焦点 サウジがイランと断交 中東戦争情勢はさらに新局面

週刊『前進』02頁(2716号02面04)(2016/01/21)


焦点
 サウジがイランと断交
 中東戦争情勢はさらに新局面


 この間サウジアラビアとイランの対立が急速に激化し、中東戦争情勢はさらに新たな段階に突入している。
 1月2日、サウジ政府は2011年の反政府デモを支持したとして死刑判決を受けていたシーア派指導者を処刑した。これに対して1月2日夜、イランの首都テヘランではサウジ大使館が群集に占拠され放火された。1月3日、サウジはイランとの断交を宣言し、バーレーン、アラブ首長国連邦、クウェート、スーダンなども断交または大使召還を決めた。さらに1月6日、サウジ軍機によってイエメンのイラン大使館が空爆されたという衝撃的報道が流れた(後に大使館周辺の空爆と判明)。イランはこの空爆はサウジによる意図的な行為であると非難し、サウジアラビアとイランの一触即発の軍事的緊張が高まった。
 両国の激突はイランの軍事支援を受けるイエメンのシーア派武装組織フーシ派(正式名称はアンサール・アッラー、神の支持者)に対する昨年3月からのサウジと湾岸および周辺の10カ国連合軍による空爆(すでに7千人を虐殺、住宅32万戸を破壊)によって始まっていた。フーシ派はサウジが支援するイエメンのスンニ派政権を追い詰めていた。それがついにサウジとイランの直接的激突に発展したのだ。
●米帝の衰退がもたらした事態
 この激突は、ロシアとトルコの軍事的衝突に続き、中東で世界大戦の導火線に火がついていることを如実に示している。帝国主義戦後世界体制における基軸国・米帝の完全な没落、衰退こそが、このような事態を引き起こしているのだ。サウジは米帝が中東における軍事的制圧力を失い、イラクとシリアにおける戦争政策の遂行のためにイランとの軍事協力を必要とせざるを得なくなり、イランが中東での影響力を強化していることに激しいあせりを感じている。米帝は昨年7月にイランの核開発問題に関する欧米など6カ国(米・英・仏・独・ロシア・中国)との最終合意を推進し、経済制裁の一部解除によってイランとの妥協を図ってさえいる。その上でイランは米帝の容認のもとにイラクとシリアのシーア派政権を全面的に軍事的に支援している。これはサウジの中東政策に重大な打撃を与えた。
 これに加えてロシアがシリア戦争に参戦しISに重大な打撃を与えたことによって、サウジのISを利用したシリア政府打倒政策は破綻の危機に直面した。またISの無差別テロ活動の自国への波及と、ISの勢力拡大を原因とする中東からの難民の急速な増大で危機に直面している欧米諸国がシリアへの軍事侵略を全面的に強化した上に、ISへの攻撃を強化したことによりイラクとシリアにおけるサウジのISやアルカイダ支援政策は最後的に破綻した。だからこそサウジはイランに妥協的姿勢を取る米帝に対する不信をあからさまにして、独自にイランに対する冒険的で挑発的な軍事政策に打って出るしかなくなったのだ。このように、もはや没落・衰退した米帝の力では、かつて巨大な影響力を行使しえたサウジも、体制的危機のもとで必死に延命策を繰り出すイランもコントロールできなくなっている。その結果、両国の激突が不可避となったのだ。
●サウジの経済危機も背景に
 サウジをこの冒険的軍事行動に駆り立てたもうひとつの原因は、石油価格の低下だ。シェールオイル増産の結果としての米帝による原油輸出再開と、イランの石油輸出が制裁解除で再開されたことで、石油価格がさらに下落し、サウジの財政危機の激化が不可避となっている。2015年のサウジの財政赤字はGDPの20%相当であり、外貨準備の取り崩しや8年ぶりの国債発行を余儀なくされている。また一部国有企業の段階的民営化、付加価値税の導入、たばこへの課税、各種補助金の削減などで財政危機に対処しようとしているが、それに対する労働者人民の怒りは急速に高まっている。
 だからこそサウジはこの危機を対外緊張の激化で乗り切ろうとしているのだ。こうしてサウジはイランを攻撃して「スンニ派対シーア派」という構図を挑発的な軍事的手段でつくり出す絶望的で冒険的な政策をとることで国内危機と労働者人民の不満の爆発を抑え込もうとしている。だがそうした政策は両国が支援する中東の諸国間、諸政治勢力間、諸宗派間の紛争や衝突を激化させ、中東戦争情勢をいっそう促進するであろう。

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