2010年3月 1日

深化・発展する大恐慌 ギリシャ・EUの財政破綻は危機の新段階 雇用・輸出とアジア勢力圏化めぐる保護主義と日米争闘戦 島崎光晴

週刊『前進』08頁(2429号7面1)(2010/03/01)

深化・発展する大恐慌
 ギリシャ・EUの財政破綻は危機の新段階
 雇用・輸出とアジア勢力圏化めぐる保護主義と日米争闘戦
 島崎光晴

 世界大恐慌は現在、ギリシャ・EUの財政危機・対外債務問題の噴出という形で深化し、発展している。08年以来、巨額の財政資金を投じた未曽有の恐慌対策がとられてきたが、その矛盾が全世界で次々に爆発しはじめた。日本国債の暴落、ドル暴落も必至だ。大恐慌の進展は、大失業と戦争を一段と加速させている。帝国主義間・大国間の争闘戦の激化、何よりも保護主義の強まりが戦争への動きをますます促進しつつある。今回はオバマ一般教書、自動車戦争、アジア争奪戦の三つで日米争闘戦をみていく。「国鉄決戦に勝利し世界革命へ」という大旗のもとに、3・20闘争を〈戦争・改憲、民営化・労組破壊>攻撃との闘いとして高揚させよう。

 オバマの輸出倍増計画 通商戦争に火を付ける

 まず重大なのは、オバマが1月の一般教書演説で「5年間で輸出倍増」計画を打ち出したことである。それで「200万人の雇用創出」と称し、具体的な国家輸出戦略をつくろうとしている。
 5年間で輸出を倍加するためには、毎年15%ずつ輸出が増えつづける必要がある。仮にオバマが言うように韓国や南米諸国との自由貿易協定(FTA)が承認されたとしても、これほどの伸びは実現できない。ありうるとすればただ一つ、すでに他国資本が押さえている市場を奪い取るしかない。つまり通商戦争であり、市場の再分割だ。
 通商戦争の対象は、日帝は当然として、オバマが名指しした中国、ドイツ、インドなどである。しかし、相手がやすやすと再分割に応じるはずもない。激しい対立となる。この激突で優勢に立つためには、相手を米自身の市場から締め出すしかない。つまり保護主義を強めるということだ。
 米大統領が、これほど露骨に輸出増大計画を出したのは例がない。アメリカ帝国主義が世界市場の再分割と保護主義を宣言したものとして、歴史的な出来事だ。
 そこには基軸帝国主義としての激しい没落がある。90年代以来の借金増加を伴った過剰消費の時代は、住宅バブル崩壊で終わってしまった。国外から資金を取り入れて米国で増殖させ、それを対外投資して利益をあげる、という「金融帝国」的なあり方も、リーマン・ブラザーズ破綻などで破産した。しかも、GMやクライスラーは破産法の適用を受けたが、会社が清算されたわけではなく、生産能力はますます過剰になりつつある。そうした過剰資本状態を打開しようと、輸出に突進しているのだ。

 30年代には保護主義から戦争へ

 1930年代の世界経済のブロック化でも、保護主義政策を最も早く採用したのは米帝だった。30年にホーレー・スムート関税法を制定し、輸入関税を4割強も引き上げた。これはフランス・イタリア・カナダなどの報復的な関税引き上げを呼び起こし、世界は激烈な関税戦争に突入した。
 最も植民地を持っていたイギリスは、32年のオタワ協定で保護主義を植民地・勢力圏にまで拡大した。これで世界経済は一気にブロック化していった。これにより32年に世界貿易は恐慌前の3分の1に縮小。それが世界大恐慌を本格化させる原因となった。そして、これらすべてが第2次大戦へと行き着いた。保護主義の結末は世界戦争だ。
 米帝は再び、保護主義と世界市場の再分割で世界戦争に火を付けようとしている。しかもそれを「雇用創出のため」と称し、排外主義を伴う保護主義に踏み切っている。

 トヨタ車リコール問題 再び日米自動車戦争に

 日米争闘戦で現在の最大焦点となっているのが、トヨタ車のリコール問題である。基幹産業である自動車をめぐって、再び米帝の対日争闘戦が爆発しはじめたのだ。
 歴史的に振り返ると、80年に自動車生産で日本が米を抜いて世界一となり、80年代には日米自動車戦争が激化した。その後、日本の自動車メーカーは米現地生産を拡大して対応した。05年度には、日本車の海外生産台数が国内生産台数を上回った。
 また、日本企業に不利になる米法案を阻もうと、日本企業は米国で大量のロビイストを雇い、その数の多さから「ワシントンで共和党、民主党に次ぐ第3の政党」とまで言われた。特にトヨタは04年に、米自動車工業会の専務理事をしていた大物ロビイストをワシントン事務所長に招き、米政界への働きかけを一段と強めてきた。トヨタはそうやって米政界内を買収してきたのだ。
 しかし日本資本のこうしたあくどいやり方はもはや通用しなくなった。大恐慌の進展、GM・クライスラーの経営破綻と政府管理、米自動車市場の縮小(07年の約1600万台から09年の約1000万台に)、日本メーカーの米国シェアの上昇(09年は主要3社合計で35・4%)などから、米帝は日帝への自動車戦争を仕掛けはじめたのだ。
 日本の自動車資本には大打撃となっていく。すでに1月の米新車販売台数で、GMやフォードが前年同月比で2ケタの増加を示したのに対し、トヨタは15・8%もの大幅減となり、11年ぶりに10万台を割り込んだ。GM・フォードは、トヨタ車から乗り換えた顧客に約9万円を値引きするキャンペーンを始めた。トヨタの輸出も海外生産・販売も瓦解するのは必至だ。トヨタの崩壊は日帝の破滅にほかならない。

 大合理化を重ね「欠陥車」を量産

 だが、これはトヨタ車リコール問題の半面にすぎない。トヨタなど日本の自動車資本の安全無視が劇的にさらけ出された。利益のためなら事故が起きようとかまわない。JR検修外注化とまったく同じだ。トヨタが「安全」と言うのは、そう言わないと売れないからにすぎない。トヨタは日本資本の中心であり代表であり、日帝そのものだ。こういう資本家階級と日帝は、一刻も早く打倒しなければならない。
 今回のリコールはアクセルとブレーキという、自動車の安全にかかわる最も重要な部分で起きている。車が突然加速して制御不能になるというのは、致命的な欠陥だ。99年以降でアクセルペダルの不具合による米国での事故は824件、負傷者341人、死者34人にも上る。しかし、トヨタは一貫して欠陥を認めず、隠そうとした。
 しかも、今回のリコール(自主改修を含む)は世界全体で1000万台を超す。プリウスというトヨタの戦略車も含まれる。トヨタは自動車で世界一になったというが、要は欠陥車を増産してきたのだ。
 そういう欠陥車を、1960年代からえんえんと合理化を繰り返して造ってきたのだ。トヨタこそ、日本資本の合理化の先頭ランナー、元凶だ。カンバン方式(在庫ゼロ方式)、カイゼンという名の合理化(米国でもカイゼンと呼ばれる)、QC(品質管理)サークルという企業内小集団の組織化、膨大な下請け会社への矛盾と犠牲の押し付け(下請け型の外部委託・外注化)など、すべてトヨタから発している。労働者階級にとってこれほど許し難い資本はない。この怒りを全職場での反合理化・安全闘争に転化しよう。

 日帝のアジア輸出・投資 利益の半分が海外法人

 アジア市場をめぐっても、日帝・米帝・中国の争闘戦が激化している。
 日本の名目国内総生産(GDP)は昨年に約475兆円と、1991年の水準まで落ち込んだ。膨大な過剰生産能力を抱え、昨年7〜9月期には58兆円もの供給過剰である。ここから資本として生き延びるために、ますます商品と資本の輸出にのめりこんでいる。しかも、アジアが“生命線”となっている。
 輸出では、09年に中国向け輸出が米国向け輸出を初めて上回った。昨年11月には、輸出額のうちアジア向けが54%を占め、米・欧向け合計の29%の2倍近くにもなった。米欧向け輸出が激減したままなのに対し、アジア向け輸出は08年のリーマン・ショック以前の水準を回復している。
 さらに日本資本は、利益の半分を資本輸出=海外投資で稼ぐ構造と化している。08年度の日本企業(890社)の海外現地法人の売上高(日本からの輸出含まず)は全体の36・2%だったが、営業利益は52・5%と半分を突破した(グラフ参照)。特にアジア・大洋州(オセアニア)地域の営業利益が全体の39・4%になった。海外部門の売上高や利益はGDPに含まれないため、GDPだけを見ると輸出が目立つ。しかし日本資本は、輸出を担う国内部門より海外部門の方が多く稼いでいる。しかも利益の4割がアジアだ。
 国際収支でも、輸出より海外投資で稼ぐ構図になっている。09年は貿易収支黒字4・1兆円に対し、所得収支黒字12・3兆円と後者がはるかに多い。所得収支黒字とは、海外の子会社からの利益や、海外投資して保有する株式・社債の配当金・利子による収入。05年以来、所得黒字が貿易黒字を上回っている。レーニンが『帝国主義論』で指摘したように、資本輸出による利益で成り立つ〈寄生的な帝国主義>そのものだ。
 別表のように日本資本の対アジア投資は一段と拡大している。自動車・電機などの輸出型産業だけでなく、鉄鋼・化学・製紙のような素材産業、食品・化粧品・卸小売などの内需型産業もアジアへの投資に延命を求めようとしている。
 日帝の海外権益はこれほどまでに大きい。ちなみに、日本企業が海外で雇用している労働者は、中国だけで1000万人を超える(『ニューズウィーク』2・10号)。

 海外権益の護持かけ戦争と改憲

 日本経団連は05年に改憲提言をした際に、「グローバルな活動を進めるわが国企業」の権益が「脅威」にさらされている、と言った。海外権益を失うと日本資本も日帝も崩壊してしまう。だから日帝は、海外権益を守るため猛然と戦争・改憲に突っ込んでいるのだ。
 しかし、これほどアジアを“生命線”としていながら、日帝はアジアを勢力圏として囲い込めていない。逆に、FTA締結合戦で米帝や中国に負けている。さらに今、米帝オバマ政権はアジア政策を再強化し、アジアで日帝・中国との争闘戦を強めつつある。
 オバマは昨年11月の訪日時に、「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」への参加を表明した。TPPはシンガポール・ブルネイ・ニュージーランド・チリが中心の機構だ。
 現在のアジアの枠組みとしては、日米とも加わる「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」、中国の主導権が強い「ASEANプラス3(日中韓)」、これにインド・オーストラリアなどを加えた「東アジアサミット」がある。米帝はこれらとは別に、日帝と中国を排除した米・アジア・中南米の経済圏づくりに動きだしたのである。
 日帝・鳩山政権の「東アジア共同体」構想を吹っ飛ばすのが最大の狙いだ。ASEANでもこの米帝の動きに同調する国が現れはじめている。この間、アジアでFTA締結合戦が展開されてきたが、今や勢力圏構想の激突という新しい次元に入った。日帝がますます「最弱の環」に転落していくのは必至だ。
 日帝はいよいよ戦争・改憲以外に生きられなくなる。海外への侵略戦争も国内での階級戦争も、大恐慌下での資本の延命のためにある。どの職場でも労働者を強搾取している日本の資本家連中が、同じ資本の利益のために侵略戦争を拡大しようとしているのだ。労働者階級の国際的団結で打ち破ろう。
 『俺たちは鉄路に生きる3』で動労千葉の田中康宏委員長が書いているように、反合闘争と反戦闘争は「メダルの表と裏」(83㌻)だ。動労千葉からさらに学んで、検修外注化阻止・1047名解雇撤回の国鉄決戦を基軸に、反合闘争と反戦闘争を一体で闘う階級的労働運動を前進させよう。3・20闘争の爆発をかちとろう。
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 日本企業の主な対アジア投資(09年11月〜10年1月の発表分)
自動車 09年の中国生産が米国生産上回る
    日産の中国販売が国内販売上回る
半導体 エルピーダメモリ、台湾4社と提携し世界シェア21・4%に
電機  東芝、中国で量販店を1500店に拡大、家電量販店数シェアで50%に
鉄鋼  新日鉄・JFEスチール、インドで自動車用鋼板を生産
化学  塩化ビニール最大手の東ソー、中国の生産能力が国内上回る
製紙  王子製紙、中国で最大規模の紙パルプ工場を建設中
鉄道  ベトナム政府が東南ア最大の高速鉄道に日本の新幹線方式を採用
通信  NTTデータなど、ソフトのシステム開発を中国・インドに委託
食品  ビール・菓子の現地生産の拡大
化粧品 資生堂、ベトナムに敷地面積10万平方メートルの工場新設
卸小売 伊藤忠商事、中国の日用雑貨卸企業を買収し卸売りで中国最大手に
    セブン&アイ、中国でコンビニを500店以上に拡大
広告  電通、中国最大手の広告体に出資