2008年4月 7日

世界の労働運動 ドイツ 鉄道労働者が長期スト

週刊『前進』08頁(2338号3面3)(2008/04/07)


世界の労働運動 ドイツ
 鉄道労働者が長期スト
 公共サービス労組が合流
 

 第1章 各地で連帯のデモと集会が

 ドイツの階級闘争が激動に入っている。新自由主義の民営化=団結破壊・賃下げの攻撃にさらされながら、体制内労働運動によって反撃を抑えられてきた労働者階級の反撃が、鉄道労働者の長期ストを先頭として昨年来始まり、それに公共サービス労働者が大規模に合流しているのだ。
 まず機関士労組(GDL、組合員3万人)が、30%の賃上げと時間短縮(週41時間を40時間へ)要求を掲げて闘争に立ちあがった。昨年8月9日近距離交通ストを打ち抜いたが、鉄道当局(政府が株主となっているドイツ鉄道=DB)がこの要求を拒否すると、10月25~26日近距離・地域的交通24時間スト、11月8~10日貨物輸送48時間スト、さらに11月14~17日62時間の全面ストを打ち抜き、年を越えて1月までスト態勢を維持した。
 この歴史的鉄道ストによって、ドイツ全土の鉄道交通は半年にわたって揺るがされた。ドイツ経団連は、「自動車工場の生産ラインがストップする」とか「ドイツ経済の国際競争力が損なわれる」とか悲鳴をあげた。それだけではない。労働総同盟(DGB)と、GDL以外の二つの鉄道労組、TRANSNET(交通運輸労組27万人)とGDBA(ドイツ鉄道=交通労組7万人)が、「突出した闘争だ」と機関士ストを攻撃し、スト破りを策動したのだ。
 一方、職場や組合支部からは、「実力闘争断固支持」「よくやってくれた」「長年の賃金カット、労働強化にこれ以上我慢できない」「おれたちも続くぞ」「フランスのように闘おう」「労働者はストをやるしかない」「打撃をあたえてこそストライキだ」と檄文やメールが集中し、上部機関の制止をふりきって各地で連帯デモ・集会が行われた。マスコミでさえ、「通勤客」(その圧倒的多数は労働者)は60~70%が支持」と伝えざるをえなかった。
 そして、この鉄道ストが起爆力となって、その大衆的圧力のもとで、ドイツ労働総同盟内最大の労組であり、体制内労組の中心である統一サービス労組(Verdi、組合員230万人)の指導部も、ストに踏み切らざるをえなくなった。

 第2章 統一サービス労組もストに

 統一サービス労組に結集する公共部門労働者は、8%の賃上げと労働時間延長反対を要求として闘争に立ち上がった。協約交渉に圧力をかける「警告スト」が、2月14日から21日と3月4日から6日の二次にわたって闘いぬかれ、ベルリンの都市交通=バス・地下鉄労働者を先頭に、各地の都市交通労働者、空港労働者、さらに公立学校・病院・保育所、清掃部門などにわたって、「空も陸も交通はストップ」「都市機能は停滞」といわれる状況をつくり出している。
 EUの中心国であるドイツでは、日米英に遅れて、90年代のソ連崩壊、東西ドイツ統一の後になって、EU拡大過程の中で開始された新自由主義攻撃(民営化、アウトソーシング=下請化、人員削減よる労働条件の悪化、賃下げ、社会保障制度の解体、団結破壊等々)が、CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)政権、そしてSPD(社民党)政権、さらに両者の連立政権のもとで、DGB(ドイツ労働総同盟)指導下の体制内労働運動の協力のもとに強行されてきた。
 こうした中で、ドイツ国鉄は、東西ドイツの鉄道を合併する形で1994年に政府を株主とする会社として、民営化の一歩を開始した。そして現在にいたるまで、08年の株式市場上場による完全民営化をめざして労働者に対する系統的攻撃を強めてきたのである。今回の機関士労組GDLのストライキ闘争は、この攻撃に率先協力している他の二つの労組の制動を吹き飛ばして、「独自要求」を掲げた「独自闘争」として激しく闘われたのである。
 機関士労組の協約闘争は、1月中旬に、「段階的な11%の賃上げ」「労働時間の40時間への短縮」として、「独自要求」が一定程度実現する形でいったん合意に達したが、鉄道当局は、ただちに「国際競争力強化のための一層の人員削減」「下請け会社への機関士の配転の促進」「運賃値上げ」を打ち出した。さらに、協約への署名の条件として、他の二つの鉄道労組TRANSNETとGDBAが、この妥結条件を承認すること、そして、2014年を期限とする3労組共通の「基本協約」を締結することを、あらたに持ち出したのである。
 この「基本協約」の内容は、機関士労組の組織員を、本線機関士に限定して、構内機関士や列車乗務員を排除し、他の鉄道労組から機関士労組へ労働者が移動してくることにブレーキをかけ、またこの期間中のストを事実上禁止する、というものである。今回、機関士労組が闘った独自闘争を今後、体制内労働運動の中に閉じこめ、ドイツ階級闘争の戦闘化を何がなんでも封殺しようとする攻撃である。

 第3章 体制内指導部が闘争を封殺

 1カ月以上の経過を経て、3月初旬、機関士労組中央は、下部の怒りを抑え込んで、これらをすべてのみ、協約は締結された。
 一方、統一サービス労組本部は、連邦・州・市町村労働者に対する5%の段階的賃上げを労働時間の延長との抱き合わせで承認し、4月中旬に予定した第3次の統一スト体制を解除した。しかし、同労組の傘下にある郵便労働者は、3月31日、ストライキに決起し、ドイツ全土で郵便は止まった。
 こうして、ドイツの階級闘争は、鉄道労組に統一サービス労組が続き、さらに、すでに民営化され、矛盾の爆発に直面している郵政=ドイツ・ポストやドイツ・テレコム労働者の闘いへと波及し、まさに「第2次国鉄決戦を中心とする4大労組の闘い」と同様の構図の中に、民間労働者をもまきこんで、ストライキ闘争が全国的に展開される、という局面に入っている。ここでも、体制内労働運動を転覆する階級的労働運動の形成と強化・拡大が死活の課題となっている。(川武信夫)