デジタル独裁法 成立弾劾 戦争遂行体制の確立狙う

週刊『前進』04頁(3195号04面03)(2021/05/24)


デジタル独裁法 成立弾劾
 戦争遂行体制の確立狙う


 5月12日、デジタル独裁6法が参議院本会議で次々に可決・成立した。これは菅政権による戦争攻撃が激化し、改憲のための国民投票法案の改悪が強行されつつある情勢のもとで、戦前の天皇制国家による労働者人民支配の柱であった内務省の復活を狙う「デジタル独裁法」であり、改憲・戦争攻撃そのものだ。満身の怒りをもって抗議する。
 許しがたいことに国民民主党や日本維新の会は全法案に賛成、立憲民主党も一部の法案に反対したのみだ。これはまさに第1次世界大戦の開始時にドイツ社民党が戦時公債に賛成し、戦争翼賛勢力と化したのと同列の事態だ。
 このデジタル独裁法は、首相に巨大な権限を与えるためのまったく新たなタイプの官庁として、デジタル庁を設置することが最大のポイントだ。
 同時に、デジタル社会の進展によって広範な個人情報がビッグデータとして蓄積されている。その膨大な個人情報が国家権力や資本によって「利活用」されることで、自治体・教育・医療の職場を頂点に、人間の生活と社会的生産のあり方が根底的に変化し、現在よりもさらに生きづらい社会に変えられようとしている。今後は、職場・生産点での攻防が焦点となる。

復興庁がモデル首相に権限集中

 デジタル庁は、2011年3月の東日本大震災という未曽有の大災害に対して臨時的・一時的・例外的に設けられた復興庁をモデルにしている(図参照)。
 したがって図の復興庁をデジタル庁に置き換えれば分かりやすい。デジタル庁は総理大臣直轄であり、なおかつデジタル大臣を置き、このデジタル大臣は他の省庁に勧告するという強い権限を持っている。他の省庁の権限行使は閣議を経る必要があるのに比べて、その必要がない。しかも内閣府よりも上の立場で首相の秘書的な役割である内閣官房と一体で首相を直接補佐するというのだ。
 官邸作成の図をよく見てほしい。総務省から防衛省まではひとまとまりだ。これは途中に閣議が入るという意味である。ところが内閣官房、復興庁、内閣府は他の省庁とは別に描かれている。これは閣議を介さない首相直轄という意味である。しかも内閣官房と復興庁は同列で、内閣府よりも少し上位に描かれている。
 内閣官房というのはまさに首相直結で、その中には第2次安倍政権で肥大化した「官邸ポリス」と悪名高い内閣情報調査室や内閣人事局が設置されている。まさに首相独裁の実体だ。
 以上から言えることは、デジタル庁という新たな官庁の目的は、単にデジタル化の遅れをデジタル庁が調整することにとどまらない(それはそれで帝国主義間の争闘戦、中国との競争の敗北にあえぐ日帝中枢と資本家どもにとって死活的な課題ではあるが)。米帝と共に中国への侵略戦争を準備している日帝が、デジタル庁に全情報を集中して首相直結のデジタル独裁を実現することで、戦前のような強権的国内支配体制を構築しようとしているのである。それが実現できなければ労働者階級人民の広範な反戦闘争によって打倒されるという恐怖が菅政権の根底にある。まさにデジタル版内務省の復活が狙いだ。

01年省庁再編で警察が政治関与

 これらの背景には警察組織の位置づけが2001年以降変化し、国家の治安維持に全面的に関与してきた事実がある。
 現在の警察組織はGHQ占領下で施行された旧警察法を全面改定した新警察法(1954年施行)によっている。そこでは戦前の内務省型の警察組織の復活はできず、警察は政治から一定の距離を置くことを余儀なくされた。
 その制度的な保障が、民間人で構成される国家公安委員会の管理の下に警察庁を置くというあり方だった。実際の戦後の警察は、労働者民衆の労働運動、反戦闘争、学生運動、選挙活動などを機動隊の国家暴力をもって弾圧してきたが、それでも制度上は戦前の国家警察とは明らかに異なる体制をなしてきた。
 この戦後警察のあり方を一変させ、今日の官邸ポリスへの道を開いたのが、森喜朗内閣による2001年中央省庁再編にともなう内閣府設置であった。そこでは官僚政治の打破や縦割り行政の打破が唱えられ、内閣総理大臣の権限強化が図られた。
 重要なことは新たに設置された内閣府の任務に「国の治安の確保」が加わったことだ。国家公安委員会はこの内閣府の外局である。その結果、警察が大手を振って「国の治安の確保」を自らの任務とすることが可能になった。長らく内閣情報調査室のトップとして安倍政権を支え、菅内閣では国家安全保障局長である北村滋(元警察庁警備局外事情報部長)は、自らの著書でそう主張している。
 警察のあり方をめぐる変化はそれにとどまらない。2015年の通常国会に「内閣官房・内閣府見直し法案」が提出された。この法律の第3条で警察法の改悪が仕込まれていた。そこでは国家公安委員会の任務に「特定の内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする」などが付け加えられた。
 これはまさに警察が時の総理大臣の私兵・手先になることを意味する。こんなことは戦後憲法の趣旨からすれば許されないことである。集団的自衛権行使を容認する戦争法案の強行採決の裏でもう一つの事実上の改憲攻撃が進行していたということだ。
 一連の警察制度の改悪は首相独裁制への道を切り開くものだったが、それをさらに加速するのが、今回のデジタル庁設置攻撃だ。

地方自治を破壊国の出先機関化

 さらにデジタル独裁法は全国の地方自治体の多数の基幹業務システムの統一・標準化を行う義務があるとしている。
 自治体のコンピュータシステムが国のもとに一元化されたら、全情報がデジタル庁の下に集約されて地方自治は解体される。このことは、戦前の内務省が地方機関の人事から財政まで握っていたのと同様の、天皇制国家による統治形態への転換を意味する。
 デジタル独裁法の本質は闘いを通して明らかとなった。今国会においては、改憲への道を開く国民投票法改悪、戦前の軍機保護法の再来を思わせる土地利用規制法案と反動法案が目白押しである。入管法改悪案を阻止したように、労働者階級人民の怒りは地に満ちている。6月16日の国会会期末まで反動法案成立阻止の闘いに立とう。

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