ドイツ 「スト禁止法」阻止へ闘い 鉄道・郵便・託児所がスト

週刊『前進』06頁(2683号03面03)(2015/06/01)


ドイツ 「スト禁止法」阻止へ闘い
 鉄道・郵便・託児所がスト

(写真 GDLベルリン都市鉄道支部がスト。誰もいない東ベルリン駅ホームでデモ行動【5月20日】)


 世界大恐慌が「恐慌の中の恐慌」に突入する中で、ヨーロッパ・ドイツでも鉄道労働者を先頭にゼネスト情勢に入りつつある。ドイツ機関士労組(GDL、3万4千人)は5月5〜10日に「今世紀最長の6日間スト」を決行したのに続き、5月20日から首都ベルリンを中心にストに突入、全ドイツの旅客列車と貨物列車の運行を止めた。機関士労組はこの10カ月で9回ストライキに立ち上がっている。
 これに呼応して郵便、託児所、幼稚園、福祉、医療などの労働者が賃金引き上げ・労働条件改善を求めて全国で次々にストに決起している。「今やドイツではストライキが全土に根付いている」(英ガーディアン紙)

全職種を包含する協約求め

 機関士労組は、賃金の5%引き上げ、労働時間の週39時間から37時間への短縮を求めて協約交渉を重ねている。また協約を機関士だけに限らず、車掌、構内運転、検修・保線、食堂車、清掃、駅業務などドイツ鉄道(DB)の全職種、全労働者を包含するものにすることを求めている。
 ドイツ鉄道当局は、多数組合の鉄道交通労組(EVG、21万3千人)と連携し、機関士労組の要求を数カ月にわたって拒否し続けてきた。
 機関士労組は、世界大恐慌が始まった2007〜08年に大ストライキ闘争を展開し、ドイツ全土で鉄道交通を止め、「ストライキ共和国ドイツ」と呼ばれる情勢をつくり出した歴史をもつ。こうした機関士労組の闘いは、ドイツ労働総同盟(DGB)の指導下で新自由主義攻撃にさらされてきた広範な労働者を奮い立たせた。彼らは数次にわたる鉄道ストに共感し、マスコミの鉄道スト・バッシングをはね返してきた。その中で鉄道交通労組を脱退し、機関士労組に加入する労働者が続出している。
 経済協力開発機構(OECD)によれば低賃金労働者の割合は2010年、ドイツが20・5%、アメリカが25・3%、日本が14・5%だ。ドイツは世界の「貧困国」の上位を占める。これが「EUの牽引(けんいん)車」「ヨーロッパ経済成長の優等生」といわれてきたドイツの実態だ。
 こうした状況を生み出すことに全面的に協力してきたドイツ労働総同盟の組織人数は1991年の1180万人から2002年の770万人に下降し、現在にいたるまで低迷している。

少数組合排除の単一協約法

 機関士労組の協約交渉が10カ月にもわたっているのには理由がある。
 メルケル政権は、経団連(DBI)、労働総同盟の賛同のもと、6月初めの連邦議会に少数労組を協約交渉から締め出しストライキ権をも奪う単一協約法案を提出し成立させようとしているのだ。ドイツ鉄道当局は機関士労組との協約交渉を引き延ばし、この法案の成立をもって機関士労組のストをやめさせ、多数組合との協約を機関士労組に押しつけようとしているのだ。
 「単一協約法」とは、「一産業(企業)、一組合」を原則とし、資本・経営との団体交渉権を職場で多数の労働者を組織している労働組合のみが持ち、その他の少数組合は多数組合が締結した協約に無条件で従わなければならない、というものだ。労資交渉促進の手段としてのストライキ権を交渉の圏外にある少数組合から奪うことが狙いだ(政治ストは非合法の「山猫スト」とみなされる)。そのため単一協約法案は「スト禁止法」とも呼ばれている。単一協約法案は、機関士労組や、連続してストで闘っているルフトハンザ(ドイツ航空)のパイロット労組、膨大な数の医療労働者を組織しているマールブルク医師団を名指しで標的にしている。
 この単一協約法案をめぐってドイツ労働総同盟は賛否が二分している(表)。これは、新自由主義攻撃の激化に対するドイツ労働者階級の怒りの高まり、ドイツ労働運動の新たな局面の到来を示している。反対派の単産は公務員、教育、医療・福祉関係だ。こうした領域で攻撃が激化しているが、闘いも高揚しているのだ。

「スト権に手を触れるな!」

 少数組合の機関士労組は、新自由主義に屈服する多数組合に抗してストライキ闘争を開始し、自ら「職能別労組」の壁を破り、戦闘的に自己変革してきた。こうしてドイツの戦後的労資慣行となっていた「一産業(企業)、一組合」を突き破ってきた。
 これに恐怖したドイツ・ブルジョアジーは2010年、憲法裁判所に「一職場、一組合」の原則の法制化による「少数組合の協約交渉からの排除」を求めて提訴したが、違憲として却下された。この判決を転覆することが今回の単一協約法案の狙いだ。
 政権与党のキリスト教民主同盟(CDU)内には、単一協約法案を修正し、「生活の基本にかかわる領域」(鉄道・航空からエネルギー・水道、さらに公教育、医療、幼稚園まで)におけるストライキ権を少数組合か否かにかかわらず奪おうとする動きさえある。
 今年のメーデー前後、ドイツ各地の労働組合の集会で、単一協約法案に反対する労組隊列が「ストライキ権に手を触れるな」という横断幕やプラカードを掲げた。従来、労働総同盟傘下の労組との共同行動に積極的でなかった機関士労組の本部も、現在闘争中の郵便や託児所の労働者らとの連帯を表明せざるをえなくなっている。
 また機関士労組の役員選挙では、ベルリン都市鉄道支部(1千人)が戦闘的指導部を選出し、闘いの先頭に立っている。
 なお5月22日現在、機関士労組はストライキを中止し、第三者の仲介のもと協約交渉を再開している。
(川武信夫)

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