自民党改憲案4項目を斬る③教育の国家統制 政府の意思を大学に強制 「学費無償化」と引き換えに条件

週刊『前進』02頁(3055号02面02)(2019/07/25)


自民党改憲案4項目を斬る③教育の国家統制
 政府の意思を大学に強制
 「学費無償化」と引き換えに条件


 自民党は改憲4項目のうちの一つに「教育の充実」を掲げている。現行憲法の26条1項2項に続いて「3項」を新設し、「国は......教育の環境整備に努めなければならない」と明記するというものだ。

 だが、その内実は「教育の破壊」だ。さらに、この項目は他の3項目とは異なり、改憲を前にして法律の形で「事実上の改憲」が行われている点が特徴的である。その内実を詳しく見ていこう。
●大学の運営に外部人材
 今年5月、高等教育の「無償化」を制度化する法律が成立した。2020年度から施行予定だ。しかし、この法律では従来よりも「無償化」の範囲が狭まり、「無償化」に多くの条件が付されるなど、到底「学費無償化」と言えるような内容ではない。
 そこでは、学生に対して一定の成績を求めるだけでなく、大学側にも一定の条件を満たすよう求めている。この条件を満たさない大学に在学している学生は、どんなに困窮しても「無償化」の対象とはならないのである。
 大学側に課される条件の中には、「実務経験のある教員」に授業を担当させること、大学の運営に「産業界等の外部人材」をいっそう介入させることなどが盛り込まれている。
●国立大学法人化と一体
 実は、これらの条件はこれまでの大学改革でも大学側に求められてきたことだった。
 例えば04年の国立大学法人化では、大学の経営を司る最高機関である経営協議会の構成員は、その過半数が大学外部から任命しなければならないとされた(国立大学法人法20条)。
 その後も、学長(総長)選挙制の廃止や教授会権限の縮小(決定機関から諮問機関へ)などが行われ、総じて外部の大企業役員や天下り官僚も多数入り込んだ少数の役員による独裁体制が構築されてきた。
 もっとも、これらの大学改革が現場の教員・学生の反発によって政府の思うようなペースで進まなかったのも事実である。そこで、政府の意思を大学に強制する大学改革の最終的完成としてあるのが、この「学費無償化」とバーターとなった(札束で頬をたたいた)大学側への条件なのだ。
●新自由主義政策の破綻
 「教育の充実」とうたっているが、その内実は「教育の破壊」でしかないのが、この改憲項目だ。重要なのは、新自由主義政策の最後の行き着いた先として改憲があるという認識だ。
 新自由主義政策もいよいよ破綻し日本資本主義が断末魔の悲鳴を上げている中で、日本を牛耳る連中が最後の希望としているのが改憲―戦争であり、緊急事態条項であり、そして大学改革だという時代認識を学生・労働者に広げていこう。そして、9条改憲や緊急事態条項とともに、このあまりにもペテン的な「教育の充実」を粉砕しよう!

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自民党改憲案「教育の充実」

第26条第3項(追加)
 国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。
第89条(改正)
 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督(現、支配)が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
※自民党憲法改正推進本部が2018年2月21日に取りまとめ。

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「学費無償化」の内容と条件

▼支援内容
 国立大学の場合、住民税非課税世帯(年収270万円未満)の場合は授業料等が全額免除、 300万円未満の場合は3分の2を支援、380万円未満の場合は3分の1を支援。私立大学・公立大学の場合も、国立大学に準ずる形で一定の支援。
▼支援の条件(学生側)
 ①高校在学時の成績だけで否定的な判断をせず、レポートの提出や面談により本人の学習意欲を確認。②大学等への進学後については、単位取得が少ないときや成績が下位のときは学生に対して警告を行い、警告を連続で受けた時は支給を打ち切るなどの対処。
▼支援の条件(大学側)
 ①卒業に必要な単位数の1割以上の単位を「実務経験のある教員」による担当とすること。②大学の経営に外部人材がいっそう参画できるよう、理事に産業界等の外部人材を複数任命すること。③授業計画の作成や学生の評価の客観的指標を設定するなど、適正な成績管理を実施・公表すること。④定員充足や進学・就職の状況といった教育活動の状況を含め財務情報や経営情報を公開すること。

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