激化する世界大恐慌 米帝の対中国貿易戦争が世界経済の大分裂を促進

週刊『前進』04頁(3034号03面02)(2019/05/13)


激化する世界大恐慌
 米帝の対中国貿易戦争が世界経済の大分裂を促進


 米トランプ大統領は5月5日、対中制裁関税の第3弾の2千億㌦分の税率を、5月10日をもって10%から25%に引き上げると発表した。米中貿易戦争が一気に再燃し、連休明けから世界同時株暴落が襲っている。世界経済は分裂と対立を深めながら、大恐慌と戦争を激化させていく以外にない。労働者の命と生活を奪ってしか延命できない資本主義を今こそ打倒し、根本から変革しよう。

日米2国間FTAを迫られ危機深める日帝・安倍政権

 トランプ政権の対中制裁関税第3弾は対象額としても大きい上に、日用品が多くを占め、貿易・経済への打撃はこれまでよりはるかに甚大だ。トランプはさらに、中国からの輸入額の残り3250億㌦への制裁関税にも言及している。
 米政権は協議の遅れを理由にしているが、それは米国側が中国を一方的に非難し、合意事項の順守を監視し違反した場合に罰則を科す仕組みを設けることや、米国が制裁関税を発動しても中国は報復措置をとらないと確約することを強硬に求めていたことが最大の原因だ。5月9〜10日の米中通商協議を前にして、さらに強硬な立場を中国に突きつけたのだ。
 トランプ政権の強硬な通商政策の対象は中国だけにとどまらない。EU(欧州連合)に対しては4月、欧州航空機大手エアバスへの補助金が不当だとして、110億㌦分のEU製品への関税を課すことを発表した。EUもこれに対抗し、米ボーイングへの補助金が不当だと主張、米側が実際に関税を発動すれば、米工業品や農産品など200億㌦相当に関税を課すとし、対立が深まっている。
 米日通商協議は4月に開始され、26日の首脳会談ではトランプが「5月中の合意」を突如打ち出した。日本の労働者を欺くために7月参院選後まで引き延ばそうとしていた安倍は動揺している。第一段階は農産物や自動車など物品をめぐる協議に限定するとなっているが、その後はサービス・投資分野全般の協議が約束されており、どんなに押し隠そうとしても本丸の2国間FTA(自由貿易協定)交渉に進んでいかざるをえない。すでに、ムニューシン米財務長官は「(通貨安誘導を禁止し日本の為替政策を縛る)為替条項も議題だ」と表明しており、日本の対米自動車輸出に対する数量規制の導入もいつ表面化してきてもおかしくない。全面屈服を突きつける対日争闘戦として展開されていく以外にないのだ。

米製造業は崩壊しハイテク産業でも中国に追われる

 朝日新聞2月24日付では概略次のように書かれている。「『中国から工場を取り戻せ』というトランプ政権の号令を先取りするように、ミニバイクやゴーカートの米国メーカーが16年春、組み立て工場を中国から米ルイジアナ州に移転した。ただ、部品供給網は米国に残っておらず、約400点の部品のすべては中国から輸入。1年以上たっても部品メーカーは米国には移ってこず、人件費と輸送費の高騰で利益は減少。結局18年春に工場は閉鎖され、組み立て工程は再び中国に戻された。いったん中国などに部品供給網ごと流出してしまった旧来の製造業が、米国で息を吹き返すのは至難である」
 トランプがどんなに「製造業の国内回帰」を叫んでも、部品供給網ごと失ってしまった米製造業の衰退は絶望的状況だ。オバマ前政権が追求したTPP(環太平洋経済連携協定)も、米製造業の復活にとっては何一つ展望のないものであった。ゆえにトランプ政権はそのすべてをひっくり返し、徹底的に破壊する以外になくなっている。中国を組み立て工場にして築かれている部品供給網を丸ごと破壊することこそ核心的狙いなのだ。同時にそれは、アジアで生産体制を構築してきた日本への争闘戦として強力に貫かれている。
 さらにはハイテク(先端技術)をめぐる争闘戦と覇権争いが火を噴いている。特に、現在の100倍の通信速度になる次世代通信規格5Gの導入をめぐって、米国は中国のファーウェイなどを徹底的に締め出す立場を鮮明にさせた。ハイテク分野は米国が唯一今なお世界に先行する産業であり、また軍事と直結する問題でもあるため、絶対に譲ることはできない。
 だが米主導によるファーウェイ締め出しはまったく成功していない。米政府は安全保障を理由にNATO(北大西洋条約機構)加盟国を恫喝したが、EUは全面排除を見送り、域内各国政府に採用の判断を委ねた。ドイツは特定の企業を排除しない方針を示しており、3月に中国の一帯一路への参画に署名したイタリアはファーウェイとの連携に前向きだ。英国はネットワークの中核部分からは排除するが、それ以外は参入を認める方針となった。ファーウェイは通信基地局のシェアや5G特許の多くをすでに握っており、各国の資本が同社と深く結びついて技術開発も行ってきたからだ。同時に、米国のファーウェイ排除方針がEU各国に対する露骨な争闘戦としてあるからでもある。

企業債務が膨張しリーマンショック以降で55%も急増

 基軸国である米国がすでに、戦後体制の枠組みも世界経済も安定的に支配する力と意思を失っている。自ら破壊者として登場し、分裂と対立を深めながら、世界経済の急減速に向かって突き進んでいくしかない。しかも、今やこの危機を抑え込む方途はほとんどなくなってしまっている。
 08年リーマン・ショック以来の空前の恐慌対策は、国債の無制限の発行と中央銀行による大量買い入れ、さらに中銀の超低金利政策のもとで企業債務という矛盾としてとんでもなく膨れ上がっている。IMF(国際通貨基金)が4月に公表した金融安定性報告書によれば、世界の企業債務は17年末で167兆㌦(約1京8500兆円)であり、金融危機後の10年間で約60兆㌦(55%)増えた。特に米欧企業の低格付け社債の発行残高がリーマン・ショック以降で4倍に急増した。
 安倍政権は緩和策から抜け出せず、巨額の国債と株を恒常的に買い入れ続け、20年末には「日銀が日本株の最大株主」(日経新聞試算)と予想されるという異常事態になっている。
 世界大恐慌の深化と世界戦争の危機の切迫は、各国で労働者の新たな決起を生み出している。歴史的命脈の尽きた資本主義を今こそ労働者の力で打倒しよう。
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