新段階を迎えた欧州階級闘争

週刊『前進』04頁(2807号03面01)(2016/12/19)


新段階を迎えた欧州階級闘争


 世界大恐慌の激化と新自由主義の破産、世界戦争切迫情勢のただ中にあるヨーロッパで、12月4日、二つの全国的な投票が行われた。イタリアの憲法改定をめぐる国民投票とオーストリアの大統領選挙である。シリア・イラク戦争が生み出した膨大な数の難民・移民の流入を契機に、欧州全体で排外主義が高まる中、この2国は特にその影響が強いと見られた。米大統領選で排外主義・保護主義を扇動した「トランプ効果」が、欧州でもドミノ現象を起こすかと危惧された。だが結果は、イタリアでは政府権限強化のための憲法改定案が拒否され、レンツィ首相は辞意を表明。オーストリアでは極右の自由党の候補が敗北し、緑の党のベレンが当選した。この二つのできごとは、欧州階級闘争の新段階への突入を示している。

イタリア国民投票
 ゼネストで改憲を阻止
 戦闘的労組が呼びかけ130万人

(写真 国民投票運動中の10月21日にゼネストを決行し、「労働法制改悪反対」を掲げてローマの街をデモ行進するUSB【職場労働者組合】の労働者)

 憲法改定を問うイタリアの国民投票(投票率65%)の結果は、反対が59・1%、賛成が40・9%となり、民主党・レンツィ政権が敗北した。多くのメディアはこの結果を、議会内の第2の勢力で改憲反対のキャンペーンを行ってきた「五つ星運動」の勝利として報じている。米トランプと並ぶポピュリスト(「大衆迎合」的な政治家)の率いる五つ星運動は、「北部同盟」という排外主義の右翼勢力と同盟し、既成政党の枠外から出てきた勢力だ。
 だが、実際にレンツィ政権と最も激しく闘ってきたのは労働者階級だ。改憲によって上院を無力化し、与党の圧倒的支配下にある下院を通じて強大な権限を手にしようとしたレンツィに対し、イタリア労働者階級はその反労働者的意図を見抜いて決起した。
 今回の国民投票運動中の10月21日、130万人の労働者がゼネストに決起し、首都ローマをはじめイタリア全土で陸海空にわたる交通・物流を止めた。このゼネストは、体制内労働組合から独立した立場のUSB(職場労働者組合)など戦闘的な労組が呼びかけた。3大労組(労働総同盟など)が参加していないこともあって、ヨーロッパのメディアは完全にこれを黙殺した。この巨大なゼネストが掲げたスローガンは、憲法改悪反対とともに、この間レンツィ政権が強行してきた労働法制改悪への断固たる反対であった。
 レンツィ政権は2014年の登場以来、「労働市場の弾力化」「雇用の活性化」を掲げて労働法制改悪に着手し、解雇規制の緩和、労働法第18条(15人以上の従業員の企業に対し、不当に解雇されたと判断された労働者を復職させることを義務付けている)の撤廃、また「終身雇用契約」(契約期間中の解雇は企業の自由)を結んだ企業への減税措置をとるなどの方策を強行してきた。3大労組は、この労働法制改悪攻撃に屈服を重ねてきたのである。
 フランス労働者階級も今年の春から秋にかけて、やはり労働法制改悪に反対して10回ものゼネストを闘った。これとの対決は、日本や韓国をはじめ全世界の労働者の共通の闘争課題である。
 では、なぜこのような労働者階級の闘いが存在するにもかかわらず、五つ星運動のような勢力が議会で大きな位置を占めているのか。イタリアの政党の議会における勢力は、第1党の民主党(中道左派)、第2党の五つ星運動、第3党の「フォルツァ・イタリア(がんばれイタリア)」(元首相ベルルスコーニの右派政党)が「3大政党」を形成。第4位が「新中道右派」、やっと第5位に「左翼エコロジー」がいるのみで、まがりなりにも労働者を代表するような政党は影も形もない。
 イタリア共産党は、ソ連スターリン主義の崩壊と同時に、1991年に解散して「左翼民主党」に転身し、極小グループに転落。社会党も98年に解散。左翼勢力が解体しているのが現状である。
 他方でイタリア経済は、2007〜08年の世界大恐慌開始時以下の状態に転落したままであり、失業率は11・6%、青年層の3分の1が失業者である。加えて、銀行危機が爆発している。イタリアの銀行で第3位のモンテ・デル・パッシ銀行は、ヨーロッパ銀行監督機関が7月に行ったストレス・テストでヨーロッパの51の銀行の最下位と判定され、救済の対象となっている。イタリア最大の銀行ウニ・クレディットも最弱銀行リストの第5位と判定され、破綻に直面している。これが独仏に次ぐ「EU第3の大国」といわれるイタリア経済の現状である。
 今回のレンツィ政権の敗北は、こうした新自由主義の破産に対する広範な労働者人民の怒りの爆発がもたらしたものだ。

オーストリア大統領選
 極右台頭に怒りの反撃
 ウィーンで「難民歓迎デモ」

(写真 「難民を歓迎します」の横断幕を掲げ、大統領選投票日直前の11月26日にウィーンで行われたデモ)

 今回のオーストリアの大統領選挙は、5月に行われた選挙が手続き上で不審な点があるとして、憲法裁判所の裁定で無効になったために実施された再選挙であった。緑の党のアレクサンダー・フォン・デア・ベレンが、極右自由党のノルベルト・ホーファーを破って当選した。得票率は53・4%対46・6%で、票差は約30万票。前回の3万863票差から大きく差を広げた。
 これは、5月選挙での極右の進出にオーストリアの広範な人民が危機感を燃やして緑の党支持に向かった結果である。移民・難民を敵視し、排外主義を扇動し、EU脱退を主張してきた極右自由党が、前回も今回も、870万人のオーストリアをほぼ二分する勢力になっているということは、階級闘争上の重要な課題を提起している。
 ホーファーの自由党とは、そもそも1956年に元ナチス党員によって結成され、「ドイツ民族による統一国家の設立」を求めていた政党である。その後、86年に党首になったハイダーのもとで99年に国会議員選挙で第2党に躍進し、その翌年には中道右派の国民党とともに連立政権を形成した。これに対するEUの制裁措置などもあって一時は下野したが、この間の難民問題の深刻化の中で排外主義を組織し、EU脱退を掲げるなどして今回の大統領選に挑戦したのである。それだけに、フランスのルペン率いる「国民戦線」、ドイツの「AfD(ドイツの選択)」、オランダの「自由党」などといった全ヨーロッパの右翼勢力の注目も集めた。
 今回の大統領選が、2大政党である社民党と国民党(キリスト教保守党)の枠外で闘われたということに、オーストリア人民の体制への絶望が表明されている。
 この状況を突き破る闘いの一つが、3月19日にウィーンで1万6千人が参加した「難民歓迎デモ」、さらに大統領選投票日直前の11月26日に「難民たちを生きさせろ!」「滞在を許可せよ!」を掲げて行われた千数百人のウィーン中心街デモであった。
 このようにイタリアでもオーストリアでも労働者階級人民の新たな闘いが高揚する中で、今こそ階級的労働運動の復権とそれを指導する革命的労働者党の建設が緊急の課題となっている。

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五つ星運動 コメディアンのベッペ・グリッロらが2009年に結成した政党。16年にローマ市長に当選したヴィルジニア・ラッジなどが所属する。五つ星とは、①水道の公営化、②交通機関の確保、③持続的経済成長、④インターネットへの自由なアクセス、⑤環境保護を意味する。

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