2008年12月15日

ビッグ3破綻と労働者階級 政府の救済不可能/資本主義を倒す時だ!

週刊『前進』06頁(2372号2面1)(2008/12/15)

ビッグ3破綻と労働者階級
 ”ランク&ファイル”が工場占拠
 政府の救済も不可能に/資本主義を倒す時だ!

 自動車と石油、これこそアメリカ帝国主義の象徴だった。世界支配、国内支配の軸だった。これがついに破綻を迎えた。この中で、関連産業含め310万人の労働者と数百万人の退職者に大量解雇と医療年金給付破棄の攻撃がかけられている。巨大な「生きさせろ」の実力闘争が、既成指導部の裏切りをのりこえて開始されている。

 第1章 資本の救済で数百万人犠牲

 GMは、今年の第1四半期にトヨタに抜かれるまで、売上台数世界トップの自動車会社だった。
 そのGMの赤字が急増しているだけではない。金融大恐慌の中で、銀行がGMに当面の運転資金さえ融資できなくなっている。手元資金が枯渇し、直ちに破産という事態になったのだ。
 ビッグ3の第3位、クライスラーはGMよりひどい状況だ。第2位のフォードは手元資金はGMよりましだが、赤字増大は同じことだ。
 リーマンブラザーズの破綻後間もなく、米議会で250億㌦の自動車産業緊急融資法案が成立した。だが、巨額融資も焼け石に水だった。
 11月19日、ビッグ3のCEO(最高経営責任者)がそろって議会で救済資金を懇願するに至り、これが全米の政治の中心問題になった。
 だが、これほど大規模な緊急事態であるにもかかわらず、米政府の対応はなかなか決まらない。
 ブッシュ政権と民主党主導の議会やオバマ次期政権の間での対立が報道されているが、10月に成立した7000億㌦の緊急金融支援立法を使うのかどうかなど、それぞれの陣営内にも対立がある。事態があまりに深刻で、根本的な解決策がなくなっているからだ。
 12月10日現在、ブッシュ政権と議会民主党が、大規模リストラの断行を条件に、公的資金による救済で一定の合意に達したとされている。際だった特徴は、彼らが労組への攻撃で「解決」しようとしていることだ。「ビッグ3はUAW(全米自動車労組)という組合があるからトヨタに比べ人件費が高い」「医療費や年金の負担が重すぎる」というのだ。
 トヨタなど日本資本は、労働組合の結成が困難な州法がある南部諸州に工場を建て、日本で開発した労組破壊の手法で活動家をつぶしてきた。このトヨタの労務支配の実績に続けと要求しているのだ。
 まさに「資本の延命ではなく、労働者こそ生きるべき」の闘いは、「国際競争ではなく、労働者の国際連帯」を求める闘いと一体なのだ。
 ビッグ3とは、資本一般ではない。アメリカの基幹産業の中の基幹産業だ。これが崩壊する時はアメリカ資本主義自体が崩壊する時だ。アメリカ資本主義が崩壊する時は、世界の資本主義が崩壊する時なのだ。生きるための闘いが革命を意味する時代が来たのだ。
 この決定的な瞬間に、UAWのゲテルフィンガー委員長らは、資本家と一緒になって「ともに痛みを分け合う」と言い、資本の救済を要請している。そのために、労働者を路頭に迷わせることを労働組合の名で自ら提案しているのだ。

 第2章 工場占拠の伝統を甦らせる

 UAW指導部の会社とのパートナー路線を批判してきたUAWの闘うランク・アンド・ファイル(現場組合員)も、UAW本部の裏切りに対する激しい怒りと批判を打ち出しつつも、9月〜11月、まだ大きな闘争は打ち抜けていない。かつてない規模の工場閉鎖に直面し、これまで数多くのリストラと闘ってきた戦闘的潮流ですら、労働組合運動の根本的な真価が問われているのだ。
 アメリカの自動車産業のリストラは1970年代から始まった。トヨタなど日独の自動車メーカーとの国際競争力の衰退を理由に、アウトソーシングによる人員整理、工場閉鎖などによる大量解雇が激しく行われた。
 これに対してUAW本部は、70年代末から「コンセッション(譲歩交渉)」路線をとった。労働組合が自ら労働条件切り下げを申し出て人件費を下げ、雇用を守るという路線だ。だが現実はコンセッションによっても解雇は続いた。
 UAW内の反本部派は「コンセッション絶対反対」「パートナー路線反対」を掲げて闘ってきた。UAW本部が腐敗しても、職場では戦闘的な労働運動が根強く闘われてきた。特に、ビッグ3の本拠地、イリノイ州デトロイト周辺では、祖父も曽祖父も大ストライキを経験しているような代々の自動車労働者が多い。
 特に1936〜37年のフリント工場(デトロイトの近く)のシットダウン・ストライキは今も語り継がれている。労働組合を承認しないGMに対し、工場に座り込み、占拠して闘ったのだ。全米のGM工場に金型を供給する戦略的なフリント工場を占拠し、自警団、警察、州兵の襲撃と闘い、全米GMの操業に大打撃を与え、ついに労働組合の承認を獲得した。
 このシットダウン・ストの勝利によって小さな組合UAWが一挙に数十万人の労働者の組合加入をかちとった。この闘いが現在、新鮮な思いでよみがえりつつある。
 12月5日、シカゴでリパブリック・ウィンドウズ&ドアズ(窓枠、ドア製造工場)の労働者250人が工場を占拠した。
 バンク・オブ・アメリカ(BOA)が急に融資を停止し、会社が予告手続もなく2日前に工場閉鎖を通告、退職金も解雇予告手当てもなしに労働者を放り出そうとした。そして深夜、経営者が高価な機械を運び出したことが発覚した。「設備を押さえろ! シットダウンだ」。フリントの自動車労働者と同じ闘いが始まったのだ。
 250人が属する組合は、独立系のUE(統一電機労組)だが、AFL−CIO(米労働総同盟・産業別組合会議)傘下のシカゴ教組やCTW(勝利のための変革)傘下のチームスターズなど多数の組合が支援にかけつけた。
 UAWからは、多数のランク・アンド・ファイルの組合員が食料の差し入れを持って遠方からかけつけ、UAW第4地域長デニス・ウィリアムズ氏が「1936年のシットダウン・ストライキは、自動車産業だけでなく、全産業の労働者のための歴史的な闘いだった」と激励した。
 7000億㌦の救済策を受けた銀行の一つでありながら、リパブリック社への融資を停止し、工場閉鎖に追い込んだBOAに対しては、地元シカゴだけでなく、全米の支店に対する抗議行動が行われた。マスコミも全米で「30年代以来のシットイン(シットダウン)工場占拠」と報道した。資本家たちは30年代のような階級闘争の再来におののいている。
 イリノイ州知事も「州の全省庁がBOAとの取引を停止する」と発表せざるをえなくなった。次期大統領オバマも占拠闘争の正当性を認めた。大恐慌の激動を恐れているのは支配階級だ。
 この工場占拠とランク・アンド・ファイルの支援闘争の拡大の中で12月10日、BOAが離職手当、解雇予告手当、2カ月の医療給付分の融資に合意した。250人は占拠を解除し、支援基金を元に工場再開を目指すという。小さな工場の実力闘争が全米の労働者の闘いに自信を与えたのだ。

 第3章 トヨタを撃ちUAWと団結

 UAWの労働者は「トヨタより人件費が高い」とあたかも不当に高い賃金でビッグ3破綻の原因を作ったかのように宣伝され、攻撃されている。
 だが事の本質は、資本主義が必然的に生み出す過剰資本が臨界点を超え、資本主義そのものを終わらせるプロレタリア革命以外に出口がなくなったことにある。
 日本でも自動車産業をはじめ労働者の使い捨てに怒りが爆発し始めている。労働者の過労死や過労自殺への怒りも沸騰寸前だ。トヨタ資本を痛打した森精機でのストライキは、国際連帯の強力なメッセージとなった。
 「生きさせろ!」春闘ゼネストへ突き進もう!
 (村上和幸)