2009年11月23日

“小沢民営化路線”に総反撃を 「郵政見直し」のペテン

週刊『前進』06頁(2417号5面1)(2009/11/23)

“小沢民営化路線”に総反撃を
 「郵政見直し」の意図とペテン

 民主党・連合政権は、「郵政民営化の見直し」で、小泉政権以来の既定方針だったゆうちょ銀行、かんぽ保険など日本郵政グループの株式上場凍結法案を今国会で成立させるとする一方で、「将来の株式上場」を明言した。ここでも“小沢路線”は明白となった。元大蔵次官・斎藤次郎の日本郵政社長就任は、金融大恐慌のもとでの国債大増発と大増税への踏みだしだが、郵政における〈民営化と労組破壊>の攻撃は、新たな装いで貫徹される。ここが核心点だ。JP労組中央はいち早く“民営化路線堅持”の姿勢を臆面もなくさらけ出した。郵政民営化絶対反対の闘いはこれからが本番なのだ。

 「凍結の後、株式上場」 国債増発と大増税の始まり

 民主党政権は、総務省の認可権限を盾に日本郵政前社長の西川善文(三井住友銀行前頭取)を力ずくで辞任させ、経営陣の総入れ替えを行った。「小泉・竹中(元総務相)色を一掃する」(亀井静香・郵政金融担当相)と称して行われた人事は、1カ月の迷走の後、元大蔵省トップ(事務次官)の斎藤次郎を西川社長の後任に起用することで決着した。
 「脱官僚」を表看板に掲げる民主党政権が「ミスター大蔵省」と言われる人物をトップ人事に起用したことでマスコミは大騒ぎとなった。「官僚の天下りそのものではないか」「民業から官業への逆戻りだ」というたぐいの報道が連日のように続いている。
 だが事の核心は、斎藤が官僚出身か否かではない。小沢・鳩山=民主党・連合政権が、この人事で何をやろうとしているかだ。
 斎藤は94年の細川連立政権時代に、新生党の代表だった小沢一郎と組んで「税率7%の国民福祉税」導入を図った人物で、「現在も大蔵・財務省OBの中で小沢に最も近い」(日経)とされる。だが、この人事を「事実上の国営郵政への逆戻り路線」「亀井大臣の暴走」だとする見方は的はずれだ。

 労組幹部先兵に民営化貫く

 問題は“小沢路線”である。斎藤の就任は、今日にいたる民営化・規制緩和路線を国鉄分割・民営化の直後からいち早く提唱してきた小沢による人事そのものなのだ。迷走を重ねた人事が決まった直後、亀井が「(凍結後に)いずれ株式は上場することになる」趣旨の発言を行ったことで事態は明白となった。
 大恐慌と国家財政破綻のもとで、大金融資本の頭目たちが300兆円を超える預金・保険を含む莫大(ばくだい)な郵政資産の行方に注目してきた郵政「見直し」問題は、民主党・連合政権のもとで、自治体の民営化と公務員の大量解雇を柱とする「地域主権」=道州制導入攻撃と結びつきながら、御用労組幹部を先兵とする新たな装いの民営化攻撃として貫徹されるのである。これが問題の核心だ。「小泉・竹中路線で破壊されたユニバーサル・サービス(全国一律サービス)の回復」なる問題も、労働現場へのさらなる合理化と労働強化として襲いかかる問題なのである。
 案の定、旧西川体制の大合理化攻撃に全面協力して郵便局会社の監査役に抜擢(ばってき)された恥ずべき労働貴族・JP労組前委員長の山口義和を、新体制は労働代官として留任させようとしており、現場労働者の激しい怒りを買っている。
 また小泉「構造改革」の中心的担い手だった日本経団連の前会長・奥田碩(ひろし)も、日本郵政の社外取締役に留任した。JPS(郵政版トヨタ方式と称する極限的労働強化)攻撃の元凶が、このどさくさで留任したのだ。多くの報道とは裏腹に、郵政民営化路線は貫徹されているのだ。
 全国の職場における資本当局と現場労働者との階級対立は、民主党政権のもとで、今後再び、新たな装いで激化していく以外にないのである。
 「ミスター大蔵省」が日本郵政の経営権を掌握したこと自体には大きな意味がある。際限なき国債の増発と大増税だ。

 小沢と財務省の経営権奪取

 小沢ブレーンの一人、元大蔵省財務官の榊原英資は、「国の財政は破産しているが、日本には1400兆円も金融資産があるので国債はいくら増発しても問題ない」と提言している(日経ビジネス)。自民党体制下でブルジョアジーどもがさんざん食い物にして破綻させた国家財政を、労働者人民の虎の子の貯金で穴埋めすれば良いとの理屈だ。その原資は、いまだ世界最大規模の預金量である「ゆうちょ」と「かんぽ」なのだ。
 しかし国と地方の借金は1000兆円に迫り、返済はおよそ不可能だ。どうするか? その次に確実に襲いかかるのは、とてつもない大増税攻撃である。財務省が日本郵政の経営権を握るような人事を新政権が強行したもう一つの意味はここにあるのだ。
 小沢・鳩山=民主党・連合政権は、早くも労働者人民からの無慈悲で極限的な収奪を予告したのである。

 非正規職の激増を承認 JP労組本部は資本の手先

 民営化後の郵政職場は要員削減などで労働密度が「誇張なしに3倍」になった。ほとんどの職場で違法な「自爆営業」や時間外のただ働きが強要されている。半年単位でいつ首を切られるか分からない非正規雇用が、すでに郵政職場の6割にも達する。深夜勤の連続による健康破壊は限度を超え、過労死が多発する職場すら増えている。
 「郵政民営化委員会」の委員だった大田弘子(安倍内閣の経済財政担当相)は「郵政事業は、株式を売れるだけの価値があるかどうかが最大の心配事だった」と公言しているが、「民営化」で彼らがやったことは、人員削減と非正規職化を柱とする人件費の徹底削減と猛烈な労働強化で「利益をだす」ことだった。
 非正規職労働者は郵便事業会社だけで16万人を超えた。当局は「一人の正社員を非正規職に置き換えるだけで人件費が年間500万円浮く」と社内資料で公言している。16万人分で8000億円の賃金を横取りしてきたのだ。「非正規職化」とは、これほど劇的な賃下げなのだ。賃下げというのも適当ではない。不払い労働分を全額搾取した上に、生命体として生きられる最低限の賃金からさらにピンハネしているのだ。控えめに言っても、現場労働者はこれだけの賃金を直ちに実力で奪い返す権利がある。
 民営郵政は、初年度からグループ全社で4000億円以上の利益を計上しているが、文字どおり現場労働者の生き血を吸った「利益」だ。自爆営業も組織的に行われている。全社員25万人に一人1万円のノルマを課すだけで25億円の売り上げという皮算用だ。こうして郵政資本は株式上場をめざし、一国を動かすほどの巨額の郵政資産を強奪する計画を進めてきた。これが民営化なのだ。日帝支配階級にとって、民営化路線の撤回などあり得ないのである。

 労働運動内の資本家の手先

 問題は、この許し難い搾取と収奪が、御用組合=JP労組中央の全面的な裏切りと協力によって可能になったことだ。彼らは民営化による労働強化にも、自爆営業にも、時間外のただ働きにも、深夜勤導入にも、闘うどころかすべてに積極的に協力してきた。
 そして彼らは09春闘で「スト絶滅宣言」まで出して資本に忠誠を誓い、意を決して闘いを始めた者に「組織破壊者」のレッテルをはり、闘いをつぶすことに組織の全力を挙げてきた。彼らは完全に「労働運動内部のブルジョアジーの手先」(レーニン)となった。
 非正規職のとめどない拡大も、JP労組中央の承認によって初めて可能となった。彼らは組合員に対して、表向きは「正社員登用の拡大に努力する」と強調し、「年間で2000人の正社員化を実現した」(6月JP労組大会での委員長報告)などと語る。しかしその裏で、年間数万人の非正規職への置き換えを、言葉の上での抵抗もなく、1時間のストも打たず承認してきた。これが「中央交渉」の実態なのだ。
 その行き着く果てが、「戦略事業」と銘打ったJPEX計画(小包部門の子会社化と強制出向をとおした大合理化計画)への全面協力だった。中身は悪名高いSD制(セールスドライバー。配達員が「自己責任」で営業を兼ねる)を中心に、8割の社員の非正規職への置き換え、労働時間は青天井、病気休暇も身分保障もなしの半年〜1年雇用契約などだ。
 このすさまじい労働強化と合理化計画に、JP労組中央は「反対」の声も出さず協力し、強制出向の強要(肩たたき)まで自らの手を染めた。
 10月のJP労組中央委員会では、民主党・連合政権の「郵政見直し」に対して「民営化推進」を労働組合の名のもとに要請するという醜態をさらした。もう完全に破綻したJPEX計画さえ「推進の基本方針は変更しない」と明言した。郵政労働者25万人に対する全面的な敵対宣言である。
 しかし、全国の現場労働者が、このJP労組中央の度し難い屈服と裏切りを突き破って、3年間にわたる職場での抵抗闘争を組織し、反乱を粘り強く拡大し、強制出向拒否の広範な意思表示を組織し、SD要員確保を破綻させ、ついにはJPEX計画そのものを完全破綻に追い込んだことは決定的な勝利の地平だ。
 年末年始の繁忙期を迎え、現場の怒りは臨界点を超えつつある。ランク&ファイル運動が労働組合を現場労働者の手に取り戻す闘いは、資本や御用組合のいかなる分断と抑圧もぶち破る力を着実に蓄えている。民営郵政打倒・JP労組中央打倒へ総進撃を!