焦点 オバマが新たな国家安保戦略 没落を深める米帝の凶暴化

週刊『前進』06頁(2669号05面03)(2015/02/16)


焦点
 オバマが新たな国家安保戦略
 没落を深める米帝の凶暴化


 米オバマ政権は2月6日、軍事・外交政策の指針となる「国家安全保障戦略」を発表した。国家安全保障会議(NSC)が起草し、大統領が策定するもので、2010年以来5年ぶり、オバマ政権で2度目の策定となる。4年おきに発表するのが通例だが、今回はオバマ自身が13年10月に「近く改訂版を公表する」と述べてから、1年以上も遅れての発表となった。
●戦争の泥沼にはまる米帝
 その特徴は第一に、「対テロ戦略」を前面に押し出し、特に「『イスラム国』の弱体化と最終的な壊滅をめざす包括的な戦略を主導する」と掲げたことである。「テロは脅威の一つにすぎない」としていた10年版から転換し、中東侵略戦争への新たな突入を宣言したのだ。
 だが、同時に今回の文書では「(米国は)イラク・アフガンでの犠牲が大きく、大規模な地上戦から転換した」「米国の影響力には限界がある」と明記。対イスラム国「有志連合」の位置づけを戦略的に据え直すとともに、米軍の単独行動よりも「同盟・友好国との集団行動」を重視し、他国に「負担の分担」を求める方針を強調した。
 この点について、ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は6日、「テロとの戦いは長期戦になる」と認め、「将来の世代まで米国の指導力を維持することが(今回の戦略の)目的だ」と述べた。文書中に「指導力」「率いる」という単語が100回近く出てくることからも明らかなように、今や米帝は自らの戦争負担を極力減らしつつ、基軸国としての地位と主導権を維持しようと必死だ。
 オバマは13年9月の国連総会でも、「アメリカの一極主義的な行動、とりわけ軍事行動では(中東の安定という)目的を達成できない」「われわれは行動する用意はあるが、その重荷をアメリカだけで負うことはできないし、すべきでない」と演説しており、もはや米帝の世界支配の崩壊と基軸国としての没落は隠しようもない。
 だが米帝は、その没落と危機ゆえに凶暴化し、戦争に突き進んでいる。オバマ政権は2月2日に発表した予算教書で、国防予算の要求額を前年度比8%増の5343億㌦とし、戦費は「イスラム国」対策53億㌦を含む509億㌦を要求した。
 しかし戦争終結への具体的な展望はまったく描けていない。議会では共和党を中心に「地上軍を投入せよ」との声も出ているが、本格的な地上軍投入は「米国を泥沼に引きずり込みかねない」(オバマ)のだ。いずれにせよ米帝はイラク・アフガン戦争の敗北に続き、新たな戦争の泥沼にはまりつつある。
●中国との対峙・対決を前面に
 第二に、「米国は太平洋国家であり続ける」として「アジア太平洋リバランス(再均衡)戦略」の継続を表明し、特に中国との対峙・対決戦略を前面に押し出した。この点でも「中国が指導的役割を果たすことを歓迎する」とした10年版から転換し、中国と北朝鮮の動向を「危険要素」と指摘、特に「中国軍の近代化や存在感の増大を注意深く観察する」とした。またアジアでの「米国の指導力」を確保する上で、TPP(環太平洋経済連携協定)を「その取り組みの中心」と位置づけ、妥結の必要性を強調した。
 第三に、ウクライナ争奪戦争をめぐって「ロシアの侵略を抑止し代償を科すため、厳しい制裁を実施する」と明記し、「ロシアの抑圧に対抗できるよう同盟・友好国を支援する」との方針を盛り込んだ。この間、ウクライナ情勢が「米ロの代理戦争に発展しかねない危うさがある」(日経新聞2・8付)と言われる中で、米帝は対ロシア戦略を激化させている。
 オバマは9日、メルケル独首相との共同記者会見で「親ロシア派武装勢力と戦うウクライナ政府軍を支援するため、殺傷能力のある武器の供与を検討中だ」と表明した。ヘーゲル国防長官の後任に指名されたカーター副長官は武器供与賛成の強硬派であり、94年朝鮮危機の際は、国防次官補として北朝鮮空爆を主張した人物である。
 新安保戦略は米帝の新たな戦争宣言であり、同時にその没落と絶望的な危機を示すものだ。日米韓を始めとした労働者国際連帯の発展で、大恐慌と戦争を革命に転化しよう。

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