2008年6月 9日

つぶそう!裁判員制度 (下) 「闇から闇へ」の戦時司法

週刊『前進』06頁(2346号6面2)(2008/06/09)

つぶそう!裁判員制度 (下) 
「闇から闇へ」の戦時司法 
裁判員個人を情報隔離 
密室での「覆面裁判」許すな

 裁判員制度には、許しがたい言論統制が盛り込まれている。
 傍聴人を入れない公判前整理手続によって、裁判の中身と結論があらかじめ決められてしまう事実については前回触れた。しかし、裁判の密室化はそれだけにとどまらない。
 裁判に「影響を及ぼす目的で」裁判員に意見を述べたり情報を提供した者は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金が科せられる。たとえば、デッチあげを弾劾する真実の情報であろうと、裁判員の耳に入れることはできないというのだ。
 当初の法案では、報道機関に対して「事件に関する偏見」を生じさせてはならないという規制が盛り込まれ、批判の声が高まった。最終的には削除されたが、何かが改善されたわけではない。むしろ、捜査当局が独占し提供する意図的な事件情報を、マスコミが垂れ流す役目を負ったということだ。極悪の犯人像と事件の残虐さが大きな影響力をもってひとり歩きし、真実は封じ込められる。
 そのうえで、誰が裁判員になったのかは、徹底して隠される。誰であれ、裁判員個人を特定する情報を公表することや、裁判員への接触は禁止。裁判員になった本人も例外ではない。「裁判員の保護のため」などと理由づけているが、ウソだ。「覆面裁判」こそが、最大の目的だ。誰が裁いたのかわからないまま判決が下され、明るみに出ることはない。人が人を裁くことの重さと責任をごまかそうというのだ。国家権力は、匿名の裁判員の後ろに隠れ、ほしいままに死刑などの極刑を連発する腹だ。
 そして裁判員を担った者は、裁判で知った秘密を漏らしたり、事実認定についての自分の意見や量刑について思ったことを口外することはできない。もちろん「何人も」裁判の中身を聞き出すために裁判員に接触することは禁止。密室で下された判決を社会的に検討し、批判し、冤罪やデッチあげを暴くことは許さないということだ。「闇から闇へ」、それが、戦時司法である裁判員制度の本性だ。

 第1章 終身刑・厳罰化を狙う

 裁判員制度導入が、重罰化を推し進める絶好の口実とされていることを示す重大な動きがある。今年の5月3日に、「裁判員制度の導入の中で量刑制度を考える会」なる国会議員たちが、死刑と無期懲役(仮釈放で出獄できる)の間に、「生きながらの埋葬」と言われる終身刑(死ぬまで絶対に出獄させない)を導入することを訴えた。その理由として、「死刑より軽く無期懲役よりは重い刑がないと裁判員が悩む」からというのだ。ふざけるにもほどがある。
 死刑廃止論者も引き込んだこの動きは、結局、死刑に加えて戦時司法の新たな極刑を創設するものだ。
 すでに、最高検察庁が全国の検察庁に対し、「動機や結果が死刑に準ずるくらい悪質」な事件について、仮釈放を不許可にするように通達している。実質的な終身刑攻撃が狙われている。裁判員制度を口実とする終身刑導入のうごきは、34年にわたる不屈の獄中闘争を闘う星野文昭同志に全面的に敵対するものでもある。
 さらに裁判員制度の実施にあわせて、今年度末までに被害者参加制度が始まる予定だ。被害者や遺族が「参加人」として検察官の隣に座り、被告人に質問したり、検察官の論告求刑の後に独自の意見陳述と求刑を行う。法大4・27裁判(新井君・友部君)では、法大当局者数名が「犯罪被害者の保護」の名目で特別傍聴券を請求し、毎回裁判を傍聴している。無罪推定という刑事裁判の大原則は踏みにじられ、被告人は判決の出ないうちから「犯人」扱いされる。裁判員制度と重罰化攻撃を粉砕しよう。

 第2章 「弁護士失業時代」到来

 裁判員制度を中軸とする司法改革は、弁護士への攻撃を大きな柱に据えている。「基本的人権の擁護と改憲阻止の砦」として日弁連が存在することを許さない攻撃だ。
 2006年の10月から、法務省直轄の独立行政法人「日本司法支援センター」が発足した。連日開催される裁判員制度の裁判は、多くの仕事を同時に抱えている弁護士にとって重い負担になる。だから国が、被疑者(起訴される前)段階を含む国選弁護を「支援」するというのだ。しかしそれは、国が弁護士を管理監督し、弁護活動に対する重い規制を加えるものだ。「支援センター」が個々の弁護人を指名して裁判所に通知する。弁護人は、法務大臣認可の契約条件に違反すれば処罰される。戦後革命の獲得物として弁護士会が国選弁護人を推薦してきたシステムは、日弁連執行部の積極的同意をも得て投げ捨てられた。
 だがこれに対して、全国の数百人にのぼる弁護士が「支援センター」との契約・登録を拒否し、国営弁護体制を破綻のふちに追いやっている。
 一方、これまでは年間500人だった司法試験合格者を2010年までに3千人に増やすという政府の計画が進められている。昨年は2千人を超える弁護士が登録した。今年3月に開催された埼玉弁護士会主催の就職説明会には、12人の募集枠に100人の司法修習生が殺到した。「弁護士失業時代」が到来している。激増攻撃は、弁護士の生活基盤を直撃し、大企業と国家に従属する弁護士を輩出するための歴史的大攻撃だ。
 今年の日弁連会長選挙では、「憲法と人権の日弁連をめざす会」代表の高山俊吉弁護士が立候補し、弁護士激増政策反対、裁判員制度反対、刑事司法改悪反対、改憲反対の四つの旗を鮮明に掲げ、得票率43%で、勝利まであと一歩と迫った。司法改革を推進する日弁連執行部への怒りと弁護士攻撃に対する危機感が充満し、司法改革そのものを吹き飛ばす闘いが弁護士のなかから開始された。若手弁護士たちを先頭とする「弁護士だってワーキングプア」という怒りの声は、労働者階級の決起と固く結合している。

 第3章 階級的団結で粉砕を!

 連合は、08年の春闘で、裁判員に動員された労働者の有給休暇を要求する方針を掲げた。トヨタや日産資本などはこれを認めており、労働組合が資本と手を組んで、戦時司法の担い手として労働者を国家に差し出そうとしている。
 日本共産党は、「しんぶん赤旗」で「裁判員制度によって、わが国の刑事裁判を改善する」などと公言している。日共スターリン主義が、日帝国家権力と一体化し、ついに改憲攻撃そのものである裁判員制度推進の先頭に立った。この体制内指導部の裏切りと敵対を絶対に許さない。
 裁判員制度は、労働者の闘いにおびえる資本家階級が打ち出した凶暴な戦時司法の中軸であり、刑事裁判への動員をとおした団結破壊の攻撃だ。
 だから裁判員制度は、労働者階級の固い団結によって粉砕されなければならない。資本との絶対的非和解の闘いの中から生み出される階級的団結こそが、われわれの唯一の生きる場所であり、この人間的共同性が生みだす自己解放のエネルギーこそが、資本主義を打倒できる根拠だ。
 裁判員制度を中軸とする司法改革攻撃を粉砕しよう。6・13「裁判員制度はいらない全国集会」(日比谷公会堂)を、労働者階級の手で圧倒的に成功させ、裁判員制度をぶっとばそう。
 (朝霧恒太)