117人の小児甲状腺がん発症を「放射線の影響でない」と強弁 福島県甲状腺検査評価部会 中間報告案を弾劾する

週刊『前進』06頁(2677号04面01)(2015/04/13)


117人の小児甲状腺がん発症を「放射線の影響でない」と強弁
 福島県甲状腺検査評価部会 中間報告案を弾劾する


 「復興」キャンペーンのもと、福島の労働者人民に帰還と被曝が強制されている。原発再稼働と軌を一にした動きである。これらの前提は「原発事故による健康被害はない」という大うそであり、とりわけ激増する小児甲状腺がんを「被曝で発症したものではない」と言い張ることだ。本稿では3月24日に提出された甲状腺検査評価部会「中間取りまとめ(案)」を見ていく。

「予後が良い」の主張続ける

 福島の子どもたちを対象に行われている県民健康調査の甲状腺検査について、3月24日の県民健康調査検討委員会・甲状腺検査評価部会の第6回会合に、清水一雄部会長が「中間取りまとめ(案)」を提出した。同日の議論にもとづいて加筆・修正を加えた上で、次回の県民健康調査検討委員会に「中間取りまとめ」を提出する予定だ。
 「中間取りまとめ(案)」はA4判2㌻、「1先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価」「2放射線の影響評価について」「3医療費について」「4対象者の追跡」「5検査結果の開示」の5項目からなる。
 「1先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価」では、「甲状腺がん(乳頭がん)は、発見時点での病態が必ずしも生命に影響を与えるものではない(生命予後の良い)がんである」と明記。甲状腺がんの子どものうち7割が肺やリンパ節に転移していた事実に触れもせず、「予後の良いがん」と主張し続けている。
 「2放射線の影響評価について」では、11年秋から13年までに実施された先行調査で見つかった小児甲状腺がん109例について、「被ばく線量が、チェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、事故当時5歳以下からの発見はないことなどから、放射線の影響とは考えにくい」と断言した。また、14年に始まった本格調査で見つかった8例も含めた117例のすべてについて、「検診にて発見された甲状腺がんが被ばくによるものかどうかを結論づけることはできない」とした。
 他方、「現行の検査を継続することに評価部会として異論はない」と明記。事故当時18歳以下だった人は、18歳以上になっても県外転出者も含め検査を続けるとした。
 117人が甲状腺がん・疑いと診断され、摘出手術を受けた上で86人が甲状腺がんと確定してもなお、「放射線の影響とは考えにくい」と主張し続けるなど、けっして許せない。からだ全体の新陳代謝を促進するホルモンを出す甲状腺の除去は成長期の子どもに深刻な影響をもたらすため、一生毎日ホルモン剤を飲み続けなければならない。まさに全人生にかかわる重大なことなのだ。
 小児甲状腺がんは一般に「100万人に0~2人」と言われる。しかし福島県では、先行検査の判定確定者29万7046人のうち、甲状腺がんないし疑いと診断されたのは109人、なんと2725人に1人だ。手術してがんと確定した86人に限っても3454人に1人という、とんでもない高率である。原発事故は、子どもたちにこれほど深刻な健康被害を与え続けているのだ。
 しかし甲状腺がんの原因が原発事故だとけっして認めないだけでなく、子どもたちへの甲状腺検査を「過剰診断」と言いなす意見があとを絶たない。同部会の部会員9人の過半は、県下の子どもたち全員を対象にした検査を「過剰診断だ」と批判し続けている。

委員の過半が「過剰診断」と

 部会員の一人で、3月24日の会合は欠席した福島大学特任教授の清水修二は、同会合に提出した意見書で「いわゆる『過剰診断のディレンマ』は、それ自体が、原発事故がもたらした被害の一部......『不要な被曝』に加えて『不要だったかもしれない治療』のリスク負担を県民は余儀なくされている」と記した。
 ほかの部会員も会合のたびに「過剰診断だ」と主張し続けている。
 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター長の津金昌一郎は2月の会合に提出した意見書で「先行検査で100人を超えて甲状腺がんが診断されている現状は......何らかの要因に基づく過剰発生か、将来的に症状を呈して臨床診断されたり死に結びついたりすることがないがんを多数診断している(いわゆる過剰診断)かのいずれか。個人的には後者の可能性が高いと考えている」と記した。
 東京大学大学院教授の渋谷健司も2月に提出した意見書で「検査をしなければ一生見つからず、しかも見つからなくても死亡するリスクは低く、切除する必要もない甲状腺がんを多数、診断・治療している可能性が高い」「不利益(過剰診断・治療による健康影響や費用)が利益(死亡や障害の予防)を上回るために、その見直しが必要」と記した。
 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の春日文子も3月24日の会合で「甲状腺がんの一般的な予後を考えると、その多くが受けなくてもよかったかもしれない手術を受けたことになる。不要な被曝に加えて不要だったかもしれない治療のリスク負担を、事故がもたらしている」と述べた。
 甲状腺がんの原因が原発事故であることをけっして認めず、「過剰診断・過剰治療」と主張し続ける彼らにとって、甲状腺検査を続ける意味は何か。子どもたちに必要な医療行為を施し、健康を守るためではない。昨年末に環境省専門家会議の中間取りまとめが甲状腺検査を「疫学的追跡調査として充実させる」と打ち出したのと同じく、子どもたちをモルモットのように研究対象として扱おうというのだ。

「モルモットにするな」の怒り

 2月12日の県民健康調査検討委員会に、資料「『県民の声』とりまとめ」が提出された。県当局がまとめたものであるにもかかわらず、それでもこの資料には消し去れない県民の怒りや不安の声があふれている。
 「県民はモルモットではない」「歯の検査や血液検査、尿検査などもきちんとしてほしい」「対象を広げてほしい(国民すべて、関東や宮城など、大人、当時19歳以上の女性、成人女性)」「回数を増やしてほしい。2年に1回では少なすぎる(毎年、半年ごと、月ごと)」「国は信用できない。指導を受けている県も同じだ。行政には裏切られている」「放射線の影響が考えられないことを前提に行っている検査そのものが信用できない」
 3・11から4年たち、国や県、県立医大の「安全・安心」キャンペーンなどまったく信用ならないことは、福島県民にとってもはや常識なのである。
 甲状腺がんを始めとする深刻な健康被害に相対する子ども、保護者、原発労働者や除染労働者を始めとする労働者人民とともに、原発事故と健康破壊の責任を徹底追及しよう。「避難・保養・医療」の原則を貫くふくしま共同診療所とともに歩もう。再稼働を絶対に阻み、すべての原発をなくそう!
(里中亜樹)

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福島県民健康調査の甲状腺検査 2011年10月から開始。先行調査(1巡目)は、11年「3・11」当時18歳以下だった約36万人を対象に実施し、約30万人が受診。今年2月12日までに109人が「悪性・悪性疑い」と診断され、手術を終えた86人が甲状腺がんと確定した。86人のうち83人が乳頭がん、3人が低分化がんと診断されており、肺に転移している子が2人、リンパ節に転移しているなどの重症例が7割とされている。
 14年から始まった2巡目の本格検査は、同年末までに約10万人が受診。2月12日までに結果が判明した約7万5千人のうち8人が「悪性・悪性疑い」と診断された。そのうち1人は手術を終え、術後の組織検査で乳頭がんであると確定した。

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