職場からの通信 AI導入で民間企業が参入 「起業家精神」ではなく「団結」を 公立小中学校

週刊『前進』04頁(3052号02面04)(2019/07/15)


職場からの通信
 AI導入で民間企業が参入
 「起業家精神」ではなく「団結」を
 公立小中学校

(写真 ロケットシップ・エデュケーション)


 〝AI(人工知能)時代に対応した教育を〟----財界・政府は今、国際競争力の強化をうたい、各種の学校でICT(情報通信技術)を利用した教育を推進し、「実証事業」が全国各地で展開されている。そこに民間教育企業が次々と参入し始めている。公立小中学校の現場はどうなっているのか。現役教員の小島茂さん(仮名)に話をうかがった。(本紙記者)

学校は塾とは違う

----小島さんの地域の小学校では、「個別最適化された学び」と銘打って、「算数の紙媒体の単元テストの答案を教員がPC上で採点し、『大日本印刷(株)』にデータを送信して、AI的に自動分析し、それぞれの児童に合った復習プリントを配布する」という、AIを活用した学習システムが全国に先駆けて導入されていますが、現場はどうなっていますか。
 小島 年14回、復習プリントが決まった日に送られてくるから、それに追いかけ回されている。体育大会の練習がある週や今いじめが起きかけている時に、頭の中は別のことを考えなければならない。システムのスケジュールによって教育活動全体がピンで留められたように身動きが取りにくくなる感覚。それはやっぱり過重労働になる。
 子どもの答案に応じたプリントも最大36種類あるから、担任は全部を把握する時間がない。「なんでこんな問題?」と感じるものや、わけのわからない問題もある。それを子どもたちに配って持って帰らすと「わからへん、お母ちゃん」と言って、親が「先生、これどうなってんの」と電話してきても、担任はどの子に何を配ったかすぐわからない。親と教員の信頼関係も破壊しかねない。
 教員は職人みたいなところがあって、経験則で気づくことは人間的であったかみがある。生身の子どものたちとの呼吸は数値化されるものではない。学校は授業も含めて人を育てる空間だから、そこは塾とも違う。ITのすべてを否定するわけではないが、破壊的なものはある。
----どのようなことを危惧されますか。
 小島 評価制度下では単元テストで平均点が低いクラスの教員は「指導力不足教員」にされかねない。点数に特化して結果が出なければ、いつでも首を切れる非正規教員と置き換える総非正規職化の手段にもなる。
 印刷とAIを使ったプリント作成技術は大日本印刷、教材内容は「能開」という全国大手の塾が請け負っている。本来結びつかない大企業が結びついて、市が情報を提供しているシステム。企業は報酬を得た上に利益につながるビッグデータを手に入れられる。民営化・外注化・非正規職化が進行する。
 ICT教育の指定校の職場では、研究発表会にIT企業の営業マンが群がって、担当の教員が入れず「誰のための発表なんだ」という声も上がっていた。
----政府は、教員の業務もICT化で負担を軽減すると言っていますが。
 小島 去年と同じことならパソコン上でデータを上書きすればいいから、その部分に限れば楽だが、逆に膨大な資料がデータでほうりこまれるようになりかえって業務量が増えている。結局、合理化。空き時間には子どものことを語り合っていた職員室に、今ではキーボードをたたく音が響き続けている。同僚に話しかけるのも気を使う。教員の協働性も破壊されがち。
 学校の「働き方改革」と言われているけど、何も変わらずむしろ労働密度は強化されている。若い人からも「何が働き方改革なんでしょうね」という声も。現場にいたら安倍のデタラメさがわかるから。
----今、何が狙われているのでしょうか。
 小島 「AI」キャンペーンの中で、国家と資本がグローバル競争に勝ち抜くために教育内容も教員も全部、新自由主義的なものに入れ換えること。正規職を増やさず機械や非正規職に置き換える。核心点は労働組合をなきものにすること。解放教育や労働者が闘ってきた歴史を抹殺して更地化しようとしている。これこそ改憲・戦争の道。
 これまでは教委が新しい事業を始める時は組合に打診されてきたけど、ここのところは全部結果報告。先にマスコミ発表があり新聞を見て知ることさえある。まさに労働組合なき学校。

労組の果たす役割

----どう対決していきますか。
 小島 矛盾の一つひとつに対しつぶやきはあっても、まだ全体の声として普遍化されていない。「便利か、忙しいか」の論議ではなく、何のための教育労働かをもう一度はっきりさせないといけない。彼ら(政府・財界)の目的は「起業家精神の育成」ということだが、俺らの目的は何か。かつては国語や算数の授業でも基底には人権教育があった。どれだけ部落差別や戦争はだめだと言っても、勉強をできない子をせせら笑っているようなことがあったら、そんなのうそになるから。
 いじめも、根本は新自由主義社会の分断と抑圧が子どもたちに投影された結果だと思う。労働組合が新自由主義社会の根底的変革へ闘うと共に、教育内容にも責任を取り、子どもたちに「団結の中で生きる」ということを教育労働者の討論と実践で豊かにつくることだと思う。
----ありがとうございました。

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公教育の解体 米の後追う日本


 アメリカでは、テスト、教材、データシステム、チャータースクール(公設民営学校)などあらゆる面で教育の民営化が進み、教育の「効率化」が追求されてきた。
 その流れの中で、「個別化学習」がうたわれ、学校にAIも導入されてきた。「ロケットシップ・エデュケーション」というチャータースクールでは、生徒たちはコールセンターのような所で毎日2時間コンピューターに向かい、プログラムされた「個別指導」を受ける。学校側は正規教員を減らし、時給15㌦(約1500円)の無免許インストラクター(非常勤講師)が、最大130人の生徒をモニターする。1年間で150万㌦(約1億5千万円)節約できるそうだ。マイクロソフト社長が創設したゲイツ財団やフェイスブックなど数多くのIT企業が後援にまわっている。(鈴木大裕著「崩壊するアメリカの公教育」参照)
 今年度から大阪で公設民営学校が開設された。ICTを活用した教育をテコに「企業の企業による企業のための教育改革」が日本でも大手を振ろうとしている。

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非正規だけの社会にさせない【記者の視点】

 タブレット端末を使ったデジタル教材、AIによる学習分析、インターネットによる遠隔授業、英語の授業で教壇に立つAIロボット----教育と技術を組み合わせた「EdTech」(エドテック)が経産省主導で導入されている。公教育の民営化・非正規職化が本格的に始まろうとしている。「未来の教室」として思い描かれる教育とは「学びの生産性を上げる」「民間教育と公教育の壁を溶かす」「教室は学習室に。学習塾のオンライン講義動画を」などだが、目的はあくまで「新たなビジネスを創造する人材」(文科省)、「起業家精神の育成」(教育再生実行会議)だ。
 「Industrie4.0」(ドイツ)、「中国製造2025」(中国)、「Society5.0」(日本)。世界各国がインターネットやAIなどを駆使した「生産性の向上」を国家戦略として展開している。経団連は終身雇用制解体を唱え、全労働者を、プロジェクトごとに仕事をインターネットで請け負う「個人事業主」にしようとしている。だからこそ、もうかるかもうからないかで動く「起業家」精神(新自由主義イデオロギーそのもの!)を社会全体の価値観として強制していこうとしているのだろう。
 だがそれは、労働者の権利も団結も否定した「非正規だけの社会」であり、国際競争の果ての戦争だ。教育労働者と共に全労働組合が反撃に立ち、団結をよみがえらせる時だ。

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