インド農民数十万人が首都で大デモ 農産物「自由化」新法に実力抗議

週刊『前進』04頁(3184号02面04)(2021/03/01)


インド農民数十万人が首都で大デモ
 農産物「自由化」新法に実力抗議

(写真 トラクターで進撃する農民デモ【1月26日 ニューデリー】)


 1月26日、インドの首都ニューデリーは、トラックやトラクターに分乗して進撃する数十万におよぶ農民の怒りのデモによって席巻された。彼らの要求は、モディ政権が昨年9月に制定した、農産物取引を自由化する「農業新法」の全面撤回・廃止だ。

警察のバリケードを突破

 この日は憲法施行を祝う共和国記念日で、政府主催の大規模な軍事パレードが予定されており、警察はこれを守りデモを抑え込むために大型車両、コンクリートブロック、釘、鉄線などで主要道路にバリケードを築き、催涙弾・放水・警棒などで暴力的な弾圧を行った。農民は実力でバリケードを突破・破壊し、ムガール帝国時代の城塞(じょうさい)「赤い城」を一時占拠した。この衝突で農民1人が死亡、100人が負傷した。
 全国の農民たちは昨年11月から抗議活動を開始し、「チャロ・デリー(デリーへ進め)」を合言葉に高速道路を長期間占拠し、「長征」のように首都に攻め上ってきたのだ。
 「労働法改悪反対」を掲げるインドの労働組合は、この農民の決起に連帯して11月26日にゼネストに立ち上がった(参加者2億5千万人)。全国の労働者・学生・市民は、「農民なくして食料なし」と熱烈な連帯と激励を寄せている。
 政府はかたくなに新法の廃止を拒絶していたが、2月12日に最高裁が仲裁に入り、農民の主張を受け入れる形で新法施行の無期延期を決めた。
 農民団体の幹部は、3月からの収穫期にも抗議活動を継続し、新法廃止まで闘うと強調している。
 制定された農業関連新法は、①農産物流通促進法、②農民保護・支援・価格保証及び農業サービス法、③改正基礎物資法の三つ。
 農作物の取引は、これまで州政府が指定する卸売市場で行うことが原則とされていたが、新法では販路が「自由化」され、州外の市場・スーパー・食品会社などに販売できるとされる。
 政権は新法について「農産物の州間取引を活発にし、幅広い選択肢を与えて農民の生活を向上させるもの」と説明している。
 だが、新法にはこれまで維持されていた農作物買い取りのMSP(最低保証価格)について明記されていない。農民側は「MSPが廃止されたらわれわれは生きていけない。大企業主導で価格が決められ安く買いたたかれる」と怒りを表している。政府側は「MSPを市場で維持する」と説明を繰り返すが、信用ならない弁明であり、新法は明らかに廃止へ向けた布石だ。

大企業の農業支配に怒り

 インドは人口13億人、うち6割以上が農村に住み、2㌶未満の農地しか持たない零細・小規模農家が農業経営体数の85%を占める。GDPに占める農業の割合はわずか18%。灌漑(かんがい)設備の普及率は農地面積の約半分で、その他の地域は天水農業。農業機械の普及率は1割程度にとどまる。インドの穀物の1㌶当たりの収量は3・2㌧で、世界平均の4・1㌧を大きく下回る。
 1960年代、米ロックフェラー財団の主導によって「途上国の食料危機の克服」をうたう「緑の革命」と呼ばれる農業近代化、農業改革が全世界的に進められた。インドでも伝統的農法から近代農業への転換が図られ、政府の補助金によって灌漑施設の普及、化学肥料と農薬の大規模投入、品種改良作物栽培が推進され、収量が飛躍的に伸び、干ばつと飢饉(ききん)にあえぐ状況が急速に改善された。
 だが90年代以降、穀物の収穫量は伸び悩んだ。過剰な地下水くみ上げによって水位が大幅低下し、あるいは長年の農薬漬け農法などの結果として土壌劣化、塩害、水質汚染などが生じた。穀倉地帯として知られたパンジャブ州では耕作不能地が拡大し、農民にはがんなどの深刻な健康被害が多発しているという。
 またこうした高負担を強いる「近代農業」が、各農家に過大な「ローン」を背負わせ、次々と借金地獄に追いやった。農民の自殺者数は95年以来30万人を上回ると言われる。
 このように根深く深刻な農業の構造的危機、農民の苦境に際して、ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ首相の政権は、農民保護政策を打ち切り、新自由主義的「市場自由化」を進め、農業と流通を大企業の支配にゆだねることで乗り切ろうとしている。
 香港、タイ、ミャンマー、インドなどアジアの激動は連動している。日本の地から闘いを起こし、これに連帯する時だ。

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