繰り返すな戦争 その実装に迫る 第3回 石油資源略奪が侵攻の狙い イラク戦争 デマねつ造し開戦

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週刊『前進』02頁(2946号02面02)(2018/06/07)


繰り返すな戦争
 その実装に迫る 第3回
 石油資源略奪が侵攻の狙い
 イラク戦争 デマねつ造し開戦

(写真 ファルージャでの大虐殺 人口約25万人のファルージャで米軍は2004年、二度にわたり市街を封鎖・包囲し掃討作戦を展開した。町を徹底的に破壊し、4月に住民約800人、11月に約6千人を虐殺。写真は11月、病院で住民を拘束する米兵)

 2003年3月20日、当時の米ブッシュ政権は、「イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っている」というCIA(中央情報局)がでっち上げた虚構を開戦の理由に掲げ、イラク戦争を強行した。01年の9・11事件に対する報復として始まったアフガニスタン戦争とともに、ブッシュ政権はこの戦争を「テロを根絶し自由を拡大するための正義の戦い」などと称した。だがその実態は、アメリカ帝国主義の中東支配の維持と石油資源強奪、そして巨大資本の金もうけを目的とした、一片の正義もない侵略戦争だった。

年8千人の帰還兵が自殺

 米軍は爆弾3万発、精密誘導ミサイル2万発、さらに劣化ウラン弾でイラク全土を破壊し、03年5月2日に「勝利宣言」を出した。だが、占領した多国籍軍と武装抵抗勢力との血みどろの戦闘が始まり、米軍の無差別爆撃やイラク人民への弾圧、略奪、暴行、監禁、拷問、殺害などが本格化したのは、それからだった。とりわけこの戦争で急成長したブラック・ウォーター社などの民間軍事会社の派遣した傭兵(ようへい)部隊が正規軍とともに残忍な弾圧や虐殺を担った。
 NGOの調査によれば、06年7月時点でイラク戦争による死者(戦争と占領がなければ死なずにすんだ人)の数は65万5千人、別の調査では09年1月までに133万9千人に達する。この破壊と虐殺の果てに、米軍は疲弊(ひへい)し惨敗して11年末に撤退した。そして荒廃したイラクにはその後、「IS(イスラム国)」などの反人民的な武装勢力が台頭した。
 イラク戦争ではイラク人民ばかりでなく、貧困ゆえに軍に志願した若者など、多くの米国の労働者人民も人生を破壊された。「反戦イラク帰還兵の会」は14年11月、イラク戦争・アフガン戦争からの帰還兵の自殺者数が1日平均22人、年換算で8千人に達すると発表した。過去13年間(01〜14年)の累計戦死者数約6800人を大きく上回る数の帰還兵が、毎年自殺に追い込まれているというのだ。
 PTSD(心的外傷後ストレス障害)やTBI(外傷性脳損傷)に苦しむ帰還兵は50万人を超える。戦争後遺症で仕事ができず、家庭は崩壊し、酒や薬物への依存に陥り、路上生活を送る人も多い。デヴィッド・フィンケル著『帰還兵はなぜ自殺するのか』(邦訳・亜紀書房)は、そうした帰還兵と家族の苦悩を克明に描いている。
 戦争をあおり、戦争で大もうけをした連中は何の償いもせず、兵士のケアや治療にかかる医療費の負担まで労働者人民に押し付けようとしている。さらに現在のトランプ政権は、新たな侵略戦争に向けて軍事予算の大幅増額と社会保障費の削減を強行しているのだ。

「復興」で肥え太る米資本

 イラク戦争は石油資源強奪の戦争であると同時に、新自由主義のもとでの新たな型の侵略戦争だった。
 03年9月、イラクの占領政策を掌握する連合国暫定当局(CPA)は、国営企業200社を民営化し海外投資家に売却することを始め、貿易関税の全面撤廃や外国企業の参入を促進する諸措置などを命令した。また重要産業部門でのストライキを禁止し、団結権を制限した。旧イラク軍兵士や国営企業の国家公務員(技術者、専門家、教員、医師や看護師などを含む)約50万人が解雇された。さらに外国商品の流入で多くのイラク人の企業が倒産し、街には失業者があふれた。
 さらに米議会は「イラク復興予算」と称してインフラ建設などに投じる予算380億㌦を計上、その他諸外国から150億㌦、イラクの石油収益からも200億㌦が拠出された。この巨額の金に群がったハリバートンやべクテルなどの米国系大企業は、イラク人にほとんど仕事も与えず、事業もろくにやらずに「復興予算」を持ち逃げし、イラクをますます荒廃させた。
 ナオミ・クラインは主著『ショック・ドクトリン』(邦訳・岩波書店)でイラク戦争と占領政策について一章を設けて論じ、次のように指摘する。「ブッシュ政権は……戦後のイラクを、濡れ手で粟の利益を得られる新規公開株のごとく扱った」「イラクは冷酷無情な資本主義の実験場へと変えられてしまったのだ。そのシステムこそがイラク国民や地域社会同士を敵対させ、何百万という人々から職や生活手段を奪い、外国人占領者の横暴な振る舞いを許して正義追求の道を封じ込めたのである。……これは資本主義が引き起こした惨事であり、戦争によって解き放たれた際限のない強欲の生み出した悪夢にほかならない」
 これが「イラクの解放」「テロを根絶し米国民の安全を守る」と称して強行されたイラク戦争の正体だった。そしてこの戦争での米軍の敗退とイラク侵略の破産は、今日の米帝の大没落と中東支配の崩壊を決定的に促進した。
 この犯罪的で破滅的な戦争を真っ先に支持した日本政府は、自衛隊を派兵して侵略の片棒を担ぎ、多くの自衛官を自殺やPTSDに追い込みながら、今日もなお総括も検証も一切行わないまま9条改憲と戦争へ進もうとしているのである。
 こんな戦争政治は終わらせなければならない。「改憲・戦争阻止!大行進」を全国に拡大し、トランプと安倍を倒そう。
(水樹豊)
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