繰り返すな戦争-労働者の戦争動員- 第2回 国家総力戦を狙う安倍 緊急事態条項は国家総動員法の復活

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週刊『前進』02頁(2984号02面04)(2018/10/25)


繰り返すな戦争
-労働者の戦争動員- 第2回
 国家総力戦を狙う安倍
 緊急事態条項は国家総動員法の復活

(写真 勤労報国隊として炭鉱労働に動員された女性たち【1943年】)

(写真 国家総動員法に基づく金属回収。少年団の鉄くず拾い【1943年】)


 1914〜18年の第1次世界大戦は戦車、戦闘機、潜水艦などの近代兵器の出現とともに、「国家総力戦」という新たな戦争形態を登場させた。すなわち軍隊と軍隊が戦場で砲火を交えるだけでなく、国の人的・物的資源を総動員して長期にわたる大規模な消耗戦を戦うこと、そのために平時から鉄・石炭・石油などの軍需資源の確保や工業生産力の拡充を図り、さらには国民を戦争目的のために根こそぎ動員することが、戦争の勝敗を決する鍵となったのである。
 また第1次大戦の真っただ中において17年ロシア革命が勝利し、さらに翌18年のドイツ革命で戦争が終結したという事実は、欧米の交戦諸国だけでなく日本帝国主義の支配階級にも巨大な衝撃を与えた。帝国主義戦争において国民の戦争動員を首尾よく成し遂げることができなければ、戦争の遂行が不可能になるばかりでなく、戦争を起こした政府と支配階級への怒りが革命となって爆発することが示されたからである。
 こうして日帝支配階級は、総力戦遂行を可能とする軍需資源の確保を死活の課題として中国大陸への侵略衝動を一層強めるとともに、国内においては階級闘争の鎮圧と国家総動員体制の確立に全力を挙げて取り組むこととなった。

戦争遂行を目的とする挙国体制確立

 陸軍参謀本部は第1次大戦の実態調査・研究に基づき、早くも17年9月には「全国動員計画必要の議」を作成。20年5月には「国家総動員に関する意見」を提出し、総力戦体制構築への法整備を求めた。
 軍部からの働きかけを背景に、18年には軍需工業動員法が成立。政府は同法の運用を統括する機関として内閣軍需局(後に国勢院へ改組)を設置した。この中央統制機関は一旦廃止された後、27年に資源局として再組織され、中国侵略戦争が全面化した後の37年10月に企画院へと改組された。
 そしてこれらを集大成するものとして、38年3月、国家総動員法が成立した。同法はその第1条で、「国家総動員とは戦時(戦争に準ずべき事変の場合を含む。以下之に同じ)に際し国防目的達成の為国の全力を最も有効に発揮せしむる様人的及物的資源を統制運用するを謂(い)う」と定義した。そしてこの目的を達成するために、国民の徴用、生産や輸出入の統制、土地や工場施設の収用、物価統制、さらには言論統制や労働争議の禁止に至るまで、帝国議会の承認を一切得ることなく「勅令(=天皇の命令)」という形式をとった政府の命令一つで実施できると定められた。
 このような包括的な委任立法の成立により、すでに形骸化していた帝国議会は完全に有名無実化し、戦争遂行を至上目的とする挙国体制がつくられた。その意味で国家総動員法は、ドイツでナチスに独裁権を与えた全権委任法(授権法)に匹敵するものであった。

勅令で国民徴用令未成年も強制動員

 39年7月、国家総動員法に基づく勅令として国民徴用令が公布され、政府指定の産業に国民を強制的に就業させる権限が厚生大臣に与えられた。被徴用者の数は45年までに615万人に上った。他にも船員徴用令(40年10月)、国民勤労報国協力令(41年11月)医療関係者徴用令(41年12月)、獣医師等徴用令(42年1月)、、学徒勤労令(44年8月)、女子挺身勤労令(44年8月)などが次々と出され、未成年や未婚女性も徴用された。
 軍需工場は現役の軍人が監督し、軍隊同様の殴打・懲罰が横行する中で多くの徴用工が奴隷労働を強いられた。しかし、こうした未熟練労働力の投入は生産を思うように増大させることはできず、また軍需以外の民需産業は働き手を失って急速に衰退し、日本経済は土台から崩壊に直面した。 徴用工の労働意欲もきわめて低く、内務省警保局はすでに42年の時点で「遅刻早退者の増加」「欠勤者の激増」「逃走者の続出」「職場における怠業傾向」の全国化といった「労働情勢の悪化」を記録している(吉田裕著『アジア・太平洋戦争』、岩波新書)

隣組で住民監視と生活必需品の統制

 総力戦体制の構築で重要な柱となったのは、隣保班または隣組と呼ばれる地域住民組織であった。内務省は39年9月、各地方長官に宛てて、既存の住民組織としての町内会(都市部)と部落会(農村部)を「国民精神総動員、銃後後援、生産力拡充、貯蓄奨励、金集中、物資物価の調整など重要国策の趣旨を徹底し全国民をして協力実践せしむるの機構」へと整備するよう通達。続いて40年9月の「部落会町内会等整備要領」で、町内会・部落会の末端組織として5〜10戸を一単位とする隣組を組織することを訓令した。
 すでに食料・衣料などの生活必需品は配給制となっており、人々はそれらを配給する隣組に参加しなければ生活できない状態にされた。そして隣組を通じて、戦争に反対または非協力的な者の監視・摘発、勤労奉仕、防空演習、貯蓄、戦時公債の引き受け、出征兵士の歓送などを強いられた。
 このように地域でも職場でも徹底した総動員体制が構築され、人々は家族の戦死を悲しむことすら許されず、飢餓と無権利状態のもとで軍務や徴用に動員され、空襲で住む家さえも焼かれて45年8月の敗戦を迎えたのである。
 今日、安倍・自民党が憲法への自衛隊明記=9条破壊と一体で導入を狙う緊急事態条項は、国家総動員法の復活を意図するものだ。戦争動員を許さない職場・地域からの闘いと一体で改憲阻止闘争を拡大しよう。

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