業向け新規融資の金利、100万ユーロ以下】)

 ■ユーロの構造矛盾

(1)各国が別々の通貨を使用している場合、各国の国際競争力格差は為替レートの変化、つまり為替レート減価によって調整することができる。ところが各国が同一通貨を使用するなら、そのような調整は不可能になる。したがって各国に国際競争力格差が存在する限り、最も優れた国が市場を支配することは避けられない。
(2)欧州には、深刻な南北問題がある。高い技術力を持ち、資金力でも余裕のある製造業の大企業が多い北では、外部資金に依存せずに、内部留保を活用して投資をまかなう傾向がある。これに対して、技術的、資金的に成熟した企業が少ない南では、内部資金だけでは投資をまかなえず、外部資金に依存せざるを得ない。そこにカネ、ヒト、モノの取引の国境を消滅させるという理念で統合が進められたことによって、北の銀行は南の企業にこぞって融資した。
(3)ユーロ圏には、地域間に生産性格差とインフレ率の格差がある。ところが、ユーロ圏では、同一の通貨を使用しているので、高インフレ国に投資しても為替差損の心配がない。低インフレ国の投資家にとって、高インフレ国への投資は確実に利ざやの稼げる取引だと思われ、高インフレ国への投資が集中した。
 共通通貨の成立によって、為替リスクまで消滅したことが、金融機関や投資家に国債投資の危険性を過小評価させる結果になった。それによって「過剰な資本取引」、つまり、債務国にとっての「過剰な資本輸入」と、債権国にとっての「過剰な資本輸出」が起こった。それが危機を生み、危機を拡大している。
  図6にあるように、域内の融資金利の差が広がっている。高金利のスペインやイタリアが低金利のドイツとの競争を強いられており、格差は拡大する一方だ。

 ■3年間もユーロ危機が続いているのはなぜか

(図7 ユーロ圏の主な債権国側のTARGET2収支の推移)

 ターゲット2

 欧州債務危機が、アジア通貨危機(1997年〜98年)の時のような国際収支上のショートを起こさないで3年間も持続しているのはなぜか。そこには「隠れた救済メカニズム」がある。それが欧州中央銀行制度(ユーロ・システム)におけるターゲット2という、ECBが管理するユーロ圏各国の決済勘定である (図7参照)
 ユーロ・システムには一定期間に中央銀行間の純資産、純負債を清算するという取り決めがない。11年秋以降債権・債務の残高の拡大が著しい。12年7月末の債務の額は、ギリシャが1039億ユーロ、スペインが4185億ユーロに達している。ドイツの債権のピークは12年8月で7514億ユーロ。債権・債務の不均衡が拡大する一方で、対策も検討されず放置されていた。
 現在のユーロ・システムは、ブレトン・ウッズ体制末期において、アメリカがドルの金本位制の兌換義務に応じることができなくなって、1971年8月15日のニクソン・ショックで兌換停止した時に酷似している。

 担保基準の緩和

 ECBは統一担保原則のもとに、ユーロ・システムで資金供給を行ってきた。ところが、最も安全な担保であるはずの国債が、民間格付会社によって軒並み格下げされた。ECBは当初、国債の最低格付ラインを引き下げてきたが、それでも間に合わず、ついに適格担保基準の適用を一時停止して担保として引き受けてきた。
 さらに11年12月には、特定の加盟7カ国を対象に、担保基準について、独自に設定することを容認する、とした。これは中央銀行の統一金融政策の放棄である。ユーロは崩壊し始めている。

 ■一切は労働者階級の決起にかかっている

 「EU新財政協定」(経済通貨同盟の安定・調整・統治に関する条約)

 新財政協定が今年1月に発効し、各国は法制化のプロセスにある。
 もともと財政規律をめぐって、独仏は対立してきた。独が罰則を含めた厳しい規律を求めたのに対し、仏伊は幅をもたせようとしていた。
 ドイツのヴァイゲル財務相(当時)の提唱で1997年にEUの安定財政協定が成立した。加盟国の単年度政府財政赤字はGDPの3%、国家債務残高が同60%を超えないというものである。
 ユーロ危機への対策として、ドイツの提案で12年3月に新たな政府間協定として新財政協定を締結した。当初はEUの基本条約の改正を目指したが、英国の拒否権によって果たせず、EUの枠外で英国とチェコを除く政府間協定となった。
 単年度財政赤字を(イ)さらに厳しくしてGDP比0・5%以下にし、(ロ)その国内法化を義務づけ、(ハ)違反したら罰則が課されることになった。

 ドイツの緊縮策とプロレタリアートの激突へ

 ドイツは、次々に爆発するユーロ危機への対応として、やむを得ず支援策に応じているが、一番重視していることは緊縮策と罰則の強化である。そのことによって、ユーロ圏を「財政支援同盟」にしないということである。ギリシャに対しても、キプロスに対しても、ユーロ圏から離脱するなら離脱すればよいという腹づもりである。そうした議論がドイツでは公然と行われている。しかしギリシャの離脱はユーロ崩壊の導火線となることは不可避である。
 ユーロ圏は昨年6月に銀行の監督体制を一元化して銀行に直接資本注入する枠組みに合意したが、ドイツは欧州委員会と対立し、事実上の先送りに動いている。
 ドイツは緊縮策の強化で突っ走っているが、それはドイツ・プロレタリアートとの激突となる。ドイツ・プロレタリアートはギリシャ・プロレタリアートと連帯して必ず決起するであろう。

第3章

 V 資源めぐる大争闘戦時代――フランス帝国主義が突出

 世界大恐慌下で、資源・エネルギー源をめぐる帝国主義・大国間争闘戦が激化している。EUにおいても、この争闘戦は、対外的だけでなく、EU内部の対立をはらんで展開されている。
EUの資源・エネルギーは、石油・天然ガスを中心として、従来、中東、ロシアに依存してきた。世界大恐慌に突入した現在、中東(西アジア、北アフリカ)の政治的軍事的激動のなかで、北アフリカから中央アフリカの資源が争闘戦の対象として浮上し、EU、とりわけフランス帝国主義が進出を強化している。
このフランスの動向は、EUの基軸国ドイツ帝国主義がロシアの天然ガスへの依存が強いのに対抗して、08年にサルコジ大統領の時代にフランスの主導のもとで、対独対抗的に地中海同盟を結成し、北アフリカへの進出を強めてきたなかで生じている。

(写真 1月16日にイナメナスで起きたアルジェリア事件は、フランスのマリ侵略戦争の停止を求めていた。【『前進』2569号参照】)

 仏帝の脱落的危機とアフリカ侵略

 欧州恐慌とユーロ危機の決定的段階への突入の中、就任1年目を迎えたオランド社会党政権のフランス帝国主義は、EU危機への対応をめぐって、ドイツ帝国主義との対立を深めつつ、EUの基軸を担う独仏連合から脱落する危機に直面している。
 前サルコジ政権の「緊縮政策」の批判を掲げて登場しながら、フランス帝国主義の延命のためには、「緊縮政策」を継承して強行することを迫られたオランド政権は、就任から1年目で、労働者階級の怒りに直面し、「緊縮政策ではなく、経済成長政策を」などという軌道修正を策動している。
 そうした中で財政赤字は激増し、失業率は11%に至り、急激に破綻状況に突入しつつある。そのなかで、体制内労働運動の指導部を抱え込んで「雇用改革法」を制定し、労働市場の規制緩和を強行しようとしている。こうしてオランド政権の支持率は、第2章で見たように急落している。 こうした危機的状況から絶望的突破をかけて行われたのが、旧植民地の西アフリカのマリと中央アフリカ共和国への軍事介入である。旧宗主国フランス帝国主義として、勢力圏と資源確保を狙った侵略戦争にほかならない。
 こうしたアフリカをめぐる資源争奪戦に、フランス帝国主義と競い合う凶暴さで登場しているのが、中国である。こうして、フランスを筆頭とするEUと中国を軸に、アフリカにおける帝国主義間・大国間の争闘戦が激しく進行している。

 マリ、中央アフリカへの侵略戦争

 今年1月11日、フランス軍はマリ北部への空爆を開始し、地上軍も展開した。
フランスは、仏原子力大手企業アレバが、マリの隣国ニジェール(世界第2位といわれる巨大なウラン鉱床がある)からウラン原料を輸入している。ニジェールが脅かされた場合、電力の75%を原子力に依存するフランスの原子力政策に影響が出かねない。
オランド社会党政権は、「フランスの縄張り」であるアフリカの旧仏領植民地を守るために戦争に踏み切った。特に国策会社アレバのウラン鉱山利権を守ることが最大目的だった。
さらに3月24日、アフリカ中部に位置する中央アフリカ共和国の政情が不安定になり、在留仏人保護を理由に300人の部隊を派遣し、事前に展開していた部隊と合わせ、約550人の部隊で空港などを制圧下に置いた。中央アフリカはウランやダイヤモンドなどの資源が豊富で、約1200人のフランス人が滞在している。まさに資源と勢力圏確保の侵略戦争である。

(図 アフリカに進出する中国)

 資源と勢力圏めぐる争闘戦激化

 フランス帝国主義は政府が支援して鉄道や道路、発電所などのインフラ輸出を加速している。欧州恐慌下で景気が低迷する中、旧宗主国としての歴史的なつながりも生かしつつアフリカの資源と勢力圏を確保しようとしている。
 昨年12月、オランド大統領は大型のビジネス訪問団(関係閣僚や企業幹部など約200人)とともにアルジェリアを訪れ、自動車工場の増設、原子力発電所の建設促進などで合意した。トップセールスで大型の投資案件を受注した。オランド大統領とブーテフリカ大統領が連名で発表した共同宣言では、両国の協力関係の深化を進める意向を強く打ち出した。
 自動車大手ルノーは、アルジェリア北西部のオラン郊外に工場を新設すると発表した。14年にも生産を始め、12年1〜6月の販売台数が前年同期比約45%伸びたアルジェリアの自動車市場を取り込むのが狙いだ。
 製薬大手サノフィも、製薬工場の新設に7000万ユーロを投資すると表明。また原子力発電所の建設などエネルギー分野での協力も進めることを確認した。
 仏エネルギー大手GDFスエズは今年2月にモロッコ南部でアフリカ最大級の風力発電所を建設すると発表した。重電・鉄道大手のアルストムは南アフリカの郊外鉄道の更新事業への参画を決定。受注額は45億ユーロで、15年からの10年間で3600台の車両を納入する。同社は昨年12月にモロッコの路面電車も開通させた。
 ほかにも原子力大手アレバはニジェールでウランの権益を獲得。石油大手トタルはガボンやアンゴラ、アルジェリア(同国は天然ガス輸出で世界4位に当たる)などで原油・天然ガスの権益を確保している。
 一方、中国は昨年10月、ナイジェリアなど15カ国でつくる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)と経済交流に関する協定を締結。インフラ整備などの協力を進めることで一致した。西アフリカの高速道路に巨額の資金供与をするほか、国営企業が西アフリカ沖の石油権益の獲得を決めた。貿易においても中国はアフリカにとっての最大の貿易相手国であり、中国の対アフリカ輸出額はここ数年で欧米諸国を抜き去り、06年にはついに、伝統的にアフリカを市場としてきたフランスの輸出を凌駕した。
 アフリカをめぐる資源争奪戦は激しさを増している。このように、フランスは、中国とアフリカ市場をめぐる対立を深めている。
 こうした中で5月25日、仏オランド大統領が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。中国がエアバス60機の購入とアレバを通じての原発分野での協力を確認した。両者は、「中仏は独立した精神を持つ大国」(習)「中国の領土と主権を尊重」(仏)を前提に、農業、旅行、海洋、極地開発などの領域での協力を確認。約260人の訪中団には、アレバ、ルノーの関係者が含まれていた。

 ●武器輸出、軍需産業にも活路求める

 大恐慌下で危機を深めるフランス帝国主義は、武器輸出と軍需産業にも活路を求めている。
 オランドは今年2月、訪問先のインドでシン首相と会談し、短距離地対空ミサイルをインドで共同開発・生産を始めることで合意した。さらにインド政府は、仏ダッソー・アビアシオン製の次世代戦闘機「ラファール」126機(総額120億j)の購入に向け交渉を継続中だ。オランドは、「ラファール」の売り込み成立に向けシン首相に直談判し、交渉を進展させている。アラブ首長国連邦(UAE)やブラジルへの輸出も狙っている。
 フランス軍は「ラファール」をリビアやアフガニスタン、マリで実戦投入しているが、海外への輸出事例はまだない。インドとの交渉がまとまれば初輸出となる。オランドは1月のUAE訪問時や、昨年12月にブラジルのルセフ大統領の訪仏時にもトップセールスを展開。官民を挙げた売り込みを強化している。
 フランスにとって軍事・航空業界は自動車に並ぶ一大産業であり、40万人の雇用があり、関連企業は5000に上る。フランスは、11年には中東やアジアなどに60億ユーロ強の武器を輸出した武器輸出大国である。
 帝国主義・大国間の資源・エネルギーをめぐる侵略戦争と闘うアフリカ諸国の階級闘争に、注目する必要がある。 脱落の危機にあるフランス帝国主義の侵略と戦争の凶暴化とアフリカにおける勢力圏と資源をめぐる帝国主義間・大国間の争闘戦激化に対し、国際連帯闘争で闘おう。

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月刊『国際労働運動』(443号4-1)(2013/07/01)

●翻訳資料

ウォルマートの汚い秘密

――サプライチェーン労働者に聞く

ジェリー・ブラウン 『レーバーノーツ』4月23日
村上和幸 訳

(写真 ウォルマート労働者のストライキ、座り込み【2012年11月22日 ロサンゼルス近郊】)

 【解説】

 

ウォルマートは、労働者の極限的な搾取で悪名高い。そして、労組結成のほんの少しの兆候でも、店舗閉鎖・丸ごと解雇などの激しい攻撃をかけ、「労組が存在しえない会社」を豪語してきた。そして、徹底的な外注化・非正規職化、委託生産、海外移転をアメリカ資本の最先頭で推進し、それによって世界最大のスーパーマーケットチェーンになっていった。
新自由主義の典型であり、ユニクロ・柳井のモデルといえる。
この翻訳資料は、この極悪資本の下の組織化の困難を乗り越え、巨大な団結をつくり出しつつあるウォルマート労働者、全米、全世界の労働者に関するものだ。
これまで「不可能」だと思われてきたウォルマートでのストが、ついに昨年10月に倉庫で、11月に店舗で連続して大規模にかちとられた。
それは職場で秘密裏に地道な組織化を進めてきた成果だが、同時に国際的な団結によってこそ可能になったものだった。フィリピン系、中南米系などの移民労働者、非正規職労働者との団結、そして全世界に広がるウォルマートの外注・委託先の労働者との団結だ。
ウォルマートは、米国内の工場の労働運動を破壊し、労働条件を下げるために工場を閉鎖し別の地域に移転し、さらに隣国メキシコなどに、また中国に移転し、そこでも労働運動が台頭すると、ベトナムなどに移転していった。こうしてたどり着いたバングラデシュは現在、中国に次いで世界第2位の繊維工場集積地となっている。
そこで昨年11月24日、工場の大火災で117人、今年4月24日の工場崩壊で1129人以上の労働者が虐殺された。それは、労働組合に対する凶暴な弾圧の結果だ。
アメリカ資本は中南米の労働運動を暴力的に弾圧してきた手口を、ここでも使っている。米資本・バングラデシュ資本は、麻薬ギャングと結びつき、政府と癒着して、労働組合活動家を襲撃、虐殺している。4月24日のビル崩壊・大量生き埋め事件も、崩壊寸前の工場ビルに入ることを拒否した労働者を、麻薬ギャングが棍棒で工場に追い込み、強制的に労働させた結果だ。「安全軽視」などというレベルではなく、虐殺そのものだ。
バングラデシュ繊維労組を始めとした労働者の怒りの決起は、こうしたシステムそのものに向かっている。だから、その大元と直接闘っているアメリカのウォルマート労働者の闘いと直ちに結びついたのだ。
【〔 〕内は訳者による補足】

……………………………

4月18日、約100人のウォルマート労働者がデモ行進をした。バングラデシュの首都ダッカ近郊のタズリーン・ファッション工場の火災で死亡した112人の労働者を追悼し、タズリーン工場火災の被害者への補償とバングラデシュの労働組合との間での火災安全協定の締結を要求する要求書を携え、マンハッタンにあるウォルマート取締役のミシェル・バーンズの自宅に向かったのだ。バングラデシュのタズリーン工場火災の現場からは、若い労働者スミ・アベディンさんが参加した。
警察とビル警備員が要求書を渡すことを妨害したため、労働者たちは戸外に立ったまま、死亡者の名前を一人ひとり読み上げた。それぞれW、A、L、M、A、R、T(ウォルマート)と書かれた黒い棺の形のプラカードが夕暮れの中で掲げられた。
一本のサクソフォンが、悲しみの曲を演奏した。ニューヨークの人気バンド、ルード・メカニカル・オーケストラがこれに加わり、闘いの音楽になっていった。
工場労働者、倉庫労働者、トラック運転手など、ウォルマートのサプライチェーンすべてに渡る労働者が参加していた。デモの前のパネルディスカッションでは、ウォルマートと闘うための協力方法が模索され、互いの経験が次のように語られた。
ウォルマートは店舗スタッフを大幅に削減してきた。そのため、労働者が棚に商品を入れる時間も足りなかったり、レジの行列で30分待ちになることも続出している。
これが、あらゆる手段で利益を上げるというウォルマートの政策によって現在生じていることだ。そして、ウォルマートのサプライチェーン全体にわたって、労働条件が過酷になっている。

 ●粉塵が舞う工場

 ニューヨークの工場で働くベルナルド・エンカルナシオンさんは、「ウォルマートだけの問題ではないけれど、ウォルマートが飛びぬけてひどい。ウォルマートがうちの工場を絞り、工場が俺たちを絞っているんだ」と語った。
彼の職場では、この14年間に生産が4倍になったが、機械を操作したり、鶏を解体するスタッフの数は元のままだ。生産量を増やすために、いつもひどい圧力をかけられているという。
残業が義務化されているために、労働者は長い勤務時間を働きつづけてへとへとになる。エンカルナシオンさんは、UFCW(国際食品商業労働組合)の組合員で、ウォルマートの店舗労働者の組織化に協力している。
マサチューセッツ州グランビーの店舗で13年間働いているオブレシア・エディックさんは、去年秋の短いストライキ〔注1〕を主導した「アウア・ウォルマート」というウォルマート店舗労働者のグループの一員だ。このグループは今週、各店舗の責任者に対して、労働時間の延長を求める職場交渉闘争〔注2〕を行うことを計画している。
彼女は、「私たちが働いているからウォルトン家〔ウォルマート創業家一族〕は儲けているのに、私たちは車の中や友だちの家で寝ている状態です」と語っている。
〔注1〕12年11月22日の「ブラック・フライデー」(クリスマス前商戦最盛期)に全米各地の100店舗以上でストライキが行われた。
〔注2〕パートタイム労働者のパート時間の延長とフルタイム化を求めて、少なくとも150の店舗で職場交渉闘争を行う。
創業家一族の総資産は、アメリカの総世帯の中の下位42%の資産を全部合わせたものより大きい。
ウォルマートのサプライチェーンであるニュージャージー州の錠剤工場の労働者、レイナルダ・クルスさんは、「ウォルマートは、工場で起こることには責任を取りません。それなのにわれわれのおかげて何百万jも儲けているんです」と語った。彼女の工場は、重労働であるだけでなく、工場の空気は錠剤の粉塵でいっぱいになっていて、労働者に、皮膚障害、鼻血、目の腫れがでているという。彼女の同僚は、粉塵で喘息が悪化したために、粉塵が少ない職場への異動の希望を出したが、拒否され、結局、心臓発作を起こした。発作が起こっても、仲間が彼女を助けるために、救急車を呼ぶことも恐れなくてはならない。そんなことをすれば、会社に解雇されてしまう。
港湾トラックの運転手、ゴンサロ・チリノさんは、ニュージャージー州の港からウォルマートの倉庫まで商品を運んでいる。彼は、チームスターズ〔運転手労組〕の組織化集会に参加したことで解雇されてしまった。チームスターズの港湾部会は、全米の10万人の港湾労働者を組織化しようとしていて、チリノさんの解雇撤回闘争を支援している。彼の雇用者は、労災保険の掛け金を天引きしていたのに、労働者に労災を使わせなかった。チームスターズは、こういうやり口と闘って、やめさせることができた。

(写真 米国ツアーを行うバングラデシュ労組派遣団【4月24日、シアトルのデモに参加。前列右が火災被害者スミ・アベディンさん、左が繊維労組活動家カルポナ・アクテルさん】)

 火災被害者の発言

 バングラデシュから来たスミ・アベディンさんが発言し始めると、会場は静まり返った。
 「会社は私たちに、工場監督官が来たら何をいうのか指示しました。労働者が、出口が塞がれていて危険だと苦情を言ったら、『問題は起きない。もし事故が起こっても、会社が何とかするから大丈夫だ』と言ったのです」
 「あの日、8階建ての工場で火災が起きて、最初は、1人の労働者が階段を駆け下りて、煙が出ていると叫びました。でも管理職が、何でもないから仕事に戻れといったのです。数分後に、労働者全員が煙の臭いに気づき、パニックになって階段を駆け下りました。下りると、ゲートには鍵がかかっていました。他の出口を探しているうちに、炎がすぐそこにやってきたのです」
 「電気が消えたので、まったくの暗闇になりました。大勢の労働者が階段で押し倒され、パニックになりました。ようやく何人かの労働者が換気口を押し開いて、ビルの外に飛び降りることができました。2階からです。私は、飛び降りたら死ぬと思いました。でも、親が私の遺体を見つけることはできます。焼けて認識不可能になってしまうより良いと思ったのです。私は腕と足を折り、意識を失いました。病院で治療を受けるために、私の家族が隣近所に借金をしなければなりませんでした」
 「工場のオーナーと政府に責任がありますが、ウォルマートにも責任があります」
 アベディンさんの発言は、穏やかだが断固としていた。
 ウォルマートは、タズリーン工場の納入先の一つだ。最初、ウォルマートはタズリーンから衣服を購入していることを否定していたが、ウォルマートブランドの服が焼け跡から発見されると、「タズリーンとの取引を停止する」と言い出した。
 ウォルマートは、規模が巨大であるため、価格決定権を持っている。
 労働者権利コンソーシアムのスコット・ノバ主任は、火災後の『ネーション』誌のインタビューで、2005年以来、バングラデッシュでは700人の被服労働者が火災で死亡してきたという。
 ウォルマートやシアーズは、犠牲になった労働者への補償基金に金を出すことをずっと拒否してきた。これは、ヨーロッパの小売大手C&Aや香港の輸出企業リー&ファンが基金に拠出してきたのと対照的だ。
 アベディンさんは1200j受け取ったが、ほとんどは医療費で消えてしまった。医師によれば、彼女は煙を吸い込んだ後遺症と骨折のため、働けるようになるまでには1年以上かかると言っている。被服産業では、最低賃金は月に37jだ。
 バングラデシュの被服労働者の組合は、昨年、ウォルマートの店舗労働者のストライキに連帯してダッカ市街をデモしている。この組合は、被服のバイヤーと政府が調査しているが、工場経営者と一体になっていて違反を見逃していると批判し、火災に対する、公平な調査を要求している。組合は、すでにフィリップスバンハウゼン社との協定を獲得した。同社は、トミー・ヒルフィンガーやカルビン・クラインなどのブランドを持っている会社だ。同社の購買先の工場では、中立の調査人が調査し、調査報告書を公開すること、そして同社が火災安全性の向上の費用を支払うことを取り決めたのだ。組合は、ウォルマートに同様の協定を締結するよう求めている。
 この日集まった労働者たちの戦略は、ウォルマートの内部でも外部でも、もっと多くの労働者を団結させていくことを重点にしている。そして、会社のブランドイメージを落としていくということに力を入れるということだ。
 しかし、昨年〔10月〕のイリノイ州とカリフォルニア州の倉庫ストライキや、〔11月の〕倉庫1日ストライキが示したことは、労働者の力は、世論という場だけではなく、ウォルマート社が金儲けするその現場でこそ発揮されることを示した。
 レイナルダ・クルスさんの言葉はパワフルだ。
 「ウォルマートは強力です。しかし、われわれはもっと強力です」

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月刊『国際労働運動』(443号5-1)(2013/07/01)

■Photo News

 ●光州でパククネ政権打倒労働者大会

  (写真@)

  (写真A)

 5月17日、1980年の光州蜂起33周年を迎え、「5・18民衆抗争33周年記念全国労働者大会」が光州現地で開かれた (写真@A)。民主労総の組合員約2千人を先頭にして韓国各地から闘う労働者が結集し、全斗煥軍事独裁政権との命がけの闘いに決起して虐殺された人々の墓に黙祷を捧げるとともに、米帝と結託して労働者への搾取強化と新たな虐殺をたくらむ朴槿恵政権への激しい怒りをたたきつけた。

 ●パラキシレン生産に反対し、雲南省で大規模デモ

   (写真B)

  (写真C)

 5月16日、中国雲南省の省都昆明市で、中国石油雲南製油工場建設プロジェクトに反対する1000人を超える労働者、学生・市民のデモが行われた (写真BC)。この工場ではポリエステル繊維やPET樹脂などの生産に必要な有害物質、ラキシレンの生産が行われると見られており、雲南ではこの間、反対の声が高まり、5月4日にも大規模なデモが行われている。

 ●丸紅のロックアウトと闘うILWUの労働者

  (写真D)

  (写真E)

 伊藤忠、三井に続いて、丸紅もワシントン州のポートランド港で働くILWUローカル8の労働者75人をロックアウトした。労働者に大幅な譲歩を要求する新協定の押し付けに抗議する労働者の順法闘争を理由とした暴力的なロックアウトは5月4日から開始された。ポートランドにある丸紅の子会社・コロンビア・グレイン社で働くローカル8の労働者たちは、直ちに反撃のピケットを行い、管理職とスト破りによる穀物積み込み作業に抗議する闘いを展開している (写真DE)。6月1日には、ローカル8の呼びかけでポートランドの公園で、西海岸の全支部の港湾労働者や支持者を結集した大規模抗議集会が行われる。TPP締結を前にした日米の大資本によるILWU破壊を許さない国際連帯の闘いを今こそ実現しよう。

 ●闘いつづけるマルチ・スズキの労働者

  (写真F)

  (写真G)

 インドのマルチ・スズキの労働者の闘いも依然としてねばり強く継続されている。昨年7月18日の会社の雇った暴力団による挑発で起きた暴動事件で管理職1名が死亡し、工場が火災にあったのを契機として2300人の労働者が解雇され、147名の労働者が逮捕・投獄されているにも関わらず、マルチ・スズキの労働者の闘いは不屈に続けられている (写真F)。その闘いは他の産業の労働者にも大きな影響を与え、広範な支援陣形も形成されつつある。3月28日には、弾圧に抗議する無期限ハンストも開始されている。4月2日には、ハンストを支援する集会が数千人規模で行われている (写真G)。5月8日にも、数千人の抗議集会が行われた。闘いの発展を恐れた州当局は、5月18日と19日、2000人の機動隊を動員し、抗議行動を行っていた1500人ほどの労働者のうち120人余を逮捕した。だがこの弾圧にも屈せず、マルチ・スズキの労働者は闘い続けている。

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月刊『国際労働運動』(443号6-1)(2013/07/01)

世界経済の焦点

■世界経済の焦点

「財政の崖」―米財政危機

「崖」からずり落ち、「崖」は恒常化

 5月19日、「アメリカの債務上限問題、先送り」という記事が報じられている。アメリカの債務残高が、昨年12月に、11年に引き上げた債務上限に到達した。緊急措置や上限規定の凍結というごまかしでやってきたが、その期限が5月19日だった。記事では、歳出強制削減と税収増を理由に、債務上限引き上げ問題を9月以降に先送りするという。
 アメリカの恐慌対策が、国家破綻に行き着き、解決不能に陥っている。それを昨年以来の「財政の崖」を中心に見ていきたい。

 □「財政の崖」は恐慌対策がつくり出した

 大恐慌の震源地・米国は、オバマ景気対策8千億jやブッシュ減税の延長などの恐慌対策で、財政赤字を膨大に膨らませた。11年5月には、債務残高が法定上限(14兆3千億j)に達した。米国債のデフォルトが言われ、S&P(米格付け機関・スタンダード&プアーズ)は国債格付けの引き下げを行った。この事態に対して、予算管理法が作られ、債務上限を16兆4千億jに引き上げるとともに、向こう10年間で最小2兆1千億jから最大2兆4千億jの歳出削減を定めた。債務上限の引き上げと歳出削減を連動させたのだ。このうち、9千億jの削減は大統領の裁量で、残りの1兆2千億jから最大1兆5千億jについては、議会が財政削減法を制定するとした。期限までに制定できない場合、10年間で1兆2千億jの歳出を強制削減する、というものだ。
 ところが、議会では、富裕層の増税か社会保障削減かという財政削減のやり方をめぐる与野党の対立が厳しく、期限までに財政削減法の制定ができなかった。その結果、13年から歳出の強制削減が発動されることになった。
 他方で、延長してきたブッシュ減税などの大型減税が12年末で失効する。この減税失効と歳出強制削減が重なり、そのままなら、13年は冒頭から6千億j規模の財政削減となり、米経済は崖から転がり落ち、GDP(国内総生産)成長率を0・5%押し下げ、失業率は7・7%が9%に跳ね上がる。これを「財政の崖」と呼び、12年の年末までにアメリカはどうするのか、全世界が震撼していた。
米議会は、上院では民主党が多数派、下院は共和党が多数派である。富裕層の増税を主張する民主党と社会保障削減を主張する共和党の対立の厳しさは、大恐慌の下での階級矛盾の激化を背景としている。「決められない」政治が延々と繰り返され、昨年11月6日に大統領選挙と両院議会改選に突入した。

 □「財政の崖」からずり落ち出した

 大統領選はオバマ再選となり、議会改選は、上院多数派は民主党、下院多数派は共和党となり、議会のねじれ≠ヘ今後も続くことになった。
 再選されたオバマ大統領の前には、財政の三つの難問が横たわっていた。
 @年末年始の減税失効と歳出強制削減という、いわゆる「財政の崖」。
 A11年に引き上げた債務上限に、累積債務が再び達しつつある債務上限問題。
 B暫定予算が13年3月27日に期限切れとなること。
 オバマは、昨年11月9日のホワイトハウスの演説で、「財政の崖」をめぐる議会との協議に入ると宣言した。
 オバマの案は、減税失効に対して、年収25万jを下回る世帯の減税と富裕層の減税打ち切りで歳入増を図るというもの。共和党は当初、増税を一切認めない態度だったが、交渉の中で一定譲歩し、年収100万j以下の減税継続を主張。富裕層増税の民主党と増税反対の共和党は、激しく対立し協議は難航した。
 大統領は、クリスマス前の決着をめざし共和党ベイナー下院議長と交渉し、減税を年収40万j以下と譲歩したが決裂した。12月28日からは、大統領と民主・共和の両院幹部と協議、減税問題で歩み寄りつつ、強制削減の回避をめぐって双方の主張が激突した。オバマは交渉が決裂しても大統領案の賛否を問う手続きをも提案した。12月30日には副大統領も乗り込んだが、結局31日にもつれ込んだ。31日になって、「年収40万j以上の個人、45万j以上の世帯には増税」ということでぎりぎり合意した。
 この合意案を、年明けの未明に上院が可決(89対8)、1月1日の深夜には下院が可決した。共和党のかなりの議員が反対・異議を表明したが、257対167だった。翌2日に大統領が署名し成立した。ただし、2日から始まるとされた歳出強制削減(総額1100億j)は、2カ月間、凍結するとなった。
 この合意内容では、歳入増加額は10年間で6千億j程度で、過去10年間では最大の歳入増だ。しかし、大統領の当初案1兆6千億jの4割、「財政の崖」で想定された全世帯の減税失効による歳入増加の2割に過ぎない。また、富裕層増税と給与税減税打ち切りにより、13年度は1400億j程度(GDPの0・9%)の緊縮財政が実地されることになった。
 2カ月の凍結となった歳出強制削減は、その後3月1日から実施されることとなった。予算管理法から1年間以上、何も決められないままの強制削減突入である。
 オバマは3月1日、歳出強制削減を回避するよう議会に呼び掛けたが、協議は決裂。結局、強制削減を発動する大統領令に署名した。そこで明らかにされた強制削減の影響は重大だ。教育予算の削減で教職員2万4千人、科学研究費の削減で研究者など1万2千人が失職する恐れがある。中小企業支援や貿易振興費も減り、「中間層の雇用」が重大な打撃を受ける。低所得者向け社会保障費が大きく削られ、食料支援が滞り、12万5千世帯が家を失う恐れがあるという。
 強制削減は、13会計年度(12年10月〜13年9月)から21年度にかけて1・2兆j、13年度分は850億jだ。 この歳出強制削減発動で、国防費は13%、それ以外は9%の削減となり、13年度のGDP成長率が0・6ポイント押し下げられ、75万人の雇用が奪われると見られている。
 新聞などは、「財政の崖」をめぐる動向を「ひとまず回避」と言っているが、実際は「崖からのずり落ち」というべきものだ。次に見る債務上限問題や暫定予算問題と併せて見るならば、「崖」が恒常化し、「ずり落ち」が恒常化していくというべきだ。

 □債務上限も暫定予算も9月に先送り

 次に債務上限問題だが、そもそも「財政の崖」の発端は2年前の債務上限問題だ。それから500日を経て、債務残高が、再び債務上限に達した。当面、財務相は緊急措置として2千億jで対応し、デフォルト等を避けてきたが、13年の2月にはそれも期限が切れるという問題だ。
 報道では、米議会下院が、1月23日、連邦債務上限を5月19日まで停止する緊急の法案を可決し、その後、上院の採決と大統領の署名(2月4日)を経て、同法が成立した。それは、5月19日までは、政府が上限を超えて国債発行などで必要な資金を調達することができるとするものである。
 その期限である5月19日を迎えると、歳出強制削減と歳入増を理由に問題を9月まで先送りするという。まさに先送りに次ぐ先送り。9月にはまた再燃する。
 さらに、3月27日には、暫定予算が失効し、そのまま推移すれば、米政府機関が閉鎖される事態に至る問題だ。
 報道では、3月21日に、米下院本会議が、13会計年度の暫定予算を年度末(9月)まで延長する法案を可決。上院の可決を受けて大統領が署名し成立と報道されている。
 13年度の850億jの強制削減は継続するが、国防や一部政府支出に裁量を認め、国民生活への打撃を和らげるとしている。
 それにしても、暫定予算のままで年度末とは。アメリカ帝国主義の危機は深い。

 □オバマの予算教書は階級戦争宣言だ

 大恐慌に対する資本救済の財政出動は、政府の財政赤字を、リーマン・ショック前の数倍に膨張させ、4年連続1兆jを超える財政赤字を積み重ねてきた。政府の累積債務が膨れあがり、2年間に二度の債務上限問題を引き起こし、問題を先延ばしている。
 12年の累積債務のGDP比は108・6%だ。60%を超えないのが望ましく、80%を超えないことが財政再建の目安とされる。米国でも、07年までは、70%以下であった。アメリカ国債は、アメリカ国家そのものの信認に関わり、ドルの信認に関わる。米国債の信認が失われる時、世界経済は本当の崩壊に向かう。
 オバマ大統領は4月10日、3兆7700億j規模の14会計年度の予算教書を議会に提出した。そのなかで、富裕層増税や社会保障費の抑制を通して、新たに、財政赤字を10年かけて、1兆8000億j削減するという。これまでの2兆5000億jの赤字削減を加えると4兆j超の赤字削減だ。
 16兆jを超える累積債務をGDPの80%に抑えるには、数字的にはこうなるが。10年で、財政赤字を4兆j削減するとはどういうことか。とてつもない賃金破壊・雇用破壊・社会保障破壊と大増税ということだ。共和党の反対で議会を通過する可能性は低いといわれているが、その共和党が多数を握る下院予算決議も10年で4兆j規模の赤字削減となっている。オバマの予算教書も議会の予算決議もアメリカ労働者階級への階級戦争宣言だ。
 2年近くにわたって、国家財政という最重要の課題で何一つ決められず、迷走し問題の繰り延べに終始し、アメリカ政治危機も限界に達しつつある。階級対立の非和解性の激化が根底を規定している。 生きられない現実からの反乱が、青年労働者、公務員労働者を先頭に開始され、他方では、「労動の権利法」なる労働組合を敵視する法律がミシガン州で導入されたりしている。階級対立の非和解性が激化し、動と反動が激突し、階級的な分岐が進み、労働者の団結をめぐる決戦が引き寄せられている。闘うアメリカ労働者との連帯が決定的となっている。

 □アベノミクスで崩壊に向かう日本経済

 歳出の強制削減が防衛費の13%削減となり、アラスカでの軍事演習「レッドフラッグ」が中止になり、兵器整備要員75万人の一時帰休などが検討されている。ヘイリ国防次官は、「米軍の即応能力に深刻な影響が出る」と警告している。しかし、防衛費の削減で大きな矛盾を抱えれば抱えるほど、それは、アメリカの新軍事戦略と日米安保の強化に向かう。
アメリカの累積債務がGDPの100%を超え、国家信認、ドル信認の問題となって財政削減に乗り出した途端、「財政の崖」となり、「崖」からズルズルとずり落ちながら、「崖」が恒常化し、奈落に落ちていく状態だ。
ひるがえって、「アベノミクス」の日本帝国主義はどうか。その累積赤字はついにGDPの200%、途方もないことだ。しかも財政規律は何もない。日本で国債暴落が起こったら、日本経済は万事休す。その国債の金利が上がり始めた。
米「財政の崖」をめぐり、あまりにも報道が少ない。途方もない日本の債務残高に、問題が跳ね返るのを恐れているかのようだ。「アベノミクス」の破産は日本帝国主義の総破産だ。彼らは賃金破壊・雇用破壊、改憲と戦争で乗り切ろうとしている。「アベノミクス」と対決し、階級的労働運動の発展をかちとり、改憲・戦争の安倍政権を倒そう。
(富田五郎)

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 〈民主・共和の合意内容〉

@年収45万j以下の世帯(個人は40万j以下)への所得減税の延長。年収45万j超の世帯の税率は35%から39.6%に

A年収45万j超(個人は40万j超)のキャピタルゲイン・配当所得に対する税率15%から20%に。45万j以下は15%に据え置き

B世帯の所得税の税控除上限25万j(個人20万j)の復活

C遺産税の税率35%から40%。非課税上限は世帯遺産1000万j超

D社会保障税の税率を4.2%から6.2%(1年限定の減税の失効)

E失業保険給付の期間延長(1年間)

F13年1月2日からの歳出の強制削減(総額1100億j)のうち2カ月を凍結

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月刊『国際労働運動』(443号7-1)(2013/07/01)

世界の労働組合

■世界の労働組合 韓国編

全国教職員労働組合

 韓国の全国教職員労働組合(全教組)は、幼稚園、初・中等学校の教員を組織対象とした民主労総傘下の労働組合。組合員数は約6万人。

 ■全教組結成の前史

 1960年4・19革命の約1カ月後に結成された韓国教員労働組合は、教員の労働権保障を掲げ、御用組織である大韓教連からの脱退運動を展開した。だが1961年5・16軍事クーデターで政権を握った朴正煕(パクチョンヒ)は、教員労組を強制的に解散させ、以後、教員の労働組合結成は禁止された。
1987年労働者大闘争のさなかの9月、前年5月に「教育民主化宣言」を発した教員が中心となり、全教組の前身となる「民主教育推進全国教師協議会」(全教協)を発足させ、本格的な教員団体の活動を開始する。
89年3月、6級以下の公務員(1級が最高)について団結権と団体交渉権を認める内容の労働組合法改正案が国会を通過したが、当時の盧泰愚大統領が拒否権を行使したため、全教協は労働組合結成を強行することを決議した。

(写真 全教組結成大会【89年5月28日 延世大学】)

 ■全教組結成から合法化へ

 89年5月28日、延世(ヨンセ)大学で全国教職員労働組合の創立が宣言された。政府は戦闘警察を動員して弾圧に乗り出し、多くの組合員が負傷し、参加者全員が警察に連行された。その後、政府・文教部は組合員の解職を決定し、翌年11月、全教組脱退を拒否し抜いた1524名が解職(罷免、解任、職権免職)された。
 93年10月、金泳三(キムヨンナム)大統領が、全教組脱退を条件とした復職案を提示する。全教組指導部は、「学校に戻り教育改革を実現し、全教組合法化の先頭に立つための苦渋の選択」としてこれを受け入れ、1294名が教壇に復帰した。一方、66名が復職申請を拒否した。
 98年、大統領就任を控えた金大中当選者のもと、IMF合意履行のために作られた労使政委員会が、「労使和合」の一環として全教組の合法化で合意し(2月)、99年1月、「教員の労働組合設立および運営などに関する法律」が国会を通過する。これを受けて全教組は同年7月1日、労働部に設立申告書を提出し、合法化された。

 ■全教組の活動内容

 全教組は「民族・民主・人間化教育」に向けた「真の教育」の実現を活動理念に掲げている。これは、軍事独裁政権による南北分断固定化と北朝鮮敵視政策、民主化圧殺体制のもとで、生徒を、共同体的生き方を実現する主体として育てるのではなく、利己的かつ順応的な人間に作り上げるために教育が行われ、結果として教育労働者が政権維持の手先とされてきた歴史に対する痛苦のとらえ返しに基づく。
もとより全教組は、労働組合として労働条件の改善に取り組むが、活動の重心は、教育環境の改善(競争と統制本位の教育政策に対する法制定・改正要求や政策開発など)や教育実践(現場の研究実践成果を持ち寄り毎年開催される「真の教育実践大会」など)の面に置かれている。
また、イラク戦争や韓米FTA、日本政府による歴史教科書歪曲、独島領有権主張などに反対する闘いにも積極的に取り組んでいる。
一方、新自由主義的な「保護者=消費者」論にもとづき2010年の新学期(3月)に導入された教員評価制をめぐっては、組合内部の反対意見を抑えて指導部が「6者協議会」への参加を決定するなど、有効な闘争を組めずにその施行を許してしまった。

(写真 教員評価制阻止と成果給撤廃を掲げて年休闘争に突入した全教組組合員【07年11月22日 ソウル】)

 ■全教組非合法化との闘い

 2003年に始まる盧武鉉(ノムヒョン)政権は、全教組出身者を相次いで大統領府官僚に起用するなど懐柔策をとるが、2008年に始まる李明博(イミョンバク)政権下で全教組に対する弾圧が再び強まり、時局宣言や政党後援(ともに公務員の政治的中立違反を問われた)、全国一斉学力試験阻止闘争などに対して、組合合法化以降、最大の懲戒が行われ、多数の教員が解職された。さらには、解職者の組合員資格を認めないよう規約改正命令が出され、それが飲めなければ全教組を非合法化するとする攻撃が開始された。
 こうした中、2012年12月の全教組委員長選挙で、それまでの「無気力な全教組」をつくった執行部(現場の一斉学力試験阻止闘争に制動をかけるなどした)を批判し、新自由主義教育政策に反対して立候補したキムジョンフン委員長が当選した。新執行部のもとで今年2月に開かれた全国代議員大会では、規約改正命令を阻止するための総力闘争方針が決定された。
 2月に成立した朴槿恵(パククネ)政権は、4月になって李明博政権の規約改正要求を引き継ぐことを明確にし、雇用労働部が全教組を刑事告発するなど、全教組非合法化攻撃との対決が当面の最大の闘いとなっている。

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月刊『国際労働運動』(443号8-1)(2013/07/01)

国際労働運動の暦

■国際労働運動の暦 7月23日

■1918年米騒動■

寺内内閣倒した大騒乱

米不足、米価急騰に対する富山の

女性の決起が全国津々浦々に拡大

(写真 米騒動で焼き打ちにされた岡山の精米所【1918年8月】)

 ▼ロシア革命の波及

 1917年ロシア10月革命の衝撃は、全世界に広がった。アジアにおける朝鮮の3・1独立運動、中国の5・4運動は「労働者階級が蜂起して支配階級を打倒」したロシア革命によって突き動かされた運動であった。日本の米騒動もその中に位置づけられる。
 ロシア革命に驚愕・恐怖した国際帝国主義の反革命干渉戦争の一翼として日本帝国主義はシベリア出兵を強行した。日本への波及を阻止するとともに、それを突破口に大陸侵略の道を開こうという意図があった。
 数年来の米価の高騰があった上に、シベリア出兵を見込んで米商人や地主が米の買い占め、売り惜しみに走った。それによって、米不足、米価の急騰に拍車がかかった。第1次大戦への日本の参戦で「戦争成金」が現れる一方で、労働者人民は米価の高騰と貧富の格差の拡大で、不満と怒りが蓄積していった。
 発端は、富山県の漁村の女性たちだった。漁民の夫たちは、みな遠洋漁業で不在のため、妻たちがそれぞれ家を支えていた。191
8年7月23日、富山県下新川郡魚津町(現魚津市)の女性数十人が、米価高騰防止のため、米の県外への船積み中止を荷主に要求しようと海岸に集まった。これ以上米価が値上がりしたら餓死してしまう、という切迫した危機感と怒りで集団的な実力闘争に立ち上がったのである。
 続いて8月4日には、西水橋町(現富山市)で米の安売りを求めて大衆的な闘いが暴動化し、2000人の大集団が米屋や豪農の家を襲った。翌5日、「越中の女一揆」と言われたこの決起が全国に報道された。それは、米価高騰で生きていけないという全国共通の不満、怒りがあったことを示している。報道が闘いを拡大していることに焦った政府は8月15日以降、米騒動に関する一切の報道を禁止した。
 米騒動のパターンは、大衆的に大会を開き、要求をまとめ、米屋や富豪の家に押しかけて米を要求する、米を奪う、店を破壊するというものだった。「台所より来る圧迫は忍耐の余地がない」と新聞は書いた。まさに「生きさせろ」の実力行動だった。

 ▼空前の軍との衝突

 

青森、岩手、秋田などわずかの県を除く文字通り全国的な騒擾になった。全国121地点に軍隊が出動、総兵力10万人を超えた。死者30人、2万5千人が逮捕され、起訴7786人、死刑2人、無期懲役12人。被差別部落大衆が多数決起し弾圧も部落民に集中した。これほど大量の軍隊出動と民衆鎮圧は空前絶後だ。
米騒動の担い手は、農民、漁民、工場労働者、港湾労働者、日雇い労働者、炭鉱労働者など、働く人びと全体にわたっていた。最終段階では、山口県宇部炭鉱で米騒動に伴う罷業(ストライキ)が暴動化し、軍隊が出動するにいたり、13人の死者を出している。また九州の三井三池万田坑の炭鉱労働者が検炭の不満から暴動となり、軍隊出動と闘っている。これらのことは、労働者階級の階級的団結と組織的闘いが決定的な意味を持っていることを教えている。
米騒動に対して時の首相・寺内正毅は軍隊出動以外なすすべがなく、ついに辞任に追い込まれる。陸軍大臣9年の中で初代朝鮮総督になり「武断統治」の悪辣な植民地支配を行った寺内は、シベリア出兵に見られるとおり、革命を恐怖し、武力で民衆の闘いを押しつぶすことに躍起になったが、結局、米騒動で打倒された。近現代日本史で、人民の大衆的闘いで打倒されたのは、米騒動での寺内と60年安保闘争での岸信介の2人である。
米騒動自体は、特定の指導部もなく、自然発生的な展開を遂げた。したがって、それが直ちに革命に結びつくものでもなかった。だが、米騒動は1910年の大逆事件で封じ込められたかにみえた日本の労働運動、民衆運動の興隆ののろしでもあった。これ以後、一気に革命的な闘いが高まっていった。

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 1918年米騒動関連日誌

7・ 6 米価暴騰で大阪堂島米穀取引所後場立会停止
7・18 農商務省、大阪堂島米穀取引所に米価暴騰のため定期取引無期停止命令
7・23 富山県の主婦ら、米の県外への船積み中止を要求しようとして集合
7・29 米価天井知らずの勢いで暴騰を続ける
7・31 米価大暴騰で市場大混乱に陥り東京米穀取引所立会停止
8・ 2 日本政府、シベリア出兵を宣言
8・ 4 富山で闘いが暴動化
8・10 米騒動、全国に拡大
8・14 米騒動に関する記事の差し止め命令
8・17 山口県宇部炭鉱などで米騒動に伴う罷業暴動化し軍隊出動、死者13人
9・ 4 三井三池炭鉱で暴動、軍隊が出動して鎮圧
9・21 寺内首相、辞表提出
9・29 政友会総裁の原敬内閣成立

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月刊『国際労働運動』(443号9-1)(2013/07/01)

日誌

■日誌 2013 4月

1日埼玉 動労連帯高崎、清掃業務追加を阻止
動労連帯高崎と動労千葉を支援する会・熊谷の主催で、「偽装請負・違法出向弾劾、外注化阻止!籠原駅前抗議行動」が行われた
1日大阪 動労西日本、新採に組合加入訴え
動労西日本と支援は、入社式に参加するJR西日本の新入社員労働者に動労西日本への加入を訴える宣伝行動を20人でやり抜いた
1日福岡 博多駅でJR九州本社に抗議闘争
国鉄闘争全国運動・九州の仲間たちとともにJR博多駅前でJR九州本社弾劾行動を行った
3日東京 法大入学式、新入生が処分に怒り
法政大入学式に法大文化連盟と全学連は登場し、圧倒的な情宣を貫徹した
5日東京 官邸前行動、政府と規制委に怒り
金曜行動がますます熱を帯び広範な人びとの参加で闘い抜かれている
5日千葉 青年に4・26自治体スト貫徹訴え
ちば合同労組は、柏市役所で新年度第1波のビラまきを行った
6日東京 救援連絡センター総会
救援連絡センター第9回定期総会が渋谷区立勤労福祉会館で行われた。救援会の人びと、治安弾圧と闘う人、多くの弁護士ら70人が結集した
6〜7日青森 「反核燃の日」、連続闘争
「4・9反核燃の日」が青森市内と六ケ所現地で闘われた。6日、青森市文化会館でNAZEN青森結成1周年集会が開催された。午後に労組動員を軸に1236人の結集で2013年「4・9反核燃の日」全国集会が開かれた。翌7日、六ケ所再処理工場門前で抗議集会が行われた。全体集会は自治労の大部隊も含め300人の結集で闘われた
7日大阪 4・7関西郵政春闘集会
大阪市内で関西郵政春闘集会がかちとられ、現場労働者を先頭に40人が結集した
9日東京 星野学習会で全証拠開示の重要性確信
弁護士会館で星野再審・全証拠開示大運動第2回学習会が開かれた。講師は関東学院大学の宮本弘典教授。全証拠開示運動の広がりを示した
12日東京 動労千葉、貨物賃下げ許さない集会
動労千葉新小岩地域班の闘争報告集会が葛飾区内で開かれた
12日東京 公務労協中央集会に6000人
公務労協主催の春闘集会は、5千人の動員枠を上回る6千人を超える結集でかちとられた
12日東京 経産省前テント、「明渡提訴」に抗議
経済産業省正門前で「経産省によるテント明け渡し訴訟を撤去せよ!」と題する緊急の抗議集会(主催・経産省前テントひろば)が開催された
12日東京 50回目の官邸・国会前行動
テント前行動に続き首相官邸・国会前での金曜行動が行われた。今回で50回目
12日東京 星野面会手紙国賠、事実調べを行え
東京地裁民事第38部(谷口豊裁判長)において、面会・手紙国賠第7回裁判が開かれた。代わった谷口裁判長は、早期結審を行う意向を示した
14日神奈川 労働組合の団結で入管法と闘う=u国際連帯の発展で新自由主義を打ち破ろう」をメインスローガンに第24回外登法・入管法と民族差別を撃つ全国研究交流集会が全国実行委員会の主催で開かれた。会場の横浜市鶴見公会堂には在日・滞日外国人を先頭に450人が集まった
14日大阪 動労西日本 四条畷駅でストライキ
動労西日本の中西剛組合員が大阪府の四条畷(しじょうなわて)駅でストライキに突入した
15日東京 自治労本部が全国統一スト指令
自治労は、中央闘争委員長名で「(全単組は)4月26日に始業時より上限1時間ストライキを実施せよ」とする統一闘争指令を発した
17日東京 法大暴処法控訴審、橋本証人を弾劾
法大「暴処法」弾圧裁判第2回公判が、東京高裁第12刑事部(井上弘通裁判長)で開かれた。証人として橋本正次が出廷。弁護団と被告団が怒りの反対尋問をたたきつけた
17日京都 京都大学 新歓講演会が大成功
京都大学で「大学奪還学生行動」の主催する新歓講演会が、30人を超える学生の結集で大成功した
18日 国鉄全国運動、第1回実行委員会を開催
国鉄闘争全国運動6・9全国集会の第1回実行委員会が4月18日、都内で開催された
19日茨城 動労水戸損賠訴訟、逃げるJR追撃
動労水戸不当労働行為粉砕裁判の第7回口頭弁論が、水戸地裁民事第1部(脇博人裁判長)で開かれた
19日東京 金曜行動 原発なくすまで闘う
首相官邸・国会前などで金曜行動が行われた
19日東京 首都新歓で山本太郎さん「決断」語る
首都圏学生の新入生歓迎企画として、俳優の山本太郎さんと森川文人弁護士を招き、「山本太郎さんと語ろう 4・19トークセッション」を行った
19日広島 広島大新歓 自治会の再建へ前進
新入生歓迎講演会「フクシマから大学を問う」を福島から佐藤幸子さんを招き、開催した。学生自治会準備会の百武拓代表が「広大に学生自治会をつくろう!」と提起した
20日東京 NAZEN杉並 高円寺の街をデモ
雨の中、NAZEN杉並の仲間が解放感あふれるデモで高円寺の街を席巻
20日兵庫 尼崎闘争、事故居直るJR西に怒り
尼崎事故から8年目の事故弾劾闘争がJR尼崎駅北口広場で闘われた。国鉄労働者を先頭に全国から400人が結集し、外注化・非正規職化阻止の第2ラウンドの決戦そのものとして打ち抜かれた
21日大阪 全世界の労働者と共に闘う¥W会
第22回「外登法・入管法と民族差別を撃つ関西交流集会」が大阪市立浪速区民センターで開かれ、310人が結集した
21日東京 全証拠開示を!4・21星野解放集会 杉並で「星野解放集会」が開かれ、翌日の高裁デモと一体となり、星野さん奪還を闘った
22日東京 星野再審へ高裁デモ
星野さんをとり戻そう!全国再審連絡会議が呼びかけた東京高裁包囲デモが130人で闘われた
23日富山 富山大新歓、中嶌哲演さん講演
富山大学新入生歓迎講演会が学生自治会、NAZEN北陸の共催で行われた。中嶌(なかじま)哲演さんの特別講演が行われた
24日京都 京大、今中哲二さんの講演会に100人
京都大学で原発問題に関する講演会が開催され、新入生を含む100人もの学生が参加した。京都大学原子炉実験所の今中哲二さんが講演した
25日東京 4・25法大解放闘争、6学友不当逮捕
法政大学文化連盟が呼びかけ「不当処分撤回! 大学の主人公は学生だ! 4・25法大解放総決起集会&法大包囲デモ」が闘われた。法大当局は、朝から正門前を封鎖し、中央広場を立ち入り禁止とした。武田君は「正門を開けろ!」と要求、さらに学内から鈴なりになって正門前に注目している多くの法大生に「一緒にデモに行こう!」と呼びかけた。追いつめられた法大当局は、国家権力との意思疎通のもと、武田君らを警察に売り渡した。警視庁・国家権力は斎藤郁真全学連委員長、武田雄飛丸文化連盟委員長をはじめ6人の学友を不当逮捕する大弾圧を強行した。また同日午後、学生の個人宅をはじめ全国で一斉に家宅捜索を行った
25日大阪 動労西日本、外注先で第2波スト
尼崎事故8周年にあたる日、動労西日本はJR西日本大阪支社のレールテックで「尼崎事故弾劾! 外注化・非正規化粉砕!」を掲げてストライキを打ち抜いた
26日埼玉 ショーワ・ジェコー行動
行田市富士見工業団地のホンダ系部品メーカー・ショーワ本社工場前で、派遣労働者として働き09年に解雇された一般合同労組さいたまユニオン組合員の怒りの声が響き渡った
26日宮城 東北大新入生歓迎集会が大成功
東北大学学生自治会は、「二年後の福島――母親と医師が語る現実と希望」と題する新歓講演会を開催した
26日沖縄 沖縄大、元全軍労労働者が講演
新入生を迎えて元米軍基地労働者の水島満久さんと全学連の坂野陽平書記長の講演会が成功した
26日東京 官邸前行動、原発を輸出するな!
反原発金曜行動が取り組まれた
26日 4・26自治労スト、労働組合再生へ突破口
4・26全国統一行動は、全国の闘いとなった
●仙台 仙台市職労の仲間は市役所本庁舎で100人が結集する早朝集会をかちとった
●愛媛 愛媛県職労は、県庁前での早朝集会と全庁舎・主要職場ビラまきを行った
●横浜 労組交流センター自治体労働者部会の仲間は始業時から1時間ストを打ち抜く決意を固めた。そして4・26当日福祉職場で働く仲間とともに始業時からの1時間のストに決起した。
●埼玉 加須(かぞ)市職では、通用口に組合旗が立てられ、組合員が次々集まり、20人余りがビラをまき集会を行った。越谷市職は「地方公務員賃金削減反対! 4・26全国統一行動」という大きな幕を庁舎の壁に張り出し、青年を先頭に十数人が決起した
●倉敷 自治労倉敷では、8時から「7・8%削減反対総決起集会」がもたれ、組合員と地域の労働者が参加した
●大阪 大阪市職では、早朝の職場集会が各地で開催された。4・26ストライキに向けて、激しい怒りの声が大阪市職本部に対してたたきつけられた。
●東京 江戸川区を始め宣伝行動が取り組まれ、東京北部では精研労組、東京西部ユニオン鈴木コンクリート工業分会など地域の労組がともに区役所前でビラまきを行った
●北海道、新潟、栃木、茨城、千葉、長野、静岡、愛知、京都、滋賀、奈良、兵庫、広島、徳島、福岡、沖縄をはじめ自治体労働者を先頭とする全国・全産別の総決起の闘いとなった
28日東京 4・28集会 安倍の改憲策動と対決
板橋区のハイライフプラザいたばしホールで、「『主権回復の日・政府式典』反対!/福島・沖縄の怒りとつながり、国際連帯で改憲と戦争を阻もう 4・28全国集会」が開催され、会場を埋める420人が結集した

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月刊『国際労働運動』(443号A-1)(2013/07/01)

編集後記

■編集後記

 5月23日、東京債券市場では、長期金利の指標となる新発10年物国債の流通利回りがついに1・000%まで急騰(国債価格は急落)、日経平均株価はITバブル崩壊以来の13年ぶりの大暴落となった(1143円!)。黒田は意気消沈し、長期金利は「完全にコントロールできるものではない」などと無責任にうそぶいている。
 黒田日銀は低金利資金を1年間貸し出す固定金利オペ(公開市場操作)や国債買入の回数を小刻みに増やすなど、長期金利上昇の抑え込みに必死だ。だが「アベノミクス」と超金融緩和の破綻と崩壊を結局どうすることもできない。「アベノミクス」は大失敗したのだ。
 破綻と崩壊を開始した安倍政権と徹底対決し、安倍へのすべての怒りを結集して、7月参院選を待たずに安倍政権を打倒しよう。

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