米帝のイラク内戦介入許すな ISIS育成し自ら招いた危機

週刊『前進』06頁(2638号06面01)(2014/06/30)


米帝のイラク内戦介入許すな
 ISIS育成し自ら招いた危機

マリキ政権危機と米支配の破綻

 イラクでは、スンニ派イスラム政治勢力ISIS(イラク・シリア・イスラム国)が今年に入ってイラクに侵攻するなかで大規模な内戦が勃発している。シリアからイラクに侵攻したISISは今年初めには、中西部のラマディの一部とファルージャを掌握したが、6月10日には政府軍を放逐して、北部のイラク第二の都市モスル(人口200万人)を掌握した。6月18日にはバイジにある同国最大の製油施設を攻撃し、同施設の75%を制圧した。現時点ではシリア東部を含めイスラエルと同等の面積を支配するに至っている。さらにはバグダッドから50㌔圏にまで迫り、バグダッドへの侵攻を準備しており、マリキ政権は重大な危機に直面している。
 米帝はシーア派主導のマリキ政権に権力を渡し、シーア派によるスンニ派の弾圧や抑圧を容認することで、イラクの労働者階級と米帝および米帝のカイライ政権との対立構造からイラクの労働者人民の目をそらし、イラクの戦闘的労働運動を破壊するという政策をとってきた。だが、このような米帝のイラク支配のあり方は、今回のISISの侵攻とスンニ派武装勢力の総反乱によって一挙に崩壊しかねない状況に陥った。宗派対立を促進して労働者階級の反親米カイライ政権、反米帝の階級的闘いを押さえ込もうとする米帝の政策が完全に破綻したということだ。

ISISはいかなる政治勢力か

 ISISは、アルカイダ以上に厳格なイスラムの戒律に基づいた国家をイラクとシリアに樹立することを目的としている。この組織はきわめて排他的で、キリスト教やユダヤ教はもちろんのこと、シーア派を始めとするイスラム教の他の宗派の存在も認めず、抹殺の対象としてきた。
 そのことが理由で、この組織の源流である「イラク・イスラム国家」(ISI)は発祥の地であるイラクでは勢力を拡大できず、労働者人民の抵抗に直面していったんシリアに逃走した。
 だがISIは、シリア内戦の過程でシリアや国外の武装勢力を糾合して急速に最大の反政府武装勢力に成長し、ISISとなった。空爆や地上軍の派遣を行う能力を失った米帝が、苦肉の策として反アサド政権勢力を強化するために、サウジアラビアなどとともに大量の武器・資金援助を与えたことで、ISISは急速に拡大しえた。だからISISのイラク侵攻は、米帝がアサド政権打倒のためにISISを利用しようとしたことの結果でもある。
 マリキ政権が25万人もの陸軍を保持しながら、わずか数千人のISISの侵攻を許したのはなぜか。その理由はシーア派勢力による独裁的支配体制を確立しようとしたマリキ政権によって抑圧され弾圧されていたファルージャやモスルなど各地のスンニ派住民や部族勢力が、マリキ政権を武力で解体しようとするISISに続々と合流していったため、地方での戦闘で政府軍が圧倒的に劣勢に立たされたからだ。バグダッド近郊にまでISISの侵攻を許して追い詰められたマリキ政権は米帝に米空軍による空爆を要請した。

マルクス主義と労働者の団結を

 これに対して米帝は、米空軍機や無人機による空爆はひとまず拒否した。だが、その一方でオバマは米空母ジョージ・ブッシュと巡航ミサイルを搭載できるミサイル巡洋艦およびミサイル駆逐艦をペルシャ湾に移動させ、いつでも空爆できる態勢をつくった。
 さらに6月19日には、イラク軍の訓練や情報収集、対ISISの作戦立案などを任務とする300人規模の軍事顧問団(特殊部隊)をイラクに派遣することを決定した。これによって米帝はイラク政府支援という形をとって再びイラク国内で公然と戦闘行為を行うことのできる態勢をつくろうとしているのだ。
 このような米帝の新たな侵略戦争策動は、スンニ派を抑圧するイラク政府を支援しつつ行われるものであり、シーア派、スンニ派、両派の部族集団、政府軍、自治を要求するクルド人などが入り乱れる内戦を一層激化させる結果しかもたらさない。イラクでのこのような内戦の激化はシリア、レバノン、イラン、トルコなど周辺諸国における宗派間、民族間の内戦の引き金になりかねない。
 米帝が東アジア重視戦略に転換し、中東への大規模な地上兵力派兵能力を失っている状況下での中東諸国における内戦の激化は、ますます米帝の中東支配力を弱体化させ、絶望的に凶暴化させるであろう。
 このような危機的情勢下でイラクの労働者人民が米帝の新たな侵略戦争政策をはね返してイラク革命に勝利するためには、宗派間、民族間の分断政策を打ち破るプロレタリア世界革命の立場に立ちきらなければならない。マルクス主義的階級的労働運動路線の立場に立って、反動的なイスラム主義と対決する激烈な党派闘争に勝ちきるために闘うことが必要だ。
(丹沢望)
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