〈寄稿〉 コロナを改憲の道具に使うな 「自然災害との戦い」はウソ 弁護士 高山俊吉

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週刊『前進』04頁(3128号03面01)(2020/04/27)


〈寄稿〉
 コロナを改憲の道具に使うな
 「自然災害との戦い」はウソ
 弁護士 高山俊吉

被害はおよそ平等に及ぶことはない

 異常な自然現象により生じる被害を言う「自然災害」。この言葉には、万民を平等に襲う難敵とか、すべての人々が手をつないで対決すべき相手というような響きがある。「自然災害との戦い」とか「ウイルスとの闘い」などの言葉も多く使われる。トランプはコロナとの「戦争」と言い、アベは「第3次世界大戦」と言った。
 ここには途方もないウソがある。自然災害は人間の活動との関係で発生する。そして現代の自然災害は、資本主義社会の基本構造と結合して存在する。干ばつが飢餓という災害を生むかどうかはその社会のありようによって決まる。1%の富裕な人々は津波に襲われない高台に堅牢な邸宅を建てる。経済危機が進行する時には、社内留保金が潤沢な超大企業は中小零細企業の倒産情勢を画期的な支配拡大のチャンスと捉える。
 非難回避の目くらましに災厄がいかにも平等・甚大に降りかかるように装ってみせるが、被害はおよそ平等に及ぶことがなく等しく甚大になるのでもない。
 現にトランプは早くも経済活動の再開などと言い募り、WHO(世界保健機関)の兵糧攻めまで宣言した。WHOは原発推進のIAEA(国際原子力機関)に首根っこを押さえられている国連の専門機関である。そのWHOをもトランプは敵対視した。米中戦争の危機が迫っている。
 もともと小池は五輪延期決定まではコロナなどどこ吹く風だった。アベは犬を抱えてソファーでくつろいでみせ、麻生はナチスの手口に学んで国民に「一体感の醸成」すなわち〈一億火の玉〉を要求している。語るに落ちるとはこのことを言う。
 彼らにはコロナ被害やその対策を真剣に考える意識など爪の先ほどもない。昭恵のお遊びとこれを擁護するアベの言を見よ。対応の遅れや手抜かりをメディアは批判するが、彼らの立ち位置とメディアの指摘は甚だしくずれている。コロナに対しては地球上のすべての人間がワンチームになって戦うべきだなどというのは、たちの悪い騙(だま)し言葉のたぐいなのだ。医療崩壊の危険も10万円給付への急転換も30万円給付の解消もその結果である。そのことを一人ひとりの市民が厳しく正確に把握することが本当の闘いの出発点になる。

アベは9条改憲の発言を控えない

 そのアベは、3月22日、防衛大学校の卒業式で次のように言った。「中東派遣の護衛艦『たかなみ』の出航を見守る家族の一角に憲法違反のプラカードが掲げられていた。隊員の子どもたちがこれを見ていたらどう思っただろう」
 森友学園、加計学園、財務省文書改ざん、桜を見る会、東京高検検事長の定年延長、河井案里関係公選法違反問題と、アベを囲む政治情勢は完全に煮詰まっている。アベ政権はもはや死に体だという声も諸方から出ている。だがアベは9条改憲の発言をいささかも控えない。それどころか商業新聞さえ疑問を表明した自衛隊の中東派兵の「合理性」を防衛大の卒業式の場で強弁した。ここにこの男をリーダーにいただく勢力の本質がよく示されている。
 大切なことは横須賀港に「憲法違反のプラカード」をもって現れ、自衛隊の中東派兵に反対して立ち上がった労働者・市民がいることをアベが公式の場で士官候補生たちに伝えたことだ。アベも職業軍人の卵たちもそのことをいかに意識しているかが分かる。コロナ対策を第3次世界大戦になぞらえ、究極の困難の克服と称して戦争をも受容させようと狙うアベは、この状況に立ち至っても辺野古新基地建設を強行しようと執念を燃やしている。決戦の現場がどこにあるかをこれらの事実はよく示している。

緊急事態条項新設の下地づくり狙う

 アベは、4月7日、新型インフルエンザ等対策特措法に基づき7都府県を対象とする緊急事態宣言を発令し、16日これを全国に拡大した。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためと称し、9条改憲とセットで狙う緊急事態条項新設の下地作りを断行し、コロナ対策の即刻全面展開を求める国民の要求をこのようにすり替えた。
 都道府県知事を介しての要請に過ぎないなどと弁明しきりであるが、改憲の機運をこの機会に一気に盛り上げるところに照準が定められていることは明白だ。
 緊急事態条項は、事態の緊急性を理由に議会から立法権を奪い、これを内閣に包括的に委ねるルールである。コロナ禍で不安を一気に高めた国民を利用してアベは緊急事態条項に国民を馴致(じゅんち)させようと謀った。10万円給付と宣言の全国拡大が同時に行われたことにも注目しなければならない。
 緊急事態宣言は「ショック・ドクトリン」のアベ版ではないかという声がある。ナオミ・クラインの同名の書籍(2007年)に由来するショック・ドクトリン。極端な民営化と市場決定にばく進する惨事便乗型資本主義を批判して用いられる。しかし福祉・医療・教育等のすべての民生局面を新自由主義攻撃の対象に据え、徹底的にこれを破壊してきた中で国民が直面させられたのがコロナ被害なのである。便乗というよりも起こるべくして起こり、至るべくして至った資本主義の必然の帰結というのが正しい。

アベ改憲策動打破こそ喫緊の課題だ

 アベは2020年には9条改憲を果たして床の間に新憲法を飾るはずだったが、私たちはその策謀を崩壊のふちまで追い込んだ。だが、コロナ情勢下でも、アベは国会の憲法審査会の活発な論議を求め(4月7日)、これを受けて自民党は改憲推進本部の会合を開いて今後の方向性を論議している(4月10日)。
 いかに追い詰められても彼らには戦争政策以外に突破策がない。私たちの喫緊の課題は、国民の安全と生命をとことんないがしろにするアベ戦争政権を打倒し、改憲策動を根底から打ち破ること以外にない。
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