2009年8月 3日

ドル暴落が現実に 保護主義が激化 革命情勢成熟と労働者の決起 島崎光晴

週刊『前進』10頁(2402号4面1)(2009/08/03)

大恐慌の本格化−戦争・大失業と闘おう
 ドル暴落の危機が現実に 保護主義がいよいよ激化
 革命情勢成熟と労働者の決起
 島崎光晴

 29年—1930年代を超える世界大恐慌は、いよいよ本格化しようとしている。米帝オバマ政権はシティなどの大銀行とGMなどの大企業を救済する恐慌対策をとってきたが、救えるものなどは一つもない。リーマン・ショックを上回る金融大恐慌の第2波が爆発するのは必至だ。米帝はますますリストラ・大失業と保護主義に踏みこんでいく以外にない。しかもこうした恐慌対策をとった結果、財政赤字が破滅的に膨張し、ドル暴落が現実的な視野に入りつつある。大恐慌下で大失業と戦争が現実化するなか、革命的情勢のテンポは今や急加速している。大恐慌を革命に転化するため、今夏〜今秋を歴史的な闘いの時としよう。

 粉飾会計で損失隠ぺい金融大恐慌の第2波も

 まず米経済を金融面から見ていこう。昨秋9月にリーマン・ブラザーズが破綻し、最大手保険会社のAIGと、住宅金融2公社のファニーメイとフレディマックが政府管理下に置かれた。以降、米帝は銀行への資本注入など公的支援を繰り返してきた。しかし、それでも危機を収拾できず、今年2月には米政府がシティグループ株を保有して、事実上の政府管理下に置くしかなくなった。
 米帝の大銀行は、住宅ローン債権を担保にした証券を大量に保有しており、住宅価格の下落でその証券化商品が不良資産と化している。また、実体経済の急降下によって、個人向け融資と商業用不動産融資でも不良債権化が進んでいる。4月のIMF推計では、ローンや保有証券の劣化に伴う米金融機関の損失は2・8兆㌦(263兆円)の見通しで、「うち3分の1が顕在化した」という。残り3分の2の損失がまだ潜在しているのだ。
 オバマ政権は就任後、この銀行の不良資産を買い取ろうとした。昨年9月に成立した金融安定化法も、不良資産買い取りを目的としていたが、あまりの困難性のため公的資金投入に変更された経緯がある。不良資産・不良債権があるかぎり、銀行の経営危機、金融システム全体の危機が深まっていくのは必至であり、もはや待ったなしのところに追い詰められた。
 しかし、不良資産を買い取るといっても、その資産は証券化商品という形をとっている。例えば一つの証券の中に3000種類もの金融商品が組み込まれている。価格をまともに確定できない。しかも「不良資産買い取りには最大4兆㌦のコストがかかる」との試算が出た。すでに金融安定化法の公的資金枠7000億㌦はほぼ使い果たしており、ケタ違いの公的資金を追加するのは容易ではない。このため3月時点で不良資産買い取り策はたちまち頓挫した。

 残高が9兆㌦もあるプライムでの不良化

 窮地に立ったオバマ政権がとった乗り切り策が、銀行の粉飾会計を認めて、不良資産を少なく見せかけてごまかし、結局は「とにかく(不良資産の価値が上がるまで)辛抱する戦略」(元FRB幹部)である。
 具体的には第一に、時価会計の適用を緩和して、価値が暴落している金融商品について損失を出さなくても済む粉飾会計を4月に認めた。1〜3月期の決算にさか上って適用される。例えばシティの1〜3月期決算では、証券化商品などの損失が約22億㌦と、前期に比べて実に132億㌦も減り、見せかけの黒字に転換した。
 また、赤字額の一部を以前の決算にまぎれこませてもいる。価格のつかない金融商品に、得手勝手に価格をつけて資産として計算している。ゴールドマン・サックスだけで5850億㌦=約55兆円にもなる。銀行の社債価格が下落したのを、その分負債が減ったとみなして利益に計上している。これを「負債評価益」と称している。
 第二に、5月の米政府・FRBによる銀行の資産査定(ストレステスト)で、「潜在的な損失は計6000億㌦、10行について計746億㌦の資本不足の恐れがある」と査定した。これを受けて10行が株式を発行したりして資本増強に動き、それを元手に公的資金を返済し、「もはや資本不足の恐れはなくなった」と宣伝した。しかし、証券化商品の査定ができるはずもなく、できるだけ少なく見せるための恣意的な数字だ。しかも、IMFが「総額で2750〜5000億㌦の資本増強が必要」と試算していたのと比べてもケタ違いに少ない。”これ以上公的資金を必要としない”という結論が先にある査定でしかない。
 第三に、7月に米財務省は、官民投資基金を設立して銀行の不良資産を買い取る制度の詳細を決めた。しかし、買い取り額は400億㌦にすぎない。米政府は当初は「1兆㌦買い取り」と言っていたが、粉飾会計に合わせて買い取り額も大幅に減らした。
 要するに、米帝は粉飾会計、恣意的な不良資産の査定、それに合わせた資本増強と不良資産買い取りという、自他を欺くやり方をとっているにすぎない。「とにかく辛抱する戦略」と言うが、辛抱しても無駄だ。不良資産も不良債権もこれから本格的に増える。
 何よりも、主要20都市で見ると住宅価格は毎月18%台の下落を続けているが、それでも06年半ばのピークの3分の2の水準に下落したにすぎない。バブル崩壊を途中で止めることは絶対にできない。特に、優良とされてきた残高9兆㌦のプライムローンで延滞額が増え、サブプライムローンの延滞額を上回り続けている。さらにクレジットカードローン、不動産関連でも不良債権が増加するのは必至である。
 粉飾で矛盾を先送りしたことによって、次の金融危機の爆発力は一段と大きなものとなる。リーマン・ショックを上回る、第2波の金融大恐慌が爆発するのは時間の問題だ。

 歴史的な過剰資本状態縮小GMも再生不可能

 米経済は昨秋から、金融恐慌の激化と実体経済の急降下が相互に促進しあいながら進んできたが、実体経済は現在も下降し続けている。鉱工業生産は6月まで8カ月連続のマイナスだ。6月の製造業生産は前年同月比15・6%もの減少である。07年12月に始まった「景気後退」はすでに戦後最長の17カ月にも及んでいる。
 生産が低下しつづけているのは、住宅バブル崩壊で過剰生産力・過剰資本状態がむきだしになっているからだ。6月の設備稼働率は68%と、1967年の統計開始以来の最低を記録した。GDP統計で需要と供給を比較すると、年間7000億㌦(65・8兆円)もの需要不足である。年間の米国防予算52兆円をはるかに上回る。2月の総額7870億㌦の景気対策法はこの需要不足を埋めようとしたものだが、柱をなす減税にしても大半が貯蓄に回り、景気刺激効果はほとんどない。
 そもそも米経済は74〜75年恐慌以来、過剰資本状態にある。それをバブルの繰り返しで乗り切ってきたにすぎない。バブルは企業と家計の過剰債務を伴っていた。特に03〜08年の5年間で債務残高は、企業でも家計でも1・4倍強にもなった。合計で6・4兆㌦(600兆円)も借金を増やしたのだ。それが今や逆回転し、企業は債務不履行による経営破綻に、家計は消費抑制と貯蓄増に転じている。一時マイナスだった貯蓄率は、5月には6・9%にまで上昇した。過剰債務・過剰消費が終われば、当然にも過剰資本がむき出しにならざるをえない。

 GMは2万人首切り失業率は15・8%に

 過剰資本が最も深刻なのは自動車産業だ。GMとクライスラーが経営破綻したのは、バブル崩壊で自動車が売れなくなったからである。しかも、日本車メーカーとの競争に負けてしまったからである。ビッグ3の自動車生産は前年比で半減という惨状にある。
 世界的に見ても、09年の世界の自動車生産能力が約8760万台であるのに対し、新車販売台数の見通しは5050万台。実に3710万台、4割強もの過剰設備だ。日本の新車販売台数が年間約500万台だから、その7倍もの過剰設備である。これほどの過剰は絶対に解消できない。戦後帝国主義の基幹産業であり最大の景気主導部門だった自動車で、ついに市場が飽和化してしまったのだ。資本主義の終わりそのものではないか!
 オバマ政権は昨秋以来、GMとクライスラーを救済しようとしたが、両社ともに破産法の申請に追い込まれた。クライスラーは6月に、GMは7月に再建手続きを終えた。GMは、米・カナダ両政府が株式の72%を保有する国有化企業となった。GMだけで政府の拠出額は500億㌦(4・7兆円)、部品会社を含めた自動車産業支援の総額は1000億㌦(9・4兆円)にもなる。”市場原理にすればすべてうまくいく”などという新自由主義は、大破産したのだ。
 両社の破綻と再建の過程をへて、労働者には大量首切りと賃下げが襲いかかっている。GMは国内47工場のうち14工場を閉鎖・休止する。これに伴い、米従業員を08年末の6万人強から10年には4万人強に減らす計画だ。すでに失業率は「求職活動をしていない人」や「フルタイム就職を望みながらもパートに就いている人」を含むと、15・8%(4月)にまで上昇した。
 資本主義は過剰資本状態下で延命するために、労働者に大失業を強制するのだ。資本主義体制自体を打倒しなければ、労働者は生きられない。しかし、UAW(全米自動車労組)はクライスラーとGMに対し、15年まではストライキをしないと約束した。こういう体制内指導部を吹っ飛ばして闘う以外にないのだ。
 しかし、どうあがいても両社ともに再生はありえない。新生GMは売上高が半減し、日本のホンダ並みに小さくなるが、肝心の国際競争力の回復の見込みはない。今後1〜2年も自動車が売れなければ終わりだ。かといって米帝はGMをつぶすわけにもいかない。帝国主義論で考えると、結局は米市場で日本車を締め出すような保護主義を強める以外になくなる。
 すでに米帝は、2月の景気対策法にバイ・アメリカン条項を盛り込み、率先して保護主義に動き始めている。GMの存否が現実化する時、米帝はすさまじい強硬な保護主義に突っ込むに違いない。米帝の本格的な保護主義は、世界の保護主義の歯止めを外して世界経済の分裂とブロック化、収縮を引き起こし、帝国主義間争闘戦を激烈化させることとなる。1930年代がそうだったように、非理性的な保護主義の噴出は、帝国主義間のつぶし合いという局面を一挙に引き起こす。
 このように米帝は、基幹産業である自動車をめぐって大失業と保護主義−帝国主義間争闘戦にのめりこみつつある。大恐慌は今や、大失業と戦争に行き着くしかない争闘戦の激化という局面に入ろうとしているのだ。

 財政悪化で米国債不信米帝の没落と戦争衝動

 米帝は大銀行と自動車産業を救済する恐慌対策をとっているが、銀行も自動車も救済できないだけでなく、この恐慌対策自体がより巨大で深刻な危機を引き起こしつつある。それが財政赤字の大膨張、米国債への不信の強まり、ドル暴落の危機の深まりである。
 09会計年度(08年10月〜09年9月)の財政赤字は、過去最大の1兆8410億㌦と予測されている。恐慌対策で支出が急増する一方で、恐慌下で法人税が前年比60%も減っている。
 財政赤字の膨張に伴い、米国債の発行額も激増している。従来、米国債は世界的に信用のある投資対象とされてきたが、この信用が崩れ始めている。このため、償還期間1年未満の短期国債の発行が増えている。09年4月までの1年間では長期国債発行額2689億㌦に対して短期国債発行額が4535億㌦と、短期国債が大きく上回った。”長くは持てない投資対象”に転落しているのだ。
 さらに3月には、FRBが向こう半年間で最大3000億㌦の国債を買い取ることを決めた。紙幣を発行する中央銀行が政府の借金を肩代わりするもので、第2次大戦以来の非常手段だ。
 しかし、国債発行による資金調達が余りにも巨額であるため、5月から国債価格が下落し、国債利回り=長期金利が上昇し始めた。これにつれて住宅ローン金利も上昇し、金融緩和効果が打ち消される事態にまでなった。米国債の消化難、あるいはその懸念によって金利が上昇するのは異例のことだ。

 中国が米国債を保有ドル離れが加速する

 こうした米国債に対する不信も含め、ドル暴落がついに現実的な視野に入りつつある。従来は、米国債の購入という形で国外から資金が流入し、それが巨額の経常赤字を穴埋めし財政赤字も賄う構図だった。しかし、最大の米国債保有国である中国を始めとしてドル離れが進みつつある。
 米帝にとって中国の米国債購入がなければ、米帝の財政も経済全体も成り立たない。中国にとっても対米輸出抜きに中国経済がもたない。だから、中国は米国債を簡単には手放せない。しかし、中国が米国債とドルの生殺与奪の権を握っている関係にある。米帝危機と中国危機が一挙に連動する構図だ。北朝鮮の体制的危機と米日帝による北朝鮮侵略戦争策動とも絡み合いながら、ドル暴落が現実化していく。
 現在の大恐慌の最大の特徴は、29年大恐慌と第2次大戦後の危機を乗り切った米帝が没落し、その中心部から崩壊していることにある。米帝の”最後のよりどころ”とも言えるドルの崩壊は必ずや、米帝危機と世界大恐慌を大爆発させるに違いない。しかもそれが、米帝の世界戦争への衝動をますます高めるものとなる。米帝は90年代以来、没落からの巻き返しをかけ率先して戦争に踏み切ってきたが、ドルの崩壊ともなればアメリカ史上最も凶暴な帝国主義と化して、世界戦争に突っこんでいくのだ。

 欧州と中国も「火薬庫」日帝は輸出崩壊で破産

 サブプライム危機の発火点となった欧州経済も、世界大恐慌の火薬庫のままだ。昨年来、EU加盟27カ国が打ち出した金融機関への資本注入枠は約42・3兆円にも上る。しかし依然として、ドイツ銀、クレディ・スイス、UBSの大手3行が保有する高リスクの証券化商品は約22兆円もあり、3行合計の自己資本の2倍強にも及ぶ。しかも、西欧の金融機関は中・東欧諸国に132兆円も融資しており、この債務不履行(デフォルト)から欧州金融機関の大破綻に進む可能性が大きい。また、EU加盟国の25歳未満の失業率は19%台にもなっている。そしてEUも各国ごとに、自動車や雇用などで保護主義にのめりこみつつある。
 中国経済は、昨秋打ち出された総額約52兆円の景気刺激策、銀行融資の急増(1〜6月だけで100兆円の増加)によって、かろうじて保たれている。しかし、中国のGDPに占める輸出依存度は約40%にも上り、その輸出が昨年11月からマイナスに転じて大打撃を受けている。今後、無理をした財政と銀行融資が新たな危機を引き起こしていくのは必至である。また、中国も政府調達や資源などで保護主義を強め始めた。
 日本帝国主義は、ますます「世界最弱の環」と化している。昨秋以来の輸出の「蒸発」で、日帝の「輸出立国」は崩壊した。5月時点でも輸出は前年同期比4割減だ。輸出の崩壊で、トヨタの過剰設備は国内外で約350万台分、日産1社分にまで膨らんだ。1〜3月には「需給ギャップ」が、年45兆円もの需要不足に陥った。
 今後、保護主義が本格化していけば、最も打撃を受けるのは日帝だ。日帝にとってアジアを勢力圏化するしかないが、肝心の韓国が米帝に続いてEUともFTA(自由貿易協定)に合意し、日帝はますます孤立しつつある。国家財政の再建目標も破綻した。自民党支配の崩壊の土台には、このような日帝の未曽有の危機と破産がある。
 こうした八方ふさがりの中で日帝は絶望的に凶暴化し、北朝鮮侵略戦争の策動を一段とエスカレートさせつつある。一方、1〜3月期の非正規社員数は前期比で97万人も減少し、正社員数も4万人減った。日本でも大失業が襲いかかっている。日帝にとって〈戦争・改憲と民営化・労組破壊〉の攻撃は、帝国主義としての存否をかけたものなのだ。

 解雇撤回と国際連帯で11月1万人結集へ

 以上、世界大恐慌がいよいよ本格化しようとしているのは明白だ。しかも、大恐慌下で帝国主義は大失業と保護主義−帝国主義間争闘戦にのめりこみつつある。もともと帝国主義の基本矛盾は、大恐慌と戦争として爆発する。そして大恐慌は大失業と戦争を引き起こしていく。これらすべてが革命的情勢を急成熟させるのだ。
 この革命的情勢の成熟下で、世界の労働者階級の決起は歴史的な高揚を見せ始めている。韓国民主労総金属労組サンヨン(双龍)自動車支部の労働者たちは、「解雇撤回」を掲げて工場占拠ストライキを闘い、資本・権力に対して決死抗戦を続けている。大恐慌下で労働者が生きていくには、資本・国家と非和解の闘いを貫くしかないことを、全世界に指し示している。日本・世界の労働者をこれほど鼓舞するものがあるだろうか。
 また、いま現に侵略戦争が強行されているイラク・アフガニスタンでは、米軍・帝国主義軍を敗勢に追いやる生死をかけた戦いが連日連夜、1日も絶えることなく繰り広げられている。
 さらに、米帝足下のILWU(国際港湾倉庫労組)の労働者たちは、7月国際会議をもステップにしながら、ランク&ファイルの運動を強め、米帝との対決に奮闘しつつある。
 そして何よりも日本では、動労千葉派が6・14〜15闘争を大高揚させ、4大産別決戦で日本革命の勝利を切り開く路線を打ち立て、その責任勢力として登場しようとしている。〈路線で団結し、路線で闘う〉という勝利の進撃が始まったのだ。
 世界の労働者階級は日々、勝利しているのだ。労働者が持つ階級的力に依拠して闘うなら、必ず勝利する。国鉄1047名解雇撤回闘争と国際連帯闘争を両軸に、11月労働者集会1万人結集に突き進もう。