2008年11月17日

労働者は必ず勝つ 書評『新版 甦る労働組合』(中野洋著) 藤掛 守

週刊『前進』06頁(2368号4面1)(2008/11/17)

世界大恐慌情勢に立ち向かう労働組合論
 労働者は必ず勝つ
 書評『新版 甦る労働組合』(中野洋著)
 藤掛 守

 中野洋・動労千葉前委員長の『新版 甦る労働組合』が刊行された。本書は、文字どおり「すべての労働者に」——動労千葉を支持する労働者はもちろん、今はまだそうでない労働者にも、読んでほしい本だ。「動労千葉の労働運動には賛成できない」という労働者にも勧めたい。すべての国労闘争団員、4者4団体を支持し、10・24集会に参加したような労働者にも、JR総連のもとにいる平成採の労働者にも、およそ労働者という労働者は例外なく読んでほしい。
 著者の中野洋前委員長は、自分の意見にあらかじめ賛成してくれる限られた読者に対してだけではなく、すべての労働者に向けて語りかけている。故意の偏見を持ってあらかじめ理解することを拒絶する人を別にすれば、すべての労働者を獲得する力、説得力を圧倒的に持っている。今回、もう一度読み直してそう確信した。
 戦後世界を長きにわたり支配してきたアメリカ資本主義の象徴とも言うべき巨大証券会社リーマンブラザーズの倒産に始まる金融大恐慌の爆発は、アメリカ資本主義、帝国主義が絶対的存在ではないことを全世界の労働者に強烈に印象づけた。世界の労働者は、「資本主義の終わり」の始まりを文字どおり見てしまったのだ。
 このまっただ中で日米韓3国の闘う労働者が11・2労働者集会を開催し、世界の労働者に檄(げき)を飛ばした。09年が決定的な歴史的な年にならないはずがない。労働者の新たな闘いの幕が開いた。この歴史的な地平の中で、労働者への限りない信頼を込めて訴えかけるメッセージとして『新版 甦る労働組合』が出版された。

 第1章 国鉄闘争に対する熱い思い

 「国鉄分割・民営化が強行されたのは1987年4月1日だから、すでに21年余りたっている。その20年間、国鉄闘争の基軸を形成してきた1047名闘争が今、危機的状況に直面している」(『新版
甦る労働組合』36㌻、以下ページ数のみ)
 「1047名闘争は、日本労働運動史上に例のない大量首切りをめぐる長期争議であり、国労闘争団をはじめとする1047名の解雇者は、労働者の誇りをかけて不屈に闘ってきた『日本労働運動の宝』とも言うべき存在である」(37㌻)
 今日、直面している国鉄1047名闘争の危機は、国労本部の政治解決=和解路線、1047名闘争終結方針に、国労内の闘う闘争団を始めとするほとんどの国鉄闘争支援陣形などの勢力が賛成し、「和解路線」を推進しようとしていることによって起きている。
 国鉄闘争、国鉄1047名闘争について、著者は、動労千葉の前委員長ということを超えて全身全霊を打ち込んで先頭で闘い、指導してきた。しかも、常に全労働者階級の立場から、階級的労働運動の前進という立場から冷静に見ている。それだけに国鉄闘争、1047名闘争に対する思いは誰よりも熱い。著者を知る人でそのことに異議を差しはさむ人はいないだろう。
 だからこそ、この国鉄1047名闘争が「スズメの涙のカネで『解決』=屈辱的屈服をしてしまっていいのか。断じて否だ」(37㌻)と断ぜざるを得ないのだ。
 「仮に『和解』で決着したとして、国労はどうなるのか、どの道を選択しようとしているのか。解雇撤回を投げ捨てることは、国鉄分割・民営化に賛成することであり、国労を解散し、JR連合に吸収・合併されることにならざるを得ない。あるいは、JR資本ともJR総連革マルとも闘わないことになる。このように『和解路線』は、国鉄−JR労働運動の反動的な再編に棹(さお)さすものになることは疑いない」(38㌻)
 「国鉄闘争が『民営化賛成』で決着すれば、200万人首切り攻撃と闘う自治体労働運動はどうなるのか。民営郵政のもとで闘う全逓労働運動、『日の丸・君が代』に反対する教育労働運動はどうなるのか」(39㌻)
 「国鉄、全逓、自治労、教労という4大産別の決戦が、それぞれ国鉄1047名闘争の行方に左右される情勢に入っている。この時こそ1047名闘争が、全産別の労働者を糾合し、その未来をかけて闘わなければならない時代に入っていると思う。1047名の解雇者がそういう自覚と展望を持って闘った時に勝利を手にすることができるのではないか」(39〜40㌻)
 ——と、熱烈に訴える。

 第2章 マルクス主義の魂がここに

 本書の初版は1995年に発行され、特に最近の数年、青年労働者の中でよく読まれてきた。著者は初版の「はじめに」で次のように書いている。
 「大変な時代である。では、こうした状況の中で労働者はどうすればいいのだろうか。僕は、労働者を軽んじ、蔑視(べっし)する考えに取り込まれないかぎり労働者は勝てると確信している。難しくはない。団結して立ち上がれば道は切り開かれる。侵略戦争を阻む力もそこにある」
 「そのために、自分たちの労働組合を甦らせ、労働運動の現状を変革することだ。それこそが今、最先端の変革である。闘うことはけっこう楽しいものだ。朗らかに闘おう」
 私は、これを読んで強い衝撃を受けたことを鮮明に覚えている。著者の、それが何者であろうとも「労働者を軽んじ、蔑視する」者は絶対に許さない、という激しい怒りと、労働者がこのような考えに取り込まれない限り「労働者は必ず勝てる」という固い確信を強く感じた。この言葉は新版でも引用され、この精神がこの新版の全体にも強く貫かれている。
 考えてみれば、これがマルクス主義なのだと思う。マルクス主義の魂なのだ。マルクス主義とは、単にあれこれの難しい教義のことではない。労働者への、労働者階級への絶対的な信頼だ。労働者には、資本家(資本主義)を打倒し、労働者の社会を労働者自身の手で実現する力がある、労働者とはそのような階級なのだ、という確信だ。

 第1節 労働者の理論

 著者はマルクス主義について次のように語っている。
 「マルクスだけが労働者の存在を認めてくれた。マルクスだけが、この世の中を動かしているのは労働者だと言った。マルクスだけが、世の中を変革する力を持っているのは労働者階級だけだと言った。そうである以上、労働者はすべからくマルクス主義者になるべきだ、と僕は言っている。そのために学習会もやる。だから今、動労千葉の労働者学習センターの労働学校も、すべてマルクス主義を勉強する。マルクス主義以外に労働者の持つべき思想はない」(84㌻)
 そうなのだ。マルクス主義とは労働者の理論なのだ。マルクスやエンゲルス、そしてレーニンが労働者の出身ではなかった、ということに何か特別な意味を持たせる人が今でも多い。が、それはマルクス主義が「労働者の理論だ」というこの核心を少しも変えるものではない。
 マルクス主義が歴史に登場するまでは、理論、学問は支配階級の独占物だった。労働者はマルクス主義という形で初めて「自分の理論」、労働者、労働者階級の理論を持ったのだ。労働者は労働者の理論、「自分の理論」、マルクス主義を持つことによって、歴史、社会を変革する真の主体、すなわち革命的階級になったのだ。
 今日の全世界的な革命的情勢の到来の中で、労働者がマルクス主義を労働者自身の手に取り戻すことは、労働者が革命のチャンスをつかみ、勝利するために必須の課題だ。この点からも、この著書がこのような形で出版された意義は大きい。

 第3章 労働組合を闘いの武器に

 労働組合を甦らせること——この一点に労働者階級の未来がかかっている。
 「甦る労働組合」という表題にも見られるように労働組合について書かれた本である。労働組合の何が書かれているのか。一言でいって「労働者の側が労働組合をきちんと位置づけよう」ということだ。
 「考えてみれば、資本主義社会においては、圧倒的多数は労働者階級であり、労働者を支配している資本家階級は圧倒的少数者だ。にもかかわらず、なぜ資本家階級の支配が成り立ってきたのか」(34㌻)
 資本家階級が、数では圧倒的多数の労働者の階級的団結を破壊し、労働者を分断し、支配できたからだ。
 敵、資本は、労働者の階級的な団結の破壊、解体に、自己の存在をかけて総力でかかってきている。労働者はここで、すなわち職場で、この資本の攻撃に対して真っ向から闘いに立ち向かわない限り、階級的団結は守れない。解体される。労働組合運動は、労働者の階級的団結をかけた資本との最も厳しい、勝ち負けを決する最前線の戦場なのだ。この主戦場を連合に押さえられ、職場での階級的団結を解体されたままで革命などと言っても空言になる。
 「資本の側は労働者の団結を破壊して、労働組合を弱体化させることにものすごい執念を燃やしてきた。今もそれは変わらない。ではそれに対して、労働者が、それほど労働組合を大事にしているか。ほとんどの労働者はそう思ってない」(56㌻)
 こんなままで労働者は資本に勝てるのか?
 「(労働組合運動で)労働者の階級的利害を本当に貫く者が主流派にならなければ、労働者の勝利はないのだ。ここが勝負の時だ。労働組合を甦らせること、この一点に労働者階級の未来がかかっている」(34㌻、プロローグ)
 だからこそ「労働者の側が労働組合をきちんと位置づけよう」と言っている。また別のところでは「労働組合運動を自らの天職と腹を固めること」(98㌻)と言っている。そして、労働組合、労働組合運動に「人生のすべて」をかけろ、とも言っている。

 第1節 激動の09年へ

 世界的な大恐慌情勢への突入の中で労働者には、大量首切りや賃下げの攻撃が襲いかかり、これに対して世界各国、各地で広範に労働者のストライキ、食糧暴動が巻き起こっている。
 エピローグは「今こそ『生きさせろ』のゼネストを!」で締めくくられている。6㌻と短い章だが、大恐慌情勢への突入という中で09春闘に向けた闘いが決定的に重要になっていることが強調されている。
 「大規模な大幅賃上げ闘争を組織しよう」「資本の弱点をついて、日本資本主義を揺るがす闘いを起こそう」という大方針の提起だ。
 ここでは、これ以上踏み込めないが、非常に重要な内容が提起されている。
 この『新版 甦る労働組合』を階級的労働運動の推進の武器として駆使し、広めることはわれわれの課題である。
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◎『新版 甦る労働組合』
 国鉄分割・民営化=新自由主義に唯一ストライキで闘った動労千葉前委員長が語る”労働組合論”。40余年に及ぶ労働組合の経験、マルクス主義の実践に基づく階級的労働運動路線の神髄がここにある。08年10月20日発売。発行/編集工房 朔。発売/星雲社。定価/本体1800円+税。注文は労働者学習センター(千葉市中央区要町2−8DC会館/電話043—222—7207/FAX043—224—7197)へ