2009年12月 7日

小沢『日本改造計画』を斬る

週刊『前進』08頁(2419号7面2)(2009/12/07)

小沢『日本改造計画』を斬る
 90年湾岸危機敗北を教訓に強権支配と戦争国家めざす

 自民党支配の歴史的崩壊の日となった8・30総選挙と鳩山政権の成立から3カ月。鳩山政権の実際上の最高権力者は鳩山由紀夫ではなく、小沢一郎・民主党幹事長であることがはっきりしてきた。重要な政策は小沢を抜きでは決まらない。鳩山政権下で小沢路線が貫徹されているのだ。小沢路線は1993年の自著『日本改造計画』で明らかにされている。小沢は今日もこの路線を貫き、実現しようとしているのだ。小沢こそ最大の打倒対象だ。権力を握った小沢の狙いを明らかにしたい。

 鳩山政権の実権を握る小沢

 民主党政権は小沢・鳩山=連合政権である。「小沢グループ」は民主党内で最大の政治グループであり、固い結束力をもって小沢の指示どおりに一糸乱れず行動する。多数決原理主義者の小沢は全員一致のための意見調整や合意形成を追求しない。多数派の小沢の意思どおりに決定され、少数派は不満を残す。
 小沢は、鳩山が議長を務める行政刷新会議の事業仕分けのメンバーとしていったん選ばれた1年生議員14人を引き揚げさせた。鳩山が仕分け議員32人を官邸に集めて激励した10月22日、小沢は「人選に問題がある」「来週から新人研修がある」と言って新人14人を辞めさせた。
 そもそも「選挙に強い」小沢なくして8・30の民主党大勝も起こり得なかった。鳩山が政府首班に納まっていられるのも、小沢が党を一手に引き受けているからだ。
 だが小沢の議会制圧はまだ道半ばだ。小沢は、小沢グループをとおして民主党=政権党を自由に動かし、民主党をとおして政治(議会と内閣)を動かそうとしている。それを実現するための最大の課題が来年の参院選での民主党の勝利だ。参院でも単独過半数を獲得し(現在の109議席に14議席を上積みする)、民主党政権に盤石の基盤を与えることだ。
 そうすれば、国民新党や社民党との連立協議など一切不要になり、民主党路線、いや小沢路線を思いどおりに貫徹することができる。小沢・鳩山は、数の力であらゆる反動立法を通そうとするだろう。その一端は11月下旬の議会運営でも示された。政府提出の12法案を成立させるため、自公欠席のまま委員会での強行採決を繰り返した(9法案が成立)。
 参院選で民主党が圧勝したらこの比ではない。200〜300人の小沢グループの力で「一党独裁」「小沢独裁」体制を敷けるのだ。

 首相の独裁権力確立が目標

 ここで想起されるのが『日本改造計画』だ。この中で小沢は「強固な権力基盤」を基にして「55年体制の下での因習や悪習によって事実上封じこめられてきた首相の権力を解き放つ」「明確な使命感と権力意思を持ち、かつ勇気を持って実行していく政治家が首相の座にすわるべきだ。そのリーダーシップを支えるために制度の改革が必要である」と述べた。首相が強力なリーダーシップ=独裁権力を振るうのが本来の議院内閣制だということだ。
 その政治制度改革として小沢は「首相官邸機能の強化」「与党と内閣の一体化」「小選挙区制」などを挙げた。このうち小選挙区制は、細川政権のもと94年3月に法制化された。06年9・11「郵政選挙」では小泉・自民党が大勝した。今年8・30総選挙では民主党が大勝した。2大政党のうち一方が大勝し、中間政党、小政党がますます没落する。現に、社会党は解散に追い込まれ、社民党も極小化した。
 これは小沢の信条である多数決原理の貫徹につながる。小沢は『日本改造計画』で、自社による55年体制が少数意見の尊重と満場一致、合意形成を追求する「ぬるま湯」的体質に安住したため、90年湾岸危機に対応できなかったと総括し、特に「国連平和協力法案」が少数派の社会党の反対で成立しなかったことを嘆いている。
 首相官邸機能の強化も、首相官邸の新築、内閣府設置、首相補佐官導入などが自民党政権下で一定程度実現された。
 鳩山政権下での当面する焦点は「与党と内閣の一体化」だ。これは「政治主導」「脱官僚依存」などをスローガンに進められている。鳩山内閣では、国家戦略室(国家戦略局にする予定)、行政刷新会議が新設された。大臣に加えて副大臣、政務官の「政務三役」が各省庁を牛耳る体制を強めた。政策決定を内閣に一元化し、議員立法をやめ、官僚による政策関与を封じるのが狙いだ。政府に入る与党議員を百数十人に増やす。そこから取り残された政府外議員はただの投票マシンと化す。結局、与党が内閣—政府省庁を一元的に支配する。
 小沢は10月、官僚答弁の撤廃などを盛り込んだ国会改革案(国会法改正案)を提起した。「与党と内閣の一体化」の一環だ。小沢は「国会論戦を政治家同士のものにする」ためだと正当化を図る。前述のように、90年湾岸危機の際、自民党幹事長だった小沢が成立を目指した国連平和協力法案は、内閣法制局が自衛隊の派遣条件を厳しくとらえる憲法解釈を曲げなかったため、廃案に追い込まれた。小沢は『日本改造計画』で「政府を支えるべき内閣法制局が従来の見解に固執して政府答弁が食い違ったことがある。本来の権力のあり方からすれば無責任のそしりを免れない」と言っている。官僚は政府・与党のロボットでなければならないというわけだ。
 98年秋、小沢が自由党党首として小渕政権と連立合意した際も、法制局長官を含む官僚答弁の禁止を政策合意の筆頭に挙げた。自民党は「法制局長官の国会出席は必要だ」と譲らず、「政府補佐人」とすることで小沢と妥協した。
 官僚答弁の禁止を執拗(しつよう)に追求する小沢・民主党の狙いは明らかだ。安保問題でのこれまでの政府見解、憲法解釈の限界を突破し、集団的自衛権行使、恒常的海外派兵、武力行使への道を開くことであり、改憲情勢をつくり出すことだ。

 小沢「普通の国」路線粉砕を

 『日本改造計画』発表から16年以上たつが、ここで小沢が述べた問題意識、課題を小沢は今日も基本的に維持している。
 一つは90年湾岸危機の教訓だ。日帝は米帝に次ぐ経済大国でありながら、「一国平和主義」に陥り、湾岸戦争に軍隊を送ることができず、国際的に脱落した。日帝は争闘戦での敗退、存亡の危機に立たされた。自民党は戦争の危機にまったく対応できなかったのだ。これを突破しなければならないというのが小沢の一貫した問題意識だ。
 二つは「普通の国」路線だ。日帝はもはや日米同盟に依存して安保・防衛問題から自由に自国の経済的繁栄を追求するだけでは済まされない、「国際貢献」を果たして大国としての責任を全うできる「普通の国」にならなければならない、と主張する。
 その実現条件は、①首相のリーダーシップの確立、与党と内閣の一体化、小選挙区制、②国連中心主義、日米安保体制の相対化、憲法9条改悪、自衛隊の「国連待機軍」化、③規制緩和・民営化、地方分権・300基礎自治体=道州制だ。これらを実現・整備し国のかたちを変えなければならない、という。
 小沢の目指す「普通の国」とは、首相の独裁権力のもと、自衛隊が軍隊として日米安保に頼らず日本を防衛し、海外派兵と武力行使を自由にやる国家だ。これを実現するのが小沢・民主党の役割なのである。
 小沢路線と労働者階級—階級的労働運動との激突は不可避だ。だが民主党と鳩山政権は連合の組織力に大きく依存している。ここに弱点がある。連合の実体は労働組合、労働者だ。労働者階級は怒りを爆発させ決起を開始している。連合=帝国主義的労働運動を内側から覆し、階級的労働運動を大きく前進させ、小沢路線を打ち砕こう。