「新たな日常」掲げ労働破壊 「デジタル化」にすがる安倍

週刊『前進』04頁(3148号02面01)(2020/07/13)


「新たな日常」掲げ労働破壊
 「デジタル化」にすがる安倍


 コロナ危機と大恐慌、大量解雇が本格化し、青年を先頭に労働組合の再生と決起が始まった。危機に立つ安倍政権は、①コロナ下での労働規制の撤廃、②医療・社会保障制度の解体、③行政のIT利権・民営化と、④監視国家化・労組破壊以外に打つ手がない。そのキーワードは「新たな日常」と「デジタル化」だ。

「テレワーク」は搾取強化

 安倍政権の来年度予算案に向けた「骨太方針」(経済財政運営と改革の基本方針)案と「成長戦略実行計画」案、地方制度調査会答申などが出そろった。あろうことか、全てがコロナの感染拡大を「好機」と強弁。コロナ下の「新たな日常」「新しい働き方」を唱え、大破産したアベノミクスに替わる「成長戦略」の柱に「行政のデジタル化」を通した「社会全体のデジタル化」を打ち出した。
 日本総合研究所・理事長らは7月1日、コロナによる「生活や働き方の変化」を契機にデジタル化を一気に進め、ITで全てを監視・監理する「スマートシティ」(スーパーシティ)を全国に100カ所整備することを提言。西村経済再生担当相はコロナを機に「これまでできなかった宿題を解決」すると応じた。
 その最大の柱は、労働者からの搾取をより徹底するための労働規制の撤廃である。
 骨太方針の議論で、経団連会長・中西宏明らはコロナ下で拡大するテレワークに言及し、「時間管理の厳密さに大変やりにくさを感じている」と強調。「時間を基準とした働き方から成果・職務を基準とした働き方への転換」「成果評価型人事管理」を求めた。評価制度による労働者の分断・団結破壊と労働時間規制の撤廃、賃金破壊だ。
 現に、テレワーク・在宅勤務でこれまで以上に長時間労働やサービス残業が横行している。連合の調査では、4月以降に残業や休日労働を申告しなかった労働者の割合が65・1%に上った。勤務時間が証明しにくくなり申告を控えざるを得なくなっている。資本には好都合だ。労働者の分断・孤立化でメールによる無理な業務指示、パワハラも増えている。中西らはそうした事態を好機として「残業代ゼロ法」に続く「働き方改革フェーズⅡ(第2段階)」を主張している。

兼業・副業と個人請負の拡大求める

 成長戦略実行計画案は「新しい働き方の定着」のために、兼業・副業、「フリーランス」=個人請負の拡大を促進する新たな「ルール」導入を求めた。
 安倍は「多様な働き方への期待が高くなっている。働く人の目線に立ってルール整備を図る」と述べた。しかし労働者には大量解雇が襲いかかっている。まずこれを何とかしろということだ。さらに低賃金ゆえに兼業・副業(当然、非正規職となる)や請負労働をせざるを得ないことが問題なのだ。それをさらに進めようと〝期待を高めている〟のは資本家だけだ。狙いは現行の労働法制の解体と非正規職化の推進である。
 兼業・副業については、労働時間を「労働者の自己申告」とすることで、労働者の側の申告漏れなどで通算労働時間が残業規制を超えても企業の責任は問われない。「過労死」や残業代不払いが横行する。資本との力関係で労働者が泣き寝入りすることを余儀なくされることを見越した「ルール」の改悪だ。
 個人請負は雇用と見なされず、労働時間や最低賃金、労災補償などの権利規定から除外されている。この個人請負について、実行計画案は高齢者雇用の拡大、社会保障の支え手の増加などを挙げて「適正な拡大」を求めた。政府は3月、高年齢者雇用安定法を改悪し、70歳までの就業の選択肢として請負やボランティアを加えた。シルバー人材センターの仕事の大半は請負だ。請負で料理を配達するウーバーイーツなどでは一方的契約変更=賃金引き下げと雇い止めが激増し争議となっている。そうした雇用・労働破壊による強搾取を徹底的に広げようとしているのだ。

医療・介護の破壊を加速

 骨太方針案は「新たな日常に向けた社会保障の構築」を掲げた。医療を破壊してきた新自由主義を反省するどころか、「柔軟性を欠いた医療提供体制、デジタル・オンラインの活用の遅れ」が問題だとして「医療・介護におけるデジタル化の加速」を求める。
 医療は当然にも対面が原則だ。遠隔診療はコロナ下の時限的・特例的措置として解禁された。それを「コロナ後」も継続し電子処方箋のシステム導入(巨額の税金を使う利権の問題に直結する)、さらに個人の健診・検診情報、診療履歴のデジタル活用まで言い出した。マイナンバーとのひも付け、国家による一元監理が前提となる。
 骨太方針案に対しては、病院再編・病床削減を求める地域医療構想の促進を求める声が相次いだ。コロナで公立病院の意義と病床不足が大問題となっている時に、「効率化」と資本のもうけの観点から公立病院つぶしを進めようとしているのだ。
 介護も同じだ。「介護の生産性向上」「リモートの活用」を求める。6月25日、全世代型社会保障検討会議第2次中間報告は「新技術を使えば少ない職員で介護を提供できる」とした。人員配置基準の引き下げまで狙っている。

マイナンバーで監視・収奪

 安倍政権はコロナ危機に行き着いた新自由主義をさらに進めて、ごく一部の支配層・資本家の利益のために社会全体の一層の破滅をもたらそうとしている。これが「新たな日常」とデジタル化の正体だ。
 骨太方針案は、行政のデジタル化に巨額の税金を集中投資する「デジタル・ニューディール」、マイナンバーの個人情報との結合の拡大とマイナンバーカードの普及促進を強調した。もはやアベノミクスは最後的に破産した。絶体絶命の危機に立つ安倍政権と大資本家たちがすがるコロナ世界恐慌下の「成長戦略」とは何か。
 それは行政のデジタル化に巨額の税金を注ぎ込んで新たな巨大IT利権を手中にすると共に、行政と社会保障を徹底的に民営化して資本の食い物にすることでしかない。マイナンバー制度の拡大、スーパーシティなどを水路に、国と自治体の持つあらゆる個人情報、土地とインフラの情報を民間に開放し、そこに資本が群がり、食い散らかそうとしている。社会はさらに徹底的に破壊される。
 コロナ「持続化給付金」事業や「GoToキャンペーン」事業の民間委託をめぐって、巨大な税金横領の手口が暴かれた。安倍が言う「史上最大の財政投入」とは、こうした安倍と電通・パソナなど「アベ友」企業の利権のためだ。自民党は財政赤字に対するコロナ増税の検討まで言い出した。日帝支配階級は本当に腐り果てている。
 当初からマイナンバーは国による個人情報の監理・監視と税の厳格な取り立てを目的に導入された。資産の海外移転や巧妙な節税を長年やっている資本家ではなく、労働者人民から徹底的に税を取り立てるために使う。コロナ危機と大恐慌で不可避となる財政破綻の中で、この制度がすさまじい増税・大衆収奪と社会保障打ち切りのために使われることは間違いない。

7・26に大結集し現場から総反撃を

 もはや労働者の反乱は不可避だ。それをなんとか抑え込むために、安倍は米トランプ政権や中国・習近平政権と同様、労働組合の破壊とマイナンバーによる監視・治安国家化、国家強権による独裁、改憲・戦争に突進する以外になくなっている。
 安倍のコロナ下での労働破壊と一層の強搾取、医療と社会保障の破壊をどうして許せるか。闘う労働組合を再生しよう。青年労働者を先頭に7・26国鉄闘争全国集会に結集しよう。

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ポイント
・コロナ危機を「好機」と強弁し位置づけ
・「行政のデジタル化」が成長戦略の柱?
・非正規職化、低賃金・長時間労働を推進
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