コロナに乗じて雇用を破壊 経団連「新しい生活様式」の正体

週刊『前進』02頁(3141号02面02)(2020/06/18)


コロナに乗じて雇用を破壊
 経団連「新しい生活様式」の正体


 新型コロナウイルス感染症拡大の中で出された緊急事態宣言の解除に伴い、安倍政権や資本家たちは「ウィズコロナ」だの「新しい生活様式」だのと唱え始めた。コロナを転機に、資本主義の新たな展開局面が開かれるかのように言うこのキャンペーンは、新自由主義の攻撃をこれまで以上に押し貫こうとするものに他ならない。
 緊急事態宣言は解除されたが、コロナ感染症はなんら克服されていない。労働者階級には、感染を防いで自らの生存と生活を守り抜く新たな行動様式が求められている。だがそれは、労働者が労働組合に団結し、資本や国家権力と闘ってのみ、実現できる。
 資本の側もまた、コロナによってこれまでの生産のあり方や産業構造、資本蓄積の様式が成り立たないことを突き付けられた。だから資本家階級は「新しい生活様式」なるものを叫びたて、新たな延命の道を見いだそうとしているのだ。
 その内実は、コロナ危機によって呼び覚まされた労働者階級の新たな闘いを、徹底的な新自由主義攻撃によって圧殺しようとする攻撃だ。
 コロナが暴いたのは、新自由主義がすでに社会を崩壊させていたという現実だった。その新自由主義をさらに凶暴に貫徹する以外に、資本主義は生き延びられない。こうした攻撃との、歴史をかけた決戦が始まったのだ。

「テレワーク」で解雇を自由化

 経団連は6月2日に定時総会を開き、「新型コロナウイルスを克服し、新たな成長を実現する」と題する2020年度事業方針を決定した。そこで経団連は、「今回の経験を機にわが国の経済社会システムの脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りとなった。様々な分野でデジタル化を加速度的に進めることが急務」と言う。
 デジタル化の基軸に置かれているのがテレワークだ。経団連は、「テレワークを定着させるとともに、裁量労働制やフレックスタイム制などの拡充・普及、社員の能力や仕事に着目した賃金制度など……働き方改革の深化を図る」と言う。テレワークは労働時間管理になじまないとして、労働時間規制を撤廃するとともに、労働時間を基準に支払われていた賃金体系も抜本的に改悪し、全面的な成果主義賃金を導入しようというのだ。
 経団連会長・中西宏明の出身母体の日立製作所は、国内で働く社員の7割にあたる約2万3千人を対象にテレワークを徹底させ、出社は週2〜3日にするという方針を打ち出した。それに向けて日立は人事制度を改変し、「『ジョブ型雇用』を本格的に導入し、勤務時間ではなく成果で評価する賃金制度を導入する」と言う。
 ジョブ型雇用とは、労働者が従事する職種を限定し、その職種がその企業になくなれば、直ちに解雇できる制度のことだ。
 だが、テレワークが成り立つのは、管理職の業務とIT産業などのごく限られた業種だけだ。圧倒的多数の労働者は、現場に身を置くことによってしか遂行できない業務を担っている。
 コロナ危機の中で、人々の生命と健康を支える医療・介護・福祉現場の労働者は「エッセンシャル・ワーカー」つまり社会にとって必須不可欠の業務を担う存在として改めて認識された。交通運輸産業や製造業の現場、小売業や様々なサービス業を担う労働者も、現場に身を置いて働いている。コロナ危機は、こうした労働者こそが社会を支える主体であることを明確にさせた。
 同時に、そうした業務を担う労働者が徹底的に非正規職化され、低賃金で解雇自由の存在とされ、ないがしろにされている新自由主義の現実をも、コロナ危機は暴いた。
 こうした労働者を正規職にし、本来あるべき尊厳を回復してこそ、社会は社会として成り立つ。

資本は雇用維持など絶対しない

 ところが経団連は、すべての労働がテレワークに置き換えられるかのような非現実的な暴論をあえて唱える。それは、コロナに乗じて雇用を徹底的に破壊することを狙っているからだ。
 6月2日の経団連総会後の記者会見で、中西会長は「終身雇用・年功序列・新規一括採用という社会の仕組みそのものを変える」と表明した。中西はコロナ以前から、大学や高校を卒業したばかりの人を4月に一括採用する方式をやめ、年間を通じて企業の都合に合わせて労働者を採用する方式に改めることに執念を燃やしてきた。
 中西が会長に就任した18年、経団連は、企業による大学4年生の採用選考を6月以降にするとした、いわゆる「就活ルール」を2021年以降、撤廃すると決定した。それは、解雇自由を雇用の基本的なあり方にするための布石だった。
 雇用のあり方や新規一括採用という方式が変われば教育の体系も変わる。かねてから経団連は、学校の9月入学制への変更を声高に唱えてきた。
 コロナウイルス感染が拡大する中、安倍政権がまず3月に学校の休校を打ち出したのも、経団連の思惑と一体だ。教育の体系を暴力的に変えることで、雇用や社会のあり方を全面的に覆すことが安倍の狙いだったのだ。
 経団連会長の中西は記者会見で、「目下の最優先課題は、雇用の維持・確保」とうそぶいた。だが、現に資本がしているのは、大量解雇と賃金補償のない休業の強制だ。
 経団連がもくろむ解雇自由化の攻撃は、労働者を大失業にたたき込むことによってのみ貫徹できる。だから資本は、雇用を維持するつもりなど少しもない。
 資本と真正面から対決する闘う労働運動をよみがえらせてこそ、労働者は生存を確保できるのだ。
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