2008年11月 3日

さあ裁判員制度は廃止だ! 対談 佐藤和利弁護士 高島章弁護士

週刊『前進』08頁(2366号7面1)(2008/11/03)

さあ裁判員制度は廃止だ!
 11月全国一斉行動へ
 対談 佐藤和利弁護士 高島章弁護士
 治安と戦争へ国民動員狙う 佐藤
 高島 権力の一翼担えということ

 裁判員制度を廃止する時が来た。最高裁は、裁判員候補者に通知書の送付を今月末から始める。だが、裁判員制度反対の労働者民衆の声は増すばかりだ。絶対廃止できる——「裁判員制度はいらない!大運動」は11月一斉行動を全国に呼びかけている。中心で闘う佐藤和利弁護士と高島章弁護士に、制度廃止へ意気込みを語ってもらった。(聞き手・編集局)

 第1章 廃止訴え11・22に集会・デモ 佐藤

——11月、裁判員候補者名簿に載ったという通知が始まります。「裁判員制度はいらない!大運動」は11月一斉行動を呼びかけていますね。
 佐藤 全国でいろいろな層の方がいろいろな形で取り組んでいます。ホームページやビラを見て私たちの事務所に連絡してきて、自分たちで企画するのが、この運動の特徴です。講演・学習会の依頼は多い。労働組合で昼休みの休憩時間を利用した学習会に呼ばれました。町内会でもやりました。
 街頭でビラをまいていますが、いろいろな方が怒っている。群馬や相模原のシール投票でも明確に反対の方が圧倒的に多い。事務所にも毎日電話がある。「裁判員は絶対にやらない」「力を合わせたい」。怒り、怒りです。裁判員制度廃止のチャンスです。11月一斉行動は全国約20カ所でやります。
 1500人が結集した6月13日の集会に続く大行動は、11月22日の東京大行動です。今回は集会後、銀座デモをやります。絶対廃止をデモでアピールすることに力点をおいています。
 高島 新潟でも11月29日にデモをやります。新潟は検察庁と地裁の間がちょうど繁華街なんですよ。東京でいうと新宿に相当する道を歩く。シュプレヒコールを裁判所と検察庁の前でやろうと思っています。
——裁判員の選定ですが、第1段階では裁判員候補者に選ばれると今年11月28日からその通知と調査票が最高裁から送られてきます。「親展」「重要」などという赤スタンプが押されたまさに最高裁発の赤紙です。第2段階では、裁判の6週間前に、事件ごとにくじで選ばれた裁判員候補者約50人に質問票と呼出状が届き裁判所に招集されます。第3段階では、裁判当日に選任手続きを経て6人の裁判員が選ばれることになります。
 佐藤 今年12月、裁判員候補者名簿搭載の通知が届いたら、とにかく「大運動」の事務局に知らせてほしい。勝手に候補者にしてしまったことへの抗議の意志表示を運動体としてまとめてやります。
——調査票提出を拒否したら罰則はありますか?
 佐藤 この段階ではないんですよ。何もありません。

 第2章 実施が迫っても8割が反対 高島

——裁判員裁判は、具体的にはどんなものになるのですか。
 佐藤 裁判開始6週間前になると、質問票と同時に裁判所に来てくれと呼び出しがかかる。そこで裁判官から、裁判当日3日間から4日間空けろと言われる。
 裁判初日の午前中、面談で裁判員になるかどうかということを聞かれ、午後には裁判が始まってしまう。次の日の丸1日と3日目の午前中審議して、午後は評議。有罪か無罪か。量刑をどうするか。死刑か無期懲役か。重罰事件対象の裁判ですから。結局、正味2日間の審議です。
 公判前整理手続きというのがありまして、裁判官、検察官、弁護士で争点を決め、法廷で調べる証拠も証人も決めてしまいます。それで判断せよと。テレビドラマで判断するようなものじゃないですか。
 高島 裁判員裁判はまさに3日間の儀式になるということです。公判前整理手続きの後に、公判で新たに証拠を出すことはできません。裁判というのは、例えば、ある証人が法廷でしゃべったことがウソじゃないか、と後になって調べて分かることもあるわけです。でもそういった証拠は出せなくなるんです。
 あと根本的に言うならば、一つは被告人が裁判員裁判を選択するかどうかの辞退権がない、もう一つは裁判員にも辞退権がない、とんでもない制度だということです。 
——裁判員制度をめぐる情勢は激しく動いていますね。
 佐藤 9月末ごろから制度推進派が激しいキャンペーンに入っています。法曹三者(裁判所、検察庁、日弁連)です。最高裁は宣伝費用に何十億円もかけてテレビ宣伝すると言っている。最高裁長官には裁判員制度推進の竹崎氏が就任する。竹崎氏は最高裁判事ではなく高裁長官なのですが、いきなり現役最高裁判事14人抜きの異例の人事です。日弁連の宮崎会長は、10月22日の日弁連代議員会で「日弁連として全政党に実施を遅らせないようにと回ってきた」と。その前も検事総長が経団連の御手洗会長と会ったりしている。この間、すごい動きですよ。
 高島 推進派は相当、危機感をもっていますね。総選挙にも影響が出てくる。来年5月21日の実施まであと7カ月を切ったにもかかわらず国民の8割以上が反対しているわけですから。
——政党の動向はどうですか。
 高島 政党は国会の全会一致で裁判員制度導入に賛成しました。いわゆる革新勢力と言われる人たちが裁判員制度に賛成したのは、官僚司法の打破、司法の民主化、冤罪防止という非常に口当たりのいい錦の御旗に巻き込まれた。全会一致というのは、要するに、よく議論しなかったということです。それでここ1年くらいで「なんでこんな悪法を通してしまったのだろう」と議員が驚いているわけです。
 裁判員制度をテーマにした「朝まで生テレビ」(6月放映)で福島瑞穂社民党党首が出演して(高島弁護士も出演)、矛盾を追及され、党内一致もないままその場で「制度を見直す」と表明するほどでした。それで8月に公式に社民党も共産党も制度延期を表明した。
 佐藤 それもこの9月でまた変わった。日弁連、連合、経団連、最高検などの圧力でしょう。
 司法の民主化と言われていますが、一番大事なことは被告人の防御権を制度的に保障しながら真実を明らかにすることです。「殺せ、殺せ」と、時代の気分で死刑判決を出すことじゃない。裁判員制度は9人のうち5人が「死刑」と言えば、死刑が決まる。多数決で魔女裁判になっちゃう。

 第3章 労働者と一緒に戦争阻止へ 佐藤

——裁判員制度導入の狙いは何ですか。
 高島 ひとつのキーワードは権力側、推進側が言うところの「統治主体意識」なる概念でしょう。要するに国家権力の一翼を担えということです。その点において徴兵制と一緒です。徴兵制と裁判員の共通点は、ひとつは国家権力の一翼を担わされるということ。その「神聖なる義務」と「光栄ある権利」を人民、国民に負担してもらう。二つ目は、国家権力の本質は暴力だということです。暴力の最たるものは、人殺しです。兵隊は人を殺すが、裁判員も人殺しをすると。国家権力の一番えぐいところを人民に担わせる。三つ目は殺されるかもしれない、ということです。兵隊は弾に当たって殺されますが、裁判員だって社会的な死がありえます。たとえばの話、証拠調べで悲惨な死体写真を見せられる。自分は無罪という意見を主張したのに多数決で死刑判決を言い渡す。そういった裁判の秘密を一生抱える。PTSD(心的外傷後ストレス障害)で裁判員は精神的社会的な死を迎えるかも知れない。結局、両者に共通しているものは、「お前たちは国家の一翼を担って奉仕しろ。その経験を生かして忠良なる国民になれ」ってことです。
 佐藤 私もまったく同じ意見です。滅私奉公なんですよ。今イラクに送られたアメリカの兵士は8割が戦場で銃を撃てない。日本の8割の人が、裁判員になって人を裁きたくない、と言っています。同じなんですよね。同じ人間同士なのに「殺す側」と「殺される側」に対立し、死刑台に送る、懲役に送る。本当に悪いことをしたかどうか分からない人間を裁くことはできない。
 じゃあアメリカはどうするかというと、2カ月間、徹底的に「KILL、KILL」と言いながら人を殺す訓練をして戦争マシーンに仕立て上げるんです。そうしてイラクへ行って1人殺すうちに、平気で何人も殺せるようになっちゃうんです。帰ってくるとPTSDで心に傷を負って、2人に1人は社会復帰できない。裁判員をやった後、一生悩みますよね。たとえば、死刑判決のあとに無実の証拠が出てきたら。
 高島 プロの検察官の話を聞いたら、夜中にがばっと飛び起きるんだそうですよ。天井を見ると死体の写真が映っているんです。それが3年間続いたそうです、プロの検事でも。そういう過酷な義務を裁判員は負わされます。
——裁判員制度が導入される時代背景と、また改憲攻撃との関係はどうですか。
 佐藤 中曽根首相が行政改革として国鉄分割・民営化を始めた時からの新自由主義政策の一環です。そして小泉が、その改革の最後の要として裁判員制度を柱とする司法改革を国家戦略として推し進めた。結局、教育、医療、福祉、ありとあらゆる国家の事業を民営化して効率化していく。アメリカなんかひどいですものね。医療費が高くて医療が受けられない。大企業は優遇税制にし、命や教育をビジネスにしています。兵隊は政府の兵隊より傭兵の方が多いぐらい。日本も一緒です、非正規労働で。
 まさに若者を搾取、収奪して貧困化し、これに対して若者の間から「生きさせろ!」という叫びが上げられる時代。そういった社会矛盾が広がることを想定して、政府は司法、治安が国家の最後の要だと位置づけたのです。だからそれを強化する。警察とか軍隊だけではまかないきれないから、国民自身によって治安を強化させる。それが裁判員制度だと、私は思います。
 小泉が引退し、安倍も福田も政権を投げ出した。もう1年間に二つの政権が投げ出された。新自由主義は破綻したじゃないですか。支配階級は市場、資源を取り合うために戦争に突き進むしかない。そのための裁判員制度だと。僕はこのように大きく見ないといけないと思います。まさに徴兵制、滅私奉公、国民が国民を隣組で監視し合うことをもう一度やらせる。憲法「改正」の先どりなんです。僕らは労働者と一緒に闘って、これをやめさせる。それ自体が戦争阻止の闘いだと思っています。
 だから裁判員制度は、延期論や見直し論で問題を解決できるような代物ではない。制度を廃止するしかありません。
 高島 改憲についてですが、10月に富山で行われた日弁連人権大会に行って来ました。そこでは結局、護憲の「ご」の字も言わない、改憲阻止の「そ」の字も言わない、9条2項の「に」の字も言わない。要するに「改憲の是非について、国民に情報を提供することが大事だ」と言っているだけでした。極右の弁護士が日弁連の決議に賛成していることに、決議の本質が示されています。

 第4章 青年弁護士や学生とともに 高島

——弁護士界でも新自由主義攻撃の矛盾が噴出していますね。
 高島 新自由主義の流れの中に司法改革がありますが、法曹増員3千人体制が大きな問題としてあります。これは本当に弁護士つぶしです。昔は貧乏人でも弁護士になれた。僕も貧乏階層の出身でしたが、両親が学費を捻出(ねんしゅつ)したり、自分もアルバイトしたりして、なんとか司法試験に合格しました。受験生仲間では、成田で援農をやっていたとか、暴走族出身で少年院に入っていたとか、在日朝鮮・韓国人の子どもとかそういう連中がたくさんいましたね。そういう人が弁護士になって活躍しています。でも今は法科大学院に行かないとなれない。大学院に行けるのは富裕層です。富裕層しか弁護士になれない。これから一層、階層の固定化が進んできますよね。
 それに弁護士内部でも格差が生じている。若手弁護士も国選弁護の仕事をもらうために列に並んでいる現状もあります。
 佐藤 たとえば、「弁護士って特権階級だから、増員反対と言ったら国民から支持されない」といまだに言っている人もいるけれども、全然、特権階級なんかじゃない。現実に、今年400名ぐらいの新しい弁護士が就職できなくて弁護士会の会費も払えない。会費は月5万円とか7万円ですから、それに対して収入は国選やっても多くて月10万円ぐらいにしかならない。それで会費を払ったらほとんど何も残らない。そういった弁護士が今年だけでも400名ぐらいは最低出るし、来年は700名とか、もっと増えていくでしょう。
 そういう状況で人権活動とか、まともな弁護士活動をやれるわけがない。自分が食べることに精一杯で、カップヌードルしか食べられないような。そういう話を公の席で若手の人から聞いています。
 高島 司法試験に受かり、研修所を卒業して弁護士会に入会資格のある人が、時給1000円とか1500円で事務員として雇ってくれと言っている。それほどの状況です。
 佐藤 若手弁護士の怒りが爆発しています。“生きさせろ”という怒りは、青年労働者と一緒ですよ。「弁護士は特権階級だ」なんて、とんでもない。
——今年2月の日弁連会長選挙では司法改革絶対反対・改憲阻止の高山俊吉弁護士が多くの支持を集め、勝利に迫りました。闘う日弁連の再生も始まっていますね。団結して闘えば勝てる情勢だと思います。裁判員制度廃止の展望をお願いします。
 高島 裁判員制度に反対している弁護士はたくさんいます。弁護士の中で9割はいると見ています。ただ、それを言えないだけだと思います。
 「弁護士として食わせろ」と特に若手弁護士から声が上がっています。司法改革に大いに異論を持っている弁護士は多いんです。日弁連会長選挙では、新潟では50対49の1票差まで高山さんが迫ったんですけど、それぐらい地殻変動が起きている。情勢が変わっているんです。
 要するに政治的な右左では、もはや語れなくなっている。社民党、共産党の既成左翼系の弁護士は司法改革推進の日弁連執行部に逆らえない。20年以上やって来たいわゆる「人権派」の弁護士はなんらかの形で執行部を支えてきたんです。逆に、保守派と言われている人、それから派閥のしがらみもない若手が「俺たちの生活を守ってくれ」と高山さんを支持しています。そういう意味で、再来年、逆転の目は十分にあります。
 佐藤 闘う日弁連の再生と、労働者との連帯ですよね。その意味で僕は11・2労働者集会がとても大事だと思います。弁護士自身が労働者に励まされて、一緒に闘うようになっていくことです。弁護士は、労働者と一緒にこの世の中を変える気概を持たないといけない。一緒にデモとストライキで、“自分たちが社会の主人公だ”という時代をつくりたいですね。
——高島先生は富山大学ビラまき弾圧の弁護団もやっていらっしゃいますね。
 高島 学生の皆さんはみな元気ですね。今の学生運動について、イメージが変わりました。1年生、2年生の19歳〜21歳が主体ですよ。僕は今46歳ですが、自分の子どもらの世代が元気よくやっているんですね。悲壮感がないんです。
 佐藤 法大もそうだと、みんな言っています。
 高島 法廷内の闘争はすごいですよ。裁判長は退廷命令の連発ですけど。いやあ、元気が出ますね。楽しくやっています。
——労働者・学生と弁護士が団結して、裁判員制度廃止に向けて11月一斉行動を闘いましょう。ありがとうございました。
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 第5章 裁判員制度

 裁判員は有権者からくじ引きで選ばれる。刑事裁判において6人の裁判員と3人の裁判官が評議し、有罪・無罪ばかりではなく刑の重さも決める。刑法など法律上に刑罰として死刑、無期が入っているような重大事件が対象。
 評決は多数決のため、9人中無罪を主張する人が4人いても有罪になる。
 密室で行われる「公判前整理手続き」によって公判の内容や進行はすべて決められ、ほとんどの事件が3日間くらいの法廷審理で終わる。迅速・重罪の裁判。被告は「裁判を受ける権利」を著しく侵害される。
 また、裁判員は原則として辞退できず、参加を強制される。評議内容を外部にもらしたり、出頭しなかったりすると罰せられる。
 裁判員制度実施は来年5月21日から予定。対象事件は年間約3000件と推測されている。対象事件のうち5月21日以降に被告が起訴された事件に適用される。