●特集 アメリカ労働運動を甦らせる闘い Ⅰ オバマの教組破壊と闘いUTLA組合権力を奪取 オバマ「教育改革」と正面対決――世界革命を切り開く教組の力

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月刊『国際労働運動』48頁(0458号03面01)(2014/11/01)


●特集 アメリカ労働運動を甦らせる闘い Ⅰ
 オバマの教組破壊と闘いUTLA組合権力を奪取
 オバマ「教育改革」と正面対決――世界革命を切り開く教組の力

(写真 産別を越え、執行部先頭にホテル労働者のピケットに立つUTLA組合員【ロサンゼルス、ウェスティンホテル前 14年8月】)


 今年、アメリカ第2の大都市圏ロサンゼルス一帯の教職員組合で闘う勢力が執行部選挙・中央委員選挙や各地域レベルの選挙で圧勝した。そして、階級的教組運動の全米的なネットワークが急速に拡大している。内政のトップに「教育改革」を掲げ、民営化・大量解雇、労組破壊を進めるオバマ政権との巨大な激突が始まっている。
 本特集のⅠ章は、アメリカ労働運動の中での教職員組合の戦略的位置を明らかにし、巨大独占資本による教育民営化との闘いが階級闘争全体を動かす力であることを示す。
 第Ⅱ章は、教組本部を牛耳る帝国主義労働運動を打倒し、組合権力を奪取する闘いの意義を明らかにする。
 第Ⅲ章は、ロサンゼルス、シカゴなどでの組合員自身が主人公となる組合組織の大変革運動と職場・地域での組織化の具体的な姿を描く。また、それが国際連帯闘争と不可分一体で進められてきたことを述べる。

世界を揺るがす教職員組合の闘い

(写真 「暴力的弾圧者を処罰しろ!」「構造改革反対!」。オアハカ教組を先頭に7万人がデモ【2006年11月25日 メキシコ・オアハカ市】)

(写真 2週間ストを闘うブリティッシュコロンビア州教組と支援の州労組連盟)

▼メキシコ教育労働者がコミューンを樹立
 今、教職員組合の闘いが全世界を揺るがしている。
 メキシコの戦闘的な教育労働者は、国家権力と癒着したSNTE(メキシコ教組)本部を打倒するために、CNTE(教育労働者全国交流会)を組織し、二十数年にわたって闘ってきた。そして06年、CNTEが握るSNTE第22支部(オアハカ州教組)は、本部の暴力的襲撃や第二組合結成策動と対決して賃上げと教育条件改善を要求したストに決起した。スト・座り込み占拠闘争への警察機動隊と軍の弾圧に対して、オアハカ州教組は全州の労働者人民を組織して蜂起し、オアハカ・コミューン(革命権力)を樹立した。
 これは、アメリカ新自由主義の基本政策、NAFTA(北米自由貿易協定)への巨大な痛打だ。NAFTAは米国・カナダ・メキシコをブロック化し、他帝国主義に対する争闘戦を激化させるとともに、米国内産業の外注化と国外移転=労組破壊を急激に進めた。
 農業補助金で極端に安価にされた米国産のトウモロコシの流入で困窮したメキシコ農民は、大量に都市へ、そして国外へと移っていった。オアハカ州の人口の3分の1が米国に移民したという。こうした事態に対して、オアハカ教組の組織力を軸にして、全州民の怒りが爆発したのである。
 NAFTA発効の1年前、1993年に発足した、カナダ・メキシコ・米国の教組の「公教育を守る3カ国連合」を、オアハカ教組はともに担い、新自由主義との国際的な闘いを組織してきたのである。CNTEは2013年に「教育改革法」の撤回を要求して少なくとも31の州で数万のデモ、12の州で1カ月以上のストライキを闘っている。
 首都中心の広場を占拠した06年のオアハカ・コミューンは、2011年のカイロのタハリール広場占拠、そしてエジプト革命のモデルにもなった。
▼ウイスコンシン州の州議事堂占拠の闘い
 そして2011年2月、アメリカ・ウィスコンシン州では、州知事の公務員労組の団体交渉権を否定する攻撃に対して、公務員労働者を軸にして、10万人が州議事堂のビルと広場を占拠して闘った。その軸になったのが、州都マディソンの教職員組合の山猫ストであった。「違法ストの参加者は厳罰」の恫喝をはねのけ、学校が封鎖され、これを機に市内と郊外がゼネスト的情勢に入った。民間労組も、そして小商店主の間にもスト支持が圧倒的に広がった。
▼カナダのストライキ
 カナダのブリティッシュコロンビア州教組は2005年に当局の一方的な労働協約期限延長、スト禁止措置に対して、賃上げと学級規模縮小を要求してストライキに突入した。裁判所は「違法スト」「法廷侮辱罪」の決定と、組合資産の凍結の攻撃をかけ、スト中止を迫ったが、圧倒的多数の組合員はピケットラインを守った。これに動かされた同州の労働者は次々にカンパを差し入れ、ストライキは2週間続けられた。ブリティッシュコロンビア州労組連盟は、当局の弾圧に抗議する「一日闘争日」を設定し、これが事実上のゼネラルストライキとなって州都バンクーバーの機能がストップした。
▼イギリスのゼネスト
 イギリスのNUT(全国教員組合)は、11年、14年のイギリスゼネストの先頭に立って闘っている。これは、30年代階級闘争の先駆となった1926年イギリスゼネスト以来の巨大な闘いであり、2010年代階級闘争を切り開く力をもっている。
▼韓国・全教組の闘い
 韓国の全教組は、朴槿恵政権の被解雇者を排除できるよう労組規約の改定をせよという命令と、労組設立承認を取り消すという弾圧と闘い、団結を守っている。これは教組を越えて、民主労総全体を守る闘いとなっている。この全教組との連帯闘争は、全世界に広がっている。

学校教育=新自由主義の弱点

 以上のほかに、世界各地で教職員組合が階級闘争の先頭で闘っている。なぜそうなっているのか、新自由主義と学校教育、そして教職員組合の関係を見てみよう。
 80年代から全世界で本格的に開始された新自由主義の現実は、その宣伝文句とは正反対で、単純な市場万能主義、自由競争主義ではない。むしろ国家権力の強制力を使った独占の強化であり、労働組合の暴力的弾圧と労働者の強搾取である。
 30年代ニューディール以後のケインズ流の財政支出をやめ、「小さな政府」に転換するといううたい文句もまやかしだ。
 レーガン政権は、一方で「小さな政府」の掛け声の下で社会保障、福祉、教育などの予算を削減しながら、他方でそれ以上に軍事予算を増加している。30年代のニューディールをはるかに超える巨大な財政支出だ。レーガン政権の「大陸間弾道弾を迎撃ミサイルやレーザーで打ち落とす」というSDI(戦略防衛構想、スターウォーズ計画)は軍事技術的には空想物語にすぎない。しかし、その空前の軍事支出は「景気対策」として行われ、軍産複合体・金融資本を救済したのだ。軍産複合体は、アメリカ最大の産業部門であり、また政治的、社会的にその利権構造が浸み込んでいる。
 後のブッシュ(子)政権のラムズフェルド国防長官の下で国防省は、「わが省は世界最大のビジネスです。最大の財務規模、最大の取引規模、最大の人員雇用です。国防省との取引を希望する会社は、ここに連絡を」をホームページのトップに掲げた。
 また財政支出とは別の形の国家介入――連銀による為替相場、金利への介入も巨大化した。80年の米連邦最高裁判決以来、あらゆる分野に適用範囲が拡大した「知的財産権」制度は、国家の軍事的・政治的・社会的な支配力をもって世界的に争闘戦を貫徹し、独占を強化する仕組みである。
 こうして国家権力を使ってウルトラに独占を強化しながら、他方できわめてイデオロギッシュに「市場の力」を徹底的に強調し、「小さな政府」「規制緩和」「民営化」を振りかざして労働者や諸階級、諸階層を「自由競争」にたたき込むのである。
 このように新自由主義は矛盾の塊であるから、イデオロギー部門を徹底的に支配することが不可欠になる。マスコミや大学、学校の徹底的管理が今まで以上に死活のかかったものとなる。しかし、学校の民営化は一筋縄では行かない。
 新自由主義イデオロギーの父といわれるミルトン・フリードマンは、あらゆるものの民営化を唱えたが、学校民営化論を作るためには四苦八苦している。
 1955年、フリードマンは教育バウチャー制を提唱した。私立学校の授業料チケット(バウチャー)を公費で負担するという制度だ。他の部門では極端に単純化した民営化論を主張した彼も、全国民の学校義務教育が現在の資本主義の基礎になっている事実をどうすることもできなかった。また、現代社会では学校が地域社会の核になっており、学校制度の改変は地域全体の激しい抵抗にあうということも無視できなかった。
 それで、民営だが財源は公費という折衷案を出すしかなかったのだ。1962年の『資本主義と自由』でも、教育バウチャー制を一章まるまる使って論じている。
 現実にはアメリカの教育民営化は、バウチャー制ではなく、チャータースクール(公設民営校)化の形で進められている。それも、80年代は着手できず、90年代になっていくつかの州でチャータースクール法ができたにすぎない。
 2000年代になってからも、オークランドとシカゴ、そしてハリケーン災害後のニューオーリンズを除けば、大規模なチャータースクール化はオバマ政権になってから開始されたのである。

「教育改革のオバマ」

 オバマは、イリノイ州議会の議員として政治家の階段を上り始める前から「教育改革」を中心的な仕事にしてきた。それは、少なくとも1993年にさかのぼる。
 93年、『フィラデルフィア・インクワイアリー』紙の社主でペンシルベニア鉄道の最大株主でもある、ウォルター・アネンバーグがクリントン大統領とともに記者会見をした。5億㌦の私財をアネンバーグが公教育の改善のために寄付すると発表したのだ。その後、ビル・ゲイツ財団(マイクロソフト)、イーライ・ブロウド財団(不動産会社)、ウォルトン財団(ウォルマート社)などが、莫大な寄付金で「教育改革」運動を牛耳り、チャータースクール化を推進していくが、アネンバーグがこうした寄付活動の先駆けだったのだ。
 アネンバーグ家は、ウォルターの父の〝シカゴ新聞販売戦争〟を手始めにして財をなした。ギャングと手を組んで競争相手の新聞スタンドの店主や立ち売りの販売員をこん棒で襲い、販売網を奪っていったのだ。以来、同家はギャングと深い繋がりを保っている。ウォルター自身も、鉄道合併に反対する政治家を自社の新聞でデマ攻撃するなどのあくどいやり口で知られている。
 オバマは、この5億㌦のアネンバーグ基金への応募運動にかかわった。そしてそのうちから、4千900万㌦を得て「シカゴ・アネンバーグ・チャレンジ」という組織を作り、初代議長となった。
 これにはシカゴ学区当局も、保守的な黒人権利擁護団体アーバン・リーグも、教育問題や投票権獲得運動などに取り組んできた様々なNPOも参加した。オバマは、従来はまがりなりにも当局を批判し、対抗してきた諸勢力を当局や財界代表と同じテーブルにつかせ、莫大な金の力で取り込んでいった。
 特に大きかったのは、シカゴ教組指導部を同基金の推進者にしたことだ。当時、シカゴ教組の指導部は体制内労働運動派だが、現場の戦闘性が強かった。まだ81年PATCO(連邦航空管制官労組)スト大弾圧の衝撃も生々しかった83年年10月、シカゴ教組は15日間のストを貫徹し5%賃上げをかちとっていた。そして84年、85年、87年と連続してストに決起している。このシカゴ教組の戦闘性が、95年にオバマらの「教育改革」基金への参加によって大きく抑え込まれていった。
 ちょうどこの時期、シカゴの教育行政の首長独裁への転換が計画されていた。95年、イリノイ州議会は州教育法改定を強行し、学区行政を首長直轄性にした。シカゴ市では市長がシカゴ学区の組織を全面的に解体し、新組織CPS(シカゴ公立学校)を作り、そのトップを市長の任命制にし、役職名を「CEO」(最高経営責任者)とした。営利企業化そのものだ。〔CPSの初代CEOポール・バラスはその後、ハリケーン災害後のニューオーリンズで教育長となり、シカゴの「教育改革」をモデルにして大量閉校、チャータースクール化を強行している〕
 このバラスCEOと後任のダンカンCEOの下で、シカゴ市は全米に先駆けて公立学校の大量閉校とチャータースクール化を行った。
 このようなシカゴの「教育改革」を中心的に推進した実績があったからこそ、オバマは支配階級に支持され、大統領に押し上げられたのだ。大統領選挙で集めた献金額は、オバマが全候補の中で最大だった。特にウォール街からの献金が他候補を圧倒的に上回っていた。
 アメリカ支配階級は「教育改革のオバマ」を信任したのだ。それこそが支配階級の死活にかかわる問題だからだ。

アメリカ最大の組織労働者集団=教組

 74~75年恐慌によって過剰資本・過剰生産力に徹底的に追い詰められた支配階級は、従来とは一変した階級戦争に打って出る以外に延命できなくなった。30年代階級闘争、戦後革命の圧殺と引き換えに労働者にある程度の譲歩をして労働基本権と社会福祉を一応認めてきたことを転換し、労働組合を破壊し、労働者を無権利化し、とことん強搾取するということだ。
 新自由主義の労組破壊攻撃は、1981年、レーガン政権のPATCOへの弾圧によって口火が切られた。手錠をかけて逮捕されたPATCO指導部の姿を全米に放映し、ストに参加した組合員を全員解雇し、公官庁の別職種への再就職もできなくした。しかも、失業手当や福祉受給権まで奪い、組合員と家族を困窮の淵に追い込んだ。
 これ以降、労働運動の既成指導部は「ストをするとPATCOのようになる」と言って組合員の闘いを徹底的に抑え込むようになった。そして「組合側から譲歩を提案するほうが、経営側から譲歩を要求されるより、良い条件が得られる」と言いなして、労働組合が労働条件切り下げの先兵になっていった。典型的な例が、製造業の基軸である自動車産業の労組、UAW(全米自動車労組)であった。
 もう一つの労組破壊の要因は、外注化と生産拠点の国外移転である。これも80年代から急速に進展した。そして、1994年のNAFTA実施によって、さらに加速した。労働組合がある工場を丸ごとメキシコに移転した。あるいは移転の脅しで、労働組合に外注化などの決定的な譲歩を強要することが行われた。これにUAWなどの体制内指導部が屈服し、内側から労働組合を破壊していった。
 すでに労働組合の組織率は50年代をピークに下がっていたが、この80年代レーガンの労組破壊攻撃と外注化・海外移転は、さらに組織率を下げていった。民間部門は13年現在6・7%になった。
 だが、この新自由主義攻撃も、公共部門の組織率を下げることには成功しなかった。現在でも35・3%という高い組織率を保っている。中でも公立学校教職員の組織率は60~70%で全職種の中で最高である。
 絶対数も、NEA(全米教育協会)が320万人で最大の労組である。NEAは、保育園から高校まで(K―12)を組織している。もう一つの教組AFT(アメリカ教員連盟)も150万人だ。AFTはK―12に加えて大学教員も組織している。
 両労組は、全米くまなく支部をもっている。NEAは1万4千の学区に支部を持ち、AFTも約3千の支部がある。
 ナショナルセンターのAFL―CIO(米労働総同盟―労働組合会議)の各州の州連盟も、各地域の労組評議会(地区労)も最大組織である教職員組合が支えているのが現状だ。
 中央指導部は帝国主義労働運動そのものだが、学校職場の戦闘力は大きい。
 この量的にも質的にも巨大な影響力がある教職員組合があるかぎり、新自由主義の労組破壊、労働運動根絶の攻撃は貫徹できないのだ。
 だからこそ、支配階級は現在、教職員組合に照準を合わせ集中砲火を浴びせているのである。