軍事介入も行い強大国として責任とる ドイツ大統領が超重大演説

週刊『前進』06頁(2623号04面05)(2014/03/10)


 軍事介入も行い強大国として責任とる
 ドイツ大統領が超重大演説

ヒトラーをほうふつさせる発言

 1月末、ドイツ南部のミュンヘンで、米英独仏日露、イラン、トルコなど60カ国の外務大臣、国連、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)など十数の国際機関関係者が参加して、毎年恒例の安全保障会議が開かれた。日本からは岸田文雄外相が出席した。
 開会にあたりドイツのガウク大統領が「世界におけるドイツの役割」と題して演説した。ここで「ドイツは全世界のあらゆる出来事に関心がある」「場合によっては軍事介入をも行って、強大国としての責任をとる」と宣言した。「ベルサイユ体制打破」を唱えたヒトラーを彷彿(ほうふつ)させる。ガウク演説は、戦後世界体制の枠をこえることを公然と表明し、世界大恐慌下の帝国主義間・大国間の争闘戦を先鋭化させるものである。ガウク発言の要旨は次のとおり。
 ▼「東西統一を達成したドイツは今やヨーロッパで、世界で、信頼されたパートナーであり、その権利と責任を持っている」「現在のドイツがあるのは、近隣諸国との友好―ヨーロッパ統一(EU)を国家目標として掲げ、北大西洋の防衛の同盟国としてのアメリカとの絆(NATO)を堅持しているおかげである」
 ▼「世界はいま深刻な変革のなかにあり、安全保障問題が死活的な課題となっている」「このような重大な瞬間において、唯一の超大国(アメリカ)が、この状況にどう関わるかについて考えあぐねている」「アメリカとの同盟関係を問題にするつもりはない。しかし、アメリカの制度疲労と先行き不安は明瞭である」「このような流れのなかでドイツは今までどおりにやっていればいいのだろうか」
 ▼「世界大戦の直後、ドイツの強大な国際的役割などということを言う人はいなかった。しかし、東西統一後のドイツは、国際的な安全保障制度から恩恵を受ける立場から、それを担う立場に一歩一歩変わってきた」
 ▼「われわれは全世界の出来事に関心がある。われわれは世界のさまざまの紛争から身を引いているわけにはいかない。時には軍事的介入が必要となることもある」
 ▼「これまで、ドイツは臆病者で重大問題に直面するといつも問題を避けてきた、と言われてきた」「われわれの間にはドイツの歴史的犯罪(ナチズムのこと)の陰に隠れて世界の現実から逃れたり、安眠をむさぼろうとする人たちがいる。しかし、現在のこのような状況において、行動を起こさないことは責任をとろうとしないことだ」
 ▼「ドイツの介入は憂慮を引き起こすか? いや、こうした介入はけっして力の誇示や〝独断専行〟ではない」「ドイツは世界情勢に強力に関われば関わるほど、よりよき友人、より頼りになる同盟者となるであろう」
 ▼「戦後世代のなかには、こうした国家のあり方について不信をもつ人びともいるであろう。しかし、このような不信の時代は終わったのだ」
 要するに、ガウク大統領は、世界大恐慌のただなかで没落するアメリカに代わって、大国ドイツが世界の政治・経済・軍事の領域で責任を果たすべきだと、世界の帝国主義政治家たちの面前で言い放ったのだ。

米帝没落情勢でドイツ台頭衝動

 この演説はガウク個人の暴走ではない。昨年9月のドイツの総選挙を経て年末に合意に達した大連立政権(保守党と社民党)の協定文書の主張そのものなのである。協定文書は「ドイツの未来のために」と題し、外交政策の原則として「ヨーロッパ最大の国家ドイツは、この大陸全体に対して責任を負っている」「われわれはヨーロッパ外の地域における安全と平和のための戦略的パートナーとして活躍していきたい」「ドイツは常任理事国として国連における責任を果たしていきたい」とうたっている。
 ドイツは、EUの基軸国としての位置を強化してきたが、世界大恐慌のもとでEU危機に揺さぶられ、輸出大国としての延命を、中国をはじめとするBRICS諸国との関係(商品・資本・資源市場)に大きく依存する方向に求めている。ドイツは中東欧およびロシアとの関係は他の帝国主義国と比べて最も緊密だ。一方、EUが隣接する中東・西アジア、アフリカなどの諸国との関係においては、フランスに主導権を奪われたままである。こうした状況からドイツにとって、敗戦帝国主義としての位置からの最後的な「断絶と飛躍」をとげ、「世界に冠たるドイツ」を復活させることが、死活的な課題となってきているのだ。
 同じ敗戦帝国主義としての戦後的制約と直面しつつ延命してきた日帝・安倍が、「積極的平和主義」と称して日米同盟の枠との激突を辞さず戦争国家への道を突き進んでいることと相呼応して、戦後世界体制の崩壊を決定的に促進し、帝国主義間・大国間の争闘戦を戦争へ向けてかぎりなく激化させるものである。
 現にドイツは、中央アフリカへの軍事介入をめぐって、フランスとの対立を深め、対米対仏の緊張も高まっている。ドイツ政府は1月、サウジアラビアに巡洋艦100隻を輸出すると発表した。

日独労働者の国際連帯発展を

 ミュンヘン市内では、3月1日、「ドイツはNATOの要となるな!」「人道主義の名をかりたドイツの軍事介入反対」「ガウクはわれわれの大統領ではない」などのスローガンを掲げ2千人を超える集会とデモが行われた。(その他『国際労働運動』3月号を参照)
 日帝・安倍政権を打倒し、ドイツ労働者との国際連帯を発展させよう。
(川武信夫)
このエントリーをはてなブックマークに追加