ゴーン被告の国外逃亡を機に森法相が「人質司法」居直り

週刊『前進』02頁(3101号02面02)(2020/01/23)


ゴーン被告の国外逃亡を機に森法相が「人質司法」居直り


 金融商品取引法違反と会社法違反の容疑で逮捕・起訴され保釈中の前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が昨年末、国外に脱出した。打撃を受けた法務当局は司法制度と出入国管理体制の見直しと法改悪を進めようとしている。不正・腐敗を極める安倍政権の改憲・戦争への突進と軌を一にした攻撃を打ち砕こう。

推定無罪の原則を全否定

 ゴーンは、日産を立て直したカリスマ経営者といわれるが、その実、幾多の工場を閉鎖して海外に移転し、労働者を大量に解雇し、その多大な犠牲の上に経営を立て直し資本を延命させたのだ。そして労働者を徹底的に搾取して得た巨額の報酬を過少申告して税を逃れてきた。しかも会社の資金を横領して私的に流用した。ゴーンは世界で最も強欲で極悪の資本家だ。労働者階級が自ら裁き地獄に落としてやらなければならない存在なのだ。
 ゴーンは12月31日、レバノンにいることを公表し、声明で日本脱出の理由を述べた。「日本の司法制度は、国際法・条約下における自国の法的義務を著しく無視しており、有罪が前提で、差別が横行し、基本的人権が否定されている」
 1月8日にも記者会見で「日本では公平な裁判を受けられる保障がない」「取り調べは長時間で、弁護士の立ち会いも認められていない」と人権無視の日本の司法制度を非難した。
 強欲資本家ゴーンに同情の余地は一切ないが、被告人の権利を否定する日本の司法制度が憲法や国際法に反していることは事実だ。
 ところが森雅子法相は1月7日、保釈中の被告が逃走した場合に処罰できるようにするなど、逃走防止に向けた法改定を検討していることを明らかにした。また法務省と自民党は、保釈中の被告人にGPS(衛星利用測位システム)装置の着用を義務付けようと検討しはじめた。被告人を24時間どこにいても監視・捕捉できるようにする。人権じゅうりんの暴挙だ。
 また森法相は1月9日、「ゴーン被告は法廷の場で無罪を証明すべきだ」と公式にコメントした。しかし被告人に無罪を証明する義務はない。また被疑者・被告人は推定無罪の扱いを受けるのが近代法の原則だ。1948年に国連総会で採択された世界人権宣言は、全ての被告に有罪が立証されるまでの推定無罪の権利を認めている。
 森法相は国内外で批判され、同日2回目のコメントで「無罪を主張すべきだ」と訂正に追い込まれた。
 森法相と検察当局は、日本では起訴された事件の99・4%に有罪判決が下されると誇り、それは「(検察が)的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みのある場合に初めて起訴する」からだという。
 とんでもない。ほとんどの裁判で有罪判決が出るのは、被告・弁護側に極めて不利な裁判制度になっているからだ。検察は被告・弁護側に証拠を開示しない。被疑者・被告人が罪を認めなければいつまでも勾留する(人質司法、長期勾留)。被疑者・被告人は逮捕された時から罪人扱いをされ(推定無罪の否定)、事実上、法定手続きによらない刑罰を科される(憲法31条違反)。
 拘置所の房内では立つことも体操をすることも許されない。壁にもたれてもいけない。30分の房外での運動時間以外、一日中部屋の真ん中に座っていなければならない。これは紛れもなく拷問(憲法36条違反)だ。足腰を悪くして歩けなくなる人もいる。だが、まともな医療は受けられない。
 裁判で無実・無罪を争って勝つことは難しいが、不可能ではない。証拠を開示させたり、自ら証拠を掘り起こしたりして、無罪判決をかちとった例もある。警察・検察が密室でうその自白を強要してでっち上げた冤罪を暴いて無罪判決をかちとった例もある。

金持ちスルーの専用施設

 国土交通省も1月7日、プライベートジェット機(PJ)の大型荷物の保安検査を義務化すると発表した。ゴーンらが関西空港(関空)からPJに積み込んだ大型荷物に潜んで無断出国したと思われることへの対応だ。
 しかし、もともと大企業の役員や有名人らを特別扱いし、CQI(税関・出入国管理・検疫)手続き、荷物の保安検査をフリーパス同然にし、PJの受け入れを増やしてきたのは安倍政権だ。
 成田、羽田、中部国際の各空港は近年、PJの専用ターミナルを設け、優先的に駐機できる場所を増やして受け入れを急拡大した。関空も専用ゲートを設け、CQIは9割フリー、機長や運航会社の判断で保安検査を受けずにPJに乗り込める。ゴーンはこの抜け道を熟知していたのだ。
 その一方で、非正規滞在の外国人、難民申請者らに対する入管体制は極めて厳しい。非人道的な監視・抑圧、強制収容・強制追放をほしいままにしてきた。仮放免の許可や特別在留の許可を得ても、入管当局はいつでも外国人を再収容・強制送還できる。収容所でやむなくハンガーストライキで闘い、仮放免となっても、2週間で再収容される。昨年6月、長崎の大村収容所はハンストで抗議した外国人を「餓死」させた。日本の入管は殺人的な人権じゅうりん機関だ。

人質司法に賛成する日本共産党

 許しがたいのは政府だけではない。日本共産党も同様だ。志位和夫委員長は1月6日の記者会見でゴーンの国外脱出について「重大犯罪の容疑者に対して、一定の保釈金を払えば保釈するという甘い対応をした結果だ。こうしたことがあいまいなままにされたら法治国家の体をなさなくなる」と語った。重大犯罪者には保釈を認めるべきではないと言ったのだ。推定無罪の原則を否定し、長期勾留で事実上刑罰を科し、被告人を屈服させて自白を引き出し、有罪にするとんでもない「法治国家」であるべきだと主張したのだ。さすがに党内外の批判を浴びて発言の一部を撤回したが、ブルジョア国家とその秩序を擁護する一方、闘う人民を国家権力が弾圧することをこいねがう日本共産党スターリン主義の反革命的本性があらわになった。
 日本の人質司法、「推定有罪」原則、自白強要、長期勾留、留置場・拘置所・入管収容所での虐待・拷問は国際的にも問題になっている。世界人権宣言も日本国憲法も踏みにじり、人質司法で人権をじゅうりんし、労働者人民の抵抗と闘いをつぶそうとするたくらみを許さない。改憲と戦争に突き進む日本帝国主義・安倍政権を打倒し、プロレタリア革命―世界革命への展望を切り開こう。
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