鉄路を維持できなくなったJR北海道 国鉄分割・民営化の総破産がこの惨状をもたらした

週刊『前進』04頁(2831号02面05)(2017/03/27)


鉄路を維持できなくなったJR北海道
 国鉄分割・民営化の総破産がこの惨状をもたらした


 国鉄分割・民営化は全面的に破綻した。その象徴がJR北海道だ。だがJRは、その現実をも逆手に取り、業務の外注化と転籍、ローカル線廃止による地方破壊を柱にした第2の分割・民営化攻撃に突き進んでいる。それは、労働組合を解体し戦争への道を開く攻撃でもある。全国でさらに動労総連合の建設を推し進め、第2の分割・民営化攻撃と対決して安倍打倒のゼネストを切り開こう。国鉄闘争全国運動の会報第82号に掲載された国鉄闘争全国運動・北海道からのレポートは、新自由主義がもたらした地方破壊の現実を生々しく伝えている。このレポートを転載して紹介します。(編集局)
 北海道で鉄道の半分が切り捨てられようとしている。安倍首相や石井国交相はJR北海道の経営危機について「分割・民営化が失敗したわけではない」「人口減少が原因だ」としている。
 2月の北海道新聞の全道世論調査では、路線が廃止された場合、生活や仕事に「大きな影響がある」が10%、「ある程度の影響はある」が20%、「将来は影響が出る可能性がある」が37%で、計67%が「影響ある」と回答した。
 廃線になれば鉄路と駅が消える44市町村では、「大きな影響がある」が9%、「ある程度の影響はある」が24%、「将来は影響が出る可能性がある」が43%で、計76%が「影響ある」と回答した。
 国鉄分割・民営化についても、「分割も民営化もいずれも良くなかった」が23%、「分割は良かったが、民営化は良くなかった」が8%、「分割は良くなかったが、民営化は良かった」が24%で、計55%が「良くなかった」と回答し、「分割も民営化もいずれも良かった」の13%を大きく上回った。
 「国鉄分割・民営化は失敗した」という前提で「JR北海道の再生」が議論されている。その枠組みの見直しは、北海道庁のワーキングチームや自民党の一部幹部までが言い出しているが、鉄道の現場で働く労働者が誇りを奪い返す立場に立たない一切の議論からは何の展望も生まれない。
 だが、国鉄分割・民営化に屈した労働組合は、国に財政支援を要求するだけで、国や資本と対決して闘うことができない。
 北海道で国鉄闘争の火を消さず闘ってきたことは正しかった。この旗印はいまや分断を打ち破って、労働者人民が団結して未来を切り開く道を照らし出すものとして輝いている。その先頭に国鉄1047名解雇撤回の闘いが立つ時が来ている。

迫る経営破綻

 JR北海道は今年の1月に、2020年度中に資金不足に陥るとの試算をまとめた。資金見通しは16年度から5年間。180億円規模の経常損失に加え、設備投資や借入金の返済などが膨らみ、毎年300億円規模の資金不足になる見通し。
 国による計1200億円の追加支援などで順次穴埋めするが、支援は19年度で途切れるため、それまでに赤字を減らすか、何らかの資金を手当てできなければ、20年度末までに資金繰りがマイナスに転じる。JRは「資金不足となった場合、『絶対に守るべき安全の基準』が維持できず、全道で列車の運行ができなくなる」という。
 人口減少や高速道路の普及が進んだことに加え、低金利で国から受けた基金の運用益にも頼れず、赤字が膨らんでいることをJRは理由に挙げている。
 だが問題の根っこにあるのが30年前の国鉄分割・民営化だ。
 人口が少ない「北海道」がいずれ経営難に陥ることは十分に予想できた。東京・新宿駅の乗降客はJRだけで1日76万人。北海道はすべての路線を足しても36万8千人と、たった1駅の半分にも満たない。
 JR北海道や九州などには発足時、経営安定基金の運用益で赤字を補填(ほてん)する仕組みがつくられた。JR北海道の必要額は、1986年当時の試算で年498億円とされ、経営安定基金は6822億円とされた。その根拠は、将来の運用利回りを、過去10年分の国債利回りの平均値(7・3%)と同じだと仮定したという。
 運用益は、金利が0・1%下がっただけで収入は7億円近く減るが、政府側は「将来的にも運用益は十分に期待できる」と強気の答弁を繰り返した。ところが予定通り調達できたのは最初の2年だけ。16年度の見込み分まで足し合わせると不足額は実に4300億円に達する。

民営化の矛盾

 JR北海道は、国土交通省所管の独立行政法人、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が100%株式を保有する実質的な国有企業だ。
 国は「国が株を持つのは、JR各社が株式上場を目指す国鉄改革の基本方針に沿ったもの。……国の監督規制は必要最小限にとどめ、経営の自主性を尊重するのが基本的な姿勢です」(国交省鉄道事業部長・大野達)と言うが、それはうそだ。
 JR北海道の株主総会は毎年6月、本社の会議室で行われる。新旧の取締役や監査役ら会社側二十数人に対して、株主はたった1人。昨年6月の総会で同機構の北村隆志理事長は「企業価値を高める努力を求めた」と記者団に説明した。「単独で維持困難」な路線を言い出した起点がここにあった。
 JR北海道は2016年3月期の連結決算で352億円の営業赤字を計上し、島田社長は7月、「これ以上(赤字路線)問題を先送りすれば早晩、資金繰りが破綻する」と述べた。しかし貸借対照表を見ると負債合計が4684億円なのに対し、純資産合計は9663億円。5千億円近い圧倒的な資産超過で、普通の民間企業なら道内トップ級の健全企業だ。
 それでも資金繰りが危機的(島田社長)なのは、債券などで運用して赤字を穴埋めするための経営安定基金が、JR会社法で「(国交省が承認しない限り)取り崩してはならない」と定められているからだ。
 「経営安定基金を自由に使えるなら、財務的に優良企業だ」(楽天証券経済研究所の窪田真之所長)。
 JR北海道が収益改善を急がなければならない本当の理由は、同社がJR会社法に縛られた国有企業であり、国が株主として早急な収支改善を求めているからだ。
 事業の多角化を進めてきたJR北海道は、連結売上高に占める鉄道事業収入の割合は39・9%で、JR九州の39・7%(16年3月期決算)と同様だが、JR九州が東証1部で上場できたのは、上場を前提にした会計処理の効果が大きかった。不採算路線の維持を前提にした経営安定基金(3877億円)を資本剰余金に組み入れ、自由に使える資金に変えたのだ。この資金で九州新幹線の20年分の施設使用料を一括払いするなどし、鉄道事業は表向き黒字に転じた。国の政策で、こうも明暗が分かれるのだ。

逃げた国と道

 JR北海道への経営の支援について石井国交相は「設備投資に対する助成や無利子貸し付けなど、これまでも行ってきている」と主張し、経営悪化の責任はJR北海道にある以上、財政支援を行わないとする姿勢だ。
 高橋・北海道知事も10日、JR北海道の「赤字補填は国も道も無理」と述べ、財政支援は国に求めず、道としても行わないと言明した。「道民の税金を、赤字補填に充てるのは道民に説明できない」と強調し、国に求める支援策は、道の鉄道ネットワークワーキングチーム(WT)報告が基本だとした。WT報告は、JR貨物からJR北海道に支払われる線路使用料の積み増しや鉄道施設の老朽化対策などは掲げている。
 これは昨年11月にJR北海道が「単独では維持困難な路線」を発表した直後の対応からの大幅な後退だ。高橋知事は「国への提言、提案をしっかり行い、財政面も含めて抜本的な支援策を求める」と述べていた。
 麻生太郎財務相が1月に、JR東日本との合併も「一つのアイデアだ」と発言したことをめぐって政府は10日、「完全民営化されたJR東日本の経営判断に関わるため、政府として見解を示すことは控えたい」との答弁書を閣議決定し、麻生発言を事実上打ち消した。

住民の生命線

 JR北海道は、経営の悪化が減便、駅の無人化などサービス低下を招き、利用客減少が経営を圧迫するという悪循環に陥っている。維持困難とした10路線13線区間にある全駅について、周辺2㌔圏内の人口を合計したところ、約100万人に上るという。そもそも鉄道会社に独立採算を求めるのは、日本特有の「幻想」に過ぎない(上岡直見氏、環境経済研究所代表)。
 路線の廃止に伴って、JR北海道は「上下分離方式」を言い出したが、これは線路や駅を沿線自治体に所有させるという意味で、国が管理する上下分離とはまったく違う。
 フランスの鉄道の運賃収入は収入全体の2割程度で、その他は公的な制度による財源で運営されている。オーストリアの連邦鉄道は、国の面積は北海道とほぼ同じだが、政府は施設管理会社に公的資金を投入し、JR北海道の約2倍となる4846㌔の鉄路を維持している。さらに運行会社が昨年計上した約1200億円の赤字は、政府の補助金で穴埋めされた。
 鉄道はインフラだという発想で見れば、「平均乗客数」というJRの尺度と違うものが見えてくる。留萌線は、2015年度の1㌔当たり1日平均乗客数が、全道で5番目に少ない183人だったので、廃止とバス転換の対象に含められた。
 その恵比島駅は、周辺の住民は9世帯13人だが、乗降客数は1日延べ10人で、高い利用頻度を示す。小集落であっても鉄路への依存度が高い地域の存在があるということは、JRでは顧みられない。
 北海道教育委員会の調査では、道内を19に分けた通学区域のうち、区域外の高校へ進学した生徒の割合は、2年以上も不通で廃止が言われている日高線を抱える日高地区が28%と最多で、5年前から7・1ポイント増え、増加率も全道で最も高かったという。路線の廃止は進学や就職を求める若者の人生を変え、通院や買い物が必要な人々の命まで左右する。
 もう国やJRの言いなりになって勝手に人生を決められるわけにはいかないという怒りが広がっている。
 JR北海道の安全崩壊は依然として危機的状態にある。経営の破綻と安全の崩壊は表裏一体だ。安全回復を線路の切り捨てで行うというのは筋違い。安全とインフラの死守を訴え、動労総連合建設で闘う時だ。
(国鉄闘争全国運動・北海道)
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