裁判員制度はいらない! 5・21市民集会へ 制度廃止へ今こそ闘おう  「大運動」呼びかけ人 高山俊吉弁護士が訴え

週刊『前進』06頁(2631号04面01)(2014/05/12)


裁判員制度はいらない! 5・21市民集会へ
 制度廃止へ今こそ闘おう
 「大運動」呼びかけ人 高山俊吉弁護士が訴え

 5月21日、東京・日比谷で「裁判員制度はいらない!大運動」の主催で市民集会が開かれる。呼びかけ人の高山俊吉さんに、現局面と5・21集会の意義を語ってもらった。(編集局)

(写真 高山俊吉さん 弁護士/裁判員制度はいらない!大運動呼びかけ人)

拒否が広がり破局必至

 裁判員制度が09年に始まって5年たちます。始まるまで何百億円もの国費を投入して大変な宣伝が行われましたが、制度は知られれば知られるほど嫌われていきました。09年の時点で、「やりたくない」という人がすでに70%にも上りました。
 11年1月に最高裁が行った世論調査では「やりたくない」人が84%になりました。そこに「3・11」が起きました。そのわずか2週間後に、最高裁長官が「被災地でも始められるところから再開する」と言いました。福島地裁の郡山支部などは建物が壊れている状況だったんですよ。
 最高裁長官の発言は、その時点で言っておかなければ、裁判員裁判が福島に限らずどこでもやれなくなってしまうことを恐れたためでしょう。
 裁判員裁判に参加することをみんなが嫌がっている。その状態がどんどん進んでいます。
 もう一つの現実は、裁判員裁判そのものの破綻です。もともと裁判員制度は「早く結論を出す」ことに大きな目的があるとされていました。ところが、実際には公判前整理手続きが長くなり、公判そのものも長引いて、結局裁判官による裁判の時代よりも、今のほうが起訴から判決までの期間は長くなってしまった。推進側にとっても制度目的が実現できていないことになります。
 それに、拒否する人が多い結果、裁判員は特異な人に偏るようになった。「裁判をやってみたかった」「刑事処罰にもともと関心があった」「死刑判決にかかわれてよかった」という感想を述べるような、どう考えても一般的な市民感覚ではない人たちが澱(おり)のように残った。
 そのことは裁判の中身そのものを大きく変えることにもつながった。徹底的な厳罰化です。
 また、裁判員裁判は裁判所の負担が大きいために、その仕事に職員が追われ、民事事件や家庭裁判所の裁判事務がその影響を受けて大変になっていると言われています。
 一言で言えば、裁判員制度はもはや破局、メルトダウンの状態にあります。しかし最高裁が「順調だ」などと言うものだから、ますます司法への信頼が落ちている。
 では、放っておけば消えるのかと言えば、けっしてそうではない。ゆがんだ形で継続し裁判を非常に悪い方向に持っていく。だから私たちの運動で絶対にこれをつぶさなければなりません。

高まる国家への不信感

 昨年3月に福島地裁郡山支部で、死刑求刑の強盗殺人事件の裁判に裁判員として参加された女性が、審理にショックを受けて食事もとれない状態になりました。裁判が続いた間、毎日吐いたそうです。死刑判決になって、すっかり体の調子がおかしくなった。幻覚、妄想、不眠などの外傷性ストレス障害(ASD)の急性期症状が今でも止まらない。
 問題は「血の海を見せられた」とか「凶器の包丁を見せられた」とかに収れんされません。彼女には、裁判員として人を裁き処罰することを強制されたことへの怒りが強くあります。ご自身、記者会見でそのことを語っておられました。
 彼女の訴訟は裁判員制度が国民から徹底的に嫌われる、大きな状況変化の引き金を引きました。今年1月には水戸地裁で、補充裁判員も含めて裁判員全員が辞めてしまい、裁判が成り立たなくなる事件が発生しました。今後、全国でこういうことがどんどん起きると思います。
 制度をつくった側は「裁判員制度は、国民に裁判に加わってもらうことによって国民の司法に対する理解を増進し、長期的に見て裁判の正統性に対する国民の信頼を高めることを目的とする」「現在の刑事裁判が基本的にきちんと機能しているという評価を前提として導入された」(『解説裁判員法』池田修著/弘文堂)と言っています。
 要するに、〝裁判員制度は国の司法が間違っていないことを国民に教え込むための制度である〟と言っているのです。
 ところが日弁連やマスコミや社民党・共産党などの「革新」政党は、制度導入時から「陪審制の一里塚」「主権者である国民が裁判に参加するのは当然」などと、何かよきものであるかのように宣伝してきたのです。5年間の裁判員裁判で、彼らのウソがはっきりしました。犯罪的な行為で、責任は重大です。
 国民に「日本の刑事司法は正統なものである」と再教育しなければならない理由は何か? それは、この国の基本的な構造に骨格的な破局が来ているからだと思います。国家に対する不信や批判がきわめて強くなった。国は、対処しないと大変なことになると考えた。だからこそ彼らは、司法や国家というものの権威性、「正統性」を強調し、国民の信頼をなんとか取り戻したいと考えているのです。
 04年から5年間の準備期間に、国の要請に積極的に応えて模擬裁判員の役を買って出たのは、東京電力や東芝など原発を推進していた基幹産業の社員でした。もちろん福島原発事故の前のことです。裁判員制度の推進に重大な利益や必要性を感じているのがどういう勢力であるかということが、ここによく表れていると思います。

(写真 昨年11月14日、180人が最高裁に向けてデモ)

反戦・改憲阻止と共に

 今、安倍政権の戦争・改憲政策に対する国民の危機感と反対意見は根強い。このまま強行すれば大変な反戦・改憲阻止闘争が起きる。だからこそ安倍政権は、裁判員制度がどんなに破綻しても、ちょっとやそっとでやめるわけにいかない。「やめます」といった途端に、取り繕っていたたががはずれて国家全体がおかしくなってしまう。だから裁判員制度をめぐる攻防は、激しくしのぎを削る「切羽の現場」になっているのです。
 裁判員制度を粉砕したら、国民の意識が日本の統治のあり方そのものの批判に向かっていく。まさに国家機構のやぐらの根元で、この攻防が展開されているのです。
 彼らは追い詰められています。日本だけでなく世界中の支配層はみんな同じ。余裕をなくして危機感でいっぱいです。民衆の広範な怒りと行動の高まりが敵の危機をつくり出している。このことに強い確信を持つことがとても重要です。
 5・21集会では、裁判員裁判とそれに反対し制度の廃止を求める運動の現状について、闘いの現場から報告していただきます。裁判所の現在についても明らかにしたい。裁判員制度が今や破局に来たことを確認し、それを今こそみんなの力でつぶそうと決意を新たにする集会です。みなさん、ぜひ参加してください。

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裁判員制度はいらない!市民集会
 5月21日(水)午後6時開場
         6時30分開会
 東京・日比谷公園 日比谷図書文化館B1階コンベンションホール
■発言
 福島裁判員ストレス国家賠償訴訟の現場から
  「つらい思いは私を最後に」
 高山俊吉さん(弁護士)
  「裁判員制度はいよいよ破局」
 遠藤きみさん(元裁判官・弁護士)
  「『絶望の裁判所』の先に」
 裁判員制度廃止活動の報告 ほか
 主催 裁判員制度はいらない!大運動

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