新段階に突入した米階級闘争 バイデン新大統領と対決し、新自由主義うち破る革命へ

週刊『前進』04頁(3180号01面01)(2021/02/01)


新段階に突入した米階級闘争
 バイデン新大統領と対決し、新自由主義うち破る革命へ


 1月20日、米大統領ドナルド・トランプが退任し、ジョー・バイデンが第46代大統領に就任した。新型コロナの死者が40万人を超えるなか、バイデンは就任式で「結束」を強調し、「アメリカを一つにする」と述べた。しかし、米労働者階級が求めているのは支配階級の語る「結束」でもなければ、社会を「トランプ以前」に戻すことでもない。搾取と制度的人種差別、さらにはコロナによって労働者民衆の命を奪う新自由主義の社会を根本から変革する革命と、その担い手の登場こそが問題になっている。米階級闘争は完全に新たな段階へと突入した。

米社会「分裂」の本質

 1月20日のバイデン就任式は、全米で厳戒態勢が敷かれるなかで開催された。首都ワシントンでは2万5千人もの州兵が動員され、ライフルを手に警備。就任式の会場は2㍍のフェンスで取り囲まれた要塞(ようさい)と化した。トランプは出席を拒否し、南北戦争終結後の1869年以来初めて現職大統領が欠席する異例の事態となった。
 この厳戒態勢は、決して極右勢力のみに向けられたものではない。バイデンが最も恐怖しているのは、米国史上最大の運動へと発展したBLM運動により解き放たれた労働者民衆の怒りが、自らを含めた支配階級に向けられることだ。
 バイデンは就任演説で現在の米国を「壊れた国」と表現し、「危機」「結束」という言葉を何度も繰り返した。しかし、現在の「米社会の分裂」の本質は「トランプ支持者と民主党支持者」の対立でも「暴力と民主主義」の対立でもない。コロナによって満天下に暴き出されたものは、新自由主義のもとで極限的に激化した資本家階級と労働者階級との対立に他ならない。
 トランプ支持者らによる1月6日の連邦議会議事堂襲撃は「米民主主義の汚点」などではなく、アメリカ帝国主義の終わりを象徴する事件として歴史に刻まれた。トランプは史上初めて2度の弾劾訴追を受ける大統領となった。戦後世界体制の基軸国である米帝国主義の国内―世界支配は今まさに、音を立てて崩壊している。

資本家のための政権

 バイデン就任を「トランプからの解放」として歓迎する人々も少なくない。しかし、昨年11月の大統領選でトランプを打倒した力は全米を覆いつくした労働者民衆の怒りと闘いだ。バイデン政権はそれにより大統領へと押し上げられたに過ぎない。労働者民衆の闘いが一切の鍵を握っている。
 バイデンは就任演説で、「政争は脇に置き、今こそ一つの国家としてこのパンデミックに向き合わなければならない」と語った。一見すると、コロナの危険性をあえて過小評価し労働者民衆の命を奪ってきたトランプとは対照的な姿勢をとっているようにも見える。
 しかしバイデンは、コロナ下で労働者民衆が強く求める国民皆保険制度の導入を一貫して拒否している。これは、医療保険業界の利益のために人々の命を切り捨てるという宣言に等しい。そして、コロナ疑いの黒人が治療や検査を受けられる割合は白人の6分の1にとどまっている。この現実を放置し続ける限り、バイデンの語る「人種間の平等」などペテンだ。
 新政権の目玉は、カマラ・ハリスが黒人、女性、アジア系として初の副大統領に就任し、25の重要ポストのうち12人を女性が、13人を有色人種などのマイノリティーが占めることに示された「多様性」だという。しかし、問題にすべきは見せかけの多様性ではなく階級的性格だ。バイデン政権の内実は、軍需産業と財界の代表に他ならない。
 そもそもバイデン自身が、イラク侵略戦争を前にした2002年当時、上院外交委員会の委員長としてイラク戦争に賛成する議決を主導した人物だ。黒人初の国防長官となったロイド・オースティンも、軍事大手レイセオン社の元取締役である。BLM運動を担ってきた人々は何より、カマラ・ハリスがサンフランシスコ地区検事長、そしてカリフォルニア州司法長官時代に多くの黒人を摘発・収監してきたことを強く弾劾している。

労働者の党が必要だ

 米労働者民衆が真に必要としているのは、新自由主義のもとで解体されてきた労働組合を復権し、この社会を根本から変革することだ。労組破壊攻撃と対決して地域ぐるみの団結を守り抜いてきた国際港湾倉庫労組(ILWU)やロサンゼルス統一教組(UTLA)を先頭に、よみがえり始めた労働者階級の実力闘争をさらに拡大することだ。
 バイデンには決して、〈コロナ×大恐慌〉情勢下で文字通り生存の危機に直面する労働者のおかれた状況を解決することはできない。また、既成の支配層=エスタブリッシュメントの牛耳る政治にうんざりしてトランプ支持に回った労働者を獲得することもできない。むしろトランプ以上に新自由主義攻撃を強めるバイデン政権に対して、米労働者階級が怒りの決起を開始することは不可避だ。
 コロナ禍の前から、米社会の格差拡大は極限まで進行していた。そこへ襲ったコロナは多くの労働者民衆の命を奪い、あるいは一時帰休や解雇、賃下げによって貧困に突き落とした。コロナ禍で貧困層が800万人増えたという調査もある。一方で、600人あまりの大富豪の資産は、昨年5月から11月までの間に約100兆円も増えた。これは労働者階級の命と引き換えにもうけた金だ。
 1%の資本家の利益を守るために医療も教育も破壊し労働者民衆の命を奪ってきた支配階級を打ち倒すことによってこそ、労働者階級は未来を切り開くことができる。そのために必要なのは、労働者階級の立場に立ち切って闘う階級的労働運動をよみがえらせることだ。そしてそのなかから、二大政党制という支配の枠組みを打ち破り、真に労働者階級を代表する党をつくり出すことだ。
 「トランプ大統領」を生み出したものは、新自由主義の矛盾を爆発させた大恐慌と、そのもとで極限まで拡大した格差だった。こうした支配の崩壊が行きついた先に、連邦議会議事堂襲撃事件があった。
 保守系雑誌「アメリカン・アフェアーズ」の編集長は「共和党が生き残る道は、労働者の政党になることしかありません」(1月19日付朝日新聞)と主張する。一切は、労働者階級の怒りと変革に向けたエネルギーを誰が組織するのかにかかっているのだ。
 2019年に始まった「世界史的反乱」はいまだ終わっていない。コロナ禍のただなかにおいてこそ米労働者階級は労働組合に希望を見いだし、あらゆる地域・産別で創意工夫を凝らして闘いに立ち上がっている。未来はここにこそある。米労働者と連帯し、日本における階級的労働運動の発展―労働者階級の党建設を前進させよう。

このエントリーをはてなブックマークに追加