地方線切り捨てるJR九州 不動産業による延命策は破産 豪雨を逆手に一層の廃線狙う

週刊『前進』02頁(3151号01面02)(2020/07/23)


地方線切り捨てるJR九州
 不動産業による延命策は破産
 豪雨を逆手に一層の廃線狙う


 コロナ危機はJR体制の破産を突き出した。乗客が激減する中、JR北海道と並びJR九州も経営破綻が迫っている。九州ではコロナに加え7月の豪雨が大被害をもたらした。これは国鉄分割・民営化に始まる新自由主義が地域を破壊してきたことの結果だ。2016年10月に株を上場したからこそJR九州は矛盾を一層深めている。地域と社会を壊して延命を図るJR体制は打倒する他にない。

意図的に復旧せず日田彦山線を廃止

 コロナ感染症の緊急事態宣言が全国に発令されていた5月、JR九州は2017年の豪雨で不通となっていた日田彦山(ひたひこさん)線の添田(そえだ)―夜明(よあけ)間の廃止を地元自治体にのませた。
 JR九州は日田彦山線の復旧を意図的に怠ってきた。そして、バス転換を強いるために、沿線自治体に「鉄道での復旧を求めるなら1億6千万円を負担せよ」と迫った。
 沿線では、福岡県東峰村が最後まで廃線に反対した。昨年9月には村民が鉄道の存続を求めて決起大会を開き、JR九州への署名活動も取り組まれた。しかし、豪雨から3年も交通が途絶する中で、東峰村もバス転換を受け入れざるをえなくなった。7月16日にJR九州と沿線自治体首長の会議が開かれ、バス転換は最終的に決定された。
 JR九州のこの卑劣なやり方は、同社が赤字路線の切り捨てに公然と乗り出してきたことを示している。JR九州は5月、1日当たりの平均通過人員が2000人未満だった12路線17区間について、18年度の線区別の営業収支を公表した。対象となった線区の赤字は計56億円。JR九州がこうしたデータを公表するのは初めてで、明らかに廃線に向けての布石だ。
 JR九州は18年3月のダイヤ改定で計117本の列車を削減し、駅の無人化も次々と強行した。JR九州の全568駅のうち半分以上の304駅が無人だ。コロナ以前から、JR九州は鉄道事業の切り捨てに向けて動いていた。
 さらにコロナでゴールデンウィーク中の九州新幹線の乗客は前年の7%に落ち込み、JR九州の20年1〜3月期の決算は38億円の赤字に転落した。
 鉄道事業からの脱却をかけて事業の中心に据えようとしてきた不動産業も行き詰まった。不動産業の中心をなすホテル業や巨大な駅ビルを建設・運営する事業は、インバウンド(訪日外国人客)の需要をあてにしたものだった。それは完全に吹き飛んだ。エキナカの小売業でも、採算の取れない「ドラッグイレブン」は「ツルハ」に売却された。

鉄道からの脱却を求める米ファンド

 この危機は、労働者の雇用をも脅かしている。JR九州は5月以降、在来線特急などを大幅に削減するとともに、運輸部門や企画部門の800人を交代で休ませる一時帰休を実施した。全社員8200人のうち1割近くを帰休させたのだ。
 この状況下で開かれた6月の株主総会は、JR九州の矛盾を象徴するものになった。JR九州の株式の約6%は、アメリカの投資ファンド「ファーツリー・パートナーズ」が握っている。ファーツリーは自社からJR九州に役員を送り込むことを提案し、不動産事業に特化すべきだと主張した。この提案は否決されたが、そこに示されているのは、鉄道事業が民営化されて金もうけの道具にされたら、廃線はどんどん進むということだ。
 他方、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州の4社が互いの株式を持ち合っている事実も判明した。東日本、東海、西日本がそれぞれ九州の株の1%以上を取得している。ファーツリーに対抗するためと見られるが、これは国鉄分割・民営化の枠組みを自ら否定するような事態だ。

公共交通を民営化してはならない!

 コロナの上に大豪雨が九州を襲った。7月18日の時点で九州全域で71人が亡くなったことが判明している。今も約2千人が、コロナ感染の危機におびえながら避難所で暮らしている。
 球磨川の氾濫(はんらん)で特別養護老人ホームが水没し、14人の命が奪われた。地価が安く災害の起こりやすい所に高齢者施設が建てられ、夜間に職員は数人しかいない。急激な豪雨に襲われたら避難もできない。これは介護の民営化によって起きた事態だ。
 この豪雨でJR九州でも17路線345カ所で被害が生じた。肥薩(ひさつ)線は2本の鉄橋が流失、久大(きゅうだい)線は1本の鉄橋が流出した他、複数の鉄橋で橋脚がゆがんだ。線路への土砂の流入、地盤の流出なども多数起き、被害の大きさは17年の豪雨を超える。久大線や肥薩線は、JR九州が観光客を誘致しようと話題作りに努めてきた路線だ。しかし、赤字であることに変わりはない。日田彦山線の廃線と同じことが繰り返されかねない。
 第三セクターの「くま川鉄道」でも鉄橋が流され、同社が所有する5台の車両のすべてが浸水して運休が続いている。「肥薩おれんじ鉄道」も八代―水俣間が不通になった。
 くま川鉄道は元々は国鉄の湯前線で、国鉄分割・民営化に際して廃止されるべき赤字ローカル線に指定され、1989年にJR九州から切り離されて第三セクター化された。肥薩おれんじ鉄道は、2003年3月の九州新幹線の新八代―鹿児島中央間の開業に際し、鹿児島本線の一部がJR九州から分離されたものだ。廃線はこうした形ですでに大規模に進められてきた。
 鉄道の廃止は地域を崩壊させる。公共交通としての鉄道を民営化してはならないのだ。コロナと豪雨はそれを明らかにした。国鉄分割・民営化体制=JR体制は今こそ覆されるべきだ。
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