非正規だけの社会にさせない③賃金破壊との闘い 競争ではなく団結を 全労働者を貧困に突き落とす攻撃「生きられる賃金」寄こせと闘おう

週刊『前進』02頁(3043号02面01)(2019/06/13)


非正規だけの社会にさせない
③賃金破壊との闘い
 競争ではなく団結を
 全労働者を貧困に突き落とす攻撃「生きられる賃金」寄こせと闘おう


 19春闘でトヨタなどの大資本は、定期昇給やベースアップに象徴される年功制賃金の最終的な解体に踏み切った。これは改憲・戦争に向けて労働組合を絶滅しようとする攻撃と一体だ。中小・零細企業主も組織した産業別政策運動で大幅賃上げを実現してきた全日建運輸連帯労組関西地区生コン支部には、執拗(しつよう)な弾圧がかけられている。だが、新自由主義のもとで生きることもままならない低賃金を強いられてきた労働者は、青年を先頭に資本への反撃を開始しつつある。闘う労働組合をよみがえらせる決戦は訪れた。

時給は20年で9%も下落

 日本の労働者の賃金は時給換算で20年の間に9%下落したというOECD(経済協力開発機構)の発表は、大きな衝撃を与えた。それによれば、1997年と2017年を比較した時給は、イギリスで87%、アメリカで76%、フランスで66%、ドイツで55%、韓国では150%も上昇する一方、主要国の中で唯一、日本だけが下落した。
 国税庁の民間給与実態調査でも、1997年に467万円だった給与所得者の平均年収は、2017年には432万円と、35万円も落ち込んでいる。
 労働者の平均賃金を引き下げた要因は、新自由主義のもとで徹底的に進んだ労働者の非正規職化だ。
 日本の労働者全体に占める非正規労働者の割合は37%を超えた。2017年の場合、非正規労働者の平均年収は175万円で、それは正規労働者の年収の約35%にすぎない。これでは、およそ生命を維持することもままならない。
 実際、非正規労働者の賃金は最低賃金ぎりぎりに張り付いている。JR東日本の子会社CTS(千葉鉄道サービス)では、契約社員・パート社員の賃金が最低賃金すれすれに設定されているため、毎年秋に最低賃金が改められるたびに、賃金改定を繰り返している状態だ。
 こうした中、安倍政権は経済財政諮問会議で、最低賃金を早期に時給1000円に引き上げると言い始めた。現在の最低賃金は最も高い東京都で985円、最も低い鹿児島県で761円。確かにこれでは生きていけないが、1000円に引き上げたとしても、生存できない水準であることに変わりはない。
 安倍や資本が労働者の待遇を改善しようと考えているはずはない。最低賃金の引き上げは、彼らがたくらむ年功制賃金の最終的な解体とセットになって打ち出されたのだ。

解雇自由化と一体の攻撃

 19春闘でトヨタ社長の豊田章男は「終身雇用を守っていくのは難しい」と恫喝し、一律・横並びのベースアップを否定した上、年功制賃金を最終的に解体する賃金改悪に向けた交渉に入ることを労組にのませた。経団連会長の中西宏明(日立製作所会長)は「経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っている」と公言している。年功制賃金と終身雇用制が表と裏の関係にある以上、年功制賃金の解体は、雇用の徹底的な流動化、資本が全面的な「解雇の自由」を手にすることと一体となって進む。
 経済財政諮問会議とともに安倍政権の経済・労働政策の司令塔を形成する規制改革推進会議は、職務や勤務地を限定する「ジョブ型正社員(限定正社員)」制度の法整備に乗り出すことを打ち出した。「ジョブ型正社員」は、職種やその地域での事業がなくなれば直ちに解雇できる、名前だけの「正社員」だ。この「ジョブ型正社員」を雇用の基本的なあり方にして、年功制賃金も終身雇用制も解体しようとしているのだ。
 ここに、来年4月からの「同一労働同一賃金」の施行が重なる。それは、「正規と非正規との不合理な格差の是正」を名目に導入されようとしているが、資本は、職務や勤務地とともに賃金水準や諸手当・昇給の有無などを労働契約の締結時に定めておけば、どんな処遇であれ「不合理ではない」と強弁できるとたくらんでいる。その際、最低賃金は賃金の「最低ライン」ではなく、賃金の基準にされる。安倍と資本が狙っているのはそういうことだ。
 自治体の現場の業務を担う労働者をすべて1年ごとに解雇される「会計年度任用職員」に置き換えようとする攻撃は、その最たるものだ。

定年延長を口実に賃下げ

 年功制賃金の解体に真っ先に着手したのはJR資本だ。今年4月、JR貨物は評価によって労働者を徹底的に分断する新人事賃金制度を実施に移した。この制度のもとでは、競争に勝ちぬき仲間を蹴落として上位職に昇進しない限り、賃金は大きくは上がらない。昇進できない労働者に適用される年齢別最低保障給は45歳で頭打ちになり、その額は21万8520円。これは、JR東日本の大学卒業者の初任給より低い。
 安倍政権が年金の支給開始年齢を70歳に引き上げようとたくらむ中で、年功制賃金の解体は定年延長をも口実に強行されようとしている。定年延長は一見すると終身雇用を維持するための方策に見える。だが、資本が実際にやろうとしていることは、60歳以上の高齢者の賃金原資をひねり出すためと称して、40歳代半ばで定期昇給をストップし、40~50歳代の賃金を大幅に引き下げることだ。
 JR東海は、定年を60歳から65歳に引き上げるとともに、50歳以降の定期昇給を廃止する新人事賃金制度の導入を打ち出した。JR東海はまた、この新人事賃金制度で、これまでは乗務実績に応じて支払われてきた乗務員手当を月額固定制に変えようとしている。
 日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所、日鉄日新製鋼の鉄鋼4社も、60歳から65歳に定年を引き上げ、賃金体系を改変することで労資が合意した。
 年金の支給開始年齢の引き上げと、定年退職後の労働者を低賃金で再雇用するやり方は、これまでも賃金引き下げの主要な手段として使われてきた。JR東日本のシニア制度・エルダー制度はその典型だ。それは、定年後再雇用された労働者に関連会社への出向を強いて、業務の外注化を推し進めるものでもあった。
 年金の支給開始年齢が引き上げられ、労働者は65歳まで働かなければならなくなった。生涯の総労働時間は大幅に増えた。他方、退職金も含む生涯賃金は確実に下がった。生涯賃金を生涯総労働時間で割った「生涯時給」は大きく減った。さらに安倍は「70歳まで働け」と叫び立てている。
 定年後再雇用された労働者の賃金は、「厚生年金の報酬比例部分が支給されるから低くてもいい」とされてきた。それが非正規職の賃金の基準となり、青年層にも低賃金が押し付けられて、貧困が社会を覆った。
 だが、報酬比例部分の支給開始年齢も段階的に引き上げられる中、定年後再雇用された労働者に低賃金を押し付ける口実はもはや失われている。にもかかわらず資本は逆に、特に40歳半ば以降を標的にして、全世代の労働者の賃金を引き下げようとしているのだ。

怒りは満ち闘いが始まる

 青年も高齢者も、もはやこのままでは生きていけない。怒りはあふれ、労働者が労働組合に団結して資本に立ち向かおうとする機運は満ちている。
 昨年秋、東京の特別区職員労働組合連合会と東京清掃労組は、ストライキを構えて東京都人事委員会の賃下げ勧告の実施を区長会当局に見送らせる勝利を実現した。人勧制度を使って公務員賃金を引き下げる手法は、年功制賃金を解体する攻撃の切っ先に位置する。
 賃金をめぐっても、労働者の反撃は開始された。幾つかの職場で労働者は、競争ではなく団結を求めて労働組合を結成し、資本に賃上げを強いる勝利を経験している。こうした闘いを積み上げ、労働者を組織し、11・3労働者集会に至る大決戦に立とう。
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