2010年4月 5日

ギリシャ以上に深刻な日帝

週刊『前進』08頁(2434号4面2)(2010/04/05)

ギリシャ以上に深刻な日帝

 恐慌対策で財政破綻へ

 ギリシャ政府の財政緊縮政策に対して、労働者階級は巨大なゼネストで反撃に立ち上がった。国家財政の危機に伴う攻撃が革命情勢を引き寄せているのだ。ヨーロッパ全体への危機の拡大と並行し、ストライキの火も全ヨーロッパに拡大している。
 資本主義の歴史上かつてない規模の大恐慌に対して、世界各国の政府は2年間で10兆㌦(約1000兆円)を超える大量の国債を発行し、世界各国の中央銀行は大量の資金を市中に流すことで、崩壊を1日でも先送りしようあがいている。だが問題は、その「恐慌対策」こそがより深刻な事態、想像を絶する崩壊へと導いていることだ。

 利払いが税収超える事態に

 何をもってしても現在の恐慌の進行を止めることなどできない。国家財政による「買い支え」=財政投入が息切れした途端に、恐慌は一気にその本来の姿を露呈せざるを得ない。資本家の政府としては国債の発行を続ける以外にないが、それは全世界で国家財政を破綻させる。恐慌対策が恐慌を激化させ、国家の破綻をとおして社会の崩壊が現実のものとなる。
 労働者階級の怒りはストレートに政府・国家に向かう。プロレタリア革命以外に生きる道のないことがますますはっきりしてくる。
 ヨーロッパで起きていることはまだほんの始まりにすぎない。実際のところ、地球を破壊するような崩壊のエネルギーをため込んでいるのは、日本とアメリカ、そして中国の3カ国だ。
 しかも国家財政破綻に絞って見た場合、日本の危機が飛びぬけて切迫している。3月7日付朝日新聞は「日本破綻まであと10年もつかどうか」と報じた。1月1日付日経新聞は、「19年度には国債利払いだけで44兆円に達する可能性がある」というJPモルガン証券の試算を紹介している。利払いだけで税収を上回る事態が迫っているというのだ。
 「税収を増やすには景気回復しかないが、景気回復で金利が上がれば国債の利払いに行き詰まる」「ご指摘のとおりだ。答えはないが、考える」。これは参院予算委における民主党議員の質問と菅財務相の答弁だ。
 日帝ブルジョアジーは大量解雇と大増税に踏み切る機会をうかがっている。それこそ自民党にはできなかった民主党の役割であり、帝国主義的労働運動の指導部=連合を政権内に取り込んでいる意味もそこにある。
 だが根底には空前の世界大恐慌がある。たとえブルジョアジーがそれらの攻撃を貫徹できたとしても、すでに間に合わない。大恐慌は、それ以上に抑えがたい力で労働者階級の革命への決起をつくりだす。

 円暴落や大インフレも

 その上でここでは、問題を日本の国家財政危機の現実に絞って検討を進めていきたい。
 第一に、2010年度予算は、総額約92・3兆円、税収見込み約37・4兆円、国債発行約44・3兆円となっている。その他収入の約10・6兆円は、大半が特別会計の積立金の取り崩しであり、今年限りの収入である。
 ところがこれはあくまで当初予算であり、きわめて楽観的な「見通し」にすぎない。すぐさま補正予算による国債増発が不可避となる。ちなみに09年度の総額は、当初予算88・5兆円に対して補正102・5兆円。税収は当初見込み46・1兆円に対して36・9兆円。国債発行は当初予算33・3兆円に対して53・5兆円にのぼり、税収の1・4倍を超えたのだ。
 今年度のギャップはもっと大きくなる。資本を救済するためには財政規律にかまってなどいられない。「どの国から先につぶれるのか」という国際的な保護主義競争に、いよいよこれから本格的に突入するからである。
2010年度予算こそ、日本帝国主義が崩壊への不可逆の道に踏み込んだ道標となるのである。
 第二に、日本の国家財政は以前から借金を膨らませ続ける構造を身につけてしまっていた。すでに臨界点に達しようという危機的状況の中で大恐慌を迎えたのだ。

 政府の借金で大資本を救済

 バブルの後遺症と97年アジア通貨危機などが絡み合う中で日本の銀行が次々と破綻する事態に対して、政府は2年間で10兆円を超える公的資金の銀行注入をはじめ、大幅な企業減税、租税特措法の乱発、金融収益への減税など、大規模な資本救済を行い、そのために98年、前年度の2倍近い34兆円の国債を発行した(前年に消費税率を5%に増税)。この時は「特例」だと強弁したが、以降、それが構造化した。
 背後には膨大な過剰資本の蓄積があり、政府が借金で支えることでかろうじて破綻を先送りしてきたからだ。その結果、債務残高は加速度的に積みあがって1000兆円に迫り、対GDP比は197%に達する。アメリカの92%、ギリシャでさえ111%だ。その異様さは際立っている。
 数年来の異常な低金利においても現在の利払いは年10兆円であり、債務残高に伴って上昇していく。さらに金利が1%上がるだけで10兆円増加する。ギリシャの例でも明らかだが、国債の信用に揺らぎが生じるだけで金利は上昇する。それによって実際に返済不能に陥ることになる。なにしろ負債の元本が大きすぎるのだ。その状況を恐慌が直撃したのである。
 アメリカでは、サブプライムローンに象徴される略奪的消費者金融によって過剰資本の露呈を先延ばししてきた。日本ではその役割を政府の借金が担ってきた。それがついに限界に達し、同時に破裂する事態に入ったのだ。
 第三に、国債保有者の側面から検討したい。国債の破綻によって何が起こるのか。
 アメリカ国債はその50%が外国人の保有であるのに対し、日本国債の外国人保有は7%だ。93%は国内に保有者がいる。内訳は日銀8・3%、銀行(ゆうちょ銀を含む)42・2%、生損保(かんぽ生命含む)19・1%、年金15・5%など(08年末時点)。
 実体経済が縮小していく中で投資先がなく、量的緩和であふれた資金が国債を買い支えるという皮肉な構造が生まれているのだが、それが飽和状態に達しつつある。公的年金などは運用損を埋めるために国債を売り始めているし、ゆうちょ銀はその資産の8割近くを国債で持っている。銀行の「国債リスク」も限界を越えてきた。
 予算で国債発行といえば新規債を指すが、実際に市場で募集されるのは借換債の方が大きく、10年度の当初発行計画は合計162・5兆円で、200兆円を超える可能性さえある。これを毎年買い続ける余力は日本経済に残っていない。「売れ残り」が出た瞬間がジ・エンドなのだ。
 国債暴落の瞬間、先に述べた全機関の資産が崩壊する。銀行や郵貯は払い戻し不能となり、年金は支給できなくなる。預貯金や年金保険料は資本家のもうけのために使い尽くされ、犠牲になるのは労働者人民なのだ。
 さらに深刻な問題は、58兆円の国債を保有する日銀にある。日本銀行券の信用が崩壊するのだ。「円」の大暴落である。敗戦直後を上回るハイパーインフレが人民を襲い、食糧、エネルギーをはじめ輸入が途絶する。

 大恐慌を革命に転化しよう

 これ以外のコースはない。ではブルジョアジーはこの破綻を自覚していないのか。そうではない。彼らは十分自覚し、労働者人民への犠牲の強制をもっと早くもっと大きくと主張している。
 彼らにとって資本主義社会を維持するということは、社会がどうなろうと資本家の利益を守ることなのだ。彼らは、労働者一人ひとりを鎖でつないで土嚢(どのう)がわりに並べ、「津波」を防ごうとしている。それでも破局が来るというなら、そのときは非常時だと。国家権力の本来の姿、暴力が前面に現れる。戦争とむきだしの弾圧が。
 戦争と改憲、労組破壊と闘い、大恐慌を革命に転化しよう。労働者が生きる道はここにある。
 (野沢道夫)