児童館廃止を許さない 品川 「すまいるスクール」の実態

週刊『前進』10頁(2692号03面02)(2015/08/03)


児童館廃止を許さない
 品川 「すまいるスクール」の実態

(写真 4月杉並区議選の時は「廃止に反対」と言っていた議員たちの賛成で、来年4月からの廃館が決まった和泉児童館)

 東京・杉並区では今、東京西部ユニオンを軸に戦争法案と児童館廃止に絶対反対の闘いが展開されている。一方、小・中一貫校の設置など、教育・行政の場で新自由主義を進めてきた品川区ではすでに児童館は全廃されている。2001年から小学校の施設を借りて民間委託された「すまいるスクール」が導入され、06年からは40の全区立小学校で行われている。そこで私が数年前に指導員として勤務し経験した実態を報告する。住民や現場労働者がつくり上げてきた児童館を廃止することが労働者から何を奪うか、児童教育にとって何が失われるのか、明らかにしたい。

児童館廃止で経費削減狙う

 品川区教育委員会がうたう「すまいるスクール」の柱は三つ。①「フリータイム」(プレイルームと運動場での遊び)、②教員免許を持つ非常勤職員による「勉強会」、③「教室」(シニアボランティアなどによるお茶・お花・囲碁などの講座)。新しい試みで豊かになったように語られる。
 しかし「すまいるスクール」設置の一番の目的は、「児童館」を廃止して民間委託し、正規職員を非正規職員に替えて人件費などの経費を削減することにある。そこで子どもたちと職員が失ったものは何か。

労働者の差別・分断、使い捨て

 私の配属校では、管理者1人(正規職)と区の非常勤職員3人(それも3カ月後には勤めたばかりの初心者2人に)、民間の派遣労働者が7~8人。現場は区非常勤と派遣が受け持つ。区非常勤は初心者でも派遣より時給が500円高かった。
 しかし派遣労働者は3~4年以上の経験者が多い。ベテランの派遣労働者は仕事のできない区非常勤に不満を持つ。お金扱いと勉強会は派遣労働者にはやらせない。区の採用説明会で「身分の違いを超えて協力し合おう」と言われた「身分」とは、正規扌非正規扌派遣のことだった。ところが区非常勤への仕事のマニュアルや研修はなく、専門性を育てる政策もない。これでは責任もとれず、派遣労働者との間で当然にも矛盾と不満が出る。けんかになったこともあった。
 さらに15以上ある教室(講座)が分担されるが、初心者は前任者のメモだけではわからない。同じ現場で働く者同士が差別・分断され、「自己責任」が基本で「協働」になっていないところに、つらさや一体感の喪失が生まれる。専門性を育てない「1年契約・更新なし」では、熟練どころか、労働者の使い捨てにほかならない。
 現場で働く労働者が正規・非正規の分断をのりこえ、「労働を奪還する」ためには、現状を変える闘いとそのための労働組合が不可欠だ。

きめ細かい指導が失われ

 品川区では児童館が廃止され、一つの教室に常時100人近い児童が押し込められる。運動場を使うにしても「すまいるスクール」を視察した他区の議員が「これでは、プール監視員状態だ」と言った。非常勤と派遣の大部分が週3日勤務だから、常時100人前後の児童を実質5~6人で担当することになる。これでは、一人ひとりをきめ細かく掌握できない。
 杉並の児童館は、児童数が常時80人くらいでも正規職5人と嘱託が3人、非常勤3人の体制でしかも週5日勤務。正規職が「児童ノート」をつけ、児童一人ひとりを把握している。これは「すまいるスクール」との大きな違いだ。

自分たちの場がなくなった

 児童館の場合、子どもたちは勝手知ったる自分の場所として、受付を済ませたらすぐに児童館のプレイルームや図書室、遊戯室(体育館)、多目的室(工作室)、クラブ室に散っていく。児童館内での移動は自由だ。こういう場があることで、そこに「共同性」も生まれてくる。これが子どもたちが成長していく上で一番重要なことではないかと思う。
 ところが「すまいるスクール」の場合、プレイルーム以外は空きを確認して、指導員が引率して移動させる。行きと帰りの人数確認と騒がないように移動する集団行進状態だから、児童館に比して指導員の雑用はやたらと多い。児童にとっても「自分たちの場」ではなく、連れて行ってもらう場になる。学校の授業の場合、教室と自分の席は決まっていて、そこが自分の場になるが、放課後の「すまいるスクール」では、そういう意味での自分の場はない。
 経費削減で児童が失った「場の喪失」は、創造的な遊びや子どもたち同士の関係形成、自分で選択する行為の喪失でもある。指導員にとっても、いちいち集団移動させ、何カ所かに分散した児童を「プール監視」状態で分担して、けがをしないか、けんかをしていないかを見て、仲裁などの指導を行う。継続して一人ひとりの児童の成長を見るのではない。問題が起これば親からクレームが来るので、「対処する」ことが目的なのだ。
 教員免許をもつ資格者の勉強会とボランティアによる教室(講座)を品川区教委は柱としているが、低学年の子どもたちにとって一番必要なのは「創造的で自由な、強制されない集団での遊び」ではないだろうか。非常勤職員には研修も指導もないから、教員免許があっても「ペーパードライバー」状態で、個人の努力には限界がある。教室(講座)の講師を地域のシニアボランティアに頼み500円とか100円の安い経費で行う。その準備やサポートで指導員はさらに忙しくなる。しかし、教材・講座研究などは時間内には認められず、時間外の「個人の努力」まかせだから、「使い捨て待遇」ではその中身は推して知るべしだ。

団結した力で勝利の展望を

 「すまいるスクール」で労働者と子どもたちのおかれている状況は、新自由主義攻撃の実態だ。児童館廃止は将来に禍根を残す。杉並丸ごと民営化・外注化・総非正規職化を許さず児童館廃止に絶対反対する労働者・労働組合の団結をつくり出し、住民と一体となって闘い、勝利の展望を切り開こう。国鉄決戦を闘いともに勝利をかちとろう。
(東京・緑あすか)
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