理研「STAP細胞」問題の本質はどこにあるのか

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週刊『前進』06頁(2631号04面04)(2014/05/12)


理研「STAP細胞」問題の本質はどこにあるのか


 STAP細胞研究をめぐって、今や「科学」そっちのけで、どんどん泥沼化が進んでいる。問題の背後にあるのは、前号の「団結ひろば」投稿にあったように、当該の小保方晴子氏の非正規職雇用に象徴的な、人の生命を非正規労働でもてあそぶ新自由主義そのものだ。
 したがってこれとの闘いの基礎は、青年労働者・学生を先頭とした新自由主義との職場・大学をめぐる闘いにある。

命も医療もみな金もうけの道具

 STAPとは刺激惹起性多能性獲得(幹細胞)の頭文字をとったもの。血液など動物の体をつくっている細胞に酸性の液体に浸すなどの刺激を与えることで、その細胞が例えば皮膚・血管・筋肉や骨など何にでもなれる細胞になる「万能性」を持つというものだ。
 ではこれは「夢の治療」を開くのか? いや、そうではない。難病の患者や家族の「なんとか治したい」という切ないまでの気持ちを利用して、実は医療を金もうけの道具にするものだ。
 ES細胞は人の受精卵の胚に別の細胞の核を入れて受精卵を臓器にする技術。つまりそのまま育てれば人間になる受精卵を「商品」にして売る、とんでもない技術だ。
 iPS細胞は体の細胞(例えば皮膚の細胞)に4種のタンパク質を入れて細胞を初期化し、新しい臓器の細胞をつくり出す技術。患者本人の細胞を使えるので拒絶反応を起こしにくい一方、ガン化しやすいと言われる。
 STAP細胞は、体細胞に刺激を与える(今回は弱酸性の刺激)ことで細胞を初期化する技術。患者本人の細胞を使え、異質なタンパク質を入れないのでガン化の危険が少なく、培養期間も短くて済み、成功率も高いとされた。すでに理研は昨年、STAP細胞の特許を出願しており、「論文を取り消す・取り消さない」は、この利権をめぐる醜い争いだ。

兵器産業よりも巨大な医薬産業

 世界の製薬産業規模は100兆円を超える。それは兵器産業よりも巨大であり、その利潤の核を特許料が占めている。日本はそのうち11%以上のシェアを持つとはいえ、年間約1兆4千億円もの輸入超過という帝国主義間争闘戦におけるまったくの敗北国である。
 英グラクソ・スミスクラインの医薬品の中には売上価格の4割の特許料を要求するものもあり、最近では武田薬品工業が米連邦裁判所の陪審で約6200億円の懲罰的損害賠償の評決が出されるなど、実に激しい。STAP細胞論文をめぐる激しい攻防は、まさしく日米欧帝国主義の利権争いである。
 医薬・製薬産業はまた軍需産業や戦争と密接な関連を持つ。日帝の731部隊の研究員の多くが現在の武田薬品工業から出ていたし、戦後もその研究が武田薬品工業や米モンサント社、ミドリ十字に引き継がれた。ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤はその「成果」だ。
 新自由主義は労働者の健康など眼中になく、労働者の食料など「エサ」にしか考えず、民衆に何も知らせない。「細胞をいじる」ということでは、すでにクローン牛と豚は2千頭近く出生し、クローンである表示義務もないままに334頭以上が食肉として出荷され食べられている。

iPS研究所の89%が非正規職

 STAP研究で浮上した理化学研究所は戦前、原爆開発を担った仁科理研が母体だ。そして理研自身が丸ごと新自由主義そのものだ。理研本体の職員は3500人内外、外部からの研究員が約4千人。そのほとんどは1年契約の非正規雇用研究者(労働者)だ。
 12年にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏のいる京大iPS細胞研究所でさえ、働く教職員214人のうち雇用期間の定めのない者は23人(11%)にすぎず、191人(89%)が有期雇用。「契約期間中に成果を出さないと首を切られる」状況に小保方氏もさらされていた。尼崎事故で死亡した高見運転士や、今日の郵政、教育労働者がさらされている現実と同じだ。
 だが、こんなものは現場労働者の決起で粉砕できる。6・8集会へ全力で闘おう!
(寄稿/吾妻重雄)
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