104人に小児甲状腺がん 福島県民健康調査 原発事故の影響は明らか 居直る県当局と安倍打倒を

週刊『前進』06頁(2647号05面01)(2014/09/08)


104人に小児甲状腺がん
 福島県民健康調査
 原発事故の影響は明らか
 居直る県当局と安倍打倒を


 福島県の子どもの甲状腺がんが、疑いを含めて実に104人にいたった。安倍政権と福島県当局による被曝強制の結果だ。しかもすでに手術した子どもの8割以上に転移が見つかっていたことも明らかになった。これ以上の被曝の強制を絶対に許してはならない。川内原発を始めとする全原発の再稼働を絶対に阻もう。戦争・改憲と原発推進の安倍政権を倒そう。

手術受けた子どもの8割超がリンパ節などに転移

 福島県「県民健康調査」検討委員会は8月24日、子どもの甲状腺がんが疑いを含めて104人に及んだと発表した。今年3月末までに検査した29万6026人の子どもが対象で、甲状腺がんと確定した子どもは57人、「疑い」が46人、すでに58人に手術が行われている(1人は手術の結果、良性と判明)。
 一般に子どもの甲状腺がんは「100万人に0〜2人」と言われるが、福島の子どもでは2846人に1人という恐るべき人数に及んでいる。
 にもかかわらず座長の星北斗(県医師会常任理事)は「原発事故との因果関係は考えにくい」と主張し続けている。
 全身の細胞の新陳代謝を促進するホルモンを出す甲状腺を取り除いてしまうことは、子どもの成長に大きな影響をもたらす。除去手術をしたら一生、毎日ホルモン剤を飲み続けなければならない。当事者にとって人生を揺るがす重大事態だ。
 さらに、手術を受けた子どものうち8割以上に転移が見つかっていたことが明らかになった。
 福島県立医大教授の鈴木眞一が8月28日の日本癌(がん)治療学会学術集会で、県立医大が手術した54人のうち、8割を超える45人は腫瘍(しゅよう)の大きさが10㍉超かリンパ節や他の臓器に転移し、2人は肺にがんが転移、7人は腫瘍が気管に近接していたことを報告した。今後も甲状腺がんのみならず転移が大いにあり得るということだ。「甲状腺がんは予後がいい」という主張の大うそが暴かれたのだ。
 この間、多くの人が甲状腺がんの転移の実態や人数を問いただしても、鈴木は一貫して公表を拒んできた。それを学術集会で自らの「研究成果」という形で発表したこと自体が実に犯罪的だ。

国連機関が被曝の影響を否定する報告で原発免罪

 被曝による健康被害を押し隠そうとしているのは、国際的な動きでもある。今年4月2日、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被曝のレベルとその影響」と題した報告書を発表。「福島での被曝によるがんの増加は予想されない」「福島原発事故の結果として生じた放射線被曝により、今後がんや遺伝性疾患の発生率に識別できるような変化はなく、出生時異常の増加もないと予測している」とした。

「除染目標引き下げろ」と圧力

 こうした中で広く流布されているのが「被曝による健康被害はない」論と合わせて、「被曝の影響を心配するから、健康被害が起きる」という主張である。その象徴が、長瀧重信が執筆した8・28付読売新聞「論点」である。長瀧は長崎大学教授や放射線影響研究所理事長などを歴任し、現在は国際被ばく医療協会名誉会長。福島県放射線健康リスク管理アドバイザーを務めて「100㍉シーベルトまで大丈夫」と主張して県民の怒りの的となった山下俊一が師事した人間だ。
 同紙で長瀧は、前述したUNSCEAR報告を全面賛美し、「報告書の中で注目に値するのは......放射線とは直接関係ない『災害関連』の健康影響に踏み込んでいる点」とし、「避難した住民帰還を阻んでいる大きな要因の一つは、追加被曝は年1㍉シーベルト以下という除染目標だ」「『被曝1㍉シーベルト』について、環境省が、空中の放射線量ではなく、住民一人ひとりの被曝線量を重視する方針を示したのは、冷静な考え方でうなずける」とまとめた。
 被曝を心配するから健康被害が出るのであり、除染目標を引き下げて住民が被曝を心配しない状況をつくれば健康被害は抑えられるというのだ。

ウクライナの子どもらの今

 被曝が深刻な健康被害をもたらすことは、チェルノブイリ事故の現実が明らかに示している。
 今年4月、「チェルノブイリ/28年目の子どもたち/低線量長期被曝の現場から」という映像報告が発表された。1986年4月26日に爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発から約140㌔メートル離れたコロステン市を取材したもので、同市の放射能汚染レベルは福島市の平均よりやや高めと考えられる。
 このドキュメンタリーの終盤に、同市で暮らす母と2人の子が登場する。38歳で歯科医の母親は甲状腺炎にかかっていて、「とても疲れを感じる日がある」と語る。彼女はチェルノブイリ事故の当時10歳。19歳の息子は重度の知的障害で言葉を話せない。15歳の娘は腎臓機能が正常でなく、先天性有機酸代謝異常という診断を受けている。
 こうしたチェルノブイリ事故の実態は「科学的権威」ですべて否定されてきた。そして今、日本政府は年20㍉シーベルトを基準に避難指示を解除して帰還を強制しようとしている。言うまでもなく放射線被曝にはしきい値はなく、年1㍉シーベルト基準でも絶対に許せないが、その上でこれ以上の高線量被曝は殺人行為そのものだ。

検討委は怒りの噴出恐れ「とりまとめ」発表できず

 しかし、こうした被曝による健康被害の否定という大攻撃も、けっして簡単に貫けるものではない。それは、県民健康調査検討委員会が8月に発表するとしていた甲状腺がん調査の「中間とりまとめ」をまとめられなかったことにも示された。
 24日の同委員会に提出されたのは「県民健康調査検討委員会中間まとめ(甲状腺検査に関する論点整理)(座長素案)」というA4判2枚の文書だけだ。その内容は「今後の検査のあり方を見直す必要があるかどうか」「今後の検査体制と方法を見直す必要があるかどうか」などの「論点」だけを「座長素案」として並べたものとなった。
 「甲状腺がんは原発事故の影響ではない」という主張を押し通すならば、調査の対象者や公費負担の縮小などの方向性を打ち出すことこそ「中間とりまとめ」の目的だったはずだ。しかし甲状腺がんが104人も発症している中で、そんなものを発表した瞬間に福島と全国の怒りが沸騰することは必至だ。それを恐れて、「中間とりまとめ」も打ち出せない状況に追い詰められている。
 支配階級が原発事故による健康被害を絶対認めないのは、その現実を認めたら大規模な避難と賠償が問題となり、再稼働もできないからだ。避難するしかなく、再稼働もできなければ資本主義体制そのものが成り立たない。
 甲状腺がんを始め健康被害の責任を徹底追及し福島の子どもたちを守りぬく闘いは、再稼働を阻む闘いと一体のものだ。「避難・保養・医療」の原則を貫くふくしま共同診療所を支援しよう。川内原発再稼働阻止・安倍政権打倒へ闘いを大きく広げよう。
(里中亜樹)

------------------------------------------------------------
福島県立医大・鈴木眞一教授の学会報告
「福島における小児甲状腺癌治療」
第52回日本癌治療学会学術集会
(8月28日)にて
甲状腺がんと確定した子ども57人のうち県立医大が手術した54人について
・8割超の45人は腫瘍の大きさが10㍉超か、リンパ節や他の臓器に転移している
・2人は肺にがんが転移している
・7人は腫瘍が気管に近接している

このエントリーをはてなブックマークに追加