寄稿 大学入試「英語民間検定」と「高大接続改革」 安倍政権を追いつめる高校生の怒りに続こう 元神奈川県立高校教員 鈴木 一久

週刊『前進』02頁(3085号02面04)(2019/11/14)


寄稿
 大学入試「英語民間検定」と「高大接続改革」
 安倍政権を追いつめる高校生の怒りに続こう
 元神奈川県立高校教員 鈴木 一久


 大学入試「英語民間検定」問題が騒然たる状況を生んでいます。萩生田光一文科相の「身の丈に合わせてがんばって」発言に怒りが集中し、来年度実施が「延期」に追い込まれ、問題点が次々に明るみに出てきました。
 この「身の丈」発言は「失言」や「謝罪・撤回」で済まされる問題ではありません。安倍政権が進める新自由主義「教育改革」の核心を鋭角的に言い当てた「本音」です。
■政財界が受験を利権に
 安倍政権は、「ゆとり教育」を失敗と総括し、「大学入試センター試験」を廃止して2020年度から「大学入学共通テスト」へ移行、その目玉として「英語民間検定試験」導入を打ち出しました。
 これまでの英語入試(マークシート方式)をやめ、「読む・聞く・話す・書く」の4技能の判定を民間6団体・7種類の英語検定に委ねるものです。高校3年次での2回の検定結果が大学入試センターに送られ、A1(低)〜C2(高)の6段階に格付け。この成績が各受験志望校に送付され、合否判定や加点に使われます。まさに「大学入試成績提供システム」です。
 大学入学共通テストは、安倍首相の私的諮問機関・教育再生実行会議の第4次提言で打ち出され(13年)、検討・準備会での議事録を非公開のまま、文科省が英語民間検定試験導入を決定(17年)したものです。営利目的の民間教育産業に大学入試を委託する「教育の民営化」です。ここには経済同友会や、塾業界から違法献金を受領していた下村博文文科相(当時)らが深々と関わっていました。
 なお英語検定に加えもう一つの目玉が国語・数学の「記述式」導入です。この採点業務も、全国学力テストの採点業務を一括受注し文科省と密接な関係を築いてきたベネッセグループが、約61億6千万円で一括落札しました。大量のアルバイトを雇うなど、採点の信頼性や守秘義務に問題があると言われています。民営化が財界・政治家の教育利権の温床になっています。
■「教育の機会均等」を破壊
 大学入試における民間英語検定は、憲法26条「教育の機会均等」を破壊する改憲攻撃です。異なる7種類の民間検定を用いた合否判定の公平性・客観性に疑問が出るのは当然です。検定試験に熟達するための塾や予備校の活用度合、2回の検定に必要な高額な費用負担(検定料・宿泊代・交通費など、地方の受験生は約10万円必要との試算も)など、家庭の経済力や地域格差がもろに反映します。人生設計のスタートラインから差別・選別のふるいにかけられる。「エリート街道」の一方で、多くの青年が「貧困の連鎖」に落とし込められる。萩生田の言う「身の丈」こそ、安倍政権が狙う新自由主義「教育改革」の核心です。
■「私たちは実験台?」
 来年4月実施を目前に、受験会場や日程が決まらず、このシステムを利用する大学・学部すら明確になっていませんでした。高校の89・1%、大学の65・4%が問題ありと回答(朝日新聞9月16日付)し、全国高校長協会はいち早く文科省に延期を申し入れた欠陥だらけの制度設計です。
 このなかで、ついに高校生たちが怒りの声を上げました。「私たちは実験台?」「後輩から、なぜ黙っていたんだと言われたくない」「どう見ても私たちのことを考えた政策とは思えない」と、本質を見抜く批判の声が上がりました。
 こうした現場の怒りが、萩生田を追撃しました。英検受験に必要な「共通IDカード」申請開始日の11月1日、萩生田は20年度実施を延期し、24年度完全実施に向けて「改善」すると表明。だが勝負はこれからです。英語民間検定導入の背景には、より本質的な安倍「教育改革」の狙いがあるのです。
■複線型教育への再編
 安倍政権の新自由主義「教育改革」の本命は、高校と大学をつなぐ「高大接続改革」をテコとした戦後教育体系の全面的解体・再編です。
 安倍は教育基本法改悪(06年)で、教育の目的を「人格の形成」から「国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力の育成」に大転換しました。一方で「グローバル人材(エリート)の育成」を推奨し、他方で「身の丈に合ったキャリア教育」で労働者人民を国家と資本に組み込むものです。これは、新自由主義の「自助努力・自己責任」論と「選択と集中」論を合体させた教育体系の「複線型教育」システムへの大再編です。
 大学入学共通テストと英語民間検定試験は、教育再生実行会議第4次提言「高等学校教育と大学教育の接続、大学入学選抜の在り方について」が打ち出したものです。これを受けた中央教育審議会は、「高大接続改革は教育改革における最大の課題であり、新たな時代を見据えた待ったなしの教育改革」と答申し(14年)、文科省は高大接続システム改革会議を発足させました。アベノミクスが言う「生産性革命」「人づくり革命」と一体です。「高大接続改革」で大学教育、さらに高校と義務教育の解体・再編を一挙に狙っています。これこそ「改憲と戦争」攻撃の教育版です。
■高校普通科の解体狙う
 すでに小学校では「外国語」「道徳」が教科化され、国家主義丸出しの検定教科書が教育をゆがめています。国公立大学では文系学部・学科の廃止や再編が進められています。今年5月の教育再生実行会議第11次提言では、高校普通科の解体・再編を打ち出しました。高校普通科は「人格の形成」の要であり、高校生の約60%が在籍しています。この普通科を、①自らのキャリアの育成重視、②グローバル・リーダーの育成重視、③科学分野でのイノベーターの育成重視、④実践と体験を伴った学び重視、という4類型に再編するものです。②と③はエリート育成です。
 「グローバル10」(東京都)や「学力向上進学重点校」(神奈川県)など一部の学校を指定校とするなど様々な公立高校再編・統廃合がすでに進んでいます。
 学校現場は「教育改革」に振り回され、勤務評価・査定人事の網の目が職場を閉塞(へいそく)状況に追い込んでいます。安倍の新自由主義「教育改革」は「教育の戦争動員」です。職場の団結と闘う教職員組合の復権が必要です。50万受験生、家庭、地域の怒りと結び、その先頭で闘う労働組合をつくりだそう。

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