裁判員制度はいらない!大運動 高山俊吉弁護士、藤田正人弁護士に聞く 現代の徴兵制「裁判員」今こそ廃止を 11・2集会から11・14最高裁デモへ

週刊『前進』06頁(2654号06面01)(2014/10/27)


裁判員制度はいらない!大運動 高山俊吉弁護士、藤田正人弁護士に聞く
 現代の徴兵制「裁判員」今こそ廃止を
 11・2集会から11・14最高裁デモへ

(写真 「裁判員制度はいらない!全国情報」を手に藤田正人さん【左】と高山俊吉さん)


 「現代の徴兵制」=裁判員制度の廃止を求める11・14最高裁デモが闘われる。「裁判員制度はいらない!大運動」呼びかけ人の高山俊吉さんと、事務局長の藤田正人さんにお話をうかがった。(編集局)

9・30福島ストレス障害訴訟判決について

 高山 12年に福島県で2人殺害の強盗殺人事件があり、昨年3月に裁判員裁判が行われました。Aさん(女性)が裁判員の一人を務めました。Aさんは、公判で殺害現場のカラー写真を見せられたり、救援を求める被害者の110番通報の録音を聞かされ、そうしたことがきっかけで「急性ストレス障害」になり、悪夢や不眠に悩まされるようになりました。包丁がもてなくなり、家事もままならなくなった。現在も通院し服薬を続けています。
 Aさんは、「裁判員制度は苦役などを禁じる憲法に違反する」と国家賠償を求める裁判を福島地裁に起こしました。それがこの裁判です。判決が9月30日に出されました。
 判決はAさんが裁判員を務めたことで「急性ストレス障害」になったことを認めました。判決文では「真面目に裁判員としての職務を遂行しようとしたがゆえに、......重い精神的負担を強いられ、その結果、......急性ストレス障害を発症した」と言っています。その上で、国の主張を受け入れ、裁判員制度は合憲であるとし、Aさんの請求を棄却しました。
 裁判員制度は憲法18条の「『意に反する苦役』にあたらない」と判決したのです。〝裁判員制度実現の必要性にかんがみると、裁判員の負担は合理的な範囲内だ〟と言ったのです。それで病気になったとしても、国には責任がないと言いきったのです。判決後の記者会見で、Aさんは「結局、私が我慢しろという判決ですね」「国の本心、本音がわかりました」という発言をしていました。
 藤田 マスコミは「裁判員には辞退とか辞任の制度があるからいいんだ」とか、「審理の面で残酷なようにしない工夫をすればいい」とか言っています。でも、そういうことをやっても、Aさんがストレス障害になった可能性はあります。それでも構わない、仕方ない、国は一切責任を持ちません、と言いきったわけです。
 高山 裁判員制度は、国民に対する教育を狙っている。だから、国の言うことを聞きたくないという人を、それでもいいよと言ってしまっては駄目なわけです。国は、去っていきたい人をこそ教育の対象にしたい。反戦思想の人間こそ、銃を持たせて現場に行かせ、相手を殺して来いと言いたいわけですよ。それが裁判員制度の核心であり、9・30判決はそれを貫こうとしています。
 しかし一方で、9・30判決は、「辞退の制度もある」とも言ってしまったのです。矛盾だらけの制度を生き長らえさせるために、そういうガス抜きを言ったわけです。それなら、「やりたくない人はやらないでいい」ということになります。裁判員候補者とされた人の出頭率は、現在すでに27%の低率です。今度の判決をきっかけに、なだれを打つように出頭者が減っていくでしょう。
 かつての国会審議で、政府は「やりたい人だけにすると裁判が偏(かたよ)るから、全員の義務とする」と答えていました。ところが、現状はやりたい人しか来ていない。それが27%の出頭率です。

裁判員制度の破綻的な現状

 藤田 最高裁のアンケート調査で、裁判員裁判に「参加したい」「参加してもいい」と言っている人はわずか14%です。実際の出頭率も、この数字に近づいている。「やりたくない」という人は85%です。
 高山 裁判員の解任も増えています。おそらく累計で現在700人ぐらいになっているでしょう。解任の理由を裁判所は発表していない。裁判員裁判のとんでもない弱点をさらけ出すことになるからでしょう。
 推測すれば、裁判員が突然、来なくなっちゃうとかですね。来ないと裁判できない。補充裁判員を充てるにしても、現場の裁判官は苦労していることと思う。
 また、公判前整理手続きと公判の期間が何カ月も延びている。裁判の期間短縮が制度導入の目的だと言われていたのですが、実際には長くなっている。
 量刑も混乱しています。一審の裁判員裁判の重刑判決が控訴審でひっくり返るとか、それが最高裁でまた元に戻されるとか。これでは、下級審の裁判官はどう考えていいか分からない。
 このような状況が、裁判員裁判の破綻的な現実をよく示しています。
 藤田 やりたい人だけが裁判員になっていることで、求刑を超える判決が増加し、無罪率が減少しています。求刑を超える判決は、裁判員裁判が始まる前は0・1%だったのが0・9%に、約10倍になりました。検事の求刑と同じ判決も、2%が5%に、2・5倍に増えています。一方、無罪率は、覚せい剤事件を除くと0・59%が0・28%に、つまり半分以下になりました。推進派の弁護士は「裁判員裁判で無罪判決が増える」と言っていましたが、実際には逆です。
 また審理期間の長期化も重大な問題です。これまで2〜3カ月で終わっていたのが8〜9カ月かかるとなれば、早く終わらせたい人にとっては、拘置所の中に長期間、留め置かれるということで大変な負担です。

最高裁・寺田体制との闘い

 藤田 僕もかかわっていた国労組合員の資格確認訴訟では、13年3月の白石事件で白石哲裁判長が飛ばされ、代わりに送り込まれた裁判官の判決は、裁判所がいいといえば労働者の団結権も無視していいんだと、そんな判決になっています。
 また刑事事件の法廷では、法廷に入る前に傍聴人の財布や女性のポーチの中を開けさせるとか、メモを取るためのノートの中身まで見せろという、ひどい反動が起きています。
 これは、7・1集団的自衛権閣議決定への反対の声が強い中で、もう安倍政権を守るのが裁判所しかいない、最高裁が安倍を守りきるのだということでやっていることです。集団的自衛権の問題でも、寺田逸郎は最高裁長官に就任した時に、「それぞれの機関が判断すればいい」と言いました。最高裁は違憲立法審査権を持ち、最終的な憲法判断をする唯一の機関として憲法上位置づけられているのですが、その「憲法の番人」の建前もかなぐり捨てています。
 高山 司法が国策の中心に出てくる時は、国が危機的な状況にある時です。明治以来、そうだった。60年安保の時には最高裁長官の田中耕太郎が「日米安保は違憲」という砂川事件の一審伊達判決をくつがえすために、駐日アメリカ大使・公使と密会し、政府に高裁をとばして最高裁に上告させひっくり返しました。
 寺田は20年を超える長い行政官歴を持つ人物です。行政が何を望んでいるかを一番よく知っている。そういう人物が最高裁長官になったのです。

戦争への道を許さぬために

 高山 安倍が登場したことで、裁判員制度の本質が見えやすくなりました。時代の危機が裁判員制度を登場させているのです。裁判員制度は、最高裁からの通知すなわち「赤紙(召集令状)」で動員し、一人ひとりの国民に、この国を守る責任を負わせようとしています。時には国家による殺戮(さつりく)を正当化させるという意味で、裁判員制度は「7・1戦争宣言」の「国民版」です。裁判官と一緒になって死刑判決を下す立場に立つことは、国民一人ひとりにとっての「7・1宣言」なのです。
 でも重要なことは、その危機の時代がまた、裁判員制度を拒否する趨勢(すうせい)を生み出していることです。みんなが反発している。納得していない。裁判員制度廃止の大運動は、多くの人たちの強い支持のもとに進んでいます。
 11・2労働者集会に続いて、11月14日には裁判員制度廃止の最高裁デモを闘います。デモに参加して、勝利して前進している運動の息吹を感じていただくことは、とても意味あることだと思います。ぜひ多くの方に参加していただきたい。
 藤田 11月には全国約30万人に「来年の裁判員候補者名簿に載せました」という通知が最高裁から一方的に送られる。それを受け取った人は、「何だ、これは!」と驚く。そして、「こんなものやりたくない!」という気持ちを新たにする。14日の最高裁デモは、そういう人たちの声を最高裁にぶつけるデモです。大きなデモにしたいと思っています。
 高山 鈴コン闘争の勝利がかちとられましたが、裁判員制度廃止運動も勝利的に前進しています。労働運動の勝利とひとつのものとして、11・2労働者集会の力で、11・14デモを闘っていただきたいと思います。

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白石事件 国鉄分割・民営化での不当解雇撤回を求める動労千葉鉄建公団訴訟で、国鉄当局の不当労働行為を認定する判決を出した東京地裁の白石哲裁判長が突然閑職に飛ばされた事件。

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11・14最高裁デモ
 11月14日(金)正午
 日比谷公園霞門集合
 主催/裁判員制度はいらない!大運動

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